連載小説
[TOP][目次]
諸刃の剣
-スタート地点-


ユキア「すまない、少々待たせたね。準備はいいかい?」

横に並べたスタリオンの運転席からドア越しに話すユキア。

渉「…い、いえ…。」
ユキア「驚いたかい?ははっ、そういえばボクの愛車を伝えてなかったね。ご察しの通り、これはスタリオン 4WD"ラリーカー"だ。」

ユキアの愛車、それはただのスタリオンではなかった。
スタリオン ラリーカー。
大きく切り詰められたフロントマスク。
オイルクーラーと一体型になったリアスボイラー。
特徴的なイエローカラー。
"それ"らは一般車ではないという事実を嫌という程物語っていた。

セルフィ「そんなバケモノを…一体どこから…!?」
ユキア「バケモノ…か。確かに的を射ている。しかし、事実はコイツはホンモノじゃない。中身まで精巧に作られたレプリカだよ。」
渉「レプリカ…!?」
ユキア「でも、あくまでレプリカだが、ホンモノを忠実に再現している。侮らない方がいい。」
セルフィ「くっ…!」
ユキア「まぁ…走ってみればわかる。それと、このコースはとても短い。その上途中所々にキャッツアイがある。気をつけてくれ。ゴールは麓のトンネル。いいかい?」

ユキアの言葉にセルフィが頷く。

ユキア「よし、君!スタートの合図を頼んでもいいかい?」
渉「…!…構いませんよ。セルフィ…気をつけろ…!」
セルフィ「…うん、絶対負けない…。」

セルフィがそう答えると、渉は2台の車の前へと移動する。

渉「…カウントいきます!!」

ウォンッ!!ウォンッ!!

渉「5!!」

ウォンッウォォンッ!!

渉「4!!」

セルフィ(わたしは負けない…!例えラリーカーであっても!!)

渉「3!!」

ユキア(さぁ…試させてもらうよ…。チーム"鶯"の力を…。)

渉「2!!」

ウォォンッ!!ウォォオオオンッ!!

渉「1!!」

ウォォオオン!!

渉「ゴォォ!!」

ギャアアアアア!!!!

2台とも四輪すべてから白煙を吐き出しながらスタートを切る。

渉「セルフィ…頑張れよ…。」

渉が零した励ましは、あまりにも小さく儚く
2台が鳴らすエンジン音に、虚しくかき消されるのであった。

ユキア(まずは…どうでるかな…?)

2台並んだまま加速する。
ユキアはセルフィのセリカの様子を伺う。

セルフィ「同じ系統のクルマに…加速で負けてられない!!」

セルフィはアクセル全開で鼻先をスタリオンの前に出す。

ユキア(やはりそう来たね…。)

先を行くセリカをさも平然と見送るユキア。
スッとセリカのリアテールにスタリオンを滑り込ませる。
そして、第一コーナーが2台に迫る。
最初にセリカがブレーキングに入り、すかさずスタリオンがブレーキングを始める。
緩い右コーナーを流し気味に突っ込む。

ユキア(へぇ…走り方は理にかなってる…。4WDのセリカと峠という場所にピッタシハマる走りだね。)

スタリオンもまた、流し気味に突っ込みセリカのテールに張り付く。
そして、2台共に綺麗にクリアしていく。

ユキア(次はヘアピンだ。どうかな?)

一つ目のヘアピンに差し掛かる2台。
ブレーキングをし、フェイントモーションをかけながら突っ込む。
2台は同じようにヘアピンを折り返していく。

ユキア(フフ…見せてもらったよ…。君はボクには"勝てない"。)

ユキアの口角が小さく歪む。
2台は拮抗したまま、次のヘアピンへと咆哮をあげる。
シフトダウンによりエンジンが唸り、ブレーキングによってディスクが赤く染まる。
スタリオンはセリカの横っ腹スレスレまでノーズを近づける。

セルフィ(くっ…!息苦しい…!)
ユキア(君のドライブは確かに上手だ。でもね…。)

立ち上がりでセリカが僅かに姿勢を崩す。

ユキア(非常に脆い。)

すかさずスタリオンが姿勢を乱したセリカの横に突っ込む。

ユキア(継ぎ接ぎが目立ち、ボクと同じラインにに見えて、僅かに君はぶれている。)

そのままフルスロットルの加速でセリカを抜き去る。

ユキア(例え僅かな差でも、コンマ1秒を争うこの世界では君の脆さは実に大き過ぎる。)

前へと出たスタリオンは第三ヘアピンへと突っ込み、セリカとの差を少しずつ広げる。

セルフィ「そんな…!」

セルフィは絶望に顔を歪める。必死で食らいつこうとするが、僅かに差が開いてしまう。少しずつだが、確実に。

ユキア(正直ボクのスタリオンはじゃじゃ馬だ。少しのミスが大きな代償を産んでしまう。だからこの車に継ぎ接ぎは通用しない…。ドライバーの力量がなければ、このスタリオンというクルマは本心を出してはくれないんだ。)

確実なレコードラインを描きながら、繊細にスタリオンを操り、コーナーを抜けるユキア。

ユキア(スタリオンに比べたら、セリカというクルマは実に従順だろうね。だが、そこが脆さに繋がるんだ。クルマが従順では、ドライバーはそこに頼りきりになる。それでは本当の強さは手に入らない。あえてクルマに裏切られることが速さに繋がるんだ。君はそこを怠り、僕との差になってしまった。だから君は…!)

ユキア「ボクには勝てない!!」


ユキアは叫び、そのままの勢いのまま第四、第五とヘアピンを難なく通過し、確実にマージンを広めた末、ゴールであるトンネルをくぐるのであった。

セルフィ「まけ…ちゃった…。」

悲痛に響くセルフィの声、大きく開いたマージンがその現実にまた拍車を掛けてセルフィに重くのしかかるのであった。

セルフィ「わたる…ごめんね…。」


セルフィは、小さく、セリカのコックピットで呟くのであった…_______
















15/05/03 21:41更新 / 稲荷の伴侶
戻る 次へ

■作者メッセージ
どうも、稲荷の伴侶です。

今回は2台ともラリーカーとして生まれてきたハイパワー4WDですね(`・ω・´)
そしてそれを操る2人もまた似たような4WD独特の走りをする。
だからこそどんなに小さな差でも、大きな差になってしまう。

いやぁ…疲れた…_( _´ω`)_


次回、因縁のリターンマッチ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33