連載小説
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01 家庭菜園、始めました。
「・・・」
俺は今日もまた、宿屋にチェックインしたお客さんのリストを見て、とてつもない嫉妬心に駆られていた。
うらやましい…ああうらやましい…

リストには今日泊まりに来たお客さんの名前と部屋番号が記録されており、二階の部屋は新顔のカップルさんがた…下の階にはすっかり馴染み深くなったカップル兼ご夫婦がほとんど…今日は一人で来たお客さんはいなかった。
全部で4組だが、全員どうやら目的は同じらしい。
壁を伝って部屋から営み中の声が聞こえてきて、それが広がっていく。
全員一応声を抑えているつもりなのだろうが…
「全部聞こえてるよ…畜生っ、これはあてつけか?俺に対する!?」
こうぼやきながら俺は耳栓を取り出し耳に当てる。今ではこれは俺の相棒だ。

「さて…今月ももうすぐ終わりだが…今月はまた、カップルがたくさん来たなぁ…」
そういいながら、月の初めから今までの客の名前を見た。どうでもいいことだが前に来たお客が一週間に一度はまた泊まりに来てる。しかも、そのお客さんが変なうわさを流すから、俺の宿屋は夜の営みようの店だと思われ始めている。
これは小さな俺の悩みの種だ。この種が最近急速に拡散している気がする…

種といえば…最近、店の野菜をゴブリンから買うと高くつくが、最近隣の国から越して来たアルラウネの奥さんから買うとなんと年に金貨20枚(現実金で考えると200万円)も安くなるとわかったからだ。ちなみに、ゴブリンから買う野菜は1セット5銀貨(約5000円)もするが、種で買うと5銅貨(500円くらい)だから、これは買わない手は無いと思ってる。

さて…そろそろお客さんも終わったみたいだから寝るとするか…

そして朝…俺は1時間ほど眠ったあと目を覚まし、今はお客さんの飯を作っている。もちろんこれも俺一人でね。
今日のメニューは拡散ニンジンと肉のシチュー(280円)だが、少し寝ぼけて焦がしてしまったために定価より安くしておく。
「さて…そろそろステイ家のかたがたが起きる時間だな…」
俺はこの宿屋で前からお客さんとしてよく来る家族の起床時間が来たのを確認し、またいつもの定位置に戻る。
そして、しばらくして白いシャツに寝癖を少し付けた状態で歩いてくる男の人と、下半身が蛇で、上半身がおとなしそうな女の人の姿のラミアが向こうから歩いてきた。
正確に言うと、一人は這って来た。
「よぉマスター…いつもながら、いい部屋だったぜ?」
「はぁ…」
「本当に…私たちの家よりも住み心地がよくて…いつもすみません」
「はぁ…左様ですか…あ、今日当宿屋でご用意させていただいたのは、拡散ニンジンと肉のシチューでございます。お召し上がりになりますか?」
「ん?あぁ…どうする?」
「ステイが食べたいなら食べましょうよ?ここのシチュー、おいしいし」
「左様ですか…では、食堂にどうぞ。後でそちらにお持ちいたします」
「OK!じゃ、待ってるぜ」
そういって、ステイ家のかたがたは食堂に向かっていく。
まったく…お客様は神様だからそんなにいえないけど…家が近所にあるんだからお金を出してわざわざ俺の店に泊まらなくてもいいじゃないか!
一週間に1回は来るぞあの夫婦…

そして、俺はシチューをステイ家のテーブルのところに持っていき、その場を去ろうとした。
「では…ごゆるりと味わいください」
「ありがとうな?ところで…店主って、奥さんとかはいないのか?前から思っていたのだけどよ?」
「…はい、今もまだ一人でこの宿を経営させております。では、他のお客様の対応もありますのでこれで…」
……奥さんいないのかだと…?いたら今の時期に嫉妬心に駆られて宿屋のお客リストを真夜中にお客様が寝静まるまで見ているものかよ!!
わかっていっているのか、それともただの疑問なのか…まったく…
でも、いいなぁステイさんはあんな可愛い奥さんがいて…
俺も結婚したいぜまったく…

そしてまたもや定位置に戻る俺…一人で黙々と壊れたカーペットの修復作業をやり始め、お客様が来たら本来の仕事に戻る日のやり直しだ。
おっと、早速新しくこの宿に来たお客さんがカウンターに向かってくる。
確か…サイダー家の方々だったな。
夫のサイダーさんは気弱そうな男だ、だが細かなことに気を使いそうな人だったな。
奥さんはバブルスライムらしく、若干からだが流動しており、緑色の線が通った後に続いている。
バブルスライムは臭いがあれだと聞いたが、消臭剤をたくさん撒いておいて正解だったな。ぜんぜんクリーンじゃないか。
「おはようございます…あの…チェックアウトを…」
「わかりました、お食事も用意しておりますがどうしましょうか?」
「あぁ…えっと、その…今回は、遠慮しておきます」
「左様ですか…昨晩は、お楽しみでしたね。では、ご会計、銀貨3枚となります」
「え?そんなに安いんですか!?」
「初めてのお客様にはサービスでございます。次にいらしたときからは銀貨5枚となりますので…」
「そうかぁ…でも、冗談抜きで次も来たいなここ…噂通りの場所だったよ」
「ありがとうございました」

ふぅ…出て行ったか…
いや、次も来たいといってくれるのはありがたいけど…そうすぐには来なくてもいいかな。これで2日後にでも来たら、どうしようか?
自慢じゃないけど、俺の宿はどうも客受けがいいらしい。
だが、こんな宿のどこがいいのか…最近のお客のニーズとやらがぜんぜん理解できないな。
おっと…お客様がまた起きたようだ。

「主人はいるか?」
「はい、私でございますが…なんの御用でしょうか?」
「いや…昨日の晩に妻が少しはしゃぎすぎて…体を崩してしまったのでな」
「そうでございますか…では、病院に予約を取って、行くとすぐに診てもらえるように頼んでおきます。エクス様は部屋でお子さ…いえ、奥様の面倒を見ていてくださいませ」
「そうか…主人は、かなりいいやつだな」
そういって、エクスさんは二階の自分が泊まっていた部屋に駆け足で戻っていく。

いいやつ?ふっふっふ…いいやつであるだけで世界は生き残れませんよ?
それに、これはお客様用の対応で、親父から叩き込まれて癖ついてしまっただけだし…
そう心で思いながらも俺は病院に電話を入れた。

「はい、中央都市部病院ですが…って、デメトリオさんじゃないですか。本日はどうしたのですか?」
「実は、私の宿のお客様が少々お体を崩されたので、連絡させていただきました。もしよろしければ予約したいのですが…」
「相変わらず変にまじめですね、デメさんは…わかりました。そのお客様の名前と特徴は?」
「お名前はエクス家のミィ様で、容姿はドワーフであると思われます。では、よろしくお願いします」
用件だけ言うと、俺は即座に電話を置いた。
そして、エクスさんに病院に予約したことを報告し銀貨を3枚受け取ると俺はまた元の定位置に戻り、作業を再開する。

そして、他のお客様が全員シチューを食べ終わり、俺が一人で二杯分のシチューを食べ、各自の部屋の掃除を始めようという時間になったが…

「うはぁ…相変わらず臭いが…どれだけ激しくやったら広範囲でシーツを汚せるんだよ…しかも、部屋のカーテンにも少しついてるし…」
小言を言いながら、ステイ家の泊まっていた部屋のシーツとカーテンを裏庭に持っていく。

次はサイダー家の人が泊まっていた部屋だが…
「か…カオス…」
その部屋の中にはそこらかしこに緑色の粘液が付着し、もちろん精液はシーツに少しかかっている。緑色の粘液は硬くなったものからまだ糸を引くほど粘度があるものまでさまざまだった。
粘液がへばりついているシーツは物凄く重く、裏庭に持っていくのにかなり時間がかかりそうだったので窓から放り投げて裏庭に落とした。

次は話には出ていなかったが、カールさんという方で、奥さんと農場で暮らしているお客さんの部屋に入った。ちなみに奥さんはホルスタウロスでとても豊かな胸をしていた。まぁ、どうでもいいことだが…
「……毎回この人、牛乳瓶の中に奥さんの牛乳を入れて帰るよなぁ…売ったら金貨1枚だからかなりうれしいんだが、シーツに母乳と精液しみさせて帰るなよな…」
そしてシーツをまた裏庭におくと、最後のお客さんの部屋に入った。

エクスさんの部屋は、思ったよりはきれいに整えられていた。
「お?あの人はきれい好きみたいだな…これは掃除が楽そう…じゃないな」
エクスさんはきれい好きでも、奥さんのほうがお酒の飲みすぎで床にリバースしてしまっているなんて…
でも、シーツには本当に少量の精液がついていただけで、拭き取った後が見えた。こういう心使いは本当にうれしい。

さてこうして、各自の部屋のシーツをぐだぐだ言いながらここに集めたわけだが…ここから先が大変なんだ。
「さて…まずは水を放水して表面についた汚れを洗い流すか…って、サイダーさんの奥さんの粘液が硬質化してサイダーさんの部屋のシーツの汚れが流れないぞ!?くそっ…サイダーさんの部屋のシーツは一番最後だ!」
俺は硬質化シーツを隅にのけ、他のシーツの染み抜きを始める。

キュポンッ キュポンッ
ふぃ〜、きつい作業だ。かれこれ二時間ずっと染み抜きを押し付けては話す作業を繰り返し、何とか終わったのを確認すると、即座にシーツを全部井戸の中に投げ入れる。
当然わかってると思うが、硬質化シーツはそのままだからな?

「うおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
俺は井戸の中に落ちたシーツを棒で引き上げる作業に入った。
「お?相変わらずやってるねデメさん?」
「……サリィさんも、早く配達を再開したらどうですか?」
「そうは行かないっ!デメさんがこの作業を始めたら私はお昼を取ることに決めているのだから!」
「人を時計代わりに使わないでもらいたい」
俺は、宅急便服姿のハーピーの女の子のサリィにこういうと、俺はシーツを引き上げる作業に戻った。
後ろでサンドイッチをほおばるサリィの気配を感じるので、気になることこの上ない。

「ふぅ…終わった…」
「終わったの?じゃあ、私も配達に戻ろう!じゃあね〜」
あいつ…鼻の上にポテトサラダを付けたまま飛んで行ったな…
そんなことより、これだよ…

俺は、引き上げたシーツを干して、いまだ手付かずの硬質化シーツのほうを見ていた。
しかも、これはかなり重いし硬いので、俺は本当に迷っていた。
「ハンマーで叩き割るか…それとも、熱してみるか?もしかしたら熱で硬質化が解けるかも…でも、違ったらかなり危ないし…うーん」
迷った挙句、俺はハンマーを使うことにした。だが、ハンマーはこの前に壊れてから新しいのを買わないといけない。
俺はカールさんの残した牛乳瓶を持ってバザーに行くことにした。

「はいはい!安いよ!でも、商品はすぐ壊れるよ!いらっしゃい!」
「高さはピカイチ、耐久度は天下一だよー!さぁ、かったかったぁ!」
「食料はうちのお店をよろしくー!」
相変わらず、バザーは熱気に満ち溢れている。
俺は他の店の勧誘をかいくぐり、いつも利用しているお店に行った。
ちなみに、目の前にいる髪の毛が赤いゴブリンが店主のリーザル姉さんだ。
俺は敬意をこめて義姉さんと呼ばせてもらっている。
「義姉さん、今日もお願いします」
「ああ…デメトリオか…今日は何がほしいんだ?あたいが用意しているものなら用意してやるけど…定価の3倍で」
「相変わらずですね…ハンマーありますか?なるべく強いの…それと、肉1Kgに炸裂ニンジン5本とレンガ40個、お願いします」
「ずいぶん買うな…お金あるのかよ?」
「大丈夫ですよ、今日は義姉さんの大好きなアレ、もって来ましたから!」
「そうか!アレ持ってきたのか!よし!今日はお前が言った分だけ全部とソレを交換だ!いいな?」
「YES!!」
こうして、俺は牛乳(母乳でもある)を義姉さんに渡すと、大量の食材と建築材、そしてハンマーを背負って宿に戻ってきた。

「さて…割るとするか」
そういって、硬質化したシーツの上でハンマーを構える俺…
俺はハンマーに振り回されながら思いっきりシーツの上にハンマーを振り下ろした。
ガキィン!
すごく鈍い音とともに硬質化した部分が割れ、破片が俺の顔に飛び散ってきた。破片が目に当たり、俺は目を押さえてわめく。

「うわああああぁ!目が、目がぁ!」
そして、目を押さえながら歩いていると…
「イテェ!井戸に足をぶつけたって…うわああぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
バシャーンっ!
そして、全身ずぶぬれ状態で俺は残ったシーツを洗うと、各部屋の掃除を終わらせ、裏庭の一角に今、レンガを持って立っていた。

「レンガで花壇を造って、そこで少しながら野菜を栽培しようと思うんだが…どれくらいの大きさにすればいいんだ?」
俺はそういいながら40個しかないレンガを変に並べていた。もっと買っておけばよかったかもしれない。
できるだけ見栄えがよくなるように作った結果が…

「これは…何というか、残念な結果だ…」
俺の目の目には割れたレンガで無理やり作った敷地に土を盛り上げただけの場所ができた。とても貧相だが、一応畑だからな!

そうやって作業をしている間に一日の半分は終わってしまい、もう少しで営業時間になった。
いつもと同じように、すっかりきれいになったシーツを各部屋にもって行き、慌てて部屋の掃除をする。
そしてまた午後5時…またも目的を勘違いしたお客が宿の扉を叩く。

「はぁ…今日もまた、こうなったか…そろそろ、お手伝いでも自給で雇おうか…?でもなぁ…金がなぁ…はぁ…」
どうやら、俺がお手伝いを雇い、充実した日々を送れるようになるのはまだまだ先になりそうだ。
11/12/31 01:18更新 / デメトリオン
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■作者メッセージ
どうも、今回は魔界にもっとも近い宿屋(ryシリーズを読んでいただき、ありがとうございます。
少し読みやすくなったと思うのですが、どうでしょうか?

少しでも楽しんでみてもらえたとあらば、とてもうれしいです。

ところで、余談になりますが、今僕は小説内で出す主人公の客等を強く求めています。もしよろしければ、感想部分にでも書いてやってください。
(高確率で出させていただきます、もしかしたらストーリーの流れも変わるかも知れません)

では、ありがとうございました!

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