連載小説
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愛別離苦
「こんなところに呼び出して・・・一体どうしたんだ?」
うん、来てくれたんだ♪やっぱりひー君は優しいなぁ。

「ひー君、ひー君、すきー。」
「俺は君が恐い。得にいま、この状況だと余計に。
繋がっていたいから○○ビルの屋上テラスに来てほしい。
なんて事をメールで送られて来てみたら、君が居て、終始笑いっぱなしと。」

「そう?うぇへへ、だって嬉しくてたまらないんだもん。ひー君が来てくれたんだから。」
「そりゃそうだ、俺だって行きたいなと思ったんだし。それで?昨日シたのは覚えてる?態々こんな回りくどいことをしなくても、シたいならそう言っておくれ───」

「ううん、違うの。それじゃもう感じられないの。」
鋭く、そして、重い口調で君の言葉を遮った。
「あれじゃ、繋がったなんて思えない。もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もっと、もぉぉぉっっと、ひー君を近くで感じていたいの。」

「わぁ、そんなに俺の事を思ってくれてるのかい?ヘヘッ、照れるな。」
「うん。ひー君が思っている以上に私はひー君が好きなの。loveじゃ伝えられない位、」

「love以上?間悲喜冷苗(マビキ レイナ)さんや、俺に教えてくれないかい?その隠した胸の内を。」
「えへへ〜、そう言ってくれるのは、ひー君だけだよ。じゃぁ…」

「二人で─
─永遠になろうね。」

鞄に隠していた包丁を突き立てて愛しの彼に向かって駆ける。
一歩一歩、歩みを進める度にキモチヨクなっていく。
私と彼の二人の世界で永遠に愛し合えるから。

届け、この思い。

「・・・。」ヒョイ

「あ、逃げちゃ───」
振り向いて避けないように言う。やっぱり怖かったかな?
でも、恐れないで。ユートピアはすぐそこなんだから。

なんだが、体が軽い。鳥みたいに空を舞ってるみたい。すごいや、好きな人と一緒になるために私は空を飛べるようになったんだ。

「冷苗ッ!!」
「ふぇ?──きゃぁぁっ!!!」

─────────

『次のニュースです。今日午後、○○ビルの屋上から女性が転落して死亡する事件が起きました。連絡をした交際相手の男性は───』

「つまり、杉桧(スギ ヒノキ)さん、貴方は刃物を持って襲いかかってきた交際相手所を避けた為にそのまま勢い余って転落したと言うことですね。」
「はい。」
「………、こちらで調べを進めさせてもらいます。また、進展が有れば知らせます。今日はありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございます。あと、その………………」
「なんでしょうか?」
「あ、いえ、何でもありません。ごめんなさい。」

─────────
自分が泣き虫だと思っていた。だが、薄情者では無いはずだった。いや、そう思いたかっただけかもしれない。
卒業式で、入試の合格通知で、同窓会で・・・、泣いた。もう、中の良い友達ともう、一生会えないと言わんばかりに泣いてきた。

──なのに。それなのに。

どうして、泣けないのか。
本当に、もう二度と君と話すことも、その柔肌に触れることも、傷つけることも出来ない。
葬儀の中で、俺が堪えていたのは涙では無く、キミに対するヘドだったんだ。
「………………。」
「桧君・・・、ごめんね、こんなことになっちゃって。」
嗚呼、キミのお母様が泣いている。
何も知らないんだろうか、それとも知っていて、そう言っているのか?少なくともこの人は俺の為に泣いている。
やめておくれ、俺の為に涙を流さないでおくれ。こんな最低な彼氏なんだ。此処に居ることでさえ場違いなんだ。

─愛別離苦─
愛するものと別れなければならないという苦しみ。仏教の八苦のひとつ・・・、だったっけ?
ひー君が読んでた本に書いてあったなぁ……。
愛別離苦、正に今がそうだと思う。ひー君はわからないけど私はカミサマなんて居ないって思う。でも、魂はきっとある今確信した。だって・・・、

「冷苗ぁ゙ぁ゙ぁ゙!うわぁぁぁ!」
回りの事なんて目に入らず醜態を曝して泣いているおとーさん、
「うぅっ・・・ぐすっ・・・」
私の頬に手を当てたまま泣いているおかーさん。

「ボケが・・・。自分だけ死んでどうするつもりなんだ。」
軽蔑の目で棺桶の中の私を見るひー君。
ドジだよね、ホント。ひー君と一緒に永遠になろうとして勢い余って私だけ屋上から落ちちゃったんだから。

あぁ、残念だなぁ・・・、ひー君を救ってあげられなかった。
あぁ、残念だなぁ・・・、ワタシだけ一人ぼっちで死んでいくんだろうなぁ。
『一人ぼっち』その言葉が魂だけになって、葬儀場を漂うワタシを苦しめる。

ワタシの体が火葬場に送られる、真っ黒な喪服の集団もそれに続いて移動する。
もちろん、ひー君にツイテイク、ひー君の車に乗って(?)私も火葬場に向かう。ひー君には見えないけどワタシは近くにいるよ♪
ずっと、
ずぅぅっと、ね?

出発して直ぐに車のスピーカーからワタシのお気に入りの音楽が流れてくる。ひー君の横で鼻歌してたなぁ、でも、ひー君結局それについて何も言わなかったから聞こえてなかったのかな?

「ヘヘッ、音痴な鼻歌が無いからイヤに物足りないな。」

ひーくぅん・・・

「ん〜ん〜ん〜───」
ひー君が鼻歌を歌い始めた。うん、ひー君も人の事言えないよっ!
ふと、助手席の下を見ると、あ!コンドーム!懐かしいね、お月見に人気のない所に行ってワタシがムラムラしちゃった時のだね!
ひー君、結構大雑把だからお片付けを忘れてたのかな?

「触れられないし、見えても無いから・・・ちょっとぐらい、良い、よね?グヘヘぇ」
自分でも汚い笑いかたなのは分かっている。
「はぁぁ──ひー君っ!ひー君ッ!─ハァッ、ぁ、ぁぁ─」
もしも、ひー君が見えないフリをしていたらどうしようか、
「イ゙ゥッ─ひーくぅぅん──ペロ、ジュルrrr─」
両手で自分の性器をかき回しながら、ひー君の首筋を舐め、吸い付く。
あくまでそういうフリでしかない。

すり抜けちゃうから。
もう二度と触れられない。

「はうぅぅうっ!!」
絶頂を向かえ、全身の力が抜ける。
直後、一人ぼっちになることの恐怖がワタシの魂を蝕んだ。
ぐちゃぐちゃに溶けた思考の中でワタシはただ、消えたくないと、こんなところでワタシを失いたくないと、思っていた。


───
火葬場に着いた頃には落ち着いたが、少しずつワタシの心が壊れていく感覚があった。
おとーさん、おかーさんが一緒に歩いているのをワタシは羨望の眼差しで見ていた。
「ひー君と一緒に歩けたら良いのになぁ・・・」
最早、叶わぬ願いを胸に抱いて。

最後の最後までひー君は泣かなかった。それどころかワタシの体をいや、体というのは語弊なのかな?亡骸?を軽蔑の目で見てた。

そして、火葬される
熱い─魂だけになったワタシも炉の中に吸い込まれた。
熱い!
あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!あつい!
苦しい、

くるしくて、どうにかなりそうだ。
たすけて、ひーくんたすけてたすけてたすけてたすけて・・・・・・・・・・───
『ヒトリハイヤダ。』
18/03/06 09:35更新 / Mr.A
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■作者メッセージ
一区切り着いたので投稿します。

魔物娘はまだ出てきておりませんので悪しからず

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