連載小説
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教えるのって難しい
マーリン魔術学校に来てから……教師になってからすでに1ヶ月が過ぎた。
今は10月、美しい紅葉が校舎によく映える。


「授業を……始めます……」

私の初授業は酷いものだった。

「操霊術は……し、死霊術、と……精霊術……をミックス、したような……ものです……」

人前で話すのが苦手な私は噛みまくりながらぼそぼそと90分間操霊術について説明した。
いや、

「……物体を……介すこと、で、契約なしでの……霊の行使g……」
バタンッ
『……おい、先生が倒れたぞ』
『保健室に運ぼう!』

途中で倒れたんだった。


「……もぅやだー……」
私は広大な敷地に似合わないこじんまりとした部屋……第八職員室に割り当てられたデスクに突っ伏していた。
天板には生徒に教えるために操霊術の基礎理論を纏めたファイルが並んでいる。
「魔術協会に提出した論文があるんだから、そこから基礎理論くらい抽出してよ……」
まず、操霊術師が私しかいないというのも驚きだ。
あんまり難しい手順が必要な魔術じゃないんだけど……。
「マイ先生、あまり無茶を言ってはいけませんわ」
私の独り言に反応したのはエルフの精霊魔術師、アウローラだ。
すらっとして背が高く、目鼻立ちがはっきりしている彼女は、男女を問わず……さらに教師生徒を問わずに羨望の眼差しを受けている。
私も少し羨ましいとは思う。
胸とか身長とか……。
「ちょっ……いきなり泣き出さないで下さいまし
どうかなさったのですか?」
お前のせいだ。
とはさすがに言えない。
別に悔しくないし。
チビでも需要あるし。
負けたとか思ってないし……。
「えぐっ……ひぐっ……
授業の仕方で……悩んでて……」
「あら、そうなんですの……」
「人前、で話すの……が苦手、で……」
学校で会話を交わすのはアウローラと質問に来た生徒くらいだろう。
「そうですね……教えようとするから苦手に思うのですわ
たとえば貴女、魔術の研究はお好きでしょう?」
「う、うん……」
「でしたら、自分の研究成果を生徒たちに自慢するつもりで話せばいいのですわ
趣味の話なら、少しは楽に話すことが出来るでしょう?」
それは……名案のように思えた。
魔術の話なら一日中話せる自信がある。
「……でも……それだと、生徒が理解出来たか……分からないのでは?」
「質問の時間を作ればいいのですわ
分からないことを質問するというのは、とてもいい勉強になりますのよ?」
なるほど……いけるっ!
えと……こういう時はなんて言うんだっけ……。

「……あ、ありがっ……」

「?
なにか仰いましたか?」
「……あり、がとう、アウローラ」
突然、紅葉のようにアウローラが赤くなった。
「な、なにを言っていますの!?
同僚が困っていれば、助けるなんて常識ですわ
誤解しないでくださいまし
礼も不要ですわっ」
……ああ、やっぱり嫌われてたか。
私に構ってくれてたのは先輩教師としての義務感からか。
「……不快にさせた……なら、すみません
…………私、授業があるので、失礼します……」
「ちょっと!
不快だなんてそんな……!」
後ろからなにか聞こえるが無視する。
ああ……やっぱり友達なんかできないよ……。


「じ、授業を始めますっ」

よし……アウローラからの最後のアドヴァイスを……活かす……!

「……操霊術はもともと、ジパング地方の付喪神をヒントに思い付いたの
「一人ぼっちでも、誰かと話せたらなって思って……
「付喪神っていうのは『万物には魂が宿る』っていう信仰をベースに出来た魔物で……
「物体に宿る魂を引き出し、使役する……ね、精霊術や死霊術ににてるでしょ?
「以上です
……何か、質問……ある?」


この授業は上手くできた。
そう思っていたら、放課後に校長が私のデスクにやってきた。
「マイ先生、ちょっといいかね……?」

その後、授業が難解すぎて理解している生徒がほぼいなかったと怒られた。
人生の難易度ってこうして上がっていくんだね……。
13/07/30 23:05更新 / 宇佐見 椎
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■作者メッセージ
書くのってやっぱり難しいです。
今回も楽しく悩みながら書きました。

出来るだけ早く更新しますので、今後ともよろしくお願いします。

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