読切小説
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彼女が僕に恋して堕落するまで
「牧師様……私は罪を犯しました」
 教会の聖堂に隔離されるように存在する懺悔室。
 中は光が入らないように暗幕に囲まれており、懺悔をする者と聞き手の間に木の格子がはめ込まれ、徹底的にプライバシーが確保されている。
 太陽が顔を覗かせたばかりの時刻。鶏と雀の合唱があちこちで響いている。
 懺悔者は続ける。
「私は以前、愛の告白を断りました。幼馴染でした。小さな頃からいつも一緒に遊び、両親よりも一緒にいる時間が長いほどでした」
 すぅと息を吸う。
「彼のことが好きでした。好きといっても、異性として好きというわけではなく、友人としてというか……仲間として、というか……」
「だから、彼の告白を受けたとき、頭が真っ白になってしまいました。ですから、とっさに断ってしまったのです」
「しかし、最近私は気付きました。実は、本当は、私は彼のことを異性として好いているということを……」
 ため息をついた。
「気付いたきっかけは、彼の家に住み着くようになった女性の存在です」
「彼女が言うには、行き倒れていたところを、彼が助けてくれたということらしいのですが……」
「私は彼女に、嫉妬心を抱いてしまったのです。彼の家に住み、共に生活し……」
「私は、嫉妬という罪を犯してしまいました。それをここに懺悔します」
 一息でしゃべりきり、ふぅと大きく息を吐いた。
「たしかに、その懺悔、お受けしました」
 決まりの文句。しかし、懺悔者・サアラは驚いて顔を上げた。
 懺悔室に入ったとき「どうされましたか」と言葉を促した声は、確かに男性のものだった。
 しかし、今の声は女性のもの。
――聞き間違いかしら
 普段、懺悔室に入るのは牧師の役目であるから、先入観でそう聞こえたのであろう。彼女はそう考えた。
「神は言っています」
 向こう側の女は続ける。
「『迷わず進め、行けば分かるさ』……一度、その女性と幼馴染、そしてあなたの三人で話し合いをしてみてはいかがでしょうか」
「は、はあ……」
 サアラは生返事を返した。
「一度の告白でダメならば、二度三度と押していけばいいのです。何だったら、色仕掛けでもかまいません。相手をその気にさせれば勝ちなのです」
「い、色っ!?」
 思わず叫んでしまうサアラ。
 教団の教義は「姦淫するべからず」である。それなのに、神の使いであるはずのシスターがそんなことを言うなんて。
 しかし……と彼女は考えた。
――そうでもしないと、彼とは結ばれないのでは……
 それほど彼女は切羽詰っていた。
 日を追うごとにあの二人の仲はよくなっていると彼女は感じていた。
 もしかしたら、すでに肉体関係にすらなっているかもしれない。
 彼は教団の信者ではないので、彼女から誘われたら拒むことはできないであろう。
 だから、一刻も早く行動に移さなければいけないという、強迫観念にかられたのだ。
「ありがとうございました」
 懺悔室から出る彼女の瞳には、覚悟の炎が燃えていた。

「うふふ……」
 懺悔室からサアラが出たのを確認すると、聞き手側から笑い声が漏れた。
「がんばってね、サアラちゃん……」
 格子に取り付けられた肘掛に両肘をつき、その上に顎を乗せ、くすくすと笑う彼女。
 室内が明るければ、彼女の腰の翼ははためき、尻尾が重力に逆らってゆらゆらと揺れていることが分かったであろう。
 先ほどまでサアラの懺悔を聞き、アドバイスを与えていた彼女の正体。
 元エンジェル、現在は堕落神の使い。サアラが嫉妬していた相手、メルである。
「牧師さぁん、ちゃんと最後まで声を我慢できましたね。えらいえらい……そんな牧師さんにはご褒美っ」
 そう言うと、メルは自らの下腹部の筋肉に力を入れた。
「あうっ、うぅっ……」
 それと同時に、牧師はうめき声を上げ、ぶるぶると全身を震わせた。
 懺悔室に響く、どぷっどぷっという何かが発射される音。
 立ち後背位でつながっていたペニスから、精液が漏れる音である。
「うふ、ふ……なかなか美味しいですよ、牧師さんのざーめん……」
 彼女が腰をくいっと持ち上げると、ぬぽっと間の抜けた音を立て、彼女の肉壷から力を失ったペニスが抜け出した。
「これで、牧師さんは立派なインキュバスでぇす……」
 そう言って彼女は振り返り、牧師に抱きついた。
「頑張ってくださいね。インキュバスの魔力を使えば、あなたの大好きなシスターさんもイチコロですから……」
 彼に耳を寄せ、メルが囁く。
 そして牧師を振り返らせ、ぽんぽんと背中を叩いて外へ送り出した。
「うまくいったら教えてくださいねー」
 大きく手を振って、メルはまだ子供っぽさが抜け切れていない、新人牧師を送り出した。
 この教会の聖職者が全員魔物になり、堕落神を崇めるようになるのは、それから三日後のことである。

「……」
 その日の昼、サアラは件の幼馴染・アルマの住む家の前に立っていた。
 サアラの心臓は大きく鳴り、呼吸は荒くなる。
 彼女は明らかに緊張していた。
 サアラは、自分がアルマに告白したときのことを思い出す。
 あのとき、彼の瞳は驚くほど冷たかった。他に夢中になったものを見つけたような、自分に対して興味のない瞳。
 そのとき彼女は、彼がメルに恋しているのだと分かった。
 彼女は後悔した。なぜあのとき彼の告白を拒絶してしまったのだろうと。
 あそこで了承していれば、メルに取られることもなかったのに……
 しかし、過去を振り返ってもしょうがない。今何をするか、それが大事なのだ。と、彼女は何とか心の奥から湧き上がる黒い衝動を押さえ込んだ。
 玄関の扉に手を伸ばし、ノックしようとすると……
 内側から扉が何度か叩かれる音がした。
「メルちゃん?それとも、アルマ?」
 サアラはノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開け放した。
「……っ!」
 反射的に、手で口と鼻を押さえてしまう。
 邪悪の塊のような異様な気が、そこから漏れ出ているように思えたからだ。
 扉の隙間にあるのは、夜よりも暗い闇。
 次の瞬間、彼女の鼻の奥を、濃厚なメスの匂いがくすぐった。
「うぅっ……!」
 うめくサアラ。彼女の耳に、耳慣れた声が響いた。
「あんっ、サアラちゃん……んっ、いらっしゃいっ」
 扉の隙間から顔を覗かせた声の正体は、メルであった。
 顔から下の部分は、家の中、闇の奥に隠れて見えない。
 彼女の顔を見て、サアラはいくつもの違和感を覚えた。
 まずは顔色。色黒を通り越し、灰色と青の混ざったような人間ではありえない色をしている。
 次に表情。とろけるような瞳、目に浮かんだ涙、切なげに開いた口。
 さらに声。「あっ……んっ」などと、だらしない口の中から切なげな声が漏れ出ている。
 最後に音。ぱちゅんぱちゅん、と湿ったものが叩かれるような音が、闇の中から響いている。
 匂いもさらに強くなり、サアラはそれによって自分の心臓の鼓動が強くなっているのを感じた。
――何なの……これ……?それに、この匂い、どこかで……
「ぐっ、出るっ!」
 切羽詰った男の声。次の瞬間、ばちんっ!と大きな音が響き、うめき声が聞こえた。
「あ……ああっ……はぁっ……」
 扉の淵と玄関の壁を、メルがぎゅっと握り、心ここにあらずという表情でサアラを見上げた。
 口の端からだらしなくよだれを垂らし、ひくひくと顔を震わせ、女の幸せを一身に浴びた……そんな顔であった。
「ちょっと!メルちゃん何をやって……」
 サアラが玄関扉を引き開けると、目の前の光景に息を呑んだ。
「はぁ……はぁ……!」
 立った状態で上体を前に倒しているメル。そんな彼女の腰を、アルマが力強く両手で握り締めていた。
 二人は全裸で、下半身、互いの性器がつながりあっていた。
 匂い立つ淫臭。
 このとき、サアラは今まで嗅いでいた匂いの正体を思い出した。
――この匂い……最近アルマから漂っていた……
 彼をふった後、彼の体から発せられていた香り。彼女がそれを嗅ぐたびに、彼に対する恋心が強くなっていたあの香り。
 その正体は、発情したメルから発せられる淫臭であったのだ。
「きゃっ、きゃぁ……っ!」
 悲鳴を上げそうになったサアラの口を、メルが素早く両手でふさぎ、彼女を家に引きずり込んだ。

「あうっ」
 闇の中に急に引き込まれ、目の前が真っ暗になったサアラは、バランスを崩して玄関前の廊下に倒れこんだ。
「あら、ごめんなさぁい、サアラちゃん」
 うつぶせに倒れた彼女を見下ろし、メルがくすくすと笑う。
 サアラが家を覗き込んだときに見えた闇、それがメルの全身にずるずると音をたてながら吸収されていく。
 排水溝に水が吸い込まれていくように、渦を巻きながら彼女の体に吸い寄せられていく黒い瘴気。それをサアラは呆然としながら見上げていた。
 闇が薄くなっていく。壁、天井、床、扉……そして、うっとりと頬を染めるメルと、彼女に後ろから抱き付いて腰をゆるゆると動かすサアラの想い人、アルマの姿。
 二人は全裸であった。
 そして、サアラの目を惹いたのは、メルの体から生える一対の黒い翼、一本の黒い尻尾、そして頭に浮かぶ紫色の輪。
「あ……あ……」
 サアラが目を見開き口をぱくぱくとうごめかせる。
「あれ、言ってませんでした?私がエンジェルだってこと。……ああ、今は違いますね。元・エンジェルでしたね」
 ふふっと含み笑いを漏らすメル。
「あ、あ、あなたたち……なんてことを!」
 声を震わせながら、サアラは叫んだ。
 サアラとメルの二人。彼女たちは、アルマが畑仕事に行っている間、互いの家に行き来しておしゃべりするほどの仲良しになっていた。
 しかし、メルはサアラに一言も自分が神の使いであることを口に出したことはなかった。
「みだりに正体を明かすべからず」……天界の掟である。
 そして、これは教団関係者……神の使いであろうが、牧師であろうが、信者であろうが全ての者に対する鉄の掟。
「姦淫するべからず」……メルとアルマ、現在の二人の行動は、それに反していた。
 人前ではばかることなく、子孫を残すためではなく、楽しむための性交を行う。
 サアラにとって、それは何よりも許しがたい行為であったのだ。
「なんてことをって……エッチですよぉ?」
 サアラの慌てぶりに対して、メルの態度はあくまで冷静であった。
 わざとらしく首をかしげ、肩をすくめて言い放つ。
「はぁ……はぁ……メル……どうしよう、僕の、納まらない……」
 メルのおなかに両手を回し、うなじに顔をうずめてアルマが声を震わせる。
 ぐにぐにと腰をうごめかせ、二回戦をしたいと懇願する。
「もう、アルマさんは甘えん坊なんだからぁ……ほらぁ、サアラさんが見てますよぉ?」
 彼に振り返り、メルは潤ませた流し目で見つめる。
 まるで、目の前のサアラに見せ付けているかのようだ。
「えっ、あっ、サアラ……どうしてこんなところに……!」
 はっと目を開き、サアラを見下ろすアルマ。彼はサアラがこの家に来たことに今初めて気付いたのだ。
 サアラが彼の目を見つめる。
 彼の瞳……そこに光はなかった。他の全てのことに興味は失せ、欲しいのはただメルの体のみ。
 彼は完全にメルの膣の虜になっていた。
「あぅん……最近ね、アルマさんがぁ、毎日私を求めてくるんですよぉ……」
 迷惑そうに眉をひそめるが、声色を聞く限り、嫌がる素振りは全くない。
「そんな……アルマ……嘘でしょ?」
 今にも泣きそうな声で、サアラがつぶやいた。
 それも当然である。自分の気持ちに決着を付けようと彼の家に乗り込んだら、すでに彼は他人のもの、それも仲の良い女の子のものになっていたのだ。
 もはや、自分に入り込む余地は全くない。どうしようもない。そう思ってしまったのも無理はない。
 だが、元天使はそんな彼女の気持ちに気付き、助け舟を渡した。
「サアラちゃん……でもぉ、これはぁ、私からアルマさんを奪う大チャンスだと思いません?」
 以前のメルからは考えられないほどの甘ったるい声で、サアラに言う。
「今のアルマさん、私のおまんこの病み付きなんですよぉ?だったらぁ……」
 メルが舌なめずりをする。
「サアラちゃんも私みたいに……ここでぇ……」
 そう言って、彼女はアルマのペニスをくわえ込んでいる部分、下腹部を指差した。
「アルマさんを病み付きにしてあげればいいじゃないですかぁ」
「そ、そんなこと!」
 サアラが顔を強張らせ、力強く床を踏みしめて立ち上がる。
 そして眉をひそめ、目線が同じ高さになったメルを睨みつける。
「『できるわけがない!』ですかぁ?サアラちゃん、そんな怖い顔しないでくださいよぉ」
 淫魔がその字のごとく、淫らに微笑む。
「でもぉ、それだとぉ……あんっ、アルマさんがぁ、ずぅっと私の膣内から出てくれませんよぉ?」
 そう言うと、彼女は腰を一度大きくひねった。
 すると、後ろから抱きつき、背中に頬を乗せたアルマが、小さくうめき声を上げた。
「んふっ、また射精しちゃいましたね」
 薄く目を閉じ、メルは子宮を叩く精液の感触を確かめた。
「なっ!何をやってっ!」
 メルの肩をつかみ、大声を上げるサアラ。さらにガクガクとその肩をゆする。
「もぉっ、そんな泣きそうな顔をしないでくださいよぉ」
 頭をガクガクと前後に揺らすが、淫魔特有の淫らな微笑みは崩さない。
「私はぁ、ただアルマさんを幸せにしてるだけなんですからぁ……」
 ぺろりと舌なめずり。
「さっきから言ってるじゃないですかぁ。そんなに私がするのが嫌なら、代わりにサアラさんがやってあげればいいんですよぉ」
 ふぅと息を吐き、甘ったるい吐息を空気に混ぜ込ませる。
 ぴたりとサアラの腕が止まった。
――そうか……私が、メルちゃんの代わりにアルマのことを幸せにしてあげれば……
 だらりと腕を重力に任せるように下ろした。
「ふふっ、やる気になったみたいですねぇ……じゃあ、アルマさんごめんなさい、一旦抜きますね」
 メルは振り向いてアルマに囁くと、尻を持ち上げた。
 ぬぽんと音を立て、いまだに固さを保ったペニスが飛び出した。
 それは互いの粘液が混ざり合い、ぬらぬらと鈍い光を放っている。
「あ……えっ……もう?」
 パチパチと何度もまばたきし、アルマが気だるそうな声を出した。まだまだ彼は物足りないようだ。
「大丈夫ですよぉ、今度は、私の代わりにサアラちゃんがやってくれますから」
 にんまりとメルが微笑み、ウインクをする。
「えっ、サアラが?サアラがしてくれるの?」
 視線を動かし、彼はぼーっとしているサアラを見た。
 サアラはその視線に小さくうなずいて答えた。

「はいはーい、ベッドに着きましたよー」
 メルが楽しそうな声を出しながら寝室のドアを開けると、アルマとサアラの二人の手を取って引っ張っていった。
 アルマは生気の抜けた表情で、サアラは緊張で強張らせた表情で、彼女に引っ張られるまま寝室に足を踏み入れた。
「それじゃあサアラちゃんはベッドに横になってくださいねー」
 メルはサアラの両肩を優しく掴むと、ゆっくりとベッドの上に横たわらせた。
「最初は、全部私たちに任せてくださいね」
 そう言って、メルはサアラのブラウスに手をかけた。
「えっ……きゃっ!」
 サアラは悲鳴を上げると、自分の両肩を腕で抱いてメルの動作を阻止した。
「ちょっとー、だめじゃないですかぁ。私の代わりになるんでしょぉ?」
 そう言って頬を膨らませるメルは、すでに全裸である。
「う……わ、分かった……」
 眉をひそめながらも、ゆっくりとサアラは腕の拘束を解いた。
 抵抗の意思がなくなったと判断し、メルは彼女の服を脱がしにかかった。
 ブラウスの肩紐を下ろし、後ろのボタンを外す。
 次に肌着。
「バンザイしてくださいねー」
 サアラの肘にメルが手を当てると、真一文字に唇を結びながらも、サアラは彼女の言葉に従った。
 頭の上に両手を持ち上げさせると、メルは彼女の肌着のすそを持ち上げて脱がした。
 下半身の服もてきぱきと脱がせる。
 スカートは何とか脱がせることに成功したが、最後の一枚・パンツは脱がされることをかたくなに拒んだ。
「うーん……しょうがないですねぇ。じゃあこのまま始めちゃいましょうか」
 困った表情でメルがつぶやくと、ベッドのそばに立っていたアルマの手を取った。
「それじゃあアルマさん、お願いしますねぇ」
 メルはアルマの手を、サアラの頭の横に導く。
 それに合わせ、彼は両膝をそれぞれ彼女の腰の横に乗せ、もう片方の手を、頭の反対側に置いた。
「アルマ……」
 サアラは目の前の彼の名を呼ぶ。しかし、彼は答えない。
 その目は彼女を見ていない。あくまでメルの指示に従ったら、目の前にサアラがいた。それだけなのだ。
 メルにかけられた強力な魅了の魔術はまだ解けない。
「男女の営みにも、順序ってものがあります。まずは、キスをしましょうねぇ」
 メルのおどけるような声が発せられると、それを合図に彼の両腕が目の前の彼女の首に回された。
 二人の距離が、さらに接近する。
「アルマぁ……やだよぉ。こんなわけ分からないままのキスなんて、やだよぉ……」
 駄々をこねるようにサアラが小さく首を左右に振るが、アルマはお構いなしに顔を寄せる。
「やめてぇ……お願いだからっんんーっ!」
 口をふさがれる。
 唇同士が触れ合い、その弾力を互いの脳に伝える。
「んふふ……もちろん、愛し合う男女なんですから、唇を重ねるだけじゃあだめですよねぇ」
「んっ!」
 アルマが唇を割るように、舌をねじ込ませる。
 すぐにサアラの舌と触れ合い、口内を余すところなくなめ回す。
「んんっ!んっ!んん……んぅ……」
 初めは体を強張らせ、彼の胸を押して離れようとしていたサアラであったが、徐々に全身の力を緩めていった。
 瞳が潤み、鼻や唇の隙間から漏れる息が熱くなる。
「んん……れるぅ……ちゅるっ」
 頬が朱に染まり、目がゆっくりと閉じられる。
 視覚情報が遮断され、その他の感覚がより敏感になる。
 温かい舌の感触。
 何故か甘いアルマの唾液。
 粘り気を含んだ水音。
 土とメルの誘惑の香りが混ざった匂い。
 全てがサアラの性的興奮を昂らせるのに十分な要素であった。
「んっ、れるっ……ふぅんっ……」
 普段の、教団に生活の全てを捧げる彼女ではありえない艶っぽい声が、吐息とともに漏れ出る。
「うーん、だんだん素直になってきましたねぇ……じゃあ次はぁ……」
 いつの間にか彼女の横にすり寄っていたメルが、サアラの左耳に口を寄せ、小さく囁く。
 メルの吐息が耳にかかるたびに、サアラが小さくぶるっと震える。
「おっぱい、もまれちゃいましょうねー」
「ひうっ!」
 唇に吸い付きながら、アルマの手がサアラの乳房を這い回る。
「ふぅんっ!アリュマぁ……」
 唾液の糸を引き、サアラが抗議の声を上げる。しかし、その顔に浮かぶのは笑顔。
 たとえメルの誘惑、催眠魔術のせいであっても、アルマは自分のことを求めているのだ。
 そういった気持ちが、彼女の心に温かいものを満たす。
「ゆっくりぃ……まずは外側からぁ……」
 メルが囁く。
 アルマの手が、乳の山のすそ野をゆっくりと一周させる。
「だんだんと上へ……」
 回る指が、手が、ドリルやスクリューのごとく、徐々に頂上へと上がっていく。
「んっ、にちゅっ、ふっ……」
 耳に入る声と、胸を這い回る感触。先端を刺激されることへの期待感で、サアラの頭の中はいっぱいになった。
「あらぁ、期待しちゃってますねぇ……もうこんなに乳首こりこりさせちゃってぇ……それじゃあ期待に応えて」
 メルがつぶやくと、メルが左、アルマが右の乳首を同時につまんだ。
「ひっ、ひぃっ!」
 目を見開き、悲鳴を漏らして背筋を反らす。
「あはっ、あひっ……」
 サアラは、目の前で火花が散り、脳髄に電流が流れるような感覚を覚えた。
 不意打ちのショックで、わけも分からないまま絶頂してしまったのだ。
 生まれて初めての感覚。しかし、本能ではそれが何なのかを理解していた。
 その証拠に、彼女の股間、誰にも見せたことのない花びらからは、ペニスを迎え入れるための粘液が漏れ出した。
「んー、イっちゃいましたねぇ」
 くすくすとメルが笑う。
 彼女は笑いながら、右手を彼女のパンツの中へ差し入れた。
「きゅぅんっ!」
 また海老反るサアラ。
 メルは何かを確かめるように、何度か指をうごめかすと、嬉しそうに何度もうんうんとうなずいた。
「んふふ、準備万端みたいですねぇ」
「ふぇ……?じゅん、び……?」
 よだれをだらしなく垂らしながら、力なくサアラがつぶやいた。
「そうですよぉ。サアラちゃんのおまんこにぃ、アルマさんのおちんちんを入れる準備ですよ?」
「えっ……」
 サアラの体が再び強張る。
 性的興奮でもやがかかったようにぼんやりとしていた脳が、すっと冷める。
「そんなっ、まだ心の準備が……」
 口をもごもごとうごめかし、拒否の意を示したサアラ。アルマが、彼女の右耳に口を寄せる。
「僕と、したくないの?」
 ひどく悲しそうな、今にも泣き出しそうな声で囁いた。
「んぅっ!ア、アルマ?」
 突然の囁き。それも大好きな男子の声を耳元から浴びせられ、サアラはぞくりと体を震わせた。
「僕は、サアラとしたい」
 耳元に口を近づけたまま、彼女に体重を預け、ぎゅっと抱きついた。
 サアラの赤い顔がさらに真っ赤に染まる。
「いいんですか?アルマさんのせっかくの誘いなのに……受けないんですかぁ?」
「でも……でも……」
 何度も同じことをつぶやき、うなるサアラ。
「サアラちゃん、優柔不断なんですねぇ……」
 左耳へメルが囁くと、右耳からはアルマの興奮した息遣いがこだまする。
「ほらぁ、アルマさん、おちんちんがおまんこ肉にずっと包まれてないから、興奮していますよぉ?」
 メルはそうつぶやくと、自分の右手をそっとアルマのペニスの根元に伸ばした。
 親指と人差し指でリングを作り、ペニスを握って優しく上下させる。
「ふぅ……ふぅ……」
 彼の息遣いが少し納まる。
「アルマさんのおちんちん、『早くおまんこの中に入りたいよぉ』って言ってますよ?」
 しゅこしゅことリングの上下を早める。
「くっ……はぁ、はぁ……」
 アルマの吐息が、サアラの右の鼓膜を優しく揺さぶる。
「それなのにぃ、サアラさんは断るんですか?それじゃあ……」
 メルがサアラの耳たぶを甘噛みした。びくりと震えるサアラ。
「私のおまんこに入れちゃおうかなぁ」
 その言葉がとどめとなった。
 すうっと息を吸うと、肺に溜めた空気を吐き出すように、重々しくサアラが言った。
「それだけはだめ!私の中に入れてもらうんだから!」

「本当に、いいの?」
 心配そうにアルマが言った。
 幼馴染であるので、彼はサアラが厳格な教団信者であることを知っていたのだ。
 ただでさえ、今までの行為は教義に反しているのだ。
 その上、これから行う行為、魔物にたぶらかされ、子孫を残すため以外の性交をするのは……
 他人にばれたら破門である。
 しかし、サアラの意志は固かった。
「大丈夫……大丈夫だから」
 きゅっと唇を結び、全身を強張らせながら言った。決意は固くても、恐怖心は拭えない。
「うん、分かった。優しくするから」
 アルマは、彼女の体を抱いている腕の力を強くする。
「それじゃあ、入れるよ」
 甘く囁き、彼は腰を浮かせた。
 横にいるメルが、サアラのパンツ、ヴァギナを隠している部分を横にずらし、彼女の大陰唇を優しく指で押し開く。
「さあ、ここにどうぞ」
 メルの言葉を聞き、彼が小さくうなずいた。
 腰を少しずつ落とす。
 くちっ……亀頭がサアラの粘膜に触れた。
「アルマァ……」
 そのとき、泣きそうな声でサアラが声を絞り出した。
「何?」
「その……怖いから、怖い、から……キスしながら、入れて」
 両腕を彼の方へ突き出し、接吻をせがむ。
 その表情が、彼にとってはあまりにも可愛らしくて、守ってあげたくて、彼は小さくうなずいた。
 そして、彼は唇を彼女のものへを寄せた。そっと触れ合うだけのキス。
「力を抜いてくださいね。少しは楽になりますから」
 左のメルがアドバイスをする。
「大丈夫だから、安心して」
 キスの合間に、アルマも優しく声をかける。
 それだけで、彼女の全身の力を抜くには十分であった。
 そっと目を閉じ、安心しきった顔で、先輩二人に身を任せる。
 もう一度キス。
 それと同時に、アルマが腰をゆっくりと前へ進めた。
「ふっ……うぅんっ」
 粘膜が熱いペニスにこすられ、サアラが快楽のうめきを上げる。
 腰が止まる。亀頭の先端に、わずかな抵抗があった。
 アルマはここで一息つくと、一気に腰を沈めた。
「っ!んんっ!うぅんっ!」
 口をふさがれた状態で、鼻から大きく息を放ち、サアラは破瓜の痛みにうめいた。
「ほら、サアラちゃん、力を抜いてください」
 メルが声をかけるが、サアラは頭を大きく左右に振り、アルマのキスを振りほどいてしまう。
「ああっ!あぅっ!ぐぅんっ!」
 ぎゅっと目をつぶり、大粒の涙をこぼしながら何度もうめく。
「大丈夫。しばらく動かないから」
 アルマがぐっと腰に力をこめる。
 膣の一番奥で、ペニスが動きを止めた。
「ううっ……ぐすっ、ひっく……」
 鼻をすすり、涙をぽろぽろ流し、ただただサアラは痛みをこらえる。
 全身、特に下腹部に力がこもり、膣肉が図らずもアルマの分身を強く強く握り締める。
 早鐘のように打つ心臓の鼓動に合わせ、その秘肉がとくんとくんとうごめく。
 子供をあやすかのように、アルマは優しくサアラの頭をなで、唇に何度もキスを浴びせる。
 メルは彼女の背中をさすり、「大丈夫だよ、大丈夫だからね」と優しく慰める。
「ぐすっ……うっ……うぅんっ……ふぅっ……」
 しばらく時間が経つと、彼女の泣き声が薄くなり、代わりに違う声が混じるようになった。
 彼女の変化にメルがいち早く気付く。
「気持ちよくなってきた?」
 サアラが大きく鼻を一度すすると、こくりと小さくうなずいた。
「ちょ、ちょっとだけ……」
 ぽっと頬を赤く染める。
「ふふっ、よかった。じゃあアルマさん、動いてあげて」
 にぃと目を細めてメルが言うと、アルマは言われた通りに腰を動かし始めた。
 ゆっくりと、彼女の反応を確かめるように。
――ずっ……
 まずはそろそろと腰を引いていく。
「んっ!んぅ……」
 先ほどまで処女膜があったところにカリが引っかかると、少しサアラが顔をしかめた。しかし、それ以外の部分では大丈夫そうだ。
――にゅこぉ……
 亀頭まで抜き終わったら、今度は同じくらいゆっくりと腰を押し戻す。
 ペニスが膣穴に割り入るたびに、肉がきゅっと締まり、二人が同時に吐息を漏らす。
――ぬちぃ……
 今度は少し早く抜く。
「あっ、あっ……」
 サアラの声から、痛みや苦しみの色が消える。
「うん、もう大丈夫そうだね」
 嬉しそうにメルが微笑んだ。
「もう、早く動かしてもよさそうですね……アルマさん、女の子の幸せ、教えてあげて?」
 アルマはこくんとうなずき、腰を勢いよく沈めた。
「きゅぅんっ!」
 ごつりと亀頭と子宮口がぶつかり、サアラは歓喜の悲鳴を上げた。
 このとき、彼女は何故教団が姦淫を禁ずるのかを理解した。
――神様ぁ……こんな気持ちいいのを禁止するなんてぇ、ひどいですぅ……
 花が咲いたかのような笑顔。
 彼女は今までの、教義に縛られ自分に見向きもしてくれない神に従ってきた人生を激しく悔いた。
 目の前がバチバチと弾けるような感覚。
 脳内が真っ白になるような快楽。
 大好きな人の愛を、体内から受ける幸せ。
 全てがサアラを虜にした。
 一番奥をぐりぐりとえぐられ、膣内上面の気持ちいいところをこすられ、ひだにカリが引っかかり、左右の耳に届く大好きな人たちの声。
 神に縛られた拘束を溶かし、全てがどろどろにとろけていく感覚。
「あっ!あっ!きゅぅん!」
 その奥に、最後の扉があることを感じた。
「あはっ、サアラちゃん、もうすぐイきそうですねぇ」
 耳たぶを甘く噛み、自分の秘所を指でもてあそびながらメルが囁く。
「イ……きそう?」
 耳慣れない単語を、サアラが反芻する。
「んふっ、何か、すごいのが来ちゃいそうな感覚がするでしょ?」
 がくがくと全身をゆすられているサアラ。最後の扉、越えてはならない一線。そのことだろうと理解した彼女は、メルの言葉を聞いて小さくうなずいた。
「それが、絶頂。イくって言うんですよ?」
「イく?……これが、イく?」
 目をうつろにさせ、サアラは何度も「イく、イく」とつぶやく。
「うん……うん……あぁっ、イくっ、イくぅ……うんっ、イきゅっ!イきゅぅっ!」
 その単語を一つつぶやくたびに、心の奥底にある、理性や貞操や教義や知識や主神、その他諸々の拘束する鎖が砕け散る感覚を覚えた。
「イくの?サアラちゃんイっちゃうんですか?イくと私と同じになっちゃいますよ?魔物になっちゃいますよ?いいんですか?」
 最終確認のように、メルがそっと囁く。
「いいのっ!魔物になってもいいのっ!イきたいからっ!もう神様とかどうでもいいから!イきたいっ!イきたぁいっ!」
「んふっ、よく言えましたぁ。私も、サアラちゃんといっしょにぃ、んっ、イってあげますからねぇ」
 メルの自慰の指が早くなった。人差し指と親指でクリトリスをつまみ転がし、中指を膣内に入れて内壁をこする。
「くっ、うっ……サアラっ、締め付けっ、すごいっ」
 絶頂を目前にひかえ、サアラの膣肉の締りが俄然強くなった。たまらずアルマも悲鳴を漏らす。
 そして、ラストスパートとばかりに彼の腰のストロークがさらに早くなった。
「うんっ、イきゅっ!しゃぁわせっ、幸せぇ!イきゅぅん!」
「んっ、はっ、わらしもぉ、イきまひゅぅ」
「ぐっ、うっ、でるぅっ!」
 三者三様の声を漏らし、三人は同時に果てた。

 サアラの目の前が真っ暗になる。
――ようこそ、堕落神様の世界へ。
 艶っぽい大人の女性の声が呼びかける。
――私たちはあなたを歓迎いたします。
 闇がうごめくと同時に、声が吐き出される。
――あなた方三人を、万魔殿(パンデモニウム)へお連れいたします。
「パン……デモニウム?」
 サアラが反芻する。
――万魔殿は永久の世界です。永久に愛し合うもの同士が愛を確かめ合う場所。
「永久に……?」
――はい、永久にです。万魔殿は時の止まった場所。老いることも、空腹になることも、眠くなることも、死ぬこともありません。永遠に、愛するものと愛し合えるのです。
「素敵……」
――目を閉じてください。目を閉じ、眠気に包まれ、もう一度目を開けたら、そこは万魔殿です。
「はい、分かりました……」
 声に従うまま、サアラは目を閉じた。
 人間と魔物の狭間。最後の眠り。

「んっ」
 サアラは、股間の異物感で目を覚ました。
 だが、その異物は愛しくて心地よい。愛する男の一番大事なところだと分かったからだ。
 次に、体の前面を包む温かさに気付く。
 今自分がくわえ込んでいる異物の主。幼馴染で、先ほど結ばれた愛する彼。
 まぶたを開けたつもりだったが、闇であることに変わりはなかった。
 だが、感触はある。目の前の男と、自分の体と、自分を素直にしてくれた親友の姿は見える。
 まるで、闇の中に自分たち三人だけが浮かび上がっているかのようであった。
 その次にようやく、彼女は自分の体の違和感に気付いた。
 腰に新しい神経が通った感覚。
 違和感のある部分に力を込めると、ばさばさと音が鳴り、全裸の自分の皮膚にそよ風が当たるのを感じた。
 そこに目をやる。
 翼と尻尾があった。まるで、親友についているもののようであった。
――私、本当に魔物になっちゃったんだ。
 だが、悲しみは沸いてこない。涙が枯れてしまったかのようである。
 彼女の心を満たすのは、ただただ幸福のみ。
「んん……」
 下にいる二人も目覚めた。
 歓喜の瞬間である。これから始まるのは、永遠に続く、三人の快楽の宴。
「おはよう、二人とも」

「あんっ!うぅんっ、アルマしゃん、しゅごいですぅ!」
 メルが四つんばいになり、尻を高く上げる。
 彼女の腰を力強くつかみ、アルマがそこにある穴に肉棒を乱暴にねじ込む。
「んっ、んっ、ちゅぅ……」
 その彼の首に優しく両腕を回し、サアラが唇にむしゃぶりつく。
「きゅぅん!アルマさっんっ、イきゅぅん!」

「ふっ、ぐっ!」
 ダークプリーストの制服の胸元、かつてサアラが崇めていた十字架型に開いたスリットに、アルマがそそりたった分身を差し入れる。
 胸の谷間にねじ込まれたそれを、サアラが両手で乳房を押さえることによって締め付け、膣とは違った優しい圧迫感を与える。
 とろとろと彼女の唾液が流し込まれ、それが潤滑油となってぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて腰が前後する。
「ちゅぅ、れるぅ……」
 メルが彼の後ろ側から舌を入れ、彼のアナルに奉仕をする。
「ぐぅっ!」
 メルの舌が腸壁をこすり、たまらず濃い精液を漏らしてしまった。
 かつての信仰の対象に、不浄の液体を注ぎ込む。
 サアラはその背徳感にうっとりと微笑んだ。

「はぁい、間にどうぞぉ……」
 サアラが仰向けになり、その上にメルが覆いかぶさる。
 そして互いの性器を密着させ、アルマの目の前へ。
「ごくり……」
 二つの柔らかな桃を目の当たりにして、彼は喉を鳴らした。
 二つのクレバスからは、待ちきれないとばかりに粘液が溢れ、にちにちとねちっこい音を奏でる。
 性的興奮が昂り、ひくひくと震えるペニスを、間に差し入れた。
「うぅんっ」
「ふぅっ」
 陰唇と陰核がこすれ、快楽の声を上げる彼女たち。
 中に入れるわけではないので、刺激は薄い。よって、彼は早く快楽を得ようと、最初から腰の動きを激しくした。
「あんっ!クリトリスがぁ、こすれて気持ちいいですぅ」
「ふっ、うっ、メルちゃんと乳首が、こすれちゃう……」
 上の豆と下の豆が同時にこすられ、ぴりぴりと痺れるような快楽が全身を駆け巡った。
「うぅっ、この刺激もっ、なかなかっ」
 新感覚の刺激に、早くもアルマが限界を迎えてしまった。
「あぅっ、うんっ、出るんですか?」
「こってりっ、したのっ、いっぱぁいぃ、出してねぇ」
 甘い誘いに我慢できず、アルマは腰を何度も震わせ、大量の精を漏らした。
「あはっ、精液ぃ、どろどろだぁ……」
「あったかいですぅ……」
 メルが体を持ち上げると、二人のおなかで精液が白い糸をひいた。

 一寸先も見えない闇の中。浮かぶのはただ三人の体のみ。
 だが、彼らはこの上なく幸せだった。
 大好きな相手がそばにいるから。
11/03/10 04:40更新 / 川村人志

■作者メッセージ
メルちゃんが嫌な子になってしまった気がする。

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