読切小説
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The Race Is Over
 とあるマンションの一室で、熱い戦いが繰り広げられていた。
「最終抜けた!行けるか、行けるか、行けるか……」
「まだだ、まだチェッカーは……後数センチっ……」
 しかし、現実とは非情であった。友人の車が俺の車と並び、二人でゴールインしてしまった。わずかな差であったがはたして結果は。
「よっし勝った!」
「っかあああああああ!鼻先三寸で負けるとはっ……」
「いやー危なかったぁ……タイヤがヤバいくらい減ってたのにピットインできるほどタイム差がなかったからなぁ……」
「くっそー、タイヤにはこっちに分があったのに……」
「んん、やっぱピットインのタイミングとタイヤマネジメントは大事ですな」
「突然論者にならないでくれるかな……」
 俺はとある友人とドライビングシミュレーターという名のレースゲームをしている。決着は冒頭の通り、俺が勝たせて頂いた。
「もう一回だ、もう一回!」
「え!?ち、ちょっと流石に休憩させてくれ……」
「えー?……しょうがないなぁもう」
 悔しそうではあるが、あくまでこれは遊び。いくら実車に近づけられたとはいえ、だ。ちなみに我が家にはシミュレーターのごとく、アクセルとブレーキペダル、シフトノブのオプションをつけたステアリングコントローラーにドライビングシートまで用意している。膝を跨がせて置いた小さなテーブルにステアリングを載せ、左腕を自然に降ろせる位置にシフトノブ、両足を少し曲げて余裕を持たせるくらいの位置にペダルコントローラーを置いた、完全に本気プレイ時のセッティングである。
「さて、飲み物なくなったし何か買ってくるかね」
「あ、スポドリでお願い」
「はいはい」
 レース中にピットインすると、互いにコップ一杯分の水分をとっていた。それだけ飲んでいればなくなるのは道理。財布を握り、俺は部屋を出た。冷蔵庫にはお茶すらなかったので、少し肩を落として家を出る。向かうのは家の近くのスーパーマーケット。まだ昼下がりなので、そんなにお客さんはいないはずである。紫のダウンジャケットに青のジーンズ、白いスニーカー姿で靴下も防音仕様なのだが、冬真っ只中のこの時期は本当に寒い。
「しかし、めっきり寒くなってきたな……空気も心も」
 心が寒い理由?彼女いない歴=年齢という言葉で察してくれたまえ。ちなみになぜコンビニじゃないのかというと、我が家の住所からだとコンビニとスーパーとの距離がそんなに変わらないからだ。だったら単価の安いスーパーで買った方が当然ながらお得である。
「んーと、スポドリ2L二本でいいよな」
 さっきも、二人で部屋に上がる前に購入したはずの同じものが1時間近くかかるレースを二回戦ってなくなっていたことを考えると、その程度が妥当なところだろう。いや全く、奴と戦うと熱くなって困る。水分的な意味で。手に汗握ってステアリングとシフトノブが汗でべたついていたのだから。ちなみに奴を一人で留守にしているのは、今更俺の部屋なんて漁らないだろうという安心
からだ。ついでにヒートアップしすぎた頭のためにカップアイスを適当に二つ、自分が持つ買い物かごの中に突っ込んで会計に向かった。



 あいつが出て行ってすぐ、私はシートにもたれこんだ。しかし、全くあいつは私が女であることを忘れているのではないだろうか。それもただの女ではない、惚れた男は絶対離さない魔物娘であることを。まぁ私は一目でそれとはわかりにくいような容姿ではある。普通の人間が見たところで私を魔物娘だと見抜く奴はそうおらず、できるのはそれこそ同じ魔物娘本人か、関わりのある人間くらいだ。
「全く、好きでもない男の家に押しかけるわけないだろうが……」
 彼と私は高校生であり、クラスメイトだ。以前彼が友人と語らっていた時にレースゲームの話題が出たので、女の子にしては珍しいらしいレースゲーマーな私はつい首を突っ込んだ。これが始まりだ。
「とはいえ、きっかけがきっかけだったし、アプローチらしいアプローチってしてこなかったかな……」
 私自身、最初は興味本位というか、同行の士というのが周りにいなかったのだ。もちろん女の子だから、アイドルやコスメ、ファッションなどにも興味がなくはないが(特にメイクとファッションは、意中の人を振り向かせるために誰でも必死になる)、私は少女時代に父親が読んでいたとある公道レース漫画を読んで以来どっぷりはまってしまった。同じ地球上でありながら、通常では考えられない世界で繰り広げられる人間ドラマ、泥臭く熱いセリフの数々、作者の豊富な知識量を覗かせるキャラのやりとりなど、私を虜にするには十分だったのかもしれない。
「それに、こういうの好きな女の子ってなかなかいないだろうしなぁ……」
 皆無ではない。だが、大半が車をファッションの一部と捉えているので、私とは考えが合わないのだ。ああいう車は身の丈にあった人間が乗ればいいのであって、どう見ても庶民的な車なのに実は何かを隠し持っている、そういった車に私は惹かれる。悪魔が主役のあの漫画の影響だろうけども。
「にしたって、こんな美少女が横で汗かいてたら、少しは何か感じてくれてもいいのに」
 時々妄想するのだ。見た目は何の変哲もない大衆車なのに、実は走らせればすごい車で彼とドライブ。夜の峠や高速道路を流しながら、密室であることを意識した私は、車が止まると我慢できずに……って。
「……うわぁ……」
 黒のジーンズの中の下着は濡れていた。思い切り。妄想しただけでこれだ。しかもそこで止まってくれない。誘ったのに逆に誘われて、いつも通りに余裕を見せ付けられながらも男の勲章はしっかりと立ち上がっていて、私はついそこに顔を……。
「はぁ……はぁ……」
 いつの間にか私の左手の指はジーンズの中に入り込み、大洪水となっている股の間を掘り返すかのように蠢いていた。右手は赤いTシャツの上から、大きく膨らんだ胸を鷲掴みにして揉みしだいている。
「ふっ……くぅっ……ああっ……」
 ドライビングシートを濡らすわけにはいかないからすでに離れてはいるが、私の理性がこらえられたのはそこまでだった。そこからは魔物娘の本能に任せて、悦楽を貪る。なぜ彼を好きになったのかはわからない。おそらく同じ時を過ごして、その時間に居心地のよさを感じるようになってからだろう。最初は学校のトイレで犯されるとか、体操服姿のままの私が彼を体育倉庫に拉致して犯すとかそんなのだったのに、今ではどれだけのシチュエーションを妄想したか数えることすら億劫になる。なのに飽きないどころか、すればするほど湧き出てくる。堪えなければならないのに本能から訴えかけてくるものは強く、どうしても止められない。今もまだ、止められずにいる。
「ああっ……もぉ……ダメぇっ……」
 そんな中、部屋の扉が開いた音がした。



 えーと、これをどう説明したらいいのだろうか。飲み物といくつかのおやつを購入して家に戻ると、部屋で友人が自慰にふけっていた、としか言えない。何がきっかけなのか、そもそもなぜ俺の部屋でなのか、そして彼女が浮かべる表情はなぜ獲物を見つけた狩人のようなのかなどなど。
「お帰りぃ……やっと帰ってきたぁ……」
「お、おう、ただいま」
 おかしい、ついさっきまで仲良くゲームをしていたはずだ。それがなぜこんなことに。彼女は既に四つん這いから立ち上がり、胸と股間を抑えながらである。間違いなくおかしい。何があったというのか。
「だ、大丈夫か?お前……」
 食事用の大きなテーブルにペットボトルを置いてそう聞くと彼女は首を横に振り、正面から抱きついてくる。体が相当火照っているらしく、かなり熱い。
「ダメ……我慢できない……欲しいの……」
「な、何が……んむっ!?」
 すっとぼけたように俺が聞くと、唇を塞いで舌でこじ開けて侵入する。艶かしい生き物のように蠢くそれは、俺の体を脱力させ、彼女に体重をかけてしまう。
「はふっ……」
 顔は近いままだが、堪能したのか唇を離すと、余韻に浸るように吐息を俺の耳に囁くように吹きかける。
「はぁ……この鈍感」
「はぁ?」
「私だって女の子なんだぞ……?」
「いやそりゃそうだろうよ、それで漢って言われたらびっくりじゃすまねぇわ」
「そういう話じゃない……」
 すると彼女は腕を背中に回し、自分の股間を俺の右太腿にこすりつける。
「君とゲームするのはもちろん楽しいよ?でもさ……いい加減限界なんだ」
「……何が?」
「君と一緒にいる間、私が何も意識してなかったなんて本気で思ってたわけじゃなかっただろう?」
「……」
「まあ、もしそうだったとしてもいいよ。君は今日私のものになり、私は君のものになるんだから」
「おい、ちょ、それって……」
 女の子がここまでした上でこんなことを言ってくるなど理由はほぼ間違いない。
「……わかった。ベッドに行こう。だがその前に一つ言わせてくれ」
「なぁにぃ?」
 そして今度は、俺から彼女にキスをする。舌は絡めずに軽いフレンチキス。
「……好きだ、お前が。俺のものになってくれ」
 いつからかはわからないが、これは本気だ。本心だ。彼女は贔屓目なしで見ても、整った顔立ちとほどよい肉付きの体を持った美しい女性であり、それが自分と同じ趣味を持っていると知っただけで初対面の時は内心かなり舞い上がっていた。そこから友達としての付き合いが始まり、互の家でゲームをする中にまでなった。その時から意識はしていたが、彼女に断られても持ちこたえていられる自信がなく、またこの付き合いすら、つながりすら壊れるのが怖かった。ただでさえ17年間生きてきた俺には友人が少なく、ましてや女の子の友達など皆無に等しい。眺めているだけでも気分が高まるその関係を、俺は壊したくなかった。だが、彼女からいよいよ求められたのだ。これはもう言うしかない。今伝えるしかない。そして彼女の答えは。
「……ありがとうっ……よろしく……お願いしますっ……」
 嬉し涙を流しながらの了解だった。しかし、俺は卑怯だと思う。相手の気持ちを聞いてからじゃないと行動しなかったのだから。結果的に向こうから先にアプローチしてくれたからいいものの、もしこれが言い出せないほどの内気な子ならと思うと自分に吐き気がする。変化しない関係なんてものはない。いつかは変わっていく。ゆるやかに、または急激に。
「もうダメだ……我慢……できない……欲しい、欲しいのっ……」
 自慰するほどの衝動が彼女を襲っていたことからそれは十分にわかる。俺もここまで自分にセックスアピールをぶつけてくる彼女に、何もしないでいられる自信などなかった。
「ごめん、俺も……」
「ベッド行こ……ね?」
「ああ……」
 だがテレビもゲームもつけっぱなしだったので、俺たちが事にふけったのはそれらの電源を落としてからだった。


 それから数時間後、疲れ果てながらも満足感を感じさせる表情を、俺と彼女は互いに見せあった。翌日から見せつけるようにイチャコラする俺たちがバカップルと呼ばれるようになるまで時間はかからなかったが、なんと言われようが俺と彼女には関係がなかった。
13/12/15 03:18更新 / ☆カノン

■作者メッセージ
冒頭のシーンは、まぁGT6も出たことですし。エロ?……すいません、実用があるものを書ける自信がないのです。ちょっと展開が無理やりすぎた気がしますけどお許し下さい。

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