読切小説
[TOP]
本当にあった・・・・3
「皆さん、今日は。よくこの会場に来てくださいました。これから皆さんには、目の前にあります画面に映し出された再現映像を視聴してもらいます。私達スタッフが選びに選び抜いた映像です。そして手元にありますボタンのスイッチを押して気に入った映像に投票してください。そうして一番票を集めて見事一番に輝いた映像大賞を選んでいただきたいと思います。それとこの会場に来ていただいた皆さんには後で素敵なプレゼントがありますので、期待してくださいね。
 それではスタートです。」

 脱出方法
 
 男性は今まさに窮地に立たされていた。目の前には半透明の女性達が満面の笑みを浮かべながら宙に浮いて佇んでいる。左右だけでなく上空でもグルグルと飛び回りながら、今か今かと待ち構えている。因みに男性の背後には所々壊れた壁があり、その向こうにはこのような場合として定番の廃屋が夜の闇の中に不気味に佇んでおり、この光景をまるで楽しんでいる様な感じだ。
「フフフフ、一人で来るなんて随分と度胸があるわね。お姉さん、気に入っちゃったわアナタの事」
「あ〜〜!!ずるいずるい!!その人は、私が最初に目を付けたんだよ!!だから私のなんだからね!!!!」
「違うわよね。アナタは私のモノになるのよ。ほら、はいと言いなさい。そうしたらうんと気持ちのいいことしてあげるわよ。文字通り天にも昇るくらいにね」
 そんな事を言い募る彼女達ゴーストに併せて宙を飛び回るゴースト達も「私!私!私!」「私よ私よ」と口々に騒ぎ立てる。
 対して男性は冷や汗を額に浮かべ唇を真っ青にしながらこの状況に至る経緯を思い出し、そこから如何にして逃げ出せるかを考えていた。
(賭けに負けて罰ゲームでこの廃墟に来ることになったんだけど、まさかこんな事になるなんて・・・どうする?如何したらここから逃げ出せる?何とか考えないと不味いぞ)
 そんな男性に対してゴーストの一人がクスクスと笑いだす。
「フフッ、ここから逃げ出すことを考えているのなら無駄よ。こんなに沢山いる私達からどうやって逃げ出すの?それに逃げ出しても直ぐに追いついてしまうわよ。こんな森の中なんだから転ばずに走り続けることなんて出来ないわよね」
「そうそう。あ、でもそしたら優しく看病してあげるよ」
「それも良いわね、あなた達もそう思うでしょ」
 頭上を飛び回るゴースト達もその提案に興奮して更にスピードを上げて飛び回る。立ち並ぶ木々や互いの身体にぶつかり合うもお構いなしの状態だ。
 いよいよもって追い詰められた男性は、目を瞑り天を仰ぐように上を向くと大きなため息を吐き出した。
「降参だよ、オレの負けだ。確かにこんな状況じゃ逃げ出すのも無理だよな」
 男性の言葉にゴースト達は勝利の笑みを浮かべるのだが、次の言葉で大変な状況になってしまう事にはこの時気が付いてはいなかった。
 そうして男性は大きな爆弾を投下した。
「だからさ、最初の相手は一番の美人にしてもらいたいんだけど・・・誰が一番なんだい?」
 
 後に男性はこう語った。
「あれで集まった連中全員が言い争いになったんで、無事に逃げ出せました」


 海の猛者

 穏やかな風が吹いて優しく頬を撫でてゆくのをヨットのデッキで受けながら青年は遥か彼方の水平線に目を向ける。
「どうだ、何か視えるか?」
 隣りでジュースを飲みながら友人の青年が尋ねてくるが、その青年は笑いながら答える。
「何もないよ。風も穏やかだし、雲も心配ない。本当に最高の天気さ」
「そうだろ。それよりこっちに来て何か飲めよ。バーベキューには最高の日なんだからさ。早くしないと無くなっちまうぞ」
 その言葉通りデッキでは他の友人達がビールやジュースを飲みながら楽しく肉や野菜を焼いたり食べたりしている。
「おいおい、オレの分は残っているんだろうな?」
「心配ないぞ、野菜なら未だ沢山あるぞ」
 その言葉に「そりゃ無いよ」とおどけながら答えると見ていた友人達が笑い始める。青年も笑いながらパーティーに参加してビールを飲み始めた。
 それから一時間後、一人の友人が声をあげる。
「ん?おい、アレなんだ?」
「アレ?アレってなんだい?」
「ほら、アレだよ。あっちの方向だよ。何かこっちに向かってこない?あの水飛沫さ」
 その友人が指差す先には、確かにいつの間に現れたのか水飛沫を上げてもの凄い勢いで何かがヨットに向かって突き進んでくるのが視えていた。
「な、何だアレ!こっちに向かって来るぞ。やばい、このままだとヨットに激突するぞ!」
「は、早く移動するんだ!エンジンを動かせ!!」
 その光景に慌てて動き出すが、そこは狭いヨットのデッキの上のため移動も儘ならず全員が覚悟を決めた次の瞬間大変なことが起こった。
 なんと水飛沫を上げながら近づいてきた何かが突然ヨットの側で急停止したのだ。勢いよく上がっていた水飛沫も勢いそのままにヨットの上を通り抜けてしまった。そうして現れたモノに一同は驚愕してしまった。
 現れたのは一人のケンタウロスだった。サーフボードに乗り、右手には乗馬用のムチを持ち左手では手綱を握りしめているのだが・・・
「ね、ねえ・・・アレって・・・」
「・・・・サメだよな」
 その言葉通り手綱の先に一頭の大きなサメが括り付けられているのだった。手綱の先が海中に消えており口の部分に革みたいな物が巻かれているためその光景はまるで戦車を曳く馬そのものだ。
「あなた達、ここで不審な人とか船とかあと魔物娘とか見かけなかった?」
 サーフボードに乗りながらケンタウロスが尋ねてきたのだが、全員答えることが出来ずにいるとケンタウロスは首を傾げながら再度尋ねてきた。
「ねえ、聞いてるの。聞いていたら正直に答えてちょうだい。見たの見てないのどっち?」
「え、ああ。見てませんよ、オレ達。ここで暫くいたけど。みんな、そうだよな?」
 青年の答えに周りの友人達もコクコクと頷く。
「そう、もし見かけたら直ぐに連絡してちょうだい。海の中で声を出せば他にパトロールしている人達に聞こえるから」
 ケンタウロスの言葉に全員で頷く。
「それじゃあお願いね。お邪魔してごめんなさい」
 そして右手のムチを高々と掲げると勇ましく声を張り上げる。
「ハイヨ−−!!シルバーー!!!」
 その声に答え、サメはもの凄い勢いで泳ぎ出す。そうして来た時と同じ様に水飛沫を上げて波の向こうへと去っていった。青年達は茫然としたまま彼女を見送った。
 
 後に青年はこう語った。
「あのあと彼女の話題で持ちきりだったよ。乗馬されるだけでなくするのも得意なんだなってね」


 公園での出会い

 少年はその日も愛犬と一緒に散歩に出かけた。捨て犬だったのを学校帰りに拾って両親に許してもらいそれから一緒に暮らしており、今では家族の一員としてなくてはならない存在となっている。とりわけ少年との仲は良好で、放課後になると校門の側でお出迎えをするほどだ。そして休日となれば近所の公園まで出かけてそこで思いきり遊ぶのが当たり前となっている。
 そしてこの日も公園までやって来ると直ぐにリードを外してあげる。途端に少年に飛びつき顔をペロペロと舐めだす。
「アハハハ。こらこら、止めるんだよ。でないとボール遊び出来ないだろ」
 少年の言葉に愛犬はパッ!と離れると、目を輝かせてその手にあるボールを見詰める。尻尾をブンブンと激しく振り待ち続ける愛犬に少年は笑顔になると、大きく振りかぶってボールを放り投げる。
「そ〜〜れ、取って来い」
「ワオ〜〜〜ン!!!」
 喜びの声を上げてもの凄い勢いで走り出すと、ボールを咥えて一目散に戻ってきて少年の足元にボールを置く。それから早く投げてとばかりに興奮した面持で見上げてくる姿に頭を撫でてやりながらボールを拾い上げると、先程と同じ様に放り投げてやる。
「そ〜〜れ、取って来い」
「ワオ〜〜〜ン!!!」
 こうしてたっぷり遊ぶのだが、今日この日は何時もと違った。
 何度目か分からないがボールを放り投げた時、愛犬の側を黒い影が走り抜けるとボールを咥えて少年の元へやって来た。
 その黒い影は少年よりも大柄な一言で言うなら年上のお姉さんだった。但し手や足そして体の一部を覆う毛皮と頭の上にある犬耳を覗けばだが。
 近づいてきたそのお姉さんは咥えていたボールを少年に手渡すと驚いて固まっている少年に笑顔でこう話しかけた。
「さあ、次をお願いします。早く投げてください」
「えっ?!?!?!」
 少年が訳も分からず首を傾げていると、お姉さんは笑いながら隣りに視線を向けて語り出す。
「ね、アナタもこのまま負けたままでは終われないでしょ」
「ワンワン!ヴ〜〜〜、ワンワン!!」
 お姉さんの言葉に少年の愛犬が猛然と吠え出す。『今度は負けないから!』と叫んでいるみたいだ。
「さあ、そういう訳で。早く投げてくださいね。ま、この小っちゃな可愛い娘がワーウルフの私に勝てるとは思えませんけどね」」
「ワンワン!ワンワンワン!!」
(大丈夫かな?コイツ、負けず嫌いだから勝つまで諦めないだろうけど)
 結局少年は愛犬の熱意に負けてボールを手に取ると大きく振りかぶり、
「それっ!!!取って来い!!!」
 放り投げたボール目掛けて一人と一匹が猛然と走り出す。スタートはほぼ一緒だが、人型のワーウルフのお姉さんがすぐに先頭へ躍り出る。対して少年の愛犬はその後ろを懸命に追い駆けて行くのだが、やはりどんどん引き離されていく。そしてお姉さんが余裕でボールに追いついて拾おうとして屈んだとき、
「ダメッ!」ドン!「キャッ!!」カプッ!ダダダダッ!!!ポトッ。
「・・・・・え???」
 目の前で起こった出来事に少年は目をパチクリさせる。なにしろ少年の愛犬が叫んだと思ったら、突然人間みたいな姿に変わるとお姉さんを突き飛ばしてボールを拾って来たからだ。そんな光景を目の前で見ても少年には理解できず茫然としてしまうのもムリ無い事だ。
「ご主人様!拾ってきましたよ!私の勝ちですね♪」
 少し犬っぽい顔つきをした少女が満面の笑みでいると、お姉さんが何故かニコニコと笑顔で戻って来ると少女をジロジロと見つめる。対して少女も負けじと睨み返す。
「な、何ですか?今のは私の勝ちですよ!ちゃんとボールをご主人様に持って来たんですからね!!」
「アナタ、自分の姿に気づいてないの?」
「??何のことです?私の姿って・・・・え???な!何ですか?!この姿は?私、如何しちゃったのですか?!?!」
 慌てて自分の身体を見たり触ったりしてその場でグルグル回り出す少女の肩を掴むと、そのままお姉さんは優しく語り掛ける。
「大丈夫よ、先ずは落ち着いて。今アナタはクー・シーと云う魔物娘に生まれ変わったのよ」
「わ、私が魔物娘に・・・ということは、これからはもっとご主人様にお仕えしてもっとお役に立てるのですね!!!!」
「良かったわね、念願叶って。私も頑張って身体を張ったかいがあったわ」
「はい、ありがとうございます。・・・・あの、もし良ければお礼がしたいのでこのままお家まで来て欲しいのですが?」
「あら、いいの?それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
 すっかり意気投合して二人で和気あいあいと話し始めるのを眺めながら、少年はワーウルフのお姉さんと愛犬に起こった出来事をどうやって両親に話そうかと頭を悩ませていた。

 後に青年となった元少年はこう語った。
「あの後両親に話したらすんなり受け入れてくれて、クー・シーは僕の秘書にワーウルフのお姉さんはボディガードになってくれて。二人のおかげで僕の人生は順風満帆です」
 


「如何でしょうか?おや、皆さん可笑しな顔をされて如何されましたか?ああ再現映像と云うのに可笑しな人といいますか魔物娘なんて変な人達がいたことに対して、不思議がっているのですね。
 う〜〜ん、そうですね。口で話すより、そっちのほうが早いですね。それにプレゼントの事も有りますし♪
 では皆さん、後ろをご覧ください。そして、みんな〜〜〜!!!入っていいわよ〜〜〜!!!!」
 私の合図に今か今かと待ち続けていた魔物娘のみんなが我先にと飛び込んでくるのをステージ上で見てニンマリと微笑むと、マイクを手に締めのあいさつに入る。
「え〜〜〜、という訳でこれにて続いての企画の『旦那さま選び放題婚活イベント』に移りますので、皆さん覚悟してくださいね♡あ、ゴーストの皆さん。この前みたいに鬼ごっこで最初に捕まえた方がお嫁さんになるなんてケチ臭いことはいいませんから、じっくり選んでくださいね♪」
 

 
15/10/21 04:55更新 / 名無しの旅人

■作者メッセージ
こんな手紙が来たらと思い郵便ポストを覗いてみますが・・・
は〜〜〜、またサギまがいのかよ。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33