連載小説
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第二話
ルウの朝は早い。水汲みに掃除洗濯、薪割りに料理の下ごしらえと、朝にやらねばならない仕事は山ほどあるからだ。
共同生活を営むこの場所では何か一つが滞ると全員の迷惑になってしまうし、何よりも朝のうちにそれらが終わらなければ、日中に修行する為の時間を削らなければならなくなってしまう。
だから必然的に、ルウは毎朝日が昇る前に目を覚ますという生活を送っていた。

「んんっ……」

だが、今日は妙に身体が気怠い。風邪でも引いてしまったのだろうか……少年はそんな事を寝ぼけた頭で考えながら、隣にある柔らかな体に抱き着いた。
あったかくて、すべすべしていて、ふかふかで、いい匂いで――いつまでも、いつまでもこうしていたくなってしまう。
そんな夢見心地な少年の耳に、聞き覚えのある、どこかのんびりとしたような声が飛び込んできた。

「うふふ、ルウくん起きましたか〜?」
「…………え?」

そこでようやく、少年は大きな違和感に気が付いた。
自分が裸で布団の中にいるという事。
何時もならば一人で寝ているはずの布団の中に、自分以外の存在がいるという事。
それは自分と同じように一糸纏わぬ、師匠の一人だという事。

そして――すでに日は傾き、オレンジ色の夕日が部屋の中に差し込んできているという事。

「ん〜、もう少し寝顔を眺めてもいたかったですけど、寝起きのぼーっとしてるルウくんも可愛いですね〜♪」
「わぷっ!?」

むぎゅうっ、とその胸に顔を押し付けるような形で抱きしめられながら、少年は昨晩自分に起きた出来事を思い出す。
蘇ってくる昨晩の記憶。少年の顔はそれと比例するようにどんどんと赤くなっていく。
あわあわと現在の状況にパニックを起こしながらも――今日一日を寝過ごしてしまったという一点に思い至ったルウの顔から、さっと一斉に血の気が引いた。

「あっ、あのっ、メイ師匠!?今日の修行は、どうなって……!?」
「朝に様子を見に来たランが、慣れない事の後で疲れているだろうからって、今日はお休みにしてくれましたよ〜?」
「…………え?」

その言葉に、少年の動きが一度止まった。

「え、え……?ラン師匠は、この事を知ってるんですか……?」
「うふふ。勿論です〜、ルウくんの修行メニューは、三人でちゃーんと話し合って決めてるんですから〜」

えっへん、と胸を張る師匠を他所に、少年の脳裏には昨日の夕飯の席でどこか不自然な態度だった残り二人の師匠達の姿が甦る。
という事は、すでに昨晩の出来事はランにも、リンにも知られているという事で……

「と、いう事なので〜、いつもの修行は明日からにして、今日はずーっと私といちゃいちゃしましょうね〜、ルウくんっ♪」
「え、メイししょ……んむぅっ!?」

だが、それについて深く考える前に。唇を塞がれた少年の思考は、差し込まれたメイの舌によって溶かされてしまったのだった。





――――――――――――――――――――





「ん……」

次にルウが目を覚ました時には、完全に日が落ち、部屋は暗闇に包まれていた。
頭の下には、ふかふかとした柔らかな毛皮の感触。温かな体に抱きしめられている感覚。流石に二度目の目覚めではパニックを起こさなかった。
目の前には、幸せそうな顔で自分を抱きしめながら穏やかな寝息を立てているメイの姿がある。

今日一日の目覚めていた時間のほぼ全てをメイと交わりながら過ごした少年だが、空腹を覚えてはいない。交わりながら、メイが何時の間にやら枕元に置かれていた果実などを口移しで食べさせていたからである。
だが、流石に喉が渇いていた。一日中精液を絞られ、腰を振り続け。そうでなくても寝起きは喉が渇くものだ。律儀にメイの裸に顔を赤らめつつ、目を覚まさないようにそっとその腕の中を抜け出す。そうして、昨晩メイに脱がされたまま放置されていた衣服を身に纏い、台所へ向かった。

「ふぅ……」

汲み置きの水で喉の渇きを癒した少年は、そういえば、と今日一度も外の景色を見ていない事を思い出す。
毎日欠かさずにいた稽古を一日休んでしまうと、それだけでとても長く稽古をしていないような気がしてしまって……せめて稽古場の様子ぐらいは一度見てからまた寝ようと、その足は普段師匠達と稽古に励んでいる庭に面する廊下へと進んでいた。

そうして廊下の角を曲がり、庭が視界に入ったところで、少年の足がピタリと止まった。

「あ……」

廊下の縁に腰かけたランが、どこか物悲しそうな表情で盃を片手に夜空に浮かぶ満月を眺めている。
月下の虎というのは掛け軸の題材としてもよく使われるテーマの一つだが……芸術などには縁の無い少年にも、何となくその理由が分かった気がした。
それほどに、憂いを帯びた瞳で月を眺める彼女の姿は、絵になっていた。

「……ん、少年か」

それに気が付いたランが、少年の方を振り向いた。
口調はもう、昨晩の突き放すようなものではない。既に呑み始めてから時間が経っているのか、正面からみたその顔には薄く朱が差している。

「ちょうどいい、少し話したい事があったんだ。まぁ、座れ」
「は、はいっ」

言われるままに、その隣に腰を下ろす。いつものような師匠に戻ってくれた事は嬉しいが、メイの話では今まで自分に起きた出来事を知っていて……しかも、今朝などはメイの隣に裸で寝ている様子を見られてしまっているらしいのだ。恥ずかしさから、どうしても返事がぎこちないものになってしまった。
……だが、師匠が話を始める様子はない。盃をちびちびと傾けながら、しばらくの間ただ静かに月を眺めていた。
ルウもそれに倣って月を見上げる。綺麗な月だった。欠ける事ない円を描く黄金を、薄く細い数筋の雲が見事に飾り立てていた。

「……少年も、飲むか?」
「え!?いえっ、遠慮しておきます!」
「はは、少年は真面目だな」

そんなやり取りが終わると、二人の間にまたしばらくの静寂が訪れる。
少しして、盃が空になったランが、またポツリと口を開いた。

「……その、な。私達は、少年を旅に連れて行ってやりたいと思っているんだ」
「旅に……ですか?」
「ああ」

ランは隣に座った弟子に、滔々と語り始めた。
拳法家というものは、その半数近くがその最盛期を一瞬にして終える。理由は簡単、『理』を尊ぶ拳法の悪癖として、己の身に着けた技術を過信し、それに溺れてしまうからだ。
拳法に限らず、全ての武の道は心・技・体全ての鍛錬無くしては完全たり得ない。だというのに、多くの拳法家はその技ばかりを過信する。そうして拳法の全てを極めたと思いあがった拳法家は、それさえ磨き続ければ己は強くいられると体力の錬成を怠り。そのような心持ちで心が鍛えられる筈もなく、最後には、頼っていた技さえもそれにつられるように衰えてゆく。
彼女達はそうした拳法家達を、何人も、何人もその目で見てきた。

だから、彼女達はまだ未完成な少年が大きくなる前に、広い世界を知って欲しかった。
世界には驚く程に強い者達が居て、その上には上が居て。強さを求める道には果てがなく、修行の道には終わりが無いのだという事を、その目と身体で実感して欲しかった。

「だが……当然ながら、旅には危険も多い」

いつ野盗に襲われるかも分からない。流行り病や、飢えが襲い掛かってくるかもしれない。
彼女達だけならば何とでもなる。無頼者如きに遅れを取る気は毛頭ないし、魔物は一般的な病など受け付けない。数週間程度ならば飲まず食わずでも平気なように訓練もしてある。
しかし、彼女達の弟子であるルウは違う。まだ幼い人間である彼は、彼女達と比べれば驚くほどにか弱い存在で……育ち盛りの彼に、ひもじい思いをさせるなどという事も言語道断だ。

だが。彼が房中術を修め――西洋ではインキュバスと呼ばれている、魔物に近い存在の人間になれば。

「そうすれば、私達と同じ様に病に侵される事も無い。最悪、食べ物が手に入らない期間が出来たとしても、交わりを行えばそれで事足りるようになる。……少年を、旅に連れて行ってやれる」
「ラン師匠……」

月を見ながらそう言うランの目は、少年の知らないどこか別の場所を懐かしむように、すぅっと細められていた。

「……ラン師匠も、昔は旅をしていたんですか?」

ランは微笑みながらこくりと頷き、懐かしむような声で答える。

「ああ。日の国や大陸の西側はもちろん、魔王城にだって行った事があるんだぞ」
「……魔王城、ですか?」
「そうだ。……懐かしいな。魔王軍の腕利きだというオーガと試合を始めたら、三日三晩殴り合っても決着が付かなかったんだ」
「っ!?」

師匠と互角に戦う相手がいる。今まで考えもしなかった、そんな事実を本人の口から語られた少年の身体に衝撃が走った。
そうして、先程彼女が語った事の一片が、ようやく少年の頭の中で現実味を帯びてきた。
――本当に、本当に世界は広いのだ、と。

「そ、それで、その後はどうなったんですか!?」
「流石にこれ以上は危険だという事で、周囲に無理矢理止められてな。担ぎ込まれた病室で『次に会った時こそ決着をつけてやる』などと笑いながら酒を酌み交わしたものだ。……本当に、懐かしい。魔王城では珍しく、日の国の者のような名前をしていたから、よく覚えている」

その後病室で酒を飲んでいた事がバレて、二人して怒られたんだがな……。そんな風に苦笑混じりで語られる話の中の彼女の姿は、少年が知っている師匠としてのものよりも、少しばかりやんちゃなように思えた。いつもどっしりと落ち着いているこの師匠にも、そういう時期があったのだろうか。
ランの横顔を見上げながらルウがそんな事を考えていると、その視線に気が付いたランにぽんぽん、と頭を頭を撫でられた。

「と、メイに頼んで房中術を教えて貰ってるのは、そういう訳なんだ。……黙っていて、本当に済まなかった」
「えっと……大丈夫です。どんな修行でも、僕は師匠達のこと、信じてますから」

きっと事前に話してくれなかったのは、まだ幼い自分を徒に緊張させてはいけないと配慮してくれたからなのだろう。
澄んだ目で自らを見上げる弟子の頭をそうか、と言いながら再び撫でて。ランはその顔に嬉しそうな微笑を浮かべた。

「少年、私からの話は終わりだ。……明日から、昼間はまたいつも通りの修行だぞ」
「はいっ!」
「うん、いい返事だ。これで私の話はもう終わりだ。……今日は、もう寝なさい」
「はいっ。ラン師匠、おやすみなさい」
「ああ。おやすみ、少年」

そう言って、ルウは自分の部屋へと戻ってゆく。メイが待っているであろう、彼の部屋へ。
その姿が見えなくなったのを確認してから……不意に、ランがその背を向けたまま、廊下の曲がり角の暗がりへと声を投げかけた。

「……どうしたんだ、リン。そんな所に隠れて」
「別に。ここで月を見ようと思ったら、二人が話してて……出ていくタイミングを見失ってただけよ」

声のかけられた暗がりから、気まずそうにやや顔を赤くしたリンが現れた。
ランは一つ頷き、リンに向かって予備の盃を一つ差し出す。

「ああ、今日はいい月だからな。……お前も飲むか?」
「ええ。そうさせて貰おうかしら」

並んで腰かけ、手には盃。酒を互いに注ぎあい、二人揃って夜空に浮かぶ満月を見上げる。
どちらともなくこつん、と互いに盃を当て。ちびちびと、舐めるように少しずつ酒を味わってゆく。

「……綺麗な月ね」
「……ああ、綺麗だな」

――それに酒も旨い。ああ、いい夜だ。

「リン。混ざりたいなら、お前も行ってきていいんだぞ」
「まさか。ランこそ、今からでもあの子の所に行きたいんじゃないの?」
「……何を。それこそ、まさかだ」

そんな風に、笑いながら酒を酌み交わす。




だが。そんな二人の胸に宿る、チクチクと胸を刺すような痛みは――少しも、和らいではくれなかった。





――――――――――――――――――――







「今の、何がダメだったか分かる?」
「えっと……最後から三手前の突きです。下方への注意が疎かになっていて、受けながら腿で崩されるのを防げませんでした……」

地面に仰向けに転ばされ、目の前に師匠の小さな拳を突きつけられた体勢のルウが答えた。

「うん、よろしい。それじゃ、次はもうちょっと速度を落としてやるわよ」

その答えに満足げに頷いたリンは、その拳を開いて少年へと差しのべる。

あれから数日後。意外にも、それ以降昼の彼女達の生活に目立った変化は現れていなかった。まだ幼いルウを必要以上に戸惑わせる事がないよう、胸中はどうであれ全員が今まで通りのように振舞うという約束が彼女達の間で交わされていたからだ。
だから今行われているのも、いつも通りの組手の練習。実戦よりも速度を落とし、行動に思考する時間を取る事で、より効率的に身体を動かす思考を養う訓練だ。感覚としては、詰将棋に近い。
今日はランが麓の村まで買出しに出かけており、ついでに住民の力仕事を手伝う為明日まで帰ってこない。だからルウは站椿などの基礎訓練を終えた後、ずっとこうしてリンとの組手を行っていた。

――ここまで速度を落とせば、この子は殆ど隙を見せないのよね。

ゆっくりと迫ってくる拳を、同じ速度の自分の手の甲で払いつつ、リンは考える。
それはつまり、この速度ならば自分達に近いレベルの思考が出来ているという事。彼がこのまま修行を積み、反射的にこの動きが出来るようになれば。……しかもそれは、そう遠くない未来の筈だ。
そんな事を考えながら、リンは少年の膝裏を狙った蹴りを放つ。腿と呼ばれる、相手と組み合った状態からの技も多く存在する霧の大陸の武術独特の足技。先程と同じ様に上へ意識を集中させてから仕掛けたつもりだったが、ルウの視線が僅かに下がった事から、攻撃をきちんと認識している事が伺える。速度が落ちたとはいえ、先程の失敗を繰り返していない。
これが自分の弟子の何よりの強みだと、リンは思っていた。ルウは素直で、教えられた事や指摘された事を渇いた布のように吸収してゆく。余計な癖のついていない、まっさらな状態で自分達の弟子になったのも良かったのだろう。

「あ、うわっ!?」

だがそんな少年は、リンの足を視界に入れたまま不自然に動きを硬くし――結局、そのまま先程と同じ様に転ばされてしまった。

「ルウっ!?」

慌てたのはリンだ。間違いなくルウは体勢を崩そうとしている攻撃に気が付いていた。
気が付いていたのならば、防ぐ方法などいくらでもあったはずなのに。
倒れた少年の傍へと駆け寄り、その顔を覗き込む。

「大丈夫?その、メイとのアレで、疲れてるんじゃ……」
「あ、いえ違います!その、単に僕の注意不足で、二回同じ失敗を繰り返してしまって……」
「嘘言いなさい。ちゃんと攻撃が見えてたのは分かってるのよ?どこか調子が悪いの?」
「いえ、その……」

ルウの事だ、性格的に何か不調を抱えていてもそれを表に出さず、無理をしているとしか考えられない。そう考えて原因を聞き出そうとするのだが、少年は歯切れの悪い言葉を返すばかり。心なしか、顔も赤くなっているように見える。
どうしたものか、とリンが不安を募らせていると。

「ルウくーんっ、そろそろ私との訓練のお時間ですよ〜っ♪」

楽しげな声と共に両手に棍をもったメイが、その豊かな胸を弾ませながらこちらに向かって駆け寄ってきていた。

「……」

その姿を見たリンの心が、微かにざわつく。理由は自分でも分からない。ただ、彼女が楽しそうにルウの寝室へと向かう背中を見送って以来、時折こうして胸に微かな痛みが走るのだ。
そうして地面に倒れている少年と、それに詰め寄っているリンの二人の姿を見たメイは、はたと立ち止り。

「もう、リンったらこんな昼間からお外で襲い掛かるなんて大胆ですね〜……♪ルウくんが家の中じゃ興奮しない変態さんになったらどうする気ですか〜?」

思いっ切り誤解をしていた。

「ばっ……!?違うわよ何言ってるの馬鹿じゃないの!?」
「あれ、違うんですか〜?」
「違うに決まってるでしょうが!これは――」

一瞬で顔を真っ赤にして早口に捲し立てるリンに対し、きょとんとした顔でさも意外そうに返すメイ。
かくかくしかじか。そんな彼女に、リンが経緯を説明する。

「――と、いう訳なの。メイも不自然だと思うでしょ?」
「んー、確かにルウくんらしくないミスですね〜♪」
「……なんで笑ってるのよ?」

一通りの話を聞いたメイはそう言いながらも、言葉とは裏腹に意味深な笑みを浮かべていた。
怪訝な顔をするリンをよそに、メイは依然地面に倒れたままのルウをよいしょ、と抱え上げて立たせる。

「ねえ。ルウくん?―――……ですよね〜……?」

そうして、何事かを少年の耳元で囁いた。その内容はリンの位置から聞き取れるものではなかったが……囁かれた本人である少年は、少し躊躇うような様子を見せた後、その言葉にこくりと頷いた。

「うふふ。さぁ、原因は分かりましたし、元気に修行の続きです〜♪」
「え、ちょっと、何だったのよ!?私にも教えなさい!」
「うふふ、リンにもすぐに分かりますよ〜♪」

そう言って、メイはルウを抱き抱えたまま背を向けてしまう。離れてゆくルウが、申し訳なさそうに一度こちらを振り返り……そうして、二人の姿は見えなくなってしまった。





――――――――――――――――――――





「本当に、何なのよ……」

ちゃぷん、という水音と、いつもの強気な口調とはまるで逆の弱弱しいリンの台詞が浴室の中に響いていた。
元は大勢の修行僧が暮らしていたであろうこの寺の浴室はそれ相応に広い。一人であれば勿論、今この寺で過ごしている全員が一斉に入っても楽々両手足を伸ばして湯船に浸かる事が出来るだろう。
だが、リンは基本的に弟子であるルウは元より、それがランやメイであっても誰かと共に湯船に入るという事をしない。彼女達火鼠は、大量の水に触れると精神を高揚させる効果を持つ毛皮の火が一時的に消えてしまい、本来の気弱な性格が表に現れてしまう。それを他人に見られたくないからだ。

ぽかぽかと温かい湯に全身を包まれながら、リンは泣きそうな目で先程の様子を思い出していた。
房中術を始めた日から、あの二人の仲は急激に近くなった気がする。元より人懐っこいメイと素直なルウの仲は良かった。だが、今日のように二人だけで通じ合っているというか、以心伝心というか……そういったやり取りが増えたような気がするのだ。
それはいい。自分だって、メイに彼を任せるという事は同意した事だ。メイの話を聞けば毎晩恋人のように肌を重ね合わせているというのだから、それは特別な信頼も生まれるというものだろう。

だが自分だって、彼が求めてくれれば……そんな事を考えてしまう自分は、ひょっとするとあの弟子に心のどこかで惹かれてしまっているのかもしれない。
こんな小さい子を、などともっともらしい事を言っておきながら。本心は、あの子がメイに夢中になるのを恐れていただけなのかもしれない。

「……でも、もう……」

ぽつりと、呟く。
でも、もう遅いのだ。リンは湯船に沈む自分の肢体を見る。リンのように胸が豊満な訳でもなければ、肉付きがいい訳でもなく。あまつさえ身長は僅かに彼よりも高い程度の、子供のような身体。
毎晩のようにメイの身体を貪っている彼が、今更自分を求める事など――

「お邪魔しま〜すっ♪」
「っ!?」

リンが、そんな物思いにふけっていると。
突然、浴室の扉が勢い良く開かれた。

「メイ師匠、お邪魔しますってどういう……って、リン師匠っ!?」

そこに居たのは、一糸纏わぬ姿のルウとメイの姿。
互いを視認したルウとリンが慌てて自分の身体を両手で隠し、その顔が真っ赤に染まる。

「しっ、失礼しまし……わぷっ!?」
「まぁまぁルウくん、そんなに焦らないで下さい〜、お風呂場で暴れたら危ないですよ〜?」

そのまま脱衣所へ回れ右をしようとするルウ。だがしかしそれは己の豊満な肉体を惜しみなく晒しているメイに抱き留められ、阻止されてしまった。
暴れるも何も、力で少年を遥かに上回るメイに抱きしめられてしまっては、抵抗する事すらできない。そのまま少年はお湯をかけられ、湯船に入る準備を整えられてしまう。

「な、何しに来たのよ……?」
「ねぇリン。今日、ルウくんの様子がおかしかった原因って分かりましたか〜?」
「メ、メイ師匠っ、それは……っ!?」

震える声で尋ねるリンに、メイは質問で返す。
分かる訳がない。それが分からない事をきっかけにして、今の今までこうして自分は一人で悩んでいたのだ。
何かを言おうとしている少年の口を胸に埋めさせて封じながら、楽しそうにメイは言葉を続ける。

「うふふ、ルウくんったら、リンの足に見蕩れちゃって動けなかったんですよ〜?」
「……っ!?」

そうなのだった。これまでの少年にとって、師匠達とは師であると同時に、親であり、姉であり、家族のような存在だった。敬愛こそすれど、異性として意識する存在ではなかった。
だが、メイと一線を越えてしまった事により、ルウは男として、自分の師匠達がどれだけ魅力的な女性であるかという事に気が付いてしまったのだ。
いけないとは思っていても、気が付けば視線が彼女達を追いかけてしまっている。本当に、無意識のうちに。性に目覚めたばかりの少年にそれをコントロールする事は……難しかった。
それがとうとう、目に見える形で修行中に現れてしまったのだ。

「っ、ぷはっ!メイ師匠、約束が違いますっ!?昼の修行が終わったら、その……」

だから、メイに今日の事がバレてしまった時は、恥ずかしくありながらも……半分、心の中で安堵していた。
メイが上手く、あの場を誤魔化してくれたから。その後で、『お昼の修行が終わったら、ルウくんのしたい事をさせてあげます〜♪』と、そう約束してくれたから。

「そうですよー?ルウくんの『したいこと』をさせてあげるんです〜♪」
「ちょ、ちょっと、メイっ!?」

慌てるリンを気にする素振りもみせず、メイは少年を抱きかかえたまま、ざぶざぶと湯船の中に入ってくる。
そうして身体の大事な部分のみを辛うじて手足で隠しているリンを湯船の端に追い詰め、あわあわと言葉を失っている少年をそれと向かい合わせながら、耳元でささやき始めた。
少年は勘違いをしていた。日中の修行が終わった後、メイがリンにこの事を内緒にしたまま、自分の性欲を収めてくれるのだと思っていた。
だが、メイが言った言葉は――本当に、本当に読んでそのままの意味だった。

つまり。

「ねぇ、ルウくん?ルウくんは、リンにもお相手して欲しくなっちゃんたんですよね〜?」
「……っ」
「あのすべすべの足を撫でまわしてみたいんですよね〜?私と違う、腕の中にすっぽりと納まりそうな小さな身体も抱いてみたいんですよね〜?いつも強気なリンが、どんな姿で乱れるのか……見てみたいんですよね〜……?」

少年からの返事はない。ただ、困ったように視線を彷徨わせながらも……その顔は、囁かれる言葉をはっきりと想像してしまったかのように、真っ赤に染まっていた。
そもそも、違うのならば、ただ一言違うとそう言えばいいだけの話。
だが、その答えを躊躇っているということは。

自分を――求めてくれて、いるのならば。

「……ルウ。本当に、私ともしたいの……?」

いつもとは違う気弱げな声のリンが、ルウの顔を下から覗き込みながら訪ねた。
常ならばきりりと強気な印象を受けるその目尻は垂れ下がり、不安さの中にもどこか雄を誘うような……何かに期待しているような、そんな目で。

「……っ」

そうして、それを見たルウは気が付いてしまった。
楽しそうにしているか、不安そうにしているかという違いはあれど……この目は、メイが自分と交わっている時のそれと、本質的には同じものだと。

つまり――リンも、発情しているのだと。

「は、はい……っ!?」

それに気が付いてしまったから、少年は素直に頷いてしまった。
そうしてこくりと頷いた次の瞬間、ルウの唇は音もなく近づいてきたリンのそれによって塞がれていた。
メイのように、無邪気にじゃれつくようなキスではない。少しずつ自身の不安を取り除くように、ちゅ、ちゅと軽く唇を触れさせては離れるのを繰り返す。

「んっ、ちゅ……っ」

そうして甘えるようなキスを繰り返しながら、その白くほっそりとした指を、既に天へ向いてそそり立っている肉棒へと沿わせ始める。メイの大きくふかふかとした手とはまるで違うその感触に、少年の口から吐息のような声が漏れる。
たまらず、少年は同じような背丈の師匠の腰に手を回し、力強くぎゅっと抱き寄せた。

「っ!?……んっ、ルウぅ……っ」

お互いの目を見つめ合いながら、軽く唇を開き、だらりと力の抜けた舌どうしを絡め合わせる。
後ろからメイの大きく柔らかな体に抱きしめられながらだと、二人の違いが良く分かる。腕を回したリンの腰は細く、華奢と言ってしまってもいい程だ。
押し付けられている胸は当然メイのものより小ぶりだが、ふかふかと沈みこむような柔らかさのメイに対し、リンのものはその性格を表しているかのような張りと弾力があり、ツンと立った桜色の先端が可愛らしい。
昼間に目を奪われた太ももを撫でればすべすべとした絹のような手触りで、このままいつまでも撫で続けていたくなってしまう。

「っ…………っっっ!」

そんな少年の腕の中で、リンがぎゅっと目を瞑り、触れた唇の間から甘い声を漏らしながらその身体を小刻みに震わせた。
一拍置いて、唇を離したリンは、はぁはぁと熱っぽく乱れた息をつく。その瞳は先程よりもとろんとしたものになっており、微かに涙で濡れていた。

「……あの、リン師匠、ひょっとしてイきました……?」
「……っ、ばかっ、女の子にそんな事聞かないでよ……」

拗ねたような声で言いながら、顔を赤くしたリンは少年から顔を逸らし。相変わらずその後ろで少年を抱きしめ、にこにこと笑っているメイへと視線を向ける。

「メイっ、毎晩ルウにどんな事教えてるのよ……!?」
「うふふ、凄いでしょう?ルウくんはこっちの方でも呑み込みが早くてですね〜♪」
「それにしたって、いくら何でも上手過ぎ……っ!?」

リンの台詞の最後は、驚きの混ざった嬌声へと変わってしまっていた。少年がぴんと立って自己主張をしている桜色の乳首を口に含み、ぴっちりと慎ましく閉じた下半身の割れ目に指を這わせ始めたからだ。
その唾液がまぶされた舌が。まだ溢れだした愛液の絡みついた少年の指が。くちゅっという粘度を帯びた水音を立てる度、リンの身体がビクっと震え、その口からは抑えられない嬌声が漏れ出る。

「っ、あっ、あっ……っっ!?」
「キスだけじゃないですよ〜?ルウくんは本当に、毎晩良い子で頑張ってますから〜……♪」

ぐにぐにと、硬さを増した陰核にゆっくりと圧力をかけるような指の動き。そんな少年が与える刺激に対するリンの反応が、徐々に大きくなってゆく。

「っ、ん…………っ!!」

そうして、一際強く桜色の突起を吸い上げながら、その陰核を指でぐりぐりと刺激され――リンは、本日二度目の絶頂を迎えた。

「はぁ、はぁ……っ、え……る、ルウ……っ?」

だが、ルウは幾分か力を弱めたソフトな愛撫の手を休めない。乳首は、ツンツンと舌先で触れるように。秘書は、盛り上がりの上から皮越しに、くにくにと刺激される。
絶頂を迎えたばかりで敏感になっている体だというのに、その絶妙な力加減はまるで強すぎるように感じない。その刺激によってどこかふわふわとした絶頂の余韻が、何時までも続く。

「ま、まって、ルウっ!?うそっ、まさか、また……っ!?」

そのふわふわとした意識の浮き沈み。最初はこちらに合わせて少年の指が動いていたのが、いつの間にかルウの指がこちらの反応をリードしている事に気が付いてしまう。
そうしてどんどんその振れ幅が大きくなってゆく。一度上り詰めた意識が、彼の指によって先程よりもさらに高い場所へと導かれてしまう。

トドメの刺し方は、先程と一緒だった。
乳首を強く吸い上げられながら、にゅるにゅると愛液にまみれた指で、クリトリスを強く押しつぶされる。

「っ〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!?」

手で押さえた口から声にならない嬌声を漏らしながら、リンはルウに抱きしめられたまま、ゆっくりと湯船の中にへたり込んだ。
今まで経験した事のないような絶頂に身体は未だ細かく痙攣し、腰が抜けてしまったように全身に力が入らない。

「リン師匠、だ、大丈夫ですか……?」
「っ、はぁ、はぁ……ばかっ、やりすぎなのよ……!」
「す、すみません……その、感じてるリン師匠が、あまりにも可愛くて……」
「っ…………っ!!」

湯船に肩まで浸かり、抱きしめ合ったまま顔を真っ赤にして俯いている二人。そんな様子を見て、メイは『初々しくていいですね〜♪』などと楽しげに笑っている。
しばらくの間、二人はそうしたままで、時折思い出したように唇を軽く触れ合わせたり、互いの身体を触る事を繰り返していた。

「……ん、もう、支えてくれなくても大丈夫だから……」
「あっ、はいっ」

名残惜しげに互いを抱きしめていた手を解き、リンがざばりと音を立てて立ち上がる。
自分の肢体に突き刺さる視線にむず痒さのような恥ずかしさを覚えながらも、少年に背を向けて、湯船の縁へと近づく。ルウはふらふらと、可愛らしい鼠の尻尾が揺れるその後ろ姿に誘われるようにリンに続いた。

「……その、私……初めてだから。優しくしてよね」
「っ、はいっ……!」

湯船の縁へと手を付き、赤い顔で後ろを振り向いたリンに答え、そのほっそりとした腰を両手で捕まえる。
既に限界までいきりたっている幼い肉棒を秘所に数回擦り付けると、微かに聞こえるリンの息遣いの乱れと共に、明らかにお湯とは違う、粘度の高い液体が割れ目の間からあふれ出してきた。
それを自分の性器に擦り付け、少年はゆっくりと腰を押し入れ始める。

「…………っ!」
「っ、リン、師匠……っ」

性器同士がより深く繋がるのと連動するように、リンの口から熱い溜息のような声が漏れる。
そのまま腰が密着するまで突き入れると、丁度少年の鈴口がリンの一番奥にコツン、と当たる感触があった。

「っ、ぁ………」
「動き、ますよ……?」

ぴっちりと隙間なく締め付ける膣は、少年のサイズに合わせて作られたのではないかと思ってしまう程。だがそのせいで、メイと比べて少年が腰を動かしにくいという事はなかった。
一度その子宮口が突き上げられる度、どろりと熱を持った愛液がリンの膣の中に溢れてくるのだ。それを潤滑油として、少年はリンの桃のような小ぶりの尻へと自分の腰を打ち付け始める。

「……っ!」
「っ、ぁ、ルウっ、るうっ……っ!」

一突きごとに自分の名前を呼びながら身を捩じらせる師匠に、ルウの興奮が高まってゆく。そんないじらしい様子とは裏腹に、リンの膣は少年から精を絞り出さんと、その肉棒ににゅるにゅると貪欲に絡みつく。
お湯と愛液、二種類の液体が奏でる水音。そしてパンッ、パンッと肌同士がぶつかり合う音が、浴室の中に響いていた。

「う〜、ルウくん、私も混ぜて下さい〜……」

夢中でリンの身体を味わっていたルウに、後ろからかけられた声。ルウとリンの交わりを見ているうちに、抑えが効かなくなってしまったのだろう。
振り返れば、愛液の垂れた太ももをもじもじと擦り合わせているメイが、物欲しげな目でこちらを見ていた。

「っ、はい……っ!」

ルウはリンを後背位から責め立て続けたまま、メイの腰に手を回し、抱き寄せた。
そのまま嬉しそうに抱き着いてくるメイの唇を受け止め、さらにその秘所に指を巡らせる。

「もうっ、ルウっ、私に集中しなさいよぉ……っ!」
「んっ、ちゅぅ……えへへ、ルウくんの指、優しくて大好きです〜……♪」

リンとメイ。二人の嬌声が、徐々に余裕のない物になってゆく。
だが、最も余裕が無いのは他ならぬルウだった。魔物の魔性の肉体を、それも二人同時に味わっているのだから無理もない。
だが止められない。少年の思考とは裏腹に、目覚めたばかりの幼い雄の本能がもっと、もっと目の前の極上の雌達を貪りたいとその身体を駆りたてていた。

「っ、ああっ、ルウ……っ!」
「ちゅ……ししょ、もう、僕……っ!!」
「ちゅっ、あんっ♪っ、いいですよ〜、リンの中に、いっぱい出してあげて下さい〜……♪」

そうして――少年はリンの最奥に鈴口を押し付けたまま、射精した。
時を同じくして、魔物二人も同時に絶頂を迎える。

どくん、どくん、どくん、どくんっ――

「あ、ああああぁぁぁっ……っ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ♪」

止まらない。腕の中で二人の女性を同時に絶頂させたという不思議な達成感。高揚。
身体を包むふかふかとした身体。下半身に触れるすべすべのふともも。絶頂に震えながらも蹂躙される咥内。最後の一滴まで貪欲に搾り尽くそうと蠢く膣。

途切れる事のないその射精は、十秒以上も続いた。

「はぁ、はぁっ…………」

がくがくと震える身体をメイに支えられた少年が、幾分か硬度の落ちた肉棒をずるりと引き抜いた。
あれ程の量を吐精したというのに。あれだけ激しく突き上げたというのに。その割れ目はぴっちりと清楚に閉じられたままで、一滴の精液も零れてはいない。

「ふふ、見て下さいルウくん。リンのアソコ、ルウくんの精液を全部飲み干しちゃいました〜……♪きっと、よっぽど欲しかったんですね〜……♪」
「っ、はぁ、はぁ……うるさいわよ、メイっ……」

息も絶え絶えに振り向いたリンが、湯船にその身体を沈め、少年の足元まで戻ってきて……愛液と精液にまみれた肉棒を、その小さな口に頬張った。

「ふぁ、ぁぁぁぁぁ……」

未だびくびくと震える敏感なそれを、唾液のたっぷりと乗った舌で優しくマッサージをするように掃除される。まさに、夢見心地の快楽。
そんな快感に身を震わせる少年の耳に、メイの無邪気な声が飛び込んできた。

「うふふ。ルウくん、次は私の番ですね〜……♪」
「……え?だって、メイ師匠、さっきイって……」
「む〜、一回じゃ全然満足できません〜。それに、リンだけ精液貰って、ずるいです〜……♪」

急かすような声で甘えてくるメイ。さらに下を見れば、夢中で肉棒に舌を這わせ始めているリンの目には、いつの間にか再び情欲の炎が灯りつつある。

「は、はは…………」

自分の身体を抱きしめる合計四本の腕に、徐々に力が込められてゆくのを感じながら。
少年は、今更ながらに――自分は今までの二倍頑張らなければならないのだという事を、理解していた。





―――――――――――――――――――





「っ、あんっ♪ルウくんっ、ルウくぅんっ……っ♪」
「…………っ!!」

正常位でメイと繋がりつつ、その両乳首をリンの舌とたおやかな指で愛撫されながら、少年は本日何度目かも分からない射精を行った。
あれからメイとも交わった後浴場を出て、今はルウの寝室。もはやどちらにどれだけ精を放ったのかも分からない。少年は求められるままに、求めるままにひたすら二人の師匠と交わっていた。
交わり過ぎて何かが馬鹿になってしまったのか。それほどに精を吐き続けているというのに、一向に精が枯れる気配が見えない。
硬さにしてもそうだ。例え一時的に萎えてしまっても、彼女達が刺激を加えれば瞬く間に硬度を取り戻してしまうのだ。

そう。ちょうど――

「ちゅ、ちゅぅ……ん、ルウ、次は私にぃ……」
「ぺろ、ちゅ……ふふ、ルウくん、これからは毎晩、三人で気持ちいい事をしましょうね〜……♪」
「は……はぃ……っ」

ちょうど、柔らかくなって引き抜かれたペニスに二人して舌を這わせている――今、この時のように。





21/02/01 03:34更新 / オレンジ
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