連載小説
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昼の日常
時刻は昼。朝食を済ませてから幾ばくかの時間が過ぎた今、吾輩は。

「まてー!」
「にがすな! そっちにまわれ!」
「つかまえたら、きもちーことしてやるー!」
「うわー。にげろー」

友たちと元気に遊ぶ、主を見守っていた。今は鬼ごっこの真っ最中。
捕まれば鬼側となり、味方だった者を敵として追う、恐ろしい遊び。
時を知らせる鐘の音が鳴るまで逃げ延びれば、逃走者の勝利。その前に捕まれば、敗北。

うまく逃げてくれる事を願うとともに、不埒な事を企む小悪魔娘の服を咥えておく。
動けないと抗議する声を無視していると、鐘の音が響いてきた。…主の勝利だ。

「やったー!」
「くそっ! おまえのかちかー!」
「あーもー! あたしがフータにとめられなければ、しげみでしっぽりと…!」
「…とりあえず、インプちゃんがつかまえなくてよかったわ」

毎度のことではあるが、この小悪魔娘も懲りないものだ。
隙あらば純潔を奪おうとするその狡猾さは、常に目を光らせていなければいけない程。

「よーし! もういっかいやるぞー!」
「こんどボク、オニやろうかー?」
「それいいねー、それであたしをつかまえて。…じゅるり」
「はい、オレがオニやるねー。にげてにげて」

こうして再び始まる鬼ごっこ。主の溢れんばかりの笑顔、楽しそうで何より。
そんな時間を妨害する者を排除すべく、吾輩は周囲を見渡す。
小悪魔娘の動向も気にしつつ、油断せずにいこう――。



「そこのおとこのこー。あそぼー♪」

空を見上げる。そこにはふわふわと宙を舞う毛玉娘の姿。
このまま落下すれば主の場所。追い払う為、いつもより多く息を吸い込み、吹きかける。
非常に軽いのか、高く舞う。もう一度やると、気流に乗ってしまい、遠ざかっていく。

「あーれー。まったね〜♪」

呑気に手を振る毛玉娘に対し、尻尾を振って返しておく。
しつこくない分、他の魔物よりもマシである。


「小僧! 今度こそ、その身も心も我のものぉおぶっ!?」

朝の一件にも懲りずに現れた翼トカゲ女に、岩石という名の贈り物を投げる。
またもクリーンヒット。本日、二度目のお星様になってくれた。
吾輩の自慢の牙ならば、刺して放り投げる事もお手のものである。


「フータ! 今日こそ貴様に勝つ!」

吾輩に剣を構え、トカゲ女が果敢にも向かってくる。…また挑みに来たのか。
主を見守るべき時に。しかも、子供が遊ぶ広場で戦おうとは。周りの迷惑を考えぬ奴め。
こんな奴は早急に対処しなければならない。いつも通り、遠慮は無用。

剣が届く範囲まで接近する直前、瞬時に身体を半回転させ、背後を曝け出す。
そのまま半身を宙に浮かせて引き、勢いをつけて後ろ脚を押し出した。この感覚、直撃だ。

「これで終わったと思うなよぉぉおおおー!」

捨て台詞を残し、空の彼方へと飛んでいった。落下地点は、奴の住処だろう。
玉に今回のように、吾輩に襲いかかる魔物が出てくる。単なる豚相手に、物好きなものだ。
いい加減、トカゲ女にも諦めて欲しい。主に危険が及ばないのが、唯一の救いである。


「アーッ! まけたー!」
「ぐぬぬ。また、あたしがつかまるなんて…」
「よし。オレのかちだねー」

視線を戻す。どうやら今回は、鬼側の勝利に終わった様だ。

「えへへ。フータ〜、まけちゃった〜」

負けた筈の主が満面の笑みを浮かべて、吾輩の顔に頬をすり寄せてくる。
相変わらず、楽しめれば勝敗を気にしない御方だ。…それにしても、このぬくもりは心地よい。
ずっとこうしているのは出来ない。だからこそ、長く感じていたい。

「あたしもー!」
「インプちゃん、くうきよもうね」

小悪魔娘を止めてくれた主の友に感謝しつつ、気の済むまでこうするとしよう――。



「ギョウブダヌキさーん、この四つをくださーい」
「おぉ、少年。いつもごひーきにどうもなぁ♪」

広場から一転、場所は変わる。ここは狸娘が店長として切り盛りする、駄菓子屋である。
豊富な種類に加え、お手頃の値段。食べ盛りの主たちにとって、非常に重宝する場所なのだ。
遊び終わると、必ず駄菓子を食べて帰るのが決まりとなっている。

そして、駄菓子の中で一番に人気の品といえば、液体娘から取れる身体の一部。
ゼリーの様に柔らかな食感、やみつきになる程の甘さ、鮮やかな色合い等が、売りの要因となっている。
もちろん性的な作用などは抜いてあるので、誰もが安全に食すことが可能。

「やっぱ、あかのスライムだよなー」
「ダークのやついったくでしょー!」
「ふつうがいちばん」
「ボクはいつものー」

幾つかの種類がある中、主は泡液体娘の欠片を好む。なんでも、匂いがとても良いのだとか。
吾輩には決して、良い匂いとは思えない。甘過ぎるのも相まって正直、苦手な傾向にある。
しかし、吾輩はこれが大好きだ。なにせ…。

「はい、フータ。あーん」

わざわざ、主が食べさせてくれるからだ。それが、何よりも嬉しい。
嫉妬の目を向ける小悪魔娘を尻目に、甘いゼリーを食す。
毎日、お昼の時間はこうして、皆でゆったりと過ごすのである――。
13/01/20 22:55更新 / カンタクロス
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■作者メッセージ
第二話、完了です。不定期の更新なので、次はいつになるか分かりません。
気長にお待ちいただければ、幸いです。

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