連載小説
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第一話
標高四千メートルを超える雄大な活火山だ。

真夏でも決して溶けることのない純白の雪に覆われた頂。
そこから途切れる事無く立ち上る、薄灰色の煙。
遠くから見てもハッキリと峻険さが伺える、切り立った灰色の山肌。
一度懐へ迷い込んでしまえば、二度と出られないのではないかと感じさせる、深い深い裾野の森。

軽々しく人を寄せつけぬその姿は、仰ぎ見る者に、本能的な畏怖の念と信仰にも近い憧憬の感情を抱かせていた。


けれども、それは人間側に限ってのお話。
魔物娘からしてみると、ティル・エラックは楽園である。

山に生息する豊富な動植物でお腹を満たし、人の手で汚されていない泉や、湿地帯に広がる野生の花畑で心身を落ち着かせる。
有り余る程の広大な土地が存在するので、無闇やたらと縄張り争いをする事もない。

特に、自分から積極的に人間の社会と交流しないタイプの魔物娘達にとって、ティル・エラックは最高の住環境を与えてくれていた。

シルフやウンディーネなどの精霊・妖精の類、迷宮ではなく山に住む種族のドラゴン、森を好むドリアトやアラクネ、そしてマンティス等々。
彼女らは何不自由無く山での生活を謳歌する。

ある一点を除いて。


それは、婿がいないという事である。

山での生活はとても快適である。
できればここから出たくない。
でも婿は欲しい。ぶっちゃけエッチしたい。
極々まれに迷い込んでくる人間を巡ってケンカすんのも、いい加減飽きた。

そう考えた彼女達は、とある協定を結んだ。

人間達と協力する事。
人間達に山の中にある有益な物を提供する事。

以上の二つである。


この物語は、婿探しに奔走する魔物娘達の奮闘を記録した、愛と感動のドキュメンタリーである。




「では、これより『ティル・エラック山 生活向上委員会』の記念すべき第一回定例会議を開始いたします」

集まる魔物娘達に向かって宣言するのは、アラクネのエレノアである。
生真面目そうな顔をツンとそらし、額にある六つの複眼で辺りを見回す彼女は、『ティル・エラック山 生活向上委員会』(以下、生活委員会と略)の栄えある委員長だ。

「はじめに……そうですね、本日の議題を確認しましょうか」
そういってエレノアは、パピルスっぽい紙を挟んだバインダーを開く。

「こほん……議題は三つ。まずは人間と効率的に交流する方法について。次に、人間から好まれるファーストコンタクトの仕方について、これは各々の研究成果を発表してもらいます。そして最後に……」

「やーーんマジでーー、ちょーヤバいんですけどーー」
「………くーー……くーー…むにゃ……もう……おなかいっぱい……」
「んっ……あっ……ふぅん♪……やん……きもちーよー」

「我々が守るべき基本ルールの制定に……ってオイそこのシルフ、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃしゃべってんじゃねーぞッ! そしてマンティス、てめえ開始三十秒でねてんじゃねえよ! あとド腐れフェアリー、飛びながらオナニーっておま、斬新すぎんだろ! なめてんのかよ!」

はあはあと怒りの余り肩で息をするエレノア。

対するその他大勢、超フリーダム。
まともに話すら聞きゃしねえ。

各種族の代表を集め、泉の側の草原で開かれた会合は、初日から波乱含みであった。


「エレノアちゃーん、怒っちゃダメだよー」
葉っぱのような緑の眉毛を八の字にして近寄ってくるのは、マンドラゴラのプルミエールだ。

「わかっちゃいるの。わかっちゃいるんだけど、あまりの危機感の無さに眩暈が……」

「うんうん、エレノアちゃん真剣だもんね。でもさ、あの子達も悪気があってやってるんじゃないんだよ。ただちょっとアタマが弱い子達なだけだから、怒っちゃダメ」

「エール……あんたってさ、ニコヤカに毒を吐くわよね」
エールはマンドラ娘の愛称。

「えええーーそんな事ないよー」


「しかし見事に収拾がつかぬな」
口を挟んだのはドラゴンのクラウディア。
この山に住む魔物娘の中で一番の実力者だ。
甲冑のような艶やかな鱗が、太陽をまぶしく反射する。

アラクネ娘の瞳が見開かれた。
「あなたがそれを言う? クラウが一声咆えてくれれば皆従うのに」

「それではこれまでと何も変わらぬではないか。自分たちの意思で人間との恒久的な交わりを結ぶ、押し付けられたものでは直ぐにボロが出て立ち行かなくなる、そう申したのはお主であろう」

「確かに。でもやっぱり委員長はクラウがやった方が……」

「意義ありじゃ。ワシが頂点では何をした所で、上からの押し付けに過ぎなくなるわ。それに、人間どもも怯えるであろうからな」

「……ええ、そうね」

うなずくエレノアを横目に、マンドラ娘プルミエールが一言。
「本音はーー?」

「働きたくないでござる」

「糸で簀巻きにすんぞ、ニートドラゴン」

「巣から出てきただけで妙な達成感に満ち溢れておる。何と罵られようとワシの心は動じぬわ」


「上手く行かないものですわね」
泉の表面から現れたのは、ウンディーネのアクエリアス。

青く透明な体から、ぽたぽた水が滴り落ちる。

「本当にそう……なんで皆分かってくれないのかしら、今の状況が危険だって事」

アラクネ娘のため息が、ヤケに大きく響く。

「最近森を訪れる人間が減っていますものね。もしかすると麓の国でなにか変化が起こってるのかも」

「どんな事?」

「これは推測でしかありませんけれど、例えば飢饉で人口が減ったであるとか、そこまで酷くなくても、山の脇を通っている街道が廃れてしまっただとか。色々考えられますわ」

「……私たちの親世代にとっては、特別近々にどうこうしなければって問題じゃないんだけどね……ところでさ……最近結婚したのって誰と誰だっけ?」

「二年前にグリズリーのカルメンさんとノームのアドリアナさんが。その前となりますとええっと……確か五年前のサラマンダーのトルキアさんまで遡りますわね」

「トルキア姐さんは、残って子供生んでくれてるからまだいいけど、残りの二組は……」

カルメンとアドリアナは身の危険を感じ、夫と共に山を去っていった。
幸せいっぱいのカップルを見る、その他喪女達の視線が怖かったのだそうで。

魔物娘達はそれなりに寿命が永い事もあり、まだ問題が表面化していなかったけれども、このままの状態が進むと魔物人口は減り続けてしまうだろう。

「……やっぱりヤバイわよね」
下半身にある蜘蛛の前足で、エレノアが器用に腕? を組んだ。

「ヤバすぎですわね」

黙って話を聞いていたドラゴン娘とマンドラ娘も表情を曇らせた。

委員会首脳部である四人が、そろって頭をかかえてしまう。



しかし、他の参加者達は……

「ちょマジでッ、うけるんですけどー。小骨がイヤだからお魚食べれないのが許されるのって、一時性徴期までだよねー。きゃははははは」口から先に生まれたシルフさん

「………くーー……くーー…むにゃ……もう……おそうじできない……」三度の狩より昼寝が好きな、自称 森の暗殺者(笑)

「ふあっ……みんなからみられてる……くうんっ♪……あっああっ……あたしえっちぃぃ……すっごくえっちいよぉ……んんんんっ……おしお……おしおふいちゃうのー♪」ちょっぴりえっちなフェアリーたん


―― ビキビキビキ
エレノアのおでこに、ものすごい青筋できた。

すっと後ろを向き、アラクネの象徴たる蜘蛛の腹部の角度を微調整。
フリーダムな面子へ目掛け、ねばねばな糸をぶっ放した。


「ヤッ、なにこれ動けなくない。まじありえねー」

「………くーー……くーー…むにゃ……もう……しばられるのはいや……」

「ああああーーーおまたぎゅーーーってなってるーーー、ねばねばえっち糸がくいこんじゃうのーーーっ、いぐーーーっ、いくいくいく、いっちゃううううーーーっ♪」


エレノアが叫ぶ。

「てめえら真面目にやれーーッ! 今やらなきゃいつやるんだよ。このままじゃあたしら一生処女だぞ! てめえら処女のまま死にたいのかよおおおお!!」

参加者全員、雷に打たれたように硬直する。


ハッと我に返った後、彼女達の目は驚くほどやる気に満ちていた。





「では会議を再開します」
エレノアの言葉に皆が一斉にうなずく。

「じゃあ、最初は……ファーストコンタクトの仕方から考えていきましょうか。皆も発言しやすいでしょうし」

これまでの魔物娘と人間の関係を一言で表すならば、ハンターと獲物、それも性的な意味の。
人間が山に入ってきてると分かれば、こっそり近づき、物陰から襲って攫い、とりあえず喰ってみる、性的な意味で。
それが一段落した後、お互いに自己紹介という運びだ。
まぁ、魔物娘さんたち、性根の部分では皆気立てのよい器量よしさんばかりなので、その後の結婚生活は順風満帆なのだけれど。

ただし、これでは人間を最初に発見した娘の総取りだし、なにより人間オスの絶対数が不足している昨今、従来のやり方では婿不足が解決しないのであった。
したがって、『玄関開けたら五秒でえっち』ルールを一旦廃案にし、建設的な問題解決を模索する為、人間とコンタクトを取ってみようと画策中なのである。
もしかすると、会話した男が他の男を沢山連れてきてくれるかも……なんて甘い期待もある。

まずは理性的にお話してみる、そこから始めるべき。との由。


「はい」
真っ先に手を挙げたのは、フェアリーのきゅーてぃあ。

その小さな手が何かの液体でぬらぬらしているのはご愛嬌。

「どうぞ。きゅーてぃあの発言を許可します」

「今までは男の人に一人で声を掛けてたから、逃げられたりする事が多かったんです」

「うんうん、いい感じじゃない。つづけて」

「はい。だから皆で行きます。皆で行って、皆で声掛けて……ちゃんと『おはよーございます』とか『こんにちわー』とかご挨拶して……」

「そうね。人間ってそういうとこ、大事にしてるらしいわね」

「皆でオナニーしてるの見てもらいます」

「…………は?」

「ほら、皆でオナニーしてたら、人間さん興味もってくれるんじゃないかと思って。『あれ、この子たちなんでオナニーしてんだろ。ちょっと話しかけてみよう』とか」

「ちくしょーてめええええ、まずはオナニーから離れて考えろよッ! ってかそんなにオナニーが好きなら、次からフェアリーのきゅーてぃあって名乗らず、オナニーのきゅーてぃあって名乗りやがれ!」

「…………すごいです、エレノアさん」

「はあああ!? 何良いこと聞いちゃいましたーみたいな顔してんの? ばかなの。しぬの。オナニー以外の事考えてねーのかよッ!」

「……うーん、それ以外のことですか…………………………………………お……ちん……ぽ?」

「ちょ、おまっ……なんで疑問系……ってもういい。次、意見がある人」



「はいはいはーーい」
元気よく手を挙げる、シルフの娘さん。
彼女の名前はプラクチカ。

「はい。プチ、発言どうぞ」
若干お疲れ気味のアラクネがゴーサインを出す。

「プチさー聞いたんだけどー、あ、誰から聞いたかっていうとね、お友達のシルフね。この子ちょーイケてる子でー、人間と契約してんのねー。あっマジうけんのがー、この子のダンナ、ホルスタウロスのミルク飲めないんだってー。やばくね。だってー……」

「プチ……プチ……プチ!」

「んー、なーに、どしたー?」

「要件だけを話しなさい」

「チッ……マジうぜーんですけどー」

「今なんつった?……シバクぞ、 このクソシルフ」

「ひっ……」

「びびるんなら調子こくんじゃねーよ。……ほら、つづけなさい」

「あーうん。でね人間ってね、けっこーガメツイらしーんだー。だからさー、なんかのエサで釣ればよくねって感じなんだけどー。どうよ、プチの意見」

「うーん、エサかー。まあ手ぶらでこっちの話聞いてもらうよりかは、好印象になるのかな?」

「だよねー。プチまじで頭よくね? すごくね? プチさまがちょっと考えたら、イケてるアイディアすぐ思いつくっつーの」

「でも人間が好むものか。食べ物? 旅行者とか冒険者とかにいきなり、狩ったイノシシとか渡しても引かれそうだし……お金? そんなの私たち持ってないし……プチ、エサは何がいいのよ?」

「はぁ? んなのプチが知るわけねーじゃん。何いってんのー?」

「…………保留。この案保留」

「えええええーーー」



「…………はい」
続いて、ねむそーな目をこしこししつつ挙手したマンティス娘の出番。
この子はフォズ。
山一番の狩人兼、睡眠ジャンキー。

「ああーフォズね。うん。発言しようって態度は賞賛すべきよね。はいやっちゃって」
若干ヤサグレてしまったアラクネ娘のこの態度、誰が非難できようか。

「…………待てばいいと思う」
口調自体もなんだかぽわーんとしたもの。
どうやらまだ半分くらい夢見心地のようで。

「待つ? 待つってなにを?」

「…………人間を」

「へ? ……まあいいわ、聞いてみましょう。どうして人間を待つの?」

「?…………エレノアはお話ししたくない?」

「したいわね。人間とお話し。そもそもその方法を考えてるんだしね」

「…………だから待つ」

「ちょっとイライラしてきた……で、どこで待つってのーよ?」

「…………けものみち?」

「どんだけ待てばいいのよ?」

「…………来るま……で?」

「待てるわけないでしょーッ! ただでさえ二年も男の姿見てないのに、獣道で待ってたって、来るのはイノシシとか鹿とかそんなんバッカでしょうが!」

「…………来るまでぐっすりおやすみできる……よ」

「もう……あんた寝たいだけでしょう。却下」



「うがあああーーー! 他、他、他の意見。意見ある人ッ!」
頭をかきむしったエレノアが、形の良い眉をしかめて皆を見渡す。

―― シーーン
一斉に下を向いた。

「エレノアちゃーん」
マンドラ娘のプルミエールがおずおずと声を掛ける。

「なによ?」

「あんまり顔をんーーってしちゃいけないよー。気にしてた小じわ、また増えちゃうよーー」

「ケンカ売ってんのかてめえ。貴様らがシワ作らせてんだろーがよ」

「やーーん、エレノアちゃんこわーーい。私そんなつもりで言ったんじゃないんだよー」

「カマトトぶりやがってクソが。……あああーーもうヤダ」


―― おちつけ、おちつくのよエレノア。私のばら色の結婚生活の為でしょ。今がんばれば絶対に報われるの。ここでふんばれば、いつかかならず素敵なダンナさまが現れるの。だからがんばれエレノア。
唇を噛み、しばし虚ろに空を眺めていたアラクネ娘だったが、一度大きくうなずいた後、隣に座るウンディーネ娘の腕を掴んだ。

「はぁ……アクエリアス。なんかないの? あなただけが頼りなんだけど」

「とは申しましても。エレノアさんが先ほど仰られたように、ティル・エラック内に人間の殿方が最後に来られたのが二年前。お話しする相手がいなければ、お話しできない。同語反復で心苦しゅうありますが、これが真実ですわね」

「けどさ……」

「しかし先ほどのお三方のご意見、表現こそ奇抜でしたが、その実、決して間違っていないと思われますわ」

「どこがよ! オナニー、エサ、睡眠。ちっとも役に立ちそうに無いじゃないの」

「いえいえ、そんな事ありませんわよ」


「まずはきゅーてぃあさん」と話を進めるウンディーネ。

きゅーてぃあさんが提案した方法はさておくとして。第一印象をインパクトのあるものにするというのには同意ですわ。興味を惹かれますでしょう。
なおかつ、人間の殿方に好感を持たれるものでなければいけませんけれどね。
例えば我々の衣装を工夫してみるだとか。
謙遜せずに言いますけれど幸いワタクシたちは見目麗しい女性ばかり、殿方は美しい女性に惹かれるものですので、我々がより綺麗になる工夫をしてみるのもよろしいのではないでしょうか。

次にプラクチカさん。
基本的な考えは間違っておりませんわね。ただ、エサで釣るなどと考えるのが間違っているかと。
ティル・エラックに殿方をご招待さしあげると、そう思うべきですわ。
例えば、夏の炎天下にいらした方でしたら、ワタクシたちとお話しする前に綺麗な湧き水へ誘ってみる、なんていかがかしら。
前もって準備していたコップを差し出しますの。冷えたお水で満たしたコップを。
そんな風に御接待してさしあげれば、どんな殿方とて嫌な気持ちにはなりませんでしょう。
心構えの問題だと思いますわね。

最後にフォズさん。
これも基本的に正しいと存じます。
我々はお待ちする側ですので。
加えて言わせていただきますと、これまでより真剣に殿方を探すという事です。
お山は広いですから、もしかするとワタクシ達が知らぬ間にも、人間の方が出入りしている、なんて可能性もございます。
なので定期的に見回りをする。これが必要になるでしょう。
当番制でかわりばんこに行うのが最良かと思われます。


立て板に水の演説を聴いた魔物娘達が、「ほわー」だの「へほー」だの「はわわー」だのと口々に感嘆の吐息を漏らした。


「ア、アクエリアスー、あなたがいてくれて、本当に、ほんどに、よがっだよーーひーーん」

「な、泣かないでくださいまし。エレノアさん」

よよよと崩れるアラクネ娘と、それを支えるウンディーネ娘。
美しき魔物娘の友情である。


今まで沈黙を守っていたドラゴン娘のクラウディアが、初めての発言を行う。
「では、まとめると、人間のオスをこれまでみたく乱暴に扱うんじゃなくて、山に来たお客さんだと思うようにしろという事でよいのか?」

こくり、しっかりとうなずくアクエリアス。
「ええ。簡潔に要約していただきありがとうございます」

「それと、エレノアよ」
クラウディアが蜘蛛娘の足をねぎらうように軽くさすった。

「なに?」

「一日で詰め込もうとしては、皆ついていけまい。今日の会議はこれくらいでお開きにしてはどうじゃろの?」


「そうね……では、これをもちまして、第一回『ティル・エラック山 生活向上委員会』を閉会いたします。皆様お疲れ様でした」

沢山の拍手が山間の草原に木霊した。






会議を終えて数日後。

岩の折り重なる綺麗な渓谷で、アラクネ娘のエレノア達が昼食を取ろうとしている場面。

流れる清らかな川の水は、ティル・エラック山の氷河が溶け出したものだ。
綾なす水面に陽光がきらきらと輝き、苔むす岩々の緑、大空の青と混ざり合って、さわやかな色合いを生み出す。

エレノアがなにやらお尻の辺りをもぞもぞして、自分の糸を引っ張り出し、蜘蛛部分の前足に引っ掛けている。
まるで綾取りをするかのように、器用に蜘蛛足を動かして、洋服のセーターっぽいものを作り終えた。

ふりふりと振って、できばえを確かめる。
これは……投網だ。

「よっ」と一声発し、川へ投げ込む。
引っ張りあげるとそこには魚が絡まっていた。


「さっすがエレノアちゃーーん、アラクネ一の編み物上手ーー」
マンドラゴラのプルミエールがちぱちぱと、蔦に覆われた手で拍手を送る。

「やめてよ。母さんとか伯母さんの方が上手いから」
言いつつ、満更でもない面持ちで魚を手渡す。

水辺の石に座っていたウンディーネのアクエリアスが、その光景を見てなぜか不思議そうに首をかしげた。
「プルミエールさん、あなた、お魚なんて食べますの?」

「ほえ? 食べないようーー」

「ではどうして……」

「こうするのーー!」


マンドラ娘は自在に動く自らの蔦で魚をぐるぐる巻きにし、ずぼっと地面に埋め込んだ。
丁度自分の足と足の間の中間辺りに。

「うーん、恥ずかしながら寡聞にも分かりかねますわ。あなたの行動の真意が」

「えへへー、むつかしい事じゃないよー。これ肥料なのー。こうしてしばらくじっとしてるとねー、根っこに栄養が行き渡るのー。おいしーんだよー」

「あらあらまあ! 納得ですわ」

「んふふー、頭のお花がつやつやになるんだー」


「食べ過ぎて脳みそお花畑にならないようにね」
意地悪な口調でエレノアが茶々をいれる。

「ひどーーい。エレノアちゃんなんて、お魚食べすぎでオークになっちゃえーー」

「冷やかした私も悪いけど、あんた、オークに謝んな」

「ええーーしらなーい」



のんびりかしましい午後の一時。



そんな穏やかさを切り裂くように、突然、突風が荒れた。

「たいへん、たいへんたいへん、たいへんだーーー!」
風に乗ってシルフのプラクチカが乗り込んできた。

「どうしたのよ、そんなに慌ててさ」

「人間がきたーーッ!!」










俺の名前はミハイル・コルサコフ。

いわゆる、冒険者なんて家業をやってる。
肩書きこそ勇ましいが、要するに何でも屋だな。
ペットの猫探しから、ドブを浚っての失せ物探し、深夜徘徊する老人の確保ってのもあったっけ。

冒険者ってイメージと直結するような仕事も、やらない事はない。
例えば、とある場所に住み着いた魔物の退去を促したりだとか、畑に悪さをする魔物をおっぱらったりだとか。
こう言うと、俺らの内幕をしらねぇ一般人たちは、さぞや勇ましく剣を振りかざし魔物相手に立ち回ってるんだろう、なんて想像をしがちなんだ。

実際はそんな事ありえねえ。
ケンカしても十中八九人間が負けるからな。
勝った所で五体満足でいられないようじゃ、仕方がないだろ。

じゃあどうするかって。
交渉するんだよ。
魔物と。

土地の退去の場合は、互いに迷惑を蒙らない場所を探し、そこへ移ってもらう。
畑の場合は、契約料の中から一定量の金を出して、魔物の好物を買い与え、そのお礼として別の場所へ行ってもらう。等々。
それらに掛かった費用を報酬から差し引いたのが、冒険者の儲けになるって寸法だ。

まぁ、カッコ良く言うとネゴシエーターってとこか。
所詮ヤクザな商売だが、俺は結構気に入ってる。

一部では極端に恐ろしがられてる魔物達も、腹わって付き合ってみりゃー、俺ら人間と大差ない。
どころか、実際接したヤツラは気の良い娘ばかりだったな。
そうだよ、魔物は例外なく皆、女なんだよな。
おまけに美人ぞろい。
目の保養にもならぁってなもんだ。

なかには物好きな魔物もいて、俺なんかにコナ掛けてきやがる娘もいたっけ。
しっかし、こいつらを抱いちまうと、もれなく人生の墓場行きらしいんだわ。
つまり、強制的に結婚させられちまうって訳だ。

それも悪かないんだが、もうちょっと気楽な独身生活を満喫したい。
ということでお断りさせていただいてる。

普通にイヤだっていっても聞きゃしねぇからな。
実力行使されたら、俺ごときじゃ太刀打ちできねぇし。

なので、おだててすかして持ち上げて、それでもだめなら土下座しろ、そんな感じで何とか魔物童貞を死守してる。

そんな冒険者の俺がこんなトコで何してるかって。
全部言わせんのかよ。

すみません、道に迷いました。

ほんとならティル・エラック脇の旧街道を越えて、クリャヌチカって村まで行くつもりだったんです。
いや、僕もこんな寂れた街道使いたくありませんでしたよ。
だけど、クリャヌチカへ行くにはこれしか方法がないし、仕事でそこへ届ける手紙を預かってるからすっぽかす訳にもいかず。

気がついたらティル・エラックの麓の森、通称帰らずの樹海に縄なしバンジーしてた訳で。

どうしてこうなった。


それだけならまだ良い。
こちとら伊達に冒険者なんて名乗ってるんじゃねーんだ。
サバイバルの方法くらい体で覚えているからな。
時間さえ掛けりゃ街道へ戻れるだろう。

時間さえあれば……な……


どうして俺が脳内で長々とモノローグやってるかって。

現実を受け入れたくないからだよ。

細い道の後ろ側、俺の背中側だな。
マンティスがいる。

腕にカマキリの鎌がついてる魔物だ。
こいつらは夜道で会いたくねぇ魔物トップファイブ内に位置してる連中だ(俺調べ)。
単純におそろしく強い。
ゴブリンやオーク程度なら軽くあしらえる、中の上程度の使い手が束になっても適わない。

やつらにとっちゃ、人間を相手にするのは、気紛れにじゃれているようなものなんだろう。
大概が悪気のかけらすらないんだけど、相手になる俺らからしてみりゃたまったもんじゃねーよな。

しかし、どういう理由か、俺の後ろに陣取ったマンティスは、そのまま満足そうに寝やがった。
道の真ん中で。
おまけに枕と毛布持参。
ガチにおやすみしてやがる。

……さっぱり意味不明
魔物とのコミニュケーション経験がそこそこある俺でさえ、こんな事態は初めてだ。


まぁ、こいつはほっといてもよさそうに思う。
殺気を一切感じないからな。

しかし……しかし、問題は目の前にいるやつら……



「はああああん……男の人が見てるうううん♪……あああたしのえっちぃぬれぬれまんこ見てれうううううーーん……きもちーーのぉ……おててちんぽくちゅくちゅぅ……とまんないよーー♪」

フェアリーに囲まれてる。

「うそ、うそうそーー、男の人、おめめであたしのいけないトコ犯したがってるのー!?……はぁはぁしながらああーーん……おめめでおまたズンズンつっこまれてるのおおおおーー♪」

全裸で大股開き、指で股間に高速ピストンかましまくってるフェアリーの大群に、取り囲まれてる。

「あんっ……いっく……あたしぃ……おめめで処女まくやぶられちゃまいしたああーーん……いっちゃうー……はらまされちゃうのーー……いっく、いぐいぐいぐいぐううーーん……にんげんの子供ぉ……はりゃんじゃいましゅううううーー♪」

あ、一人墜落した。


俺の背中で嫌な汗が滴り落ちる。

濃厚な花の香りと似た、女のニオイが辺りに充満してやがる。

しかし俺も男だ。
もし、このフェアリー軍団が二・三人程度だったら、スケベ心に負けて、かぶり付きで拝見していたかもしない。
あるいはそのまま流され、めくるめく極楽を味わっていたかもしれぬ。

だが、目の前のドスケベフェアリーは二十人。
想像して欲しい。

一人の痴女から迫られるのは嬉しいかもしれん。
二・三人でも、まぁ、得がたい人生経験と思える程には感激するだろう。

ただし、二十人の痴女だとどうだ?
答え、死ぬほど怖い。

俺の前にいる痴女共は、顔の至近距離でピッチリ十人二列横隊の陣を組み、股を見せ付ける。

一人脱落すると、どこからともなく補充人員が飛んできて、列の穴を埋め、オナニーを始める。


こいつら何がしたいのかさっぱりわからん。
気が狂いそうだ。

一際甲高く啼いたフェアリーが潮をふきつつ、墜落してゆく。

まったくエロさのかけらも無かった。







シルフのプラクチカが矢継ぎ早に説明した。

グリズリーの女の子が人間探しの見回りしてたら、ホントにいたので慌てて自分達に伝えてくれた事。
人間を見失わないように、きゅーてぃあとフォズが足止めしに向かった事。

そして……

「あのバカ二人が足止めって、嫌な予感しかしないじゃないのーーーッ! プチ、場所はどこ? すぐ皆で行くわよ!」

「うーーんと、森の西側入り口っていってたんだけどー」

「おっしゃ出発!」

エレノア、プチ、アクエリアス、プルミエールの四人は、素早く渓谷を後にした。









「ご、ごめんなさい……」


さっき突然登場したアラクネが、俺に謝ってくれてる。

「お……おう。あんたがもうちょっと遅かったら、俺、犯されてた。助かったよ。こっちこそ、ありがとうだ」

俺の全身は、フェアリーの色んな液でどろどろのぐちょぐちょ。
あの後、奇声を上げた痴女達が突っ込んできて、もみくちゃにされた。
こすりつけオナニーの道具にされちまった。

今でも一人、いや万感の思いをこめて、一匹と呼んでやろう。
今でも一匹、俺の股間にへばりついて離れない。
時折もぞもぞしてやがるので、生きちゃーいるみたいだが。

「きゅーてぃあッ! いい加減あんた離れなさいよ!」
アラクネ娘が俺の股間へ罵声を浴びせかける。

「ひっぱっても取れないんだ、こいつ。ほら」
実際にやって見せた。

「ど、ドンだけそこが気にいってんのよ、この淫乱フェアリー」

アラクネ娘はドン引きしている様子。
よかった、この山の魔物全て危険水準超えの痴女かと思ってた。

魔物娘は、程度の差こそあれ、みんな奔放な性格をしてるんだが、このフェアリーは只者じゃねえ。

「ま、まあ、実害は無いみたいだし。しばらくこのままでも、俺はかまわないぞ」

「そ、そう言ってくれるとこちらも助かります」

蜘蛛の足を折り曲げて俺と視線の高さを合わせ、アラクネはぺこりとお辞儀した。


……やけに丁寧な魔物娘だなぁ、調子がくるっちまう。
ぼりぼり頭をかきむしる俺だった。





集まった五人の魔物(あほフェアリーは除く)に連れられ、森の中にある東屋へやってきた。

道中それぞれの名前を教えてもらい、こちらも自己紹介済み。

歩いて股間がこすれるたびに、あほアリー(略語)がびくんびくん痙攣してるが無視。
だんだんズボンの前部分が謎の体液で湿ってきているが、それも無視。


この東屋。
四方に壁がない掘っ立て小屋だ。
雨よけなんかに使ってると、丁寧な口調でウンディーネのお嬢が教えてくれた。

切り株で作られた椅子らしい物があるので、それに座る。

「道中お疲れでしょうから、どうぞ、お使いくださいまし」
お嬢がしずしずと差し出してくれたのは、程よく絞った濡れタオル。

「あ、こりゃどうもご丁寧に」
ぺこぺこお辞儀しつつ、あほ共の夢のあと(謎汁)をぬぐっていく。
このタオル、なんか変わった肌触りだな。
すごく上等そうだけど。
……もしかして、アラクネの糸でできてるのか?


俺の正面には、そのアラクネ娘のエレノアさん。
その隣にお嬢こと、ウンディーネのアクエリアスさん。

俺の左右のとなりには、興味津々という瞳で見つめている、シルフのプラクチカちゃんとマンドラゴラのプルミエールちゃん。

マンティス娘、フォズだったか、彼女は床で睡眠中。
どんだけ眠たいんだよ。

なんとなく微妙に居心地が悪い。

ちなみにフェアリー軍団の残りはどこへ行ったかというと、プラクチカちゃんが風でどっかへ吹っ飛ばした。
いいのかとも思ったのだが、誰一人として心配してないので、ここでは日常茶飯事なのだろう。


「ねーねー、おっちゃんさー。プチたちの事怖くねーの?」

シルフ娘と目があったらそう尋ねられた。

「おっちゃんはやめて……せめてお兄さんで。結構気にしてる年頃なんだ、俺」

「ちょーうけるんですけどー、ぎゃははは、絶対やー。ずーっとおっちゃんって呼んでやんよー」

「いいけどね、世間的には十分おっさんだしね。……で、質問の答えか。怖くないといったら嘘になるか」


「そんな風には見えませんよ。至って自然体ですよね」
エレノアさんが言った。
それから結構不躾な視線で俺を観察してる。

「慣れもありますよ。魔物の方々と接する機会が、一般の人間と比べると多い方でしょうから」
実際には内心で胸がどくどくしまくってる。
泰然自若を装うのも、商売柄重要なスキルだったりする。
ビクついたエージェントに、でっかい仕事を任せるクライアントはいない。
俺みたいなフリーランス商売だと特にそう。

「人間の仕事かー、どんな感じなのかなーー。教えてくれるーー?」
マンドラゴラちゃんが、目をまん丸に輝かせ、ねだってきた。

その愛らしい表情に、一瞬気を許しそうになるが、考え直す。
俺と彼女達は種族が違う。
十分にコミニュケーションは取れるけれども、常識や文化が異なっているのだ。
そこを理解せず、不用意に突っ込んだ態度を取ると、双方に不本意な誤解を生じる元となる。

なにも魔物と人間に限った事でもないしな。
外国人と接する時だって同様だ。

前置きが長くなった。すまん。
で、俺はマンドラゴラちゃんに、俺の仕事内容を話して聞かせた。
これまで経験した面白い仕事を、多少誇張して。


結果は成功。
皆、けらけらと笑い声をあげている。

「ではコルサコフ様は、私達魔物と人間の橋渡し役をしておられるのですか?」

アクエリアスのお嬢が少し身を乗り出している。
アラクネちゃんも蜘蛛の足をごそごそして、興味がある模様。

「そんな大層なモンでもありませんがね。それに、私は人間ですから、結果として魔物の方に不自由を強いる形で、仕事を終えた事もありますし」
正直に言っておく。
交渉は詐欺ではないのだ。

対面二人がチラリと視線を交差させた。


こりゃ、なんか来るな。
直感的に理解する。

魔物が人を食うなんてのがデマな事は重々承知だ。
となると、精を喰らう方か。
彼女たちにとっては生きるに必須なモノらしいからな。
しょうがないところもあろう。


「ご相談があるんです」

エレノアさんが切り出す。

「はい。どのような?」

「私達にお婿さん、紹介してくれませんか?」

「……ちょっといっている意味がよくわかりません」




俺と魔物娘達の奇妙なプロジェクトが始まった瞬間だった。








その後の顛末を少し説明したい。

東屋での会談を終えたのち、俺はティル・エラック山に留め置かれる事となった。
『ティル・エラック山 生活向上委員会』外部顧問という役職を与えられた上で。

拒否権はと尋ねると、ウンディーネのアクエリアスお嬢が低く答えた。
「その場合、この山にいる魔物達の誰かと、強制的に結婚してもらいます」

で、俺は受け入れる他なかった訳だ、代わりとしてこちらの要求も呑んでもらった。
俺に一切の危害を加えない。
無理やり性交を迫らない。
そちらの要求が達成できた暁には、相当分の謝礼を払った上、山から出す事。
住居と食事の確保。

この四点である。
別段無茶な要求はしなかったつもりだ。

アラクネ娘エレノアさんの話を聞くと、本当に深刻な婿不足で悩んでいたからだ。

しかしティル・エラックの魔物達は、すれていないと言おうか、純粋と言おうか。
ちょっと悪知恵の働く者ならば、どこかの里へ降りて、男を攫うくらい平気でやるだろう。

それだって、魔物娘にとっては別段悪でもなんでもないのだから。
一度心身を許すと死ぬまで添い遂げるのが、彼女らの流儀。

ちょっと過激な夜這い婚みたいなもの。

で、なぜそうしないのかと聞くと、あまり山から出たくないのだそうだ。
最終手段として想定してはいたが、まずは色々試してみたいとも。

この時点で、俺は結構、彼女たちに感情移入していた。
なんとかして、人と魔物、どっちも納得する方法を見つけ、山へ入り婿させたい、と。

こんな時にウェットな感情を優先させてしまうから、一流の交渉仕事が出来ないのかも。
なんて風にも思ったけれど、それもまた人生。


エレノアさんと握手をして、契約成立。

新たな日常が始まった。



数日経過……自宅にとあてがわれた掘っ立て小屋にて。


初日に多少意気込んでみたものの、慣れない魔物の山暮らし、一朝一夕で上手く行くモンでもない。

一番の問題点が、アホ妖精のきゅーてぃあだ。

四六時中へばりついてオナニーしてやがる。

「にーさまぁ……にーさまぁ……」なんぞと甘ったるい声でくねくねしまくってるが、第一印象がトラウマ過ぎて、まったく男としての食指が動かない。
いや、かわいくはあるのだ、人形のように整った顔と小さく華奢な体を、とろんと蕩けさせている様は。

しかし、初対面でいろんなものをぶっかけるこの変態フェアリーに欲情できるほど、俺は人間ができていない。
最終的に人の股間をまさぐりながら、おもらしまでしやがったからな。

「きゅーてぃあ、いい加減やめないとサルになるぞ」
……もう手遅れかもしれんね。

「やぁ、やー、にーさまがいいのぉ……にーさまのにおいぃ……しゅきぃ♪」

手の平より少し大きいくらいの体を、俺の首筋に一生懸命こすり付けている。

なんだか不憫に感じてしまったので、シルフのプチから聞いた対処法を試してみる。

プチいわく「おもいっきりいかせちゃえばいーんだよ。ちょー簡単」


自分の小指を確認する。
爪は伸びてないな。
さっき寝起きに顔洗って、一緒に手も洗ったから、汚くない、と。

「ほら、ちょっとこっちこい」
ヤツを掴んで、引っぺがす。

「いやーーっ、いやいやいやいやイヤーーーッ!」

暴れまくるきゅーてぃあの股間に、すばやく小指をもぐりこませる。

「えっ……」

一瞬正気に戻ったきゅーてぃあの、ぐちょぐちょに濡れたスリットを優しくなで上げた。

「……ひゅあああああああああーーーーーっ……ぐぎゅう……おあああああああーーーーん♪」

発情期の猫さながらの鳴き声で、すざましい快楽を表現してくれてる。
……魔物娘ってすごいなぁ、とどこか冷静になってしまう俺がいた。
まぁ、自分の手にこんだけ感じてくれたら、そりゃころっとはまり込む男もいるよなぁ。
一旦そうなると、人間の女じゃ満足できなくなるってのも、うなずける話だ。

「にーさま、らぁめ、はげしい、おまんこくにゅくにゅ、はげしいのぉーー♪」

「ちょっと我慢しろ、な。一回大きいのイッたら満足するらしいから」

なだめつつ、きゅーてぃあの体を支えている手をお尻の方へと持ってくる。
そのまま上に指を伸ばし、慎重に小さな大陰唇を割り開いた。

「……やー……きゅーてぃあの一番だいじなとこぉ……にーさまに見られちゃったよぅ……」
びくびくと体をふるわせ、口の端からよだれをたらして、淫靡な快感に支配された瞳を俺へ向けた。

…………さすがにちょっとぐっと来たかもしれん
しかし、まぁ、な。きゅーてぃあだもんな。

たった数日でこんな感想を持ってしまうのだから、初対面の印象は大切だよねって話。

「クリトリスさわるぞ」

「ん、ん、ん、ん、ん」
壊れかけた笑みを浮かべ、何度も何度もうなずく。

まっピンク。
さくら貝そっくりな陰部の上端。
ぷっくりと皮に覆われた淫核がある。

きゅーてぃあの濁った本気汁をもう一度指先につけ、細心の注意を払って摘み上げた。

「お……おおおおお……あ゛ああああああああーーーっ……あ゛っ……あ゛っ……ぐうううう……おまんごぉおお……ばかになりゅうううううううううっ♪」

ぴーんとつま先を伸ばしたきゅーてぃあは、上体をブリッジのようにそらせ、激しく痙攣した。

おおー気持ちよさそうだなぁ……うん、おしっこ漏らしやがった。


はぁ。
ため息をついた俺は、失神中のきゅーてぃあを拭いてやる為、自分のバックパックから清潔なタオルを選んで取り出す。

壊れ物を扱う心境でゆっくりと清め、そのまま裸の小さな体を包んだ。










森の中の泉の側、今や青空会議場となってしまった、小さな草原。
アラクネ娘の凛々しい声が響く。

「みなさん静粛に。これより『ティル・エラック山 生活向上委員会』の第二回定例会議を開始します」


はたして山の娘さんたちは、無事お婿さんを迎えられるのか。

それはまた別のお話し……

12/05/18 22:35更新 / カイラス峠
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■作者メッセージ
読み切りを連載に変更する際、ちょっとバタバタしてしまいました。

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