読切小説
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鬱々たる妖艶
 嵐の翌日というのはどうしてこうも思い切りよく晴れるのだろうか。
 太陽が燦々と照りつける浜辺を歩いていた猟師の青年「浦田次郎(うらたじろう)」は、昨夜の仄暗さと打って変わって爽やかな晴天を仰ぎ見て、素朴な疑問をぶつけていた。
 なぜ猟師である次郎が浜辺を歩いているのか。その理由は前日の嵐が発端となっている。
 嵐の猛威が訪れ森が荒らし尽くされると、生計を立てるのに必要な動物たちは安全な山奥にまで挙って避難してしまう。次郎の活動地域に再び姿を見せるようになるまで時間を要するため、狩猟はしばらくは臨めないのだ。しかも間が悪いことに、たまたま食料の備蓄も資金も底を尽きかけていた。
 しかしながら、こういった窮地に陥った時に飢えを凌ぐ道が次郎には残されている。次郎の住んでいる土地は山と海が近部にあるので、山の幸にも海の幸にも恵まれている。ようするに、しばらくは海で釣った魚を食料の足しにして乗り切るのである。
 もっとも万が一に魚が獲れず坊主が続いた場合、次郎の職業柄付き合いのある里へと行き、食料を分けてもらう伝もあるが、これはあくまで最終手段であり、安々と物を乞うのは自らの自活能力の低さを証明するようなもので、狩猟の実力で成り立つ職業である猟師としての沽券に関わるためあまり得策ではないのだ。
 そういったわけで次郎がいつも利用している釣り所までたどり着くと、さっそく持参してきた釣り道具をこしらえ始める。
 竿を組み立て擬似餌を作るなどの一連の作業が手際よく進む。
 彼が食料調達のために釣りをするのは今回が初めてではなく、幾度も経験していることだった。
 そんな中、ふと彼の視界の隅に何かが映る。次郎はその何かがある方角を注視してみると、波打ち際からかなり離れた砂浜に奇妙な物体が打ち上げられているのを見つけた。
 興味本位がくすぶられた次郎の足は勝手に動いていた。
 奇妙な物体へ近づいていくにつれ、それが乾燥した海藻のようなもの塊であることがそれとなく分かってきた。しかし、目と鼻の先まで近づいてみると次郎にはそれの全貌が逆に掴めなくなってしまった。
 それは乾燥した海藻の塊でなく、海藻が長い髪の毛のように幾重にも連なって全身から生えている小さな女の子だったのだ。人の姿であることに違いないが、顔から伺える肌色は白に限りなく近い淡緑色で、人ならざる者であることは明白だ。
 意識を失っているのか、はたまた既に息絶えてしまっているのか。それはピクリとも動かなかった。
「もしかしてこの子は妖怪……なのか?」
 ―妖怪。美しい乙女を象った異形の魔物のことを、次郎の住むジパングではそう呼ばれていた。彼女らはジパングより外の国では禁忌の象徴としての認識が強かったが、殊この国においては比較的馴染みのある存在である。
 次郎も妖怪のことはそれなりに知っていたが、彼の目下で横たわっている少女のような種族は今まで見たことがなかった。
「み……ず」
「……まだ生きてるのか?」
 次郎の目には生気を全く感じさせない様子の少女だったが、耳を澄ましてみれば微かに声を絞り出しているのが確かに聞いて取れた。衰弱はしているが、この子はまだ助かる見込みがあるかもしれない。
 人の命も妖怪の命も平等に尊い。次郎は柄にもない説法を自身に説き、この妖かしを死の淵から救い出すことを決意した。
 彼女の口から出た水という単語を聞き逃さなかった次郎は、ひとまず手元にある水筒を飲ませる。
「ほら、水だ」
 少女のこじんまりとした唇に水筒の穴をあてがい流しこむ。半分ほど溢れてしまったが、わずかに波打つ喉元を見てしっかり水を飲んでいることを確認しつつ、手持ちの全ての水筒の中身を惜しみなく少女に分け与えた。
「も……もっ……と」
「待ってろ。俺の家にまだある」
 もはや手元に飲み水となるものは無く、かといって海水を飲ませるわけにもいかない。あとは自宅で介抱することにした次郎は、彼女の身体に付いた砂が着物の中に入ることも厭わず、急いで背負い込んで少し早い帰り路につく。彼女は年頃五つか六つほどのその幼い見た目どおり軽かったため、次郎が浜辺から家に運ぶまで難儀はしなかった


*


「目が覚めたようだな」
 布団に少女を寝かせてから十数分、意識を取り戻したらしい彼女は上体を起こして、周囲を見渡している。無事な様子の彼女を見て次郎はほっと胸をなで下ろした。
「ここは……どこ?」
 少女は開口一番にそう言う。
 霞に溶けて消え入りそうな小さな声だったが、その声色は鈴を転がすように上品で、次郎は一瞬、聞き惚れてしまう。暗い表情と全身に連なって覆う海藻もあいまって陰気だが、顔立ちは精巧な人形のごとく整っており、神秘的な印象をも受ける美少女である。
 しかしながら、次郎は彼女の姿に違和感を覚えていた。砂浜から運んだ時は五、六歳の幼女だったが、今は十歳ぐらいの年頃に見える。水分を補給した影響で海藻が膨らみ、かさを増していることと何か関係があるのだろうか。
「あの……もしかして……。あなたが……わたしを……たすけて?」
「そうだ。俺は浦田次郎。次郎でいい。そしてここは俺の家だ」
「ジロー……」
「君の名前は?」
「わたしは……シイナ……」
 シイナ。そう名乗った彼女は今に至る経緯を次郎におずおずと語った。
 彼女は『フロウケルプ』と呼ばれる、普段は海の底に根を張って過ごしている大人しい種族で、現在は海流に乗って流されるだけの気まま旅の最中らしい。しかし、彼女は旅の途中に嵐に見舞われてしまい、巨大な波に呑まれ、気が付けば砂浜に打ち上げられていたという。
 彼女は再び海に戻ろうとしたが、打ち上げられてからあまりに時間が経ちすぎていた。その間容赦なく照りつけていた太陽の光ですっかり身体が干からび、手足に力が入らず一歩も動けなくなっていたとのことだった。
「あの……わたし。あのままだったら、きっとしんでいた……。こうしているのも、ジローのおかげ……。なんておれいをしたら……」
「お礼なんていいよ。でも、無事でホントよかった」
 そう言って次郎は悪びれる様子もなくシイナに優しく微笑んだ。うつむきがちな彼女の顔がほんのりと赤らんでいたが、次郎は知る由もない。
「元気になるまでここでゆっくりと休んでていいからさ。とにかく俺はこれからまた浜に戻るわ。今日は頑張ってたくさん飯を調達しに行かないとな」
「……ありがとう」
「それじゃあな」
 とにかくシイナの様態が回復したことに一安心した次郎は、気を取り直して釣り道具を片手に、再び海辺へと赴こうとする。
 ところが、その去りゆく背へと熱い視線を浴びせていた少女が彼を呼び止める。
「あっ……まって……」
「……?」
 次郎が振り向く。シイナは視線を泳がながらもじもじとしていた。
「どうした?」
「あの……あの。こ……」
「こ?」
「こ、こっち……来て……」
 次郎は要求の意図が読めず頭上に疑問符を浮かべたが、彼女はどうも落ち着きがなさそうな様子だったので、あえて何も聞かず素直に従うことにした。
「もっと……」
「もっと? こうか」
 シイナが座っている布団のそばに立っていた次郎はゆっくりと腰を下ろす。二人は同じ視線の高さで向き合った。
「うん……これで……いい」
 するとシイナは次郎の顔に急速に迫った。唇と唇が一つになった。
 あまりの突然の出来事。次郎の思考回路が止まった。
 目と鼻の先には少女の淡緑色の艶やかな肌、口の中にうねる舌の感触。
 すごく気持ちいい、悪い気はしない。しかし危うい。彼は脅威から逃れる野生動物のごとく反射的に飛び退いた。
「い、いきなり何を!」
 うろたえる次郎を逃がさんとばかりに、シイナは身体に生えた海藻を彼の四肢へと素早く伸ばして捕らえると、そのまま自分の方へと引き寄せる。彼とシイナの身体は互いに向かい合うよう密着した。
「だめ……にげちゃ……」
 まるでおいたをする子を優しく叱る母のごとくささやき、シイナは再び唇を奪う。
 口内に柔肉が侵入する感触がよみがえる。
 次郎は妖かしの少女から逃れようと試みるが、四肢を拘束する海藻によって阻まれてしまう。海藻の表面を覆う粘着質な分泌液が手首足首に絡みつき、まるで鳥黐(とりもち)に捕われたかのように彼は身動きが取れなくなった。
 やがて、彼の口内を堪能していたシイナは唾液をすすり始める。じゅくじゅくと音を立てて吸い、行き届かないところは舌で舐めとるよう掻き集め、余すことなく口の中の水分を根こそぎ奪ってゆく。彼女は喉を小気味よく鳴らしながら唾液を飲み続けた。
 シイナは唾液を吸い尽くすだけ吸い尽くしたのち、ようやく次郎を解放する。次郎の口の中はカラカラに干上がった状態だ。
「ジローのおツユ……おいしい……」
 シイナは頬を紅潮させ、うっとりと恍惚する。その双眸の深緑の瞳は欲望の火を灯していた。
 世には多種多様の妖怪が居るが、彼女らにはある共通の性質があるということを、かつて次郎は里の人間から聞いたことがあった。
 彼女たちは人間の男と結ばれることを何物にも代えがたい至上の喜びとしている。男との出逢いを求めて人に化け、里に赴く者も居れば。時に手段をいとわず無理矢理手籠めにしてしまう者さえいるという。
 そんな彼女らの『性(さが)』を思い出した次郎は、シイナの突拍子のない一連の行動ににわかに要領を得た。
「お、お前。まさか……」
「わたし、じつは『むこさがしのたび』をしているの……。でも、……さがすひつよう、なくなった……。もう、みつけたから……。いのちのおんじんで……とてもやさしい……わたしのおむこさん……♥」
 シイナはそう言ってまた口と口を結んだ。しかしながら、情熱的に貪るのでなく唇同士でふんわりと触れ合うような、情愛籠もった接吻だった。
 次郎は、一方的かつ積極的すぎるシイナに尻込みしてしまう。だが決して嫌悪感はなかった。むしろ彼女のような美少女に求められるのは男としては嬉しかった。いかんせん展開が唐突すぎるため気持ちに整理がつかず、今のところ当惑せざるをえないのである。
 ――もしかしたら、自分はとんでもなく厄介な相手に関わってしまったのかもしれない。
 そんな風にぼんやりと考えていると、次郎は目の前のシイナの変化ににわかに気づき始めた。
 シイナは次郎よりも座高が低く彼が見下ろす形だったのが、いつの間にか二人はさほど変わらない目線の高さになっている。ふと、次郎は着物ごしから柔らかくて弾むものが胸に当たる感触を覚えた。
 熱情的な接吻を終えた彼女が顔を離してから、シイナの顔形姿をはっきりと再確認したとき、次郎は浜辺で彼女を見つけたときと家にきてからの変わりようが単なる思い過ごしでないことを確信した。
「んっ……。ジローのおツユのおかげで……やっと……元の姿に……戻れたみたい……」
 彼女はさっきまで確かに年ごろ十ぐらいの少女だった。しかし今や二十の大人の女へと変貌しているのだ。
 顔つきは前の面影を色濃く残しつつも、丸かった輪郭や眼差しがやや鋭くなり、背丈相応に大人びている。声は音階が下がったものの上品な響きは相変わらずである。
 しかしながら、次郎の目を特に引いたのは自己主張の激しいその豊満な二つの果実であった。以前は分厚い海藻が被さって肌を見ることさえ叶わなかった胸元には、あたかも地中から萌芽する筍のごとく、お椀型の大きな乳房が露呈している。
 陰気な少女から一転、鬱々たる妖艶さ漂わす美女と化したシイナ。そんな彼女に心身ともに求愛されている事実を受け止めた次郎は体温がじわじわと上がり、鼓動が早まるのを感ずる。
 次郎はふつふつと湧き上がってくる熱い感情に蝕まれ、目の前の妖かしに夢中になりはじめていた。それは自らの抵抗する意思が弱々しくなっていることにすら気付かせないほどだった。
「ねぇ……私……綺麗?」
 小首をかしげ、上目遣いに次郎を見つめるシイナ。無意識なのか計算でやっているのか。いずれにせよ、次郎の胸をきゅうと締めつけさせた。
「まぁ、たしかに、綺麗かな……」
「ほんとに……?」
「あ、ああ」
「……ふふ♪」
 好きな男に容姿を褒められ喜びを隠せないシイナ。彼女は勢い余って次郎の身体に抱きつき彼を押し倒した。
 次郎の視界が急転し煎餅布団に背中を強く打つ。彼の眼には木造の天井と妖しく微笑みながら見下ろすシイナの顔があった。
「ジローのおツユ……分けてもらったから……、今度は……私のおツユ……飲ませてあげるね……」
 シイナはおもむろに背を向けると、次郎の上半身を滑るように移動する。垂下した海藻が焦げ茶色の着物を通過し、ネトネトとした分泌液を塗布してゆく。生地ごしに生暖かい粘液の感触が伝わり、妙なこそばゆさが次郎を襲った。
 やがて顔面まで到達すると、シイナは肉厚な尻を揺り動かしながら次郎の鼻先へと近づけてゆく。彼の視界に股座の膨らみとそこに咲く秘密の花が目一杯に迫った。
「んむっ!」
「ひぅっ……。……さっきから熱いのが……溢れてきて……止まらないの……。ねぇ……吸って……?」
 そう言ってシイナはねだるように前後運動し、己の秘所を執拗に顔面に擦りはじめる。
 次郎は淫らな白昼夢のようなこの非現実的な状況に、次第に理性が瓦解しつつあった。女がここまでしているというのに、応えてやらねば男が廃る。据え膳食わぬは男の恥。そう言い訳がましく自分に聞かせ、次郎は花弁に口を付けトロトロと滴り落ちる女汁をすすった。
「んっ!」
 シイナは動きを止め、小鳥の囀りのような短い悲鳴を上げる。
 肢体に快感の電流が巡り、ビクンと腰を浮かす。
「ひゃぁうっ……んっ……ああっ!」
 ジュルルジュルと蜜を吸引する卑猥な音と官能的な嬌声が部屋に響き渡る。
 吸引した愛液が口内に満ちる。舌の上にねっとりとした液体が染みわたり、仄かな甘みが口一杯に広がる。女性の愛液は無味無臭だとばかり思っていた次郎は驚きつつ、嬉々として吸いつくのに夢中になった。
 吸う都度、シイナはひときわ大きく喘いで打ち震える。次郎は視界の大半を占めるふくよかな尻臀を両手でわし掴みたくなる衝動に駆られたが、生憎様ねばりつく海藻によって両手が雁字搦めにされ布団にへばりついている。彼はそんなもどかしさを晴らすように、より激しく吸い付いた。
「んんんっ! ……だ、め……っ! ……んはぁっ!」
 シイナの声が色めき立つ。彼女は瞼をキュッと結び、苦し気に身悶えた。
 彼はそんな彼女の反応の良さにちょっとした感動を覚える。喉の渇きはとうに癒えていたが、それでも吸うのを止めなかった。
「あんっ! そ、それ……以上……したら……! もう……! おかしく……なっちゃ……! あっ……ああっ!!」
 先より増して声をうわずらせるシイナ。気分が昂ぶり、調子に乗った次郎はすするだけに飽きたらず、花弁の内側にある桃色の皺の隙間へと舌をねじ込み、突き入れた。
「ひゃあんっ! な……なにか……はいって……」
 突然の異物の侵入に戸惑うシイナ。
 そんな彼女をよそに、次郎は膣内に入れた舌をさらに奥へと忍ばせ、暗闇の中手探りするよう周囲を舐めはじめた。
「だ、だめ……! だめ……! だめぇ……っ!!」
 シイナは許容を超えた快感に怯え、駄々をこねるように繰り返し訴える。しかし、裏腹にその表情はもっと欲しいとばかりに切なげだ。
 普段の彼ならば、女の天邪鬼を真に受けて止めたかもしれない。しかしながら理性が損なわれ、もはや歯止めの聞かなくなった状態。聞く耳をもつことは無かった。
 そうしているうちに、人でいうところの恥骨の裏側あたりをうねる柔肉が掠める。刹那、強烈な快感が女体に閃いた。
 その衝撃は彼女を絶頂の境地へと至らしめるに充分だった。
「――っっ♥♥♥♥」
 全身に熱い塊が駆け登り、弾け飛ぶ感覚が彼女を襲う。
 背筋をピンと張りつめ、しばしのあいだ硬直する。
 フワフワと宙を浮くような多幸感が彼女の心と体を包む。
 秘所からは蜜が怒涛のごとく溢れて氾濫し、その量の多さを処理しきれなかった次郎はつい口を閉ざしてしまうと、行き場を失った蜜が唇から顎を伝って首元まで垂れ落ちた。
 やがて硬直が解け、ふっと体の力が抜けたらしい彼女はそのまま次郎の腹の上にグッタリもたれた。
「はぁ……はぁ……」
 息も絶え絶えに甘い幸せの余波に浸るシイナ。海藻からは異常なほどの量の粘液が分泌し、次郎の着物をぐちょぐちょに濡らしてゆく。涼しい薄緑色だったその両頬は今や健康的な朱色に染まっていた。
「さ、さすがにやり過ぎたかな……? すまん……」
 彼女のあられのない姿を目のあたりにして戸惑った次郎は、行き過ぎた真似をしてしまったことへの反省を意を示す。
「う……ううん……。いいの……、すごく……気持よかった……から」
 申し訳なさ気に眉を八の字にする次郎。こんな時でさえ自分に気遣うそぶりを見せてくれる次郎を、シイナはますます好きになった。
「ふふ……、ジローの……あそこ……。すんごく……大きくなってるね?」
「そりゃあ、ねぇ。こんな事になってしまえば、こんな風にはなるさ……」
 彼女に指摘された通り、次郎の息子はすでに着物越しにも形状が分かるほどパンパンに膨れ上がっていた。
 あれほどの乙女の痴態を目の当たりにして息子が無反応なはずがない。健全な男であればこそ然るべき現象であろう。
「わたしで……コーフンしてくれたんだね……嬉しい……♥」
「勃起してくれたら、嬉しいのか?」
「うん……、そうだよ……。嬉しいよ……だって」
 シイナはそう言いかけると、ぐるりと百八十度回って体勢を変え、対面したままシイナが上から覆いかぶさる形となる。
「私と一つになるの……ジローも望んでくれてるって……ことだから……」
 シイナは海藻を手先のように器用に操り、たどたどしく着物と褌を脱がすと、そそり勃つ男根が露わにする。
「ああっ……やっぱり……太くて……大きい……♥」
 着物から解放された途端、活き良く跳ねて彼女の下腹部にぶつかる男根。彼女は逞しくも熱く滾るその剛直を、色欲に湿った眼差しで見つめた。
「ちょっと待ってくれ。別にその……、挿れるのはいいんだが……。ちょっと間を置かないか?」
 男性器は極度の興奮状態だといつも以上に敏感になってしまう。次郎の分身は、もはや少し触れられただけでも果ててしまいそうなほど瀬戸際の状態であった。もし挿入でもしてしまえば、その瞬間暴発するのが目に見えている。
「ううん……、だめ……。もう……我慢……できないよ……。はやく……ジローと一つになりたい……」
 ところが、極上の逸品を前に涎を垂らしている彼女は次郎の提案を流してしまう。腰を少し浮かして尻をもぞもぞと動かし、そそり立つ肉棒が局部の真下になるよう位置を調整した。
 どちらにしろ次郎は拘束されている上、息子は彼の意思とは逆に早く挿れされろとばかりに天を衝いている。彼女の意思決定を彼が跳ね除けられることは不可能に近かった。
「ふふ……ジローにたくさん、わたしのおツユ……飲ませてあげたから……。次はジローのおツユ……わたしが飲む番だよね……。でも、今度のは……よだれなんかよりも……うんと濃くて……うんと美味しくて……うんと熱い……の……っ」
 彼女は指代わりと思わしき尖った海藻の先端二つで花弁を押し広げると、発色の良い桃色の肉洞が曝露する。そして別の海藻で彼の愚息をそっと掴み、開けた秘壺の入り口を腫れ上がった赤紫色の亀頭で塞ぐようあてがった。その生々しくも扇情的な光景に次郎の両眼は釘付けになった。
「じゃあ……挿れるね……?」
 その言葉を合図に、彼女は剛直に下腹部を突き立てて、腰をゆっくりと沈める。
「ん……んっ」
 蟻の通り穴のごとく狭い道を、硬くせり出たカリ首が抉るように掻き分ける。ヌルヌルの粘液が雄肉と雌肉の隙間を埋める。
 二人は契り合いの官能に静かに呻く。そうして、肉棒が半分あたりまで飲み込んだところで、膣襞が男の象徴の侵入を歓迎するかのようにざわめきだし、彼の分身に絡みついてきた。
「っ!?」
 下腹部に甘い痺れがけ巡る。その時、張りつめた我慢の糸が音を立てて途切れたのが分かった。
 強烈な快楽が迫る。
 彼の視界は真っ白になった。
「あっ、ああああっ!!」
「ひゃぁっ!」
 腰の奥から熱い奔流が肉棒の芯を通過し、分身の登頂部から解き放たれる。
 甘美な快楽ともに白い欲望が噴出し、蜜壺の中に放つ。
 彼女の方も己の中に突如撒き散らされた熱に些か驚いた。
 止められない開放感。次郎は情けない声を上げることしかできない。
「うぅ……はぁはぁ」
 つかの間続いた射精がようやく収まり、意識が復帰する。幾許もなく、冷静な思考と挿入半ばで達してしまったというみじめな事実が次郎を襲った。
「あぁ……やっちまった……」
 次郎は肩で息をしながら結合部からドロリと零れ落ちる白濁を茫然と眺める。落胆している様子の彼にシイナは疑問を抱いた。
「? どうして……落ち込んで……いるの……? もしかして、わたしとするの……いや……?」
 そういってシイナは表情に不安の色を見せる。
「そうじゃないんだ。だって俺、挿れてすぐにイッちまったんだ……。男として情けないよ」
「情けなくなんか……ないよ……」
「え?」
「はやくイッちゃうってことは……それだけ……わたしのナカが気持ちよかったって……ことだよね……?」
「あ、あぁ。そういうことには、なるかな……」
「だったら、嬉しい……。ジローがわたしで気持ちよくなって……くれるの……。情けない……なんて、思わない……。それに、ジローの暖かいおツユがお腹のナカに染みこんでくるの……すごく幸せ……」
 シイナは柔和な笑みを浮かべ、優しく腹を撫でる。交わった相手に慰められて、次郎は少しばかり救われる思いだった。
「励ましてくれてありがとうな。――なぁ、この両手両足のやつそろそろ離してくれないかな? いい加減、浜に戻らないと」
 このまま不完全燃焼で終わるのは次郎にとって名残惜しかったが、これ以上時間をとっては、今日も干し肉の欠片をちまちま噛みしゃぶるだけの寂しい夕食になってしまうのである。
 兎にも角にも、将来のことは後々ゆっくり考えよう。彼はそうひとまず結論付け、今日腹を膨らせて明日を迎えるべく行動することにした。
「ふふっ……。なに……言ってるの……? ジローの……まだ……こんなに元気なのに……」
 シイナに指摘され、次郎は己の分身が未だに彼女の中で盛んに張っていることに気付いた。普段一人でナニを弄った後はすぐさま萎んでしまうのに、今は不思議と勢いが衰える気配が見えない。
「あ……あれ? どうして」
「ジローのアソコも……出し足りないって……おもってるの……かも」
 盛んにいきりたつ肉棒に負けじと、彼女の肉欲の色に染まった双眸が爛々と輝いている。
「わたしだって……まだまだ……足りない……。このまま……終わらせたくない……もん」
 そういって、シイナは挿入半ばの肉棒をさらに奥深くへ押し込んだ。
「ま、まって……、イッたばかりは……!」
 彼の制止も聞かずシイナは腰をゆっくり膠着させると、肉棒が完全に埋まり見えなくなった。
 達したばかりで過敏になった肉棒にヌルヌルの粘液を襞が纏わりつき、淫らに蠢く。強い官能が押し寄せ、次郎の身体がガクンと大きく揺れた。
「ぐ……うっ!」
「んっ……! ぜんぶ……はいっちゃった……」
 シイナは己の秘所に愛する男の熱い根が下ろされている実感に歓喜し、目尻に涙を滲ませた。
 火傷しそうなほどの熱を帯びた膣肉がみっちりと分身の周りを埋め尽くす。それらは別の生き物のごとく蠕動し、肉棒の竿や先端部分を隈なく愛撫する。中途半端な挿入状態だった時とは比べものにならないほどの甘い悦楽が彼に押し寄せた。
「んっ……んんっ……!」
 シイナはもう待ちきれないとばかりに、有無をいわさず腰を動かしはじめた。
「あっ……! んん……あんっ……!」
 彼女が尻を持ち上げると締めつける襞がずるずると肉棒を擦る。亀頭が肉洞の入り口付近に差し掛かった所を折り返し地点にして再び腰を降ろすと、襞が肉棒の挿入を歓迎するかのように絡みついた。
 彼女はその一連の腰を上げては落とすといった上下運動を、粘着質な衝突音を奏でながら小気味よく繰り返した。シイナの動きに連動するように豊かな膨らみが波打つように揺れる。
 結合部の隙間からしどどに溢れる愛液は、中に残っている精液と空気とが掻き混ざり、じゅぷじゅぷと鈍い水音を部屋中に響かせる。抽送の最中に出来た半透明の混濁液は肉棒に塗りたくられ、抜き差しする際に覗く竿部分をてらてらと光らせた。
「んん……あっ……ひん……ああんっ!」
 だらしなく開けた口端からは涎を垂らし、艶めかしく腰をくねらせて官能に乱れ狂うシイナ。
 その身体中の海藻から無尽蔵に撒き散らされる分泌液に溺れるように全身を濡らされ、ヌメヌメした海藻に四肢を縛られ、身動きも取れずに一方的に犯される。そんな状況に倒錯的な興奮を覚えていた次郎は、次第に理性が頭の隅に追いやられつつあった。
 しかしながら、彼は妖かしの娘と契り合っている場合ではなかった。日が暮れてしまう前にどうにかして食料調達をしなければならない。あやふやな理性を振り絞り、この状況を打破する名案を思い起こす必要があった。……が、徐々に速さを増すシイナの情熱的な腰使いによって与えられる官能に、気持ちをかき乱されてしまう。
「はぁっはぁっ……! あんっ! ああっ! ジロー……! すき……すき……っ♥」
 まぐわいの熱と悦楽に身を焦がし、感極まったシイナは愛おしげに彼の名を叫ぶ。そのまま上半身に倒れこみ、顔を近づけてつぶさに唇を塞いだ。彼の口内に矢継ぎ早に侵入した舌が、貪り喰らうようあらゆる場所を手当たり次第に舐め回しはじめた。接吻を交わしているあいだも、ぱちゅんぱちゅんと腰を打ち付ける音は鳴り響く。
 その瞬間。次郎の中でかろうじて形を留めていた理性がとうとう霧散してしまった。彼女の求めに応じるよう、彼もまたシイナの舌を絡めとっていった。
「んっ……んん……んんっ」
 絡みあうように交わる異種族同士の男女。上の口と下の口、その両方で繋がることで、精神的にも肉体的にも強い一体感を得ていた。
「んんっ……んっ……んっ……んっ」
 上に乗っていたシイナは、腰を上下に揺すぶる動きを前後運動へと変える。シイナは次郎と肌と肌で触れ合うため、抽送をしながら海藻を使って器用にも彼の衣類を脱がしてゆく。着物がはだけると、彼の筋骨隆々とした胸元が露呈する。
「ん……! んんっ……!」
 シイナは上半身を密着させ、ヌルヌルの粘液を塗りたくるように前後に上滑りする。ふんわりと弾力のある双丘が彼の硬い胸板の上で柔軟に押し潰れた。
 頭頂部にあるぷっくり膨れた乳首が男の胸の突起に引っ掛かり、新たな刺激と快感が両者に与えられる。
 接着剤のような粘っこい分泌液によって二人の身体がぴったりと張り付き、体温を共有しあう。あたかも身体そのものが性器と化して、互いに全身で性交しているのではないかと錯覚させた。
「ふはっ……! ジロー……♥……ジロー♥……ジロー♥♥」
 長い長い接吻を終えシイナは切なげに彼の名を呼び続け、とろんと蕩けた顔を彼の首の横へもたれる。そして、全てを委ねるように全身の海藻を次郎の身体に巻きつけると、ミイラのように海藻が隙間なく覆った。
 シイナは自らを次郎の身体に固定したまま腰だけをくねらせ、上下左右にこねくり回すように円運動する。
 結合部からぐちゅぐちゅと大量の粘液を掻き混ぜる卑猥な音を立てて、激しく肉棒を責め立ててゆく。
「んんんっ!……すき……♥ すきっすきっ♥」
「はぁはぁ……うっ……! し、シイナ……! だ、だめだ……! 俺……! で、出そうだ……!」
 腰の奥底から射精感がじわじわとこみ上げる。次郎は二度目の我慢の限界が近づいていることをありありと感じた。
「いいよ……! 出して……! 今度は……わたしの……いちばん大事なところに……っ! ちょうだい……! ジローの……ぜんぶ……!!」
 そういってシイナが力一杯に腰を深く落としこむと、分身の先端に弾力のある肉壁がぶつかり、グイグイと圧迫する。そして強く抑え込んだまま小刻みに揺すり、まるで吐精をせがむように亀頭を刺激した。強烈な悦楽が次郎を襲う。
「ああっ! も、もうっ!! で、出るぅ! 出ちまうぅ!」
「いいよっ♥ ……出してっ……出してぇっ♥」
「ああ!! ああああああ!!!」
 そのとき、彼の射精をせき止めていた何かが決壊する。
 悩ましげな咆哮とともに次郎の意識が白く染まり、強烈な開放感を伴って欲望の塊を彼女の胎内に吐き出した。
「ああああんっ!! 出てるっ……出てるっ! ……んっ! ……ジローの……濃い……白いおツユ……! ――っ♥♥♥♥」
 膣内に深々と穿たれた肉棒が大きく脈動する。ビュルビュルと勢い良く噴出した子供の素が肉壁へぶちまけられる。熱く滾るものがお腹の中に叩きつけられ満たす感触に迸った彼女は、彼に釣られるように声のない絶叫とともに快感の頂点に達した。
 思考が弾け飛び、名状しがたい心地よさがシイナの全身に駆け巡る。胸から溢れんばかりの情愛のままに彼に強く抱きつくと、膣壁がきゅうと収縮しはじめる。あたかも一滴の漏れも許さんとばかりに蜜壺が狭まって肉棒をキツく締めつけ、長く吐き出され続ける精を余すことなく搾取した。
「はぁ……はぁ……」 
 数分出し続けたのではないかと思わせるほど長い長い吐精が終わる。すると、膣内射精を果たしたという達成感と重い疲労感がどっと押し寄せ、次郎の意識が戻る頃には息も絶え絶えとなっていた。
「ん……ふふ……♪」
「はぁ……し、シイナ……もういいだろ……? そろそろ、離して……くれ」
 幸せそうに破顔するシイナに、次郎は請うように頼んだ。
「だーめ……♥」
「――なっ!」
「まだ……まだ……足りない……もっと……もっと……っ」
 しかしながら、シイナの眼差しに宿った欲望の火は未だ消えないでいた。彼女は再び腰を上下に動かしはじめる。
 一体自分はいつになったら彼女の淫らな呪縛から解放されるのだろうか。萎えることを知らず、硬さを維持する欲張りな分身を恨みつつ、彼女とのさらなる饗宴へ身をやつしていくのだった


*


 シイナが満足し、彼を解放する頃には既に日が沈みかけていた。体液まみれの床や布団が窓格子から差す橙色に照らされ、煌めいている。
 次郎は行為のあとの生臭さ漂う布団の上で大の字になり、途方に暮れていた。今から浜に釣りに行っても充分な食料調達は果たせそうにない。
「ふふ……気持よかったね……ジロー……」
 次郎の傍らで添い寝しているフロウケルプ族の娘シイナは、彼の顔をうっとりと見つめていた。
 今晩の食料のこともそうだが、彼女の存在もまた悩みの種だった。
 一度や二度ならまだしも、もはや数えるのを放棄するほど彼女の中に種を注ぎ込んでしまった。彼女の種族が人間との間に子供を授かれるかどうかは分からないが、男としての責任を果たす覚悟をしなければならないだろう。
 もっとも、仮に心を鬼にして彼女を突き放そうとしたところで、海底に根を張り荒波にも耐え忍ぶ海藻のごとく、自分の元を離れそうにもない。
 ――さて、どうしたものだろうか。
 検討の付かない問題に対して頭を抱えている中、次郎の腹の底から虫が鳴った。
「はぁ、腹減ったなぁ……」
「ジロー……お腹……減ってるの?」
「ああ。朝からまともなもの食べてないんだ」
「そうなんだ……。……なら……これ……、あげる……」
 そう言うとシイナは自らの海藻をちぎって、次郎の前に差し出した。
「こ、これ……、食えるのか……?」
 次郎の問いにシイナはコクコクと頷いた。
 手のひらほどの幅があり比較的厚みのある濃緑色のそれは、表面にヌルヌルの粘液が滴っている以外は普通の昆布やワカメといった類と相違ないように見える。
 しかしながら、それは未知の妖怪の身体の一部であり、さっきまで彼女の意思によって自在に動き、彼を縛っていた得体の知れないものである。口にするのは抵抗があるだろう。
 次郎は受け取ろうか否か迷ったが、頭と体が腹の空きを訴えるように悲鳴を上げている。
 次郎は一か八か目の前に掲げられている海藻を手に取り、おそるおそる端を齧ってみた。
「……!?」
 そのとき、次郎の脳内に稲光が瞬くような衝撃が走った。
 単刀直入に言えば、彼女の海藻は信じられないほどの美味だったのである。
 一口齧るだけで分かる、海藻とは思えないほどのコクのある旨みと絶妙な塩味加減。
 普通のワカメの倍はある厚みを噛み潰す心地よい歯応えは、普段食べている干し肉に負けないぐらいの食いでがあった。
 また、粘液の仄かで控えめな甘みが地の塩味を引き立てるいい塩梅となっている。
 次郎は無言で海藻をむしゃぶり喰らいついた。
「もう一個」
「はい」
 次郎は貰った海藻を全て胃袋に収めるとシイナにおかわりを要求する。彼女は一つ返事で、また海藻をちぎって次郎に渡した。
 男を掴むなら、まず胃袋を掴め。とはよく言ったものだが、よもや既に胃袋を掴まされかけているのではなかろうか。そうなると、いずれ心まで掴まされるのも時間の問題なのではないかと、絶品の海藻を幸せそうに咀嚼しながら思いふける次郎であった


*


「シイナ、今帰ったぞ」
 次郎は帰宅早々、藁葺の屋根の上に仰向けになっている妖かしの娘に呼びかける。
 声に気付いたシイナはつぶさに起きて、屋根の上から彼目掛けて飛び降りる。落下する彼女を次郎は両手で支え、抱き上げた。
「おかえり……ジロー……」
「ただいま」
 二人は愛おしげに見つめ合うと、くちづけを交わす。
 次郎とシイナが出会ってからひと月の歳月が経過していた。
 一つ屋根の下で暮らしながら愛を確かめ合っているうち、いつしか二人は自他共に認める夫婦となっていた。もっとも、公な挙式はまだであったが、夫婦としての固い絆は二人の間に確かに紡がれている。
「それにしてもシイナ。幼くなってるけど、また光合成し過ぎたのか?」
 次郎はお迎えのくちづけを終え地面にシイナを下ろすと、彼女を頭一つ分見下ろす形となる。シイナの体は本来の姿である二十歳頃の背丈でなく、十歳ほど若返ったように縮んでいた。
 彼女らフロウケルプは光合成で生きていくために必要な栄養を作るため、たびたび屋根の上で寝転びながら日光浴をする。
 しかしながら、一緒に体の水分も飛んでいってしまうため、あまり長期間光合成をしてしまうと今の彼女のように背丈が縮んで容姿が幼くなってしまう。
 彼女はどこか抜けている性格なので、光合成をしているうち太陽の暖かさに次第に心地よくなってうっかり寝すぎてしまい、次郎が家に帰ると幼くなった姿で出迎えるという事がたびたびあった。
「ううん……ちがうの……。きょうのばんごはん……キジなべにしようって……いったから……。わたしのかいそう……かんそうしていると……いいだしがでる……」
 彼女の体に連なる海藻を見やると、普段より色合いが薄くなりカピカピに干からびている。次郎は家を出る時、昨日捕まえたキジと里の人からお裾分けしてもらった野菜で今晩鍋を作ろうとシイナに告げていた。
「やさいも……キジのおにくも……ちょうりしてある……。あとは……わたしのかいそうをいれて……にこむだけ……」
 二人で暮らし始めてからはシイナが料理を作るようになっていた。
 最初のうちは次郎が手取り足取り教えていたが、彼女の飲み込みは存外に早く、今となっては彼の腕を凌駕するほどの上達ぶりだった。とくにシイナの海藻で出汁を取った味噌汁は次郎の大好物である。
 そんな彼女の作るキジ鍋。出汁の旨みが増すらしい乾燥した海藻を煮込む算段もあって、すごく美味いキジ鍋が出来上がりそうだ。次郎は思わず喉を鳴らした。
「そうだったのか。準備のためにわざわざこんな姿になってまで……。ありがとな」
 次郎は屈んでシイナと視線を合わせ、頭の上を撫でる。
「こどもあつかい……しないで……。わたしだって……いちおう……りっぱな……オトナなんだから……」
 そう言うとシイナはムスッとした表情を浮かべる。その見た目の幼さと相俟って、何だか微笑ましい。
「ああ、ごめんごめん。今の可愛らしいシイナを見てると、思わず頭を撫でたくなって」
「……もう」
 シイナは頬を膨らましてそっぽを向く。とはいえ、顔が赤らんでいるため満更でもなさそうであった。
「それより……、まだ……ばんごはんまで……じかんがある……よね?」
「ん? ああ、そうだな」
「……はやく……ジローに……もとのすがたに……もどして……ほしいなぁ……なんて……」
 次郎に擦り寄り、ねだるように言うシイナ。さっきまでの幼さは鳴りを潜め、表情からは妖艶な雰囲気を醸しだす。次郎は彼女が言わんとすることを理解した。
「……わかった」
「ふふ……やった……♪」
 次郎が了承の意を示すと、シイナは嬉しそうに乾いた海藻を彼の体へと巻き付かせる。
 果たして今日中にキジ鍋が食べられるのだろうか。
 そんな淡い期待に思いを馳せながら、次郎はシイナとともに二人の愛の巣へと赴くのであった
16/02/16 20:42更新 / たけかんむり

■作者メッセージ
 最後まで読んで頂き、ありがとうございます!
 ご無沙汰の投稿となりました。たけかんむりです。
 カラッカラに干からびた海藻が「何故こんな場所に?」と言いたくなるような変な場所に打ち上げられてるのってあるよなぁ。――なんて、海に行った時のことを思い出しながら書きました(?)。
 フロウケルプはジパング固有の魔物娘ではないのですが、海流に乗って漂った果てに辿り着いたジパングでお婿さんと邂逅。というシチュもアリだなと思い、あえてジパング舞台にしてみました。
 和風モチーフは好きで結構楽しく書かせてもらったのですが、基本的に横文字表現がNGで使えないのが辛いところですね(でもそこがいい?)
 ではまた

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