連載小説
[TOP][目次]
異邦人と蜥蜴娘2
朝もやが辺りをうっすらと覆う中、二人の人影がセムスの街に向かって街道を歩いている。
と、一人が口を開いた。

「セムスはもう近いのか?」

声は若々しい男性のものだ。とは言え、その声は充分な落ち着きを保ち、むしろ大成した感すら伺えるような、そんな相反する要素を併せ持った声である。
するととなりの者が頷き、ついで口頭で答える。

「ああ。もう間もなく到着する」

こちらは女性の声で、なんとも涼やかで凛としている声だ。それだけで惹かれる異性もいることだろう。
無論、二人はリュウとイリアである。
リュウは人間の男性、イリアはリザードマンという魔物だ。
しかし、この二人の間には特に夫婦あるいは恋人といった感じはない。
それもそうである。
まだ出会って半日と経たず、多少ではすまない経緯があったにせよ、まだろくにお互いのことを知りもしないのだから。




リュウはイリアの返答に対して更に質問する。
「あとどのくらい街まである?」
「せいぜい、1・2時間といったところだな。日が昇り、少し経ったあとには到着するだろう」
実際、東の方は既に薄らと闇が溶けつつある。
「そうか。なら、少し遅れてもかまわないか?」
「どうした?何か用事でも?」
「ちょっと、話しておきたいことがあるんだ」
リュウのその言葉を聞いてイリアはリュウの方を振り向いた。――、彼女が少し先行するような形で歩いていたのである。
「それは・・・・・・」
イリアは振り向いて何かを言おうとしたが、二の句が告げられなかった。リュウの少しだが、ただならぬ気配に気付いたからである。
「そんなに緊張しなくてもいいさ。・・・、まあ、気には掛かっているんだろ?俺のこと」
問われたイリアは頷くしかできなかった。
「ここだと万一、人目につく恐れもある。こっちで話したいんだが、いいか?」
街道沿いの林の木々の奥を指しながらリュウは告げた。


「さて、ここならいいだろ」
やや、砕けた感じをわざと出しながらリュウはイリアに言った。
少し街道を離れ、かといって奥過ぎるほどでもなく、丁度よく切り株があった開けた場所で、二人は立ち止まった。
「何から聞きたい?場合によっては答えられないからその積もりで」
互いに切り株に対面する向きで腰掛け、リュウがそう問うと即座にイリアは言葉を口にする。
「貴方は一体、何者だ?」
今度は躊躇することなく、素直に言葉が出た。先ほど感じたリュウの気配が消えている、と言うのもある。だが、それ以上に今を逃せばもう二度と聞けない、そんな確信がイリアの胸にあった。
「・・・・・・単刀直入だな。潔いと言うか何と言うか」
思わず笑みを漏らしながら、リュウは答える。胸中では、思ったとおり真っ直ぐなヤツだなぁ、と感じていた。
同時に、だからこそ大事なときに必要な行動が取れる、と賞賛を送る。
「有体に言えば、俺は異世界人だ。この世界の人間と同じ人間ではあるが少々特殊、といったところか」
「ふむ、なるほど。では、どうやって此処へ・・・、と言うのは答えられないのだったな。なら、そうだな。・・・目的は?」
昨日、と言っても殆ど今日の出来事だが、彼女は記憶していたようである。リュウが現れた際に、その場に居合わせた者との問答を。
リュウはゆっくりと、だがそこに限りなく力を籠めて言の葉を繰り出す。


「この世界、或いは次元そのものを『存続』させること」


普通に誰かに聞いた話であったりすれば、一笑に付すところなのだろう。イリアは思っていた。だが、その言葉の重み、声の厳かさが、そんな気を微塵も与えてくれなかった。だから、イリアは尋ねる。
平たく言えばリュウは、世界を守る、そう言っているはず。つまりそれは、
「貴方は英雄か、勇者になりに来たのか?」
と考えるのが妥当である。しかし、リュウは首を振り、口を開いた。
「違う。それになれるのは、この世界の人間だけだ。俺はただ、『存続』させる。良いことも、悪いことも、全て含めて、だ」
リュウの鋭い視線がイリアを射竦めた。イリアはその視線によって彼の言葉の意味を理解した。そして、自分は幸運だったと言うことも、また理解した。


リュウは世界を守るのではなく、ただ、あり続けさせるだけだ。
仮に、今目の前で自分が殺されそうになっても、それを止めようとはしないだろう。
そう、彼は野盗を殺さずに気絶させた時なんと言った?
<可能性の消失>
つまり、選択肢を残すだけ。
たとえ、私が死んだとて、
あるいはこの世界に生きるすべてが死に絶えようと、それは関係が無い。
それは
<我々が選んだ可能性の結果>
だから・・・


「何故、私を助けた?」
自分はあそこで見捨てられていて当然だった。それは彼の成すべき事ではない。自分がいかなることになろうとも、リュウがその気なら絶

対に手は出さない。やや、悲壮じみた観念に囚われているような空気を醸しながら、イリアは尋ねた。

しかし、リュウは答えを返さない。

ただの気まぐれか、そう更に問おうとした時、リュウの言葉が聞こえた。



「・・・・・・・・・・・助けたかったから」



後頭部をかきながら答える、リュウのその姿と仕草と一言でまた、理解した。
ああ、この人は心底お人好しなんだ、と。
そう思えると同時、気付いているかは定かではないが、イリアは思わず笑みを漏らしてしまっていた。



「ほかに聞きたいことはあるか?」
何とはなしに、リュウは尋ねる。
「いや、今はここまででいい」
微笑を湛え、イリアは答えた。そう、今はまだこれ以上を知る必要は無い。聞きたいことはあったが、取りあえず今の話を受け入れるだけ

でもいっぱいいっぱいなのだ。
・・・いや、これだけは聞いておきたい。イリアはそう考え、尋ねる。
「何故、私に話をしてくれた?」
別段、黙っていても問題は無いはずである。それでもリュウが話そうと決めた、その理由だけは知っておきたかったのである。少し思案し

、リュウはにんまり、と笑いながらこう答えた。
「そんなバカ正直に質問をするヤツだからだ」
その後、しばらく二人で声を上げて笑いあっていた。






「あれがセムスの街だ」
あれから街道に戻り、やや急ぎ足で歩いてきた二人はようやく街の姿が見えるところまで歩いてきた。
「すごい外壁だな。まるで何かの襲来を防ぐような・・・」
街を覆う外壁にリュウがそう言うと
「かなり以前、魔王が代替わりする前、この辺りはとくに激戦区だったらしい。とは言え、今の魔物は・・・む、そうか。そのあたりの事も全く知らないのだな」
イリアは説明しようとするが、言葉の途中でリュウの特異性を思い出し、そう区切った。
「悪いな、イリア」
「気にする事はない、リュウ。これから飯でも食べながらゆっくりと、だろう?」
少し砕けたような喋りと笑みでイリアは肩に担いだ野盗たちの武器の入ったふくろ――リュウも同じものを持っている、をじゃらりと鳴らし、先を促す。
「ああ。・・・・と、そうだ。その前に一個だけ、聞いておきたいんだけど、いいか?」
歩き始めた直後、歩を遅め無い程度にリュウは尋ねる。
「なんでもいいぞ。私の理想の旦那像か?」
「いや、それは謹んで御遠慮いたしたい」
「・・・・・ではなんだ?」
リュウの即答に若干不満を覚えたのか、声が少々不機嫌になっている。
だが、次のリュウの一言でそれは決定的なものになる。

「どうして俺の話を信じる?ウソかも知れないのに」

イリアの歩がまさに、ピタッ、と止まる。
と同時に不穏な空気が俄かに漂い始める。
リュウも歩みを止めた。

バッ、とイリアが振り向くと同時に叫んだ。




「私を守ってくれた者が、私に真剣に話してくれたことをどうして疑える!!!それに、私がそうしてしまったら、私は私で無くなる!!!疑うよりも私は、人を信じたいのだ!!!!」




裂帛の気合が込められた、偽らざる本心だと誰もが判る絶叫であった。
まさか、こんなことを聞かれると思ってもいなかったのだろう。
それを証拠に、その頬は紅潮し、目尻には若干の雫が溜まっている。

「試すようなことをして、すまない。余計だった」

そう言ってリュウは即座に深々と頭を下げる。その潔さに、イリアも熱が少し冷めたのか
「・・・・・・・いや、私も突然怒鳴って悪かった。そうだな、普通に考えれば・・疑って当然の内容なのだったな」
と少しバツが悪そうにしている。

お互いに気まずい空気が流れてしまう。
が、不意にリュウが歩き出し、擦れ違い様に彼女に言った。




「イリア、ありがとう。その信に応えられる様、努力する。さっきの言葉は嬉しかった」




「!??!!?!?バッ、なっ??!?!!!?!!?!」
今度はイリアが別の意味で紅潮し、慌ててリュウの後を追う。

少し照れくさそうに。

それでも嬉しそうに。

「待て、リュウ!!私抜きで行くつもりか!!」







二人は並んで街の門をくぐった。






10/03/31 06:03更新 / ぱんち
戻る 次へ

■作者メッセージ
性懲りも無く二発目ですw
なんとなく、各話で区切るのが嫌だったので何話というのを消しました。

本来なら街に入って・・・だったんですが、キャラがそれじゃダメだと申してきましてorz
だらだら説明文チックになってしまい、申し訳ありません・・・。
なお、全体構想とかは考えてません。その場のノリですwww
今後何処へ行くのやら・・・


ちょっとあとがき長すぎましたね;
よろしければ、感想・御意見等下さると狂喜乱舞しますww

ではまた〜
・・・会えたらいいなあw

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33