遊び猫
「わぁ…かわいい…」
「へぇ、こんなに種類があるのか」
俺、深山 恭介は彼女とペットショップに来ていた。
彼女の名はスズ。
「ほら、これなんかお前に似合うぞ」
俺が差し出すのは猫用の首輪、大きな赤いリボンが付いている可愛らしいものだ。
「…そうかな……買ってくれるの?」
「まぁ、これくらい安いもんだ」
…もうお気付きかもしれないが、
スズは猫又だ。
首輪が似合うのは本当だが、流石に猫の首輪はサイズが合わないので、もちろん猫の時につけるものだ。
だが、今日の目的は首輪ではない。
今日は彼女と遊ぶ為のおもちゃを買いに来たのだ。
………やらしい方じゃないぞ
……………………………………………………
「ただいまー……」
家に帰ると、いつもの出迎えがない。いつもならスズが突進しながら出迎えてくれるのだが…
(寝てるのか?いや、にしては部屋が騒がしいな)
家の奥からは、何かドタドタと物音が聞こえてくる。
(何だ………?まさか空き巣か?)
今朝、ニュースで見た気がする。最近この辺りで空き巣の被害が増えているそうな。
もしそうなら、留守番をしているスズは無事だろうか。
考えるや否や、俺は荷物を放り出して部屋に駆け込んだ。
ガチャッ!「スズ!無事か⁉」
ひどい有様だった。
机やソファーはいつもの場所から大きく動き、棚の上に置いてあるダンボール箱は床に落ちている。服をしまっているクローゼットからは、荒らされたかのように服が雪崩れていて、床に積んであった雑誌はもちろん、床に敷いているラグもめくられていた。
そんな部屋の真ん中で
スズが、手を地面について天井を睨んでいる。
尻尾は狸のように膨らみ、その尻尾は、時折床にペシペシと叩きつけられて、口からは「ヴゥゥ〜」と唸り声まで漏れている
その視線の先には、ひらひらと舞う一匹の蛾
「……スズ、どうした」
「……………!お、おかえり恭介」
しばらくするとこっちに気づいたようで、二足で立ち上がりこっちにくる。
が、まだ尻尾はブンブン揺れている
「とりあえず、この部屋の荒れようはなんだ…」
「……わ、私は悪くない。悪いのは全部あの蛾なの…」
焦ったように弁明するスズの話によると、
『部屋の中を飛ぶ蛾を見ていたら、どうしようもなく体が疼いて、気づいたら飛びかかっていた』
…だそうだ。
「やっぱお前が悪いじゃねーか!」
「あうっ…」
軽くチョップを食らわせる。
「ったく…」
「ごめんなさい………でも恭介にも非はある」
「は?」
しょんぼりと耳を垂らしたまま、スズが反論してくる
「だって恭介…全然遊んでくれない」
「……はぁ?」
「……猫はもとより狩猟動物、寝るのも好きだけど動くのも大好きなんだよ。それなのに恭介は猫じゃらしの一本も持ってきてくれない……そんなのひどい!」
「す、すまん」
「……わかればいい」
いや、なんで俺が謝ってるんだ。
だが、猫じゃらしか……確かに必要かもしれない。第一、蛾一匹でいちいちこんなに部屋を荒らされても困る。
さらに、俺の頭にはとあるイメージが浮かぶ。
四つん這いで、腰を振りながら目を輝かせて猫じゃらしに夢中になるスズ。
………良い……とても良い。
「わかった、明日買いに行こう」
「本当⁉」
「あぁ、明日は仕事もないしな」
「……恭介と初デート♪嬉しいな♪」
「ん、そういえばそうだな。…いや、でもこれデートか?」
……………………………………………………
そんなこんなで俺はスズとペット用品店の猫じゃらしコーナーにやってきた。
だが、一口に猫じゃらしと言っても色々種類があるもので、棒に毛虫のような毛玉をつけただけのシンプルなものから、長い紐がついたものや、釣竿みたいなもの、さらには電動で勝手に動くものまであるようだ。
「さて、どんなのが良いん…………って、スズ、何してんだ」
横を見ると、数々の猫じゃらしに目を輝かせるスズの姿が。
耳は帽子で隠しているので見えないが、服の中に隠しておいた尻尾は外に出ており、フリフリと揺れている。
そのままスズは膝を曲げ、手をついて四つん這いに……なりそうな所で俺は首根っこを掴む。
「おい、やめろ!変な目で見られる!」
「…ハッ!」
正気に戻ったスズは、急いで周りを見回す。見える範囲には誰もいない。それを確認すると、スズは再び四つん這いに……
「だから!やめろって!」
「あぅ…きょーすけ、止めないで…」
(こりゃダメだな…早く離れよう)
俺は適当に何種類かの猫じゃらしをカゴに放り込み、売り場を離れた。
……………………………………………………
「さてと…」
家に帰り、夕飯を食べた後、早速今日買った玩具で遊ぶことにした。
「……はやく♪はやく♪」
スズははやくも臨戦態勢、尻尾を勢いよく振っている。
「んじゃ、まずはこれだな」
俺は、袋から小さな玉を取り出す。
プラスチックできた網を玉にしたような、そしてその中には小さな鈴が入っている。
中の鈴を鳴らすと、その音に反応してスズの耳がピンと立ち、目を見開いて玉を見つめる。
「ほれっ」
「…………!」
軽く転がしてやると、勢いよく飛びついて、両手で押さえつける。そのまま片手でちょいちょいとつついた後、ふと動きを止めて、こっちを振り向く。
「………なんか違う」
完全に興味を失ったようで、スズはこっちに戻ってくる。
「ん、お気に召さないか」
「…一人遊びするより、恭介と遊びたいな♡」
「……可愛い奴め」
スズの頭を撫でてやりながら、俺は袋から他の猫じゃらしをとりだす。
「じゃあこれは?」
次に取り出したのは、プラスチックの棒に毛玉が付いただけのシンプルな猫じゃらし。
胸の高さあたりで軽く左右に振ってやると、スズの目線も毛玉に吸い寄せられるように左右に揺れる。
そのまま、床に擦らせるように毛玉を走らせると、スズの手がそれを捕まえようと手を伸ばす。スズに捕まらないように素早く動かしてやると、スズは興奮してきたのか、腰をクイッとあげた体勢で、毛玉を必死に追いかける
(……そういや、猫って腰のあたりに性感帯があったっけ)
スズを見ると、完全に猫じゃらしに夢中、今なら触れるんじゃないか…
俺は恐る恐るスズの腰に手を伸ばし…
「……シャッ‼」ガシッ
たら、物凄い速度で腕を掴まれた。
「うおっ⁉ス、スズ!悪かった!離して………イテテテテ!」
俺は咄嗟に謝っていたが、一向に離してくれない。それどころか、俺の腕をに爪を立てて、指に噛みついてくる。
「…………!」
「ス、スズ?」
目を見ると、いつものようにトロンとはしていないが、すごく鼻息が荒い。
やがて、しばらくすると、はっとした感じで腕を解放してくれる。
「……ごめん恭介、つい」
「いや、今のは俺が悪かった…」
まだ興奮した様子のスズに謝られるが、今のはどう見ても俺が悪かった
15/10/10 21:17更新 / ウェラロア
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