連載小説
[TOP][目次]
1 出会い
ぼくは物心付いた時から貧民街に生きてきた。
子供がここで生きていくには手段は選べない。生ごみを漁り、物乞いし、スリをし、同じ浮浪者からの暴力に怯える惨めな生活を送った。良い奴から消える灰色の世界で、ぼくにここでの生き方を教えてくれた奴はもう消えた。病気か飢えか、殺されたか。今日生きるには誰かを犠牲にしないといけない。
灰色の月明かりに照らされて、誰か歩いてくる。夜半に貧民街を歩くのは同じ貧民かバカか。目を凝らすと夜なのに日傘を差した豪華なドレス姿が見えた。自分はずっと辛い生活をしているのに、この貴族は良い暮らしをしているのだ。都合よく独り。放っておけば、他の浮浪者に横取りされるかもしれない。今日の獲物はこの貴族女にしよう。

暗闇の中光るキラキラした髪。陶器の様な白い肌。顔は相変わらず見えないけれど、本物の宝石細工も持っているかもしれない。スって売れば数カ月は食べていける。ひょっとしたら身形を整える余裕も出てくるかもしれない。この地獄から出ていける。貴族の持ち物は高く売れるし、とにかく何かひったくってやろう。飛び出して傘を掴んだ。
だがすぐに腕をとられた。ありえない力だ。若い貴族女の細腕とは思えない力だった。
「折角の息抜きが台無し」
「は、放せっ」
「悪ガキね。スリをしようとしたんだから、どんな目に会うか分かるでしょ?」
傘の内にはととても綺麗な顔があった。切れ長の目、深い空色の瞳、八重歯が意地悪そうな整った顔立ちが見えた。貴族令嬢だった。白い首筋から下へ下へ視線を下ろしていくと、ドレスからはみ出るお化けの様なおっぱいがあった。
「お前、親御さんはいないの?」
「親なんて知らないっ」
「ごめんなさい」
貴族令嬢はぼくの答えに神妙な顔になり、何か考え込んでからぼくの手を引いた。
「ちょ…何すんだよっ」
彼女はそれには答えない。抱き寄せられ、二つの大きな白いおっぱいが視界いっぱいに広がった。柔らかい感触が顔に当たる。
気付くと、ぼくは立派な部屋で立っていた。目の前にはキラキラした金髪と蒼いドレスのたっぷりした胸のあの貴族女がいた。彼女は椅子に偉そうに腰かけ、まじまじとぼくを見る。
「お前、名前は?」
「………」
「答えなさい」
キリリと吊り目で迫られると、不思議と逆らえなかった。
「……名無し」
「そう。良いわ。それじゃ私が付けてあげる。エミールなんてどうかしら」
「勝手に付けるなよ!」
貴族女は無視して続ける。
「私はベアトリクス。エミールのご主人様よ。よく覚えておきなさい」
いきなり連れ去られされ、勝手に名付けられて強引に自分の存在を塗りつぶされる。我儘で無茶苦茶な貴族らしい。悔しくて何も答えなかった。
「エミール、お前は今日から私の玩具よ」
「!?」
貴族に遊び殺される。怖い。どう殺されるんだ?貧民なんて本当に玩具と思ってるんだろう。見下ろす目は綺麗だった。この世のものとは思えなくらい。でも綺麗なのは見た目だけに決まってる。やっぱり貴族は嫌いだ。貧民は金を搾れる雑巾位にしか思っていないんだろう。こういう奴らが貧民を生む。どうせ殺されるなら全部言ってやる…!
「あんた何なんだ。ぼくは貴族が大嫌いなんだよっ」
「ふぅーん、諸侯が嫌いなの?」
「お前らが税金を取り過ぎて町が酷い事になってんだよっ!少しは貧民に金を残せ!貧民なんて人間と思ってないんだろ!?」
女は少し眉をひそめて小さな溜息をついた。
「私はヴァンパイアよ。人間の諸侯はもうずっと前に止めてるわ」
女は指で唇を持ち上げ、牙を見せてきた。人間じゃない。怪物女に目を付けられれば命がいくつあっても足りない。全身から噴き出す冷や汗。逃げなきゃ。
「何を怯えてるの。折角手に入れた玩具なんだからすぐ壊す訳無いでしょ?おいで」
落ち着こう。貧民街では脅しや暴力が当たり前だった。すぐ殺されない事が分かれば儲け物じゃないか。後は隙を見て逃げ出せばいい。逃げるのも得意分野。今は素直に従って油断させればいいんだ。身構えていると、怪物女は予想外の事を言いだした。
「まずはその髪を綺麗にしなきゃね。えーっとハサミは…」
「ふぇっ」
怪物女はハサミを取り出し、伸び放題のぼくの髪をザクザクと切り始めた。
「やめろっ」
「大人しくなさい。危ないでしょ。やだシラミが付いてるわ」
怪物女は暴れるぼくを無視して伸びきった髪を切り揃えていた。抵抗すると白い細腕で抱き寄せられ抑え込まれた。大まかに髪を切り揃えると、ぼくを白いタイルの部屋に導いた。目の前には人が二人位浸かれる大きな白い水入れが湯気を立てている。何だこれは。
「はい、服脱いで」
「ちょ、何するんだっ」
「お風呂。綺麗にするのよ。シラミまみれの玩具なんて嫌じゃない」
「ふぇ!?や、やっ」
女の人が服を脱いだ辺りで目をつぶった。
背中にとても柔らかい物が当たる。良い匂いが広がって、お湯が温かかった。細くて柔らかい指が、ぼくの頭を包む。頭を洗われている最中ずっと女の人の鼻歌が聞こえた。
「そのまま目をつぶってなさい?目に泡が入ると痛いわよ」
背中にフヨフヨとしたものがふたつ当たる。とても滑らかで、包む柔らかさと押し返す感触。ぼくは恥ずかしくて死にそうだった。
次にお湯がかかって洗い流されたら、湯気の中薄っすら目を開ける。白い湯気の中で白い身体を洗う金髪の女の人がいた。大きな胸が湯気の中ぼんやりと浮かんでいて、神秘的だった。
「前は洗える?」
「あ、洗えるっ、洗えるからっ」
女の人が湯気越しに話しかけてきたので、大慌てだった。湯気が濃くて助かったけど、綺麗な女の人の身体は湯気の中でも何となく見える。落ち着かなきゃ。あたふたしている内に全て終わった。
お風呂から出され、白い布で柔らかく全身を拭き取られた。ふわふわした白い羽織りをゆったりとかぶせられる。女の人も同じような羽織を着て、寝室に連れていかれた。
「ここが私のベッド。お前にも今日からここで寝てもらうわ」
ふわりとベッドに座る女の人。おっぱいがこぼれそうだった。隣に座る事を促される。ゆったりした寝床は初めてだった。
「お腹すいてるでしょ?苦手なものはある?お夜食持ってくるから」
「お、お化けに施しは受けないっ」
「お化けじゃなくてベアトリクス。ご主人様の名前なんだからきちんと覚えなさい」
女の人は溜息をついてベッドから立ち上がって部屋から出ていった。
得体の知れない女の人がいなくなった事で落ち着きを取り戻す。
寝室を見回せば、埃の溜まった家具の数々。あれ程身形の整った貴族が住んでいるなら使用人の一人が居てもおかしくはなさそうなのに、ベッド回り以外はまるで数百年間そのまま放っておかれた様な有様だった。壁には歴代の当主らしき肖像画が掛けられているが、手入れが行き届いているとは言い難い。暫くするとあの人がやって来た。
「お夜食よ」
家具の影から音も無く表れた。2つの皿を持っている。一つの皿には何やら野菜や肉らしきものが色とりどりに盛りつけられている。湯気が漂っており良い香りがする。もう片方は真っ黒い皿だった。どろりとしたスープが紫色の瘴気を漂わせている。
「な、毒!?」
「アンデッドハイイロナゲキタケのスープ。これは私の。お前にはこれ」
綺麗な美味しそうな皿の方を渡される。
「何これ…」
「腸詰見た事無いの?安心なさい。人間の毒になる物は入れてないから。…あーん」
「独りで食べられるっ」
香りと湯気に負け、皿を引っ手繰り、そのままむしゃぶりついた。がつがつ食べる。美味しい。力が湧いてくる。ベアトリクスはくすくす笑っていた。バカにして…!
でも、悔しいけど物乞いやスリをしていたぼくにとって初めて食べたまともで美味しい食事だった。料理から目を離すと、すぐ目が合う。食事中まじまじと見つめられるは気になる。ひょっとして実は毒が入っていて苦しみ出すのを待っているのだろうか。
「口にあうかしら?無理して食べてない?」
「ふぇっ。そんなことない。美味しいっ」
とっさに言ってしまった。不味くないし、嘘は駄目だから言っただけだ。それに機嫌を損ねて嬲られてもかなわない。今は彼女に命を握られているのだから、貴族に媚びているだけ。逆らったら殺されるかもしれない。かといって従っていてもいずれ遊び殺されるかも。隙を見つけて逃げ出さないと。
「エミール、食べる時は静かにね。こうするのよ」
わざわざ見えやすい様に食器の持ち方を教えてくれる。お化けの癖に随分と丁寧で優しい。
「ゆっくり食べて良いのよ。誰もとらないわ」
「う、うるさいな」
ベアトリクスはニコニコして上品にスープを食べる。うす暗い部屋で何をしても彼女は絵になった。
「まだ疑ってるの?まぁあんな所で育っちゃあねぇ」
「当たり前だろ!勝手に全身洗って、勝手に美味しい物食わせて!」
「何がいけないの?」
「う……」
白いバスローブ姿の吸血鬼は、そのまま隣に腰かけた。金色のまつ毛が綺麗過ぎてベアトリクスの目が見られない。ふよよんと揺れている。
「な、なんだよっ」
「玩具の分際でご主人様のおっぱいに興味津々なのかしら?」
指摘されて慌てて視線をはずす。女の人のおっぱいは初めて見た。あまりに深い谷間で立派。嫌でも目が行く。女の人は皆こうなのか?
「サイズはかなりあるんじゃないかしら?気が向いたら触らせてあげるわ」
「いいよっ」
完全に遊ばれている。ぼくをからかう彼女は、とても不老不死の怪物には見えない。怖さより恥ずかしさでいっぱいになった。
ひとしきり食べ終わると、すっかり乾いた髪を手で梳かれ、ベッドに誘われた。
「ほら、今晩は疲れたでしょ?いらっしゃい。命令よ」
吸血鬼が抵抗するぼくをしっかり抱き込んで逃げられない。それどころか撫で撫でしてくる。あまりに立派で豊かなおっぱいで、密着すると自然に当たる。ぼくは押しつぶされ、余計にどうしていいか分からなくなる。
「ぷはっ!やめっ、やめろぉ〜〜〜〜〜!」
「今夜は何もしないから安心なさい」
ぼくは彼女に抱きしめられ、背中をさすられながら寝かしつけられた。













早起きすると彼女は寝ていた。逃げるならこのタイミングしかない。寝息を立てる彼女はとても綺麗だったけれど、そろりと腕の中から抜け出した。扉を静かに開けて廊下に出ると、廊下は白っぽいカーペットが敷かれている。閉め切られたカーテンから漏れ出る陽の光は、廊下に舞う埃を照らし出す。光に導かれてカーテンを持ち上げると、大きな庭園が見える。蒼い薔薇が咲き誇っていた。
「綺麗……」
ぼくは目的を忘れ階段を下りた。広い屋敷の中を迷い迷って広い庭園に下りた。
「うわぁ〜!」
蒼い薔薇など見た事が無かった。朝露がキラキラしていて宝石のようだった。庭園を歩くと、その広さも驚いた。伸び放題で荒れているとも取れるけれど、荒々しい棘を飾る花びらはとても美しくて。
グルルル…
薔薇に見とれていて気付かなかった。庭園の外から狼が何頭も入っている。狼達はぞろぞろ現れ、群を成してぼくを取り囲んできた。血に飢えた獣は貧民街でも恐れられる。何人もの飢えた貧民が喰い殺されていた。狼達はおぞましく吠えかかり、飛びかかろうとしてきた。食べられちゃう…!












「イケない犬共ね」
透き通った声が響く。固まる狼達。まるで何か巨大な外敵に睨まれ怯えている様だった。声の方に振り返ると彼女がいた。彼女はゆっくり踏み出すと、狼達はジリジリと後ずさる。
「私の大切な玩具に何してるの?」
今まで聞いた事の無い冷たい声。ゆったり歩いてくる貴族令嬢に、狼達は大慌てで逃げていった。狼達が去ると彼女は日傘を投げ捨ててふらふらとぼくに駆け寄ってきた。
「馬鹿ッ!怪我したらどうするの!」
いきなり抱き締められる。彼女はかたかた震えていた。何に怯えているんだろうか。きつくきつく抱きしめられて、でもいつもの彼女の力ではなかった。弱々しく頼りなく儚い力で必死に抱き締めてくる感じだった。
「勝手に庭に出ちゃダメ。いい?約束なさい?この辺りは人間には危険なの。庭に出たいなら私に言って?お願いだから」
ぼくはどうしていいか分からなかった。陽が高くなった庭園で、ぼくは綺麗な人に抱きしめられたまま立ちつくしていた。





そんな事があってからベアトリクスは、隙を見せず付きっきりに居る様になった。
服を着る時も彼女の着せ替え人形の様になり、黒いマントと白いひらひらのついた物を着せられた。何をするにも一緒で、大切に大切に扱われた。
「そんな腕引かなくて大丈夫だよっ」
「駄目。お前の命は私の玩具。勝手に壊れる事は許さないわ」
ぼくの手を引く彼女は何度も何度もぼくを確認していた。暗い部屋に戻るといつもの彼女だった。強引に引っ張られているみたいだけれど、痛くない。彼女が本気を出せば人間ならひとたまりも無い事はぼくにも分かる。助けてもらったし屋敷の外には猛獣もいる。もう逃げる気も起きなかった。それなのに彼女はいつも傍にいて目を光らせている。丁寧な世話は相変わらずだった。
厨房に連れていかれる。ちょこんと椅子に座らされる。
彼女はどこからか持ってきた水に何やらハーブを浮かべてから洗いはじめた。重そうな鉄鍋を軽々持って手から蒼い焔をふわりと出し、何かを焼き始める。
豪奢な貴族令嬢が簡単なエプロンを纏って鍋を振る背中を見て、手持無沙汰になって来た。ぼくだけが楽をさせてもらっているのも申し訳ないし、少しでも役に立ちたい。
「なにか手伝いたい……」
「物好きな子。奴隷にでもなりたいの?」
「誰もそんな事言ってないし」
一々怖い事を言われるが、本気で無いのは分かりきっている。振り返る彼女の顔が優しい笑顔だったから。
ぼくは可愛いエプロンを付けられ、皿洗いを教えられた。一番簡単な仕事だ。
それでもベアトリクスは洗い方を丁寧に教えてくれた。用意されている水は例のハーブを浮かべた甘い香りのする不思議なもの。
「こうやって洗うの。それといい?お皿割っちゃった時は絶対に自分で拾わないで。怪我しちゃうからね?」
こんな調子で何度も何度もぼくに言い聞かせた。心配性な人だ。
隣ではエプロンを付けた彼女がいる。大きな胸がエプロンを窮屈そうに押し上げていて改めてその整った姿に見とれてしまう。彼女は難しい顔で大鍋を器用にさばき、同時並行で料理していた。チラチラ見ていると、目があって彼女の手元が狂う。
「きゃっ」
熱い汁がエプロンからはみ出る谷間にはねたらしい。慌てて彼女に駆け寄る。
「大袈裟ね。大丈夫よ。見てごらんなさい」
彼女の豊かな白い胸にあった火傷の痕は溶ける様に消えていった。
「大丈夫でしょう?お前と違って私は不死なの」
厨房で大きな白い胸をどーんと見せつけられ、ドキドキしてしまう。ましてエプロンで隠しきれないおっぱいなら尚更。
「何よ赤くなっちゃって」
彼女も少し赤くなっている気がした。それからはどちらともなく小さなミスを繰り返し、食事が完成したのは昼過ぎになってからだった。
遅すぎる朝食を食べた後、彼女から許可を貰って、屋敷の広い広い廊下を走り回った。カーペットは白っぽく見えるが、埃でそうなっているだけだった。歩いた所がそのまま空色に染まるのは面白く、ぴょんぴょん跳ねまわった。掃除すればいいのに、そうしないのは理由でもあるのか。大きな扉が沢山あり、開いて中を覗いてみるが、必要最低限のものしかない。時に荒れ放題の部屋もあった。埃がひどく、激しくせき込む。
「けほけほっ」
「大丈夫っ!?」
「うわっ!」
咳込んでいると不意に後ろから彼女が現れる。相当オロオロしているようで、わざわざ腰を折って目線を合わせ、繰り返し背中をさすられる。
「苦しい?どこか悪いの?言ってみて?」
「ちょっと埃っぽくて苦しかっただけだよっ」
どうしていいかわからなかった。真剣な表情で抱かれ、その豊かな胸元に押しつぶされた。埃より胸の方で息が出来なかった。痛い位抱き締められ、少し抵抗すると慌てて力を緩められた。胸元から開放される。少し惜しい気がする。
廊下を歩きながらベアトリクスはつぶやく。
「人間がひ弱な生き物だった事忘れてたわ。全く世話が焼けるわね」
さっきまでと打って変わって強い言葉。だが声色や態度はまるで逆だった。手を引いて、しきりにぼくの様子を確認しながら寝室に連れていく。
「手のかかる玩具だこと。そこで寝てなさい。掃除してくるから」
「使用人とかいないの?貴族なんでしょ?」
「…………居ないわ」
貴族の身で家事を独りでこなしていたのだろうか。貴族は面倒事を全部使用人にやらせて貧民からの税金を貪ると聞いていたのに、彼女は違うらしかった。つまりはわざわざ手間をかけて自分の分とは別に貧民に合わせて食事を作ったり、世話をしてくれているらしい。
「ぼ、ぼくに出来る事は無いの?」
「掃除を手伝う玩具がどこに居るの?そこで寝てなさい。命令」
頬に優しく触れられ、黙らされる。しかし手持無沙汰で寝室に寝ているだけではつまらない。かえって不健康だ。なんとかお手伝いしたい旨を伝える。
「はぁ。お前は私と違って不老不死じゃないの。怪我や病気になったら大変じゃない。私は白魔法苦手なの。お前に何かあっても治せないのよ」
「大丈夫だって」
「お前は私の玩具よ。勝手に怪我するのも……掠り傷だって許さないわ」
静かな声だが感情がこもっている。何故か分からない。何を怒っているんだろう。
「生意気な玩具ね。ご主人様が休めと言ってるのよ」
こうなってはどうしようもなかった。野獣達に見せた冷たい怒りに触れるのはごめんだ。大人しく従ってベッドに連れていかれた。彼女は何度も何度もぼくがベッドに入ったか確認していた。
「……勝手に逃げだしたらぶっ壊してあげるから覚悟なさい」
彼女は去っていった。













独り寝室に籠る。部屋を出るなと言われてやる事も無くゴロゴロする。
何もすることが無いと、広いベッドの上であの深い谷間を思い出して悶々とする。あの吊目がちな綺麗な顔立ち。顔より大きな白いおっぱい。きゅっとくびれた腰。あんな無防備にチラつかせられて…
「……ベアトリクス…」
「何かしら」
「ひ」
枕を抱きしめて顔をうずめてぐりぐりやっていた所に不意にベアトリクスが現れた。
「へぇ〜。ご主人様に内緒でイケない妄想でもしてたの?」
「そ、そんな事っ」
「ご主人様にはお見通し……」
ゆっくりと近づいてくる顔に恐怖を覚えた。歪んだ笑顔だ。なにかゾクゾクしている様な怖い笑顔だ。最高の玩具を見つけた様な無邪気な、でも危険な笑顔だった。たゆんたゆん間近に迫ってきてベッドに腰掛ける。
「素直に言ったら触らせてあげるわ」
「え…」
目の前にどんと突きだされたおっぱい。青いドレスが強調する肌の白さ、きめ細かさ。わざわざゆやんゆよんと目の前で揺らされて、意地悪にも程がある。
「おねだりなさい」
「ふぇ…」
「素直におねだりしてくれればいつでも触らせてあげるって言ってるの。でも素直じゃない子には触らせてあげないわ」
触りたいけど、そんなの恥ずかしくて。
「ほらぁ。いいの?男の子は好きなんでしょ?チラチラ見てバレバレなんだから。素直になりなさい」
深い空色の瞳に見つめられると、どうしようもなくなる。自分でも顔が真っ赤になったいるのが分かった。恥ずかしさをかなぐり捨てて叫んだ。
「さ、触りたい!触りたいよぉッ!」
自分の顔から火が出そうなのに、ベアトリクスは冷たく笑って冷酷にのたまう。
「触らせてくださいご主人様………でしょ?」
この時、ぼくの中で何かが壊れた。
「……っさ、触らせてください……ご主人様」
「それじゃ条件があるわ」
ここまでお願いしているのににやりと牙を見せる意地悪なご主人様。
「血を吸わせて」
「え…」
「死なない程度に吸うから」
怖い事を言われた様な気がするけれど、ぼくはもうおっぱいが欲しくて頷くしかなかった。ご主人様は心底嬉しそうな顔でドレスをはだけさせ、ぼくの手を立派な胸に導いた。
「ふぁ…」
「んっ…」
あまりの柔らかさ。背中に当たった時とは違い、掌を押し返す弾力と優しく包む柔らかさを両立した絶妙な感触がはっきり分かる。最初控えめに揉んでいたけど、未知の心地よさに次第に無遠慮で夢中になって揉んでしまっていた。ベアトリクスはおっぱいに夢中になるぼくを観察していた。
「顔真っ赤にしちゃって可愛いわぁ…♪そんなに必死に揉まなくても逃げないわよ」
大人の余裕なのか。ぼくはひたすら夢中で揉みしだいた。
「ひぁっ♥」
「痛かったっ?……ですか?」
「ち、違…」
それからご主人様は何やら気まずそうな赤い顔をしていた。でも、胸を突き出したまま触らせてくれていた。ベッドの上でちょこんと座ってご主人様のおっぱいを揉みしだく。
鼻孔をくすぐる甘い香り。鼓動がばれてしまいそうな位大きくなる。相手にどう思われているのだろうか。
「おっぱい触りたかったらいつでも触らせてあげるから、ちゃんとおねだりなさいね」
「うん」
「じゃあ私の番。おいで?痛くしないから」
ご主人様が腕を広げて胸に飛び込むよう誘う。素直に寄りかかると、ふわりと抱き締められて、背中をさわさわ。しばらくそうしていたら舌が伸びてくる。
「〜〜〜〜〜!」

「っぱ……痛くないでしょ?」
「う、うん…変な感じっ」
「可愛い顔……好きよ」
じゅるじゅると大きく下品な音がする。とても綺麗なお姉さんが立てる音じゃない。
全身から力が抜けて彼女に全体重を預けて抱きついてしまう。彼女は細い身体でぼくを支え、包み込んで牙を立て、舌でねっとり舐めてきた。舐められて舐められて、舐められる度に気持ち好くなって。
全身がぞくぞくして、自分が自分で無くなっていった。
吸血はすぐ終わってしまった。傷跡は無く、痛みも全くなかった。身体をくっつけておかわりをおねだりするけれど、彼女の答えは残酷な物だった。
「もっと吸ってほしいの?可愛い玩具ね。でも駄目。吸いすぎたら死んじゃうわ。フラフラでしょ?」
確かに身体が重い。ぼくはどうしちゃったんだろう。不安になる。
「大分吸っちゃったから貧血になっちゃったみたいね」
彼女の唇が離れていく。あぁ、そんな。







未知の感触の虜になってしまったぼくは、事あるごとにご主人様におねだりした。おっぱいの優しく暴力的な感触と、その後に待っている一方的に与えられる甘く切ない吸血との両方が欲しくてたまらなかったから。いつでも触らせてあげるという言葉通り、ご主人様は言えば必ず触らせてくれた。
「ご主人様のおっぱいがそんなに好い?」
「ぅ………」
呆れた様な顔をされた。だが嫌そうではなく、ベッドに座るぼくが揉みやすい様にわざわざ屈みこんで触りやすい様にしてくれている。
「そんな顔しなくていいわ。ん…っ♪玩具を満足させるのも主人の務めだから」
鼻にかかった甘声を隠し切れていない。大嫌いだった貴族のお化けがこんなに優しかったなんて。
「うふ♪必死に揉んじゃって可愛い……♪」
ご主人様はぼくを見降ろして怖い笑顔をしていた。耳まで赤くしていて、ぞくぞくしていた。おっぱいを堪能すると、彼女の綺麗で怖くて冷たく甘い笑顔が迫って来た。
またあの甘い感覚が味わえるんだ。
















to be continued
19/01/24 23:34更新 / 女体整備士
戻る 次へ

■作者メッセージ
おねショタは女性優位でも一転攻勢も好きです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33