連載小説
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その名はキャラバン「カガリビ」
 ある時、反魔物領地域の国に一人の勇者と補佐として二人の騎士がいました。
勇者は不屈の闘志とタフな肉体、それと二本のF字型のロッドを自在に操り、対峙した者の武器を破壊し、それでも諦めない者には四肢を砕き戦闘不能にする鍛冶師と医者泣かせの勇者、付いたアダ名が『破壊勇者』ハイド。
一人の騎士は弓の名手で自分に飛んできた矢を掴み取り射返すのは当たり前、1秒に3本の矢を放ち、柔軟な肉体を利用した回避からの近距離戦闘が一番得意な初見殺しの弓手、スコッド。
もう一人の騎士は巨大な身体と並の魔物娘達では敵わない怪力、それと非常に強固な盾を使い他の二人の文字通り鋼鉄の壁となる料理が好きな心優しき騎士、アル。


 この三人は幼馴染で、小さい頃から野を駆け回り、川で遊び、勇者に憧れて必死に努力しました。
しかし主神からの加護を受けたのは一人だけでした。
三人に親しい勇者や騎士達、町の人々は残りの二人が心配でしたが・・・。

「なれなかったものは仕方ないさ、だがアイツ一人だと心配だから手助けしてやるさ!」

「そういう事なんだな」

と、勇者になれた友を妬む事も恨む事も無く、自分に出来る事をやり始めました。

 
 彼らの国は別の反魔物国家や山脈に囲まれていて、主にその国と戦争していたため、魔物達と戦う事はまずありませんでしたが、任務で魔物領地近くの国の大臣に重要書類を渡すために三人は険しい山道を進んでいました。
しかし突如、虫か貴様ら!と言いたくなる程、多くの盗賊たちに襲われてしまいます。
普段ならハイドが片腕でも蹴散らせる奴ら、しかしこの時ハイドは身体を壊していたのです。

「二人共、俺が足止めするから先に行って欲しいんだな」

アルはそう言って盗賊たちを殴っては投げ、掴んでは投げ。
その様子を見て安心したスコッドはハイドを抱え、進みます。
細い山道に巨大な男、盗賊たちは無理と悟り引き返していきます。

「ふぅ、やっと諦めてくれたんだな」

アルは安心して、二人を追いかけようと思った時にスコッドが戻ってきてくれました。
ハイドを途中の小屋に休ませて居ると聞き、二人でそこに行こうとした・・・その時。
アルの足元が崩れ、落ちてしまいました。
スコッドがアルの腕を掴みましたがアルの体重と鎧の重さは合わせて大人数人分、それを掴み続けれるわけも無く。
アルは崖の下の森まで落ちてしまいました。


並みの衝撃なら吸収してくれる鎧と柔らかい木々が緩衝材になってくれたお陰でアルに大した怪我はありませんでしたが、頭をぶつけてしまい意識朦朧のまま森の中を歩きまわりました。
深い森の中、時間はおろか方角すらわかりません、そしてそのまま気を失ってしまうのでした。






「ん・・・朝、なんだな」

小鳥の仲の良さそうな囀りと日の暖かさで目が覚める。
起き上がろうとした瞬間、腹部に違和感を感じて頭だけ動かして確認する。
そこには俺の腹を枕にしてすぅすぅと可愛らしい唇から寝息を立てている女性が居た。
周りの物は一切濡れていないにも関わらず女性の身に纏っている衣服や髪だけが濡れている、身体を猫のように丸めて寝ている体勢で見慣れない衣服が水分でぴっちりと張り付いており首元が見えて思わず目を逸らしてしまう。
起こそうにもこれだけ気持ちよさそうに眠られていては気が引けてしまい、起こす事も出来ないので見える範囲で状況の確認をする事にした。
物置を使用した部屋なのか自分が眠ってるベッドのような物以外だとクローゼットと姿見鏡、それとずいぶんと脚の短いテーブルとクッキーみたいに薄いクッションが数枚隅に置かれていて、ドアが一つと窓が側の壁に一つ有るだけだった。
空いている左腕を動かして壁に届くので2m程の自分の身長も考えると2,5m〜3m四方の部屋みたいだ。
窓枠に小鳥が止まって自分を見ている、どうやらここは平和な場所らしい。
俺を枕にしているこの人が起きるまでもう少し眠っていようかと思ったその時、ドアがバァン!と勢い良く開かれた。

「うぉぉい!起きってかぁ、デケェ兄ちゃん!」

まるで火薬を耳元で発破したような爆音に体が飛び跳ね、眠っていた女性も飛び起きる。
びっくりしたのかオロオロ、キョロキョロと周りを見渡す仕草が愛らしく感じた。
爆音の主はずいぶんと小柄な体に対して身の丈ほどはありそうなハンマーを背負い、腰には様々な工具らしき物が収められたベルトを巻きつけている少女だった。

「おう、ちゃんと起きてるな!」

テコテコと可愛らしい擬音が鳴りそうな歩き方で俺に近づいてじっと見つめてくる。
とりあえず、自分のこの状況を考えるとこの子達に助けてもらったのは明白だ。

「助けてくれて、ありがとう・・・でいいのかい?」

するとハンマーっ子はケタケタとおかしそうに、けど眩しく笑って否定した。
なんだか近所の子供達と遊んでる時の様な感じと、鍛冶師のおっちゃんと酒を飲んでる時の笑いがごっちゃになっている・・・そんな風に感じた。

「カカカッ、私じゃないさ!そこの私の声でびっくりしてまだオロオロしてる娘・・・霞って言うんだけど、山沿いの森で全身の鎧をベッコベコに凹ませてぶっ倒れてるアンタを見つけたんだ」

「そうか・・・ありがとうなんだな。俺はアルって言うんだな」

「ヒャィ!?い、いえ・・・私は見つけただけで、鎧を外したり傷の手当をしたのは他の方ですし・・・」

霞と呼ばれた女性は後ろに勢い良く下がり、そのまま壁に思いっきり背中をぶつけたがベチョと変な音がした以外は大丈夫だったみたいでそのまま話してくれた。
声は物に例えるなら絹糸みたいにキレイで細く聞こえ、なんというか俺の国だと男勝りな女性ばかりだったから一挙一動、その全てが何かの踊りみたく思えた。
全身を軽く見ると、たしか東の地方の着物という服を着ていて、生きた人とは思えないほど白く艶のある肌が着物の裾から見えて思わず視線をずらす。それとやはりこの人だけが濡れていた。
外は晴れているから雨漏りなはずはないし、第一あそこまで濡れてしまうのは滝で水を被るでもしないとならないはずだ。

そんな風に霞さんをちょっと見ていたらハンマーっ子がこれまた大きな声で言う。

「なーに言ってんだい、傷の手当は他の娘がやったがこうやって兄ちゃんが目が覚めるまでの2週間、付きっきりで看病したのはアンタじゃないか」

「に、2週間!?それは本当なんだな!?」

「あぁ、そうさ」

「俺、親友を助けるために盗賊と戦って、追い返した後に合流しようとして崖から落ちてしまったんだな!早く俺が無事だって事を知らせたいんだな!」

そう言うとハンマーっ子は苦虫を潰したような顔で俺から視線を反らし、霞さんと視線を合わせる。霞さんは困った顔でハンマーっ子と俺を交互に見ている。
そして霞さんから口を開いた。

「えっと...アルさん。窓の外を見ていただけますか?」

そう言われ、窓を覗いてみる。
そこには・・・。

「なっ、なんなんだな...これ」

窓の外には下半身が蛇の女性や狐の尻尾が何本も生えている女性にたくさん荷物を背負ったタヌキっぽい娘、挙句の果てには一つ目の女の子と仲睦まじそうに肩を並べて歩いてる男性・・・。
何がどうなっているのと聞きたくなって、勢い良く二人の方を振り向くとハンマーっ子が片手を額に添えて、いかにもがっくしという感じになっていた。

「...その感じだと魔物娘を初めて見たんだね、いいかい、一気に情報詰め込むから落ち着きな」

魔物娘?魔物なら倒すべき相手と教えられているけど娘?
とにかくその一言でも整理出来ないというのに、次の瞬間とんでもない情報がなだれ込んできた。

「まず私は『ドワーフ』のルルー、こっちが『ぬれおなご』の霞ちゃん...どっちも魔物娘さ、そして今兄ちゃんが居るこの場所は・・・様々な村や町を移動しながら旅するジパング地方の魔物娘達のキャラバン、名前を『カガリビ』さ」

色々詰め込まれた結果、聴き終わった数秒後・・・俺は気絶してベッドに逆戻りとなった。
薄れゆく意識の中、霞さんの俺を揺する手の心地よい冷たさという彼女が人間ではない事の決定的な証明を叩きつけられた気がした。

「ついでに現在位置はアンタがぶっ倒れてた所から東に数百キロさ」

あまり聞きたくなかった事実は闇に染まってく視界に比べてあまりにもはっきりと聞こえてしまった。







大地に降り注ぐ眩しい太陽、頬を撫でてくれる心地良い風、今日も賑わうキャラバンを楽しんでくれる人々・・・いや、男と魔物娘達のワイワイと楽しそうな声。
それを聞きながらキャラバン皆の布団を洗濯して、地面に突き刺した棒と棒の間に張ったロープに干す。
霞さんとルルーからこの光景を見せられ、勝手に気絶した俺は数時間後無事に目が覚めて改めて状況を聞くことになった。

このキャラバンは魔物たちの住む地域を魔界豚という生き物にお店や住居スペースを引っ張ってもらって移動して商売しているらしい。
途中で旅人と出逢えば足を止めて宿屋や旅の道具の準備をしたり、町から町へと移動したい人達も連れて行くらしい。
そして、自分が教団の騎士として聞いていた魔物とは全く違う魔物娘という存在。
見てびっくりして、知ってびっくりだったけれども人間を本当に殺すという行為は一切行わない、人間の女性を魔物化してしまうと言うのはあまり好きになれないが倒すというか殺すべき相手だとは思えなかった。
人間の男を自らの夫として全身全霊で愛する異形の女達・・・はっきり言ってこの状況になったのが俺でよかったと思う。
俺の親友の勇者はこの光景を見た瞬間武器を振り回して暴れまわるだろうから...。
しかし、俺が騎士だって事は分かっていて拘束することもなく看病して姿を見せたのはどうしてか?とルルーに聞いた時、思わず崩れ落ちた。

___

「んぁ?そりゃお前がぐーすか寝てる時に何処までも優しいやつって感じたからだよ、特に女は殴らなさそうだし」

「そ、それは喜んでいいのか悪いかわからないんだな」

「わたしゃぁ褒めてるつもりだがね、先客が居なけりゃ惚れてたよ」

「?」

「そうだ、アンタの鎧と盾・・・修理は暫く掛かるけどいいかい?」

「タダで直してもらえるんだから文句なんて言えないんだな」

「ありがとよ」

___

一目見て一切言葉を交わしていないというのに自分の考え方を見透かされていた時は思わずずっこけてしまった。
自分がそこまでわかりやすいのかそれとも魔物娘の男に対する目がすごいのかは分からないが敵か敵でないかの見極めを意識のない相手にやって絶対の自信を持っているというのがすごいと思えた。
もし失敗していたら誰かが怪我をしていた・・・と言うのはあまりなさそうだが、このキャラバンの物を壊していたかもしれないし。
俺からしたら魔物娘のほうがよっぽどお人好し、というより男好しだ。

等と思いながら最後の布団をロープに掛け、クリップで固定する。

「アルさん、お疲れさまです」

「あ、霞さん。それじゃお願いしますなんだな」

歩くと言うよりは滑るようにして霞さんは俺が最初に干した布団の側に行く。
霞さんはぬれおなごというスライムの仲間の種族らしく、その特性は伸縮自在の体とずば抜けた擬態能力による自らが着る衣服の作成、といってもぬれおなごが作る服は水に濡れた状態しか作れないため今日のような晴れた日だと目立ってしまうのが難点らしい。
そして彼女たちの最大・・・と言っていいのか分からないが特技。

「それじゃ、はいっ!」

霞さんが干していた布団の両端を掴み、皺を伸ばすように一気に引っ張った瞬間、布団の水分が霞さんに吸収されて一瞬のうちに布団が乾いてしまったのだ!
何度見ても手品のようにしか見えないそれを次から次へとやってのけて10枚以上はあった布団が1分立たずに全て乾燥してしまった。

「何度見てもすごいんだな〜」

「うふふ、私がキャラバンの皆のために出来る事の一つですから」

えっへんと胸を張る霞さん。

「本当に魔物娘達との交流が無いと言うのは勿体無いことなんだな、見たこと無い技術や俺達の街じゃまず見られない様な道具もあってすごいんだな」

「まぁ、皆えっちが大好きすぎるのが玉にキズですけどね」

「あはは・・・そういえばそうなんだな」

・・・そうやって言うということは霞さんも好きなのだろうか?
初めは人間はおろか肉体も持たない液状の生物...と聞いて驚いたりはしたけれど、こうやって話したりする分には所々とろとろしたり歩いた所が湿ったりする以外はそこまで可怪しく感じない。
水分を抜いた後の布団をお日様に当てるため、皺を丁寧に伸ばしている霞さんを眺めていたらふと目が合ってしまい、視線を逸らす。
顔は赤くなっていないか自分の顔に手を当てて確かめるがよくわからない。
胸のドキドキというか、霞さんをこう・・・ずーっと見ていたいというか側に居たいという感情がこみ上げてきている所からして、どうも...好きになってしまったみたいで。
魔物娘達の特性からして可笑しくは無いのだろうが、それでも出会って1週間経つか経たないか程度の男が恋に堕ちるというのは果たしてどうなのだろうか。

「そうだ、後でアルさんのお布団とかもお洗濯しておきますね」

「気を使わなくてもいいんだな、昔から自分の事は自分でやれって母ちゃんから言われてるから大丈夫なんだな」

「あ...いえ、そう...じゃなくて...」

「きゃーーーーーーーーー!」

そんな風に過ごしていた時、何処からか子供の悲鳴が聞こえた。

「魔界豚達を繋いでる場所の方角からです!」

霞さんが悲鳴の方へと走りだすのを見て直ぐ様追いかける。
思わず洗濯かごを持ったまま...。


現場には人だかりが出来ていて、一番近い人に霞さんが声をかける

「どうしたんですか!?」

「おお、霞。俺達の魔界豚たちの所に野生の魔界豚が来ちまって喧嘩してんだよ」

霞さんでは見えないだろうけども、鞍が付いたり金属の蹄を付けられた魔界豚と野生の魔界豚がガツンガツンと巨大なキバをぶつけあい喧嘩している。
野生の方が一回り大きく見える。
それにしても魔界豚というのは俺たち人間の世界からしたら訳の分からない存在だ。
その大きさは小さな小屋程あり、顎からは巨大な剣でも備えているのかと錯覚するほどの牙、そして漆黒の毛に周りを漂うどす黒い魔力。
あの見た目で普段は子犬並に大人しく人懐っこいというのだから凄まじい。
事実俺も餌をあげたりしたら犬みたいにぺろぺろと顔を舐め回されてしまった。

「おーい、男ども。あのまんまじゃ私らの豚が疲れて明日からの移動が遅れちまう、野生のやつを追っ払えんか?」

旦那さんに肩車されているルルーが周りの男達に尋ねるが

「無茶言うな、子供サイズなら俺達数人でどうにかなるがあのサイズだとなぁ」

「んーだい、自信があるのは仕事と嫁を鳴かせることだけかい」

「めんぼくねぇ」

「・・・」

本当に、日々の会話に下ネタが入ってくるな・・・。
などと呆れていたら豚の方で動きがあった。

「ピギィー・・・」

野生の魔界豚が勝ったらしくこちらの魔界豚がゴロンと倒れてしまう。
そこで終わるかと思ったが野生の魔界豚が前足でガザッと地面を鳴らし、僅かに後ずさるのが見えた。
小さい頃から親友とイノシシの狩りをしていたから分かる、アレは突進だ。
あのままだと魔力が守ると言っても怪我してしまうのは間違いない。

「霞さん、これ持ってて」

「えっ?」

霞さんに少しばかり強引だが洗濯かごを渡して、構える。
両足の筋肉に力を一度全力で入れる、痛みはない、これなら行ける。

久々の風を切る感覚、鎧を脱いでいるから分かる肌の感触。
目の前の人だかりを僅かな助走で飛び越し、そのまま立ち止まらず魔界豚達の間へ向かって走る。

「ったく、あんだけの巨体してなんちゅー速さしとるんだ!」

ルルーの声が一瞬聞こえるが、まず言っておこう。
デカイ奴が遅いって誰が決めた!!!
只でさえ親友二人と比べ重武装で移動スピードの遅かった俺は毎日街中を全力疾走して鍛えていたのだ。(とはいっても他の二人を屋根や壁を飛び越す障害物競走状態にして競い、漸く同じ速さだったが)

野生のが突進し始めてた、倒れてる方は起き上がれていない・・・がなんとか間に入ることが出来た。
俺と野生のが接触するのは後数秒。
こうやって向かい合って改めて思い知らされるその巨大さ。
だが、この程度の相手で・・・。

「ビビってたら」

本気で踏み込む、魔界豚が俺を跳ね飛ばそうと顎を引いて丸太のように太いキバを向ける。
迫り来るキバを掴み、全力でジャンプして跳ね飛ばそうと顎を思いっきり上げた魔界豚の勢いに逆らわず上へ飛ぶ。

そして、真っ直ぐ突き進む豚の勢いに加えて俺という重りを取り付けられた魔界豚はその勢いのままぐぐぐと顎が持ち上がる。
魔界豚の前足が浮き、ゆっくりと直立、そのままの勢いで俺は着地して、

「あいつらの盾はやってられねぇんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

魔界豚を一回転させ地面に叩き付ける!!
ズドンという重い音で腹から叩きつけられた魔界豚は何をされたのか分かっていないのかじたばたと脚を動かす。

「む゛ぅうん゛!」

ある程度手加減して魔界豚の下顎と言うよりキバを一発殴りつける。
するとゆらゆらと揺れた後、魔界豚はバタリと倒れた。
どうやら上手く脳を揺らせれたようだ。

「・・・ふぅ、なんとかなったんだな」

もう大丈夫、そう言おうとした瞬間

うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

耳を劈く程の歓声が轟いた。

「おい兄ちゃんすげぇな!その体でどうやってあんな飛んだんだ!?」

「ぶ、豚の顎を跳ね上げる動きに合わせてジャンプしただけなんだな〜」

「さっきの、む゛ん!っていうのもう一回やってくれよ!」

「だ、だめなんだな〜」

あっという間にいろんな人に囲まれてもみくちゃにされてしまう。
ペタペタ触ってくる人の中には魔物娘もいて、身に危険が迫ってる気がして慌てて逃げ出すが追いかけられてしまう。

「あ、ルルー!豚さんは大丈夫!?」

「ああ、擦り傷だけで捻挫とかはしていないし大きな傷は無いみたいだね、アンタのおかげだよ」

「良かったんだなー!」

キャラバンの人達との追いかけっこは夕暮れまで続き、俺が気絶させた魔界豚は次の日解体されることになった。





「いやー、アルはすごいねぇ父ちゃんじゃ出来なかったろ?」

「うっせぇやい、あと10年若けりゃ俺だって」

「んっふっふ、それなら10年若返る位シテあげようか・・・ってちょっと父ちゃん」

「ん?」

ルルーが指差す方を見てみると・・・。

「アルさん・・・素敵(ぽっ)」

霞だけはアルに熱っぽい視線を送っていた。

「...こりゃ」

「このキャラバンに新しい住人が増えるね、父ちゃん」

ドワーフ夫妻は揺るぎない未来を見つけ、くくくと小さく笑った。







野生の魔界豚騒動から2日が経った。
皆は俺のお陰で魔界豚が怪我しないで予定通り進めると喜んでくれたけれども、結果から言うとあの時からキャラバンは一切動いていない。
次の街に付いたら食べようと考えられていた魔界豚の肉の一部をキャラバンの旦那さん達がつまみ食いした結果、性欲が漲って奥さんにダイブ・・・そしてそれぞれの家から一切出てこないのだ。
一つ一つの小屋は防音の魔法がされているため窓や扉が開いていなければ外に音は漏れない、しかし性交時に発生する魔力というのは滲み出てくるもので明らかに小屋の周りが霧がかっている。
マトモに動けるのが独身の魔物娘達数名を除けば男は俺一人、小屋同士の連結の仕方やそれを引いてくれる魔界豚の操縦方法など知る由もなく部屋で筋トレしたり周りの平原を散歩して時間を潰すしかなかった。

「アルさん」

「ん?あ、霞さん」

俺が使わせてもらっている小屋の側でひなたぼっこして寝転んでいたら霞さんが俺の顔を覗いてきた。

「お隣、お邪魔してもよろしいでしょうか?」

「大丈夫ですよ」

静かに俺の隣に腰を下ろして少しくつろぐ霞さん。
ジロジロ見るわけにもいかないので目をつぶる。

「・・・一つ聞いてもいいですか?」

「なんです?」

「どうしてその、なんだな〜って付けて話すんですか?この前の魔界豚の時は普通に・・・というか、キリッと話してくれたもんですから」

言われてみれば霞さんに洗濯かごを渡す時や豚をひっくり返す時に素で話してしまっていたことを思い出す・・・うかつだった。

「どうしてと言われても...俺、見た目がデカくてよく子供に話しかけたり近寄ると泣かれてしまうし国の大臣とかのお話になるとギクシャクされてしまうんで、話し方だけでもなんだなって付けて柔らかくしないと...なんて思っていたんだな。素だとあの時みたいな感じなんだな」

「じゃあ」

「?」

「私と居る時は、素で話していいですよ」

「えっ?」

「本来の話し方ではない話し方なんて疲れてしまうでしょ?ですから、私と居る時は楽にしてください。貴方が優しい方なのはもう知ってますから」

彼女なりの優しさなのだろう、どうしようか少しだけ迷い・・・甘えることにした。

「分かった、普通に話すことにする。ありがとう霞さん」

「いえ...そういえばこの後どうするんですか?」

「んー、少し走りこみたいから晩御飯位に部屋に戻るよ」

長らくしていなかった他人への素のしゃべり方、なんだか気が楽になってくる。
霞さんには感謝しないとな。

「分かりました、それでは夕飯の時間になったらお声かけますね・・・あと風邪を引かないようにお風呂の準備しておきます」

「ありがとうございます」

「いえいえ、それではがんばってください」

そう言うと霞さんは何か用事を思い出したのか、そそくさと行ってしまった。
・・・なんで枕を持っているのだろうか?どこかでお昼寝してきた後なのだろうか。

「・・・さて、頑張るとするかな」

この前の魔界豚ですら魔物たちの間では中型サイズらしく、最大級だと見上げなければならない程の大きさらしい。
それを聞いただけで挑んでみたくなるし、まだまだ鍛えなければと意欲が湧いてくる。

「あ、タオル持っていかないと」

部屋に忘れ物をしたので一度戻ることにした。







きぃ...と小さな音が鳴り扉が開く、急いで誰も中に居ないことを確認する。
見回して、居ない、扉の裏にも隠れてない、窓を見て右左・・・誰も居ないことを確認。
外にワーキャットのカップルが居たけどこっちを一切気にしていない。

「大丈夫・・・みたいですね」

我ながらスライムらしくない動きでスススと箪笥に近づく、もちろん自分が歩いた跡の濡れは無いようにコントロールしている。
からからと中で滑車が回る音を立てながら引き戸が開くと中に寝具が入っていた。
前に来た時に片付けていた位置をちら見しておいてよかったと思う。

後は私が持ってきた枕と入れ替えるだけ・・・。
パパっと入れ替えて元々入っていた状態と変わらないように手で軽くシワの形を整える。

「うん、これでバレないはず」

だけど、予想外の事態が起こった。
ものすごく、今ここで、食べたくなってしまった。
私達スライム属は一番の食料は男性の体液だ、もちろん普通の食事をする事も消化することも出来る。
けど、今この手の中にある枕に染み込んだ汗は、ウンディーネの水より美味しそうで、私の体全てが熱くなるのが分かる。

「少しだけ・・・舐めるだけなら」

枕に舌を這わせたその瞬間、もう止まらなくなってしまった。
どう美味しいのかわからない、けど止めることが出来ない、こんなに美味しい物はハジメテ。
もう少しだけ、もう少しだけ、もう少しだけ

「大丈夫、アルさんもしばらく走ってるって言ってたし」

そう、大丈夫、ダイジョウブ、だいじょうぶ
口に出して自らに言い聞かせる。
まだシバラクダイジョウブと。

舌で舐めるのが煩わしくなり枕に自分の粘液を染み込ませてそこから味わう。
厳密に言えば私達スライムに舌は無い、全身が腕であり足であり頭であり、口なのだ。
乾燥した汗を私の水分で滲ませてそのまま吸収する。

「あぁ...やだ...こんなことして...たら...」

もしもこんな姿をアルさんじゃなくてもルルーさんや他の人に見られたら、はしたない女だと思われてしまう。
そんな事、アルさんに聞かれたら嫌われてしまう。

『いいじゃない、見られたら、聞かれたら・・・襲ってしまえばいいのさ』

「いやぁ...そんな...の...」

『何が嫌何だい?彼も魔物娘がどんな生き物なのか十分に見て、理解してるし嫌悪なんてしてないじゃないか』

「けど...だめ...」

『はぁ・・・じゃその枕さっさと頂いて戻りな、カマトトスライム』

「うぅ...」

魔物娘の本能が私に囁く、けど拒否する。
私は、あの人の心からの妻になりたい、ただの肉体関係は嫌!

「でも、いいよね...いまは...よろよろしてる所アルさんに見られたら、声かけられて、そしたら...我慢できないものね」

私は枕を床に置き、粘液をまた枕の中に入れ、力を込める。
すると枕の中央らへんが隆起し、棒の形になる。

「アルさんの...こんな感じ...かしら...」

想像のままあの人のモノを自分の体で作り出す。
その部分にはあの人の汗をタップリと染み込ませて・・・。
ゆっくりと口に含む。

「ぁん...じゅる......んん...じゅぼっ...アル、ひゃぁん...ぐぼっ、じゅる....」

美味しい、体で味わうのもいいけど、こうして口で味わうのはまた別だ。
こんな風に味わえるようにしてくれた魔王様には何処までも感謝しなければいけない。
無心に何度も先端から根本を頭を動かして往復する、どうすれば気持ちよくなってくれるか、こうしたら喜んでもらえるか。
口の中を固めのイボだらけにしたり逆に餅のようにふっくらともちもちと柔らかく包めるようにしたり。
枕を両手で壁に押し付けてあの人が立ったままを想像して咥えつづける。
根本まで含む度に彼の汗がねじ込まれるような感覚になり今までの人生?で片手分程しかイッてなかった私が何度も軽く絶頂する。
そして、あの人の味がしなくなった、どうやら全部食べてしまったようだ。
とりあえず身体の疼きはほんの僅かに収まったみたい。

「はぁ...はぁ...これで、数日ガマンしないと...ん?」

「あ・・・」

ふと窓を見ると、そこには「あ、やべ、逃げそこねた」というあからさまな顔をしたアルさんがいた。

・・・つまり

見られた。
アルさんの名前を言いながら自分の体で尺八している所・・・を。

「あ、えっと・・・忘れ物取りに来たんだけど、また後で来るんd」

見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタミラレタ見られたみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタみられたミラレタ

「こ・・・」

「え?」

「こぉっ、小屋に入ってくだひゃぁい!!」

見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ見られた見られた見られたみられたみられたみられたみられた見られたミラレタミラレタミラレタ

見ぃらーれたー!!!!
15/02/15 20:51更新 / ホシニク
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■作者メッセージ
カガリビ:旅人達の休息場、明かりのある所になれるようにと願いを込められ名付けられた。

自己満足行為を見られてしまった霞さん。
逃げられないように、思わず小屋へ引っ張り込みますが・・・。
どうするんでしょうねぇ(ゲス顔

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