読切小説
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とある街の美味しい中華料理店
「はいよ、小籠包とラーメンね。」
「ありがとうね。」
「おーい兄ちゃん!こっちまだかよ!」
「ちょっと待っててください。俺の身体は一つしかないんだからそんないっぺんに運べないですよ。」
「こっちビール2本追加で。あと適当につまみ頼むわ。」
「飲み過ぎですよ。後うちは呑み屋じゃなくて定食屋なんですけど。」
ここは東のとある街。
昼は露店の商人達の活気ある売り文句が飛び交い、夜になると酔っ払いの怒号や愚痴が聞こえてくる、どこにでもある普通の街。
その一画にある小さな中華料理店。
客入りは多くなく少なく、毎日一人は常連の顔があり店主の料理に舌鼓を打っている。
おすすめは店主自慢の中華まん。
そんな店があったそうな。



「大将も随分この街が似合うようになってきたじゃねぇか。」
「お陰様でね。儲からせてもらってます。」
「2年前にここで店を開くって聞いた時はどうなることかと思ったけど、案外続いてて嬉しいよ。」
俺の名前は九十九(つくも)、この店の店主をしている。
元々俺はこの街の人間ではない。
2年前にふらっとこの街にやってきた流れ者だ。
商売が軌道に乗り、ここまで来るは様々なことがあったが何とかやっていくことができた。
始めこそ右も左も分からない状態だったが今ではこの店の店主としての生活がすっかり板についてきている。
慣れなかった敬語も何とか使いこなすことができるようになった。
今では自分の料理を食べておいしいと言ってもらえる、それが俺の中では楽しみの一つになっていて、日々を生きる俺の原動力にもなっている。
「き、厳しいですね。こっち商売も料理も半人前のペーペーなんですからもう少しお手柔らかに頼みますよ。」
従業員は俺1人。
調理からホールまで一人でこなさなくてはいけないから、営業中はいつもてんてこ舞い。
少しずつ繁盛してきたことだし一人くらい人を増やしてもいいとは思っているのだけど、まだ店を立てた時の借金は残っているし今でもギリギリやりくりできている状態だ。
だからせめて借金を返し終わるまでは一人で頑張ろうというのが俺の勝手に決めている。
「そうかい?これでも店主の料理を評価しているんだけどね。若いのに、大したもんだよ。」
「そうだねぇ。ここにいる奴ら以外にも知った顔が増えてきたことだし、開店当初から来てる俺たちとしても嬉しいことだねぇ。」
「いや、常連と言えばまだ来てない奴がいるだろ?」
「あー、もうそんな時間ですか。」
時計を一瞥し、時間を確認してから俺は深くため息ついた。
いくら常連の客といえど、流石に毎日やってくる訳ではない。
しかしただ一人だけ、毎日必ずこの店にやってくる奴がいた。
一日に何回も来る日もあり、休日などひどい時には10回以上も来ることもある変わり者。
いつも扉を壊さんばかりの勢いで蹴り開け、大声をあげてやってくる・・・。
「たのもーーー!!!」
燃えるように熱い志を持った女の子がいた。




「お前は何度その戸を壊すつもりだ?今お前が蹴ったやつでもう5枚目になるんだが?」
「私がお金出して直してもらったんだからこの戸は私のものだ!お前にどうこう言われる筋合いはない!」
「お前、辞書で『弁償』って言葉を1回調べて来いよ。」
燃え盛る真っ赤な毛皮を持つ持魔物の彼女の名前はシャオメイ。
彼女も俺と同じでこの街にやってきた流れ者だ。
「九十九!今日こそ私と勝負をしてもらう!表に出ろ!」
「見て分かんないのか?万年ニートのお前と違って、今俺は仕事で忙しいんだよ。」
「この前からまたバイトし始めたからニートじゃない!」
「お前、その前のバイトが続いたのって何日間だっけ?」
「5日だ!」
シャオメイは1年前にこの街にやってきた。いや、俺を追ってこの街に来たというのが正しいらしい。
それからというもの、今みたいに毎日のように俺に勝負を吹っかけてくる、正直言ってウザい奴だ。
「市場で聞いたぞ。また客を殴ったんだってな。」
「だってあの客が悪いんだぞ!バイトだからって足元見やがって!だから殴ってやった、私は悪くない!」
「よくそんな悪びれもせず堂々と言い張れるな。」
「うるさい!そもそも私にはあんな仕事合わなかったんだ!そんなことより勝負だ!仕事が終わるまで待ってやるからさっさと終わらせてかかってこい!」
「嫌だよ面倒くさい。」
いつも二言目には『勝負』『勝負』と、とにかく俺と戦うことしか頭にないらしくその度に俺はそれを断り続けるのに手を焼いている。
ぶっちゃけ料理している時やその日の売り上げなんかを計算している時よりも、こいつの相手をしている時も方が一番疲れる。
「まあまあシャオメイちゃん。そんなに声を荒らげなくてもいいじゃないか。」
「これは私と九十九との問題だ!外野は黙って見てろ!」
「シャオメイちゃん、中華まん食べるかい?」
「食べる♡」
食べるんだ。
まあいいけど。
「そもそも何でシャオメイちゃんは大将に喧嘩吹っかけてんだ?何か理由でもあんのかい?」
「もごもご!もご!もごご!」
「口にもの入れたまましゃべらない。今度それしたら今までのツケ全部払ってもらうからな。」
そういうとシャオメイはしゃべるのを止め、もきゅもきゅと口いっぱいに中華まんを頬張り食べることに専念し始めた。
あっという間に顔程の大きさのある中華まんを平らげるとコップの水を飲み干し、それまで座っていた椅子の上に立ち高らかに説明し始めた。
「その言葉を待っていた!驚くなかれ!実はこの店の店主の九十九は仮の姿、その正体は別にある!」
否が応でも聞こえるほどの大声にざわつき始める店内。
おいおい普通のお客もいるんだからやめてくれよ。
変な噂が立ったらどうすんだよ。
「数々の武闘大会で無類の強さを見せつけ優勝しまくってきた伝説の最強の武闘家!それこそがこの男の真の姿!そして私はそのお前を倒し、最強の座を奪い取りに来たのだ!!」
「「「な、なんだってーー!!」」」
ああもう、これで客足が遠のいたらどうすんだよ。
扉と違って人の信頼ってのは簡単には直せないんだぞ?
頼むから馬鹿なこと言うのは止めてくれ。
「あのーシャオメイちゃん?私前もその話聞いたけど、それって本当なの?」
「すべて真実だ!私の言葉に嘘偽りはない!」
「はぁー。じゃあ、具体的にどんな伝説があるかもう一回説明して見せてよ。」
「ああ!まずドラゴンを素手で倒しただろ!そして迫りくる巨大な落石を正拳突きで粉砕した!それから1人で1万もの軍勢に戦いを挑み無傷で勝利!睨むだけで人が殺せる!あと人の身でありながら口から火を吐いたり空を飛んだり!他には・・・!」
「あー、うん。もういいよ。」
ただの化け物じゃねぇか!
そんな人間がいたら怖いわ!
それを聞いてほとんどの人が作り話だと理解したのか、視線を熱弁するシャオメイからテーブルの料理に戻していく。
あたりまえだろう。
こんな話、信じる方がどうかしている。
「あはは!それはないない!大人をからかっちゃいけないよ、シャオメイちゃん。」
「違っ、からかってなんてない!全部本当のことだ!たぶん!」
「いやいや、そんな人間いるわけないって。」
「そもそも後半人間じゃないしな。」
ついにはたまらず笑い出す人も出て来た。
当のシャオメイはと言うと、さっきまでの威勢は何処に行ったのやら。
プルプルと震えながら俯いてしまった。
「本当・・・。本当、だもん・・・!」
あーあ、泣いちゃったよ。
涙を溢すまいと(もう泣いているが)顔を自分の毛皮と同じくらい真っ赤にしているシャオメイにいたたまれなくなった俺は、とりあえずシャオメイを椅子から降ろして座らせ、できるだけ優しく諭してやった。
「いいか、よく聞け。俺はお前の思っているような奴じゃない。人違いだ。同姓同名の別人だ。俺はしがない中華料理屋の店主、それだけだ。お前もそんな化け物みたいなやつの忘れてだな・・・。」
「・・・・・・もん。」
「ああ?何か言ったか?」
小さくて聞こえねぇ。
いつもみたいなデカい声はどうしたんだよ。
「本当だもん!!!」
急に大声をあげ俺を突き飛ばしたすやいなや、シャオメイは扉をぶち破ってそのまま店を飛び出してしまった。
近くであの大声を聞いたせいで耳がキーンとしやがる。
あいつ、次来たら覚えていろよ。
「ありゃ、ちょっとからかいすぎたかな?」
「勘弁してくださいよ。あいつ、あれで結構へこみやすいんですからね。」
「すまんすまん。ほら、立てるか?」
酔っ払いから差し出された手を握って立った俺はまだキーンとする耳を押さえながら開きっぱなしになってしまった店の入り口からシャオメイの後ろ姿を見ていた。
伝説の最強の武闘家、ね・・・。
俺はそんな大層なにんげんじゃねぇよ。
俺はただの・・・料理人だよ。




「ふう、ようやく昼が終わったか。」
最後の客を見送って、俺は大きく伸びをした。
昼の営業時間が終わり、これからようやく自分の昼飯を食べることができるとホッとしていると、案の定あいつがまた現れた。
「昼の営業時間は終わってんぞ。来るなら夜にしろ。」
「そしたらまた忙しいとか言って勝負してくれないだろ!?だから今来てやったんだ!」
「悪いが俺は今から昼飯だ。お前も食うか?」
「・・・食べる。」
慣れた手つきで2人分の野菜炒めを作ると大皿に盛りつけて店の真ん中のテーブルに運んだ。
いつの間にかこのテーブルはこんな風に2人でまかないを食べるときの定位置をなっていた。
朝市場で聞いたことだが、どうやらシャオメイは客のごろつき数人を殴り飛ばしてまたバイトをクビになったらしい。
バイト代ももらえず腹を空かせていたのか、俺の分まで食べかねない勢いで野菜炒めと白飯を掻っ込む。
いつもは喧しいシャオメイだが、黙って食べてる姿は何か小動物を彷彿せるところがあり、少しだけ可愛くも思えてくる。
こうして見るとこいつもただの女の子なんだよな。
「なぁ、何でお前はそこまでその武闘家にこだわるんだよ。最強になりたいってならどっかの大会にでも出て優勝するなり何なりすればいいだろう?」
「もう優勝した!でも皆口を揃えて『九十九には及ばない』って言うんだ!そんなの悔しいじゃないか!」
それはご愁傷さまだな。
「だからそいつに勝って私の実力を見せつけてやろうって思ったのに、ある時を境にそいつはぱったりと大会に出なくなったんだ。聞けばどこかに旅に出たって言うじゃないか。」
「それで追いかけているうちにこの街にやってきた訳か。」
「その通りだ!」
大したストーカー精神だ。
その情熱をもっと別のことに向ければいいものを。
「お前がそうなんだろう!さっさと白状しろ!」
「お前もしつこいな、違うって言ってんだろ。俺はただの料理人だ。」
「ぐぬぬ、まだ白を切るつもりか・・・!」
聞き分けのない奴だ。
こんな性格だから仕事も長続きしないんだろうな。
こいつはまだ知らないかもしれないが、実はこいつの名前はこの街のブラックリストに乗り始めている。
これだけ問題を起こしていれば当たり前のことだ。
そのうち雇ってすらもらえなくなるだろう。
「なぁ。その人探しとやら、もう諦めたらどうだ?」
「な、何を言うんだ!私は諦めないぞ!」
「そうは言っても、もう金なくて生活も厳しいだろ。もう諦めてまっとうな仕事に着け。客商売が合わないってんならどこか大きな街に出て用心棒か賞金稼ぎにでもなったらいい。そっちの方がお前には性に合ってるよ。」
「嫌だ!ここまで来たんだ!初めてお前を見た時にピンと来た!絶対にお前が最強の武闘家『九十九』だ!」
「そもそもそいつが生きているって確証はあるのか?どこかで野垂れ死んじまったかもしれないだろう?もう、諦めろよ。」
「ーーっ!そんなこと言うな!!」
(パチンッ!)
ついにキレてしまったシャオメイは俺を殴った。
拳ではなく、平手だった。
「もう分かった!お前は武闘家『九十九』じゃない!お前みたいな分からず屋がそうであるものか!この街も出て行ってやる!二度とこんなところ来てやるもんか、このバーカ!!」
例のように直したての戸を蹴り破り、シャオメイは店を飛び出した。
まったく、片づけもせずに出て行きやがって。
「分からず屋って、お前にだけは言われたくねぇよ。」
俺は奴が食べてほとんど無くなってしまった野菜炒めを見ながらポツリと呟いた。







最悪だ!あんな奴だとは思わなかった!
九十九を叩いて、店を飛び出し走り疲れてしまった私は、小川に架かる橋の上で収まりきらない怒りを何処にぶつければいいのか分からず苦悩していた。
悔しいけど九十九の言うことにも一理ある。それどころか正論そのものだった。
ぐうの音も出ない。
威勢よく「この街を出て行ってやる」なんて啖呵を切ってやったものの、実際は違う町に行くための路銀どころか明日の食事にも困っているくらいに金欠だし、家賃だって何ヵ月分も滞納してしまっている状態だ。
働こうにも最近は『何故か』雇ってすらもらえていない。
八方塞がりだ。
「本当に、人違いなのかな・・・。」
私が勝手に勘違いして、決めつけてしまっているだけなのかもしれない。
そう考え始めるとどんどん自信がなくなってしまい、本当に私の知らないどこかで死んじゃっているかもしれないと思うこともあった。
そんな疑念を振り切るようにあいつに勝負を挑み続けてきた。
それも全部無駄だったのか、そう思うと怖くなってつい殴ってしまった。
九十九は私のことを思って言ってくれたのに。
馬鹿は、私の方なのに。
でも私は諦めない。
私は彼に会わなければいけないんだ。
憧れの彼に。
会って言わなくちゃいけないことがあるんだ。
絶対に九十九にそれは自分だって認めさせてやる。最悪もし本当にそれが九十九じゃなかったら・・・その時はその時だ!
でもさっき叩いちゃったんだよな。
またあそこに行くのは気まずいな・・・どうしよう。
「おい、そこのネズミ女!ちょっと面貸せや。」
いきなり後ろから暴言を吐かれたので振りかえってみると、そこには数十人の男が鬼気迫る形相で立っていた。
そのうちの何人かには見覚えがある。
バイト中に殴り飛ばしたことのあるゴロツキだ。
「うちの連れが随分と世話になったみてぇじゃねぇか。」
「マナーが悪いと注意したら襲ってきたから返り討ちにしただけだ。私は悪くない!」
私は『何故か』こんな風に絡まれることが多い。
でもその度に二度とそんな気が起こらないようにギッタギタにしているから何も問題はないけどな。
リーダー格らしい大柄の男が私に近づいてきて、橋の欄干によりかかっている私を取り囲むように取り巻き達が囲む。
どうやらやる気らしい。
「今私は虫の居所が悪い!お礼参りに来たというなら構わないが今日は手加減できそうにないぞ!」
「てめぇ・・・、なめんなよ!」
(ドンッ)
「なっ!?」
男に突き飛ばされ、私は重力に従って真下の小川に落ちてしまった。
橋はそこまで高くはない。川だって浅くて溺れる心配もない。
しかし川の水を頭から被ってしまったことで勢いよく燃え盛っていた毛皮の炎は今にも消えてしまいそうな程に小さくなり、毛の色も真っ白になってしまった。
さっきまでの昂りが嘘のように消えてしまい、寒くもないのに次第に身体が震えてくるのが分かった。
「はっはっは!お前の弱点は知ってんだよ!『火鼠』が濡れて『ドブ鼠』になっちまったなぁ!」
ゲラゲラと聞こえてくる男達の下卑た笑い声から自分を守るように私は耳を塞ぐ。
「これで終わりだと思うなよ!お前ら、この生意気な鼠に礼儀ってのを教えてやれ!」
怖い。
どうしようもない程の恐怖心が私の頭を埋め尽くし、気付けば立つことさえも出来なくなっていた。
逃げることも出来ない私は腰まで水に浸かったまま、目を瞑りただ震えていた。
固く閉じた瞼の裏の暗闇に浮かんでいたのは、憧れの彼ではなく、九十九だった。
助けて。
私は最強の武闘家ではなく、ただの料理人の九十九に助けを求めた。
何故かは分からなかった。
でも今は憧れの彼より九十九に近くにいて欲しかった。
そう思ったその時だった。
「おい、何やってんだお前ら。」
聞き慣れた、声が聞こえた。
恐る恐る目を開けて、ゆっくりと橋の上と見ると。
そこに九十九がいた。
「大体の察しはつくけど、女の子に手を挙げちゃダメだろ。」
「ああ?誰だお前。」
「その娘の借金取りだよ。街を出てく前にこれまでのツケを返してもらって文句の一つでも言わなきゃ気が済まないんで追っかけて来たんだ。つー訳で、すまんがそいつ貰ってく。だから今日の所はこれで解散ってことにしちゃくれねぇか?」
「そういう訳にはいかねぇな。どうしてもって言うならお前が相手してくれよ!」
男が九十九に殴りかかる。
しかし九十九はそれを軽くいなし、足をかけて男を転ばせる。
「喧嘩ってのは趣味じゃないんだが、どうしてもって言うなら仕方ない。」
ざわつく男達を尻目に、九十九はまるで私が勝負を挑んでいる時のように深くため息をついた。
「全員まとめてかかってこい。シャオメイは力ずくで貰っていく!」






「・・・・・・。」
シャオメイを川から引き上げた俺は、さっさと帰って風邪をひかないうちに風呂に入るように勧めた。
そしたら家に風呂は無いと言うので、仕方が無く俺の家の風呂を貸してやったのだが・・・。
女の子が風呂から出るのを待つというのは、なんというか、少し・・・かなり緊張するな。
別にこの後に何があるわけでもないのに、何だこの緊張感は。
訳の分からない感情に苦悩していると、しばらくしてシャオメイが風呂から出てきた。
毛皮が乾いていないのか炎は小さいままになっている。
川に落ちて濡れてしまったシャオメイの服は乾かしているため、俺の服を貸してやったのだが小柄なシャオメイが俺のTシャツを着ると丈が膝上くらいまであり、首回りもダルダルで胸元まで見えてしまっている。
そして気になることがもう1つ。
「シャオメイ、その、下はどうした?」
少なくとも俺には渡したズボンをはいていないように見えた。
「えっと、ぶかぶか過ぎてはいててもすぐ脱げちゃうから・・・。」
乾かしてる服の中には下着も含まれていたはずだ。
ってことはつまり・・・いや、考えるのは止めておこう。
俺の部屋のベッドを背もたれにして、2人並んで座る。
シャオメイもさっき俺に啖呵を切った手前話しかけずらいらしく、自然と沈黙に包まれる。
まずい、何か話さなくては。
「まあ、あれだ、今日は災難だったな。」
「・・・うん。」
「これに懲りたらもう少しは礼儀ってのを覚えるんだぞ?すぐに手が出るのはいけないからな。」
「・・・うん。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
だめだ、会話が続ねぇ!
つーか何でこいつはこんなにもしおらしくなってんだ!?
いつのも威勢はどこ行った!?
「・・・あのさ。」
「お、おう。何だ?」
「やっぱり、九十九なんでしょ?」
・・・やっぱりきたか。
「さっきの戦い、見てた。何十人の男の人達を一瞬で倒した。あの動きは武道の心得がある人の動きだった。」
もう、誤魔化しきれないな。
「お前の言う通り、俺は昔武闘家として大会とかに出てたよ。結構勝ったりもしてた。」
「じゃあ口から火を吐けるって伝説も・・・!」
「それはない。」
「うう・・・。」
あーあ、言っちゃった。
今日までうまいことはぐらかしてきたのにな。
まあ、あれだけの大立ち回りすれば仕方ないか。
「何で、止めちゃったの?」
「・・・昔な、女の子を強漢から助けたんだ。そいつ刃物持っててさ、女の子を人質にしようとしてたから叩き落として気絶させようとたんだが・・・誤って殺しちまったんだよ。そしたら、何か怖くなっちまって、全部から逃げ出した。」
憲兵も正当防衛だと認めてくれ、俺は罪に問われることは無かった。
でもあの時以来、俺は人を傷つけることが怖くなってしまい、全部を捨てて旅に出た。
旅をしているうちに何とか立ち直ることができたものの、もう拳を振るう気にはなれなかった俺は流れついたこの街で生きていくことを決めたんだ。
「で、でも九十九はその娘を助けた!だから何も悪くない!女の子だって九十九に感謝しているはずだ!」
「どうだかな。その時の女の子の俺を見る目は傑作だったよ。男に襲われそうだった時のよりも怯えていてさ。当たり前だよな。だって俺はただの・・・。」
ただの・・・人殺しなのだから。
武闘家なんて名ばかりの、ただの人殺しなのだから。
どんな理由であろうと俺は人を殺めた、その事実は変わらない。
「そーいう訳だ。お前もこんな腑抜けのことなんざ忘れて、まっとうに生きるんだな。他の街に行く旅費がないって言うなら、いつか絶対返しにくるって条件付きで俺が金を貸してやるよ。今までのよしみだ。勿論そんなに大金は出せないけど、それでもないよりは・・・。」
「・・・忘れない。」
ああ?
まだそんなこと言ってんのか?
ったく、こいつの頑固さは筋金入りらしい。
「その娘はきっと九十九に感謝しているよ。少なくとも私は九十九に感謝してもしきれないくらい感謝している。」
「あのな。何でお前に感謝されるんだよ。そんな筋合いはねぇよ。」
「感謝する理由ならあるよ。だって・・・その女の子、私の妹だもん。」
「・・・え?」
今、何て言った・・・?
「妹はとても感謝していた。あの時すぐにお礼が言えなかったのがすごく心残りに思っている。勝負で勝つ為に追ってきたなんて建前、本当は妹の代わりにお礼を言いうためにお前に会いに来たんだ。」
シャオメイは俺の前に立ち、深々と頭を下げた。
「妹を助けてくれて、本当にありがとう。」
・・・やめろ。
やめてくれ。
お礼なんて言わなくていいんだよ。
感謝なんかしなくていいんだよ。
だって俺は、俺はただの・・・!
(ぎゅっ)
そんな俺をシャオメイは優しく抱きしめてきた。
流石に俺が座った状態ならやつの方が背が高いらしく、俺の顔は膝立ちしたシャオメイの胸に抱き寄せられる。
「いいんだよ、もう。お前は充分罪を償った。許しが欲しいなら、私が許す。たくさん悩んだな、たくさん頑張ったな。でもな、もういいんだ。罪の意識なんて感じなくていいんだ。自由になっても、いいんだよ。」
いつの間にか、俺は泣いていた。
女の子の胸の中で、みっともなく泣いていた。
シャオメイも泣いているらしく、熱い雫が落ちて俺の涙と混じり合い頬を伝って流れていった。



それからどれだけの時間が経っただろう。
燃え盛る毛皮は熱くはなく、その間もずっと暖かく俺を包んでくれていた。
「泣いて少しは気が晴れたか?」
「ああ、ありがとうな。」
「ふふっ。ああは言ったけどまさか泣き出すとは思わなかったぞ。」
そういわれると何も言えないな。
こうして我に返ってみると凄く恥ずかしい。
「結構可愛いとこあるんだな。」
でもここまで笑われると少しむっとしてしまう。
好き放題言いやがって。
こうなったら、こっちも反撃開始だ。
「これはあれだ。お前の押し付けてきたまな板が硬過ぎて痛かっただけだよ。」
「ま、まな板!?」
別に間違ったことは言っていないだろ。
「誰がまな板だ!私の胸はBカップはある!」
「はあ?B?その貧相な胸はどう見てもAA以下だろ。」
「じゃあ!じ、実際に見て確かめてみる、か・・・?」
「・・・は?」
「だ、だから。信じられないなら、そ、その目で確かめて見ればいいって思って・・・どうする?」
言っちゃってんのこの娘!
橋から落ちて頭でも打ったか!?
いや待て。折角つかんだ反撃の流れだ。ここで引いたらまた笑われちまう。
「へ、へー。そこまで言うなら、その、み、見せてもらおうじゃ、ねぇか・・・。」
どうせハッタリだ。乗ってやるよ!
「・・・じゃあ、見せてやるよ・・・。」
・・・・・・・・・え?
そう言うとシャオメイは着ていたぶかぶかのTシャツをゆっくりと捲り上げ、自分の胸をあらわにした。
服の上からでは気付かなかったが確かにその双丘は少し膨らんでおり、平面とは言えない丸みを帯びていた。
「ど、どうだ・・・?」
「あ、あああ、ああ。そうだな。確かにBくらいはありそうだ。す、すまなかったな・・・。」
確認も済んだことだし、すぐに目を逸らさなければいけなかったのだろうが、俺にはそれが出来なかった。
もう一度言っておくが、シャオメイは下着を身に着けていない。
そして着ているのはぶかぶかのTシャツ一枚だけという状態だ。
つまりその服を捲り上げるということは、『上』だけでなく『下』も見えてしまうということで・・・、俺の目はまだ毛の生えていないそこに釘付けになってしまっていた。
「わ、私の、そこ・・・気になる、のか?」
そう尋ねられ、慌てて俺は視線を上に戻す。
シャオメイは顔からも火が出そうなほど顔を赤くしていた。
たぶん、俺もそれと同じくらい赤くなっているに違いない。
「すまん!その、綺麗だったから、つい。」
「そ、そうか。き、綺麗、か・・・えへへっ。」
照れくさそうにはにかむシャオメイに、俺の中の何かが弾けた。
もうここから先は歯止めが利かない。
そんな気がした。
「なぁ、シャオメイ。もっと近くで見ても、いいか?」
「・・・・・・。」
(こくんっ)
シャオメイは何も言わず、小さく頷いた。
気付けば俺はシャオメイをベッドに押し倒していた。
自分がどうしようもないく興奮しているのが分かった。
それはまるで小さな火が燃え上がり大きな炎になるように、留まるところを知らず大きくなっていった。
「こ、こんな私でいいのか?おっぱいだって大きいとは言えないお子様体型だぞ?口も悪いし仕事だって長続きしないダメダメな暴力女だぞ?こんな私でも、愛して、くれるのか?」
シャオメイは震えながら今にも消えてしまいそうなほどの小さい声で訪ねてきた。
そんなのいいに決まっている。
「当たり前だろ。むしろ俺はお前じゃなきゃダメみたいだ。その小さい胸も、口にする一つ一つの言葉も、全部が好きだ。愛してるぞ、シャオメイ。」
涙で潤むシャオメイの目を見て、慣れない愛の言葉をささやいた俺は、そのまま震える唇にキスをした。
一度目は軽く触れるように、二度目はお互いの舌を絡めて求めるように。
後はもう覚えていない。
その後も何度も唇を重ねた。
「ん、んむ・・・ちゅ、ん、ぷはっ。はぁ、はぁ、九十九ぉ、私、もう我慢できない。きて、欲しい・・・。」
「シャオメイ・・・、分かった。いれるぞ。」
「うん、いいよ。きて。・・・ひゃぁん♡」
シャオメイも初めてだったらしく、結合部からは血が滴り、それはシーツに赤いシミを作った。
「やっぱり痛いか?大丈夫か?」
「うん、だい、じょうぶだ・・・。んん!思っていたより、痛くは、ない。はぁ。それより、気持ちよすぎて、おかしくなっちゃい、そうで・・・あぁん♡お願い、動いて。私を、九十九だけのものに、してぇ・・・♡」
我慢できなかった俺はそのままゆっくりと腰を動かし始めた。
シャオメイの中は熱く、きゅうきゅうと締め付けてくるので気を抜けば今すぐにでもイってしまいそうになる。
これは俺も長く持ちそうにないと悟り、俺は少しずつ腰を振るペースを上げていった。
「ひゃん♡あぁ、あん♡ん、んあぁん♡だ、だめぇ♡きちゃう、もう、きちゃうよぉ♡」
「俺も、もう、だめだ!イキそう・・・!」
「うん♡いいよ♡一緒にイこう♡きて、私の中にぃ♡いっぱい、きてぇ♡!」
シャオメイは首に手を回して抱き付き、甘い喘ぎを漏らして懇願した。
それを皮切りに、俺はついにその時を迎えた。
「シャオメイ!好きだ!愛してる!い、イく!」
「私もぉ、イっちゃう♡一緒にぃ♡イくぅぅぅ♡」
限界を超えた俺はシャオメイの膣に熱い精子を注ぎ込んだ。
「あぁぁぁん♡で、出てるぅ♡中に、いっぱいぃ♡」
自分でも信じられないくらい長く続いた射精が終わる頃には俺とシャオメイは肩で呼吸をして息も絶え絶えになっていた。
しかしそんな状態になってもシャオメイは俺の首に回した手の力を緩めようとはせず、しっかりと俺に抱き付いていた。
「抜かない、でぇ♡今、抜いちゃったら、きっと全部出ちゃうからぁ♡」
朦朧とする意識の中、シャオメイは小さな胸を押し付けながらそう言った。
だからと言って俺は小柄なシャオメイの上に倒れる訳にもいかず、仕方なくつながったまま覆い被さっている俺とシャオメイの位置を逆転させた。
俺の胸板に頬をつけてまだ荒い呼吸をしているシャオメイの頭を撫た。
「このまま、寝ちまうか?」
「うん。このまま一緒に、寝る♡」
俺もだいぶ疲れていたのか、眠りにつくのにそんなに長い時間はかからなかった。
俺の上で幸せそうに眠る女の子に俺はそっと手を回し、そのまま溢れ出る幸せの中に意識を手放した。







「待たせたな!胡麻団子と炒飯だ!味わって食うといい!」
「おーい、頼んだ青椒肉絲まだぁ?」
「ちょっと待ってろ!順番だ!」
「こっちビール追加ね。あとビール以外の酒があったらそれも持ってきてくれや。」
「うちは定食屋だ!そんなに呑みたきゃ酒場に行け!」
店内には今にも喧嘩を始めそうな程口の悪い小柄な少女が忙しなく走り回っていた。
太陽が沈み、月が顔を出し始めた夜の一番忙しい時間帯。
客入りはいつもより少し多いくらい。
それでも俺はあまり大変だとは感じていなかった。
「こっちあがったぞ。3番テーブルに頼む。また転んで皿落とすなよ?」
「大丈夫だ!任せろ!」
それは今まで一人でやってきた仕事が半分になったからに他ならない。
ホールではシャオメイが似合わないエプロンを付けて盆に載せた皿を落とさないように気を付けながら料理を運んでいた。
おぼつかない足取りにハラハラしながらも俺が手伝う訳にはいかず、俺は一人子供の初めてのおつかいを見ているような気分が絶えなかった。
「大将、ついにウエイトレス雇ったんだね。」
「流石にもう一人じゃキツイと思いましてね。」
「そーは言ってもよぉ。何でこんな世界一接客業が似合わないこいつを雇ったんだ?またすぐ暴力沙汰起こしてクビになんだろ?」
「何だと!お前、表に出ろ!」
「本当のことだろ?」
今にも殴りかかりそうな気の短いウエイトレスの頭を持っていたお玉で軽く小突き静止する。
「お前、いい加減お客様には敬語を使えよ。接客業の基本だぞ。」
「じゃあ・・・、表に出やがり下さいませ?」
これはまともになるまでかなり時間がかかりそうだ。
「それにクビにするはありませんよ。だって、これはただのバイトじゃなくて永久就職ですからね。」
「な、九十九!何言って・・・!!」
ヒューヒューと店内から一斉に冷やかしが聞こえる。
シャオメイは顔を毛皮の炎よりも真っ赤にしていた。
それがとても愛おしくて、俺は笑った。
「何でそういうことをここで言うんだ!?」
「この前俺をからかった仕返しだ。」
シャオメイのこんなに可愛い姿が見られたんだ。
多少は恥ずかしい思いをして言った甲斐があったというものだろう。
しばらくの間は続けてやることにしよう。
「愛してるぞ、シャオメイ。」
「〜〜っ!この・・・馬鹿ぁ!!」

ここは東のとある街。
昼は露店の商人達の活気ある売り文句が飛び交い、夜になると酔っ払いの怒号や愚痴が聞こえてくる、どこにでもある普通の街。
その一画にある小さな中華料理店。
客入りは多くなく少なく、毎日一人は常連の顔があり店主の料理に舌鼓を打っている。
おすすめは店主自慢の中華まんと、名物夫婦の甘いやりとり。
そんな店があったそうな。
15/09/22 15:29更新 /

■作者メッセージ
火鼠さんのイラストを見て「おっきい肉まんとか似合いそうだな。」と思って思いついた話です。

何事も挑戦だと思い、初めてギャグなし真面目話と濡れ場シーンを書いててみました。
自分と他の作家さんのエロシーンと読み比べてみて、「本当に凄いな」と痛感しましたよ。何で皆さんあんなにエロく書けるんですかね?
エロい文章難し過ぎ・・・。

感想など頂けると凄く嬉しいです。
ご指摘でも批評でも気軽にじゃんじゃん書き込んじゃってください!

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