連載小説
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番外:差出人不明瞭[魔物化・帽子]

「私、ロクな恋愛してないなぁ...」

五十嵐 加奈子(イガラシ カナコ)は溜め息をついた。


現在、彼女は独身生活。

失恋して3ヵ月。

元カレはダメ男だった。

思えば、元カレは私の事を『都合の良い召し使い』ぐらいにしか思ってなかったんじゃないか。

今ではそんな風に考えている。


彼女は極度の面食いだ。

そして、惚れっぽい。


あるときは身体目当ての男。

あるときは金目当ての男。

一番最近の元カレは、加奈子が惚れ込んでいるのを良いことに、堕落したヒモ生活を送っていた。


内面を見ずに突っ走るために、ダメ男に引っ掛かりやすいのである。


「あぁ、どっかにイケメンで性格の良い男でも転がってないかなぁ...」

「五十嵐の場合、そのイケメン縛りが足を引っ張ってる感が凄いよな。」

「うっさい!平凡男は黙る!」


へいへい、と呆れる男は彼女の同僚だった。

仕事をそつなくこなし、一定の評価を得ている。


「中井君がもーちょっとイケメンならなぁ」

「そりゃ悪うござんした!ほら、お前の業務も手伝ってやるよ。このままだと残業だぞ?」

彼は普段から良くしてくれる。

が。

彼は別段イケメンという訳でもない。

加奈子はトキメかなかった。


***


休日。

加奈子はブラブラと街を歩いていた。

イケメンがその辺に転がっているわけでもなく。

ため息混じりに朝食のとれる場所を探していた。


『沼田珈琲店』


「こんなトコにカフェなんてあったんだ?」

今まで何度もこの街を歩いていたが、加奈子は気付かなかった。

名前とは裏腹にオシャレな外装。

興味本意で、その扉を開いた。


カランカラン


「いらっしゃいませ。」


彼女は、その瞬間、彼に惚れてしまっていた。



***



『IDですか?えっと...僕なんかで良ければ...?』

「うへへへ...」

スマホの画面を見ては、ニヤニヤする加奈子。


沼田 礼二


画面に煌々と映し出される、彼の名前。

彼しか見えていなかった。


整った顔

長身

純朴な性格


全てにおいて、加奈子の理想とするイケメンだった。


昼以降は女性店員が接客するために、わざわざ早朝を狙って、彼女は通いつめた。

その戦利品が、このIDだ。

更に、それだけではない。


「ふふ♪イケメン店員さんと明日はデートだわぁ♪」


彼は押しに弱かった。

半ば強引に、彼とのデートの約束を取り付けたのだ。


「酔ったフリからの、逆送り狼で...ぐへへ」

邪な考えが、加奈子の頭を駆け巡る。


ピンポーン


「?はーい。」

タクハイデース

「...配達なんて頼んでないのに?」

加奈子は訝しがるが、とりあえず、その配達物を受け取った。

宛名は加奈子で間違いなかった。


「...なにこれ、可愛い帽子。」



今の時期に合いそうな、グレーの洒落たキャスケット帽。



持ち上げると、ひらり。

小さな紙が膝元に舞い落ちる。

『沼田より』

加奈子は飛び上がって喜んだ。

喜びすぎて、「なぜ住所が分かったのか」「沼田の"誰"からなのか」などへの注意力が散漫になっていた。


早速、鏡の前で被ってみる。

少し"チクチク"したが、すぐに馴染んだ。

「んふふー♪私にぴったりじゃん!」

興奮で上がった体温を冷まそうと、パタパタと手で扇ぐ。


喉が乾いた。


「んっ...んっ...ぷはぁ!今日は良い夢が見れそう♪」

ぐぅ

加奈子の腹の虫が鳴る。


「今日は久しぶりに、自炊でもするかぁ。」

上機嫌だった。

具材は何にしよう、と、冷蔵庫に向かう。

帽子は脱ぐ気になれなかった。



冷蔵庫の冷気が気持ちいい。

彼女は豚の生姜焼あたりを想定して中を物色したのだが。

ふと、目に留まるものがあった。


「...キノコのパスタにしよっと!」


ぐいっと、二杯目の水を飲み干すと、早速料理に取りかかった。


***


「はぁぁ、食べた食べた♪ふぅ...」

久しぶりに棚の奥から引っ張り出した、紅茶を飲む。

「なんか、あついなぁ...」

食後だからというには、妙に身体が熱い。

「ふぅ...ふぅ...あづい...あ。」


思えば帽子を被ったままだ。

加奈子はサッと取ろうとした。


「...へ?...と、取れない!?」


不自然なほど頭に馴染んだ帽子は、加奈子の頭にガッチリと固定されている。

そこから、じわじわと熱い痺れが頭へと送り込まれているのを知覚した。


「ど、どうしよ...!このっ...ふんっ...!」


加奈子は帽子を鷲掴み、力を込めた。






「んえ!?はっ...ぁ...〜〜〜〜っ!?」



内包されたものが一気に絞り出され、

大量に、加奈子の頭に染み込んでいく。

その瞬間に、加奈子の身体を、普段の自慰とは比べ物にならない快楽が襲った。

あまりに突然の暴力的な快楽に、身体は数秒遅れて震えだす。

目の前が、ちかちかする。

じゅわりと、加奈子のスウェットに染みが出来上がった。


「なに、これぇ...?」


自分で分かってしまう、下半身の疼き。

加奈子は我慢できずに、その手を帽子から離し、スウェットの中へ差し入れる。


「いひっ!?あっ!うああ!」


今まで感じたことのないような気持ちよさ。

しかし、それでも加奈子は切なさに悶えた。


「はああ!んくっ!うあ...あ...な、なんで...!イキ、そうなのが、ずっとぉ...!」


自分の手で、指で。

どんなに普段気持ちいい所を弄っても、あの絶頂目前のゾワゾワから先に行ってくれない。


加奈子の絶頂に至る刺激の"普通"が、塗り替えられてしまっていた。


「せつない...せつないよぉ...!!」


洪水状態の秘部は、既に絶頂一歩手前を何度も行き来しており、分泌される水分は粘り気を帯びている。


「はぁ...っはぁ...っ」


乾く。

餓える。

水分が欲しい。

快楽も欲しい。


きのこほしい。

きのこで、胞子で、精液で

満たされたい。


「だめ...も...がまん、できない...」

外着に手早く着替え、加奈子は外に飛び出した。



***



加奈子は夜の住宅街をさ迷った。

深夜帯なこともあり、人が居ない。

たまに居ると思えば、彼女や妻の影。



普段は気にもせず、略奪愛に走るのに。

ましてやこの、火照り切った身体。

ぽた、ぽたと、太股へ伝った粘液が、アスファルトを濡らしている。

直ぐにでも犯し、犯され、満たされたいと子宮が蠢き、叫んでいるかのよう。

だというのに、どうしても襲う気になれない。


矛盾する思考に翻弄されながら、おぼつかない足取りで歩を進める。

どっちへ進んでいるのかも、もはや分からない。


「げっ!カナコ...!?」


加奈子はユラリと振り向いた。

そこには元カレ、トモヤが気まずい表情で立っていた。

相変わらずコンビニでビールを買っている。


ビール。


『おい、カナコ!ビール買ってきてくれよ!』


3ヶ月前の記憶が甦る。

この男、よくも。

そして、彼の自分勝手で乱暴な性行為に記憶が及んだ。


どくん

どくん


胸が高鳴る。


「ど、どーしたんだよ?なんかヤバい目してんぞ......あっ」


何か心当たりがあるらしい。

ずり、ずりと後退りするトモヤ。


「ねぇ、トモヤくん...」

「は、はい!?」


ぺろりと、舌なめずりする加奈子。

トモヤはこの場の空気に、デジャヴじみた、嫌な予感がした。


「きみ、こんなおねーさんをほったらかして、何してるの...?」

「いや、それは...まぁ、その、あの後色々あって...てか、もう終わりにしただろ!?」



半ば彼は逃げたようなものだったが。



少し見ない間に、随分と大人しくなったトモヤ。

付き合っていた当初は良いように使われていた、加奈子の嗜虐心に火がついた。


「カ、カナコ!やめろって!!」

「えへへ...前は好き放題揉んでた癖に...!」


強引に、トモヤの手を自身の胸に押し当てる。


「ま、マジでヤベーんだって!」


心なしか青ざめて見えるトモヤ。

尋常ではない怯え様。

しかし加奈子の知ったことではなかった。


「私がお仕置きして...あげ...んん?」


囁いてやろうと、ゼロ距離まで近付けた加奈子の鼻は

トモヤの耳元から漂う匂いに、違和感を覚えた。

仄かに香る、甘みと獣の香り。

少しばかり、加奈子に正気が戻った。


「ヨメに何されるか分かったもんじゃねーよ...!」


ヨメ。嫁。奥さん。

女のついた男は要らない。

それに...


「...じゃないわよ...」

「こ、今度はなんだよ!?」


この時ばかりは、帽子も大人しかった。

パートナーの居ないオスを狙うためなのか、

加奈子から沸き上がる、今までの鬱憤に押し戻されたのか。

真実は分からない。


「あんたみたいなのが、先に結婚してんじゃないわよおおおお!!」

「へぶっ!?!?」


乾ききった快音が、夜の住宅街に響き渡った。



***



気付けば、またあの熱に浮かされていた。

あの男にはムシャクシャしたので、衝撃で倒れたところにガッツリ首筋へキスマークを付けて逃がしてやった。


「はぁ...はぁ...ここ...」

同僚の中井が住むマンション。

加奈子の頭は歩を進める内に、元カレでもなく、珈琲店のイケメンでもなく、彼の事で頭が一杯になっていた。

普段から仕事のフォローをしてくれる。

先回りして気を遣ってくれる。

気心の知れた同僚。

何故、今まで顔などというつまらない要素に執着していたのか。


加奈子は、洗練されたデザインのロビーに足を踏み入れる。

彼の部屋番号の、ボタンを押した。



***



ピーンポーン

「...ん...なんだ...こんな時間に...」

翔太は寝ぼけながらもドアモニターを確認する。

コートにキャスケット帽の加奈子が、映し出されていた。

「んえ...?五十嵐?」

「はぁ...はぁ...中井くん、遅くにごめん...ちょっと、良いかな」

何故か、翔太はぞくりとしたが、その正体を掴めない。

同僚の苦しそうな息遣いへの心配が勝っていた。


「どうしたんだ?大丈夫か?とりあえず、そこで待ってろ。」

翔太は急いで、寝巻きの上からコートを羽織った。




「相変わらずなんもないが、外はさみぃからな。」

「あ、ありがと...」

加奈子は普段感じないトキメキに戸惑いながら、彼の部屋に入る。

「で、どうしたんだよ。こんな真夜中に。」


気付いたら貴方の事ばかり考えてました、などと言える筈もなく。


「この、帽子が取れなくなっちゃって...」

「帽子が?...中々似合ってるじゃないか。どれどれ...」

「あっ!中井君それ駄」


ぼしゅっ


加奈子の頭に、再び大量の帽子が流し込まれる。


「かは...っ...ぁ...!!」

「五十嵐!?大丈夫か!?」


背をのけ反らせて震える加奈子に、仰天する翔太。

次第に震えは止まった。


そして、ゆっくりと体勢を戻した加奈子の瞳には


光が灯っていなかった。


「い、五十嵐...?」

「中井君。」


異常な程に落ち着いた声。


「中井君って、たしか彼女居なかったよね?」

「き、急になんだよ...いねーよ...」

「そっかぁ...いないんだ...ふうん...」

「なんだよ、悪かったな...俺がイケメンじゃなくてええええぇぇぇ!?」


突然覆い被さる加奈子に、柔らかさよりも芳香よりも驚きが勝った。


「ちょちょちょ!どうしたんだよ!」

「彼女居ないならいいじゃん!私にそのキノコちょーだいよ!」

「オッサンみたいな下ネタやめろよ!俺みたいなブサメンに用はないんだろ!?」

「ブサメンとか言ったことないじゃん!いつも気が利いて優しくて居心地の良い中井君のキノコ汁が欲しくなったのよ!!」

「途中から台無しなんだよ!そりゃ五十嵐みたいな美人に迫られたら嬉しくないわけが無いよ!」

「子供は何人欲しい?私は二人」

「聞けよ!」

「今のはもうプロポーズって事で良いよね?だったら子作りしても問題なくない?」

「その思考が問題なんだよ!なんだお前!?その帽子に身体乗っ取られてんの!?」

「今帽子の事なんて関係無いわよ!中井君の事が好きって話よ!」

「五十嵐の事は俺も好きだよ!」

「じゃあ子作りね。」

「間!間は無いのか!!」


いつの間にか翔太の股間には、ベトベトに濡れた加奈子のクロッチが擦り付けられていた。


「埒があかないから挿れるね?」

「どうしてそうな...っうあ!?」

「んん〜〜〜っ!?」


どんなに自身を慰めても、絶頂一歩手前で先に進めなかった、加奈子の中。

ようやく塗り替えられた後の"普通"を越える刺激が、彼女の膣壁をゴリゴリと擦る。


「ぁ...これ、だ...め...」


強制的に焦らされる形となった膣壁は、痺れた足に触れたときのように。

ビリビリとした刺激を加奈子の腰全体に走らせる。


「くる...きちゃう...くる、くる、くる!」

「おま、締め...!!」


ギチギチと粟立ちつつ締め付ける膣壁に堪らなくなった翔太は、無意識に腰を痙攣させる。

トン、と、加奈子の子宮口を叩き、直後に大量の精液が暴発した。


「い......ぎ......っ!!」


歓喜に震えているのは、身体か、脳か、それとも帽子か。


帽子の位置を中心に、髪が紫に。


心は桃色に染まっていく。


暴力的な多幸感に、加奈子の頭は完全に支配された。





***



「ふふ、今頃ヨロシクやっているかな?」

「か、カレ...ン...ごめ...も...出な...い...」


ただただ痙攣することしか出来ない礼二の上に跨がりながら、カレンは不適な笑みをこぼす。


「んん?そんな報告は出来るのに、他の女に連絡先を教えたことは報告しなかったのかい?」

「いや、ほんとに...そんな気はなくて...んぶっ!?」


彼女は、特製の"紅茶"を礼二の口に流し込みながら、彼の茸が強制的に硬さを取り戻す感触を愉しんでいた。


「君が、私だけを見るのを"普通"に感じられるようになるまでは、今夜はやめる気は無いからね。今のうちに覚悟した方が良いよ。」


礼二は金輪際、彼女を嫉妬させまいと硬く誓いながら、今夜8回目の射精感に涙を浮かべた。
19/04/12 09:34更新 / スコッチ
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■作者メッセージ

「や、やっと逃げ帰ってこれた...」

「おかえりトモヤさん!どうしたの?その首す」ピシッ

「...あ、俺死んだわ」


***


ご希望:ドリルモール様

展開を急ぎすぎた感が否めません。
魔物化は難しい...

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