連載小説
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裏編 狩人の話
その日、ある集落で集会が開かれた。

 近況報告にはじまり、集落で暮らす際の注意事項、時勢における集落の方針などなど、抽象的かつ生産性のない議題でも真剣に行われる。集会の内容以外に、集会を開くことで集落に住む住人同士の親睦の場とし、住人の団結力を高める………それが表面上のものであっても、そのような場であるべきだとシェリルは考えていた。この森の集会に参加する前までは。

 集会が開かれたのは集落のなかにある、一際大きな樹木に乗っている小屋で行われた。集会に参加している者達は異形の身体の持ち主で、頭から獣の耳なり角なり生えているか、肌の色が異色だったり、尻尾があったりすれば、足の無い者までいる。
唯一、共通していることをあげるならば『女』であること。そう、つまりこの集会は―

(いわゆる魔物娘の『女子会』といったものか…)

 連絡事項もそこそこに、その場は男子禁制のお喋りの間と成り果てた。いつの間に用意されたのやら、目の前には物凄い量のお茶菓子が山盛りに置かれている。周囲から漏れるお喋りに聞き耳を立てれば、意中の男の話にはじまり、恋愛相談、精のつく食材・料理の作り方、愛する夫との夜の営みから、子作り、好きな体位、感じる体位…と、どこかしら猥談じみた話ばかりである。

(うぅ…帰りたい。アレックぅ…)

心中で泣きが入るシェリル。愛しいその名を呼んでも、願いが叶わないことも自覚している。
シェリルは魔物化こそはしたがエルフとしての名残りか、あるいはシェリル自身の性格からか、性的な話となると途端に奥手となる。今も顔と長い耳を真っ赤にさせて下に俯き、集会という名の女子会が終わるのをただただ耐えるばかりである。そんなシェリルに囁く一匹の淫魔…もといエルフがいた。
「ねぇ〜ん、シェリルちゃ〜ん♪どぉしたのぉ〜?お酒が入ったみたいな、お顔になってぇ〜♪」
「い、いや大丈夫だ。わ、私に構わず続けてくれ…」
「そぉ〜ぉ?でもねぇ〜、シェリルちゃん?さっきから全然お話してくれないしぃ〜♪もしかして、つまぁんないのぉ〜?」
「そ、そんな事は無いぞ!わ、私から話したい事がないだけだ…」
「そ・れ・な・らぁ♪私からひとぉ〜つ、シェリルちゃんに聞いても良いぃ〜?」
「わ、私で答えられる範囲でなら…」
「大丈夫♪とぉ〜っても簡単なことだからぁ〜♪」
「………言ってくれ」
「そんなに緊張しなくてもぉいいのよぉ?ちょ〜っと、シェリルちゃんとアレック君の、ふたりの馴れ初めを聞きたいだけなのよぉ〜♪」
「そ、そんなことでいいのか?私が毎晩ベッドの上でアレックに泣かされたり、悔しくて朝這いをかけるも逆にハメ倒される話をしなくてもいいのか!?」
「もちろんよぉ〜♪ねぇ〜?だ・か・ら♪みぃ〜んなに聞かせてあげてねぇ〜♪」
「ぇっ?みんなって・・・?」
気がついて周りを見渡してみると、普段の集会をだんまりで通しているシェリルの話に興味津々なのか、周囲から色鮮やかで様々な眼光が自分に集中しているのをシェリルは見て、感じた。

(えっ?何これ?言わないとだめな流れになってる…!?)

「はぁ〜い♪みんなぁ〜♪今からシェリルちゃんがアレック君との、ふたりの愛の物語を語ってくれるってぇ〜♪はい、拍手ぅ〜♪」

―ワーワー、パチパチペチペチ、ヒューヒューサケヲダセーオトコハドコダー

(………………えぇ〜い!もう知らん!どうにでもなれ!!)

シェリルは一度大きく息を吸い、吐く。覚悟は決めた、後は勢い。
「私とアレックの出会いは―




















「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

そのエルフは己の不覚を呪った。
話はさらに、エルフが不覚を取る直前まで遡る。



森は静寂である。故にエルフも静寂を好む。
森のなかに身を置く動植物もその存在を悟られぬよう、ひっそりとその生命を全うする。それが、森で生きる者の務めであるように。だからこそエルフは、その静寂を必要以上に破るものが許せなかった。
 シェリルはエルフの森に存在する集落の長の娘だった。どこまでも厳格な両親のもと、シェリルは他のエルフ以上に、森のなかで生きる者として相応しい作法や誇りを教え込まれた。シェリル自身も長の娘として恥ずかしくないよう努めてきた。やがて、森に生える草木から作れる薬草の知識、弓矢の扱い、魔法の心得など、森で生きるエルフの在るべき姿として、他のエルフにも一目置かれる存在となった。両親はそんな娘を誇りに思い、シェリルもまた両親の期待に応えられたことを嬉しく思った。
 ある日のこと、森の静寂を荒らすものが現れた。森の奥深くに存在するエルフの森に入り込むものはそうはおらず、大抵は迷い込んだ獰猛な魔獣か、森の開拓に来る不届きな人間くらいだ。どちらも取るにたる存在ではなく、自分達エルフの森から追い出すことなど造作も無いことだった。厄介なのは―

―『サキュバス』

新魔王の元で頭角を現した魔物。下等な人間のみならず、エルフに対してもその魔力で魅了し堕落させようとする恐るべき魔物。存在そのものが穢れで、エルフの嫌悪そのもである。森に自由気ままに入り込み、獲物を探し、弄び、堕とす。過去、シェリルの住む森にもサキュバスが入り込んだが、いずれも長の指示のもと、一人の犠牲者も出さずに追い出すことができた。
 今回も、一匹のサキュバスがエルフの森に紛れ込んだが、撃退することに成功している、はずなのだが…

(…なんだ?このサキュバス、いつもと感じが違う…?)

シェリルは他のエルフ数名と共に、森に侵入してきた不届きなサキュバスを追っていた、否、追うことしかできなかった。弓矢で狙いを定めようとすると、木の陰を利用して視界から消え、追い込もうと牽制の矢を放つも見透かしたように開けたほうへと飛行する。今まで森に侵入したサキュバスは逃走の際に己の翼を使い飛行して逃げるが、追い回されていくうちに消耗して動きが鈍るか、森のなかに生茂る草木に行く手を阻まれたり、上空へと逃れようとして網のような枝木を前にして止まる。そこを、仕置きとばかりに矢の雨を浴びせ怯えて逃げ回るサキュバスを嘲笑するだけ、のはずだった。

(森のなかの飛行に慣れている…のか?)

慣れ親しんだ森だからこそ、シェリル達はかなりの速度で木々を跳び回り、複数で囲いながら追うことができるのだ。そんな追撃をかわせるサキュバスが、ただ逃げ回るだけなのは―

「っ!全員、止ま「遅い♪」

逃走者の声が聞こえると同時、黒い炎が多方向からシェリルを襲った。
「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あぁっ!」「っな!」「シェリル!?」「シェリル様!!」

(熱い、いき、目、敵、燃える、どこ、呼吸、だれ、落ち…!、着地っ!)

シェリルは燃え盛る身体と意識のなか、自身がまず取るべき行動を正確に導き出し、行動する。地面と接触する瞬間、四肢を柔らかく使い、着地。間を空けず、弓を天に向けて、弦を弾く。
狙いや、矢をつがえる必要はない、なぜなら―

―キュィィィィィーーーーーッ!

シェリルの放った光輝く矢が天に向かい、周囲を強烈な光で染める。

「全員退却!直線で集落に!殿は私!急げ!」

シェリルは身体を這い回る炎を振り払って目を瞑る。他のエルフ達も目を閉じたまま、跳躍を始める。長年生まれ育った自分達の森だ。目を開けずとも肌から伝わる感覚だけで周囲の様子など判る。森のなかの飛行に慣れているサキュバス達といえど、視界の無い状態での飛行は不可能だろう。シェリル達は早々と光の範囲外まで跳び越す、このまま―

―ブォオオオオン

(新手!?囲いの部隊か!)

左前方から熱の塊が飛んでくるのを感じた。シェリルは熱源に向かい、冷気を纏った矢を放ち、相殺する。他のエルフも別方向からくる熱に向かって冷気の矢を発射する、が―

(まだいるか!こいつらは一体!?)

シェリルが把握できている外敵は、囮が1、シェリルを襲った炎が3、前方に炎が2、後方の追手が2、の計8。ただし、囮以外のサキュバスはなんらかの行動をとるまでシェリル達がその存在を認識することができなかった。その潜伏能力だけでも恐ろしいが、何よりも統率が取れていることが脅威だった。
今までの侵入者と明らかに異なるサキュバスの集団。まだ別の場所に潜んでいるか、他のサキュバスが追ってきている可能性もある。このままでは集落全体が危ない。ならば―

「先に行け!他の者達に知らせて避難させろ!絶対に振り返るな!」

シェリルは進行方向の斜め上空に向けて、再び目眩ましの光の矢を放つ。先を行く他のエルフ達が光を背にして森を跳べるようにするため、そして、シェリル自身は反転することで光を背負い、追っ手を迎撃するために。

(まず、2匹!)

目眩ましで鈍った追っ手に向け、矢を2本同時に速射、命中、が、どちらもすんでのところで身体をひねられて急所をそらされる。構わず再び反転、進行方向に矢を2連射。こちらも当たりこそはしたが、いずれも致命傷には至らない、が―

(よし!手応えあり、だ!)

矢が命中したサキュバスは飛行を続けることができず、地面に落下して、這い回ることもしない。シェリルは一番近くにいた前方のサキュバスに跳び寄り、喉元に石のナイフを突きたてる。

「聞け!淫魔共!これ以上、私達に手を出すならこの淫魔の命は無いぞ!!」

一瞬、森が作られた静寂で支配される。
このまま沈黙の音が聞こえてくるかと思いきや、声がひとつ、挙手のようにあがる。
「…この隊を預かる者です。姿を現してもよろしくて?」
「いいだろ!ただし!歩いて出てこい!妙な真似はするな!」
後方の茂みから囮役だったサキュバスが、ゆったりとその姿を現し、シェリルに向けて歩を進める。
「止まれ!そこまでだ」
睨みつけたまま、停止を命じるシェリル。そんなシェリルに向けて表情を柔らかくして淫魔は優雅に一礼する。
「初めまして、森のエルフさん。わたくしがこの隊の長です。名を「黙れ!」
「貴様達、淫魔どもの名などどうでもいい。そんなことより即刻この森から立ち去ってもらおうか。さもないとこの淫魔の喉を掻っ切る」
「あらあら、それは困りましたわ」
わざとらしく顔を傾け、腕を組み、手を頬に当てて困った素振りをする。

(っ…!こんなやつらにっ…!)

完全に森を舐めている。
シェリルは目の前のサキュバスから森に対する侮辱を勝手に感じて、激しい憤りを抱いた。
 草木が生茂る深い森のなかでの行動にも関わらず、肌の露出が多い…というよりも、肌を隠しているほうが少ない格好をしている。当然、布地以外の素肌は大胆に晒され、草木や害虫から身を守る意識かあるのか疑問だった。二の腕や太股、へそ周りの女性特有の曲線美を惜しげもなく披露し、大きく丸みの形ができている臀部に、恥部を隠しているだけの下着といっても差し支えない布地が食い込むような形で履かれている。そんな格好とは別もののように、布を巻いて全体を覆い隠している胸部は、より厭らしさが増しているだけだ。服の下の胸部の膨らみは授乳期の母親のように、いや、それ以上の大きさを布地を強く押し上げることで誇っていた。しかし、あれほど乳房が張っていると弓を引くには不便であろうに―

「あらあら♪わたくしのこちらが気になりますの?」

シェリルの視線に気づいたサキュバスが嬉しそうに自身の乳房を布越しに両手で押し上げてみせる。
「っだ!誰がそんなもの!」
「ふふっ♪そんなに必死になさらなくてもよろしいのに♪貴方のも可愛らしいですわよ♪」
(こいつぅぅ〜!)
確かにシェリルの胸は、目の前のサキュバスと比べて…控えめだろう。だが、この淫魔は『サキュバス』だからこそ、男を魅了するための身体が備わっているのだ。対し、自分達エルフは森のなかで生活する身だ。草木の生茂る森のなか、弓を引く生活にあのようなもの邪魔以外の何者でもない。これ以上、このサキュバスが癪にさわることをほざく前に交渉を続けることにする。
「ふざけるのも大概にしてもらおうか。今すぐ、そこらで寝ているお仲間を連れて、全員、森を出てもらおうか」
「そんなにいきり立たなくても…殿方のなかには、胸の小さいほうを喜ばれる方もいらしてよ♪」
「いい加減にしろ!」
どうにかしてこの無礼なサキュバスの首を掻っ捌けないかと、本気で思案を始めるシュリル。そんなシェリルを見て、今までに無い、真剣な声でサキュバスが話しかけてきた。
「……ふたつ、確認いたしてもよろしくて?」
「……言ってみろ」
「それでは、まずひとつ。貴方が放った毒矢の内容とその解毒方法を教えてくださらない?」
「…即効性の高い、麻痺毒だ。意識も奪うが命に別状は無い、魔物相手ならなおさらだ。時間が経てば毒は抜けて、意識も戻る」
「ご丁寧にどうも。もうひとつは、今貴方が押さえつけている我々の仲間の解放条件ですわ」
「お前達がこの森を出たのを確認した後、こいつの意識が戻り次第解放する」
「却下ですわ。私はこの隊の者、全員の安全を保障する身。人質が必要なら私がなりますから、その方を解放してくださらない?」
「お前達、淫魔の話が信用「万が一にも!」
「誰か一人でも欠けるようなことがあってはなりませんの。私もその方と一緒に人質になります。それなら文句は無くて?」
「………他の連中を引き上げさせろ」
「感謝いたしますわ…皆さん!」
サキュバスが声を張ると、森のあちこちで淫魔共の気配がする。
「例の地点で待機。日没までに私達が戻らなければ本体と合流するように。行きなさい!」
指示を出すと森のなかのサキュバスが移動を開始し、数匹のサキュバスが負傷者の近くに現れて、仲間を抱えて一緒に上空へと飛び立つ。

(後は奴らが森から出るのを待つ、だけか)

場に残るは、シェリルとサキュバス2匹となった。
一時して、眼前のサキュバスがシェリルに話しかける。
「お時間まで、すこしお話してもよろしくて?」
「………」
「肯定、と受け止めてよろしいのかしら?」
「…貴様が勝手に話すのは構わん」
「それでは、失礼しまして…♪」
サキュバスから真剣な表情が消え、再び柔かな笑みを浮かべてシェリルに告げる。
「貴方に関する喜ばしいお話をしますわ♪」
「………」
サキュバスは、シェリルを見て心底嬉しそうに語り始めた。
シェリルは黙って聞く。
「もう気づいていらっしゃると思いますけど、貴方の魔力は我々の魔力で染まっています♪」
「………」
「聡明な貴方のことです♪それが何を意味するか、十分にご理解いただけることでしょう♪」
「………」
「ですが残念なことに…。仲間のエルフさん達はそんな貴方を必ず、邪険に扱うはずです…」
「………」
「いかがですか?貴方も、私達と一緒に来られませんか?貴方ほど優秀なエルフはそうはいません。きっとあのお方もお喜びに「黙れぇ!!」
「貴様の考えていることが現実になっても!私は私だ!!貴様ら淫魔共と一緒にするな!!」
「………そうですの。それは残念ですわ。…ただし、ひとつ忠告…いえ、予言をさせていただきますわ♪」
厭らしく、淫らな、どこまでもサキュバスらしい笑みを浮かべ、シェリルに宣告する。

「貴方はとても素敵な『サキュバス』になれるでしょう♪」

「ふざけっ!…っぁ!」
シェリルの下にいたサキュバスが抜け出し、目の前のサキュバスの後方に跳ぶ。
「それでは♪次に会う時は、素敵な貴方であることを切に願いますわ♪」
「っ!待て!まだ…!……!」
2匹のサキュバスは上空へと飛び出した、叫び続けるシェリルただ一人を残して。



シェリルは集落へ戻った。
母親は両手で顔を覆い、その場で泣き崩れた。
父親は無念そうに、拳を握り締めて天を仰いだ。

その夜、集落は長の判断のもと、二つの事項が決定された。
ひとつは、今構えている集落を捨てて、別の場所に新たな集落を築くこと。
ふたつめは、シェリルをエルフの森から永久追放すること。
どちらも、森に住むエルフのための当然の決断と処置だった。
深夜、シェリルは集落を出た。見送りは全て断ったが、両親だけは頑として譲らなかった。
 集落を離れて少しすると、冷たい雨が降ってきた。木の下に移動しても葉っぱの縫い目から雨が滴り落ちてくる。シェリルはうずくまり、腕に目を押さえつけて雨が止むのを待った。
シェリルの孤独はここから始まった。



 シェリルは故郷を離れて、拠点を構える場所を選定した。サキュバスの魔力に侵されてしまった身では、他のエルフの森に入るわけにもいかず、かといって魔物の森など論外だ。どちらにも属さない森は必然的に限られ、結果、人間の管理する森の深すぎず浅すぎずの場所に拠点を構えた。
孤独な森でもシェリルが貧窮することはなかった。木の実を取り、薬草を集め、獲物を狩り、毛皮をなめし……森のなかで生きてきたシェリルにとって特別なことなど何も無かった、孤独であることを除いては。独りだけの夜を幾度となく明かし、口数も次第に減った。生きるための活動を無言で行い、ただいまの返事がない日々を繰り返した。おそらくこれから先、ずっと―
 月日が流れ、シェリルがいつもとかわらずに採集をしている時のことだった。樹から隣の樹上に移動するため、枝木を蹴る―

―ッスス

「っんん!?」
自身の服に身体が擦れ、くすぐったく甘い感覚が走った。

(……またか)

最近になってさらに回数が増えた気がする。この森で生活し始める前はこんなことはなかったのに。これがあのサキュバスの予言の兆候なのだろうか。もしこのままさらに月日が流れれば…

「…いかんな。頭を冷やすか」

ついでに服も洗濯しよう、そう考えたシェリルは近くの池に水浴びに向かうことにした。弱気になった己を冷や水に浸けるために。
池に到着すると辺りを確認し、シェリルは服を脱ぎはじめた、が―

―スッースス、ッスス

やはりと言うべきか、服を脱ぐたびに身体が擦れ、シェリルに甘い感覚が押し寄せる。シェリルは無視を決め込み、どんどん服を脱いでいく。全てを脱ぎ捨てて一糸まとわぬ姿となった自分の姿を、池に映して確認する。
「また少し張ってきたか…」
以前はわずかな膨らみがある程度の胸が、乳房の形がはっきりとわかるまでに育った胸があった。以前の私なら喜んでいただろうか…シェリルが手で乳房を包み込む形で触り―

「っ!」

ドボォーンと勢いよく水柱を作り、シェリルは池に飛び込んだ。
シェリルは許せなかった。
森の静寂を破る行為にではなく、胸をまさぐり快感を得ようとした自分自身に、だ。



さらに月日は流れた。
 森のなかを跳びまわると胸部が痛くなるまでに、シェリルの乳房は張ってきた。時折、矢を放つと弦が胸を掠めることもある。シェリルはしぶしぶながらお手製の布で作った胸当てを巻くことにした。
ある日のこと、シェリルが森で採集に勤しんでいた、そこに―

―カンッ、カンッ

乾いた音がシェリルの耳に響いてきた。おそらく何者かが木に刃を入れている音だろう。もしそれが人間で、森の外の生活のために伐採するならば許されざる行為であり、すぐにでも止めさせるべきだ。ここがエルフの森であれば。
シェリルは無視して採集を続けていたが、森の『元』管理者としては見過ごしている気がしてならない。しかたなく様子だけでも見に行くことにした。長く続いていく孤独な生活のなかで、自身の気を紛らわしたいのかもしれない。それが軽蔑してやまない人間の野蛮な行為を視界に入れることだとしても。
ほどなくして、シェリルは乾いた音が響く付近の茂みに潜んだ。茂みのなかから不届き者が出す、音の発生源をうかがうと―

(人間の、男か…)

その人間は大きな斧を何度も大木に入れ込んでいた。長い丈のズボンと上着を着込み、頭には布を巻いていた。背丈は自分より頭ひとつ分は大きいか。外見からの年齢はよくわからない…、というより人間の寿命はエルフより短命のため、シェリルには判断ができなかった。ただ遠目から見て、男の肉体だとはっきりとわかるほどに、自然に鍛えられた筋肉が張っていた。木に切込みを入れると、反対側に周り追い込みの刃を入れる。
大木がゆるやかに傾いていく。あと少しで倒れそうなところで、刃を入れるのを止めた。シェリルは不審に思ったが、人間が先に動いた。刃を入れる方向を変え、大木の傾きを逸らし、ついに倒した。木が倒れても人間は一服もいれず、腰に差していた鉈を手に取り、枝を落とし始める。

かつてこれほどの長い間、人間を観察したことがあっただろうか。ひとたびエルフの聖域に侵入する者が現れれば、問答無用で追い出してきたのだ。
結局、シェリルは人間が作業をやめて帰るまでの間、眺め続けた。シェリルがその背中を見えなくなるまで見送った後、ふとあることを思い出した。

(あの人間…なぜ途中で倒す方向を変えた?)

別にあのまま倒しても、隣の木にかかるような事はなかったはずだ。シェリルは人間が木を切り倒した付近に近づき、周辺を確認するとあることに気づいた。

(これは…ブナの幼木?)

いわゆるドングリの木である。あの人間はこれを潰さない為に、手間をかけてまで木の倒す方向を変えたのか、と疑問に思った、が―

(…いや、森の獲物を狩るため、か)

野蛮であるはずの人間が、森で生きる動物に気を遣っている。そんな話があるとすれば、人間自身のためだけだろう。シェリルの常識にない人間の事実など、あるはずが―

(んっ…と…またはじまったか…)

シェリルの股の間から、つら〜りと愛液が垂れだす。相変わらず、シェリルの身体はふとした拍子で甘い感覚が走り、さらなる快感…自慰行為へと誘惑するが、高潔な精神のもと、シェリルは跳ね除けてきた。いつまでも森のエルフでいるために。
しばらくすれば収まるはず。日も落ちてきたし、今日の採集は切り上げることにしよう。シェリルの結論はその場から立ち去ることを優先させた。この身体の疼きがこの場にいる限り止まらない、そんな予感を感じたからだ。



シェリルは拠点にしている樹上に戻ると、採集した物品の整理を済ませ、食事の支度にとりかかる。今晩の料理はキノコのスープと炒った木の実だ。少し簡素な気もするが身体の疼きが先程から止まらないため、まともな料理をする気には到底なれなかったからだ。シェリルは出来た料理を床に並べ、一人、黙々と口に運ぶ、が―

(この木の実…もしかしたら…)

人間が森を守っていたから…今、こうして食事にありつけているのではないのか。少し大げさな話かもしれない。だが個人とはいえ、昼間に会ったあの人間は森を大切にしている、たとえそれが人間側の都合とはいえ、その事実は確かに自分の目の前で起きたことだ。久しぶりに暖かい食事をした気がする。だれのおかげ…とは言いたくはないが、森と、とりあえずあの人間には感謝することにする。

(っと…余計なことを考えずに早く横になろう)

シェリルは残りの料理を急いで胃袋に入れると、後片付けを手短に終わらせ、床に就いた。















寝付けない。身体が疼く。昼間の出来事から今までの間、シェリルの恥部からは愛液がいまだに滴り続けていた。このままでは―

(…縛るか?)

この森で生活して、身体が疼いて寝付けない夜が何度かあった。そんな時、シェリルは決まって自身の両足をきつく縛ってやり過ごしてきた、が―

(いや、大丈夫だ)

この程度ならば、収まるまで耐えればいい。どうしても我慢ができそうになければ、その時に縛ればいい、とシェリルは結論付けた。そうと決めれば―

(はやく寝てしまうこと、だな)

雑念を払って、目を瞑る、が、なぜか昼間に覗いたあの人間の風景が脳裏で蘇る。いくら心を無にしようとも、耳には木に斧を入れる音が木霊し、瞼の裏にはあの人間の姿が張り付いて剥がれない。この手で口に運んだ木の実はもしかしたら、あの男が…

「はぁぁ…」

両足は太股を落ち着き無くこすり合わせ、甘い感覚を引き寄こす。思わず身をくねらせれば、服が乳首を擦り、刺激する。ますます身体が熱を帯び始め、火照りに耐えかねた身体が、両腕を使ってシェリルを剥いていく。その手つきは、わざとらしく服を摩するようにねっとりと動く。乳房を押さえつけてる布をずらし、恥部を覆う布に愛液を塗りつけながら、両手で脱ぎおろした。
このままではまずい、シェリルの理性が警告する。すぐさま身を起こそうとするが、身体が言う事を聞かない、どころか―

「はぁぅ…」

恥部の状態をシェリルに認識させようと、指が這い回る。既にシェリルの秘所はぐちょぐちょで、身体をよじらするたびに卑猥な音が出てきそうだった。いつの間にか、もう片方の手はシェリルの乳房の感触を堪能しはじめ、シェリルをさらなる深みへいざなう。初めての自慰行為だというのに、熟練の手つきで女陰をなぞることでほぐし、クリに指を添わせて激しく振る。乳房を愛撫する手も、刺激に慣れないよう時に強く、また優しく揉みしだく。両腕に翻弄されるシェリルは、高みへとゆるやかに登りつづけた。
やがて乳房を弄っていた腕が疲れたのか、指をシェリルの口に入れて休める。シェリルは無意識にその指を舐め、吸い、しゃぶりはじめる、が不意を突くシェリルの恥部を弄っていた指がクリを擦って押さえつけ―

「あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

シェリルは初絶頂の圧倒的な快感を、拒絶と言い知れぬ背徳感で迎えた、が―

(足りない!まだ!!)

シェリルは初絶頂中にも関わらず、指の動きを止めることをしなかった。
言う事を聞かないと思っていた身体を使い、シェリル自身の意思で、より激しく動かし、身体をまさぐり、秘所を刺激し、その身に受ける快感を前にして艶声をあげて貪りつづける。



空が白みはじめても、シェリルは盛りのついた雌の声を上げて、行為に没頭し続けていた。森で狩った獲物でできた毛皮のベッドを、シェリルの愛液、潮、失禁、涙。あらゆる体液でぐしょぐしょに汚した。やがて、行為に疲れはてたシェリルを後悔と眠気が襲う。

(やって……しまった……)

ぼやけていく意識のなか、シェリルは自身が犯した禁忌に涙する。自分を殴りつけようにも、身体は動く気配すらない。やがて、目を開けていることすら辛くなったシェリルは、意識を手放す、直前―

―カンッ、カンッ

(また……あの人間…)

今日も、来ていたのか。シェリルは耳に響く、どこか心地よい音を聞きながら、眠りについた。



破れた防波堤は崩落するだけだ。
それが巨大で頑強な堤防であればあるほど、勢いよく壊れる。
 その日からシェリルの生活に、自慰行為が日課のように加わった。始めは夜、就寝前だけと決めていたのが、身体が疼きだしたら、になるのもさほど時間を必要としなかった。
自慰をはじめるようになって、シェリルの身体は目に見えて変化した。引き締まっていたはずの自身の身体は、柔らかさと丸みを帯びはじめ、肌質はすべすべで繊細な絹地のようになり、自慰で揉みしだいた胸はますます肥大化した。この頃になると、シェリルの胸では弓を引くのも困難となり、獲物の捕獲をもっぱら罠に頼ることになった。本来、森のエルフは己の腕前のみで獲物を捕まえることを信条とし、罠という知恵に頼った手段は取らない。それが獲物に対する平等な挑戦であり、森で生きるエルフの誇りだ。しかし、森のエルフとして恥ずべきこの行為は、無様な自身に相応しい方法とも思えてしまった。
いつしかシェリルは森で活動する時間よりも、自慰で身体を弄る時間のほうが長くなってしまった。採集に勤しむこともなく、場所を選ばずに一日中、自慰にふけっていることも多々あった。今もシェリルは自身を慰めている。そのような日は決まって―

―カンッ、カンッ

(あの音だ。あの人間が森に現れて、私は…)
(だから、森を荒らす、人間が許せない。だから、私は…あの男を…)




















シェリルは獲物が罠にかかるのをひたすら待った。獲物の行動習慣は完全に把握している。あの獲物はこの先にある樹木が気に入ったのか、頻繁にここを通る。罠の設置にも抜かりは無い。後は、もうすぐ来るはずの獲物を待つ―

(っ!来た!)

あの人間がやって来た。何度も眺め続けてきた姿だ、見間違えるはずがない。獲物は足元を注意深く見ながら、歩を進める。あと少し、もう少しで―

―ッダァン

(掛かった!)

獲物が罠にかかり、木にぶら下がる。上手く生捕できた。怪我を負っている様子も無い。獲物は自身の身に起こった事態をよく把握できていないのか、ぶら下がっているだけだ。シェリルはお手製の毒矢の先に巻いた布きれを巻きとると、弓につがえ、罠に掛かった獲物に狙いを定める。今のシェリルに動く獲物を射抜く自信はないが、獲物が静止しているなら別。獲物が縄を切断しようと腰の鉈に手を掛けた時―

―シュッパン

(…っぅ!)

矢を放つと同時、右胸の側面に弦が強く当たる。
獲物の右腕に矢が当たったのを確認すると、シェリルは堪らず弓を放り出し、右胸を両手で押さえてその場にしゃがみこむ。覚悟していたとはいえ痛すぎる。もはや昔のように森のなかを跳び回り、弓を射ることはできないのか。今度からはもっとしっかりとした毛皮か何かで、厚手の胸当てを作ろうとシェリルは心に決める。

(これも全部、あの人間のせいだ)

シェリルが再び顔をあげると、人間は意識を失っているのか、力なくぶら下がっていた。

(大丈夫…だよな?)

毒の調合は慎重に、何度も確認した。気を失っているだけとは思うが、死なれては困る。あくまでこの人間にお灸を据えて、二度とこの森に入らないよう警告する、それだけのことなのだから。
シェリルがおそるおそる近づくが、起きる気配は一向にない。真下に近寄って見上げると、胸の辺りは動いており呼吸はしているようだった。ひと安心したシェリルは、用意していたそりで獲物を運ぶことにする。その前に、人間を木から降ろす必要があり―




















(どうしたものか…)

拉致した人間を前にして、今更ながらにシェリルは思索した。
シェリルは人間を住処に、起こさないよう慎重に運び込んだ。人間を寝かしつけたベッドは、あらかじめ用意しておいた葉っぱでこしらえた簡素なものだ。男を、それも下等な人間を自分のベッドに寝かせたくないというエルフとしての主義もあるが、普段シェリルが使用している毛皮のベッドは、日頃、シェリル自身の体液で汚しており使わせるわけにもいかなかった。

(こうなったのも…全部、こいつのせいだ)

男を抱えて運ぶ際、密着したことで男の息遣い、体温、匂いを直に感じたせいかシェリルの恥部は発情しきっており、いくら拭きとろうとも愛液が留めなく湧き出てくる。まるで身体がこの男を求めて―

(っ!馬鹿馬鹿しい!!)

自身に過ぎったありえない考えを強く否定する。もしこれがあのサキュバスの予言だとしても、この男さえこの森から消えされば、以前の生活に戻れるはず。だからこそ―

(肝心なのはどうやって、この人間をこの森から追い出す、かだ)

それも、二度と森に入ろうとは考えないようにする。この男を殺す…というわけにもいかない。エルフは野蛮な人間とは違う。何より…シェリル自身は人殺しなどしたくない。だからこそ、別の手段を考えなくては。
シェリルが同じ思考を何巡も続けているうちに、人間が目を覚ましだす。

(…っと。まずはこいつ自身の立場をわからせないと、な)

人間は劣等であり、優等であるエルフの要求には従わなくてはならない。そう認識させるためにも、最初は強くでなくては―

「気がついたか?人間」
―いきなりで、酷か?いや…

「あれこれと聞かれる前に先に言っておく。一度しか言わないからよく聞けよ?」
―あくまで冷酷に、冷たく、だ

「私は誇り高き『エルフ』の一族、名を『シェリル』という。貴様は私に捕獲されここに運び込まれたのだ。」
―よし、名乗りは上々。次は・・・

自身に自答しながらシェリルは男の様子をうかがっていた。男はまだ意識が戻りきっていないのか、周囲をぼーっと見渡している。ようやく辺りを確認したのかと思えば、自分の身体の具合を確かめはじめた。なんだか無視されているようで、我ながら勝手と思いながらも腹が立つのを抑えられず、声を荒げる。

「おい人間!私の話を聞いていなかったのか!?」
―私を無視するな!

ようやく気づいたのか、男がシェリルに視線をよこす。
男の視線がシェリルの顔を捉えられると、すぐにその視線が耳に移る。男は何かを悟ったのか険しい表情となり、シェリルを訝しげに見回す。シェリルの頭の上から足を組んで下ろしたつま先まで確認すると、再びその視線が上がっていく。足を組んだことで露になっている太股や、肉付きが増したお尻、足元を見るのに邪魔で仕方のない胸の巨大な膨らみを凝視している。その目つきは最初の不安げな色合いは無く、まるで盛りのついた獣の視線で―

「…どこを見ている、人間」
―この下種が…

男が誤魔化すために声を張ったが、見苦しい。

「私の名乗りに応えもせず、開口一番の言葉がそれか。…あまつさえ真っ先に私の身体を見て欲情する始末。やはり『人間』とは下等で野蛮な生き物だな。」
―…その視線で…私は……なぜ…

発情している。
シェリルの言葉と意思に反し、身体ははっきりと疼いている。正直、足を組んでいてよかったと思った。今も、きつく股を閉めていなければ、愛液が溢れ出すだすことだろう。いまも股を擦り合わせたいのを必死に抑えているのに、男の反応や声が身体に届くたびに着実に衝動が強くなる。

「すぅー………ッ!」
―この人間のせいで…私は!

嫌悪する『人間』に身体を見られて、自身も『人間』のように発情する。
シェリルはこれ以上、こんな身体に付き合いたくなかった。
森の中で生き抜いてきたかつての姿は無く、男を誘うだけの厭らしいだけのこの身体は、森のなかで生活するにはあまりにも不便で、恥辱でしかない。
そんな姿を見て勝手に欲情する『人間』に、シェリルは怒りをぶつける。

「黙れ!」
「私は…!私たちエルフは!貴様ら人間が!平気で森に入るのが許せないんだ!」
―私を、こんな身体にした。この人間が…

「下等で!野蛮な!人間が!勝手に決めたことなど!我々エルフには関係ない!!」
―理不尽な八つ当たりだと、わかっていても…

「今から貴様を、わ、私が辱める。…そうすれば二度と森に入ろうとは思わないだろうからな!」
―こんな身体にした、この人間が許せない。

「…何を期待しているのかは知らんが、貴様ら人間とまぐわうつもりなど毛頭ない。私たち『エルフ』が『人間』に欲情すると本気で思っているのか?」
―そうだ…こいつは!この人間は!

シェリルははじめての口付けを捨てるように、人間に捧げた。
口のすべてを汚してもらおうと、人間の口をこじ開け、執拗に、丹念に犯した。今更、自分を大事にしても仕方がなかった。それもこれも―

「ぷっは!無理やり唇を奪われたのに、こ、こちらは正直だな」
―こんな事を無理やりされて、欲情するのが人間、だ

嫌がる人間の言葉と裏腹に、股間の膨らみはシェリルにはっきりと見てとれ、それを触って、感じた。人間が静止を求めるが、それはシェリルの嗜虐を刺激し、次の段階に押し上げるだけだった。

―だめだ、もっと惨めになれ

シェリルは人間の股の間に潜り込み、ズボンを勢いよく下ろすと、それに応えて人間の肉棒も勢いよく現れる。

―〜〜〜っ!これは…!?

肉棒を見てシェリルは硬直した。
いまだかつて異性の性器を、ましてや隆起した肉棒をこんなに間近で見たことなどなかった。みるみるうちに耳先が熱を持つのを顔面で感じて、目線を下に逃がす。
固まったままのシェリルを不審に思った人間に、声をかけられるがそれどころではない。

「か、勘違いするな、よ?私は森を荒らす、き、貴様ら人間を罰するためにして、いる、んだ」
―そうだ、この人間を辱めて森から追い出す、それだけに集中すればいい

意を決して、再び肉棒に視線を戻す。
やはりと言うべきか、相変わらず肉棒はそそり立ったままだった。

―熱い…、硬…いっ!?跳ねた??

肉棒の形を指先でなぞると、肉棒は生き物のように脈打った。
シェリルの知識にあって想像するのもはばかれるものが、今、シェリルの目と鼻の先にあって、そのすべてがシェリルにとっては初めてのことで―

『男の…これを見るのははじめてなのか?』

顔から火が出る。
今まさに、シェリルが人間の言葉でそれを体感できた。

―『これ』とは、つまり、私が今、見てるもので、つまり…〜〜〜〜〜っ!

思わず『これ』を握り締める。
自分の顔に負けないぐらい熱を持ってる『これ』に煽られてますます火が付き、握りしめる手がますます強くなる。
脈打つ『これ』を握り締めたままでいると、一際大きく脈打った気がした。先端を見つめると先ほどには無かった液体が滲み出ている。

「こ、これはなんだ?」

人間に問う、が、反応はない。
暫しの間、人間の回答を待ったが応える気がないようだ。
埒が明かないので自分で確かめることにする。指で掬い、匂いを嗅いでみる。自分の知識に間違いがなければこれは―

「こ、これはお前の…こ、子種だな?」

人間の慌てふためいた反応を見るに間違いないはず、ただ、自分の知識にある『子種』とはずいぶん違った。『子種』とは子をなすためのものであり、色は白濁色で、匂いは酷いもの、…だと思っていたが―

―ッペロ♪…んっ!?

おいしい。
シェリルは素直に感じた子種の味を思う。

「…おい人間。人間の、お、雄の子種とはこんな味なのか?」

人間の返事はしどろもどろで要領を得ない。
美味しい、と感じた自分の味覚がおかしいのではと不安になる。

「いや、いい…私がた、確かめる」

自分でもどうかしてると思うが、確かめられずにはいられなかった。
人間の制止を聞かずに肉棒の先端に舌をあてがう。舌先でほじくるように動かすが、どうにも『子種』を上手く舌先に運べない。まどろっこしく感じたシェリルは、見ず知らずの、それも『人間』の『肉棒』を大きく口を開けてすっぽりと先端を丸ごと咥えこむ。
人間が呻き声を漏らす、が、シェリルは構わず続ける。
口を窄めて強く吸いあげるが、一向に『子種』は出てこない。ならばと、肉棒の根元を両手で強く握り締めて、家畜の乳絞りの要領で先端に向かって強く、強く絞り上げる。

―むぅっ、少し、でたぁ♪

尿道にわずかばかり残っていた『子種』を吸い上げて、味わう、が、まだまだ足りないとばかりに両手で根元を掴むと、再びゆっくりと絞り上げる。
幾度と無く、繰り返し、繰り返しシェリルは搾りあげるが、回数をいくら重ねても『子種』が溢れてくることはなかった。

―ここで雄の、こ、子種ができて、溜める、はず、なんだ

うわ言の様につぶやくと、左手で男の玉袋を包み込み刺激を与える。そのまま、肉棒の先端に子種を送るよう揉みしだく―

―っんん!?んん♪じゅるるうぅ♪

ついにシェリルが待ち望んだものが肉棒から噴きでる。
少しでも多く、一滴も玉袋に残さないために手を休めずにシェリルは吸い上げる。次に、肉棒が唇から離れて空気に触れたのは、激しく脈打つ肉棒から『子種』がでてこないのを執拗に吸い続けることでシェリルが納得した後だった。

―もっと欲しい…が、

男は一度射精すると、しばらくは敏感になりすぎる…らしい。あくまで知識からの推測だが、『子種』をなんの躊躇もなくおいしいと感じ、飲み干せている自分のことを考えるとあてにならない気がした。シェリルは人間から回答を聞こうと口を開きかけるが、どうも人間の様子がおかしい。

―何か、間違いがあったのか!?

ふと脳裏に、淫魔との交尾で命を落とす人間の姿が頭を過ぎった。慌てて人間の肩をゆすり、声をかけるが、返事は無い。必死に呼びかけるとようやく生返事が帰ってきた。シェリルが心配したことを人間に正直に告げると、人間もシェリルに告げる。

『もう森には入らない。―』
―っ…!

たった一言に、シェリルは困惑する。
そんなシェリルを見つめて淡々と人間は告げる。二度と森に入らないこと、シェリルの存在を他の人間には秘密にすること、そして、『エルフ』が『人間』を辱める必要が無くなることを―

「人間…」
―私は…

そこまで発して、止める。
何を言うべきで、何をするべきか。
どうすればこの身勝手な仕打ちを許してもらえるか。
この人間に、今の正直な気持ちを伝えられるか。真剣に考えた。
やがて、シェリルは意を決して話しかける。
人間に名を問うと『アレック』と答えてくれた。
素直に答えてくれたことを心中で感謝しながらもシェリルは姿勢を正し、視線はアレックを見据えて宣言する。どんなことをしてでも償いたいと。が、シェリルの覚悟に、アレックはどもった声をあげて視線を固めたままだ。
固まったままのアレックの視点の先には、自身の豊満な―

「…どうしっ……ふぁっ!?」

思わず自身の胸を両手で押さえ身体を伏せる。
うわずった声をあげた事が余計に羞恥心を生んだ、と同時に―

―そんなに、気になるのか?私のこれが…

裸を見られること自体は恥ずかしい…とシェリル自身は思う。一方で、この恥ずかしい姿を、見られることに喜びを少なからず感じている自分もいた。そのことに気づいたとき、シェリルは―

「アレック。…お、お前は家庭をもつ身か?」
―私は…何を?

自分でも何を言だしているのかわからない。
ただ無性に、この男の周りに他の女がいるのか聞きたくなった。
アレックの返答が鈍れば苛立ち、『いない』という質問の答えも本当なのかと不安になる。

「…そ、そうか」
―よかった…

アレックの身近に女がいないことがわかって、胸を撫で下ろす。

(…なんで、安心しているんだ?私…)

アレックに妻はいない。
それだけで心が平穏を取り戻し、また高鳴る。恋慕…というにはあまりにもあやふやで断言はできない。ひとつだけ確かなことは、この人間…アレックとこれからも一緒にいたいということ。それも男と女が一緒になるということは―

(『アレック』と『夫婦』に、なる…)

突拍子でありえない話だが、名案のようにも思えた。二人がずっと一緒にいる、そんな単純な想像だけで身体中が火照る。ひどく勝手な話ではあるが、直接ではないにしろ、アレックが自身の存在を大きく変えたのは事実だ。
自身のこの恥ずかしい姿を見て、欲情するアレックにも責がある。いささか急で強引な話であるが、このすばらしい話を聞いてもらおうと、その名を呼ぶ―

『シェリル!!』
「…!?」

突如として、自分の名を呼ばれる。

―まさか!アレックも!?

この素晴らしい考えに気づいたのか。やはり『夫婦』とは素晴らしいもの―

『馬鹿なことはやめて、俺を解放するんだ。そのほうがお互いのためになる』
「なっ………!」

アレックの言葉が理解できない。
二人が共に過ごす輝かしい未来を『馬鹿』なことだと拒絶する、アレックが。
感情が反転する。
私をこんな姿に追い込み、その気にさせて、裏切る。挙句の果てに、私の話を『馬鹿』扱いする、アレックに対して。

「……………『馬鹿なこと?』なんだ、それは?」
―許せるものか…

「あぁ、私には何のことか見当もつかないからな」
―私とひとつになるのを拒んで…

「それに、私は言ったはずだよな?アレック…」
―私をこんなに惨めにしたお前を…

「お前を辱める、と!」
―私のものにするために!

生まれたままの姿をさらす。
アレックの奥深くに自分を刻み込むために。
シェリルはアレックの分身を掴むと、己の入り口にあてがう。
直前、不安を感じ、愛しい男の名を救いを求めるように呼びかける。
返事はない。それでも続けた。処女を捧げる最初で最後の場面を、見守って欲しいと。

『…それでお前の気が済むのなら、な』
「っ!!ありがとう、アレック………」

―ストン
(……………んあぁぁっ!?)

腰を落とした瞬間、シェリルはのぼりつめた。
独り自分を慰めた指の感覚や、実物を想像しての行為で届かなかった場所まで軽く運ばれる。長い間お預けを喰らっていた蜜壺は、遠慮も躊躇もなく、獣の如くアレックを襲いかかる。流血や処女の痛みなど、ひとつになった二人の前には香辛料にしかならなず、蜜壺が貪るアレックの味はそのままシェリルの甘美な快感ととなって押し寄せた。はじめての瞬間を絶頂で迎えたシェリルの下で、低く呻くアレックが腰を浮かせる、そのわずかな動きだけで下半身から新たな快感が突き上げられる。

「ま、まだ動くな、アレック!」

刺激が強すぎる。強烈すぎる快感を押さえ込もうとアレックにしがみつくが、顔と身体が弛緩してどうしようもない。

「し、刺激、が、っん♪まだ、つよ、っはぁん♪、ぅう♪動くなぁぁ♪」

意思とは裏腹に、腰が前後する。アレックの分身に愛液を塗りこむように艶やかに腰を振り、愛液が塗りこまれるほど滑らかに腰が動きだす。

「…んぁ♪…ぁあん♪…はぁん♪ぁん♪っん♪あぁん♪」

結合を果たしたばかりのシェリルが、熟練の娼婦のように大胆に、速く、己の腰をアレックに擦り付けて、叩きつける。アレックの上で腰が往復を繰り返すうちに、肉棒が脈打つ大きさと激しさで絶頂の予告を感じた。

「むちゅる♪」

アレックの顔を両手で捕まえて唇を塞ぐ。すぐそこまできている絶頂をアレックと迎えるために―

―ドビュュッ♪ドビュュルルルルッウウゥゥゥゥゥ♪
「っんん♪はああああんんんんん♪」

子宮に、子種が入ってくるのを感じる。
結合部から直にそれを感じると反射的に、アレックに腰をめり込ませ、一滴も逃すまいと股をしめる。歓喜して子宮が子種を受け止めている間中、アレックを強く抱しめて桃源郷をさまよう。
 シェリルを現実に引き戻したのは、絶頂に導いたアレックの肉棒が子種を空打している時だった。

「ア、アレックのぉ♪っぁん♪あ、あちゅいのがぁ♪な、なかにぃ〜♪」

愛おしい男の子種をその身に受けたシェリルは幸福の絶頂にいた。夢や幻ではないことを子宮に受け止めた熱の塊が証明してくれている。自分の内にどれほどアレックを受け入れたのかと、確認しようと身を起こしてお腹をさすろうと―

―ビクン

突如、身体の内側が蠢く。
「んはああああああぁぁぁぁ!?」
身体の変化をアレックと繋がった場所から感じた。下半身が強烈に熱を持ち、膣自体が肉棒をより深く咥え込んで蠕動を開始する。子種をむさぼろうと子宮は下がりきっており、子宮口を肉棒の先端に密着させて吸いつく。子種を貪欲に求めるだけの膣の搾精は、腰を動かしていたときよりもはるかにアレックを敏感に感じて―

―ビュルルルルルウウウゥゥゥゥゥッッ♪
「アレックゥ♪アレックゥゥゥ♪♪♪」

アレックの子種を受けて、シェリルの変化はさらに加速する。精を子宮で飲み込むたびに身体は熱くなり、結合部の快感と蠕動が激しさをます。その快感が脳髄に突き刺さるたびに、シェリルの頭から理性と一緒に何かが剥がれ落ちる。そのことに疑問を抱くよりも先に、また新たな快感がシェリルを塗りつぶして埋めていく。恐怖も不安もなく、絶頂の時をアレックと迎えつづけた。やがて、アレックに全てを委ねて快感にシェリルは染まっていく―





(んっ………意識、とんでた…)

初体験で気を失うとは。どうしようもなく淫乱となった自分を心中で失笑する。頭のなかには甘い痺れがいまだ強く残っており、心臓の激しい鼓動が頬のすぐ下から聞こえる。気分はふわふわと宙に浮いたままで、温もりを感じる身体を動かすのは億劫だった。ただ、それを不快に感じることはなく、むしろ心地よさだけで満たされていて、それを与えてくれたのは―

(…っ!…アレック!?)

自分の大事なものとなった、アレックがいない。
慌て意識を覚醒させる。先程まで二人がつながっていたはずの近くを見る、がどこにもアレックの姿はない。全身の血液が一気に冷める。疑問、怒気、不安でぐちゃぐちゃになった心が顔にでる。泣きたくなる自分を必死に耐えて、意識を周囲に広げる。一刻もはやく、アレックを―

―ッザズ

近くで、草地が踏まれる音がする。
両手で床をついて身体を起こそうとするが、足がいう事を聞かずに前に倒れこむだけだった。情けない自分に涙と嗚咽のような声があふれる。それでも急ごうと肘から指先までを床に擦りつけて、下半身を引きずって移動した。涙でにじむ視界でようやく外を見ると、自分の愛する、自分を裏切ろうとする―

(アレック!なんでっ!どうして!?)

黙って去ってほしくなかった。せめて理由を聞かせてほしかった。もっと自分の気持ちを知って欲しかった。できればずっと一緒に―

「まって…っ、まってよぉ、アレック…」

うわ言を無視するかのように、アレックは少しずつ森の奥へと歩みを進める。感情が爆発して声に出るのを片手で押さえて無理やり飲み込む。もう片方の腕で再び床を這って壁に立てかけた弓と毒矢をとる。矢に巻かれた布きれを外そうとするが、身体全体が震えて布先をつかむことができない。

(落ち着け、落ち着け…、一度、集中…集中するんだ)

シェリルは目を閉じた。
深く息を肺に入れて、吐き出す。すべての五感が止まるまで何度も繰り返す。再び瞼を開いたときには身体の震えはおさまった。壁に肩をあてながら身体を支え、両足に力をこめて、その場からじわじわと立ち上がる。身体を外に向けると、アレックを見つめる。

(もう一度、ゆっくり、話して、落ち着いて、今度は優しく、私を―)

毒矢の布を巻きとり、矢をつがえ、アレックに狙いを定める。
徐々に遠ざかっていく後ろ姿に思わず目を瞑りたくなる。狙っているうちに弓を絞る指先にも力がこもり、腕や、動く足を捉える自信が無かった。荒くなってくる息を抑えながら、広い背中を見据えて―

―ズルッ

矢を放つと同時、アレックが足をとられて滑る。
アレックが身体を起こすと、樹に刺さった矢があって…森を駆け出した。
「アレックウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
シェリルは叫んだ。愛する『男』を引き止めるために―





「私を、おいて、いくなぁ…」
一度も振り返らなかった、アレックに言う。
「一人に、しないでぇ…」
自然と涙が零れた。止めることなど到底できない。
「もう、一人は嫌だよぉ…」
慣れ親しんだはずの静寂が突き刺さって、痛い。
「私が悪かったからぁ…」
あの時、もっと、優しくしていればと、遅すぎる後悔をする。
「お願い、お願いだからぁ、アレックっ…」
愛しいその名を口にする、が。
「ぅっ…ぐっ…アレックぅ」
帰ってこないアレックを想うと、さらに涙があふれた。
追いかけようにも身体から力が抜け、崩れおちる。身体中の熱が冷たい床に吸い込まれて、指先から急速に凍っていく。うずくまって何度も嗚咽をあげるが、そのたびにアレックを思い浮かべて、また声をあげる。自分に残されたのは孤独だけで、これからずっと長い間、死ぬまで、死ぬ瞬間も一人で。やがて何もかもに疲れ果てたシェリルは―

「消えたい」

孤独な暗闇に意識を捨てた。


















『…!』
名を呼ばれた気がした、もう誰にも呼ばれることのない名を。
『…ッ!』
もう、自分のことなど放ってほしい。誰にも必要とされない自分など。
『…ル!』
どうしてこうまで必死に、私の名を呼ぶのか。
『…リル!』
名を呼ぶ主は、私を必要としてくれるのか。
『シェリル!!』
強く、いま一度、名を呼ばれて意識が浮き上がる。
重い瞼をあけると、誰かが泣いていた。幻のような人影に触れると―

―ピトッ

冷え切った指先に火が灯った。今、自分の目に映って、触れているものは―

「…ア、アレック?…ほ、ほんとうに、アレックなの、…か?」

何度も顔を触れて、なぞる。確かめている指先からは温もりが少しずつ伝わって、視界が鮮やかになる。じんわりと明るくなる視界を、目の前にいるはずのアレックにあわせる。アレックもそれに気づいて、謝罪の言葉を口にしようとするが声がひしゃげて途切れた。

「ア、アレック!?ひ、ひどい声じゃないか!…っま、まってろ!」

アレックの喉元に手をかざし、治癒魔法を唱える。冷え切って震えていたはずの身体が嘘のように動いてくれた。無言で魔力を集中させてアレックの痛みを治していく。しばらくするとアレックのありがとうの言葉が飛んできて、我慢できずに抱きついた。

「ぅたし、わたしを置いて、いくな!馬鹿ぁ!!」
―愚直にだけど、ごめんと、謝ってくれて。

「ひ、ひとり、で!っだけ、どれだけ!ふぁう、不安だったと!」
―寂しかったことを、わかってくれて。

「よ、よくも!っわ、わたしを!っなか、泣かせてくれたな!」
―泣かせたことを、最低なことだと感じてくれて。

「っぜぃ、絶対、ゆっ、許さない、からな!」
―潔く、認めてくれて。

「いっ、一生、許さない、からな!」
―短いけど、確かな覚悟を声に出してくれて。

「…っんぅ!アレックゥ!アレックウゥゥ!」
「ごめん、シェリル。本当にごめん」
あとはただ、泣きじゃくるだけだった。
愛してやまない男に抱きしめられて、何度もその名を呼んで、そうしている間も、強く抱しめてくれて、それだけのことでまた涙が押し寄せてきて、そんな自分が恥ずかしくも嬉しくて、いつまでも涙がとまらなかった。





                   〜・〜・〜 Epilogue 〜・〜・〜

「ただいま〜♪」
「おかえり」
扉を開けるとアレックの言葉で迎えられた。それだけのことで自然と笑みがこぼれる。履物を脱いで愛する夫がいる間へと軽やかに歩いていく。部屋に入ると工具の手入れをしていたアレックと目が合った。いつになく上機嫌な様子で帰宅したシェリルを訝しんで、アレックが手を止めて口を開く。
「えらく上機嫌だな?どうした?」
集会が終わって帰ってくるいつものシェリルは、憔悴しきっていることが常であり、こんなに元気な様子で帰ってくることは初めてだった。
「あぁ。…いや、なんだ。今日は集会でなかなかいい話ができてな。それで、ちょっと、な」
「……そうか」
聞いててこちらが恥ずかしくなるような話題しかでてこないあの場所で、シェリルが楽しめる話ができるとは到底思えないが。
「それよりお腹が空いただろう?アレック。すぐに食事の支度をするから待っててくれ。集会で新鮮な野菜やら肉やらいただいたんだ」
そういうと、布で覆われた手篭をアレックに見せ付ける。
「わかった。それまでに俺もこれを片付けとくよ」
「ん。たのむぞ、アレック」
そう言うとシェリルはどこか調子はずれな鼻歌を交え、調理場へと足を運ぶ。結局、詳しい事はわからなかったが、まぁよしとする。それよりも晩御飯に間に合うように片付けを終わらせなくては。そうと決まればアレックは工具に向き合って再び作業を再開する。

(よし、怪しまれてない!)

シェリルは内心、大喜びだった。
我ながら自然な演技だったと満足げに、テーブルの上で包みを広げる。広げた手篭の中で異彩な形を放っているキノコをひとつ、シェリルは手に取る。
「これが、あの『タケリダケ』、か…」
噂どおり、このキノコは男性器のような立派な形をしており、頭を天に向ければカチカチにそそり立つ姿がわかる。色の模様は全体的に薄黒くテカテカと黒光りしていて、ところどころには青筋のような太い線が歪に浮かび上がっている。
実はこのキノコ、集会が終わって帰ろうとしたところ、最近越してきたばかりのアラクネに呼び止められて贈られたのだ。しかも、3個も、だ。理由を聞いたところ、いいお話を聞かせてもらったお礼とのことだった。これさえあれば、しばらくずっと…いやいや、最近は、ベッドの上でアレックにされるがままだった私も―
「アレックを……私が…」
野獣の如く、徹底的に犯せる。そんな近い未来を想像するだけで、涎が垂れてくる。
「おっと。私としたことがはしたない」
じゅるりと涎を飲み込む。だが、股の間からも別の液体が次から次へとあふれてくる。どうにか上と下の口から垂れるものを止めようと、キノコに関する注意事項を思い出してみる。
(えっと、確か…)
即効性が高いので交わる直前に食べること。襲いたい側が食べること。夫婦が共に食べた場合は、夫が獣の如く妻に襲い掛かるということ。
「やれやれ。こんなにも夜が待ち遠しい、とはな…」
気が紛れるどころか、逆効果にしかならかった。この様子では寝所に入る前に替えの下着が必要になりそうだ―

「シェリル?いるか〜?」

アレックの声を聞いて慌てる。キノコを隠そうにも手頃な場所がないので、自分の胸の中にねじ込んだ。たわわに実った自分の胸にこんな使い方があったとは…
「シェリル?どうした?っと…それが集会で貰った食材か?」
「あ、あぁ。そ、そうだぞ。それがどうかしたか?」
努めて平静を装う。アレックは一度首を傾げるが、それだけで終わると問いかけてきた。
「いや、風呂の準備をしておこうかと思ってな。沸かすのは食事の後でいいか?」
「そ、そうだな。そうしてくれ。私もすぐに、食事の支度をするから」
話はそこまでとばかりに打ち切ってテーブルに身体を向けると、食材の吟味を行いつつブツブツと献立について呟く。アレックの懐疑な視線を感じるが、この際無視するしかない。やがてアレックはその場を後にする。
「ふぅ〜…。先は、長いな」
シェリルは今度こそ、本気で晩御飯の支度にかかった。



 出来上がった料理をアレックと一緒に、テーブルへと運んでいく。今日の献立は旬の野菜をふんだんに使ったスープと温野菜のサラダ、メインディッシュには魔界でとれた鴨肉のソテーだ。つけ合わせには森で採れた山菜と自家製ハーブを添えてみる。
アレックのために、私が腕によりをかけて作った料理だ。アレックもうまいと言ってくれた。当然のことだが、やはり好きな人に自分の手料理を美味しいと言われて嬉しくなるのも、また当然か。
談笑しながらの食事を終えると、紅茶を淹れて余韻に浸る。そろそろ夜も更けていい頃合になってきた。いそいそと後片付けに入ろうとすると、アレックも一緒になって片付けようとする。
「いや、片付けは私がするから気にしなくていい。……それより、先に風呂に入って寝室で待っててくれないか?」
シェリルが顔を朱に染めて、俯き加減にアレックに今夜のおねだりをする。アレックも察して、頭をかいて小声で何かを言いながら風呂場へと向かった。そんな様子を見てると、こちらまで照れてしまう。
(ふふっ♪楽しみ、だな♪)
鼻歌を歌いながら食器を片付ける。これから起きる素晴らしい出来事を前に、気分が徐々に昂ぶる。食器を洗い終わると手持ち無沙となり椅子に身を預けるが、せわしなく股を擦り合わせてアレックが風呂から上がるのをまだかまだかと待ちわびる。娼館に入る前の男の気分はこんな感じなのか、あのキノコの効き目はどれほどのものか、どんな風にアレックを責めたててやろうか、アレックがどんな声をあげるのか、と、頭のなかに沸いては消える考えを巡り続けた。

「シェリル、風呂空いたぞ?」

気がつくとアレックが近くにいて声をかけてきた。すでに寝巻きに着替えており、風呂上りの湯気がほくほくと頭の上から沸いている。
「わかった。なら…また後でな?アレック」
「ぁあ、また…な」
シェリルが席を立ってアレックの横をすぎる。通りすがら、お互いに気恥ずかしそうにしているのが伝わり、どちらともなく噴き出す。そのままシェリルは風呂場に、アレックは夫婦の寝室へと移動する。



「ふぅぁ〜。やはり、気持ちいい、な」

シェリルは湯船に身をゆだねて、声をもらす。水浴びでは絶対に味わえない、湯の温もり。心も身体も温まる、というのも比喩ではないことを感じる。エルフでは気軽に考えられない、湯につかるという贅沢をアレックが教えてくれた。
(アレックの匂いがまだ残ってる、か?)
我ながら少し変態が過ぎると思うが、唇まで身を沈めて湯の匂いを嗅ぐと、みるみる湯の温度があがり始めるではないか。しばしの間、そのまま硬直してみる。
(…いかんな。これは)
このままでは独り、風呂場ではじめてしまいかねん。誘惑を断ち切るように湯船からあがると、もう一度入念に無心で身体を洗った。勿体無いないとは思うが、何度も頭からかぶせることで全力で湯を減らす。
「よし。あがろう」
もう満足とばかりに脱衣場からタオルをとり身体を拭いていく。自分も先ほどのアレックと同じように、身体から湯気が立っていた。新しいタオルを身体に巻いて脱衣場にあがると、自分の下着入れを開ける。下着に用はない、用があるのは―
「あった、あった♪」
この形を見間違うはずはない。シェリルはあらかじめ仕込んでおいた『タケリダケ』を手に取るとまじまじと見つめて、むっふ〜、と荒い鼻息を漏らす。
「あせるな、あせるな♪」
一度、手元におこうとして、念のためにと自分の寝巻きの中に隠す。逸る気持ちを抑えて髪の毛を丹念に乾かしていく。鏡に向かって鼻歌を歌う自分は笑顔で満開になっていて、それがまた馬鹿馬鹿しくも嬉しく、ニヤニヤしてしまう。手早く髪の毛の手入れをすまして、いよいよ―
「いただくとするか♪」
寝巻きに隠したキノコを手に取り、ためらいなく口を大きく開いて頭から丸呑みするようにいただく。気分はまるでラミア属だ。味わうことなく胃袋にいれてしまったが、まぁどうでもいいことだ。そのまま少しの間、時が経つのを待つが特に変化は感じられない。
「まっ、食べてすぐすぎる、か。さすがに♪」
シェリルは口をゆすいで、パタパタと脱衣場を後にする。目指すはアレックのいる夫婦の寝室。装備はバスタオルと己の身体のみ。十分だ。覚悟を固めようとする前に、目的地に到着した。扉の前に立つと、大きく深呼吸をして―
「よし♪いくか♪」
気合を込めて扉を開けると、ベッドの上には布団をかぶった大きな膨らみがひとつ。シェリルは笑みを抑えながらベットの足側の布団をめくって侵入する。布団の中から、おいおいといわれた気がするが、気にしない。仰向けになっている身体に乗ると、そのまま進んで布団から顔をだす。顔を出した先にあるのはもちろん―
「待たせたな。アレック」
「あぁ、シェリ「んっむ」
我慢できずに唇を奪う。アレックも身体を抱き寄せることで応えてくれた。タオルをアレックに脱がされてベッドの隅に追いやられる。シェリルも負けじとアレックの寝巻きを剥いでいく。お互いが肌一枚になるまま口付けを交わし続けた。シェリルがアレックの寝巻きを脱がし終えると、顔を起こす。
「もうこっちはビンビンだな」
「…そりゃ、まぁな」
シェリルは既に臨戦態勢の肉棒を軽くしごきながら、アレックに笑みをみせる。
「悪いが、今日は加減しないぞ?」
「昨日も同じようなことを聞いたな」
「貴様…」
今にみてろ。アレックの肩を押して膝立ちになると、アレックの下半身へと膝を摩って後ろに移動する。その様子を余裕綽々で、シェリルの裸身が揺れる姿をアレックは楽しんでいた。シェリルは荒々しく肉棒を掴むと先端を自らの秘所に当てて躊躇なく腰を落とし、騎乗位でつながる。
「っと、いきなりだな」
「こんなにさせて、よく言う、な♪」
いつもより大きく感じるアレックの肉棒を、シェリルは馴染ませるように腰を軽くゆすったが、お互いに準備万端のようなので腰を弾ませることにした。勢いよく、早いテンポのリズムを刻んで、アレックの恥骨に反復して腰を落とす。身体が上下するたびに豊満な胸も一緒に揺れてアレックを誘惑する。
「ほらぁ♥おっぱい♥揉んでぇ♥」
アレックの手を絡めとり、自らの胸に当てて押しつぶす。そのままアレックの指ごと胸を揉みしだいていると、アレックの暖かい手のひらで胸の形を優しくかえられた。胸の愛撫に心地よさを感じながら、再び腰を振るのに専念する。肉棒はすでに自分の一番大事なところを往復するたびに突いており、あまり持ちそうもなかった。アレックもそのことを感じ取ったのか膝を立たせ、胸に手を這わせたまま腰を突き上げてきた。
「どうした?もう、だめか?ほらっ!」
「っく♥まだっ♥だめぇ♥」
腰を激しく突き上げられる。そのたびに子宮口が肉棒の先端に熱烈なキスをする。何度も突き上げられるたびに先端を触れるだけの子宮口のキスが、吸い付くようなディープキスになって、ついに先端と吸着してしまった。そして―

―ドビュビュビュルルルルゥゥ♪
「くぅぉおおお」
「ふあああぁ♥♥」

今晩、1回目の子種がシェリルの子宮内に大量に放出された。常識では考えられないような量の子種を、シェリルの子宮は嬉しそうに飲み込んでいく。
このまま余韻に身を任せていたいが、そうはいかないとシェリルは再び腰を振りたてる。ただし、敏感になった膣で、精を放った後も凶悪な大きさと硬さを保っている肉棒の相手をするには、腰を小さく前後にグラインドさせるのがせいぜいだった。
「どうした?今日は、無駄に、頑張るな」
「ぅるさい♪それより明日の朝、ここにお前のものが残ってるとは思うなよ?」
そう言って身体を後ろにそらし、玉袋を後ろ手で掴むと優しく揉みはじめる。反対の手はアレックの腰におき、身体を支える軸にして腰を振りはじめる。ゆっくりと動かしていた腰使いは、徐々に荒くなる息遣いと一緒に激しさを増す。
「ぅん♪っん♪っん♪っんぅ♪っん♪」
恥ずかしいくらいに嬌声が漏れる。動かずとも精を搾ろうと蠕動する膣壁の動きに加え、アレック専用となり果てた膣内の柔らかなヒダが、腰を動かすたびに肉棒をブラシにかけて刺激する。シェリルが激しく責め立てるほど自分の快感となって返ってくるだけで、堪えることなどできなかった。
「いい表情だな。淫乱エルフのお手本みたいだぞ?」
「くぉの♥ばかぁに♥するなぁ♥」
もう玉砕覚悟だ。シェリルは両手でアレックの太股を押さえつけて激しく腰を叩きつける。アレックに恥ずかしいところが丸見えになって、シェリルの羞恥心を煽り結合部に熱が集中する。後は絶頂に向かって一直線に腰を振り続けた―

「っぅ!?っぐうぅう!!」
―ビブュルルルルゥゥ♪ドビュッ♪ドビュルルルル♪

ついにアレックがたまらず、シェリルの腰を捕まえて肉棒を奥深くまでねじ込み、精を大量に射精する。が―
「はぁ♥はぁ♥まだ、だぞ♥まだ、こんなものでは♥足りない、ぞ♥」
なおも射精を続けるアレックを無視して、腰を振るのをやめない。長引かせた射精の脈打ちが弱くなるのを感じて、シェリルは身体の向きを後ろにする、もちろん肉棒は抜かずのまま。完全に後ろを向いて、形のいいお尻をアレックに見せつけながら、アレックの股間にお尻を叩きつけ始めた。
「今夜は寝かせないからな♪アレック♥」





「はああああん♥」
―ゴボオォ♪ドビュルルルル♪ビュルルルルゥ♪

今晩、何度目か分からない絶頂と子種を、四つん這いになって受け入れた。
既に自身のお腹はポッコリと膨らんでおり、子種でいっぱいとなった子宮はアレックに一突きされるたびにタプタプと揺れる。いいようのない多幸福に包まれているシェリルにアレックが背中にしなだれかかり、シェリルの大きく育った胸を両手で荒々しく揉むと同時、雄々しく腰使いで再び抽送をはじめた。膣内で往復する肉棒が奥深く届くたびに、シェリルは軽く意識を飛ばす。

(ふぅぐっ♥なんで、ぇん♥こんなぁあんっ♥ことにぃいいぃぃ♥)

あの後、背面騎乗位でさんざん腰を振りたてて、アレックを責めたてたのは快感だった。途中、寂しくなったので正面に向かいあい、再び腰を振ったのも覚えている。それでも物足りなくて、アレックに覆い被さぶり、熱いキスを交わして絡んだのは蕩けるようだった。熱いキスの最中にアレックが胸を弄りはじめたので、しょうがないとばかりに身体を起こして胸を揉ませながら搾ったのも気持ちよかった。そのまま思い立ったようにアレックの上を何週できるか試そうと、身体の向きを変えながら、要所要所で腰を振りはじめたはず。そこまではいい、ちゃんと記憶にある。問題はその後だ。
3週目か、4週目だったかわからないが、アレックに背中を向けて、前かがみなりながらお尻を弾ませていたときだった。いきなりアレックが上体を起こすと胸を揉みしだきながら、いままで以上に激しく後ろから腰を突きあげてきたのだ。主導権を渡すまいとシェリルも負けずに腰を振って応戦したが、首筋にキスの嵐を貰って…悶絶しているところに射精され、もろにハメられてしまった。そのまま放心していると犬の格好をとらされ、アレックは両手でお尻を鷲づかみにし、猛烈な勢いでシェリルの尻を腰で叩きはじめた。はじめのうちは、シェリルもアレックの腰振りに合わせて尻を打ち返したが、いくら射精しても一向に萎えない、どころか、ますます大きさと硬さを増すアレックの肉棒についには根負けしてしまい、今はただ耐えるばかりだ。

―ド゙ビュル゙ュルッ♪ビュルルルル♪
「ぅんんんんん♥♥」

射精にあわせて、シェリルも絶頂する。自分の身体は完全にアレックに屈服したようだ。思わず両腕をたたんで、頭を伏せる、が―

―ッガシ
「っなぁ!?」

アレックに手首を掴まれると、後ろに引っ張られた。自然と背中が反った形となり、お尻が突き出される。突き出されたお尻には当然、アレックの肉棒が深々と突き刺さるだけだ。
「っま、まて♥アレック♥す、すこし♥まってぇ♥やすもぉ♥」
アレックはシェリルの言葉はおろか、射精がつづいている己の肉棒の脈打ちも無視して、本能で腰を突きはじめる。終わらない腰使いを…後ろにしては嬌声を上げるほかない。シェリルはなんとか許しを乞おうと、アレックの顔を見るために喘ぎながらも視線を後ろに向ける、と―
(っくぅ♥目、がぁあん♥まる、ッくぅ♥獣、はぅぐっ♥みた、いいぃぃぃ♥)
目はぎらついており、口の周りは涎で汚れていた。一匹の野獣となったアレックになすすべもなく、シェリルは種付けされるだけだった。とても敵いそうもなく、なんとか抜け出せないかと―

「っがぁ!」
「ぅんんっっ♥♥♥」
―ドビュウウウウウウ♥♥♥

新たに注がれた子種の塊が、すでに特濃の子種で満杯となった子宮の中を圧迫する。とうの昔に子宮の受け入れ容量は超えており、子宮で圧縮できなかった子種の塊がどろりと…出ることは許されず、アレックの剛直な肉棒で再び奥へと押し込まれるだけだった。その度に、じゅぽ、じゅぽと子種が泡立つ卑猥な音がシェリルの耳に響く。

―ドビュルウウウウ♥♥♥
「〜〜〜〜〜っっ♥♥♥♥」

アレックの射精で再び絶頂へとのぼらされる。手首を開放されたシェリルはベッドに突っ伏すだけだ。息も絶え絶えのシェリルの上に乗っかると、アレックは休むことなく腰を動かす。シェリルは近くにあった枕を抱き寄せて顔をうずめ、目を瞑って、押し寄せ続ける怒涛の快楽地獄を味わわされるだけだった―





―チュチュ、チュン、チュン

「…んっ、と。もう、朝か?」

アレックは気だるそうに目を開いて窓から差し込む光を見る。日の高さから考えると、もう朝とは言えないだろう。隣に目をやると、いつもは先に起こしてくれる、愛する妻が穏やかな寝息をたてている。布団一枚で身体は覆われているが、隠しきれない裸体の曲線美が美しく浮き上がる。どうも昨晩はかなり長い間交わったようで、あちらこちらに残っているシーツの汚れがその行為の激しさを物語っていた。
アレックは気遣うようにシェリルの頭を優しく撫でようとした、が、瞼が動いたかと思うと、シェリルが目を覚ます。
「っと、わるい。起こしっちまったな」
シェリルが身を起こすと、しばらくボーっとアレックを見つめて―
「っふあ!アレックぅ!?」
布団を鎧のように身に纏うと、距離をとろうとベッドの上で後ずさりして―

―ズドン!

「っ〜〜〜〜〜!!」
「おいおいっ!?大丈夫か!?」
頭から思いっきり落ちたシェリルの身を案じるが、シェリルは後頭部を抑えて悶絶するだけだった。
「…どうした?急に」
アレックはベッドから降りて近寄ろうとする、が。
「っく、来るな!」
「っな!?」
拒絶された。呆然となったが、慌てた様子でシェリルが話しかけてきた。
「ぁあ!いや、違うんだ、これは。そのなんだ、ちょっと寝ぼけてたみたいで…」
「そ、そうか…本当に、大丈夫か?」
「あぁ。すまない………っと。お腹が空いただろ?アレック。すぐにお昼にするから、シーツを替えといてくれないか?」
「わかった。やっとくよ」
「あぁ。任せたぞ?」
シェリルはそのまま布団を自分の身体に巻きつけて羽織ると、涙目で台所へと向かう。



(違う、これは痛くて泣いてるだけ…そもそも泣いてないし、いや、涙とかでてないし…)
シェリルは弱音を吐きながら、昨晩の事を思い返す。情けない自分しかいなかった。一体何がいけなかったのか。
(何を間違えたんだ?私……でもちゃんと説明通りに食べたよな?)
後でキノコを貰ったアラクネに詳細を聞こうと心に決めて、とりあえずは昼食の準備を優先させることにする。



「しかし我ながら、よくでたな…」
アレックは感心しながら、昨晩のことを思い出す。獣のように交尾していた自分がいた。とても気分は爽やかだ。
「ほんと、こいつは凄いな」
ベッドの下を覗きこみ、腕を伸ばして隠しておいた大ザルを取り出す。ザルの上には山盛りになった『タケリダケ』があった。
実はこのキノコ、シェリルが集会に行っていた時に、最近越してきたアラクネを妻にもつ夫の家の補修をした後、ついでとばかりに家財道具一式を修理したお礼にと貰ったのものだ。効果のほどは…あのシェリルをみれば一目瞭然だ。

―ぐぅぅ〜〜〜〜

腹が減った。夜通しずっと腰を振っていたのだ。朝食を抜いてるせいもある。今、身近にあって軽くつまめそうな物は―
「…チマチマ食べても腐らすだけだし、な」
1個で一晩だから、2個で一日中だなと、丼勘定でアレックはキノコの山からふたつ手に取り、口に放り込んで、飲み込む。
「今日は予定もないし、いいよな?」
誰にでもなく語りかけると、アレックは愛する妻がいるはずの台所へと向かう。



その日からしばらく、ある集落の樹上の家からエルフの喘ぎ声が途絶えることなく鳴り響いたという。
14/01/02 22:34更新 / 眠猫
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■作者メッセージ
表編投稿から随分かかりましたが、ようやく完走。
いろいろと良い教訓ができました。

最後に補足を。
物語に登場したサキュバスは、『堕落の乙女達』に登場する某リリムの部下というオリジナルのモブキャラで、教国に侵攻する前の合間に、暇つぶしを兼ねた訓練をしていた、というつもり。次回はそっちの作品も書きたいけど長くなりそうで、正直きつい。

では、次の作品で。

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