連載小説
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呼ばれて飛び出てどこだここ
白い煙。もくもくふわりまっしろけ

煙の臭いを嗅いでみるが、どうやら石灰らしい。辺りでは黒い人影がゲホゲホと噎せながら俺を囲っている。中には、「成功したのか?」だの「勇者様はどのようなお姿なのだ」だのよくわからないことを喚いているやつもいる。

自分が座っているところを爪で引っ掻いてみる。……成分からして大理石だなこれ。しかもかなりの上物。

俺がつい数秒前まで座っていた剥き出しのコンクリとはえらい違いだ。すべすべしてて手触りがいい。だが、同時に疑問がわく。空間転移装置なら俺のいた世界に既にあるが、それを利用したのなら独特の転移酔いが発生するし、それ以前に石灰の煙幕など発生しない。

煙が少しずつ晴れていく。と同時に俺を囲っている連中の姿がはっきり視認出来るようになった。

「おぉ、なんと力に溢れ、禍々しくも神々しいお姿……」「あの腕はさぞ汚らわしい魔物共を切り裂いてくださるだろう」「あぁ、勇者様」「あれが主神に愛されたお方」

主神ってなんだ?少なくとも俺は親にさえ愛されたことはないぞ。

「…………」
「勇者様、我々をお救いください」
「汚らわしい魔物たちを是非、皆殺しに」
「勇者様ッ!」

しっかし、こいつらコスプレでもしているのか?あれ、RPGの僧侶とか神父とかの格好だろ。

「勇者様。まずは私たちの置かれている状況について説明いたします」

よく見りゃあ俺の座っている大理石に描かれているのって、オカルティックな魔方陣じゃねえか。うわぁ。嫌なアイデアがいくつか浮かんだ。

「……であるからして、魔物共がこの世界を侵略せんと……」

三千世界理論、マジで正しかったってわけか……資料室にあったな……これも世界のウチのひとつってわけか。

「……そしてッ!私たちは別世界へと干渉できる召喚式を発見し……」

……とりあえずはこの世界の法律だとか、法則みたいなのを教えてもらうか。どうせ帰る方法はないだろうし。帰ったところで……あっちに居場所ないわけだし。

「……ですから、私たちはあなたを召喚し」
「あ、ごめん聞いてなかったから最初から頼むわ」
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「なんかすまんかった」

ー数時間後ー

大体のことは理解できた。
この世界は魔物と言う生き物と人間の二種類の知的生命体が支配している。
そして、思想としては三種類。反魔物・中立・親魔物。そしてここは反魔物の思想をもつ地域……と。
俺はこいつらに魔物を片付けるための道具、もとい希望として呼び出されたようだ。
法律は反魔物領の物だけを。ややこしいが、禁欲的であることをモットーにしていることを念頭に置いた方がいいと言うことは理解した。

「以上です。勇者様」
「その、勇者様ってのやめてくんない?俺、どう見ても勇者って感じではないっしょ」

俺は自分の手を、黒く長いカギヅメがつき、そのほとんどを黒紫色の甲殻で覆われた腕を持ち上げて自嘲する。

「どちらかと言えば、あんたらの言う魔物だ。頼られても違和感しか感じない」

首の回りには獅子の鬣。背中には筋ばった黒い翼。

怪人ドレイク。それが俺の名前。狂った科学者同士の間に生まれた、子供であり、最後の実験体にして最高失敗作。最後のキマイラ。

「う……」
「あんたらも、無理に取り繕わなくたっていい。顔見りゃわかるよ。ひきつってんじゃん。ご期待していた希望の象徴に俺なんかは似合わないよ」

煙が晴れたときのこいつらの顔はどちらかと言えば恐怖よりの顔だった。それでも必死で言葉を選び、俺を鼓舞しようとしているのも見えていた。だからこそ、いっそう申し訳なくなる。

「第一、俺は、他人を殺せない。自分さえ殺すことができない。あんたらの望みは叶えられないよ。とっとと、別のやつを召喚しなよ」
「……そうですか。わかりました。では、勝手に召喚してしまい申し訳ありませんが、この町から出ていってください。次の勇者様を召喚いたします」
「あぁ。悪いね。別にもとの世界に返す必要とかないから、せめて数日間生きるための金と食料をくれ。そしたら此所から出ていくよ」
「……あれを半分ほど渡して差し上げろ」
「はい」

俺は存在を認めてもらえない世界から存在を望まれない世界へと移動しただけだと、痛感しながら渡してもらった布袋を担いで、その建物を……あ、やっぱり教会だったんだ……出て翼を広げて空を飛んでいった。

さて、これから何をするか……

「うわ、男が空を飛んでる……なんで?なんで?」

なにか聞こえた気がするが……気のせいか?


13/11/15 12:27更新 / しんぷとむ
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