連載小説
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中 道行双月影(みちゆきみょうとのつきかげ)
桜と共に山を下りた新助はようやく街道近くにやって来た。しかし、さっきの里人たちの様子を思い出し、ウシオニの桜を見た往来の人が驚くかも知れないと、街道に入る手前で立ち止まった。
「ちょっと待っておくれ。」
「なんだい?」
手拭を桜の頭にちょっとかぶせてみたが大きなねじくれた角を隠し切れないので、荷物から一枚だけの着替えを取り出して桜にかぶせた。頭巾みたいな体裁に折り込む。
「我慢しておくれ。下手したらウシオニだからって襲われかねないからね。」
「あたし、どんなキズだってすぐになおっちまうんだ。なにされたってべつに平気だよ?」
「そう手荒にすると、これからの道中がし辛くなる。あと手も袂へ入れておいてくれないか。頼むよ。」
「そうかい?まあ、あんたがそう言うなら。」
どきどきしながら街道へ差し掛かる。頭巾のおかげか、行き来の人たちは桜を見ても驚いて逃げるようなことはないが、物珍しそうに振り返る。

「相済みません。おみ足を止めましておそれいりますが…」
宿場に入って、通り掛かりの人にこの宿に古着屋があるかを聞いてみる。幸い近くにあるそうなので礼を言って歩き出すと、後ろから声が聞えた。
「変わった体のジョロウグモだな。」
『うまくいってるようだ。』
新助は桜の袖を引いて、急いで古着屋へと向かう。もう黄昏てきた。旅籠以外は日暮れが店じまいだ。何としても早く用事を済ましたい。教えられた場所へ来ると店先にいくつも古着を吊るしにしてある、結構大きな店があった。
「ご免なさい。」
「はーい。」
出て来たのはアオオニの内儀だった。さすがに虎の皮の胸当て、下帯ではなく、きちんと木綿物を着て、手拭を被って角を隠してはいたが。
「いらっしゃいまし。何を差し上げましょう?」
「ああ、これは運が良かった。相済みませんが、一つ着物を見立てていただきたいんですが。」
「はいはい。旦那さんので?」
「いえ。女房ので。桜、こっちへおいで。」
店に入ってきた桜のかぶっていた着物を新助は外した。
「おや!ウシオニさんかい。あたしも会ったのは初めてだ。」
「桜と言います。これから道中するのに、今着ている一張羅しか着物が無くては目立ちますし、折角の金襴が傷んでしまいますので宜しいのがありましたら見立てていただきたいのですが。」
「はい。暫くお待ちを。」
アオオニは暗くなり始めた店の奥の長持を開けて、灯心をかき立ててあれこれ探していたが、やがて一枚の着物を取り出してきた。
「これが宜しいでしょう。当ててみて下さいな。」
出してきたのは、木綿物だが紺地に赤で桜の花が染めてある華やかな着物だった。
「桜。ちょっと手を横に上げておくれ。」
「う、うん。」
新助は桜の胸に着物を当てて裄丈を見てみた。
「これはぴったりだ。あ、でも袖口が…」
普通の大きさしかなかった。
「ご心配なく。うちで仕立直しもしていますから。」
「そうですか。それから襦袢と腰紐、帯もお願いします。」
「はい。お待ちを。」
着物といっしょに目星をつけておいたらしく、アオオニはすぐに揃えて出してきた。
「あと出来れば角を隠すものがありませんか。これも目立っていけませんので。」
「それでしたら、良いのが丁度あります。」
長持から取り出してきたのはやや大振りな綿帽子だった。道中で髪が汚れないようにかぶるものだ。新助が桜にかぶせてみると丁度いい大きさだった。
「これが本当の『角隠し』だな。」
「つのかくし?」
「お武家の方で、今おかみさんが手拭でしてるような被り物のことさ。では着物と襦袢の仕立直しをお願いします。」
「ちょいと、おまえさん。」
「おう。今行くよ。」
奥へ声を掛けると手燭を持って出て来たのは、この家の亭主でアオオニの夫と思われる。
「いらっしゃい。奥で聞いておりました。では、ちょっとおかみさんの寸法を見せて下さい。」
亭主は襦袢の袖を桜の腕に当てるとおよその見当をつけた。
「すぐ終わりますから、掛けてお待ちなさいな。あ、おかみさんはどうしようかな…」
考えたアオオニは広い縁台を持ち出してきた。
「これにおなかを乗せれば楽でしょう。」
「す、すまねえな…」
今まで山奥でたった一人で生きてきた桜は、他者にどう接したらいいのか戸惑っているようだった。亭主は手燭を近付けて、まず襦袢の袖口の糸を手早く鋏で切り始めた。
「では先に仕立以外の勘定は如何ほどでしょう。」
「えーと…」
アオオニがぱちぱちとそろ盤に入れた銭高を巾着から支払う。
「もう少し待って下さいな。」
アオオニが茶を出してくれた。縁台に乗っている桜は、初めて見た茶碗をどうするものやら判らないようで、新助の様子を見ながら真似して息を吹きかけて茶碗を傾ける。
「え?この水あったかい?」
笑いをかみ殺すアオオニに新助は照れた。
「済みません。山出しなもので。ところで今日は幾日です?」
日を聞いて驚いた。前の宿を立ってからすでに五日目であった。そんなにもまぐ合いに夢中になっていたのか…
「出来ましたよ。」
亭主はたちまちに袖口を縫い上げた。仕立て代の勘定をする。
「有り難うございます。後あつかましいお願いで申し訳無いですが、ここで女房を着替えさせたいのですが。」
「はいはい。どうぞ、どうぞ。」
アオオニが門口を閉めてくれたので、着物を着替えさせる。新助は桜の金襴を脱がせて、まず襦袢を着せて、腰紐を結ぶ。それから着物。帯を締めてやる。綿帽子を掛けてすっかり旅姿だ。金襴の着物と帯を風呂敷に包んで背負わせる。
「出来たよ。」
「どうぞ鏡を。」
「へー?」
桜はやはり鏡に映った自分の姿を物珍しそうに見つめているだけだった。
「どうもすっかりお世話になってしまって。」
「いえいえ、こういう女房を持った同士じゃありませんか。お互い様でさぁね。」
「では、これはおかみさんに。」
商売物の簪を一つ、亭主へ礼に渡す。
「こいつはどうも。」
「けど、こんなに使って路銀は大丈夫ですか?」
「なあに。これから当分は野宿ですよ。旅籠代どころか木賃も要りません。女房とセずにはいられませんからね。」
桜とまぐ合い続けた新助はウシオニの魔力を身体に受けて、すでに人間ではなくなっていた。本来ならすぐにでも桜と始めたいところをぎりぎりで押さえつけているのだ。
「おや、聞かせてくれますねぇ…」
アオオニは亭主の顔をちらちら見ながら頬を染めてもじもじし出した。
「ではお世話さまでした。お邪魔にならないうちに退散いたします。」
「こいつはどうも…またどうぞ。」
「またどうぞ。」
かなり暗くなってきた東の空には月が出ていた。連れだって去っていく新助と桜の後ろ姿を見ながらアオオニは堪え切れないようにささやいた。
「ねぇ、おまえさん…」
「ああ、うちも明日は休みだな。門閉めたら…な?」
『本日休み』の張り紙をした古着屋は、閉て切った雨戸のすき間からあえぎ声が止まなかったという。

◆◆◆◆◆◆◆◆

それからというもの、桜は新助と共にあちこちを旅した。
行く先で『ウシオニ』と恐れて逃げる人も無いではなかったが、綿帽子のおかげで大抵は「変わったジョロウグモ」で通り、珍しい夫婦連れと行く先々で評判となった。以前は路銀を稼ぐのがやっとであった新助だったが、おかげで商いもはかどり、懐にもかなりの余裕が出来るようになった。まさに『一人口は食えないが、二人口は食える』とはこのことだった。
旅の中で新助は、桜に世の中のさまざまな事を見聞きさせ、世間の中で生きていくための方法を教えた。失敗やうっかりも少なくはなかったが、新助は根気強く教え続けた。そして桜を大切にし、わずかの風にさえ前に立って女房に寒い思いをさせまいとした。
そんな亭主の心遣いに最初こそどう応えるか戸惑ったものの、大事にされていることは解って桜はますます新助に惚れ込んだ。身ぎれいにすると新助が喜ぶので、いつか桜も道行く外の女の姿に気を留めては身づくろいを真似るようにしたので、山にいた頃の荒々しさは影をひそめていった。しかしウシオニとしての性質は当然変わることは無く、肉欲をつのらせて一旦交わり始めると双方身体を押さえようがなくなって、すぐに三日は経ってしまう。宿屋に泊ると止まない嬌声に相宿の人達が眠れなくなってしまい、旅籠代も馬鹿にならないので人目につかない場所の野宿でうっぷんを晴らしている。
新助が聞いた所によると、あの時侍に貰った茸は「猛り茸」と言って、自分のような妖怪を女房に持った亭主には欠かせぬものだそうだ。桜を相手にするには無くてはならぬものであり、飯の菜にはちょうど良い味なので今では大の好物となった。しかし舞茸同様なかなか手に入らないしろもので、同じく行商をしている刑部狸に頼んで、向こうの言い値で買うしかない。最初こそ商売物と交換で手に入れるしかなかったが、今では稼ぎも増えて買うこともた易くなってきた。また、桜の血を身に受けた新助の体力は人間離れして、たいして食べなくとも何日も道中して平気な程だ。だが常に一物は立ち上がって股引を押し上げているので、さすがに人目をはばかって、モノを真綿でくるんで誤魔化している。

そんな他の妖怪同様に人目を憚らずいちゃつきながらの道中を重ねての、ここはとある山道である。と言っても今歩いている所はかなりなだらかだ。
「真っ暗になっちまったね。さっきまであんなに明るかったのに。」
桜は暗い空を見上げた。今夜は満月なので宵に通った宿場では月の光を頼りに多くの人が歩いていた。だが今は黒雲が出て辺りは真っ暗。新助の持つ提灯の火以外もう明るいものは無い。と言っても人間ではない二人は夜目も利き、本来たいして意味が無いのだが夜往来しているのにと、他人から怪しまれるのでわざわざ灯りを持っている。
「そうだな。ここら辺なら人家も遠いようだし、そろそろ寝られるところを探そう。」
「じゃ、またたっぷりとね?」
「ああ、たっぷりとな。」
実は物騒な噂もあるこの山道に二人が入ってきたのは、心置きなく逢瀬を楽しむ為だった。街道沿いではまたあえぎ声をまき散らして人さまの迷惑になり兼ねないので、このさびしい山中へ入ってきたのだ。
「へへ、寝かさないよ?あんた。」
「それはこっちの科白だよ。」
「何を乳繰り合っていやがる!」
突然胴間声が聞えたかと思うと、前に十数個の人魂が現われた。いや、それは三十人余りの薄汚れたたっつけ袴に毛皮を着て山刀や蔓巻の柄の刀を腰にした、髭もじゃの山賊らしい男たちの持つ松明の火だった。
「日暮れもとうに過ぎたというのに、俺たちの縄張りへのこのこ入って来やがるとは余程の物知らずか、無鉄砲らしいな。」
「さあ、金も着物も女も命も置いていけ!」
居丈高に脅しに掛る。凶悪な連中らしい。
「…下がってな。」
新助に手を引かれていた桜が、綿帽子を外して新助に渡しながら前に出た。
「やい、てめえら!あたしの亭主に何かしやがったらただ置かないぞ!」
「ほぉー?女のくせにやたらに威勢が良いじゃねぇ…」
差しつけた松明の灯りに浮かび上がった姿に山賊たちは凍りついた。
「う、ウシオニ…」
「そーよ。あたしはウシオニさ。てめえたち運が悪かったな!」
ばっと投げられた糸に、山賊たちはあっと言う間も無しにからめ捕られた。松明が放り出されて地面に落ちる。が、少し後ろにいた頭目は糸にかからなかった。頭目は持っていた短筒をとっさに新助に向けた。
「野郎っ!」
「あぶない!」
桜が新助の前に飛び出して、放たれた弾丸を手の爪で弾き返した。万策尽きた頭目も糸でぐるぐる巻きにされてしまった。
「このヤロウ!よくも…体中の骨、へし折ってやったっていいんだぜ!?」
「ぐうあっ!!!…」
締め上げられた頭目は白目を剥いた。
「桜。殺すだけ無駄な相手だよ。」
「そうか。こいつらどうする?」
「役人に引き渡してしまおう。これから往来する人たちの為だ。」
「よし、わかった。やい!てめえら。とっとと歩け!せっかくこれからデキると思ったのに、とんだ邪魔をしやがって!『食い物の恨みは恐ろしい』んだぞ!」
「ぐあっ!お、お助けを…」
ちょうど月が再び現れて山賊たちを追い立てるのも簡単になったので、二人は山道を戻って所の代官所に賊たちを引き渡した。
夜明けてすぐに新助と桜は白洲へ呼び出されて、代官直々の褒賞を受けた。
「でかしたぞ。彼奴らの頭目は御上より手配の掛った賞金首であった。神出鬼没で我等もほとほと手を焼いていた、あの山賊共を正に一網打尽に致した事、実に天晴れである。賞金並びに褒美の金子を遣わす。有難く頂戴致せ。」
黒羽織の手代が白木の台に紫の袱紗包みを乗せて、白洲に手を付いた新助の前に置いた。
「忝く存じます。」
「…それにしても、その方も猛き妻を持ったものよな…」
代官は新助の横におとなしくしている桜をつくづくと見た。
「はい。しかしウシオニではありますが、とてもやさしい心の持ち主で、私を立ててくれます。良く出来た女房でございます。」
「ふーむ。その方は余程の才覚人と見えるな。では下がって良いぞ。」
「では御免下さいませ。行こう。」
「うん。あんた。」
代官の前では外していた綿帽子を掛けてもらって嬉しそうに手を引かれていく桜の様子に、手代も下役人たちも驚きを隠せなかった。
代官所を出た新助は改めてしっかりと桜の両手を取った。
「『夢でもいいから持ちたいものは金の生る木と良い女房』と言うが、普通なら命の無い所を助かって、しかも思いがけずこんな大金を手に出来たのもみんなおまえのおかげだ。ありがとうよ。」
「止しなよ。水くさいね。あたしの大事なあんたに向ってきた奴らを伸しただけじゃないか。」
「これ程の金なら、今までの稼ぎと合わせれば店を持つことだって出来る。でも、今日はここの宿場で宿を取って、昨日の分を取り返そう。」
「よーし。また三日はぶっ続けだぜ。早く行こ。」
あまり我慢も効きそうになくなってきていた二人は、今さら人目の無い山中に行くまで待っていられず、かなり大きな町であるこの宿場の一番大きな宿屋へと向かった。
「ご免なさい。」
「お出でなさいま、し!?」
ジョロウグモは宿場の飯盛り女たちの中にもいるので驚かないが、さすがに桜の巨体を見た宿の番頭は驚いたようだ。
「相済みませんが、離れ座敷がありましたらご厄介になりたいのですが。」
「は、はい。どうぞ、どうぞ。」
前金でまず三日分を払うと朝の膳を出してもらい、猛り茸を菜に腹ごしらえをした。そして離れ座敷に布団を三枚並べて敷いてもらって、こちらが呼ぶまで誰も近付かないように頼んだ。一応浴衣に替えた二人は離れに向かった。かなり母屋から離れているので、これなら声を立ててもそうそう聞こえない筈だ。雨戸を立て切ってようやく落ち着いた。
「さーて、これで邪魔も入らないし、やっとゆっくりデキるね。」
「ああ。半日も待たされてしまったけど、やっと二人きりだ…」
「あんた…」
「おまえ…」
二人は抱き合った。が、新助はもう待ち切れなかった。何もかにも無しに、いきなり新助は桜の中に押し入った。
「ああっ!!」
待たされた分以上を取り返す為に激しく腰を動かす。
「あっ!あっ!!もっと、もっとおくれ!あんた…あっ!あん!」
まだ朝な時分に始まったそれは、日が沈んでも延々と続いた。
ところがその夜更け、月を頼りに離れに近づく影があった。この街道を荒らしまわる護摩の灰だった。道連れになった相手が寝静まってから金品を盗んで逃げるのが手口だが、今日に限ってめぼしい獲物がいなかった男は枕探しをすることにし、代官から褒美の大金を貰った夫婦の話を小耳にはさんで、金を横取りしてやろうとこの旅籠に忍び込んだのだ。しかし、相手が妖怪とまでは聞いたものの、ウシオニである事を聞き洩らしたのは痛恨の手落ちだった。知っていたら決して無謀な真似などしなかった筈だ。
雨戸の溝に宿の行灯部屋から持ってきた油を流して、そっと開けて中へ入り込んだが、すぐに声が聞こえてきた。
「あうっ!ああ!あん!」
『やれやれ、おさかんだな』
事情を知らない護摩の灰は廊下で二人が寝静まるを待ってから忍び込んで金を盗むつもりだったが、いつまで経ってもあえぎ声は止まない。
「ああっ!あっ!あうっ!」
『畜生、いつまでヤってやがるんだ!』
このままでは早立ちの者たちが起き始めてしまって、逃げる間が無くなる。諦めようにも、博打で有り金を残らずスっていた護摩の灰はこの山を逃す訳にはいかなかった。
『もうこうなりゃ腕尽くだ。夫婦諸共殺ったら高飛びするしかねえ。』
襖をそっと開けて素早く忍び込む。朝から始まったまぐ合いである。暗くなったからと行灯に火を入れる間など二人には無い。真っ暗闇の中、そっと辺りを手探りすると何かが手に触った。
『?!』
桜の蜘蛛の足だった。
『ジョロウグモにしちゃ、やけに太くて変な足だな。しかし、肝心のお宝はきっと枕元に違え無ぇ。こっちからなら殺るのには都合良いだろうが、声でも立てられたら人が来る。引っつかんで逃げるにゃ金が近ぇ方が良い。』
男はまだ自分が命の危機に晒されていることを分かっていなかった。桜は襖が開けられた時から疾うに気付いていたのだが、まぐ合いを邪魔されたくないので知らぬ顔をしているだけだった。
『…せっかくのところを水さしやがって…なにかしてきたら承知しねえぞ?』
一旦部屋から出て廊下を枕元の方へ回ると襖をさっきより慎重に開ける。いっそう嬌声がかまびすしい。暗闇の中で護摩の灰は声を頼りに枕元に近づいた。
「あんた…あんたぁ…」
「さ、さくら…」
声のする場所から、どうやら女が上に乗っているらしい。妖怪相手では手こずるかも知れない。
『それなら先に亭主から…』
懐から匕首を抜くと、男声を目当てに逆手に振り上げた。だが、その動きは妖怪である桜の目にはっきり見えていた。新助目掛けて振り上げられた匕首に桜はかっとなった。
「チクショウ!じゃまするな!!」
「??!」
護摩の灰は一瞬でぐるぐる巻きにされ、その拍子に匕首は後ろへ飛んでしまった。次の瞬間猿ぐつわのように口にも糸が巻き付いた。身動きどころか声を出すことも出来ない。そして、そのまま男は二人の足元へと投げ飛ばされた。襖際まで飛ばされて顔から畳にどすん!と落ちた男はうめいたが、ほとんど声は聞こえなかった。
「どうしたんだい?」
「いや、ノミがうるさいからはじき飛ばしてやったんだよ。」
新助とて人間ではないのだから、たとえ護摩の灰に匕首を振り下ろされても避けるくらいわけは無いのだが、余計な心配を掛けまいとする桜の心遣いが嬉しかった。
「そうか。じゃあゆっくりデキるな。それっ…」
「ああああ…」






















それからまる三日、二人の契りは続いた。その間放っておかれた護摩の灰は絶食のままで、飢え死に寸前の所を役人に引き渡された。
「悪いことはするもんじゃ無ぇ…」
詮議を受けた男は、げっそりやつれた顔で泣く泣くそう言ったという。
14/06/07 00:59更新 / 平 地貞
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■作者メッセージ
今回は超微エロとなってしまいました。前後分けようかとも思いましたが、合わせて上の巻と同じ程度の長さなので分けませんでした。次の下の巻はウシオニが町中で暮らしていく話の予定です。

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