連載小説
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…化け物…?
眩しい、というより妖しい光を注ぐ太陽が上る。
正確に言えば魔界となった地により太陽の光が変になるのだが太陽であることに変わりは無い。
パルメはまだ少しけだるかったが仕方なく起きた。
自分が生まれる前までは精でお互い体力を補給していた父と母だが、私が生まれてからは食事を父達にとっては『また』作ってくれるようになった。
元々そんな趣味が無かった母も魔物になってからは女に目覚めたので、意外と楽しいらしい。
それにしても昨日は大変だった。
私のために友達や母の仲間が捜索してくれていたのだ。
あの時私を抱きしめてくれた母と父の涙、そして温もりは決して忘れないだろう。私も肉体的には辛い事ではなかったが、いつの間にか泣いていた。
その後レスカティエの城に戻り、知らせを聞いてとんで来てくれた母の仲間であり父の嫁達でもある叔母さん達(といえば失礼になるが)に歓待された。
友達であるドラゴンのカサナやダークエルフのサラムも駆けつけてくれた。
嬉しかった。
驚く事にデルエラ様も私を見舞ってくださった。
ああ、相変わらずお美しい姿。その妖しくも艶かしい唇から私を気遣う言の葉を下さった。
城について早々いろいろ質問や声をかけられた。

応対していく中で一番驚かれたのはやはり私を助けてくれた二人組みの男児のことだった。
人間でありながら魔物を助け、魔物の魔力に当てられなかった、もしくは耐えたと言うところが城内の興味を買ったようだった。
面白いことが大好きなデルエラ様は当然探す気満々で他の魔者達も興に乗り本格的な捜索がなされるようになった。

「どうした、どこか具合でも悪いのか?」
父が気遣わしげにこちらを見る。
どうやら昨日のことを考えているうちにいつの間にかフォークが止まっていたようだ。
「それとも…、口に合わなかったか?」
父はインキュバス、母はエキドナ。
どちらも私に優しいが、父は誰にでも優しい。もちろん私には一線を画して激甘だ。そんな二人は私が精を採れるまで料理を作ってくれていた。二人は交わっていればいらないのに。だが、母曰くこんな事がして見たかったらしい。
ずっと女がすることに憧れていたのだという。
そんな優しい二人を心配させないように私は口を開く。
「体は大丈夫よお父さん。私は魔物よ、大丈夫。ご飯も美味しいわ」
事実だった。ただ考え事をしていただけなのだ。
それを聞いて安心したのか父も食事に戻った。
今日は父の愛人(というより嫁)の一人であるウィルマリナ様と朝を共にするはずなのだが、私に気を使ってくれたらしい。
本当に優しい。
週に2回も父と朝を迎えられたのが嬉しいのか母はうきうきとしている。
もちろん私のことも気遣っていることだろう。分かるのだ、私には。
「お姉ちゃんは好きな人ができたんだね。いいな〜」
隣にいるハーピーの妹、アルが羨ましげに私を見る。
私を含めて4人が私の家族だ。
「ええ、まあ、初めては想像したものじゃなかったけど」
「でも〜」
そんな話をしているうちにドアをノックする音が響いた。
父がドアを開けに行く。

来客したのはサキュバスのウィルマリナさんとその娘であり同じくサキュバスのマリノーラだった。
気のせいだろうか。ウィルマリナさんから少し黒いオーラが出ているような気がする。…後でお礼を言っておかなければ…。
「やあ、ウィルマリナ。どうしたんだい?」
「おはようあなた、ちょっと昨日の事で進展があってね」
そうして中に招かれる。
「おはようお父さん」
「おはようノーラ、今日も綺麗だね」
「えへへ」
ノーラとはもちろん愛称だ。本人も好んでいる。
「おはようノーラ」
「おはようパルメちゃん。昨日は大変だったね」
「うん、まあ」
「でも男を見つけるなんて〜このこの〜」
軽くつつき合う。
ちなみに父に繋がる家族の中で経験を持っている子供はダークプリーストのサーシャさんとの子、アイサとワーウルフのプリメーラさんとの子、アルノーだけだ。どちらも母親と同じ種族で、性質上交わるのが定められていたりするので先を越された。これでも私が一番年長者なのに…。
まあノーラもまだ力を持て余しているのでその事を考えれば…、あ、でもまだ自分は好きでヤッていない…。
少し落ち込む。
「それで、どんな進展があったんだ」
待ちきれないように母が問う。私の決めた相手だ、早く見たいのだろう。
「驚かないでね、どうやらカルドスの宿屋街で見つかったようよ」
「見つけた!?それもこの国に近いところで?」
流石……速い……。
「ええ、普通の人間ならば大人でも近づかないここにね。…でも、それらしき人ということだから期待はしないでね」
「ああ、そうだな」
「それじゃあ、どうする?今すぐ行く?」
「はい!」
「クス、元気ね。それじゃあ行きましょうか。着いたらあなたが覚えた匂いで分かるでしょ」
「はい!もちろん!」
勿論覚えている。当然だ。
「それでは行きましょうか。一応デルエラ様にも報告して付いていく人を決めなきゃね」



結果、以外と多く人数が増えていた。
まず私の家族にウィルマリナさんとノーラ、友達のカサナとサラム。
後の知り合いは城内でミミルさんやサバトのメンバーが高出力の魔力で大水晶に写す私達の状況を生で見る事になっている。
まだその人だと分かったわけでもないのに皆気が早い。
そういう私もだんだんと気が高ぶっている。しょうがない性質だ。

カルドス街道に着いた。辺りは濃度の高い魔力に包まれている。
宿屋街だけあって昼間から多くの魔物達が交わっているようだ。時々窓から甲高い嬌声が漏れてくる。
そんな私も興奮して声が出そうだった。
いる。間違いなくいる。あいつの匂いだ。
「どう?」
ウィルマリナさんが尋ねる。
「います」
「ほんと!?」
アルが目を輝かせる。おそらく城ではもっと騒がれている事だろう。
「ああ、近い」
匂いを頼りに右手の宿に入る。どうやら一階が酒場らしい。その分安さが売り、ということか。
目を凝らす、……いた。
丸テーブルに二人だけ座っている。
なにやら話しているようだ。
「あ!あの人達?」
どうやら他の人達も気付いたようだ。
頷く。
「ほほおおお、なかなか良い雰囲気の二人じゃない」
魔物は顔で人を判別しないが、自分に合う人を選ぶ。要は雰囲気だ。
ノーラがどちらに感じるかは分からないが、『敵』が多くなりそうな二人だ。
「まずは、一人で行ってみたらどうだい?」
父が提案する。
「うん。そうする」
「おお〜」
アルが興奮しているように両手を握り締めた。
「じゃあ…」
そのまま向かっていく。



「奇遇だな」
実際は奇遇でもなんでもないのだが。
「?……あれ?君昨日の…」
「ああ、パルメだ」
二人が私に気付いた。
「座って良いか?」
「あ、ああ、いいぜ」
「…構わない」
そのままラクルの横に座る。そしてほのかに魔力を発散し始めた。
「いやあ、また会うとはなあ」
「ホントに、運命だと思わないか?」
「アッハッハ、そうかもな」
よし、初口説きは成功した。
視界の隅で母が親指を立てる。
「だが、ホントに昨日は助かった」
「ああ、いやいやどうってことないよ」
「どうってことない、それ程強いのか?」
「どうだろうなあ、ま、普通の人間よりは強いかな」
「そうか、…鍛えているのか?」
「ああ、まあな」
「そうか」
ますます好みになってくる。魔力も少しずつ高まってきた。
「っていうか、アンタは大丈夫だったのか?」
「何がだ?」
「昨日の……ほら…」
「…?ああ、別に、初めてだったが、処女が消えた事ぐらいどうとも思っていない」
「そ…そうか」
「ただ……やはり犯されることには少し抵抗があったな」
「え?」
「なんというか……気持ちよくないというか…」
「……」
無言だ。それはまあ経験した事のない人にはよく分からないだろう。
「……あいつらの事、恨んでるのか?」
「…恨んでない、といえば嘘になる。初めては、期待していたのでな」
「そうか……」
「やはり突然犯されるのはなんだか違うな」
「…ハッ…」
乾いた笑いが耳に入る。
セト、という男だった。と、ふと横を見ればラクルがしまった、というような顔をしている。
「お、おい、セト「魔族が犯されることが嫌いだとはな」
途端に周りで会話をしていたグループが話をやめる。
「おい、セ「どういう意味だ」
セトの言葉に侮蔑の意味を感じ取った私はその買い言葉に対抗した。
「ちょっとまて、パルメ、ストッ「おかしいだろう」
「何がだ」
間で仲裁しようとしたラクルを無視するわけではないがこちらも魔族としての誇りがある。
「何がおかしい。私達は自分が好む人と交わりたいと思っているんだ」
「突然人間を襲う魔物がか?」
「突然?」
「例えば、スライムだ。道行く人を手当たり次第に捕まえるだろう?それは犯しているんじゃないのか?」
「それは自分の好む男性が来たからだろう」
「そうじゃない場合は?」
「…それでも、食料にはなる。精がなければだめな魔物も「食料で犯すのは良いとして、気に入った男性を犯すのはいいのか?」
「なに?当然だろう。私達は好む男性を「好む…か…」
「…なんだ?」
「好む、と言う言葉は自分主体で言っているというのは分かるな」
「……それは…」
「つまりだ、『好む』男性というのはお前達から見て、という事だろう」
「そうだ」
「……それはその男も愛しているのか?」
「何?」
「お前らが好む男はお前らを愛しているのか?」
「な、それは……」
「違うだろう。俺としては異形の者を最初から愛するという人間はほとんどいないと考えている」
カチンときた。異形の者、確かにそう呼ばれるだろう。だがここまで正面から言われると流石に怒るというものだ。
「異形だと」
「違うのか?人間からみたらそうだろう」
「セト!!!」
いつの間にか静まった酒場にラクルの大声が響く。
びっくりした。あの、といっても会ったばかりだが笑顔を絶やさないラクルが無表情に近い、しかし確実に怒りが渦巻いている顔でいたのだ。
「セト、てめえ誰に向かっていってやがんだ。目の前にいんのは人間じゃねえ勝手に人の価値観を押し付けんな。それとてめえの価値観もな。いいかげん克服しろ」
その言葉に反論すると思ったが意外にもセトは立ち上がり、
「お前らがお前らの価値観でいるのは構わんさ。だが、人は犯して自分が犯されるのが嫌だ?フン。おもしろい。だがな、そんな価値観を持っている限り必ずお前らの敵は出てくる。いいか!必ずだ!!」
そう言い放ち、早足で酒場を出ていった。
「おいセト!ブラザー!!」
慌ててラクルが追いかけようとする。
「おっと、悪いな。あいつも悪い奴じゃねえんだがちょっと目の前で言っちゃあいけない禁句があるんだ。あれでもあいつ、お前が犯されていた昨日は怒ってたんだぜ」
そういって酒場のを走りぬけ出口から出て行った。
禁句がなんなのか聞く暇も無かった。ということは私に落ち度があったという事か。気が沈む。何よりも…
『目の前にいんのは人間じゃねえ』
ラクルのあの言葉がショックだった。確かにそうだが、だが…。
気付けばまた酒場は喧騒に戻っていた。ただし話す内容は先程の二人に限定されているが。
「あ〜あ、台無しになっちゃったね」
アルがしょんぼりとしながら近づいてくる。
「ああ」
他の面々も皆同じような様子だった。
「大丈夫だ、パルメ。少なくともラクルはお前に敵意なんて抱いてなかったぞ。なあに、もしもの時はおそ…」
「馬鹿っ」
父が咄嗟に母の手をつかみ、注意を促す。
「あ、ああ…」
先程のやり取りを思い出したのだろう。
もちろん母やウィルマリナさんならばそんな事は当然、と割り切れるのだろうが私は…。それに、彼は私にあんなことを言って…。

バタン!!

いきなりの音に酒場の皆が注目した。
どうやら誰かが勢いよくドアを開けたらしい。
「おい!お前ら手ぇ貸してくれ!!」
「どうしたんだ?」
客の一人が迷惑な顔を隠さずに言う。
「近所でサバトの魔女達が地域のミニ会合を開いてたんだがそいつらが襲われた!」
「ああ!?誰にだ!」
ざわめく。
「人間達にだ!逃げてきた一組の夫婦が言うには山賊のようだったんだと!」
「それじゃあ、魔女でも楽に勝てるだろ。バフォメットもいるんだろうし」
「そのバフォメットがやられたんだ!」
静寂が訪れる。
「おいおい、馬鹿言えよ!どうやったらあの魔力の塊みたいな奴らが…」
「とりあえず!急いでくれ!!」
ここにきて魔物やインキュバス達が動き始めた。もちろん中には人間もいる。
私も我に返ると同時に身に着けていたナイフを握り締めていた。
見れば、ウィルマリナさんや母、父が水晶を片手に話している。恐らくデルエラ様と連絡しているのだろう。
「お姉ちゃん」
アルが心配そうに服をつかむ。
「大丈夫。それにこっちにはウィルマリナさんやお母さんがいるでしょう」
「…うん…」
それでも手を離そうとしない。
「私は上空で援護をしようと思う」
そういってカサナがいち早く飛び出ていった。
私もノーラやサラムと共に外に出る。
先程とは打って変わって多くの魔物で通りはごった返している。
普段は交わってばかりいる魔物達もこのときばかりは緊張して戦闘の準備をしていた。
とりあえず、母達の助言を聞くためにその場にとどまる。
いつしか夕方になっていた。



どうやら賊共は山の中に篭った様だった。
すでに魔力探知で目星の山はついている。しかし、なぜこのような立地が悪い場所を選んだのだろう。山は包囲されやすく四方に開けている。これでは囲んでくださいといっているようなものだ。
デルエラ様もそこを怪しんでいる、と私が疑問を口にしたところ父からそんな答えが返ってきた。
すでにその時から幾分か経ち、山の中を進んでいる。私はエキドナでありスピードもあるので先に斥候として進んでいるのだ。
と、夢中で進んでいると匂いがした。
私の知っている匂いだ。これは…
「よう」
トン、と肩を叩かれた。
「!」
後ろを振り向く。だが武器は構えない。なぜなら…
「どうした、こんなところで」
ラクルだ。
「そっちこそ」
「ああ、俺はセトを探しに来たんだ。あいつ、こういうことには敏感だからな、そういうおれもそうなんだけど」
「そうか」
武器は構えないが一応気をつける。
だからと言ってまだ大人でもない者が山賊がたむろする山に入っていくのだろうか?もしかして、賊の仲間…。先の事で少し傷ついていた私は疑いを持つ。
あまりにもおかしくはないのか。どうして自ら危険な橋を渡ろうとする…。一応私は魔法の水晶球で見守られているはずだ。
だが…ああ、たまらない…。この男を、私のモノにしたい。そんな気持ちが後から後から湧いてくる。
もし…もしこの男が賊に関係しているのだとすれば…、私は、どうすればいいのだろう…。
「?どうした?」
空いた間をいぶかしむかのように尋ねてくる。
「…っ何も無い」
逡巡がばれないように急いで顔を背ける。
「そうか。それじゃあな、気をつけろ」
えっ?
「ま、待て!」
「ん?」
立ち去りかけた彼を引き止める。
「な…あ…その…」
どんな声をかけるか迷う。
「ああ、悪い。確かにこんな状況じゃあ一人じゃあまずいな。でも悪い。今セトを探しているんだ」
瞬間、私の中を黒いものが流れる。
なぜだ、このときもセトか…。なぜ私に振り向いてくれない!昼もあんなに魔力を流したのに興味も持ってくれなかった!なぜ!!
そういったことをぶつけようとしたが、
「あいつ、たぶんキレると思うんだ。その前に見つけなきゃあ」
しゅん、と黒いものが消える。
「キレる?」
「ああ、あいつキレたらやべえ。…そうだとりあえず忠告しておく。変な気を感じたら絶対にそれ以上近づくな。それは最悪の場合だ。もちろん最悪ってのはあいつがキレた場合な」
「変な気?」
「分かる。何かが爆発してるような…。まあいい。それに、魔物って人を殺すのは好まないんだろ?」
「ああ」
「じゃあなおさらだ。…それじゃあ、ホントに悪い」
そういって今度は本当に行ってしまった。どうやら山を一周するらしい。
『どうなるんだろ?キレたら』
伝達用のイアリングからアルの声が聞こえる。
水晶で一部始終を見ていたらしい。
「分からない」
『とりあえず気をつけてね』
「ああ」
そのまま先へと進む。



目の前に開けた場所が広がった。
そこには小さな子供を、魔物の子供を犯している賊の姿がそこかしこにいた。
「おら、おら!どうだ!俺様の一物はあ!」
「お兄ちゃんよりいいだろう!?」
下衆の声が耳を打つ。気持ちが悪い。相手を気持ちよくさせようともしないただ激しいだけの動き。
『下衆ね』
ノーラの声がイアリングを通して聞こえる。ここには魔力が充満しているため魔力の通りがよく、イアリングの受信記号だけを知っていればだれとも会話できる。
どうやらノーラも近くで見ているらしい。
「かわいい顔しやがっていいモノもってんじゃねえか!おお!?」
突然真ん中の男が交わったまま立ち上がり、傍に縛られているインキュバスに見せるように腰を動かす。
「おら!お前の『おにいちゃん』に見せてやれよ!お前が違うおにいちゃんに犯られてるところをなあ!」
基本的に肉体は気持ちよさだけを感じるようになっていて見知らぬ男とヤるのは慣れた魔物にとってはなんともないが、流石にこれは聞いたらしい。
「いやあ、お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「ほ〜らおにいちゃん!見てやれよ!なあ!?『おにいちゃん』って夫婦のことだろう!?見てやれえええ!!おおおお!!」
「いや、ああ、アッ!アアッ!見ない!あ!見ないでええ!お兄ちゃん!助けてぇ…」
「うう…グッ、貴様あああああ!」
お兄ちゃんと呼ばれた青年は動こうとするがきつく木に縛られているためにあがく事もできない。
「なあに怒ってやがんだ?お?いいじゃねえか!どうせお前も犯して手に入れたんだろ!?仲良くしようぜぇ犯す者同士なあ!はっはは〜!!」
ズグン、と心が渦巻く。
『だが、人は犯して自分が犯されるのが嫌だ?フン。おもしろい。だがな、そんな価値観を持っている限り必ずお前らの敵は出てくる。いいか!必ずだ!!』
違う。分かっている。普通に犯されているのと、愛する人の前でされるのとは違う。だが…、やはり先程のセトの言葉が蘇る。
『気にしちゃ駄目よ、パルメちゃん』
ノーラは気付いたようだ。私が思索に耽っている事に。
『人は人。私達は私達なんだから』
脱帽だ。中身まで読まれたらしい。
「じゃあ、そろそろ皆を呼ぼう」
『ええ』
そうして魔力を伝達用のミニ水晶に送り込む。
これで動くはずだ。
だが、本当にこの中でバフォメットを倒した相手がいるのだろうか?
そんな考えをしていたとき、
『ちょ、ちょっとパルメちゃん!あれ見て!あなたから見て左!』
ん?ふと目をやるとそこには、


「へへへ!どうだい!お兄ちゃんの前で犯されるのは!いいだろう!?」
「いやああ!」
どうやら先程の男の声を皮切りに『お兄ちゃん』に見せながらの行為が広まっているようだ。
だが問題はそこではない。
問題は、いた。黒を基調とした服、黒髪、黒目、長身。
セトだった。
先程は気付かなかったが、鞘が黒い恐らく剣であろう武器をもっている。
「へへっ!…なんだあ?」
男がセトに気付いた。
『ちょっと、どうする?』
「む…お母さん!」
『ああ、見ている。くそ、まだ着きそうにない』
助けに…だが今動いては人質をとられるかもしれない。
くそっ!
頼むから何もするな、心の中で念じつつ動向を探る。
「何をしている?」
セトから声をかけた。
ああ、もう!早速か!
「ああ!ハッハッハ!見て分からねえか!」
そう言って男は犯している魔女の『お兄ちゃん』に見せるのをやめ、今度はセトに結合部分が見えるように体勢を変えた。
「犯してるんだよ!ははっ!おう!どうだ!これならお兄ちゃんに見られねえからいいだろ!?」
すっかち油断しているのか、突然現れたセトに疑問も持たずまだ犯している。
魔力に当てられているのだろう。
対してセトは結合部から尋常じゃない魔力が出ているはずなのに静かな目をしていた。…いや、静かなのか?なんだか昼間見たときに見せた目に似ている。静かだが、何か内に秘めたものが爆発しそうな…。
『そうだとりあえず忠告しておく。変な気を感じたら絶対にそれ以上近づくな。』
突然ラクルの発言を思い出した。
「動くな」
『え?』
無意識のうちに言っていたらしい。ノーラが面食らったように返す。
『何?』
「いや、その…ラクルから言われたんだ。セトが変な場合は動くな、と」
『言われなくともこんな状況で動かないわよ』
それもそうだ、と思いやり取りを眺める。

「犯す…か」
「おう!そうだ!」
「…犯す…」
何かセトの様子が変だ。
「ああ!どうだ!?お前もやるか!?まずは上の穴からな!」
ゲハハと笑う。
対してセトは、静かだ。だが、その静かさが内側へ向かっている。
「俺が……犯す…?」
様子がおかしい。まずい。
「おう!犯して犯して犯しまくれ!どうせこいつらも「犯すだと…」
「あ?」
やっと男が異常に気付いた。つまり今のセトは魔物と交わっていてもまずいと感じる雰囲気を出しているということだ。
「犯す…犯す…か…ハハ」
「ノーラ、動くなよ」
咄嗟に声が出た。
次の瞬間
「俺の前で、犯すなんぞ言うんじゃねええええええええ!!!」

爆発した

そう感じた。ノーラもそう感じただろう。
気付くと、
「…へ?」
さっきまで犯されていた魔女が不思議そうな顔をしている。
その犯していた男と言えば、まず魔女の腰を持っていた指、腕が切れ、次に両足が切れ、最後に頭が切れた。要は、胴体が分割された。
魔女が地に落ちる、前にいつの間に移動したのかセトが掬いあげ、『お兄ちゃん』の元へ投げた。
そして、セトが離れた途端。

ブシャーーーーーーーー

思い出したかのように血がほとばしった。
その血に魅せられるように賊は動きが止まっていた。
いつしか血の噴水の音も止まり、セトが異様に静まり返った場で声を放つ。
「魔女達は、動くな。斬りにくくなる。できれば目を閉じていろ」
前へ進んでいく。
「『お兄ちゃん』達も動くな。斬りにくくなる。できれば目を閉じていろ」
進む、進む。
「他の子供たちも動くな。斬りにくくなる。できれば目を閉じていろ」
そうして一人の賊の前に立ち、
「お前らは、動いていいぞ。動けるものならな」
途端、さっきと同じ事が動く。
セトが斬ったのだ。
黒い鞘から出た剣、いや、刀かサーベルか、とにかくそれは、黒かった。
「お前ら、全員。皆殺しだあああああ!!」
そうして次々と斬り捨てていく。
辺りは地獄へと変わった。

『な、何よこれ』
何だこれは…。
圧倒的過ぎる。
「消してやる!消してやる!おおおおおおおお!!」
決して大声を出しそうに無かったセトが気が狂ったように叫んでいた。
「犯すだと!お前ら!よく俺の目の前で!お前ら!犯す!お前らアアアア!」
なるほどキレていた。
そしてなぜセトが昼間あんな態度だったのか分かった。
『犯す』、
この単語が禁句なのだ。過去に何があったのかは分からないがここまで乱れるという事は余程のことだったのだろう。
それを思えば昼間の事はかなり自制していたのだろうということが感じ取れた。
「ウオオオオオオオオオオ!!」
『しっかし鮮やかねえ』
確かに鮮やかだ。魔物である私にも見えない速さで武器を振るい、それも関係ない者は一切巻き込んでいない。

その武技に半ば唖然とし、半ば見とれていると、
突然大声が割って入った。
「やめろ!セト!!!」
ラクルだった。
『あ、あいつ』
気付けば素早い速さでセトに向かっている。
「ブラザー!俺だ!ブラザー!」
後ろからセトを羽交い絞めにする。
「どけえええええええ!!」
脅威な事にあの状態でどうやら誰か分かっているらしい。
だが止まらない。
「やめろ!親父の意志に反してるぞ!ガキの目の前で殺してんじゃねえ!!」
親父?では彼らは兄弟なのだろうか?
「ぐあっ!」
ラクルが弾き飛ばされた。
「てめえ、お前がそうならこっちも最終手段だ」
『あら、あいつも何かできるようね』
そうなのか。私はぜひ見たいと心のそこから思った。
そしてもう少し近くで見ようと広場に入った。
『ちょっとちょっと、危ないわよ!』
「大丈夫だ。それよりラクルがどうするか見たい」
『失望しちゃうかもよ〜。私だってアレは止められないもん』
大きなお世話だ。だが、元レスカティエ最強の勇者を母に持つノーラでさえ歯が立たないものをどう処理するのだろう。
俄然興味が湧いた。
「セト!マジでいくぞ!」
くる、いったいどんな事をするんだろう。
ドキドキしていた私は目を見張った。

辺りは、また静寂と化していた。
賊はまだ半数生き残っている。
だが誰も動かない。魔女も、インキュバスも、ノーラも、私も。
誰もが目が釘付けになっていた。
ちょうどセトが男に飛び掛っていた時だった。ちょうど宙に浮いていた。
だが、今は浮いたままだ。
理由は簡単その腰をがっちりと腕が掴んでいる。だが人間の腕じゃない。ハーピーのような爪が生えそれ以上前に進めないようにし、且つドラゴンの腕が力を発揮し動けなくしている。
さらに四肢にはツルのようなものが四重五重と巻かれていてちょっとのことでは動きそうに無い。
それが腕から伸びている。そしてその腕はだれのか、ラクルのだった。
それも『かなり離れた距離』から掴んでいた。
腕が伸び、変形し、分かれていた。
「何だこれは……」
気付けば母が横に立っていた。
辺りを仲間が囲っていた。
賊の内一人が呟いた。だがこの静寂な場所では充分な大きさの声だった。
「化け物共…」
11/11/26 17:02更新 / nekko
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■作者メッセージ
やばい、何文字書いたんだろう?やばい!
なんで分けなかったんだろう!そしてつまらなかったらどうしよう!
と、書き終わってから後悔しているnekkoです。
今回はかなり重厚に書き上げたつもりです。
というかもう文字からしてどう書いたらこうなるんだってぐらいありますね。
どうもすいません。はい。
ええと、とりあえず二人は、まあセトの方はともかくラクルのほうは化け物?だったわけですね(どう変わるかわかりませんが)
書いてから考えた重大な事。これ、大丈夫かな、ということでした。
だって魔物娘のサイトなのになんか変なのでちゃったよ、ということですはい。
まあ、もう書いちゃったんで今更どうこうできませんが。
もうこうなったら転げ落ちるしかない、と固く心に思うnekkoです。

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