連載小説
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虜囚の宇宙恐竜
 とあるベルゼブブと闘い、惨敗したゼットン青年。その後好き放題肉棒をしゃぶられ、すっかり搾り取られてしまった。

「うぅ…」

 口淫地獄が終わってから二時間ほど経つものの、快感の後に続く虚無感に加え、身動きが取れぬ程のダメージにより、未だに喋ることもままならない。
 そして、当のベルゼブブの少女は何処かに飛び去ってしまっていた。

(あの糞モンスターが! ちょっとばかり顔がいいからって調子にのりやがって! 次に出会った時は徹底的に犯してやる!……いや、あいつの強さ的にゃ無理か)

 意外な事に、彼女はゼットンの肉棒を徹底的に弄びはしたものの、結局本番には至らなかった。
 しかし、この後犯されるであろうと覚悟していたゼットンにとっては逆に生殺し状態となり、精液は散々搾り取られたものの、精神的には物足りない状態となっていた。

(しかし、童貞は守りきれたが、果たしてそれで良かったのか。つーか、このままだと結局童貞のまま死んで林の肥料に…)

 深刻な空腹に加えて精を散々搾り取られて疲労してしまったので、身動きが全く取れない。このままでは餓死してしまうだろう。

(ゼットン23歳、童貞のまま餓死か……惨め過ぎる最期だな。こんな事になるなら、領主のバカ息子を殴らずに逃げりゃよかった)

 ゼットン青年は自分の行動を思い返すうちに極度の空腹のせいか段々と悲観的になっていき、思い返せばバカな事をしたものだ、と自嘲し始める。
 「いや、そもそもあんな村に生まれてしまった事自体が不幸の始まりだったのか」と、涙を浮かべながら考えもした。

(無念なり)

 そして、ゼットンはあれこれ考えるのをやめた。次に起きる時はもうゼットンという青年はこの世から消え去っているだろう。
 来世では幸福に生きたいと願いながら、彼の意識は深みに沈んでいった。










「起きて、起きて!」
「うぅ…」

 聞き覚えのある声が聞いたので、ゼットンは目を覚ました。ここはあの世のどこか、と辺りを起き上がって見回したが、風景は眠りに落ちる前と全く変わっていなかった。

「起きた?」
「ぬお!?」

 ベルゼブブの少女が顔を間近で覗き込み、それに仰天したゼットンはその場から飛び退いた。

「人が食糧と薬を持ってきてあげたのに何寝てんの!」
「え!?」

 少女の行動は、ゼットンにとって予想外だった。この魔物の少女にとっては、ゼットンはちょうど道端に落ちていた玩具のようなもので、拾って遊ぶ内に飽きたからまた元の場所に放置して帰った、と彼は考えていた。
 戻ってきて、しかも彼のために食糧と薬を持ってくるなど、彼の知っている魔物の常識からすれば到底考えられなかったのだ。

「ダメージ負って動けなくなってたから、膏薬塗って回復させてあげたんだから」
「……確かに何かスースーするし、臭うな。ただ惜しむらくは、乾いてからシャツとズボンを履かせて欲しかった」

 腕に顔を近づけて嗅ぐと、膏薬独特の臭いがする。しかも全身にまんべんなく塗ったらしく、股間にまで爽快感があるものの、服の内側にもべっとりとくっついてしまっており、そちらは不快な感触だった。

「わがまま言うな!」
「…分かったよ」

 ベルゼブブの少女は青年の文句に怒ったのか、頬を膨らませる。
 それを見た青年は少し腹が立ったものの、今のところ好意的な態度を見せているが、自分に対する相手の目的が分からない以上、ここは下手に出た方が良さそうだと判断した。
 下手に文句をつければ、気変わりして食い殺されるかもしれないからだ。

「お腹減ってんでしょ? 食べなよ」

 そう言って、少女は腕に抱えていた大量の果物を地面に置いた。ゼットンはそれらを無言で手に取り、夢中で食べ始めた。

「んふふ…」

 青年が夢中で果物を頬張るのを、少女は彼の荷車に座りながら楽しそうに眺めていた。
 それと同時に、少女の目が品定めでもするように彼の姿をなぞっていたのだが、ゼットンは食事に夢中で全く気づかなかった。

「美味しかった?」
「ああ」

 最後の一つである芯だけになったリンゴを後ろに放り投げると、ゼットンは満足気に答えた。体へのダメージはまだ多少残っているが、満腹になった以上、動くだけなら問題無くなった。

「ふぅ…」
「えへへっ」

 ゼットンが少女の方を見やると、彼女が若干頬を染めているのが見えた。

「……しかし、何故俺を助けた? お前を殺そうとしたんだぞ?」
「気にしてないよ。どーせ君の腕じゃムリだし」
「ぬぅ……」

 悔しいが、残念ながら真実であった。ゼットンが彼女に優っているのは身長と体重ぐらいだろう。

「……しかし、魔物にも人に近い姿の奴がいるとはな」

 ゼットンの持つ漠然とした知識では、魔物とは豚や牛がそのまま二本足で立ち上がったような見た目で、何らかの邪悪な目的のために人を脅かしている存在であった。
 しかし、今目の前にいる少女は小憎たらしいが、そこらの少女などは比べる価値も無いほど可愛らしい見た目をしている。

「そういやお前、蛾の魔物か?」
「蛾じゃないよ、蝿だよ。ちなみにベルゼブブっていうのさ」
「蝿? おいおいおいおい、マジかよ!?」

 自分の肉棒を散々弄んだ魔物が蝿の化身であると知ったせいか、ゼットンの顔はかなり不快そうであった。
 一般的な蝿のイメージからすれば、無理からぬことではあるが、彼の態度が悪くなったのを見た少女は、頬を不満そうに膨らませた。

「蝿で悪いか! 悪いのか!?」
「いやそれもあんだけど、俺が驚いたのはもう一個の方でさ。お前の羽が四枚あんのが気になったのよ」
「それがどーしたの?」
「何日か前に街で売ってた昆虫図鑑を立ち読みしてた時に見たんだよ。それの図だと蝿の羽は二枚だし、その後ろに“平均棍”って棒が付いてんだよ。何のためにあるのかは知らねーけど」
「!?」

 その瞬間、少女はこの世で最大級の禁忌にでも触れたかのような驚愕の表情を浮かべた。

「え……あたしは蝿じゃないの……?」
「そこは俺に聞かれても困る。俺は生物学者じゃねーし、詳しいことは分かんねーから。まぁ、自分が蝿だと思うんならそれでいいんじゃねーの?」
「う、うん…」

 自分を圧倒していたはずの小柄な少女が取るに足らないことで青ざめる姿は、すこぶる快感であった。

「話を戻すけど、何で俺を助けた?」
「君を気に入ったんだよ」
「なんで?」
「君の体臭がき・つ・い・か・ら♪」

 会話のイニシアチブをこちらが握ったと思い、話題を戻してやればこの様である。
 ゼットンは一瞬でも少女に対して歩み寄ろうと考えた自分は相当の馬鹿だったのだと恥じた。

「そっかぁ、臭いのか…」
「うん」
「ちっ。今度からは川の近くで寝泊まりして、毎日水浴びせにゃあかんな」

 ゼットンは舌打ちしながら立ち上がり、荷車を起こした。荷車の中には少女に放り出された朴刀が戻されていたものの、一日分だけあった食糧は綺麗に食べ尽くされていた。

「あ、ごめん。オヤツ代わりに食べちゃった」
「…まぁいいよ、腹は膨れたし」

 満腹のうちに移動しなければ、いつ食糧にありつけるか分からない。それにこれ以上このベルゼブブの少女と関わっていても何も無いと考え、ゼットンはさっさと移動することにした。
 幸い、向こうは空腹でない様子で機嫌も悪くなく、こちらから刺激しない限りは安全そうだった。

「フルーツごっそさん、美味かったよ。じゃあな」

 そう言って、ゼットンは荷車を引いて去ろうとしたところ、

「どこに行くの?」

 少女の若干低くなった声に呼び止められたので、ゼットンは嫌な予感を感じながらも振り向いた。
 すると、鋭い目つきでこちらを睨んでいる彼女の姿が目に入ったのだった。

「……ここには食い物がねーから、移動すんだよ」

 内心動揺しながらも、ゼットンは冷静に答えた。
 彼女の意図がまだ分からないため、下手に動くのは危険である。機嫌を損ねてしまえば、そこで人生が終了してしまうかもしれない。

「何言ってるの? 君はこのクレアちゃんの旦那さんになるんだよ? だから、私と一緒に来なきゃダメじゃない」
「何?」

 ゼットンは何か凄まじく不吉な事を聞かされた気がした。

「……俺にも都合がある」
「君の都合なんて関係ないよぉ。気に入った相手を捕まえるチャンスは、二度目があるかなんて分かんないもん」

 そう呟いて、少女はじりじりと距離をつめてきた。逃げようにも逃げ場など無い上、向こうはこちらより圧倒的に速く動ける。

(冗談が通じなさそうな雰囲気だ)

 口淫される直前に肉棒を掴まれた時同様、目つきが恐ろしく鋭くなっている。抵抗すれば、掴みかかられてから押し倒され、また限界まで弄ばれるだろう。

「……分かった、降参だ」

 ゼットンはここでの抵抗を諦め、苦虫を噛み潰したような顔をしつつも両手を上に挙げた。
 この場で虜囚となろうとも、後で脱出の機会が訪れることに賭けることにしたのだ。今は大人しく従っておけば、ひどい目にはあわされるまい。

「んふふ、いい子ね」
(ちっ、ズベ公が…)

 少女の顔が殺し屋の表情からとても可愛らしい笑顔に戻ったが、ゼットンにはそれが忌々しく感じられた。

「どうするつもりだ」
「私のお家に行こ? こっから北にある『アイギアルム』って街に私は住んでるの」
「へぇ…」

 食うあてが無かったため、彼女の家に転がり込めるのは僥倖であると言えた。旦那にすると言っているのだから、飯も食わさずに放置することはあるまい。
 また、それほど離れているのだから彼の人相も割れておらず、もしかすれば職にありつけるかもしれないと考えたのだ。

「…分かったよ」
「うん」
「……ちょっと待て。どうやって行くんだ?」

 路銀も食糧も無い事を思い出し、ゼットンは少女に問いかけたが、彼女の答えは単純なものだった。

「飛んでいくんだよぉ」

 少女は左脇にゼットンが持ってきた多数の得物を、右脇にはゼットン本人を抱えると、ふわりと体を浮き上がらせた。そして、その体躯からは想像も出来ないような速さで北に向かって飛んでいったのだった。
14/12/27 23:31更新 / フルメタル・ミサイル
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■作者メッセージ
備考:ベルゼブブ

 見た目は小柄な体躯の少女で、勝手気ままな蝿の魔物。単純な飛行距離はハーピー類やドラゴン属に大きく劣るが、短距離での速度や旋回性能などは飛行出来る魔物でも随一である。
 特に障害物の多い森林で高速飛行する彼女等に追いつける魔物娘は同種以外にはホーネット程度だが、ハニービーのように敵対関係にあるわけではないので、そのような事態に陥るのは稀だという。
 ちなみに、高速で飛行する際に張った網が邪魔になるため、アラクネを嫌う者が多いらしい。また、飛ぶ際に生じるけたたましい羽音が、聴力の良い種族の魔物娘には迷惑がられている。

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