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退魔師・七尾遮那の華麗なる事件簿
 実家を離れてこのマンションに住み込み、一人暮らしを始めてはや二か月。大学二年生の石川義人は頭を痛めていた。つい最近になって、何者かからの視線を感じるようになったのだ。
 それは物陰に隠れた誰かから覗かれるような、ねっとりとした視線だった。そして義人がそれを感じるのは、決まって彼が自分の部屋に一人でいる時だけだった。同じマンションの別の部屋にお邪魔している時や、自分の部屋に誰かを招き入れている時、そして自分が外出している時には、そのような視線は微塵も感じなかった。ただ「自分の借りた部屋に一人でいる時」に限って、彼はその凝視にも似た強い眼差しを感じるのだ。
 当然、義人は一人暮らしであった。誰かとルームシェアをしていることも無ければ、恋人と同棲しているわけでもなかった。この部屋は自分だけの城である。他人の姿などどこを見ても見当たらず、部屋自体も狭かったので隠れられる場所は皆無だった。
 にも関わらず、義人はこの城の中に余所者の気配を感じてならなかったのだ。まだ直接的な被害は受けておらず、ただ視線を感じるのみであったが、それでも義人は恐ろしくてたまらなかった。むしろ何もされず、ただじっと見られるだけというのが、余計に胸中の恐怖を煽ってきたのである。
 
「それ、あれじゃない? 霊とか住み着いてるんじゃないかな?」

 義人からその悩みを聞かされた大学の友人は、真剣な顔でそう答えた。自分と同じマンションに住んでいる、物腰の柔らかい、大人しい印象の男だった。その男は茶化す素振りも見せず、どこまでも真面目くさった顔で彼に言葉を続けた。
 
「今は魔物娘とかいうオカルト全開な人達がうろついてるんだからさ、幽霊がいたって不思議じゃないよ。それにゴーストタイプの魔物娘もいるらしいし、あながち大袈裟な話でもないと思うんだけど」

 魔物娘が日常に溶け込んで、もう何年も経つ。友人はそれを挙げて、義人に幽霊の介入している可能性を大真面目に指摘した。そして義人もまた、その可能性を真剣に考慮し始めた。かつてファンタジーと名指しされていた存在が大手を振って通りを闊歩している今のご時世、今更オカルト要素を鼻で笑うのは阿呆のすることである。
 
「あそこに幽霊が取り憑いてるっていうのか」
「もしくは、元々幽霊の住んでいたところにマンションが建てられて、それに幽霊が不満を持っているとかかも」
「なんでそれで俺が睨まれなきゃいけないんだよ」
「恨みって普通理不尽なもんだよ。恨むのに理由とかいらないんだって」

 友人からの言葉に、義人は頭を抱えた。彼はこの段階で既に、不可視の存在に見つめられているのは自分が悪霊の類に恨みをぶつけられているからだと決め込んでいた。それだけ彼は、今体感している何者かからの視線に恐怖を抱いていた。
 
「でも、対策が無いわけじゃないよ」

 しかしそんな彼に、友人は助け舟を出した。彼はそう切り出してから、こちらに注目してくる義人を見ながら口を開いた。
 
「向こうが幽霊だって言うなら、こっちも幽霊の専門家を呼べばいいんだよ」
「どういうことだよ?」
「陰陽師とか、退魔師とか、とにかくそういう悪霊祓いのプロを呼ぶんだ。それでその人に、石川の部屋の除霊を頼むんだよ」
「除霊か」

 義人はそんな友人のアドバイスに、真剣に耳を傾けた。今はもう藁にも縋りたい気分であったのだ。友人もまたそんな義人に、熱心にアドバイスを続けた。
 
「僕、知り合いにそういう専門家がいるんだ。退魔師っていうかな? なんて言うかわからないけど、心霊関係のトラブルを解決する人だね。もしよかったら紹介しようか?」
「いいのか? ていうか、そいつ信用出来るのか? なんか胡散臭そうなんだけど」
「そこは大丈夫。実力は折り紙付きだから。僕が保証するよ」
「ううん……」

 友人からの提案に、義人は腕を組んで唸った。彼の言う「退魔師」とやらに全幅の信頼を置くことは出来なかったが、この友人は嘘をつくような男でも無かった。同時に義人は、彼がいわゆる悪徳商法に騙されるような愚鈍な男でないことも知っていた。
 そんな彼が薦めてくるのだから、その「退魔師」もきっと信用出来るだろう。それに何より、彼は今自分の置かれていた状況を一秒でも早く解決したかった。そんなわけで、義人は心に疑念を残しながらも、彼の誘いに乗ることにしたのだった。
 
「じゃあ、その専門家呼んでくれるか? 正直言って、結構参ってるんだよ」
「わかった。じゃあこっちで相談してみるから。それまで待ってて」
「ああ、わかった」

 こうして、義人はこの友人の知り合いである「退魔師」を家に招くことになったのだった。
 
 
 
 
 件の「退魔師」が義人の家にやって来たのは、同じ週の日曜日であった。土曜日に友人から電話があり、明日の昼頃に退魔師がそっちに来るから待っていてほしいと事前に言われていたのだ。
 おかげで義人は、ここに来て初めて本格的に室内の掃除をすることになった。幸い家具や備品の類は少なく、部屋はゴミ屋敷と呼べるほど酷い有様でも無かったので、掃除自体は午前中の内に終わらせることが出来た。そうして義人があらかた掃除を終え、ゴミ袋を居間の隅に押し込んだ直後、インターホンが軽快な音を立てた。
 
「あなたが石川義人君ね? 彼から話を聞いてやってきた、退魔師よ」

 閉じ切られたドアの向こう、覗き穴の奥には一人の女性が立っていた。黒のビジネススーツを身に着け、小さなバッグを斜めに提げた、青い髪と白い肌を備えた美女だった。そしてその美人は覗き穴の向こうで腕を組んで仁王立ちし、眉を吊り上げ、その顔にありありと自信を漲らせていた。
 
「あっ、はい。わかりました」

 そんな自信満々な美女の姿を見た義人は、表では平静を装いつつ、心の底で喜びを噛み締めた。友人の寄越した退魔師が美形だったこともあったが、退魔師が本当に来てくれたことに対する嬉しさがその理由の大半を占めていた。なおその姿を見た義人は、それが友人と半同棲状態にある魔物娘に似たオーラを放っているように一瞬だけ感じたが、気のせいだろうとすぐにそれを否定した。第一彼女の肌は真っ青だ。魔術に疎い義人はそう考え、改めて心を喜びで満たしていった。
 そんな頼もしさと喜びを胸に抱きつつ、義人は素直にドアを開けてその退魔師を中に入れた。
 
「お邪魔するわね」
「は、はい。どうぞ」

 退魔師の女性が玄関口に進入する。義人の近くにやってきたその女性は、微かに香水の匂いを漂わせていた。それはまさに大人の色香であり、女性経験皆無な義人にとっては刺激の強すぎるものであった。
 そうして義人が美女の放つオーラに圧倒され、ほんの僅かに顔を赤らめていると、その退魔師がおもむろに彼の方を向いた。続けて彼女は相対した義人に柔和な微笑みを浮かべながら、バッグの中に手を突っ込みつつ言葉を放った。
 
「まずは自己紹介しないとね。私はこういう……」

 しかしそこまで言って、退魔師の女は言葉と動きを同時に止めた。次の瞬間、彼女は視線をバッグに降ろし、眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべながら猛烈な勢いでバッグの中をまさぐり始めた。
 
「あ、あれ、どこに……」

 必死の形相で退魔師が自分のバッグを物色する。義人がそれを不安そうな眼差しで見守っていると、やがて退魔師は「やった」と小声で呟きながら、小さな銀色のケースをバッグから取り出して見せた。
 
「ちょっと待っててね。今出すから」
「何を?」
「名刺よ」

 思わず問いかける義人に、退魔師は手にしたそれを見せつけながら自慢げな顔であっさりとネタばらしする。そこに先程まで見せていた色気や威厳は微塵も無かった。そして退魔師は、そんな風に自分のメッキを自ら剥がしていくことに対して、何の躊躇も無かった。
 
「あっ、くそっ、もうなによこれ、硬すぎ……!」

 取り出した名刺入れが思いの外硬く、退魔師はそれをまず両手でこじ開けようとした。しかしそれでも開かなかったので、今度は蓋につけられた出っ張りの部分を口で噛み、唸り声を上げながら力ずくでこじ開けようとした。
 数秒後、ようやく蓋の外れる音がした。退魔師は安堵に満ちた表情を見せながら名刺入れを口から離し、慎重に蓋を開け、中から念願の名刺を取り出した。
 
「やった! やっと取れた! あーもう、この名刺入れ本当ガチガチなんだから。なんでこんな頑丈な造りにしたのよ、まったく!」
 
 一枚の紙片を手に取って狂喜し憤慨するその姿は、美人とは程遠い幼稚なものだった。そしてそれまでの野蛮なアクションと合わせた彼女の一連の行為は、赤の他人を幻滅させるのに十分すぎる威力を発揮した。
 何より義人を愕然とさせたのは、当の退魔師本人がそうして自分の素を見せることに恥じらいや躊躇いを抱いていなかったことであった。その証拠に、退魔師は名刺を取り出せた達成感のままにニコニコ笑いながら、両手で持った名刺を義人に向けて差し出してきた。
 
「はいこれ。私こういう者なの。よろしくね」

 完全に幻想を打ち砕かれた義人は、それを半分放心状態で受け取った。その白い紙にはただ大きな黒文字で「七尾遮那」とだけ書かれており、それ以外の情報は一切記載されていなかった。
 義人は思わず険しい顔をした。いくらなんでも安っぽすぎる。早速彼は退魔師に疑問をぶつけた。
 
「なんていうか、シンプルですね」
「他に書きようが無かったからね」
「住所とか電話番号とかは書けたんじゃないんですか?」
「でっちあげるのが面倒くさかったの」
「は?」

 何か今、とんでもない言葉を聞いた気がする。唖然とする義人だったが、その思考は退魔師の差し出した手によって強制的に遮られることになった。
 
「私、ナナオ・シャナって言うの。よろしくね、石川君」
「は、はい」

 結局押しに弱い義人は、それまで抱いていた疑念をぶつけることも出来ずに、流されるままに遮那の手を握り返した。遮那の手は細く、冷たかった。爪には青いマニキュアが塗られており、左手の薬指には指輪が填められていた。
 
「その筋の人間からは、呪いのシャナって通り名で呼ばれてるわ。自慢じゃないけど、それだけ私が有名になってるってことね。あなたも私の通り名を覚えておいて損は無いわよ」

 そして遮那は、頼まれてもいないのに自分の通り名を明かした。その様は自慢げであり、親に買ってもらったおもちゃを同級生に自慢する子供のようにも見えた。
 
「退魔師の名の通り、悪霊から魔物娘まで、なんでも解決してみせるわ。ま、おちゃのこさいさいってやつね」
 
 本当に大丈夫なのか? 義人はますます不安になっていった。しかしそんな義人の疑念をよそに、遮那は玄関口で丁寧に靴――それはスポーツ用品店で売られているような一般的なスニーカーだった――を揃えて脱ぎ、さっさと居間の方へ向かっていった。慌てて義人がそれを追うと、遮那は掃除の行き届いた居間の真ん中に立ち尽くし、神妙な面持ちを浮かべていた。
 
「なるほど」

 そうして短く呟くその顔には、それまでのお茶目さは欠片も無かった。子供から仕事人へ、まさに一瞬の変貌であった。
 それから遮那は真剣な、近寄りがたい雰囲気を纏いながら居間の中を歩き回り、窓やテーブルを観察したり、襖を開けて寝室を覗いたりした。その間義人は何も言えず、ただじっと彼女の素振りを見守るだけだった。
 
「いるわね」

 そして一通り室内を見て回った後、遮那は短くそう言った。義人の背筋が一気に寒くなる。
 その彼の方を向きながら、遮那が義人に言葉をかける。
 
「それも一人じゃない。二人分の気配を家の中から感じるわ。あなた、みんなからかなり好かれてるみたいね」
「そんな、冗談はやめてくださいよ」
「冗談じゃないわ。ここに住み着いてる子達はね、みんなあなた目当てでやって来ているのよ」

 遮那のその簡潔な言葉は、義人の心を恐怖のどん底に突き落とした。顔から血の気が引いて行くのを自覚しながら、義人は反射的に遮那に向かって頼み込んだ。真剣な面持ちでこちらを見つめてくる遮那を見返すその顔は、必死そのものだった。
 
「なんとか出来ませんか? 俺、これ以上幽霊屋敷に住みたくないんです」
「大丈夫よ。そのためにここに来たんだから。私に任せなさい」

 それに対する遮那の反応は、非常に堂々としたものだった。顔を真っ青にする義人の前で、彼女は入り口前で見せたように腕を組んで仁王立ちをしてみせた。そしてその姿勢のまま、彼女は義人に向けて言葉を続けた。
 
「この凄腕退魔師の遮那様が、あなたの問題を解決してみせるわ。大船に乗ったつもりでいなさい!」

 顔には絶対の自信が宿り、全身からうるさいほどにやる気を漲らせていた。無駄に自信満々な姿であったが、それが却って義人の委縮した心を大いに勇気づけた。そうして恐怖を和らげられた彼は、ここに来て初めて、この退魔師を「頼もしい」と思い始めたのだった。
 
「でもまずは準備が必要ね。私ちょっと外に出て用意してくるから、あなたはここで待っててね。すぐに戻ってくるから、私が戻ってきたら早速始めましょう」

 そんな義人に、遮那はそう話しかけた。義人はその提案を二つ返事で受け入れた。他に縋れるものが無かったのと、彼女なら円満無事に解決してくれるかもしれないという確信が、彼にその行動を取らせた。そして遮那もまた、彼の首肯を見てから小さくウインクを返し、微笑みと共に彼に声をかけた。
 
「安心して。絶対悪いようにはしないから。お姉さんとの約束よ♪」

 声も仕草も茶目っ気たっぷりであったが、その底抜けの明るさが、この非常時下においては頼もしかった。義人は遮那への信頼をより一層強め、遮那もまたこの青年からの期待の眼差しにしっかり気づいていた。
 その後義人は、一時外出することになった遮那を玄関まで送り届けた。彼はそこで遮那に「気を付けて」と声をかけ、遮那もそれを受けて元気に頷き返した。それから遮那はドアを開けて部屋の外へ飛び出していき、義人は退魔師自ら「何かいる」と告げてきた部屋の中に一人取り残される格好となった。
 しかし義人の心に不安は無かった。あの人ならきっと何とかしてくれる。根底にある遮那への信頼が、心霊への恐怖を打ち消していたのであった。
 
 
 
 
 遮那が帰ってきたのは、それから三十分後のことだった。玄関に入ってきた遮那を義人はすぐさま迎えに行ったが、そこで彼は遮那が手に持っていた物に思わず意識を傾けた。
 
「それはなんですか?」
「ああ、これ? 今日使うアイテムよ」

 遮那の両手には、パンパンに膨らんだビニール袋があった。ビニール袋にはこのマンションの近くにあるスーパーマーケットのロゴが刻まれ、そしてその中は菓子類やジュース入りのペットボトルがぎっしりと詰め込まれていた。
 義人は一瞬呆気に取られ、次に我が目を疑った。

「お菓子?」
「お菓子よ」

 義人の口から飛び出た言葉に、遮那がオウム返しに答える。戸惑いや躊躇いとは無縁の、自慢げですらある返答だった。
 続けて義人が質問をぶつける。

「なんでお菓子買ってきてるんです?」
「今回の退魔作業に必要な代物なのよ」
「えっ」
「悪いんだけど、一つ持ってくれないかしら? 久しぶりの上客だから買いすぎちゃってさ、もう重くて重くて……」
「は、はい……」

 一見して除霊とは無縁のブツを前にして、信頼に一抹の翳りが生じる。しかし疑念を差し挟む余地も無いまま、彼は遮那から菓子でいっぱいになったビニール袋の一つを押し付けられた。それから遮那は片手でビニール袋を持ったまま、悪戦苦闘しつつ靴を脱ぎ終え――ビニール袋を床に置いて両手で靴を脱ぐという発想は生まれなかったようだった――、義人と共に居間へ向かった。
 
「じゃあ義人君、その中からお菓子選んで、中身を適当にテーブルの上に置いて。お盆とかあるなら、その上に揃えてほしいわ」

 次の遮那の指示は迅速で淀みなく、質問を許さない気迫に満ちていた。義人は彼女の迫力に気圧されつつ、素直にそれに従った。小さなキッチンからお盆を持ち出し、それをテーブルに置いてからその上に菓子類を並べていった。途中で遮那が「綺麗に並べてくれると嬉しいわね」と注文をつけてきたので、義人はより慎重に煎餅やクッキーの入った小袋をお盆の上に並べた。
 一方の遮那は、菓子類と一緒に買ってきていた紙コップの束を取り出し、そこに同じく買ってきたペットボトルの中身を注ぎ始めた。彼女はオレンジジュースとウーロン茶の入った紙コップを二つずつ用意し、それをそっとテーブルの上に並べていった。この時には義人も菓子の準備を済ませており、そうして菓子とドリンクで飾り立てられたテーブルを見た遮那は満足げに頷いた。
 
「これでよし」
「何がいいんですか」

 義人は遮那の行動が理解できなかった。そのテーブルの光景は、完全に「お菓子パーティー」のそれである。これのどこが除霊に関係するというのだろうか?
 
「今日やるのは別に除霊じゃないわよ」

 そしてその疑念をぶつけられた際、遮那は澄まし顔でそう言ってのけた。義人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべ、そしてそんな義人に向かって遮那が言葉を続けた。
 
「そもそも私、ここに誰かがいるとは言ったけど、幽霊がいるとは一言も言ってないんだけど」
「は?」
「もっと言うと、ここに幽霊はいないわね」

 遮那の回答は非常にあっさりしたものだった。義人は状況が理解しきれず、慌てふためきながら遮那に説明を求めた。
 
「あ、あの、どういうことなんです? 幽霊はいないって」
「ええ、いないわよ」
「でも何かはいるんですよね」
「ええ」
「じゃあ何が?」
「落ち着いて。それを今から教えてあげるから」

 困惑する義人とは対照的に、遮那はどこまでも冷静だった。そして驚く義人をそう言ってなだめた後、遮那はおもむろに玄関の方を向き、手を叩きながら大きな声で言い放った。
 
「はい! もう隠れるのは終わり! いい加減腹括って出てきなさい!」

 遮那の声が玄関まで到達する。次の瞬間、玄関脇に置かれていた傘立てがガタガタと揺れ始めた。
 先程まで玄関を凝視し、そしてそれに気づいた義人は、思わず小さく悲鳴を上げた。遮那がそれに気づいて「大丈夫よ」と声をかけると、やがて傘立てが音を立てて倒れ、そこに入っていた傘の一本が勢いよく傘立ての外へ飛び出していった。
 
「ば、バレてたんですか」

 傘から声が聞こえてくる。義人は己の耳を疑った。
 遮那がクスクス笑ってそれに答える。
 
「バレバレよ。彼はともかく、この私を誤魔化そうだなんて百年早いわ」
「やっぱり、格が違うってことですかね……」
「そういうこと。さ、もういい加減正体現したら? あなたがそんなだから、彼が必要以上に怯えるのよ」
「は、はい、わかりました……」
 
 遮那と傘が当たり前のように会話をしていた。義人はますます自分の正気を疑った。さらにその直後、声のした傘から何の前触れも無く煙が溢れ出し、その傘をあっという間に包み隠していった。
 もう何がなんだかわからなかった。
 
「な、なんだよ、何が起きてるんだよ」
「落ち着いて。大丈夫よ。あの子はあなたに危害は加えないから」
 
 動揺する義人を遮那がなだめる。その間にも煙は猛烈な勢いで充満していき、あっという間に玄関が濃い灰色の煙で埋め尽くされた。その煙は非常に色濃く、中を見透かすことは不可能だった。
 しかしその玄関を埋め尽くした数秒後、煙は自ら意志を持つかのように、ドアの隙間を通って外へと抜け出していった。あっという間に煙は晴れていき、そうして完全に消失した煙の奥には、一人の少女が恥ずかしげに背を丸めながら立っていた。
 
「ど、どうも……」
「え?」

 小柄な少女だった。胸は慎ましく、お尻も小振りで、見ているだけで庇護欲をかきたてられるようなちっぽけな女の子だった。そんな少女はそれまで声を出したり煙を吐いたりしていた傘を大事そうに抱えながら、控え目な眼差しでこちらをじっと見つめて来ていた。
 何が何なのか、義人にはさっぱりだった。そして彼は横にいた退魔師に視線を寄越し、それを受けた遮那は一つ頷いて説明を始めた。
 
「あれがつい最近、あなたが感じていた視線の主の一人よ」
「あ、あれが?」
「そう。彼女は私達の元いた世界では、唐傘おばけって呼ばれてた魔物娘なの。簡単に説明すると、人に使われてた傘に魔力が溜まって、魔物になったって感じね」
「傘が魔物に……?」

 にわかには信じられない話だった。義人は白昼夢を見ているかのように呆然とその「唐傘おばけ」を見つめ、そして彼に見つめられた唐傘おばけもまた、頬をうっすらと赤らめながら義人をじっと見つめ返していた。
 
「あっ」
「ご主人様……っ」
 
 しかし互いの視線が絡み合った次の瞬間、二人は仲良く反射的に目線を逸らした。二人の顔はますます赤くなり、口の中はカラカラに渇いていった。
 
「うっ、えっと」
「あう、うぅ」
 
 二人して気まずそうだった。あまりにも唐突な対面ゆえに、何から話せばいいのかわからない。そんな感じだった。時折横目で相手をチラチラ窺うことこそあれど、それ以上先に進むことはどちらも出来そうになかった。
 
「私、その、ご主人様に恩返しがしたくって……それで……それなのに……」
「あ、あうう……」
 
 そんな二人を微笑ましく見つめながら、遮那が説明を続けた。
 
「傘が唐傘おばけになるのには条件があってね。長く大切に扱われた傘が感謝の念によって変じる場合と、粗末に使い捨てられた傘が負の情念によって変じる場合があるの。あの子の場合は……あなたに感謝しているみたいね。雰囲気でわかるわ」

 何か心当たりはないかしら? 横から飛んできた遮那の言葉を聞いて、義人は反射的に彼女の方を向いた。そしてそれを見た唐傘おばけが驚き、不満そうに頬を膨らませるのを努めて意識の外に置きながら、義人は唐傘おばけの持っている傘に注意を向けた。
 
「……あれ、子供の頃から使ってる傘だ」

 義人はその傘がどのような代物か、すぐにわかった。それは自分のお小遣いで初めて買ったものであり、愛着もひとしおであった。それ故に彼は、それから何年も経った今でもなお、その傘を大事に使い続けていたのであった。
 だからあの傘は魔物娘になったのか。ぼんやりながらも状況を理解し始めた義人に対し、遮那は「その通りよ」と彼の心を見透かしたかのように声を返した。
 
「あの子はね、自分をずっと大切に使ってきてくれたあなたに恩返しがしたかったのよ。その想いが魔力と混ざり合って、今の姿になったの。あなたに視線を向けていたのは、大切なあなたに恋焦がれていたから。でも中々踏ん切りがつかなくて、今までただ見てるだけで終わってたみたいね」
「それが、視線の正体?」
「正確には視線の正体の一つね。――ほら、あなたもそこにいないで、こっちいらっしゃい」

 義人に説明しながら、遮那が唐傘おばけを手招きする。自称退魔師からお呼ばれを受けた魔物娘は、控え目な足取りで義人たちの方へ歩いていった。この時には義人も既に落ち着きを取り戻しており、そしてそれまで驚愕に満ちていた彼の心は、今では見知らぬ――しかし何故か親しみを感じられる――唐傘おばけへの興味と親愛の気持ちでいっぱいになっていた。
 
「さて、あと一人ね」

 そして唐傘おばけが義人達の元に合流した後、遮那は間髪入れずにそう言い放った。彼女は好奇に満ちた義人と唐傘おばけからの視線を無視し、踵を返して窓の方へ向かった。カーテンは閉じ切られており、遮那はそのカーテンを勢いよく開け放った。
 義人と唐傘おばけが揃って視線をそちらへ向ける。その窓の向こうには、人の形を取った布がふわふわと宙に浮いていた。
 
「あっ」
 
 自分の姿を見られたその布は、しかし大して驚くこともなく遮那達をじっと見つめ返した。布が象った人の顔は無表情であり、半目でこちらを淡々と見つめていた。そしてその視線は、ただ義人にのみ向けられていた。
 
「どうも」
「ど、どうも」

 布がおもむろに口を開く。挨拶された義人も、反射的に挨拶を返す。布は無表情のまま、じっと義人を見つめていた。
 唐傘おばけは不審げな表情で、そんな布と義人を交互に見やった。不安とヤキモチが混ざり合った複雑な表情だった。そして当の義人は、すぐさま遮那の方に向き直って彼女に問いかけた。
 
「あれも視線の正体なんですか?」
「そうよ。あの子もずっと、あなたを見つめていたのよ。この子も唐傘おばけと同じで、あなたを好いてるのよ」
「すきって……」
「中々タイミングが掴めなくて、今まで見つめるだけだったみたいね」

 そう答えながら、遮那がロックを外して窓を開け放つ。それから遮那は外にいた布に中に入るよう視線で促し、促された布も一つ頷いてふよふよ浮きながら室内に入っていった。
 
「彼女は一反木綿っていう魔物娘よ。簡単に言えばまあ、布の魔物ね」
「この子は、なんで俺を見つめて来てたんです?」
「一目惚れ」
「だそうよ」

 間に割って入り、簡潔に言ってのけた一反木綿に遮那が便乗する。手短に片づけられた義人はただ頷くしかなかった。
 そんな義人に、一反木綿が言葉をかけた。
 
「あなた今まで忙しそうだったから、声がかけられなかったの」
「それで、ただじっと見てたって?」
「うん。怖がらせたのならごめんなさい。私、あなたを忘れられなかったから……」
 
 そこまで言って、一反木綿は義人から目を逸らした。その顔は僅かに赤らみ、それを見た義人も同じように頬を赤くした。唐傘おばけは面白くなさそうに、そんな二人をジト目で見つめていた。
 
「あなた、モテモテね。二人の魔物娘から好意を向けられるなんて」

 そして遮那は、そんな三人を見ながらクスクス笑って声をかけた。一方で彼女にそう言われた義人は、半信半疑な心境を隠そうともせずに言葉を返した。

「これってつまり、俺が二人から好かれてるってことなんですか?」
「そうよ。二人ともあなたが好きだから、今まであなたを見つめていたのよ。でも二人とも声をかけるタイミングを掴みあぐねていたから、じっと見つめるしか出来なかったの」
「それが視線の正体?」
「そういうこと。わかったかしら?」
「はい、まあ……でもいきなり好きとか言われても、実感わきませんよ」
「まあそれもそうよね。だから今日はそれを実感してもらうために、こうして席を用意したのよ」

 戸惑う義人にそう答えながら、遮那が背後に視線を向ける。義人と魔物娘二人も揃ってそちらを見ると、そこには先程義人と遮那で設えたテーブルがあった。
 
「ここで四人で一度、腰を据えて話し合いましょう。本当の気持ちを伝えて、正式に恋人同士になってしまえば、もう隠れて盗み見る必要もないでしょ?」

 これが私流の異変解決方よ。遮那が愉快そうに口を開く。人間の男と魔物娘二人は、すぐに遮那のやりたいことを理解した。
 
「えっと」
「あの」

 唐傘おばけと一反木綿が互いに顔を見合わせる。それから二人は揃って義人の方を向き、互いにうっすらと笑みを浮かべた。
 
「よろしくお願いします、ご主人様」
「よろしくね」
「あ、うん」
 
 一瞬、義人は自分が崖際に追いやられたような感覚を味わった。遮那はそんな義人を差し置いて件のテーブルへ向かい、そこに腰を降ろして当たり前のようにジュースの入った紙コップを手に取った。
 
「ほらほら、早く座って! 早く始めましょうよ!」

 そしてオレンジジュースを一息に飲み干し、空になったコップに自分で新しい分を注ぎながら、遮那が元気よく声をかける。一反木綿と唐傘おばけはそれに快く頷き、二人仲良く並んでテーブルへ向かった。それから遮那は最後に残った義人を見ながら、優しく声をかけた。
 
「あなたも、こっちに来て話しましょう。人間何事もチャレンジよ」
「は、はい」

 義人は何の反論も出来ないまま、遮那の言う通りにテーブルの前に腰を下ろした。唐傘おばけと一反木綿も、どこかしら緊張した面持ちを浮かべていた。しかし誰も遮那に意見をぶつけようとはしなかった。
 完全に遮那のペースに置かれていた。そして退魔師のペースに任せるまま、三人はテーブルについて互いの顔を見合わせた。もはや怪異も恐怖もない、穏やかな空気がその場を支配していた。
 
「じゃあまずは自己紹介から。もう名前を知ってる人もいるかもだけど、こういうの一からちゃんと手順を踏んでいくものなのよ」
「そうなんですか?」
「そうよ。覚えておいて損はないわ」
「はい! わかりました!」
「わかりました」

 遮那の入れ知恵に対し、唐傘おばけが元気よく、一反木綿が淡々と頷く。魔物娘二人はこの状況に完全に順応し、共にリラックスした態度を見せていた。しかし義人は美女三人に囲まれた今の状況にまだ慣れきれず、体を強張らせてそわそわしていた。
 遮那はそれに気づいていた。そしてまずは彼に肩の力を抜いてもらおうと、真っ先に義人に矛先を向けた。
 
「じゃあまずは、あなたから。自己紹介してくれるかしら?」
「えっ」

 不意打ちを食らった義人は明らかに動揺した。さらに魔物娘二人からの視線も続けざまに食らい、さらに彼は困惑した。
 しかしそんな動揺も一瞬のことだった。追い詰められた彼はついに腹を括り、背筋を伸ばして美人三人組に向き直った。
 
「わ、わかりました。じゃあ俺から。俺は――」

 こうして、お菓子パーティーめいた親睦会が開かれたのだった。
 
 
 
 
 この遮那の「退魔」――少なくとも、これは立派な退魔師の仕事であると後日言い張って聞かなかった――活動は、結果から言えば大成功であった。親睦会は二、三時間で終了し、その短い間に、義人と魔物娘達は晴れて両想いの関係になることが出来た。三人揃って口下手で、自分の感情を素直に吐露するのが苦手なだけだったのだ。
 
「うんうん。素敵なカップルが誕生して、私も嬉しいわ」

 そうして義人が二人同時に告白し、二人が揃ってそれを受け入れる姿を、遮那はとても嬉しそうな表情で見守った。一種のハーレムが完成した形であったが、それを不潔と蔑むようなことは、遮那はしなかった。むしろこうなるように、遮那の方から積極的に干渉したほどであった。
 
「あのお薬、ちゃんと効いたみたいね。良かった良かった」

 服用した者から心の躊躇いや戸惑いを取り払い、素直な気持ちにさせる特殊な薬。遮那は魔界で流通しているそれをスーパーに買い出しに行くついでに仕入れ、自分が使うもの以外のコップ全てにそれを混入したのだ。しかしそれはあくまでも「二の足を踏む者の背中をそっと押す」程度のものであり、服用者の心を書き換えて「好き」という気持ちを捏造するような代物ではなかった。
 三人がこのような関係になれたのは、ひとえに彼らがそれを望んでいたからだ。遮那はそれを陰ながらフォローしたにすぎない。
 
「これでまた一歩、私の野望に近づいたわね」
「遮那さん? どうかしましたか?」

 計画通りに事が進み、一人ほくそ笑む遮那に対して、義人が声をかける。遮那はすぐに平静を取り繕って「なんでもない」と答え、義人もまたそれを額面通りに受け取った。今の彼は、自分の両腕にひっついて甘えてくる唐傘おばけと一反木綿の相手をするのに手一杯であり、遮那にまで気を向ける余裕が無かったのだ。
 
「えへへ、ご主人様♪ これから、ずーっと一緒ですからね♪」
「私も一緒だからね。ずっとずっと、あなたのそばにいるから」

 共に心を通わせた二人の魔物娘が、共に素直な好意をぶつけてくる。義人は両サイドから寄せられるそれに心からの幸せを感じ、もはや遮那の正体なんてどうでもいいとすら感じ始めていた。彼女のおかげでここまでこれたのだから、そんな生涯の恩人を疑うのは不躾というものである。

「もうこれで大丈夫そうね。私はこれで消えさせてもらうわ」

 その恩人がそう言って、おもむろに立ち上がる。義人達はそれに気づき、そして三人を代表して義人が彼女に声をかけた。
 
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いいのよ。あなた達が幸せなら、それで私は満足なんだから」
「お金とかはどうしましょう? 今払った方がいいですか?」
「お金はいらないわ。さっきも言ったけど、あなた達が両想いになれたのを見れただけで、私は満足なの」

 遮那は頑なだった。ノーギャラでいいと聞いて驚き半分に自分を見つめてくる三人に対し、遮那は続けて笑みを浮かべながら言葉を放った。
 
「それじゃ私はこれで。三人とも、お幸せにね」
 
 そして彼女はそう言うと共に、迷いのない足取りで玄関へ向かっていった。恋人三人もそれを目で追いかけ、遮那が靴を履いてドアノブに手を添えたところで魔物娘二人が言葉を放った。
 
「今日はありがとうございました! 本当にありがとうございます!」
「……ありがとうね」

 唐傘おばけが熱心に感謝の念を述べ、一反木綿が言葉少なに謝辞を述べる。遮那はそれに対して片手を挙げて答え、ドアノブを回してドアを開ける。
 しかしドアには鍵がかかっていた。ガタンと重い音を立てて、ドアが途中で止まった。
 
「あれ?」
 
 遮那は何が起きたかわからなかった。そして今度は両手でドアノブを持ち、何度か回してドアを押し開こうとする。
 ガタン、ガタン。ロックが何度もぶつかる音が響く。開く気配は一向にない。
 
「あれ、なにこれ。どうなってんだこれ?」
 
 そこからさらに、五度ほど高らかに音を打ち鳴らす。ドアは全く開く気配を見せず、乾いたロックの衝突音だけが室内に響く。
 その後、遮那はドアとドアノブを交互に見やった。そしてそれだけやってようやく、遮那は問題に気がついた。
 
「――ああ!」

 そそくさとロックを外す。ガチャリと鍵が外れる音が響き、うんうん頷きながら遮那がドアを開ける。そうして何事もなかったかのように外へ出ていく遮那を、カップル三人はただ乾いた笑いを浮かべながら見守るだけだった。
 
「……あの人、何者なの?」

 遮那が姿を消した後、一反木綿が不思議そうに声をかける。義人はそれを聞いて少し考えた後、にこやかにそれに答えた。
 
「ただの退魔師だよ」

 その回答は、一反木綿にとっては納得しづらいものだった。しかし義人はそれ以上は何も言わず、代わりに二人の体を優しく抱きしめた。
 彼女は怪奇現象を解決して、さらに自分にこんな綺麗な恋人を二人も作ってくれた。今の彼にとっては、本当にそれで十分だったのだ。
 
 
 
 
「おかえりなさい。今日はどうでしたか?」
「今日も大活躍だったわよ。ユウ君にも私の活躍する姿、見せてあげたかったな」
「それは残念ですね。……それはそうと、石川の奴も元気になりましたか?」
「そっちも問題ないわ。あの子にも可愛い恋人が出来て、大満足そうだったわよ」
「そうですか。……ありがとうございます。僕のワガママにつきあってくれて」
「気にしないの。私とあなたの仲なんだから。それにあなたのお友達の問題なんだから、私が一肌脱ぐのは当然のことでしょ?」
「ありがとうございます。ところで、やっぱりこれは何か、お返ししないと駄目ですかね?」
「そうねえ。せっかくだから……ここはデーモンらしく、対価をもらおうかしら。あなたのワガママで私を振り回した、その代償をね」
「いいですよ。ペイルさんのお願いなら、なんなりと」
「さすがユウ君、殊勝な心掛けね。それじゃあねえ……ユウ君、ここに一仕事終えてクタクタになったデーモンがいます」
「はい」
「そのデーモンは徹夜して偽名と二つ名を考え、退魔師としての自分の設定をパソコンに打ち込んで、必死にキャラづくりをして、今日と言う日に備えてきました」
「そこまでしなくてもいいって僕言いましたよね? 勝手に退魔師設定で行こうって決めたのペイルさんじゃないですか」
「そして今、退魔師七尾遮那としてトラブルを解決したデーモンは、とても疲れています。傍目にはわかりませんが、とにかくボロボロです」
「無視ですか」
「なのでユウ君には、そんな疲労困憊のお嫁さんを労わる義務があるのです」
「……何をすればいいんでしょう?」
「ご飯の後ででいいから、私のお背中流してほしいな♪」
「……もちろん。喜んで」

 今日も夜は穏やかに更けていったのだった。
16/12/25 20:54更新 / 黒尻尾

■作者メッセージ
maybe come maybe come
誰も逃れられない
must be come must be come
必ずやって来る

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