読切小説
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王騎士メルキス 〜貴様は、本当に最低のクズだな!〜
「ご機嫌いかがかしら? 王騎士殿?」

 薄暗く狭い個室の中に、女の声が響く。音も無く室内に入り込んだダークヴァルキリーのヴェルベットが、その部屋の一角にうずくまっていた人影に向かって声を投げかけたのだ。しかし人影はその問いかけに反応せず、声を上げるどころかぴくりとも動こうとしなかった。
 それを見たヴェルベットは、残念がるように肩を落としてため息をついた。
 
「少しくらい反応してくれたっていいじゃない。無粋ね」

 ヴェルベットはそうこぼし、おもむろに手を持ち上げる。そして魔力を抽出し、掌の上に橙色に光る球体を生み出し、それをそっと放り投げる。球体は自らの意志で天井へ昇っていき、そこに吸い付いて光を放ち、薄暗かった個室を明るく照らし出す。光は部屋の全てを白日の下に晒し、そこがベッドとテーブルとクローゼットだけの置かれた質素すぎる部屋であること、そしてそのベッドの上に一人の少年が、膝を抱くようにしてうずくまっていたことを露わにした。
 
「やっぱり。ここにいたのね、メルキス君」

 メルキスと呼ばれた少年は、ヴェルベットから名前を呼ばれて初めて反応した。しかしヴェルベットに向けたその顔は、激しいまでの憎悪に歪んでいた。
 
「この裏切者め。貴様あれだけのことをしておいて、よくも僕の前に姿を現せたな……!」

 メルキスは沸き立つ怒りと憎しみを隠そうともしなかった。ヴェルベットはそれを見て再度ため息をつき、彼に近づきながら「もう諦めなさい」と声をかけた。
 
「あなたの守るべき国はもうない。全ては堕落の底に沈んだ。もうあなた一人が頑張る必要は無いのよ」

 ヴェルベットはそう言って、ベッドの傍にある窓を勢いよく開け放った。直後、鼻を衝くほどの強烈な淫臭と、絶え間なく響き渡る嬌声が窓の外から響き渡った。
 窓の外では、至る所で魔物娘と人間の男が情交を行っていた。中と言わず外と言わず、あちこちから喘ぎ声が響き、誰も彼もが悦びの表情を浮かべていた。そんな彼らの周りを濃密な瘴気が取り囲み、それがまた愛する者同士をより一層発情させ、さらなる愛欲の沼へと沈みこませていた。
 そんなどうしようもなく不潔で卑猥な光景を、ヴェルベットは窓越しにうっとりとした顔で見下ろしていた。そして一通りそれを堪能した後、ヴェルベットは静かに窓を閉じ、再び静寂に包まれた中でメルキスに告げた。
 
「ここはもう、私達魔物娘のもの。これからは肩書にも、役職にも縛られる必要は無い。誰もが平等に、愛を求めることが出来るのよ」
 
 メルキスは何も言わず、怒りの形相を浮かべながら膝を抱く力を強めた。そのメルキスの肩に、踵を返したヴェルベットがそっと手を添えた。
 その懐かしい、暖かい感触に、メルキスは体を強張らせた。その初心な反応を見てクスクス笑いながらヴェルベットが言い放つ。
 
「だからメルキス君。あなたももう意地を張るのは止めて、大人しく堕落の海に沈みましょう。私と一緒に、愛の中に溺れましょう……?」
「黙れ、悪魔の手先め! 貴様の誘惑には乗らないぞ、この、クズめ……!」

 快楽から耐えるかのように、喉から絞り出すようにメルキスが吐き捨てる。罵声を浴びたヴェルベットは一瞬悲しげな表情を浮かべ、しかしすぐに澄まし顔に戻って、彼の顔の真横に自分の顔を寄せた。
 
「強情なのね。でも私は諦めないから」
「なんだと?」
「私は絶対、メルキス君を堕としてみせる。あなたを幸せにしてみせるわ

 そしてそれだけ言って、ヴェルベットはメルキスの頬にキスをした。メルキスは驚き、キスされた頬を押さえながらヴェルベットを睨んだ。しかし既にヴェルベットは彼の元を離れ、唯一の出入口であるドアの前に到達していた。
 
「じゃあ、また明日来るわ。ちゃんと待っていてね」

 そしてなおもこちらを睨んでくるメルキスに向かってそう告げた後、ヴェルベットはドアを開けて部屋の外に出た。
 それからドアが閉まり切るまで、メルキスはそのドアをじっと見つめていた。
 
 
 
 
 翌朝、宣言通りにヴェルベットはメルキスのいる部屋にやって来た。彼女はお盆を手に持ち、そのお盆の上には朝食のパンとサラダと牛乳が載せられていた。
 
「ハァイ、メルキス君。ちゃんと早寝早起きを徹底しているみたいね。お姉さん嬉しいわ♪」

 部屋に入った時、既に起きて着替えを済ませていたメルキスの姿を見て、ヴェルベットは自分のことのように笑みを浮かべた。そして彼女はお盆をテーブルの上に置き、椅子の一つに腰かけた。そしてヴェルベットはおもむろにドアに向かって手をかざし、そのドアに封印術を施した。
 閉め切られたドアに魔法陣が浮かび上がる。そして同じものが窓にも浮かび上がる。その封印の魔法陣は非常に強力なものであり、未熟なメルキスの膂力では到底こじ開けられない代物であった。
 これのおかげでメルキスはこの部屋から逃げ出すことが出来ず、ヴェルベットによって監禁生活を強いられていたのであった。
 
「こんなもので人を閉じ込めて、そうまでして僕を篭絡したいのか」
「素直にならないメルキス君が悪いのよ? 私はあなたの全てを助けたいのに、あなたが私を拒絶するんですもの。あなたが私になびくまで、この封印を解くつもりは無いわ」
 
 魔法陣を見て悪態をつくメルキスに、ヴェルベットが恥ずかしげも無く言ってのける。そして彼女は窓際に立っていたメルキスに向かって、自分の隣に座るよう手招きしたが、メルキスはそれを無視して窓際から動こうとしなかった。
 
「もう、強情っぱりなんだから」

 それを見たヴェルベットは小さくため息をつき、人差し指を軽く振った。直後、メルキスの矮躯はふわりと宙を浮き、本人の意思を無視して無理矢理彼女の隣の椅子に座らせた。メルキスは驚き、ムキになって椅子から立ち上がろうとしたが、尻と椅子が接着剤で貼りついたかのようにぴったりとくっつき、離れることが出来なかった。
 
「無理よ、メルキス君。魔法の技術で、あなたが私に勝てるわけないじゃない」

 立ち上がろうと悪戦苦闘するメルキスに、ヴェルベットが微笑みながら問いかける。彼女から告げられ、そのことを自覚したメルキスは、悔しさで歯を食いしばりながらも抵抗を止めた。誇り高き王騎士は、敵を前に醜態を晒さない。メルキスは父である王からの言葉を頭の中で反芻させ、必死に怒りを抑えつけようとした。
 しかしそれでも、若い彼は感情を完璧にコントロールすることは出来なかった。魔法でも剣でも太刀打ちできない、自分よりも遥か高みにいるダークヴァルキリーを前にして、彼は一層悔しさを滲ませた。
 
「もう、そんなに怒らないで。ほら、一緒に朝食を食べましょう?」
「ふざけるな! 誰が魔物なんかと食事をするか! 出て行け!」
「あらあら、メルキス君ってば、いつの間にこんな反抗的になったのかしら。前はもっと素直だったのに、お姉さん悲しいわ」

 罵倒されたヴェルベットが大げさに悲しむポーズをとる。昔の話を出されたメルキスは一瞬体を強張らせたが、すぐに表情を引き締めてヴェルベットを睨んだ。途中で腹の虫が声を上げたが、メルキスは態度を崩さなかった。
 
「まあいいわ。自分で食べたくないのなら、私が食べさせてあげる♪」
 
 そんなメルキスを見てヴェルベットは不敵に笑い、皿の上にあったパンを手に取った。そしてパンを手でちぎり、小さな塊を口の中に放り込む。よく噛んで唾液と混ぜ合わせ、パンが硬さを失ったところで咀嚼を止める。
 それを飲み込まずに、ヴェルベットがメルキスに手を伸ばす。ヴェルベットの細い指が、メルキスの形の整った顎を掴む。驚くメルキスをよそに、相手の顎を掴んだまま、ヴェルベットが自分から顔を近づける。
 全く出し抜けに、ヴェルベットがメルキスと口づけを交わす。二人の唇が重なり合い、激しく押しつけあって形を崩す。初めて味わう柔らかい感触にメルキスが目を白黒させる。
 そんなメルキスの口内に、ヴェルベットが口に含んでいた物を流し込んでいく。
 
「んっ……? んむっ!?」
「ん……ふぅ……」

 十分にほぐされたパンと唾液、そしてヴェルベットの魔力の混ざり合った流動物が、容赦なくメルキスの口の中へ運ばれていく。二人は唇を密着させ、おかげでメルキスは吐き出すことも出来ず、それを食道の奥へ流し込んでいくしか無かった。
 
「ふぐっ……ん、ごきゅ、ごっ……」

 ドロドロとした物体が喉を通る。メルキスはその感触を嫌とは思わなかった。むしろそのおぞましい半固形の物体が喉の中を滑り落ちるたびに、彼は言いようのない幸福感を味わった。憧れの人からキスをされ、いいように弄ばれる。その被虐の快感が、メルキスの眉尻をだらしなく下がらせ、背筋を甘く蕩かしていった。
 
「ぷはっ……はあっ、はあ……お味はいかがかしら……?」

 やがて口の中にあったものを全て送り届けたヴェルベットが、唇を離して満足げな表情で問いかける。解放されたメルキスはすぐに正気に戻り、溶けかかっていた理性に芯を入れ直し、毅然とした顔つきでヴェルベットを睨んだ。
 
「この僕に、よくもこんなことをしてくれたな! 魔物の唾液混じりのパンなんぞ、誰が欲しがるか!」
「もう、メルキス君ってば強情なんだから。昔みたいにもっと素直になってくれれば、もっと魅力的に映るのに。もちろん、今のツンツンした態度も大好きだけどね♪」

 なおも意地を通すメルキスに、ヴェルベットがそう快活に言い返してウインクをする。ダークヴァルキリーからウインクをもらったメルキスは虚を突かれ、そしてすぐにその呆気に取られた表情を消し去った。
 
「どうして……」
 
 しかし再度作られた顔は、これまでのように怒りに満ちたものではなく、むしろ悔しさを滲ませた悲しげなものであった。
 
「どうして変わってしまったのですか……神に仕えるあなたが、どうして……?」

 今にも泣きそうな顔でヴェルベットを見つめながら、メルキスが言葉を漏らす。彼の目には邪悪な魔物娘ではなく、かつて未熟な自分に剣と魔法の手ほどきをしてくれた、優しい先生の変わり果てた姿が映っていた。
 
「あなたは、先生は、悪に屈するような弱い人じゃなかったはずです。それなのに、どうして……!」
 
 メルキスは目に涙を浮かべながら、ヴェルベットの心に訴えた。そしてそんな騎士メルキスの師、欲望に溺れドス黒く変色したダークヴァルキリーは、再びパンを手に取りながらメルキスに言った。
 
「それは簡単よ。あなたを助けるためよ」
「僕を、助ける?」
「そうよ。あなたは周りの大人たちに唆されて、間違った正義に走ろうとした。正義の名のもとに、罪のない人や魔物娘達を手に掛けようとした。私は、愛する弟子が私から教わった技術で、そんな殺戮を行うのが我慢できなかったの」

 パンを小さくちぎる。ちぎった部分を手に残し、それを見つめながらヴェルベットが続けた。
 
「だから私は堕ちた。大好きなあなたが人の道に外れた行いをするなら、それが神の仰る正義と言うなら、私はそれに抗おうと決めた。神ではなくあなたを愛し、一人の雌としてあなたを支えるために」

 そこまで言って、手に残したパンを口の中に放り込む。そして今度はそれを噛まずに口内に残し、両手を使ってメルキスの頬を挟み込む。
 
「だから、私も手加減しない。あなたを絶対に私の方に引き込んでみせる。魔物の世界は、あなたが教えられたものよりずっと素晴らしい場所だってことを教えてあげる」
「や、やめ……!」
「だーめ。逃がさないんだから♪」

 神の遣いだった頃、メルキスの師匠だった頃には絶対に見せなかった淫蕩な笑みを浮かべ、再度メルキスの口を塞ぐ。そして今度はほぼ原形を留めたパンを、前よりも大量の唾液と魔力と共に強引に流し込んだ。ついでとばかりに舌もねじ込み、メルキスの小さな舌と絡ませて思う存分その初々しい味を堪能した。
 
「ぴちゅ、くちゅ……むちゅ、んっ……」
「ん、ぐぐ、むぅっ……」
 
 当然メルキスは抵抗しようとした。しかしヴェルベットの両手で頬を万力のように挟み込まれた状態ではどうしようも出来なかった。彼はまたヴェルベットの提供する物をまともに受け入れ、そのおぞましい感覚に心を震わせた。
 結局彼の「朝食」は、最後までヴェルベットが提供することになった。
 
 
 
 
 魔物によって陥落したその町で、正気を保っていたのはメルキス一人だけだった。しかしこれは、彼に特別耐性があったからではなく、ヴェルベットが仲間として呼び寄せた魔物達に「彼は私が直接堕落させる」と宣言したからであった。
 呼ばれた魔物達はヴェルベットの心意気を買い、最後まで彼に手を出すことはしなかった。そしてヴェルベットは魔物侵攻の混乱に乗じて首尾よくメルキスを誘拐し――弟子である彼を屈服させるのは容易いことだった――、この彼の私室に監禁したのである。
 ヴェルベットは監禁したメルキスを直接襲おうとはしなかった。襲わない一方で、何かを与えようともしなかった。メルキスは気を紛らわせる物のない、狭い部屋の中で一人、徹底的に放置されたのである。
 
「ハァイ、メルキス君。大人しくしていてくれたかしら? 今日も私と一緒に、お風呂に入りましょう?」
 
 ヴェルベットがメルキスと干渉するのは、一日に四回。つまり三回の食事と、入浴時である。メルキスの理性は必死になって否定したが、決まった時間にヴェルベットがドアを開けて姿を見せる時、退屈と寂しさに沈んでいた彼の心は水を得た魚のように跳ね跳んだのであった。
 しかしそれでも、彼は頑なにヴェルベットに降るのを良しとしなかった。陥落から四日経ってなお、彼はヴェルベットの監禁下に置かれたままであった。父でもある先王への忠誠と神への信仰が、彼を敗北の縁からギリギリのところで踏み止まらせていた。
 
「はーい、それじゃあ今日も、私がごしごし洗ってあげますからねー♪」

 かつての清楚さなど欠片も無い、媚びを売るような軽い口調で、ヴェルベットが手に持った石鹸を使って泡立てていく。この時二人は王族が私用で使っていた小さな――それでも四、五人は平気で入ることが出来た――浴場におり、二人とも一糸纏わぬ姿でその中にいた。メルキスがヴェルベットと共にここに来るのはこれが初めてではなかったが、それでもなお、彼の体はガチガチに硬直していた。
 
「あらぁ? もしかしてメルキス君、私の裸を見て興奮しているのかしらぁ?」

 その様子に気付いたヴェルベットが、茶化すようにメルキスに問いかける。もちろん彼女は、なぜメルキスが体を強張らせていたのかを理解していた。何故自分を毛嫌いするメルキスが、こんなに初々しい反応を見せるのかを理解していた。それを指摘するのもこれが初めてではなかった。
 そしてメルキスもまた、自分の感情をしっかり理解していた。それでも彼は、ヴェルベットに敵対する道を選んだ。
 
「う、うるさい。いいから、さっさと始めろ」
「はいはい。それじゃあ、始めるわね」

 ヴェルベットはそう答えて、十分に溜まった泡を自分の体に塗りたくった。そしてメルキスの背後に腰を下ろし、全身泡だらけになったその体で、おもむろにメルキスの背中をこすり始めた。
 
「んっ、あんっ……♪」
「くぅ……っ」

 豊満な乳房が背中を往復し、乳首がコリコリと肌を擦る。ヴェルベットは背後からメルキスに抱きつき、泡によって滑りの良くなった胸をさらに密着させる。たわわに実った二つの膨らみを小さな背中に押しつけ、むにゅうと形を崩す。その恰好でグラインドを再開し、それまで以上に背中越しに肉感を味わわせていく。

「あっ、ふぅっ、くっ……」

 脳味噌が溶けてしまうほどの強烈な快楽。メルキスは歯を食いしばってそれに耐えた。胸を押し付けられ、上下に動かされるだけで、彼の肉棒には血が集まり、萎びたそれを一本の大木へと変えていく。メルキスはそれから目を逸らし、必死に現実から目を背けようと努力を続ける。
 ヴェルベットはそんな必死な彼の姿を見てクスクスと笑い、さらに胸を擦りつけていく。緩急をつけて、メルキスの心を優しく壊していく。
 やがてメルキスの背中が泡で真っ白になっていく。そうなって初めてヴェルベットは背中から胸を離し、猛烈な幸福を与えてくる圧迫感から解放されたメルキスは肩で息をした。今日も理性を保つことが出来た。彼はそれを確信し、大きく安堵した。

「まだよ。メルキス君、まだ前が残っているわ」

 安堵したのもつかの間、ヴェルベットはすぐさま彼の前に移った。そして今度は両手を泡だらけにし、その滑らかな手で彼の全面を撫でるように洗い始めた。
 メルキスはまたしても魔力でその場に固定され、逃げることが出来なかった。両手さえも固着され、ヴェルベットを拒むことも出来なかった。
 
「あうっ、くふぅ、ぐううぅ……!」

 ヴェルベットの手が、あやすようにメルキスの肌に触れる。小さな肩、割れ切っていない腹筋。まだ幼さの残る胸板、その胸に刻みつけられた痛ましい傷跡。その全てを慈しむように、ヴェルベットは両手を使って丹念に洗っていく。
 母にあやされるような、愛情さえ感じられる柔らかな快感。その一度も味わったことのない、やんわりと抵抗を剥ぎ取っていく快楽の波を、メルキスは歯を食いしばって必死に耐えた。そしてヴェルベットはそんなメルキスの胴体だけでなく、四肢や顔にもその手を伸ばした。
 
「あっ、あっ……んんぅ……」
「ふう、これでよし。すっかり綺麗になったわね。あとは髪を洗って、それでおしまいね」
「あう……えっ?」

 拒めないメルキスは、あっという間に全身を真っ白に染めた。そうして全身真っ白になったメルキスを見て、ヴェルベットは満足げに頷いて手を離す。
 そうして胸ほど強くない快感に耐えきった彼は、しかしどこか不満足そうであった。
 
「ヴェル……せんせぇ……」

 やがてメルキスが蕩けそうな声で呟く。彼の目はヴェルベットではなく、自分の体で唯一泡の着いてない部分に向けられていた。
 
「どうして……なんでここだけ……?」

 雄々しくそそり立った彼の肉棒だけは、少しも泡に汚れていなかった。彼の肉棒は限界まで硬くなり、存在を主張するように小刻みに震えていた。亀頭からは先走りの汁が垂れ、今にも爆発しそうなほどに膨張していた。
 そこを見ながら、物欲しげにメルキスが問いかける。
 
「いつも、いつも、なんでここだけ洗ってくれないの……?」
「だってメルキス君、魔物娘は嫌いなんでしょう? そんな大嫌いな魔物娘に自分のおちんぽ握られるのは、とっても屈辱的なことだろうなって思ったから、ここだけには手を付けないようにしてるのよ」

 いつも言ってることじゃない。監禁初日から問われていたことへの答えをいつものように披露しながら、ヴェルベットはシャワーに手を伸ばした。彼女の言う通り、それは最初から言われていたことではあったが、メルキスはそれでももどかしさを感じずにはいられなかった。
 最初の頃はまだ我慢できた。しかし一日の大半を一人で過ごし、限られた時間に憧れの人から濃密なスキンシップを味わわされていた彼にとって、そこだけお預けを食らうというのは生殺しに近い状況であった。
 
「ああそれと、前も言ったと思うけど、あなたのおちんぽにも封印術を施してあるから。具体的に言うと、あなたのおちんぽは、あなたの手では絶対に射精することはないって感じの封印ね。どんなにオナニーしても、あなたが絶頂することは出来ないのよ」

 追い打ちをかけるようにヴェルベットが告げる。これも初日から言われていたことであった。しかし本人の口から告げられ、それを無理矢理再認識させられたメルキスは、自分でも意識しない内にとても切なそうな表情を浮かべるのであった。
 はやく解放してほしい。はやくおちんぽ触って、射精させてほしい。メルキスの顔は苦痛に歪み、そう彼女に懇願していた。
 
「ああ、駄目駄目。駄目よメルキス君。そんな顔しても触ってあげないから。あなたが心から堕ちるまで、おちんぽはお預けだからね」

 しかしヴェルベットは無慈悲にそう言い放った。そして彼女の言葉を聞いてメルキスも己の顔つきを自覚し、死力を尽くして顔を引き締めた。彼は最後の一線を守るように、しかし肉棒は硬くさせたまま、ヴェルベットを睨んで口を開いた。
 
「だ、だめ……駄目だ……お、お前なんかに、屈しないぞ……っ!」
「もう、強情なんだから。我慢しないで、はやく私に堕ちちゃえばいいのに」
「黙れ……! この、クズめ……人の心を弄ぶ、クズめ……!」

 メルキスは満足に力の入らない体で、威勢よく吼えた。体はもう快楽に蕩けてボロボロだったが、心だけはまだ力を秘めていた。
 ヴェルベットはシャワーをもってお湯を出しつつ、彼の頑強な精神を素直に褒めた。
 
「四日も保つなんて、やっぱりあなた勇者の素質があるわ。ますます堕としたくなっちゃった♪」

 しかしこの時、メルキスの理性は長くは保たないだろうとヴェルベットは推測していた。そして彼女は既に、メルキスの精神にトドメを刺す最後の一撃を用意していた。
 
 
 
 
 メルキスの生殺しは、その後一週間続いた。彼を取り巻く環境は全く変わらず、常に監禁生活を強いられていた。一日四回ヴェルベットが会いに来る以外は孤独な環境下に置かれ、そしてヴェルベットのスキンシップも彼を焦らせるものばかりであった。
 食事時のディープキス、入浴時の愛撫、それ以上のものをヴェルベットは与えなかった。彼女は徹底して肉棒への接触を避け、本格的な快感を与えようとはしなかった。
 そしてメルキスも、自分では決して絶頂出来ない状況に置かれていた。おかげで彼はイクことも出来ず、気を紛らわせることも出来ない、死ぬほどもどかしく退屈な時間を長く過ごす羽目になった。
 その生活は、確実に彼の精神を破壊していった。僅かな時間だけ一緒になれるヴェルベットに堕ちてしまうよう、彼は徹底的に追い詰められていった。
 しかしそれでも、メルキスは折れなかった。十二歳の少年騎士は、ひたすらヴェルベットへの対抗心から彼女に抵抗し続けた。
 
「あなたも強情ね。ここまでされてまだ堕ちないなんて」
「うるさい……! うるさいうるさいうるさい! 僕は騎士だ! 僕は王騎士なんだ!」

 昼食時に折れない彼を見て呆れるヴェルベットに、駄々をこねるようにメルキスが叫ぶ。ヴェルベットは手を止め、悲しそうな瞳で彼を見ながら口を開いた。
 
「そんなに騎士の地位は大事なのかしら」
「あ、当たり前だ! 僕は騎士なんだ! 騎士でいなきゃ、ここに僕の居場所はないんだ!」
「あなたの父がそれを望んだから?」
「そうだ……! 僕は、騎士じゃないといけないんだ……!」

 メルキスは国王の実子ではなかった。彼とメイドの間に生まれた、「望まれない子」であったのだ。この時王の下には三人の息子がいたのだが、王も息子達も彼を疎ましく思った。スキャンダルの暴露を避けて追放こそされなかったが、代わりに彼は物置同然の狭苦しい部屋に追いやられ、付き人も与えられなかった。彼は城の中で孤立し、孤独な生活を強いられた。
 そんな時、魔物が国の近くに出没し始めたという報告が上がり始めた。当然それを聞いた王は軍備を増強し、ひたすらに守りを固めた。そして王は増強された国防軍の象徴、民を導く勇者のイメージ像として、メルキスを使おうと目論んだのである。
 メルキスは妾の子であったが、それでも王族の血を引いていた。そして例え戦いの中で死んだとしても、全く良心も痛まない。それどころか、悩みの種が一つ消えてくれさえもする。至れり尽くせりである。
 
「王様は、あなたに条件を出した。軍を率いる王騎士となって大いに活躍すれば、自分の息子として受け入れてやる。その条件を提示されて、彼はそれに乗った。国防のシンボルとなり、父の思う通りに活躍して認められ、ひとりぼっちでなくなるために」

 メルキスが騎士となった経緯を淡々と説明しつつ、ヴェルベットがメルキスを見つめる。椅子に座らせられたメルキスは怒りと悲しみの入り混じった複雑な表情を浮かべ、握りしめた拳を太ももの上に置きながら俯いていた。
 
「あなたが私と出会ったのも、ちょうどその時ね。私はあの時、魔物達がその国に攻めてくることを知って、情勢を探るためにこの国に降りた。そしてそこで、初めて触る剣に振り回されているあなたを見かねて、あなたに近づいた」

 メルキスは軍の中でも白眼視されていた。命を危険に晒し続ける現場主義の兵士達は、それまでのうのうと過ごしていたボンボンの王子様が自分達のトップに立つことが我慢できなかったのだ。だから誰も彼に構わず、メルキスはたった一人で鍛錬に打ち込んでいた。
 そこにヴェルベットがやって来たのだ。
 
「白状するけど、あの時私はあなたに同情していた。誰からも相手にされず、一人でひたすら剣を振るあなたを可哀想だとおもった。そして同時に、あなたの中に流れる勇者の素質にも気づいた」
「だから、僕に手ほどきを始めた……」
「周りの兵士達は驚いて、あなたに嫉妬の眼差しを向けてきたりもしたけれどね。それでも私は、あなたと接することを止めなかった。あなたに戦い方をみっちり叩き込んで、勇者として育て上げていった」

 ――ほら! もっと腰に力を入れなさい! 重心を落として、どっしり構えるのです!
 ――こ、このおっ!
 ――そうです、その調子! まだまだ行きますよ!
 
 メルキスの脳裏で、かつての訓練風景が蘇る。まだ堕ちていない、厳しくも優しいヴェルベットの姿が、今でも鮮烈に思い出せた。ヴェルベットは一人の人間としてメルキスに接した。互いに名前を教え合い、境遇を話し合い、悲しみと喜びを共有しあった。訓練の時にしか姿を見せなかったが、彼女は師匠として、姉として、戦友として、女として、初めて自分をまともに扱ってくれた。
 メルキスの中で、ヴェルベットは非常に大きな存在となっていったのだ。
 
 ――メルキス、あなたには私がついています。何があろうとも、絶対に私が守ってみせます。
 
 ヴェルベットの言葉が脳裏をよぎる。そうして過去の情景に思いを傾けるメルキスに、ヴェルベットが陶然とした声で話しかけた。
 
「でもね、メルキス君。実を言うと訓練を通して、私はあなたを好きになっていったの。ひたむきでまっすぐで折れないあなたに、私は惹かれていったのよ。そして許されるなら、あなたとセックスがしたい。そんなことも考えるようになっていった」

 そう言って、ヴェルベットはメルキスの頬に手を添えた。それはメルキスにとって、生まれて初めて聞いた告白だった。メルキスは反射的に体を強張らせたが、ヴェルベットは彼の頬を愛おしげに撫でるだけだった。
 そうして愛しい人の感触にうっとりとしながら、ヴェルベットが言葉を続けた。
 
「私はあなたを好きになった。一つになりたいくらい愛していった。そして好きになればなるほど、あなたの環境に憤りを感じ始めた。ただ妾の子というだけで、なぜ王様はこんなことが出来るのか、不思議で仕方なかった。そんな時に、とうとう王様達が私の存在に気がついた」

 それはまさに時間の問題だった。ヴェルベットは一日中姿を現さず、メルキスが鍛錬を行う時間にピンポイントで姿を見せていたのであったが、それでも王の耳にその存在が届くのは必然であった。だがそれはヴェルベットにとっても好都合であった。
 
「私は王様に直接聞くことにした。なぜ彼を邪険にするのか。なぜ等しく愛してあげようとしなかったのか。それを問い質した」
 
 ヴェルベットは真面目な顔――かつて自分に剣と魔法を教えた師証の顔――を見せながら、メルキスに話していった。彼にとってそれは、どれも初めて耳にするものばかりだった。彼はダークヴァルキリーの話に聞き入り、ヴェルベットはそんな彼を見ながら事の顛末を告げた。
 剣を引き抜き、鬼のような顔で詰め寄るヴェルベットに、王はいとも簡単に口を割った。暴力と無縁の生活を送っていた王は、そのヴァルキリーの放つ「本物の殺気」に耐える胆力は持っていなかった。
 儂はあいつを愛していない。王はきっぱりと言い切った。そして城の誰も、あいつを愛してはいないとさえ言った。
 真相を知ったヴェルベットは、この国に失望した。そしてこの国にメルキスの味方は一人もいないことを察し、彼女は本気で彼を守ろうと決めた。
 
「誰もあなたを幸せにしないのなら、私があなたを幸せにしてあげる。私があなたを愛してあげる。敵しかいないこの国を沈めて、私があなたを守ってあげる。私はそう心に決めたの」

 ヴェルベットはメルキスと会う前から、既に魔に冒されていた。魔の力自体は微弱で、平時から彼女を蝕むほどのものではなかった。しかし彼女がメルキスと出会い、恋心を抱き、そして彼の境遇を知って怒りを抱いた瞬間、魔の力は彼女の愛と怒りと結びついて化学反応を起こした。魔力は恐ろしい勢いで理性を塗り潰し、ヴェルベットの倫理を魔物娘のそれへと丸ごと書き換えていった。
 
「だから、あなたは堕ちたの……?」

 メルキスが息も絶え絶えと言った調子で話しかける。ヴェルベットは頷き、彼の頬から手を離しつつ言い返す。
 
「あなたのためなら、私は誰だって敵に回せる。王も国も、神でさえも、私の愛を妨げることは許さない。私はあなただけを愛してみせる」
「ヴェル、ベット……」
「だから、あなたも一緒に堕ちましょう? 一緒に堕ちて、愛を育みましょう?」
「僕は……」

 メルキスが蕩けた視線を向ける。ヴェルベットは何も言わず、優しい顔でその視線を正面から受け止める。
 
「……僕は、嫌だ」

 しかしメルキスは首を横に振った。ヴェルベットは僅かに顔をしかめ、メルキスは彼女を見ながら言った。
 
「僕が好きなのは、好きになったのは……僕の先生だった頃のヴェルベットだ。ヴェルベット先生だけなんだ……。堕落したお前じゃない……!」
「メルキス君……」
「返せよ……先生を、返してよ……!」

 メルキスが声を絞り出す。目に涙を溜め、静かに怒りを湛える。ヴェルベットは悲しげな目でそれを見つめる。
 やがてヴェルベットが口を開く。
 
「自分から堕ちてくれたりはしない。そういうことなのね」
「そうだ……! 僕は騎士だ。この国を守るなんだ……! 絶対、お前なんかに屈しないぞ……!」

 メルキスはもう限界ギリギリだった。焦らしに焦らされた股間は爆発寸前であり、全身からは玉の汗を噴き出していた。それでも騎士と言う父から与えられた唯一の居場所と、堕落したヴェルベットへの反発心が、彼の理性を首の皮一枚で保たせていた。
 
「僕は……騎士なんだ……騎士じゃなきゃ、いけないんだ……」

 自分に言い聞かせるように、メルキスが小さな声で呟き続ける。ヴェルベットはひどく沈んだ表情を浮かべ、それからゆっくりと席を立った。
 
「わかった。じゃあ見せてあげる」

 そして立ち上がった後、そう言って指を振り、メルキスにかけていた魔法の一つを解除する。体が軽くなり、椅子から尻を離せることに気付いたメルキスは、驚いた顔でヴェルベットを見上げた。
 そのメルキスに手を差し伸べながら、ヴェルベットが声をかける。
 
「一緒にいらっしゃい。現実を教えてあげる」




 ヴェルベットに手を引かれて、メルキスは城内のにある一室の前に立っていた。そこは王の私室であり、自分のいた部屋よりもずっと広い場所であった。ヴェルベットは迷うことなくドアを開け、半開きにしたドアの隙間から中を覗き込むようメルキスに促した。
 
「あん! やあん! あぁん!」

 室内を覗き見たメルキスは絶句した。しかしそこにある光景と、聞こえてくる嬌声が、彼に目の前のそれが紛れも無い現実であることを無理矢理認識させた。
 
「ふぅ、ふぅ、ふうぅっ!」
「あっ、おちんぽ、当たってる、いやん! おまんこ、がつがつ、食べちゃってるぅっ!」

 国王が、自分の父が、ベッドの上でサキュバスと交わっていた。魔物と戦うために軍を揃え、自分をその象徴とした王が、魔物娘と化した本妻とあられもないセックスを繰り広げていた。
 
「あなた! あなたぁっ! もっと、もっと私を愛して! もっと私を食べてぇっ!」
「ああ、イくよっ! お前の中に精液、たっぷり注ぎ込んでやるぞっ!」
「あン、あン、あン、あっ……イっきゅううぅぅぅん!」

 王が腰を打ち付け、サキュバスをよがらせる。精液を注ぎ込まれたサキュバスは背筋をピンと伸ばし、愛する夫の精を子宮に受けて絶叫する。
 それを見た瞬間、メルキスの中で何かが音を立てて崩れた。
 
「どうして……?」

 自分を騎士とした父が、自分より先に堕ちていた。高潔なる騎士の地位を誇りとし、自分が必死になって誘惑に耐えていた時に、彼はさっさと堕ちて快楽を貪っていた。
 僕はこんなに我慢しているのに。
 していたのに。
 
「なんで……なんでだよ……」

 溜まりに溜まった感情が一気に噴き出していく。しかしそれは声にならなかった。膨れ上がり過ぎた感情が彼の心を押し潰し、感情と言葉を根こそぎ奪い去っていった。
 だからメルキスはその場に崩れ落ちるしかなかった。地面に膝をつき、打ちのめされたように背中を丸める。
 そしてヴェルベットがメルキスの背後に回り、彼の体を背中から抱きしめる。
 暖かい感触が背中に広がる。入浴中に散々味わった柔らかな感触。しかしメルキスはそれを拒絶しなかった。
 
「もう、我慢しなくていいのよ……?」

 ヴェルベットが耳元で囁く。メルキスはもう抵抗しなかった。
 ダークヴァルキリーは悲しみに満ちた表情で言葉を紡いでいった。
 
「本当は、こんな残酷なことはしたくなかった。私の魅力で、あなたを堕としてあげたかった。でももういいの。もう我慢しなくていいのよ」

 抱きしめる腕に力を込める。ヴェルベットは涙さえ浮かべながら、メルキスに言い続けた。
 
「だから、いいでしょう? 私と一緒に、どこまでも堕ちていきましょう?」
「……」

 自分の居場所は、もうここにしかない。
 それを察したメルキスは無言で涙を流し、静かに頷いた。
 
 
 
 
「メル、メル! もっとよ、もっと私を突いてぇぇっ!」
「ああ、ヴェル! ヴェルぅ!」

 薄闇に沈んだ部屋の中で、一組の男女の声が響き渡る。肉がぶつかり合う音と悦びを感じる声が室内を満たし、汗と愛液と精液が二人をベッドを汚していく。二人の体温が部屋を熱くさせ、魔物の瘴気がさらに部屋の温度を高めていく。
 
「いいよ、メル! もっと私を貪って! 私をあなたの色に染めてぇっ!」

 小さなベッドの上、自分にしがみつくメルキスを掻き抱きながら、ヴェルベットが歓喜の叫びをあげる。この時ヴェルベットもメルキスも、互いの体液でびしょびしょになっていた。子宮に入りきらなかった精液が膣口からとめどなく溢れ出し、メルキスはその漏れた分を補充しなおすように再び精液を注ぎ込んでいく。
 
「はきゅううううぅぅぅん♪」

 そうして子宮に暖かな白濁液の奔流を受けるたびに、ヴェルベットはメルキスの愛を感じて絶頂を迎える。彼の顔を胸の谷間に沈みこませ、自分の一部とするかのように彼を強く抱きしめる。
 そしてメルキスはそんなヴェルベットの愛を感じながら、何も言わずに腰を振り続けた。それまで我慢してきた反動が彼から理性を奪い去り、代わりに果てのない性欲と射精欲求を彼の心に植え付けた。彼は騎士から一匹のケダモノとなり、何度も何度も愛するヴェルベットの中に精液をぶちまけた。
 
「ねえメルっ、かおっ、私の顔にっ、ザーメンちょうらぁい♪」

 膣を満たす精液の感触に酔いしれながら、ヴェルベットが甘えた声で催促する。メルキスは無言で肉棒を引き抜き、彼女の眼前で肉棒を扱き始める。
 彼の心は壊れていた。ヴェルベットを幸せにする。ヴェルベットと一緒に堕ちていく。それだけが彼の心を支配していた。理性をかなぐり捨てた王騎士は猿のように盛った動きで肉棒を扱き、愛するヴェルベットに精をあげようと奮起する。
 
「あうっ……出る……っ!」

 メルキスが苦しげに呻き、腰を前に突き出す。次の瞬間、鈴口から白い粘性の液体が勢いよく噴き出し、ヴェルベットの顔を真っ白に汚していく。
 
「あぷっ、ふっ……きゅううん♪」

 鼻を衝く精臭。顔にべったり貼りつく白濁液。口内に入れば舌を刺激し、びりびりと脳を溶かす。愛する人に顔射され、征服される快感にうっとりとする。
 至福のひと時だった。彼女は堕ちて良かったと心から思った。
 
「ねえメルぅ……きてえ……」
 
 だらしのない、快楽に蕩け切った表情を見せながら、ヴェルベットが両腕を開いて彼を求める。メルキスは蜜に誘われる虫のように、その花弁を開く食虫植物の中に飛び込んでいく。ヴェルベットはそうして飛び込んできたメルキスを強く抱きしめ、体液を絞り尽くすかのように強烈なキスをする。
 
「んちゅ、くちゅ、ちゅっ……んっ、むちゅう……」
「あん……んふぅ……ぴちゅ、ちゅっ、ちゅるっ……」

 メルキスはそれを受け入れた。自分の顔を精液塗れの顔と密着させ、貪るようにキスを続ける。肉棒に再び熱が集まり、硬さを取り戻し、自己主張をするかのようにヴェルベットの腹の上で震え始める。
 それに気づいたヴェルベットはゆっくりと口を離し、至近距離でメルキスを見つめながら彼に言った。
 
「ねえメルキス……もう一回、いれて?」

 熱のこもった声が、メルキスの精神を桃色に染める。彼は一つ頷き、彼女の濡れそぼった膣に自身の肉棒をぶち込む。
 
「くううぅっ……!」
「きゃうううぅぅん!」

 いれた瞬間、思わず射精してしまいそうになるほどの快感がメルキスを襲う。彼はそれを歯を食いしばって耐え、そしてヴェルベットもまた、あえて絶叫することで本格的にイってしまうことを防いだ。
 そうして互いに最初の衝撃をやり過ごした二人は、向かい合って微笑んだ。
 
「ヴェル、好きだよ……」
「私も、大好きよ、メルキス……♪」

 そして互いに愛を囁き、どちらからともなく動き出す。水音が響き始め、そこに嬌声が混じっていく。
 
「ああ、メル、メル、いいよ、メルっ」
「先生、大好き、せんせぇっ!」

 二人の声はシンクロし、互いを高みへ導いていく。やがて二人は同時に絶頂を迎え、何度目かもわからないほどに幸せの極地へ精神を飛翔させる。
 
「メルキスぅぅぅぅぅっ!」
「せんせぇぇぇぇぇっ!」




 堕ちた王城の一室、物置のように狭い部屋の中で、恋人同士の喘ぎ声はいつまでも途絶えることは無かった。
16/08/29 19:51更新 / 黒尻尾

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