連載小説
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龍瞳の変化
 龍瞳が魅月尾と出会ってから三日が経った。
 この日、リュウドウはギルドの案内所へ向かい仕事の依頼を請けるつもりでいた。

 リュウドウの住む町はそれほど大きくはなかったが、文化の交流地点と言うこともあってそこに住むのはジパングの出身の者も少なくはない。つまりここにはジパングを生息地の主を置く魔物達も住んでいるということだ。
 市場にはジパングの珍しい物が並び、それは食材から武器にまで至った。とくにジョロウグモの作った布や、それらから出来た衣服は高値で取り引きされ、またジパングにしかない魔法の技術もこの市場の魔導具店に並んでいることもあった。

 ギルドは住居の並ぶ辺りから市場を抜けた所の酒場の中にあった。酒場の周りは宿屋街で、辺りには何軒かの宿があった。
 酒場の店主がギルドの仕事仲介役も兼任している、酒場には様々な情報が集まるというのでもってこいだったのだろう。

 リュウドウが中に入ってギルド用のカウンターの横にある依頼表を眺めていると、店主が声を掛けてきた。店主は四角い顔で色黒、少し髭を蓄えていて髪の毛はボサボサだ。
「よう、龍のダンナ。今日も仕事の請負ですかい?」

「ああ、そうでなければ今はあの席に座っているだろう?」

「へへへ、そうですねぃ。どんな仕事をお探しで?」

「どんな、といっても無いんだが…良さそうな仕事はないか?」
 店主は少し考えてから一枚の紙を取り出した。
「こいつぁどうです?
 内容は、盗賊団からある品物を取り返すこと。依頼人はダンナより少し年上の女の方で、品物は赤い宝石の付いたネックレスだそうだ」

「…ネックレスねぇ」

「ええ。よっぽど大事なもんらしくて、代金は金をこれだけ…」
 店主は右手の指を三本立てた。
「…金三枚も?」

「いぃや…こうです」
 店主は左手の指で丸を作って右手の横に並べた。
「…!
 金を三十枚?!…はっ…そんなにか…」

 それだけの金を積んで依頼する仕事。一体そのネックレスにどのような価値があるというのだろうか。
 リュウドウはその仕事を請けようかどうか迷っていた。
「盗賊はどれだけいるんだ?」

「さぁそこまでは分かりませんよ…
 ただ、そのネックレスを奪われたのが夜に馬車に乗っている時だそうで、ホントにあっと言う間だったらしいんですが奴らの着た服に『狼』の模様が描かれていたらしいんです」

「狼の模様、か…
 もしかすると奴らは『十六夜の銀狼(イザヨイのギンロウ)』かもしれないな…」

「十六夜の銀狼…ですかい?」

「ああ、義賊の一派さ。ただ、今まで奴らが民間の馬車を襲ったなんて聞いたことがないからな…
 …この依頼、請けよう」
 リュウドウは不可解そうな顔をしながらもその依頼を引き受けた。そして酒場を出て、市場へ足を運んだ。
 市場はやはりいつものように活気があり、商人達の声が飛び交っていた。

 その人混みの中でリュウドウは見覚えのある横顔を見つけた。
「これとこれください。あ、後これも…」
 食材を大量に買い込んでいる女性は、丈の短い緑地で赤や黒の模様のある着物で、腰の後で黄色の帯を蝶結びにしている。黒く長い髪の毛はツインテールに束ねていた。
「ミヅキオ?」

「あら、リュウドウ様…」

「買い物か?」

「はい。貯めてあった食材が少なくなってきた物ですから…リュウドウ様は?」

「ん?ああ、ちょっとな。
 …にしてもその格好は…」
 リュウドウは彼女を下から上へ目線を移しながら言った。
「あ、あの…なにか変でしょうか…?」

「いや…変というわけじゃないんだ。ただ…」

「ただ?」

「…いつもと違う感じだから、新鮮に感じているだけだよ…」
 彼がそう言うとミヅキオは嬉しそうに笑った。
 ミヅキオの家には食料庫があって、防腐の魔法が掛けられて長い間保存できるようになっていた。今日はその食料が無くなってきたので、その買い出しだった。
「そう言えばお昼は?」

「まだ食べていません」

「そうか…だったら僕の家で食べていくといい」

「よろしいのですか?」

「ああ、もちろんだ」

「では、お言葉に甘えて…」

 二人はミヅキオの買った食材を抱えてリュウドウの家へと向かった。市場を抜けて民家街へ入り、その一角に彼の家はあった。
 大きくはないが彼が一人で住むには十分な家だった。家の中には大きな家具はタンスほどしかなく、畳の敷かれた床の上に二畳ほどの大きさの机がおいてあるだけだった。
 押入や戸棚は備え付けで、その中にも必要最低限の物しか入っていなかった。
 台所は畳の敷かれた居間の横のフローリングの上にあり、それなりの設備は揃っていた。
「悪いね、何分一人暮らしだから」

「いいえ、そんなことは…」


 食事を食べ終わった彼女は、リュウドウがさっき何をしていたのかと訊いた。
「仕事の依頼を請けてきたんだ」

「仕事ですか?」

「ああ。言っただろ?僕はギルドで仕事を請け負ってるって」

「どのような?」

「『盗賊からネックレスを取り返して欲しい』って内容さ。
 …ただ気になるのは、その盗賊団が『十六夜の銀狼』かもしれないって事なんだ」

「彼らなら知っています。確か悪徳な商人や貴族から金品を強奪し、それを売ったお金をスラムや貧しい方々に与えているとか…
 傭兵を請け負ったりもする上に、彼らのお陰で色々な不正が発覚しているので教団や保安も目を瞑っていると言うのも聞きますが」

「そう、その通りなんだよ。彼らの信念は『義には従い、悪には屈せず、人は決して殺めずに』なんだ。
 だけど、今回の話を聞く限りじゃ相手は貴族でも商人でも無いって」

「そうですか…おかしいですね…
 本当に『十六夜の銀狼』何でしょうか…?」

「さぁね。まぁ言ってみれば分かると思うけど」

「そうですね。
 お昼、ごちそうさまでした」

「ああ。…今晩、行くよ。遅くなるかもしれないけど…」

「…はい、いらしてください。おいしい夕食を用意していますから」


 ミヅキオが帰ってから暫くして、リュウドウは装備を整えるとその盗賊団の現れるという森へ向かった。
 そこは何気ない街道で、道も良く整備されていた。リュウドウは道端の木の陰に身を潜め、日が暮れるのを待った。
 この道を通る者は案外多く、いやだから道も整備されているのか、とリュウドウは思った。しかし、こんな人通りの多い道で襲撃するものだろうかとも思った。

 ところが、その人通りの多かった道も日が暮れれば一変してほとんど誰も通らなくなった。
(…これじゃ現れないかもしれないな…)
 と思っていた時、月の光に照らされる道を一台の馬車がやってきた。
 次の瞬間、その馬車を数人の人影が囲い込んで乗っていた男を引きずり下ろし、荷物をまさぐって逃走した。

 そしてリュウドウは見逃さなかった。奴らの服に狼の文様があったことを。
 リュウドウは気取られないように奴らの後を追い、森の中を駆け抜けた。そして森の中の小高い崖の下に洞窟を見つけた。
 奴らはその中に入っていった。洞窟の前には見張りと思しき人影もあり、気付かれずに侵入するのは不可能だと思ったリュウドウは、袖からある物を取り出した。

 森の中から突如として何かが飛んできて、見張りの男に張り付くと男は呻き声を上げてまるで感電したように気を失った。
「何だ、今のは声は!?」
 洞窟の中からその声を聞きつけた盗賊達が出てきた。その瞬間リュウドウは茂みから飛び出し、出てきた盗賊の内二人を納刀したままの刀で殴り気絶させた。
(―っ?!)
 しかし、結果的にしたことは同じとはいえどリュウドウは今の行動に、いや正確には感覚に違和感を覚えた。
(なんだ?体がかなり早く反応した…)

 だがそこで考えている暇などあるわけがなかった。少し隙を見せたリュウドウを盗賊団が取り囲んだ。その数10人。
 後ろから襲い来る盗賊の一人を察知して、リュウドウは刀を抜き斬りつけたのだが、またしても違和感が沸いた。
(なんだ…?!)
 リュウドウは己の刀がいつもより軽く感じられたのだ。そしてその身体が振るう刀の速度も速く感じられた。

「貴様っ!」
 盗賊達が一気に襲いかかって来る。リュウドウは剣をかわして次々と斬りつける。
 しかしそこにも違和感はあった。
(身体が軽い…?!
 なぜこうも速く動く…いやそれ以前に僕はこんなに周囲への反応が早かったか…?)

 敵がどこにいてもいつもより速く反応できた。左右から同時に攻撃されたとしても、その二人を確実にさばくことが出来ていた。
 一人の剣を避けつつもう一人を斬り、そして続けざまにもう一人切り倒した。太刀筋はごく単純であったが、避け方や間合いの取り方が頭に思い描いたとおりに体現できた。思い通りに出来たことなどほんの数回しかなかった。

 大体は多少間合いが近かったり遠かったり、僅かに攻撃が掠めてしまったりということもあったが、今の一連の戦いでそんなことはなかった。
 相手の動きに付いてゆくどころか、確実に上回るパフォーマンスを出来た。
 そしてとうとう盗賊はリュウドウを前と後ろで挟んでいる二人のみとなった。

 リュウドウは二人が同時に接近してきたことを確認し、前の一人に向かっていくと彼の横に薙いだ太刀筋を跳んでかわすと彼の顔を蹴って後ろに宙返りして後ろの一人の頭上を通って着地し、振り返った彼ののど元に切っ先を向けた。

「うっ…」

「安心しろ、全員急所は外してある。僕は依頼であるネックレスを取り返しに来た、それは勝手に持って行くが一つ質問だ。
 お前達は『十六夜の銀狼』か?」

 男は首を横に振った。
「お、俺たちはい、十六夜の銀狼じゃない…」

「そうか…」
 リュウドウはそういうと男を殴って気絶させた。
「………」
(どうして…あんな動きを…)




 リュウドウは家の扉を開けた。そして中に入って廊下を右に曲がり二つ目の襖を開けて中に入った。
「いらっしゃい、丁度料理ができあがって持ってきたところです」

「そうか。ありがとう」
 ミヅキオはリュウドウの羽織を受け取って吊し、彼は用意された夕飯の膳の前に座った。


「…そう、多分それは私の魔力の影響ですね。
 私たち妖狐の側にいると高い能力を持つようになるから…」

「それで俺は身体能力が高くなったのか…」
 空になった茶碗と箸を置きながらリュウドウは言った。
「ネックレスってどんな物なんです?」
 リュウドウは「ああ」と言ってネックレスを取り出した。
「これさ」
 それは赤い楕円形の石が埋め込まれた銀の装飾が成されたネックレスだった。

「あら、それは…」

「ん?これがどうかしたの?」

「それは魔力を高める魔導具の一種よ」

「魔力を?
 そうか…まぁとりあえず依頼主に返さないとな」
 リュウドウはそう言うとそのテーブルの上にそれを置いた。

「そうね…あと…私の魔力が高めるのは能力だけじゃないの…」
 ミヅキオはゆっくりと立ち上がってそう言った。
「え?」

「…性欲、も」
 ミヅキオがボソッと呟いた。リュウドウは彼女を見つめ、「へぇ…」と言った。
「…だからこんな気持ちなのか…」

 次の瞬間にミヅキオは元の姿に戻り、着物の襟をはだけさせてリュウドウに覆い被さった。
 リュウドウはミヅキオの頭を抱き寄せて唇を重ねた。その間にも彼女はリュウドウの帯を解きズボンのボタンを外して、その中に手を入れて固くなっていたリュウドウのペニスを優しく撫でた。

「…リュウドウ様…」

 リュウドウは唇を離してミヅキオの首筋に優しくキスをして、ゆっくりと沿わせた。
「ああんっ…」
 悩ましい声を発したミヅキオの頭に腕を回し、後ろからその耳をつまんだ。
「あぅっ…耳っ…はっ…」
 尻尾がくねりと曲がり、左手がぎゅっとリュウドウの右手を握りしめた。

 暫く耳と首を愛撫し、やがて右手で彼女の秘部を指でいじくる。クチョという湿った音と可愛らしい喘ぎ声が混ざり出した。
 すると彼女は体を起こし、「もう我慢できない…」と言ってリュウドウの陰茎を露わにして、自分の中へと挿入して腰を沈めた。
「…んあっ…」

 彼女が自ら腰を振り出し胸が揺れた。リュウドウはその胸を両手で掴み、揉みほぐし、時には乳首を指で弾いたり摘んだりと愛撫をする。
「…あぁんっ…あっ…あんっ…んんっ…あんっ…」
 やがてその腰の動きが速くなり出し、リュウドウにもミヅキオにも快楽の波が押し寄せた。

「ミヅキオ…出るっ…」

「私もっ…イっちゃうッ…!」
 ミヅキオの身体が震え、膣内が収縮し、リュウドウは精を勢いよく発射した。

「はぁ…はぁ…」

「ハァ…ハァ…」

 ミヅキオはゆっくりと腰を上げてそれを抜いた。畳の上にタラリと白い物が垂れ落ちる。

「…汗かいたから風呂にでも入るか…」

「…そうね…」

 リュウドウは起きあがると風呂へ移動し、服を脱ぎ捨てて湯船に浸かった。
 すると風呂場の戸が開き、一糸まとわぬ姿でミヅキオが入ってきた。

「…一緒に入っていい…?」

「ああ…」

 広めの浴槽にミヅキオも浸かる。そして何とも無邪気そうな笑顔を見せるとゆっくりとリュウドウに近寄り、向かい合って彼の足の上に跨ると首に腕を回した。
 リュウドウは背中に腕を回して互いに抱き寄せ合い、キスを交わした。

 そしてまた浴室に喘ぎ声が木霊する。
11/01/26 11:26更新 / アバロンU世
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■作者メッセージ
ミヅキオが前はちょっと大人しかったかなと思うので、今度は少しだけ襲わせてみました。

あとだんだんミヅキオにも変化を付けていきますので。


面白いと思って頂けたら良かったです。

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