連載小説
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本当の『想い人』
春の陽気は人からやる気を奪う。
もう少し布団にくるまって寝ていたいと体は欲求する。

だがいつまでも寝ているわけにも行かないだろ、と自分の体に言い聞かせ、重たい瞼をこじ開ける。
窓の外を見てみると、見事な青空と、街の中心に位置する大きな教会が見渡すことが出来た。

だがいつもの景色と何か違う、いつもはもう少し目を細めてこの景色を眺めていたような…。
ふと窓から身を乗り出し、空を見上げる。
太陽が青空のてっぺんで輝いていた。

「っ!?やべぇっ!もう昼じゃねぇか!」

まだ寝ぼけていた脳が急速に回転を始め、第一に仕事の事をが頭をよぎる。
漁に出るのはいつも日の出より早い。こんな時間から海へ向かったら、街に戻る頃には日が落ちているだろう。
街を夜中に歩き回って魚を売るわけにもいかない、それに昼間になれば完全に目を覚ました魔物も海を徘徊しだすだろう。もし活発化した魔物に出くわせば面倒なことになる。

魔物…と、そこまで考えて昨日の事を思い出す。
家の前に倒れていた魔物、彼女の救出劇と、その後してしまった行為の一部始終を…。
体にのしかかる倦怠感の理由はこれなのだろうか?

昨日はあの後、彼女を樽の中に戻してすぐ俺は二階の寝室に上がった。
寝る前に今後の予定を組み立て、明日に備えようと寝たはずだ。

しかしあまりにも非現実的なことが起こりすぎて、いまいち記憶がハッキリしない。
まるで夢のような話だと思い、つい不安になる。
もしかして昨日の事は全て夢で、今下の階に下りても彼女は樽の中にいないのではないか。
そんな考えが頭をよぎる。全て夢だとすれば、納得もいく。
海の魔物が想い人を探し陸に上がり、俺の家の前で倒れていて、成り行きで交わる。そしてその探しに来た想い人は『俺』であると伝えられる。
ただでさえこの街で漁師の少なさを利用して荒稼ぎをしているのだ。ここまで出来た話などあるはずがない。

少し諦観気味に布団から降りる。さて今日の仕事はどうするか、などと考えながら着替えを済ませ、下の階へ降りることにした―――



―――「………ぁ………ん……む…ぅ………ふぁっ…」

階段を下りて部屋を見渡せば思わぬ光景が目に飛び込んだ。

「…お前…、なぁ。昼間っから何してやがる」
「ふぇ……?あ…、おはようございます、ってもう昼ですよ〜案外寝ぼすけさんなのですね〜。何してるって…、見ての通り自慰ですよ?昨日のあれだけじゃ足りなくって…」

その行為に驚愕するが、同時に安堵してしまう俺がいた。
間違いない。昨日の事は夢ではなかったのだ。昨日と同じく樽の中にすっぽり収まる彼女…ティルはそこに存在していた。
自慰によってか、潤んだ瞳に見つめられ思わず近寄って抱きしめたくなるが、そんなことをしては昼間から襲われかねない。ぐっと堪えて彼女を見るが、その瞳に思わず頬を赤らめてしまう。

「…魔力は戻ったんだろ?どうしてこの家を出て行かなかった…?」

照れ隠しのつもりで言葉を発したが、これでは出て行って欲しいと言わんばかりだ。
だがティルは気にも留めないでキョトンとした表情をしている。しばらく不思議そうにこちらを見つめ、そして少し怒ったように口を開いた。

「どうして…って、たったあれだけの精液じゃまともに変身の魔法も使えませんよ。あと5、6発出してもらわないと、街を歩き回れるほどの魔力は戻りません!」
「はぁ…そんなもんなのか?」
「そんなもんなのです。あ〜あぁ、サキュバスさんとかなら体の一部を消すだけで済むのに…。ネレイスなんて足はヒレになってるから骨格も変えなきゃいけないし、肌の色まで変えなきゃいけないんですよ!何より体の構造が陸上に適してないので、そこらへんも魔法でやりくりして…」

魔法については詳しくないが、話す勢いから大変なことだけはよく分かった。となると彼女と交わらなければ家の中に軟禁状態に出来るのか、と汚い考えが頭をよぎってしまう。
だが彼女が本気で誘惑の魔法を使えば自身を抑えていられるはずがない。昨日の出来事を思い出せば、その効果は一目瞭然だ。そうなれば、魔力の回復など、やろうと思えばいつでも可能なのだ。

「って聞いてます!?さっきからぼーっとして、しかも顔がいやらしい表情をしてますよ!」
「っつ!うるせぇ!それに昼間っから目の前でそんなことしてるのを見て何とも思わねぇ男がいるか!」
「えっ、ああ、だったらその欲求を私にぶつけてくださいな!さぁ、私の胸に飛び込んでおいでっ!」
「ひっ、昼間からんな事するわけねぇだろ!この淫乱女!人様の社会ではもう少しおとなしくしてやがれ!」
「昼間っからってことは夜はそんなことしてやろう、ってことなんですね!このロリコン変態男!第一アキト様が昨日出す量が少なかったからこんな…」

ぐうぅぅぅ……

「…っ!…はぅ……」
「ん?なんだ急に…」

ぐうううぅぅぅぅぅぅ……

今度はさっきよりハッキリと聞こえた。ティルの腹の虫がコーラスを始めた。言われてみればティルは朝から何も口にしていないのだろう。
足がヒレな関係で自由に動き回ることが出来ない。家の中に少しは食料品はあるが、場所も分からないのに見つけて食べられたとは思えないからだ。
それに俺も昨日の騒ぎの後そのまま寝てしまったので、その日の昼から何も口にしていない。
気にかかってしまったが最後、自身も強い空腹感を持つことに気がついた。

「…お…。お腹…空きました……」
「……。チッ、仕方ねぇ、どっか食いに行くか」
「ほんとですか!私一度食べてみたいものがいくつかありましてね!生前どうもおいしいものを食べていた記憶がないんですよ!えーと、そだな、高級品と言えば…魚とか、牛の肉とか…ああ!もういっそチキンとかでもいいです!一度あのもも肉にかぶりついてみたかったんですよ!」

子供のように目を輝かせ、あれこれと食べたいものを並べ立てる。嬉しさのあまり尻尾を左右に激しく振りたくるものだから、水が樽からこぼれてしまっている。口の端から涎が垂れているのも、本人は全く気にしていないようだ。
そんな様子を見ると、大人気ないとは思うが、つい意地悪をしてみたくなってしまった。

「…誰がお前も連れて行くだなんて言った?金も持ってない奴に食わせるための金なんて、ねぇぞ?」
「んなっ!…えっ、嘘。冗談ですよね…?ねぇ!」

あまりの慌てっぷりに思わず苦笑いが出てしまう。いかなる生き物でも空腹だけは耐えられない。魔物も例外ではないようだ。

「ごめんなさいごめんなさい!ロリコン変態男って言ったのは撤回します!ええと、何とお呼びすれば!と、とにかくアキト様ぁ!お金なら身体で返しますからどうかぁっ!」
「………ぷっ…ぶはっ!あはははは!!ギブギブ!ジョーダンだよ、冗談。そこまで必死になるかよお前…!ケケケケ」
「ふぇ…?え、じゃ…、じゃあ!食べさせてくれるんですか!?」
「あー、笑った笑った…、腹いてぇ。俺でもな、一人分の昼飯代も払えないほど貧相じゃねぇよ。あとお前、身体で払っちゃ得してるのはお前の方じゃねぇか。さらりと誘導しようとするんじゃねぇよ」


こうなったら仕事をするのはあきらめて、今日は休みとしよう。この街もまだあまり知らないので一日街中を歩きまわって、街の事を知るのも悪くない。
倉庫に行き、荷車に乗せていく樽を探す。いくつかの樽を荷車に乗せたり降ろしたりして、ちょうどいいサイズのものを探す。
結果見つかったものは、ティルが入っていた樽より一回り以上小さい樽だが、荷車に乗せられるサイズはこれが最大のようなので仕方がない。
その中にティルを入れると、さすがに小柄な彼女でも、手足を折り畳まなければ入らない大きさだった。

「うー…、狭いです。なんでこんな小さいのにするんですかぁ…」
「仕方ないだろ?あまり大き過ぎると、重くなって運ぶのに不便だからな。移動する間は頭引っ込めとけよ。街の人間に見付かったら厄介だからな。」

ティルを隠すために樽に上から布を被せ、荷車を引く。
一般人がこんな目立つ物を引いていれば不思議がられるだろうが、自分は漁師なので魚を売る時はいつもこうだ。今更怪しまれる事はない。
かけてある布も、水が温かくなり、魚が弱るのを防ぐためだと言えば問題ないだろう。

「そうだ、結局何が食いたいんだ?っても、あまり高い物は買わねぇぞ?」

ティルは少しだけ布を持ち上げ、顔を覗かせこちらを見る。少し声を抑えて返した。

「…ブタの丸焼き!どうっ?」
「…すまん、聞いた俺が馬鹿だった。まぁ、いつも俺が食ってるような物でいいか…金も浮くし」

言って前へ向き直る。後ろから「ェー」とか文句を言いたげな声が聞こえたが、無視して街の中心部へと歩き始めた―――




―――港町ソルカイネ。この街は大きく4つに分けられる。
北部、西部は海に面しており、魔物が現れるまでは港はそれは賑わっていたもの、らしい。魔物が現れてからは船の行き来がほとんど無くなり、今では「港町」というのも名だけになっている。
南部、東部は街への入り口であり、今は物流のほとんどが東南部で行われるので、旅人用の料亭や出店などが多い。
年に何度かの祭り事などでは、東西南北でチームを作り、様々な出し物をしたり、スポーツで競い合ったりすると言う。おかげで、同じ街の中ではあるがライバル意識のようなものもあるようだ。

自分が住んでいるのは街の西部。街の中で最貧層と言われるブロックに住んでいる。
海からの輸出入や人の出入りが無くなったので、経済力が大きく減少したらしい。

普段自分の食べているもの、とティルに言ってしまったことを少し後悔する。自分の普段の昼飯など、ちょっとした食堂の野菜スープぐらいなものだ。これでは格好がつかない。
まぁ見た目こそ地味だが、味はかなり美味い。飢えているティルなら気に入ってくれるだろう…。

「おばちゃん、いつもの野菜スープ二つ頼みます」
「え、二つかい?…あんたぐらいの年だと食べざかりか!あうよ!ちょっと待ってな!」
「それと、今日は持ち帰るので、食器はまた後で返しに来ますね」
「あいよ!しっかり食ってしっかり働いてくれよ!」

「…ん?何やらいいにおいがしますね…。おお!何ですかそれ!」

荷車の停めてあった場所に戻ると、早速ティルが反応を見せた。

「俺がいつも世話になってる食堂の自慢の一品、だとよ」
「ふぁぁ!ねぇ早く食べましょうよ!せっかくの料理が冷めちゃいますよ!」
「オイもう少し静かにしてろ。店の中には客とかがいるんだ、あまり大声出すな」
「ぅ…そうでした…はい…」

食べる、となるとまずは絶対に人目につかないところに移動しなければ。まだほとんど書きこまれていない脳内の地図を広げ、目的地を検索する。

「……そうだな、海沿いに空き地があったな。どうせ何も無くて、ほとんど人も来ない」
「了解!ってかもうどこでもいいです〜早く食べましょう〜!」―――



―――西部の中でも特に人気のない部分、海には面しているが海へと続く砂浜は無く、切り立った崖があるだけ。
崖の上よりも、人通りの多い港の方が当然人気があるわけで、昔から人がほとんど住まわず、今では崖際と街の間は小さな森と化していた。
その森を抜けると少し開けた場所があり海の見渡せる絶好のランチスポットだった。
ティルも感心したのか、樽と布の隙間から顔を出し、ぽかん、とした表情を見せている。

「…どうだ?ここなら人が寄りつくこともないし、海も見れる。なかなか良い場所だろう?」
「………。え?ああ、はい…」
「ん?どうした、まさか気に入らないとか言うんじゃないだろうな」

気に入らなくても他に食う場所は無いぞ、と付け足してみたが、反応が薄い。
どこか、記憶の中を探るような様子でしばらく海を見ていた。

「私…うーん。何だろうな…。なんだか…懐かしい。…もう少し、あっちに向かってみて下さい!」
「…?あ、ああ。分かった」

ティルが指し示す方へ向かう。しばらく無言で歩くと、森の片隅に小さな家が見えた。
彼女の表情を窺うと、今までに見たことの無いような優しい眼差しでその家を見ていた。

「うん…やっぱりそうだ。私、ここを知ってる。私…ここに、住んでたんだ…」
「何?」
「多分…だけど、すごく懐かしい。ここでどんな暮らしをしていたかは思い出せないけど…うーん…」
「…そうか。たまたまだったけど、お前にとって大切な場所に来ちゃったんだな…」
「………。」

魔物になる前は人だったと言うティル。ティルという名前も、魔物になってから付けられたものだろう、と言っていた。
この家の中を調べれば、魔物になる以前の彼女が分かるかも知れない。家に入ってみるか?と彼女に聞こうとしたその時

「ってああ!!料理冷めちゃいます!早く食べなきゃ!!」


「もく…むぐ…、…ぐっ!かはぁっ!ゲホッ!ゲホッ!」
「おい、一気にかっ込むな、もう少し落ち着いて食え…ほら、水」
「んむ!…ぐっ…ぐっ…ぷはぁ!危ない気道に詰まりそうになりました〜。あむ」

荷車を停めて、ティルを樽から出すと、海の見える方向に向いて腰を下ろさせた。
ティルは持っていた料理の包みを開けるなり飛び付き、今はこの有様だ。
つーか野菜スープって流動食みたいなもんだろ。それをむせる程の勢いで食わなくても…。

「それよりお前、さっきの家は放っておいてよかったのか?魔物になる前の自分がどういう人だったとか、知りたくないのかよ」
「んむ?…むぐむぐ…ごくっ。そんな事よりご飯の方がずっと大事です!それに過去なんて振り返らない!青年よ!今を生きろ!」
「なんだそりゃ…、お前そういうの気にしないんだな…。まぁ興味が無いってならそれでも良いんだがよ…。」
「うむ!ふよふよいれれもふぁにもひいおとあおこいあひぇんよ?(くよくよしてても何も良い事は起こりませんよ?)」

ティルはティルの住んでいたという家を気にならないと言っていたが、俺自身少し気になってしまう。後ろを振り返り、その家を見る。
本当の名前は何と言うのだろうか、ティルは昔からこんなに美人だったのだろうか、どんな生活をしていたのだろうか、この馬鹿は、魔物になる前も馬鹿だったのだろうか…。
色々と彼女に聞きたいことが頭に浮かぶ。彼女の事を俺はほとんど知らない。もっと彼女を知りたかった。
だが女性の昔の話を聞き出すのは、あまりよくないだろうと思い、その疑問は口に出さないでおくことにした。
おそらく、話を聞けば必然と魔物になった理由に話が向かってしまう。
魔物になった経緯は知らないが、おそらくあまり話したくない事ではないかと直感したからだ。

「ふぃーごちそうさまでしたっ!んふふー、おいしかったぁ…。あ、アキト様!まだ半分も残ってるじゃないですか!食欲ないんですか!?私が食べるの手伝いましょうか!?むしろ手伝わせて下さい!!」
「ただ単に食いたいだけだろお前は!……まぁいい、へいへい、欲しけりゃくれてやるよ」
「えぇー!いいんですか!?わはー!おいしそう!ありがとござryいただきます!」

お礼ぐらい最後まで言え。
心の中でツッコミを入れつつ、まぁこんなに嬉しそうな反応をしてくれるなら、昼飯の半分ぐらい、いいか、と思ってしまう。
ここで俺がティルの従順なしもべなら「貴女様の笑顔で私めはお腹いっぱいでございます」と言えただろう。
嬉しい証拠に彼女のしっぽがパタパタと地面を叩いている。犬のそれと同じような物なのだろうか…。


しかしこの晴天のお昼も少し過ぎたこの春の日差しに、海からの心地よい潮風。
ここまで恵まれた環境に加え、日ごろの仕事からの疲れもある。
ここで眠気に襲われない方がおかしい。

いつの間にか、うつらうつらとし始めた俺を見て、隣でティルが静かに笑う。
ティルはそっと俺の肩に頭を乗せ、ゆっくり眼を閉じた。彼女もまたお昼寝モードのようだ。

はたから見れば相当なバカップルの様に見えるに違いない。
だが幸いここは誰も来ないだろう場所だ。人がいれば恥ずかしくて出来ないだろうが、そっとティルを抱き寄せ、髪を撫でてあげた。
そのまま俺の意識も闇に溶けて行った。―――



―――「ふ…ぁ…ぶえっくしょい!…ん?」
風が冷たい、寒い。気がつけばあたりはすでに真っ暗。どうやらつい眠ってしまっていたようだが、さすがに春とはいえ、まだ夜は冷え込む。寒さで目が覚めた様だ
肩にもたれかかったティルを見ると、まだ眠っているように見えたが、小さく口が動くのを見た。

「………ず……………水ぅ……」
「…っ!しまった!ティルが干からびてる!!たっ樽!早く樽の中に!!」


家へと帰る最中、ずっとティルは「ずっと助けって言ってたのに…」とか「乙女の悲鳴が聞こえないなんて…なんて男」とかグチグチと言われ続けた。
本人いわく、魔力さえあれば体の表面をずっと濡らしておくことは出来るが、眠っている間はそうもいかないらしい。
だったらすぐに気付けなかった俺も悪いが、寝たお前も悪いじゃないか、と言い返したかったが、どう見ても分が悪いだろう。
黙って愚痴を聞き流すしか、他に無かった。―――




―――「よい…しょ、と。ふぅ…」
家の大きな樽の中にティルを入れ、ひとつため息をつく。
特に何かをしたということは無いのだが、久しぶりに人と長い間話をしたからか、心地よい疲労感があった。
普段は肉体労働ばかりだが、慣れているので疲れも薄い。だが人と話すのは意外と脳を使うらしい。普段頭をあまり使わないだけにいつもより疲れたのだろう。

「ってなんだか俺馬鹿みたいだな…」
「…?どうしたんですか急に。あと何を今さら」

お前程じゃない、と額を軽く押してやると、クスクスと忍び笑いが漏れた。
帰りに買ってきた今日の晩飯、そこそこ質のいい鶏肉(普段はこんなもの絶対に買わないが、つい見栄を張って買ってしまった)を串刺しにし、暖炉の炎で焼いていく。
それを見たティルがキラキラとした目を向けて涎を垂らしているので、思わず苦笑してしまう。

「ぅー、何ですかそれ?おいしそうな匂いがしてます…お腹空きましたぁ…」
「お前昼に結構な量食っただろ。むしろ腹が減ってるのは俺の方だぞ…」
「でもぉ……こんなおいしそうな匂い…ん〜これは、匂いの暴力やぁ!!」

誰だおまえ、グルメリポーターか

「まだ待てよ、下手に生焼けで食うとあとで腹壊すぞ。さてと、焼けるのを待っている間何してい
ようかな…」

今日サボった分、明日はたっぷりと働こう。明日は仕掛けを多く沈めてくるか…。そのためにはまず仕掛けの準備をしないとな……。
頭の中で思考を巡らせていると、ティルが、ぽん、と手を叩いた。

「じゃあ昨日の続きをしましょうよ!私もうお腹ぺこぺこですし。(魔力的な意味で)丁度いい時間つぶしになると思いますよ!」
「…肉焦げるぞ、いいのか?」
「ふぐぅ!ぐ…ぅ…それは……。…ん?あ、心配無いです。どうせ早漏のアキト様なら一回ヤったぐらいじゃ大した時間かかりませんよ」
「お前…どこまで人を馬鹿にして………っ!」

頭が一瞬ふらつき、思わずその場に倒れこんでしまう。
頭上から忍び笑いが聞こえる。コイツ、また誘惑の魔法を…。
自分の意思とは無関係に下半身はすでに熱くなり始めていた。

「んー、床でするのもちょっと痛いですし、アキト様のベッドに連れてって下さいよぉ〜」

ティルの甘えるような言葉の一つ一つが、まるで強い引力を持っているようだった。その引力に引かれるようにゆっくりと立ち上がると、彼女の方へ足が自然と動いた。
そのまま樽からゆっくり彼女を持ち上げると、いわゆるお姫様だっこの形で彼女を抱き抱える。
自分のやっていることに強い違和感を感じながらも、体だけはティルの言葉に素直に動いていた―――



―――ティルをさも丁寧にベッドの縁に下ろすと、そこにはすでに欲情しきった表情の彼女がいた。
俺は来ている服を全て脱ぐと、その目の前に跪くようにかがむ。
さすがにこの行動に強いツッコミを入れたい衝動に駆られ、残った理性を振り絞り、なんとか声をひねり出す。

「おい…、なんかおかしくないか?完全にお前の言いなりになってる気がするんだが…」
「気付きました?今日の魔法はスペシャルMコースです!私の言うことは何でも聞いちゃいますよぉ。ほら!女王様の足ヒレをお舐めなさい!」

魔法で言うことの聞かない腕に力を入れ、精一杯の力で目の前で揺れる足ヒレにツッコミを入れる。ぺちっ、と軽い一撃に終わったが、どうやら魔法の力<怒りのツッコミ、のようだ。

「う、私の魔力に抗うとは…、うー、もう少し魔法を強くしてもいいけど、あんまり強くし過ぎると言うこと聞かなくなっちゃうほど欲情しちゃうしな。まぁこのままでいっか」

今のセリフにもツッコミを入れたいのは山々だが、さっきの一撃で完全に力を使い果たしてしまった。今は口を動かすことすら出来ない。

「まぁ、最初は軽く一回ヌいてあげましょうな。ささ、近う寄れ?」

魔法の影響か、なんだか抗うのも面倒くさくなってきた。こうなったらされるがまま、彼女に任せておこう…。

「さて…と、もうずいぶんとお元気じゃないですか?お宅の息子様ったら」

そっと包み込むようにモノを両手で握り、そのままゆっくりと腕を上下させる。

「んー?先っぽから何か出てきましたよ?ふふっ、舐めてあげますね。んむ……って別にこれでもいいんですけど…このままじゃ昨日と同じでつまらないですからね…。ちょっと今日は変えてみますか」

両手をモノから離し、自身の胸にあてがう。軽く乳房を持ち上げ、そのまま俺を挟み込んだ。
そのまま体ごと上下運動を再開し、モノを扱き始める。

「うぉ……!」
「んふふー、どうです?やっぱり気持ち良いものなんですか?パイズリ…って言うんですよ、これ。…んっ……は…でも…さすがに全部はっ…収まりきらないなぁ」

下半身から送られる柔らかな感触と快感によって、脳が麻痺してくる。
ティルは唾液を垂らして滑りを良くしたり、胸を揉むような動きで刺激したりして、更なる興奮をそそる。
当の本人も胸は感じやすいらしく、時折甘い声が混じりだす。上目使いでこちらの様子を窺うと、更に力を込め、動きの激しさを増す。

「うっ…あはっ!ひゃっ…!おかしいなっ…、私が…んぅ…気持ちよくしてあげてるのにっ…私の方が…感じちゃってる…かも…ふぁっ……」

気付けば、無意識に腰を振っていた。彼女もその動きに自分の動作を合わせる。ただ肌と肌がぶつかり合う音と、ティルの喘ぎ声だけが部屋に響いた。

「んっ…こんなのっ…、どう……かなっ……れろっ」

突き立てる度に亀頭が胸の合間から顔を出す瞬間、ティルは舌を伸ばし先端を舐めとる。そしてまた谷間へと沈み、浮き出て、舐める。体全体を使ったその愛撫に思わず体がのけ反ってしまった。

「…そろそろ……出しちゃいますか…?………ここ…びくん、びくん…って……してます…よ?」
「ぅ…、あぁ、頼む」
「りょーかい、…クスッ、いっぱい…気持ちよくなってくださいね?」

今度は両手で乳房を掴み、俺のモノに強く押しつけると、モノの先端を口で咥える。
さっきより激しく胸を上下させ、それとは別のリズムで口から快感がもたらされた。

「…っくあ!それ…やべぇ!」
「むぅっ!んっ!んぅ…ぅう!じゅるっ!んぁ…!ふむっ!ちぅっ、ん…っ!?んゃぁ!」

勢いよく腰を突き出した拍子に手と胸の拘束から外れてしまう。その感触で不覚にも達してしまった。
中途半端なイき方をしているモノに手を伸ばし、自ら扱いて彼女の顔を、胸を、お腹を、白く染め上げて行く。
満足のいくまで出し切る間、ティルは目を閉じて自分にそれがかかる感触を味わっていた。

「…はぁ…はぁ…もう、こんな体中にかけなくたって…、髪にまで飛んじゃったじゃないですかぁ。後でちゃんと洗って下さいよ?」
「…っああ、……すまねぇ……」
「………じゃあ次…です。ベッドに寝てください。私が…その、の、乗りますから」

言われた通りベッドに横たわる。
膝立ちで移動してきたティルが馬乗りになり、俺のモノを掴む。
出したばかりで休憩も挟んでいないのだが、すでに臨戦態勢のそれを彼女は自身の秘所へと導く。

「入れ…ますよ?…………っ!!…んあぁ!ぅ…うぅ………ひゃん!!」

ゆっくりと腰を下ろし、モノを飲み込んでいく。ある地点で先端が何かを突く感触とともに、ティルの動きが止まった。
軽くイってしまったのか、ふるふると体を痙攣させ、目をきつく瞑っている。
しばらくその状態でいたが、やがて大きく深呼吸をしてこちらへ向き直る。

「…えへへ、こうやって見下してると、ま、まるでアキト様は私の所有物って感じですね!なんだかゾクゾクしちゃいます…」
「………。」
「そんな怒った目をしないで下さいよ〜。冗談はさておき、始めますね………っぅ!」

ティルは目を細めて力を込めると、腰で円を描くように動かし始めた。
まだイったばかりなので、少しのことでもイってしまうのだろうか。その表情は快感を抑えつけるのに必死なようだった。
俺の体はもっと強い快楽を求めて疼くが、彼女の様子を見てぐっと抑える。

「くぁっ!…ぅ……ひっ!……あぁ…う…………はぁ……気持ちいい…………ちょっと…ずつっ……慣れっ…て…、きました……ふぅ…」
「…あんまり無理するなよ。いかにも顔が苦しそうだぞ?」
「だ、大丈…夫ですっ…からっ!…私も…魔物…ん!…なんですよっ!」

どういう根拠か知らないが、とにかくティルは本来この調子なんだろうか。
いつの間にか冷静になった頭を使い、昨日つい欲望のままに犯してしまったことを思い返す。あの時は本当に苦しがっていたんじゃないだろうか…。
突然、ティルの動きが止まった。何事かと思って顔を見れば今にも泣き出しそうな瞳でこちらを見ていた。

「ん…ふぁ…やっぱり、この程度じゃ…だめ?ですよね…。アキト様は、満足しませんよね…?」
「い、いや、お前のやりたいようにやって良いぞ。…安心しろ、俺だって十分気持ち良い」
「…で、でも、さっきから難しそうな顔をしてますし…なんだか…。あんまり…気持ち良くないのかなって…わっ、私がするのじゃ…ダメなのかなって…」
「……………お前さ」

本来人に尽くすタイプっていうか…攻めは無理なんじゃないか?
まるで今まで強気でいたのは、何か一種の照れ隠しのような気がした。

「…はい?」
「…何でもねぇ。じゃあ俺が動く、それなら文句ないな?」
「え、あ、はい。分かりました…」

ティルが手を伸ばし、体を起こすのを手伝う。その手を取って体を起こすと、彼女の腰に手を回し、体を固定した。
彼女もまた俺の首に手を回した。俺の肩に顎を乗せ、耳元でこう呟いた。

「好きなようにしちゃってください…。魔物ですから…多分壊れたりしないと思います。昨日ぐらい…激しいのがいいかな…えへっ」
「お…おう…」

なんだ、二回目の方が緊張するっておかしくないか?
それに最初は女王様気どりだったくせになんだこの変貌は。今は顔こそ見れないが耳が真っ赤になっているのが見える。

「とにかく…動くぞ?苦しかったら言えよ」
「っ!?は…はい…」

どうも昨日とは反応が違う。何かあったのだろうか。
魅了の魔法にかけられている時の、頭がぼーっとした感じも無いので、魔法が切れていることが分かる。
あからさまにこの状況はおかしいとは思うが、こういったしんなりとしたティルもまた昨日とは違った興奮を呼ぶ。
もし苦しいとするなら、早めに終わらせてやろう。コイツの目的はあくまで精があれば良いのだ。

「…うぅ!あっ!っ………!んっ……!…んあぁっ!…ふっ……ぐぅ!」

早めに終わらせるならば俺も考えすぎてもいけないだろう。理性を少し休ませて、彼女を欲する本能をむき出しにする。

「あぁ!ひっ…!はぁっ!うぐ……ぁあっ!いぁっ!すごいっ!気持ち…いい…からっ!もっとぉ!」

彼女を突き上げるたび、接合部から愛液が飛び散り、シーツにいくつもシミを作っていく。刻々と近づく絶頂に備え、彼女の一番奥を何度も突き上げる。

「えぁ!もっ!もう!!ダメっ…です…!!こんなっ!うぅ…!あぁ!!ダメっ!!ィ…クぅ!!」
「ぐっ!ま、待て!もう少し…だから!!」
「ひゃっ!あっ!いあっ!無理れすっ!そん!ひゃのっ!!…っああ!!」
「くっ!!」

「ひああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ティルが弓なりに身体を反らし、膣内がきゅうぅぅっと締まる。先にイってしまったようだ。
ここで止めておくべきかとも思ったが、彼女が求めているものを思い出す。それに、俺の限界も近い。

「っ悪い!ちょっと我慢してくれっ!!」
「っつ!!??んああっ!!」

絶頂による急激な膣の締まりにより増した快感を利用して、ラストスパートをかける。
ティルも俺の限界が近いのを悟ったのか、ありったけの力を込めて、俺の首にしがみつく。
彼女の頬を涙が伝うのが見れたが、その光景を頭から振り払い、腰の動きに集中し直す。

「んあああぁぁぁ!!ううああ!!!いっイっちゃってるのに!!!またっ…!!!くぅっ!!」
「っ!!はぁっ!!はぁっ!」
「ふああぁっ!!んうっ!!だっ!ダメ!!早っ…!!くっ…!!あっ!あっ!!あああぁぁぁぁぁぁ!!」

ティルがイってから実際はほんの数秒なのだが、永遠の様に長い時間が過ぎたようだった…。
幾度目か彼女の身体に腰を打ちつけた時、ようやく下半身から熱いものが込み上がっていくのを感じた。

「っくぁ!!出るっ…!!」
「っう!!!!!あがっ…!!!んっ…!!!んんっ!!!」

すぐ隣でコクコクと頷いているのが伝わって来る。最後に彼女を力の限り抱きしめると、彼女の一番深いところへモノを突き立てた。

「あっ!うぅ…!!!」
「ああっ!!…っくああぁぁぁぁぁああああぁぁぁ!!!」

ティルの子宮の中に精子が送り込まれると同時に、ティルの膣が大きく痙攣をおこして、まるで精を搾りとるように蠢く。
その強すぎる快感に目がチカチカするが、ティルだけは強く抱きしめ、離さない。ティルもまた、絶頂の快感を堪えるように俺に抱きつき、大きく喘ぎながらも、肩で息をしていた。

精子が全て吐きだされたのを感じると、ゆっくりとティルの身体から、自身を引き抜いた。
二つの性器の間に、一瞬、つぅっと白い糸が引いたが、それが中から溢れ出した大量の精子に紛れて分からなくなったのを見た。

意識の朦朧とするティルをそっとベッドに寝かせ、そのまま横に倒れ込む。きつい姿勢だったこともあって、完全に体力を使い果たしてしまった。

「はぁ……はぁ………く。…んっ……」
「…?なっ…、何だって?」

直後、目の前でティルが荒い息を続けたまま、恐らくこの場で最も不適切な言葉を呟くのを、耳にしてしまった。

「鳥肉………焦げ……ちゃったかな……あはは」―――



―――予想はしていたが、鶏肉は見事なまでの消し炭であった。
「うわぁぁぁぁぁ…!私のっ!!私の晩御飯がぁ!」
「俺は最初に言ったぞ?肉が焦げるけどな、ってよ」
「確かに言われましたけどぉ!仕方ないじゃないですかもうあの時は完全にスイッチ入っちゃったんですから!」

今日の荷物袋を机の上に置き、中をまさぐる。目当ての物を見付け、軽く舌打ちをしてからそれをティルに投げつけた。

「ほら、よっ!次からはスイッチ入れるタイミングも考えるんだなっ!」
「はわわわ!…え?わ、何?どうしたんですか…これ?」

慌てながらも、とっさにキャッチするティル。彼女が驚いたのも無理は無い。投げたのは消し炭になる前のと全く同じ鶏のもも肉だったからだ。

「どうせお前は丸々一本食っちまうだろうと思ってな。あと俺も腹減ってたんだ、二つ買ってきてあったんだよ」
「………えええ!!そうだったんですか!?」
「お前はそれ食っとけ、俺は二階に食いもん置いてあるから…そっち食ってくるよ」
「…………え」

ティルはさっきの時と同じ戸惑ったような表情で俺の顔を見つめる。一瞬目を逸らしたが、鋭い眼光で向き直り、強い口調で言った。

「ダメです!せっかくアキト様が買ってくれたのですから!いっしょに食べます!」
「なっ!どうした急に?」
「嫌なんです!分かんないんですけど…そんなの…私一人で食べるんじゃなくて!その…私…二人で…」
「何だ?熱でも出たか?もしくは悪いものでも食べたか?」
「んなっ!何を折角人が一緒に食べようって言ってあげてるのに!」
「はは、冗談だよ冗談。なんだかよく分からねぇが、…ありがとな」
「っ!ど、どういたしまして…///」

何なんだ今日は本当に、散歩前とその後でまるで人が違うみたいだ…。
とにかく、ティルが俺を気にかけてくれたのが素直にうれしかった。
俺は鶏肉をティルから受け取ると、それを再び暖炉の炎で焼き始めた―――




―――外で虫の鳴く声が聞こえる。明日もどこかに行くのだろうか、とにかく今日は疲れたからもう寝なきゃ。
もう何度目か分からないほど自分に言い聞かせ、寝ようと思うのだが、なかなか寝付けない。

なんで、どうして?
頭の中に浮かぶのは、今日もどこにいるのか分からなかった『彼』の存在。
この姿になる以前、世界の誰より愛していたはずの男性。今でも心から会いたいと思う。

なのに…、アキト様と話していると不思議と鼓動が速くなる。アキト様のことを考えると、胸が締め付けられる。
抱かれる時も、最初こそ魔法をかけたが、途中から魔法に頼りたくないと思ってしまった。もっと自然なアキト様に抱かれたい。そう思ってしまった。
でもダメなんだ…アキト様は『彼』じゃないはずなのに………。
でも、この二人に共通して抱く感情に、当てはまるものが思い当たらないわけが無い。

丁度あの時、記憶の彼方にあった、昔の自分の家を見た時から……。
『彼』の存在と『アキト様』の存在が強く結びついてしまう……。
でもそれはありえないこと!自分の中で都合の良いように記憶を捻じ曲げているだけ!
『彼』が『アキト様』と同一人物だなんて、そんな偶然ありえない…。それに本人が違うって言ってたじゃない…。

ふと、涙が頬を伝った。…でもこんなところで泣いてちゃいけないんだ。
私は『彼』を探すためにこの街に来た。アキト様はそれに協力してくれているだけ。
ただそれだけのこと。絶対に、抱いちゃいけないんだ…こんな感情。

私が、アキト様を好きになっちゃいけないんだ。
11/01/10 08:54更新 / 如月 玲央
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■作者メッセージ
「ど、どうも、フェアリーに連れ戻されました。如月 玲央です。
今回書いてて思ったのですが電子辞書って便利ですね!もっぱら使いたいけど意味が合ってるか自身がないような言葉を調べるのに使ってます。あと、これの後半からは徹夜して書いたので、誤字脱字が多いかもしれません。て言うか全体のクオリティに不安が(;´Д`)」
「それで…?樹海に行ったのに、どうやったら間違えて触手の森に行っちゃうんですか?一体どんなミスしたら…」
「え…?い、いやぁ、なんだかいいにおいに誘われてつい。ああ、でも触手に蹂躙される君はなかなk」
「なっ!/// …死ね!この真正ロリコンの社会の底辺がぁ!!」
「ぐふぉあ!!」

「後書き…ってこんなので…いいのかな…ガクッ」

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