私とお父さんのお花畑

  貴方は大切な人に捨てられたことはありますか?
私はあります。……でも、だからって周りに八つ当たりしちゃだめですよ
きっと自分に原因があるはずだから、きっと、そう。

 私はアルラウネのルーネ、この広いお花畑に大好きなお父さんと住んでいます。
私にはお母さんがいません。お父さんが言うには、なんでも
ある種を狸の行商人から買って育てていたら、私が生まれた(になった)そうです。
お母さんは居ませんが私は幸せです。お父さんがいつも傍に居てくれたから。

 でもね、ある日私はお父さんに捨てられちゃったの。

 その日お父さんと私は遠くに遊びに行くことになったんだ。
お父さんは前もって行く場所に下見に行ってたみたいで、
そこはとってもお花がいーっぱい咲いている所って聞いて
私はとっても楽しみにしていました、
……今、私がお父さんと暮らしてい場所が、その場所なんだけどね。


          私がまだちょっと小さかった頃
 私はお父さんの温かくて大きい手を握りながら、家を出た。
私の好きな特製のお水と、二人で食べるお弁当を持って。
道を歩いていると、何時もの様に私とお父さんは白い目で見られます。
でも平気です、お父さんが傍にいて私を守ってくれるから。
……本当はちょっとだけ悔しいです、私達は何も悪いことしてないのに
どうしてこんな風に見られなければならないのだろう?
どうして差別されなければいけないのだろう?
そんな風にいつも思っていました。
その疑問をお父さんにぶつけると。
『仕方ないよ。みんなルーネのことが怖いんだ。
それにな、百個黒いボールがあったとして一個だけ白いボールが
混じっていたら、皆白いボールを余計に思うんじゃないかな?』
……だから私は町や人間の多い所へあまり行ったことがありません、
いつも行くのは山の中や人間の少ない場所だけ。
元々、私はそんな所へ行くと気分が悪くなっちゃう体質だけど、
それでも、やっぱり行きたいって何度も何度も思いました。

『ねえお父さん……』
『なんだい?』
『お父さんも私の事を白いボールみたいに、
取り除いてしまいたいって、思ってるの?』
『そんな訳無いだろう。私にとってルーネはかけがえの無い
大切な人なんだぞ?』
『えへへ……そっかぁ。そう言われちゃうと
安心するけど恥ずかしいな……』

でもこの時、私は既にいつもとお父さんの雰囲気が違う事に
はっきりと気がついていました。

『お父さんは私の傍にずっと居てくれるよね?』
『もちろん! ルーネを離すわけないじゃないか』

そうです、お父さんの私を思うその気持ちは、正真正銘の本当でした。
でも、それだけじゃ私はお父さんの元にはずっと居る事は出来なかった。
仕方ないことなんです、お父さんは何も悪くないんですから、
悪いのはお父さん以外のみんなと……私。


 一時間くらい歩いたでしょうか……私とお父さんはお花畑に着きました。
そこには春夏秋冬、様々な季節のお花達が顔を並べて咲き誇っていました。
私はこんなにいっぱい花を見るのが初めてで、
とっても嬉しくて、花畑を隅から隅まで探検しました。

 その途中だったでしょうか、お父さんが突然口を開いて
『ルーネ、お父さんはちょっと用事があるから、
このお花畑で待っていてくれないか?』と言いました。
お父さんはいつも通りで、何気ない一言だったけれど、
私は何かとても不吉な感じがしました。

『どれくらいで帰ってくるの?』
『……うーん、一時間くらいかな』
『何しに行くの?』
『大人の事情だ、ルーネにはまだ分からない事だよ』
この時の私は、お父さんは絶対戻ってくると信じていました。

『分かった。じゃあ私、ここのお花畑で待ってるから、
終わったらすぐに帰ってきてね?』
『ああ分かってる。なるべく早く済ませてくるからな』

そう言って、お父さんは私の頭を撫で、元来た道を戻って行きました。
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 ……三十分経ちました。
お父さんはまだ戻ってきません。
でも一時間かかると言っていたから、大丈夫です。
……一時間経ちました。
お父さんはまだ戻ってきません。
たぶんちょっと『用事』に手間取っていると思います。
だから、まだ大丈夫です。
……二時間経ちました。
私は寂しくて泣きました。
ここには沢山のお花があるけれど、
私にとって一番必要なのはお父さんただ一人だったからです。
……四時間経ちました。
夜になって空が曇り大粒の雨が降ってきました。
その雨は私の心を落ち着かせ、私はどうしてお父さんが戻ってこないのか
考えました。
……六時間経ちました。
もう何があってもお父さんはここに戻ってこない。
そうです、やっと私はその事実を認めたのです。
本当はとっても嫌だったけれど。
……十二時間経ちました。
長い長い雨は止み、太陽が雲の間から顔を出します。
いつのまにか、もうお昼になっていました。
私は地面に根を張り、食事をしながら周りを見渡します。
周りはお父さんと来た時と変わらず、様々な花が咲いていました。

………………食事を終えた後、私は太陽の光を浴びながら、目を瞑り、
深い思考の渦の中に身を委ねました。

どれくらい私は考えていたでしょうか。
答えを見つけて目を開けると、回りはもう真っ暗でした。

お父さんが私を捨……私の所へ帰ってこないのは、
きっと私が我儘で、私がお父さんを十分に愛してあげられなかったからです。
お父さんは、私の為に周りの人から酷い事をされながらも、
頑張って私を愛し続けてくれたのに。
私はその愛にお返しすらできなくて、お父さんに重荷を背負わせて、
平然と生きてきたから、お父さんは疲れて私の傍から去ってしまったんだ。

なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう?
もっと早く気がついていれば、お父さんは喜んでくれたのに!
私の傍にずっと居てくれた筈なのに!


でも、ここでうじうじ悩んでいても、もうどうにもなりません。
お父さんが私の傍から去ってしまったのなら、
私がお父さんを取り戻せばいい!
……でも今の小さい私じゃ力不足です。

だから私は、まずこのお花畑を広くする事にしました。
ここを家にしてお父さんと暮らすためです。
もっと花を増やして咲かせて、もっと花畑を広げて満たして、
安心できる場所を作らないといけません。

次に私自身を成長させることです。
それは今すぐには無理だけど、焦っちゃだめです。
植物を育てるように、ゆっくりとじっくりと。
そうして成長した私が、今度はお父さんを守って愛してあげるんです。
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 こうして私は、長い間ここでお花達を育てながら、
じっとその時を待っていたんです。
途中に、このお花畑に悪さをしようとした人間がいっぱい
来たけど、頑張って撃退したり。
空を飛び回っているハーピーさんや、蜜を取りに来た
ハニービーさんに男の人の愛し方を教えてもらったりもしました。

そうやって我慢し続けた甲斐があったのでしょうか。
このお花畑は初め来た時よりも何倍にも大きくなりました。
その所為が、もう邪魔をしにくる人間も殆どいません。
……他の子が連れて行ったのかもしれないけど。

私自身も大きくなりました、身長もかなり伸びて、
お父さんよりちょっと小さいくらいだと思います。
お胸もとっても大きくなって……メロンぐらいの大きさかな?

それで成長した私はお父さんと一緒に暮らす為に
お父さんを探しに出かけました。

どうやって探すのかって?

匂いです。私はまだ覚えているんです。
それは決して変わることの無い特別な匂い。
人間には区別できない、お父さんだけの独特の匂い、
いつもいつもそれだけを頼りに自分を慰めた匂い、
これを頼りにお父さんを探すんです。

大丈夫です。絶対にその匂いは変わったりすることはありません、
だってその匂いの元は私がお父さんと居る時に、
体の中に植付けた花から発せられているのですから。


そうして私はお父さんを探しに出かけました。
人間の町に行くのはは怖いし、自分の体にも良くないことだったけど、
お父さんを取り戻すためなら、私はそれくらい平気でした。

お父さんはすぐに見つかりました。
何と、どこにも引っ越さずに元居た家に留まっていてくれたのです。
私はとっても嬉しかったです。だって、お父さんは私が戻ってくるのを
ずっと待っていてくれたんですから!

玄関の扉を開けたお父さんは私の姿を見ると、後ろに後ずさりしました。
きっと怖がってるんだなって思いました。
だから私はお父さんに優しく言葉をかけてあげました。
『私はお父さんを恨んでないよ。怒ってないよ』って。
そしたらお父さんは、ちょっとだけ安心したようでしたが、
まだ少し怯えたままでした。

だから次に私はこう言いました
『お父さん。私と暮らそう? 私、大好きなお父さんの為に家を作ったの、
悪い人誰一人こない、私とお父さんだけのお家なんだよ?』
私は大量の蔦をお父さんに伸ばし、絡めます。
『お父さん……私はねもうあの時の我儘な私じゃないんだ。
今度からは私がお父さんをいっぱい愛して幸せにしてあげるからね』
お父さんは抵抗しました。やっぱり私のことを嫌いになっていたみたいです。
『ごめんねお父さん。今はちょっと嫌かもしれないけど、
私のこと好きになるまでいっぱいいっぱい愛してあげるから』
私はお父さんに眠りの花粉を吹きかけます。
そしたらお父さんはすぐに眠ってしまいました。
『ふふふ……やっとお父さんを取り戻せた』
私は眠ったお父さんを抱擁します。
心の中から喜びが噴水の様に溢れて今にも噴出してしまいそうです。
でも我慢我慢、それはあのお花畑で……

お花畑に帰る途中、やっぱり私は白い目で見られます、
でも、その視線の大半は恐怖ばかり占めていたように感じました。


そして、私とお父さんはお花畑に帰ってきました。
お父さんはまだ安らかに寝息をたてています。
私はそれを確認すると、事前に作っておいた
花のベッドにお父さんを寝かしつけました。
『ちゅっ……』
私はお父さんに軽く口付けをして、受粉の準備をしながら
起きるのをずっと待っていました。

お日様が半分くらい沈んだ頃。お父さんはようやく目を覚ましました。
『あ、おはようお父さん』
お父さんは起きて逃げようとしますが、私が離すわけありません。
また蔦を絡めて、動けなくしてベッドに寝かせます。
『逃げちゃだめだよ? これから、お父さんの種子を沢山もらうんだから』
この言葉を聞いたお父さんは、最初ポカンとしていましたが、
すぐに意味を察したのか、私を説得しようとしました。
『お父さん安心して、私の蜜と花粉で天国に行かせてあげるよ?
だからすぐに嫌じゃなくなるからね?』
私はあらかじめ取っておいた自分の蜜を、お父さんに口移しで飲ませました。
『ん…………』

『こっちにも塗ってあげるね?』
口の中だけでなく、お父さんの雄しべにも私の蜜を、
手でたっぷり塗りつけてあげます。
すると効果が出たのか見る見るうちに、
お父さんの雄しべが手の中で大きくなりました。
『じゃあこれが最後の仕上げ』
とってもいい気分になる花粉を、お父さんに吹きかけてあげます。

『お父さん気持ちいいの?』
お父さんは恍惚とした表情で、ぼーっとこっちを見ていました。

『最初は私の体にお父さんの種子をかけてね?』
私はゆっくりとお父さんの雄しべを手で扱きます。
蜜が淫らな水音をぬちゅぬちゅと立て、
そのたびにお父さんの雄しべは嬉しそうに震えます。
お父さんも恥ずかしがることなく、切ない喘ぎ声を上げていました。
『今度は両手で……』
私は右手で雄しべの先をゆっくりとマッサージして、
左手で葯室を撫でてあげました。
『ねえお父さん分かる? お父さんの葯室から種子が出たい出たい
って、叫んでるよ?』
お父さんも腰を振りながら、私の手で早く種子を放出したいと、
暗に主張しています。

『じゃあ射精させてあげる。
おしっこする時みたい体の力を抜いて、
中に溜まった種子を全部出そうね?』
私の言葉を聞くとお父さんは声を上げながら、
大量の種子をビュクビュクと私の体中に放ちました。
『んっ……温かいのいーっぱい♪』
私はその種子を体に塗り広げながら、その温もりを味わいます。
ずっとずっと求めていたお父さんの愛情と同じくらい
それは温かいものでした。

『あはっ、まだこんなに硬いんだ……
じゃあもっと出させてあげないと』
今度は蜜を満遍なく漬けた無数の蔦で、お父さんの雄しべを
弄くってあげました。

射精してすぐだったからなのか、お父さんの雄しべからは
すぐに大量の種子が放たれました。
『すごいねお父さん。
こんなにいっぱい出されちゃったら、私すぐに受粉しちゃうかも……』
手でしてあげた時と同じように、私の体はべっとりと種子まみれになりました。

『あれ? お父さん?』
お父さんは何も反応を返さず虚空を見続けていました。
ちょっと刺激が強すぎたのかもしれません、
いくら私が愛を注いでも、それを受け止められなかったら、
意味がありません。
『……ヤりすぎちゃったかな。
ごめんねお父さん。今度はもう少し優しくするから』


私はまだまだ子供でした。
けれど、私なりにお父さんを愛せて、
喜んでもらったのは事実で……
だから次はもっと頑張ろうって決めました。
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 こうしてお父さんはもう私の傍から居なくなることはなくなりました。
そして今日も私はお父さんを沢山愛してあげます。
『お父さんおはよう』
『……』
あ、死んでたりはしませんよ? 体に花や草が生えてますけれど……
私と同じくらい長く生きられるように、体内に種を植え付けて育てているだけです。
人間がお花を育てるように……ね。

『雄しべもとっても元気だね。今日もいっぱい搾ってあげる』
もちろん感覚や感情だってあります。
反応は鈍いけれど、根っこを通してお父さんが喜んでいるのが分かりますから。


私はお父さんが居ないと生きていけません。
お父さんも私が居ないと生きていけません。

私は幸せです。

どんな理由があろうが、子供を捨てちゃいけないよ。

12/11/02 19:18 m9(・∀・)

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