ピクシーとハムスターハウス

目が覚めた場所は自分のベッドの上ではなかった。

そこは暗くジメッとした狭い空間の中、
明かりは無いので手探りに触覚と嗅覚を頼りに辺りを探索していると
だんだんおぼろげながら記憶が戻って来た。

背中に当たるヒンヤリとした鉄の塊は鉄の棒に凹凸が付いている。
凹凸が付いてるという事は何かに嵌めるのだろうか。
鉄の塊をまじまじと触りながら頭に全体像を思い描いていると
1つ思い当たるものがあった。

そうだ、これは鍵だ。
それも強固な扉の開閉に扱われるような巨大な鍵だ。
なぜこんなものがあるのだろうと思案していると鼻にツンとした香りを感じた。

この空間から仄かに香る
甘酸っぱい湿度を含んだ柑橘系の果汁の香り…
そうだ…これは紛れも無く自分のオレンジだったものだ。
辺り一面四方八方に擦り付けられ
自分に許された事は残り香を味わう事しか出来ないが確かに自分の物だったのだ。
そうだ、このオレンジは妖精に…思い出して来た。

市場で買ったオレンジを食べ歩きながら家に帰る途中の出来事だった。
オレンジの香りに惹かれたのか森沿いの街道を歩いていた自分に
子供くらいの妖精がオレンジをおねだりして来たのだ。

森暮らしだからか人間の物に興味を持っているのだろう、
妖精の目はキラキラと輝き生まれながらにしておねだりする才能があるかの様な目でこちらを見てくる。
1個だけなら…と思いオレンジをあげると
今まで見ていたのか2人目の妖精が出て来る。
1人にあげてもう1人にあげないのは悪いと思い、
あげるとこれまた3人目の妖精が出て来た。
妖精は楽しい事があると集団で集まる習性があるとはいうが認識が甘かった…

4人…5人とだんだん増えて行き
いつの間にか妖精に取り囲まれてしまったのだ。

上も下も妖精だらけ、揉みくちゃにされる状況で
事情も知らないがなんだか楽しそうと集まった妖精も加わり
体のあちこちを触られ甘噛みされたり舐められる中、
どこからか聞こえて来た『持ち帰ろう』の声を皮切りに
群衆の熱気もピークに達したところで得も言えぬ浮遊感を感じ意識を失ったのだ。

頭を整理していた中で1つ妖精の種類について思い出した事がある。

なんでも妖精の中には
ピクシーという物の大きさを変えることが出来る魔法を使う妖精が居るらしいのだ。

とすればこの状況にも合点が付く、
巨大な鍵も辺りに充満するこの柑橘系の香りも全部ピクシーの魔法のせい、
おそらく自分は小さくなってピクシーのポケットかなんかに居るのであろう。
という事はなんてこった果汁が擦り付けられているという事は
ポケットの中で手を拭いたって事か、なんて横着なんだこのピクシーは
いや、妖精はそもそもこうなのか?と己の状況よりもピクシーの性格を思案していると
頭上からピクシーの可愛い手が降って来た。

持ち上げられるのか!?と一瞬身構えたがそうではないらしい、
横にあった鉄の塊…巨大な鍵を持って行った…という事は家に着いたって事だろうか。

「ただいまー」との声が上空から聞こえてくる、予想通り家に着いたようだ。
「起きてる?」と呼ぶ声が聞こえてくる。
自分は魔物娘に小さくされ連れて来られた言わば誘拐されたような状態であるのだが
乱暴には扱わないのであろう優しい声にホッとして
合図代わりにポンポンと体温の感じる壁側を叩いてみる。

「あっ、起きてたんだ。じゃあ乗ってくれるかな?」とポケットに手を突っ込んで来た。
可愛いながらもその1本1本が自分の大きさと同じか
それ以上の指がくいっくいっと自分が搭乗する事を急かしてくる。

ここでこのピクシーは自分を掴むつもりなのか
どうなのかで手に座るか寝転ぶか選ぶわけだが
自分は手に寝転び親指を掴んで安全を確保する事にした。

初めて小さくなったのだ、ポケットの外の外界がどうなってるか分からない以上
少しでも安定した姿勢を取りたい気持ちの選択だ。
ピクシーの手のひらの寝心地は最高、急な重力の感覚も寝転べばなんて事は無い。

と心に余裕を作り持ち上げられる。

途中、必死に親指にしがみつく姿が滑稽に見えたのか
可愛いーとピクシーの目の前に持って来られるが
クールな目つきにあどけなさの残る表情でマジマジと見られては恥ずかしく思えてしまう。

ようやく「はい、今日からここが君の家だよ」と降ろされた場所は
鉄格子のある牢屋だった。

いや、周囲を見渡すと大きなクッションに給水器、簡素な作りの家が見える。
極め付けは走っても走っても元の場所に戻ってしまう
ハムスターの運動解消に使われるローラー。
そうかここはハムスターハウスなのか。
自分はハムスターハウスに閉じ込められてしまったのか。



友達を呼んで来ると元気に飛び出したピクシーに一応手を振り、
過ぎ去ったと思ったら肩を下ろし途方に暮れる。

さてどうしようか、
やっこさんはどうやら自分をハムスターハウスに入れてペットとして飼うらしい。

ハムスターハウスは昔見た事がある。
見た事があるからこそ自分の小ささがよく分かる結果になり
自分の惨めさが目に染みて来た。

思えばハムスターハウスの外は机に椅子に本棚、
人間と同じ生活様式ながらでもどれも巨大で
むしろこっちの方が自分の世界なんじゃないか?
とウダウダとクッションに身を預けてある事ない事思案し続ける。

そういえばこのクッションは中々居心地が良い。
ふと周りを見渡すと何やらハムスターハウスながらも色々と凝った作りになってるらしい。

人間が退屈しないようにか本棚もある、
どうやらお手製の本棚のようで
PIXと横面にデカデカと彫られ塗装も入れられていてミニチュアへの本気度が伺える、
逆にここまで凝った作りなのだから
そこで生活する人形にもそれなりの執着心を持ってそうだ、
人形はどこかというとおそらく自分なわけだが。

本棚の棚にはわざわざ本を小さくしてくれたのか様々な本が置かれていた。
中には魔族が巣食う地で用いられる文字で
タイトルが書かれてある本を見つけたので興味本意で開けてみるが……
どうやら春本だったようだ、しかも魔王を倒しに来た勇者が様々な逆レイプをされる系の。
他にも本を開いてみるがどれも春本ばかり…
魔物娘とは価値観が合わないのか(いや、価値観は同じだが表に出すか出さないかの話だが)
自分が日常的に読める本は無かったようだ。今度もし逃げられなかったらおねだりしてみようか。
とりあえず1冊、本を懐にしまい込み次なる目的地に赴く。そう、エサ箱だ。

もし逃げられる目処が立たなかったらここから食事をするわけだが…
本当にハムスターのエサが入ってたりしないだろうか、若干不安である。
ともあれ見てみない事には分からないのでいざ意を決して見ると…
クッキーが入ってた。なるほど及第点だ。

けれどもクッキーだけなら
口の中がパッサパサになるので水分が欲しくなってくる、という事は今度は給水器か。

といってもハムスターの給水器を飲む機会なんて
今の今までなかったので勝手が分からない。

給水器はよくあるハムスター用の先端にボールが付いてる型だがどう飲めばいいか。
そういえばハムスターは舌でボールを押して飲んでたな…と
手でボールを押してみると…おっと出て来た。
先端ノズルとボールの隙間から出て来た白い液体は
表面張力と粘り気を帯びてるからだろうか溢れる事はなくただ先端に1雫分垂れている。

なんだか甘い香りがする、ミルクだろうか?と口を付けて飲むと濃厚なミルクの味がしてきた。
…これはクッキーばかりかそのままでも何杯か飲めそうなくらいに美味しい!
なんなんだろうか、何の乳だろうか?一口飲むたびに満たされて行くように感じる。
これだけで生きていけるような錯覚すら憶える。
もしかして魔物娘特有の危ない媚薬のような成分で
こうなっているだけなのだろうか?けれどもあまりに美味しすぎて止められない…!

最初は手で押してそこから出て来るミルクを手で汲んで飲むだけだった…
けれども飲んでいくうちにまるでハムスターのようにボールにむしゃぶりつき
全身でそれこそ浴びるように飲み始めてしまう…

もっと飲みたい、もっと…もっと…とボールを掻き回すが
それほど入っていなかったのかすぐに打ち止めになってしまう。
そこでハッと我に帰るが1度芽吹いた欲望の芽はそう簡単に潰えはしない。

腹を満たしたら今度は眠気が襲って来た。ああ…眠い…とても眠い…
そうして多福感で朦朧とした頭でさっきのミルクは何のものだったのか
後でピクシーに聞こうと頭に書き留め、ミルクまみれのベタベタの姿で寝に入ったのだった。



次に起きたのはピクシーの帰宅直後だった。
ピクシーの「ただいまー」との声で目が醒める。
目が醒めたはいいが未だミルクの余韻が残ってるのか頭は惚けたままだ、
もしかしたら低血圧かもしれない。

するとピクシーの後ろから友達だろうか妖精が顔を出した。
「ねぇねぇピクシーちゃん、この子ピクシーちゃんの髪のクッションで寝ているよ」
え、と今寝転んでいるクッションに目を向ける。これピクシーの髪が素材だったのか。
「ほんとだ私の髪の上で寝てる、可愛いー。
ちょっと奮発して人間さんの家にも髪入れとこうかな」「私もー」
とピクシーと妖精はジョキジョキと自分の髪を切り
今日の寝床になるであろう小さな家へと青や金髪等の髪を入れてくる。

自分はただ唖然とその様子を見ていることしかできなかった。

「ねーこの子触っても良い?」
「えー、どうかな?まだ飼い始めたばかりだから
指に慣れさせなきゃいけないんだって、ほらこんな風に」
と格子越しに指を当てて来る。
確かに自分よりデカイ指で急に触っては人間も怖気付いてしまい
飼い主との関係が悪くなるのかもしれない。その点格子越しの触れ合いなら
お互いの世界の領分を侵さずに…って何考えているんだ。

「大丈夫?噛まない?」
「大丈夫、大丈夫。ほら見てて舐めるから」
…舐めるのか。仕方無い、断れなさそうな雰囲気だし舐めるかとペロペロ舐める。
…ほのかにだがオレンジの味がした。

「キャー!可愛いー!ねぇ舐めて舐めて!」と妖精。
こっちもか…と舐めるとムム!こっちからもオレンジの味がする!
こいつもあのおねだりして来た妖精の中に居たのか。


「えへへー、じゃあこっちもやって貰おうかなぁ」と
何やらピクシーがゴソゴソと服を捲り上げて…胸を曝け出して来た!

ローブを着てて体の線が分かり辛かったのか
ピクシーの胸は身体に似合わず巨乳だった、
元のサイズならそんなところの感想だが小人状態で見てみると別次元のもののようだ。

小人を入れておく為のような柔らかそうな谷間、
それと同時に格の違いを見せ付けるかのような質量、
こんな重量級の物体が上から降って来てしまったらどうなるのだろう。
自分はそれだけで堕ちてしまうのかもしれない。

うぅっ…この感覚はマズイ…圧倒的な物量差でこちらが不利なのだ。
これ以上何かされたらそれこそペットとしての生を受け入れてしまうかもしれない。

「人間を飼ってる友達に聞いたんだけどねー、
こうすると大体の人間は言う事を聞くようになるんだって」
そして格子越しにピクシーの乳首が当てられた。
あ…あぁ…どうする…これは…これは人間の所業じゃないぞ、
もっと低俗なものだ。性処理の為にペットに自分の秘部を舐めさせる行為と同等だ。
これを…これを受け入れてしまったら完全にペットに…

「あれー?舐めないねー」
「そうだ!まだ母乳が出ないって知らないのかな?」
目の前でピクシーがタプタプと胸を揺すると母乳が出て来た。
じ、自分はどうしたらいい…一言舐めろと言ってくれ…
それだけで命令されたから仕方なく舐めれるんだ。

「うーん、ミルク苦手なのかな?」
「多分…給水器の私のミルク飲んだっぽいから飲めると思うんだけど…」
そ、そうだったのか…あぁ…そうだ確かに同じ匂いがする。
甘くとろけそうな母乳の匂いだ…そうか…もう飲んでしまったのか…それなら仕方無い。
一口だけ…いや、一舐めだけなら…
そしてついにピクシーの乳首に口を付けてしまった。

甘い…そして母乳から体温を感じる…
あぁダメだ…人間じゃなくなる…完全にペット扱いだ。
けれども人間の尊厳にいったいどれだけの価値があるんだ、
この母乳に比べたら…いや、もうよそう。
どんな結果であれ自分は自分で選んだんだ…あぁ幸せだ…幸せならそれだけでいい…

「かわいいー!ちゃんとピクシーちゃんの乳首吸ってる!
私もそのくらい魔力あったらなー」

気が付けば自分はピクシーの乳首を吸っていた、
そればかりか甘噛みして痛くならないようにそれでも刺激を与えて
なんとか母乳を出そうとしていた、まるでハムスターだ。
自分はペットである事を受け入れたのだ、けれどもそれに何の恥も無い。

ああ…自分はこんな飼い主に飼われてなんて幸せなんだ。

「よーしいっちょあがり!成功成功!この子、堕ちちゃったみたいだから
友達によるとこの状態ならエッチもできるんだって、何する?どんなプレイする?」

「ん、どうしよっかな…この子は初めてだし…ってアレ?」
突然妖精が足元を見て来る、
陶酔した頭であってもそんな反応には興味を示すらしい。
自分もなんだ?と思って足元に目をやると…
あった。さっきまで懐にしまっておいた春本が。
どうやらさっき母乳を吸うのに気を取られて落としてしまったらしい。

は、はは…と誤魔化そうとするが時既に遅し、
めざとく見つけたピクシーに春本を回収されてしまう…

小さな本だったものがピクシーの魔法で一瞬のうちに大きな本になる。
その春本にザッと目を通すとピクシーはニヤニヤと笑顔になる。
本当に、いたずらっ子のような顔でペロリと舌を艶めかしく動かす。

「へー…お兄さんこんなの好きなんだ…」

月並みな言葉と共に頭上から手が迫って来る。
ペットとしての生活を受け入れたは良い、
しかしそれ以上の行為にこれから自分は耐えられるのだろうか…
期待半分不安半分の心持ちで黄色く変色した指をただ見ていた。

ピクシーにハムスターハウスで飼われたい

14/12/30 13:20 赤キギリ

top / 感想 / 投票 / RSS / DL

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33