不思議の国クエスト
「ごきげんよう！ようこそ不思議の国へ！！」
「何処ここ…」
「だから不思議の国ニャ。」
自宅で本を読んでいたら突然謎の光に包まれ、気がついたときには見たことも無い場所に居た。
辺りを見渡せば奇妙に曲がりくねった木々、人の背丈を越えるほどの巨大なキノコの森、重力と建築基準法を完全に無視したなんだか良くわからない建造物の数々…をまるで絵本の中のような不思議な世界である。
これが最近本で見た異世界転生というやつだろうか……
………。
いや、確実に魔物の仕業である。
目の前でニヤニヤ笑っている紫髪の猫娘の存在がその証拠だ。
「どういうことなの…」
「おみゃーはこの世界に呼ばれたのニャ。女王様の気まぐれニャ、良くあることニャ。」
よくあってたまるか。
「いや、毎日何人かはやってくるニャよ？…本当ニャよ？まぁ猫に噛まれたと思って諦めるがいいニャ。」
「毎日何人も人が消えてたらこっちじゃ大事件だよ!!」
「にゃふーん。おみゃーら自分たちの時間が絶対だと考えないほうがいいニャ。時間の歪みなんて良くあることニャ。ほれそこにも…」
猫娘の指差した先に目をやると突然、歪んだ時計を模した巨大なオブジェが落ちてきた。
……。
…頭が痛くなってくる。
「まぁこれまでの世界の常識なんて早々に捨て去ることニャ。ここはそういう世界だからにゃーん。」
「帰る方法は無いんですか！？」
「この世界のどこかに居る女王サマの所まで辿り着けば、元の世界、元の時間にたぶん返してもらえるニャ。…でもこの世界は広大、さらに堕落の誘惑や罠、固有の魔物たちがキミの行く手を阻むニャ。大冒険になるニャよ？それでも挑戦するかニャ？」
そうは言ってもそれ以外に変える方法が無いならするしかないだろう。
「…するよ！」
「にゃはは！！その意気だニャ！それでは…笑いあり、涙あり、濡れ場ありの不思議の国の大冒険に、１名サマご招待〜！！」
猫娘が盛大に両手を広げた。
同時に木々がざわめきキノコが跳ね、何処からとも無く安っぽいファンファーレが鳴り響く。さながら昔やったテレビゲームのタイトルコールのようだ。
「…ではでは、改めて自己紹介ニャ。キミの冒険のナビゲーターを勤めさせてもらうチェシャ猫のスピセリアですニャ。よろしくニャ。」
「あ…うん、よろしく…。」
どうも距離感を測りかねる。
…で、まずは何処に向かえばいいのだろうか。
「いや、一人で進むのは自殺行為ニャ。まずは仲間を手に入れるのニャ。近くにショップがあるからさっそく向かうニャ。」
え…、仲間って店で買うの……？
つい突っ込みそうになるが先ほど常識を捨てろと言われたばかりなのでここはとりあえず大人しくついていくことにする。
程なくしてこれまた粘土で作ったような奇妙な造形の建物に着いた。チェシャ猫に促され扉をくぐる。
「あら、いらっしゃい。彼が今日の来訪者の方？」
「そうニャ。」「ども…。」
店主と思しき女性に出迎えられた。つばの広い大きな帽子を目深にかぶった妙齢の美女である。…が、胸元の大きく開いた扇情的なその服装は正直目のやり場に困る。
「そう、ようこそ不思議の国へ。これから長い永い冒険が始まるのだから準備はしっかりしていかなくちゃネ♪ここじゃ中途半端な装備や一瞬の油断で即永住決定＜ゲームオーバー＞だから…。まぁここの住人である私からすればそれもまた幸せだと思うのだけれど…どうかしら、私と一緒にここで魔法道具店をやるというのは？」
そう言って彼女はその豊かな胸を持ち上げて見せた。思わず視線を吸い寄せられるが、先ほどの彼女の言葉を思い出し慌てて目をそらす。
『一瞬の油断が命取り。』露骨な誘惑、既に試練は始まっているのだ。
「……なんてネ♪残念、そう簡単に引っかかってはくれないのね。」
…危なかった。
ここの住人はやはり油断がならないようだ。このチェシャ猫もどこまで信用していいものか……しかし、右も左も分からない異世界では彼女らに頼らざるを得ないのも事実。騙されないよう注意しながら案内を聞くしかない。
「…で、ここで何を買えばいいの？ていうか、そういえば今お金持ってないんだけど…」
在宅中に召還されたのだ、財布も何も持っていない。…そもそもあちらの通貨がここで使えるのか自体疑問だ。
「心配するニャ。ポケットの中を見るのニャ、ちゃんと冒険への挑戦を決めた時に所持金が付与されているはずニャ。」
「…！？」
…本当にあった。ズボンの左ポケットの中に小さな銀のコインが５つ！
「あの…これで買えるものは……？」
「ここから…ここまでね。」
けっこうある。
大きな何かの卵、なんかふにふにとした柔らかい帽子、かわいい少女が描かれたカード等々…
「…どれがいいの？」
「ズバリ即戦力なこのカードがオススメニャ。」
チェシャ猫は商品棚の中でもっとも広いスペースを占めている一角を指差した。
４種類のマークにそれぞれ数字が割り振られたトランプカード、それぞれに異なった女性の姿が描かれている。だがここは不思議の国、もちろんただの絵であるはずも無く。それらはまるで生きているかのように動き、こちらに向けて微笑んでいたり時折手を振ってきたりするのだ。
「ちなみに一点買いよりこっちのカードパックのほうがお得ニャよ？」
「うん。…４枚入りと８枚入りがあるけど？」
「あまり値段が違わニャいからここは８枚入りにしておくニャ。レアカードが当たる確立も高いニャ。」
「じゃあそれで…あ、スート毎にパックが分かれてるんだね…どれにしようかな。」
「それぞれ特徴があるんニャけど現環境ならハート一択ニャ。」
「へー…、じゃあこれにするよ。（……環境？）」
ここは大人しくチェシャ猫のアドバイスに従い、桃色をした８枚入りパックを手に取った。
「はい、コイン２枚ね。どうもありがとう♪」
店主の魔女にコインを２渡し、パックを受け取る。
「ニャは♪ではさっそく開けてみるニャ。」
チェシャ猫の声に促されるまま買ったばかりのそれを開封した。
出てきたのはパッケージどおりハートのトランプカードが８枚。数字は４が２枚、７が３枚、８と１０が１枚ずつ、そしてQが１枚だった。どれも異なる人物の絵が描かれている。
「ニャにゃ!?ホントにレアカード出たニャ！スゴイにゃ!!」
肩越しに覗き込むチェシャ猫のテンションが上がる。彼女が指差すQのカード、手に長大な釈丈を持った柔和そうな美女が微笑んでいた。確かによく見れば他と比べて服装が豪華だ。
「ふふ、ようやくパートナーが決まったのね。良かったわね♪」
「さて、さっそく契約するニャ。そうすればここからはこの娘らが冒険のサポートをしてくれるニャよ。」
「あ、うん。どうやるの？」
「カードを全部重ねて裏面の魔方陣を指でなぞるニャ！」
「わかった！」
さっそくカードを一纏めに重ね裏返すと確かに魔方陣のような紋章が描かれていた。言われたとおり右手の中指で陣をなぞる。
すると紋章に光が走りカードが輝きだした。
「うわっ！？」
光ったカードははじけるように手の中から離れ床に散らばる。そして…
ボボボン…！！
桃色の煙を噴き上げて爆発した。
………、
……。
…煙が晴れてゆく。
視界が開けるとそこにはカードは無く、代わりに８人の少女が立っていた。
そして気付く。彼女らはそれぞれあの８枚のトランプに描かれていた人物と同一であることに。
１６の目がこちらを向く。それは歓喜と情欲に潤んだ…捕食者の目だった。
「こ、これはどういう…!?」
「にゅふふ……ニャ〜ｯはっはっはっはっは!!」
チェシャ猫に説明を求めようと振り向くと、彼女は堪えきれなくなったかのように噴きした。
「にゃはは！本当に契約してしまったニャ!!しかもハートのトランパート８人と！！」
まるで悪戯が成功した子供のような、しかしそう表現するにはあまりにも悪意に満ちた笑顔……まるで自分が何か取り返しのつかない失敗をしてしまったかのような言いようの無い不安に襲われ顔を青くする。
「だ。騙したのか!?」
「嘘は言ってないニャよ？その娘達はちゃーんとおみゃーに力を貸してくれるニャ。…ただし誰もタダでとは言ってないニャ。」
チェシャ猫の言葉に呼応するように、カードから現れたトランパート達がニンマリと笑みを深くする。
「契約の対価としておみゃーにはこの全員に精を供給する義務があるのだニャ。にゅふふ…快楽拷問が大好きなトランパートの中でも、とびきり好色で淫乱なハートのクラスが8人、しかもそのうち１人は絵札付き！力の強い魔物程吸精量は増すものニャから……楽しい旅になりそうだにゃあ？」
ニタァ〜と意地の悪い笑みを浮かべたチェシャ猫が顔を覗き込んだ。同時に右手の中指に光が灯る。
目を向けるとそこにはいつの間にかハート型の宝石をあしらった指輪がはめられていた。
「契約の証ニャ。…あ、外そうとしても無駄ニャよ？契約は永久、二度と外せないニャ。」
彼女の言うとおり、それは指の骨と物理的に結合してしまったかのようにびくともしない。
「よ、よくも騙したな!！」
「ニャはは！悪いニャ、これがチェシャ猫の性なのニャ♪まぁこれも猫に噛まれたと思って諦めるがいいニャ♪」
「騙しただなんて…つれないことを謂わないで下さいませ♪私達は確かに拷問を嗜んでおりますが、それも愛情表現の１つの形なのですよ？一度私に身を預けてくだされば…すぐに騙されて良かったと言わせて差し上げますわ♪」
背後からトランパートの１人が覆いかぶさり囁きかけてきた。７の数字を持つ３人のうちの１人だ。巨大な胸が背中で潰れる感触と耳元に感じる吐息に背筋が痺れた。
「そうそう、泣くほど良くしてあげるから…覚悟してよネ♪」
「いっそもう元の世界は諦めて…ここの住人になっちゃおうよ？きっとこっちの方が楽しいし気持ち良いよぉ♪」
続いて４の数字を持つ二人が両腕に抱きついて来る。更に他の数字のトランパート達も次々と集まり…
そして最後にクイーンが……目の前に突然現れた。
「…………♥」
自分がパックから引き当てたトランパート達は皆、例に漏れず絶世の美女や美少女である。その美しさはどこか現実離れしていると感じさせる程だ。(ここは不思議の国なので文字通り現実から離れてしまってはいるのだが…)
しかしその中でもこのクイーンはどこか格が違うように感じた。
見上げる程の長身、煌めく桃色の長髪を腰の下まで流し、全てを赦すような慈愛に満ちた微笑みを湛える彼女はその前に立てば自ら膝を折ってしまいそうな神々しさすら感じさせる。
…それが圧倒的実力に裏打ちされたプレッシャーの一種であることには、この時はまだ気づけなかったのだ。
そしてその彼女は何も言わず、ただ手を伸ばし顔をその胸にかき抱こうとしてきた。彼女の気に当てられていた体は避けることも抵抗することも出来ず、ただそれを受け入れてしまう。
ぞっとする程滑らかな布地に包まれたその谷間に後頭部まで呑み込まれた瞬間、下腹部の筋肉が勝手に収縮し同時に頭の奥で光が弾けた。
「あっ……あっ…あーっ…………！？」
体がふわりと浮き上がるような感覚、股間の奥の方で生まれたじんわりとした快感がみるみるうちに膨らんでゆく。
「い゛っ………お、あぁっ゛…………」
「…………♪」
天井知らずに上り詰めてゆく感覚に恐怖すら覚えるが、同時に強制的に流し込まれる安心感と心地よさがそこから抜け出す事を許さない。
そしてクイーンはその様を見て満足そうに微笑を深くするのみ…。
「あは、おっぱいの感触で脳イキしちゃってるねぇ♪そのまま甘えん坊さんに調教されちゃえ♪」
「で、でもそのままじゃ可哀想だから…ちょっとだけ手伝ってあげるね？ほら、パンツの中にお漏らししちゃお？」
左右から両の腕を拘束している４の少女たちの手が下半身に伸びた。
内腿から股間を通り臍へと抜ける…触れるか触れないかのフェザータッチ。しかしその手は何らかの魔力を纏っていたのか…一応服の上からであるにもかかわらず、まるで柔らかな羽毛の束でなぞり上げられたかのような刺激が下着の中を襲う。
我慢を許さない柔らかすぎるその責めに既に抵抗の意思も気力も刈り取られていた身体はひとたまりも無く、気付いた時には既に衣服の中で精を漏らしていた。突き抜けるような射精の快楽と着衣のまま失禁したかのような羞恥を孕んだ開放感、そしてクイーンが一方的に与え続ける安らぎと愛情、脱力感…それらがぐちゃぐちゃに混ざり合い、心地よい疲労感とあいまって意識を暗闇へと誘う。
四方から身体を包む柔らかな肉体の感触に包まれながら、思考は眠りの底へと落ちていった…。
……、
…。
「おやすみなさいませ…♪次に目覚めたらそこはもう私たちの領域…我ら８人の身体と技に、存分に溺れていただきますわ♪」
腕の中で眠りに堕ちた愛しの契約者を抱え上げ、７の少女は語りかける。
気付けば目の前には扉が現れていた。扉の中には桃色の空間…彼女らの領域へと続く道である。
「それではチェシャ猫さん、どうもありがとう。このお礼はいつか必ず…♪」
「にゃは、気長に待ってるニャ♪」
チェシャ猫にそうお礼を言うと、彼女らは扉の向こうへと消えてゆく。そして最後に男を抱えた７の少女が扉をくぐると、それは空に溶けるように消えてしまった。
あとに取り残されたのは店主とチェシャ猫の２人のみ…
「それにしても…貴女もひどい猫ね。よりにもよってハートをパック買いさせるなんて。」
「それを売ってるお前が言うニャ。むしろ４０枚入り構築済みデッキや箱買いを勧めなかっただけでも有情だと思うニャ。」
「確かに箱で買えば１枚はエースが入ってるしね…まぁその代償は高くつくのだけれど。…そういえばずいぶんと前にそれをやった猛者が居たわね。あの子はどうしたの？」
「……まだ帰ってこないニャ。」
「………。」
ねこには、気を付けよう！
「何処ここ…」
「だから不思議の国ニャ。」
自宅で本を読んでいたら突然謎の光に包まれ、気がついたときには見たことも無い場所に居た。
辺りを見渡せば奇妙に曲がりくねった木々、人の背丈を越えるほどの巨大なキノコの森、重力と建築基準法を完全に無視したなんだか良くわからない建造物の数々…をまるで絵本の中のような不思議な世界である。
これが最近本で見た異世界転生というやつだろうか……
………。
いや、確実に魔物の仕業である。
目の前でニヤニヤ笑っている紫髪の猫娘の存在がその証拠だ。
「どういうことなの…」
「おみゃーはこの世界に呼ばれたのニャ。女王様の気まぐれニャ、良くあることニャ。」
よくあってたまるか。
「いや、毎日何人かはやってくるニャよ？…本当ニャよ？まぁ猫に噛まれたと思って諦めるがいいニャ。」
「毎日何人も人が消えてたらこっちじゃ大事件だよ!!」
「にゃふーん。おみゃーら自分たちの時間が絶対だと考えないほうがいいニャ。時間の歪みなんて良くあることニャ。ほれそこにも…」
猫娘の指差した先に目をやると突然、歪んだ時計を模した巨大なオブジェが落ちてきた。
……。
…頭が痛くなってくる。
「まぁこれまでの世界の常識なんて早々に捨て去ることニャ。ここはそういう世界だからにゃーん。」
「帰る方法は無いんですか！？」
「この世界のどこかに居る女王サマの所まで辿り着けば、元の世界、元の時間にたぶん返してもらえるニャ。…でもこの世界は広大、さらに堕落の誘惑や罠、固有の魔物たちがキミの行く手を阻むニャ。大冒険になるニャよ？それでも挑戦するかニャ？」
そうは言ってもそれ以外に変える方法が無いならするしかないだろう。
「…するよ！」
「にゃはは！！その意気だニャ！それでは…笑いあり、涙あり、濡れ場ありの不思議の国の大冒険に、１名サマご招待〜！！」
猫娘が盛大に両手を広げた。
同時に木々がざわめきキノコが跳ね、何処からとも無く安っぽいファンファーレが鳴り響く。さながら昔やったテレビゲームのタイトルコールのようだ。
「…ではでは、改めて自己紹介ニャ。キミの冒険のナビゲーターを勤めさせてもらうチェシャ猫のスピセリアですニャ。よろしくニャ。」
「あ…うん、よろしく…。」
どうも距離感を測りかねる。
…で、まずは何処に向かえばいいのだろうか。
「いや、一人で進むのは自殺行為ニャ。まずは仲間を手に入れるのニャ。近くにショップがあるからさっそく向かうニャ。」
え…、仲間って店で買うの……？
つい突っ込みそうになるが先ほど常識を捨てろと言われたばかりなのでここはとりあえず大人しくついていくことにする。
程なくしてこれまた粘土で作ったような奇妙な造形の建物に着いた。チェシャ猫に促され扉をくぐる。
「あら、いらっしゃい。彼が今日の来訪者の方？」
「そうニャ。」「ども…。」
店主と思しき女性に出迎えられた。つばの広い大きな帽子を目深にかぶった妙齢の美女である。…が、胸元の大きく開いた扇情的なその服装は正直目のやり場に困る。
「そう、ようこそ不思議の国へ。これから長い永い冒険が始まるのだから準備はしっかりしていかなくちゃネ♪ここじゃ中途半端な装備や一瞬の油断で即永住決定＜ゲームオーバー＞だから…。まぁここの住人である私からすればそれもまた幸せだと思うのだけれど…どうかしら、私と一緒にここで魔法道具店をやるというのは？」
そう言って彼女はその豊かな胸を持ち上げて見せた。思わず視線を吸い寄せられるが、先ほどの彼女の言葉を思い出し慌てて目をそらす。
『一瞬の油断が命取り。』露骨な誘惑、既に試練は始まっているのだ。
「……なんてネ♪残念、そう簡単に引っかかってはくれないのね。」
…危なかった。
ここの住人はやはり油断がならないようだ。このチェシャ猫もどこまで信用していいものか……しかし、右も左も分からない異世界では彼女らに頼らざるを得ないのも事実。騙されないよう注意しながら案内を聞くしかない。
「…で、ここで何を買えばいいの？ていうか、そういえば今お金持ってないんだけど…」
在宅中に召還されたのだ、財布も何も持っていない。…そもそもあちらの通貨がここで使えるのか自体疑問だ。
「心配するニャ。ポケットの中を見るのニャ、ちゃんと冒険への挑戦を決めた時に所持金が付与されているはずニャ。」
「…！？」
…本当にあった。ズボンの左ポケットの中に小さな銀のコインが５つ！
「あの…これで買えるものは……？」
「ここから…ここまでね。」
けっこうある。
大きな何かの卵、なんかふにふにとした柔らかい帽子、かわいい少女が描かれたカード等々…
「…どれがいいの？」
「ズバリ即戦力なこのカードがオススメニャ。」
チェシャ猫は商品棚の中でもっとも広いスペースを占めている一角を指差した。
４種類のマークにそれぞれ数字が割り振られたトランプカード、それぞれに異なった女性の姿が描かれている。だがここは不思議の国、もちろんただの絵であるはずも無く。それらはまるで生きているかのように動き、こちらに向けて微笑んでいたり時折手を振ってきたりするのだ。
「ちなみに一点買いよりこっちのカードパックのほうがお得ニャよ？」
「うん。…４枚入りと８枚入りがあるけど？」
「あまり値段が違わニャいからここは８枚入りにしておくニャ。レアカードが当たる確立も高いニャ。」
「じゃあそれで…あ、スート毎にパックが分かれてるんだね…どれにしようかな。」
「それぞれ特徴があるんニャけど現環境ならハート一択ニャ。」
「へー…、じゃあこれにするよ。（……環境？）」
ここは大人しくチェシャ猫のアドバイスに従い、桃色をした８枚入りパックを手に取った。
「はい、コイン２枚ね。どうもありがとう♪」
店主の魔女にコインを２渡し、パックを受け取る。
「ニャは♪ではさっそく開けてみるニャ。」
チェシャ猫の声に促されるまま買ったばかりのそれを開封した。
出てきたのはパッケージどおりハートのトランプカードが８枚。数字は４が２枚、７が３枚、８と１０が１枚ずつ、そしてQが１枚だった。どれも異なる人物の絵が描かれている。
「ニャにゃ!?ホントにレアカード出たニャ！スゴイにゃ!!」
肩越しに覗き込むチェシャ猫のテンションが上がる。彼女が指差すQのカード、手に長大な釈丈を持った柔和そうな美女が微笑んでいた。確かによく見れば他と比べて服装が豪華だ。
「ふふ、ようやくパートナーが決まったのね。良かったわね♪」
「さて、さっそく契約するニャ。そうすればここからはこの娘らが冒険のサポートをしてくれるニャよ。」
「あ、うん。どうやるの？」
「カードを全部重ねて裏面の魔方陣を指でなぞるニャ！」
「わかった！」
さっそくカードを一纏めに重ね裏返すと確かに魔方陣のような紋章が描かれていた。言われたとおり右手の中指で陣をなぞる。
すると紋章に光が走りカードが輝きだした。
「うわっ！？」
光ったカードははじけるように手の中から離れ床に散らばる。そして…
ボボボン…！！
桃色の煙を噴き上げて爆発した。
………、
……。
…煙が晴れてゆく。
視界が開けるとそこにはカードは無く、代わりに８人の少女が立っていた。
そして気付く。彼女らはそれぞれあの８枚のトランプに描かれていた人物と同一であることに。
１６の目がこちらを向く。それは歓喜と情欲に潤んだ…捕食者の目だった。
「こ、これはどういう…!?」
「にゅふふ……ニャ〜ｯはっはっはっはっは!!」
チェシャ猫に説明を求めようと振り向くと、彼女は堪えきれなくなったかのように噴きした。
「にゃはは！本当に契約してしまったニャ!!しかもハートのトランパート８人と！！」
まるで悪戯が成功した子供のような、しかしそう表現するにはあまりにも悪意に満ちた笑顔……まるで自分が何か取り返しのつかない失敗をしてしまったかのような言いようの無い不安に襲われ顔を青くする。
「だ。騙したのか!?」
「嘘は言ってないニャよ？その娘達はちゃーんとおみゃーに力を貸してくれるニャ。…ただし誰もタダでとは言ってないニャ。」
チェシャ猫の言葉に呼応するように、カードから現れたトランパート達がニンマリと笑みを深くする。
「契約の対価としておみゃーにはこの全員に精を供給する義務があるのだニャ。にゅふふ…快楽拷問が大好きなトランパートの中でも、とびきり好色で淫乱なハートのクラスが8人、しかもそのうち１人は絵札付き！力の強い魔物程吸精量は増すものニャから……楽しい旅になりそうだにゃあ？」
ニタァ〜と意地の悪い笑みを浮かべたチェシャ猫が顔を覗き込んだ。同時に右手の中指に光が灯る。
目を向けるとそこにはいつの間にかハート型の宝石をあしらった指輪がはめられていた。
「契約の証ニャ。…あ、外そうとしても無駄ニャよ？契約は永久、二度と外せないニャ。」
彼女の言うとおり、それは指の骨と物理的に結合してしまったかのようにびくともしない。
「よ、よくも騙したな!！」
「ニャはは！悪いニャ、これがチェシャ猫の性なのニャ♪まぁこれも猫に噛まれたと思って諦めるがいいニャ♪」
「騙しただなんて…つれないことを謂わないで下さいませ♪私達は確かに拷問を嗜んでおりますが、それも愛情表現の１つの形なのですよ？一度私に身を預けてくだされば…すぐに騙されて良かったと言わせて差し上げますわ♪」
背後からトランパートの１人が覆いかぶさり囁きかけてきた。７の数字を持つ３人のうちの１人だ。巨大な胸が背中で潰れる感触と耳元に感じる吐息に背筋が痺れた。
「そうそう、泣くほど良くしてあげるから…覚悟してよネ♪」
「いっそもう元の世界は諦めて…ここの住人になっちゃおうよ？きっとこっちの方が楽しいし気持ち良いよぉ♪」
続いて４の数字を持つ二人が両腕に抱きついて来る。更に他の数字のトランパート達も次々と集まり…
そして最後にクイーンが……目の前に突然現れた。
「…………♥」
自分がパックから引き当てたトランパート達は皆、例に漏れず絶世の美女や美少女である。その美しさはどこか現実離れしていると感じさせる程だ。(ここは不思議の国なので文字通り現実から離れてしまってはいるのだが…)
しかしその中でもこのクイーンはどこか格が違うように感じた。
見上げる程の長身、煌めく桃色の長髪を腰の下まで流し、全てを赦すような慈愛に満ちた微笑みを湛える彼女はその前に立てば自ら膝を折ってしまいそうな神々しさすら感じさせる。
…それが圧倒的実力に裏打ちされたプレッシャーの一種であることには、この時はまだ気づけなかったのだ。
そしてその彼女は何も言わず、ただ手を伸ばし顔をその胸にかき抱こうとしてきた。彼女の気に当てられていた体は避けることも抵抗することも出来ず、ただそれを受け入れてしまう。
ぞっとする程滑らかな布地に包まれたその谷間に後頭部まで呑み込まれた瞬間、下腹部の筋肉が勝手に収縮し同時に頭の奥で光が弾けた。
「あっ……あっ…あーっ…………！？」
体がふわりと浮き上がるような感覚、股間の奥の方で生まれたじんわりとした快感がみるみるうちに膨らんでゆく。
「い゛っ………お、あぁっ゛…………」
「…………♪」
天井知らずに上り詰めてゆく感覚に恐怖すら覚えるが、同時に強制的に流し込まれる安心感と心地よさがそこから抜け出す事を許さない。
そしてクイーンはその様を見て満足そうに微笑を深くするのみ…。
「あは、おっぱいの感触で脳イキしちゃってるねぇ♪そのまま甘えん坊さんに調教されちゃえ♪」
「で、でもそのままじゃ可哀想だから…ちょっとだけ手伝ってあげるね？ほら、パンツの中にお漏らししちゃお？」
左右から両の腕を拘束している４の少女たちの手が下半身に伸びた。
内腿から股間を通り臍へと抜ける…触れるか触れないかのフェザータッチ。しかしその手は何らかの魔力を纏っていたのか…一応服の上からであるにもかかわらず、まるで柔らかな羽毛の束でなぞり上げられたかのような刺激が下着の中を襲う。
我慢を許さない柔らかすぎるその責めに既に抵抗の意思も気力も刈り取られていた身体はひとたまりも無く、気付いた時には既に衣服の中で精を漏らしていた。突き抜けるような射精の快楽と着衣のまま失禁したかのような羞恥を孕んだ開放感、そしてクイーンが一方的に与え続ける安らぎと愛情、脱力感…それらがぐちゃぐちゃに混ざり合い、心地よい疲労感とあいまって意識を暗闇へと誘う。
四方から身体を包む柔らかな肉体の感触に包まれながら、思考は眠りの底へと落ちていった…。
……、
…。
「おやすみなさいませ…♪次に目覚めたらそこはもう私たちの領域…我ら８人の身体と技に、存分に溺れていただきますわ♪」
腕の中で眠りに堕ちた愛しの契約者を抱え上げ、７の少女は語りかける。
気付けば目の前には扉が現れていた。扉の中には桃色の空間…彼女らの領域へと続く道である。
「それではチェシャ猫さん、どうもありがとう。このお礼はいつか必ず…♪」
「にゃは、気長に待ってるニャ♪」
チェシャ猫にそうお礼を言うと、彼女らは扉の向こうへと消えてゆく。そして最後に男を抱えた７の少女が扉をくぐると、それは空に溶けるように消えてしまった。
あとに取り残されたのは店主とチェシャ猫の２人のみ…
「それにしても…貴女もひどい猫ね。よりにもよってハートをパック買いさせるなんて。」
「それを売ってるお前が言うニャ。むしろ４０枚入り構築済みデッキや箱買いを勧めなかっただけでも有情だと思うニャ。」
「確かに箱で買えば１枚はエースが入ってるしね…まぁその代償は高くつくのだけれど。…そういえばずいぶんと前にそれをやった猛者が居たわね。あの子はどうしたの？」
「……まだ帰ってこないニャ。」
「………。」
ねこには、気を付けよう！
17/06/22 11:24更新 / ラッペル