連載小説
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14:わるいこ[コボルド]
私のお兄様は、とても優しいです。

お兄様無しの人生なんて、考えられません。


外からやって来た私を受け入れてくれて、

いつも身体に気を遣ってくれて、

家族同然に扱ってくれるんです。


今日も一緒のベッドで寝ました。


でも最近、なんだかおかしいんです。

小さい頃には何も感じなかったのに。

お兄様に抱っこされてると、昔は身体がポカポカしてたのが、

最近はジクジク、きゅんきゅん。


獣じゃなくて人として、家族として扱ってくれているのに、

お兄様の首筋を、嘗めたくなったり。

お兄様の脱いだ服を、嗅ぎたくなったり。

お兄様と、その...エッチなことをしたくなったり。


そんなことしたらハシタナイって。

嫌われちゃうって怖くって。


そういうとき、私はオマジナイを頭の中で唱えるんです。


まて

まて


なんだか、とても強い力で体を縛り付けるような、使命感?がわいて、踏み留まることが出来るんです。


まて

まて

お兄様の下着なんて嗅いじゃいけない。

私は、たまに任されるお洗濯の時にも、このオマジナイを使うようになりました。


まて

まて

ベッドの匂いを嗅いじゃいけない。

お部屋の掃除も一苦労です。


私の身体、どうなっちゃったんだろう。

それに、お兄様の行動がいちいち気になります。

気付いたら、目で追っちゃいます。


一番怖いのは、お兄様が、学校から帰ってきたとき。


もやもや、ひりひり。


自分でも何を感じているのか、わからない。

たまに付いている、『嫌な臭い』を嗅ぐと、心が一気にご機嫌ナナメ。

いつものきゅんきゅんとは違う、チクチクするような、身体の熱さ。

分からないけど、分からないけど。

良くないことが起きそうな、嫌な感覚。

でも、正体が分からないと、何も出来ない。


でもきっと、これを我慢できないと、嫌われちゃう気がしました。


最近はちゃんと、眠れてません。

エッチなおねしょもしてしまいます。

ねばねば、とろとろ。

恥ずかしくて最近は、ずっとお洗濯の担当を自分から。

そしたら、またお兄様の下着が...


まて

まて

まて


こんな日の繰り返し。


誰か、相談できたら...

でも恥ずかしい。

怖い。

みっともない。

こんな相談でも、絶対に笑わずに聞いてくれる、そんな人...




一人、思い当たりました!



***



「ふむ、なるほどね。」


うんうん、と、真剣に聞いてくれるのは、お兄様とよく行くカフェの店員さん。

緑で、キラキラ、カッコいい。


それと、たまたまお店でコーヒーを飲んでいたお姉さん達。

黒くて、ツヤツヤ、頼もしい。

白くて、スベスベ、とってもキレイ。

青くて、プルプル、オトナっぽい。


「君の中では、まだ交わりは"普通"じゃないものなんだ。君だけじゃない、他にもそういう人は沢山居るよ。」

頭を撫でられる。気持ちいい。

少しだけ、心が軽くなった気がします。


「やきもち焼きさんなのねぇ...ウフフ」

黒いお姉さんが笑いました。でも、決して馬鹿にされたような気はしませんでした。

...やきもち?私が?

「そうね...お兄さんが、他の人に取られちゃって、ずっと離ればなれになるの、嫌でしょう?」

白いお姉さんは、喋りながら青い火を指から出しました。


お兄様は、大切な人。

私のワガママで、離れたくないなんて、そんなこと。

でも...お兄様が...遠くに...


また、あのもやもや、ひりひり。


「とっても、我慢って顔してる。...ずーっと、そうだったの?...辛かったのね。」


よしよし、と優しく撫でられて。

でも、ひりひりは止まりません。


「お兄さんは気付いてないか、世間の"普通"に縛られて、罪悪感から我慢してるか...それとも、外に恋人でも居るのか。」


恋人。


ひりひり、ぐつぐつ。


恋人、結婚、離ればなれ。


ぐつぐつ、じりじり。


「取られる前に、貴女のものにしてしまえば、よろしいのですよ。」


耳元で、濡れた青いお姉さんが、甘く囁きます。


「他のメスの臭いが、自分のオスに付いてるなんて、とっても嫌な事なのよ...あなただけじゃないわ、アタシもよ?...アタシは締め上げるけど」

反対側から、黒のお姉さんが、暗く囁きます。


メス。

他のメス。

そうか。時々、お兄様から漂っていた『嫌な臭い』は。

他の、私以外のメスの臭い。


じりじり、めらめら。



「おいおい、焚き付けてどうするんだい。目が完全に据わってるじゃないか。...ほら、紅茶で落ち着くと良い。」


店員さんの声で、はっと我に返りました。


「でも、この子が可哀想よ。発情しっぱなしで、それなのにお預けを自分でしちゃってるんだもの。」

真面目に、白いお姉さんは考えてくれています。


「コボルドの方々は、自制心が並大抵じゃないですからね...この子、"素質"は凄いけど」

青いお姉さんは、私を撫でながら悩んでくれています。


「...ねぇ、えーっと...ユキちゃん?だったかしら。」

黒いお姉さんが、真剣な目で私を呼びました。


「アタシ、この牙に"薬"が入ってるの。」

あ。と開けた、黒いお姉さんの口には、私のよりも細くて鋭い、立派で綺麗な牙が見えました。

お薬?


「あなたの苦しみを、これで治せるかもしれないわよ。...ちょっぴり、痛いけどね?」


私は、お兄さんが大好きです。

不調のせいで、迷惑をかけたくありません。

それに、こんなに辛いのは、もう嫌です。


私は黒いお姉さんに、お願いしました。


「偉いわね。そしたら、ちょっとだけ失礼するわね。」


がしっと肩を持たれて、少しびっくりしました。

でも、黒いお姉さんの目はとっても優しくて。


ちくり。


首筋がちょっとだけ痛かったけど、予防接種の時よりは痛くありませんでした。


「いい?ユキちゃん。あなたは我慢しすぎ。今日は大好きなお兄さんに、精一杯ワガママしちゃいなさい。」

黒いお姉さんは、ウィンクしました。


「あなたに入れたのは、薬じゃなくて、アポピスの毒なのよ。我慢しなきゃって気持ちを、ドロドロに溶かしてしまうの...ウフフ」

悪戯っぽく、とんでもないことを言う黒いお姉さん。

サッと血の気が引く私の耳元で、白いお姉さんと青いお姉さんは、私の両耳で囁いたんです。


「我慢できなかったら、それは毒のせい。」

「そう、毒のせい。...だから」


「「我慢できなくても、仕方ないのよ?」」



***


「ただいま〜」

大好きなお兄様が帰ってきた。

まて

まて

まて

いつもより、身体が熱い気がする。

だめ、だめ。


「ぉ、おかえりなさい!」

「うんただいま。...どしたの?体調悪い?」

まて

「い、いえっ大丈夫です!」

だめ、だめだ

我慢、我慢...

ああ、お兄様。目の前で上着を脱いで

『我慢出来なかったら、それは毒のせい。』

「...ふぐっ!!」

「ど、どしたのさ?...その体勢は一体?今日のユキ、なんか変だよ?」

「...え、えへへ、ちょっと、大丈夫...です」

「ほんと休んでた方がいいよ?なんか支離滅裂だよ?」


なんとか、踏みとどまりました。

この"毒"は強力でした。

お姉さんの言葉を思い出して、一瞬、無意識でお兄様に飛び付こうとしていました。 


まて

まて

まて

まて


「汗、凄いよ?ボタボタ落ちてるじゃんか...」


カーペットにシミを作っているのが、汗だけじゃないのは見なくても分かります。

私の下着は、お腹から湧き出すとろとろを吸いきれてません。

「フーッ...フーッ...」

お兄様、どうか、今だけは。

今だけはその優しい顔を近付けないで下さい。


「熱あるんじゃ...」


まて
まて
まて
まて
まて


ぴったりくっ付くおでこ。


まて
まて
まて
まて!
まて!!




すん、すん。

...ちょっと、まって?


まって。これは



また、他のメスの臭い?





...待ってたら、取られちゃう。



『『我慢出来なくても、仕方ないのよ。』』



ドサリ


「!?っ痛つつ...」


ぐつぐつ。


「ゆ、ユキ!?どうし」


めらめらめら。


「んむっ!?んん〜〜!?」


ぐらぐらぐらぐら。


"やきもち"が、首筋から、全身に燃え広がって行くのが分かります。


そうだ。そうだ。

仕方ないんだ。

私は毒が回ってる。

変な臭いをつけるお兄様が悪い。

仕方がない。

仕方がない。


きゅん、きゅん、とろり。

私のお腹が、お兄様の全部を欲しがっても、仕方ないんです。


私はきっと、正気じゃないんです。

仕方ないんです。


『精一杯ワガママしちゃいなさい』


私が今日、悪い子になるのは、仕方のないことなんです。



***



ユキに突然押し倒されて、訳がわからなくなっていた。

「んっ...ちゅる...!...ぷはっ...はぁ...」


深い深いキスをされたと気付くのに、数秒を要した。

僕の、人生初めてのキス。


「はぁ、はぁ、はぁ...お兄様ぁ?」


虚ろな目をしたユキが、ずい、と顔を寄せてくる。

舌はだらしなく口から垂れだし、唾液がテラテラと艶かしく糸を引いている。


ユキ!や、やめるんだ!


もがこうとしても、ユキの腕はびくともしない。

魔物娘の本気を舐めていた。


「私、ハナが効くんです。お兄様が何を食べたのかとか、何処に行ってきたのかとか、」


「他のメスと過ごしたのか、とか。」


そんな覚えは無かったが。

何か、ユキの瞳にゾッとするものを感じた。


「私、ずっと、ずーっと、我慢してたんです。良い子にしてたんです。」


びちゃり。

彼女が跨がっている僕の腰元に、濡れた感触。

鼻を突く、海のような、蜜のような。

脳を揺らす匂い。


「でも、お兄様は...お兄様は...他のメスと。」


こんなユキの表情、昔から今までで初めて見た。

太陽のような、明るい笑顔。

清純さ溢れる、清らかな瞳。

お日様の香りのする、モフモフの体。



僕が彼女に抱いていた、勝手なイメージ。

今、ユキは僕の知らない姿をしている。


「このままじゃ、取られちゃう。私は、お兄様と一緒じゃないと、嫌なんです。」



井戸の底のような、暗くて深い、濡れた笑顔。

色と嫉妬に狂い、青白い焔が見えそうな、恍惚とした瞳。

海のようなメスの香りをばらまき、テカテカとヌメる太股。



大きなシミを作ったスカートの奥で、ぐちゅり、ぐちゅりと。

薄い布越しに何かが蠢いている。


「あは...っ!私、お兄様と交尾、したいんです...」


据わった目を鋭くこちらに向けて、舌舐めずりするユキ。

じじ...と

ユキはスカートの中へ手を伸ばし、僕のズボンのファスナーを下ろす。



ぬる。べちゃ。



僕のそこは、ユキの熱に浮かされた体温を直に感じて、激しく隆起していた。


だめだ、だめだ。こんなこと。


「仕方ないんです。お兄様が、他のメスについていっちゃったら、私、たぶん、死んじゃいます...だから、仕方ないんです...んんっ!!」


ぬるり


「キャヒィィィン!?」


う、ぁ!


一瞬、抵抗があった気がした。

でも、それ以上に。


ぐにゅり、ぐにゅり。

びちゃり、ぐちゃり。



スカートの奥、ユキの中。

そこは、燃えるように熱くて。

そこは、蜜のように蕩けていて。


「ぅ......ぁ...」

焦点の合わない目。

だらりと開けられた口。

投げたされた舌から、トロトロと、ユキの唾液が僕の服を濡らす。



スカートのシミが濃くなり、拡がる。

見えない奥では僕を締め付けて、先端にナニカが吸い付く。


「おにいさま、わたしの、におい、こすり、つけて...クゥン!!」


ぬる、ぬる。


震える柔肉で、チューブから液体を搾り取るような、容赦ない締め付けと共に、先端まで引き抜かれる。


「わるいこ、わたし、すてないで」


僕は何か言おうとした。


ブチュン!


持ち上がっていたスカートが、ストンと落ちる。


ゴリュ


全体重がかかり、僕の先端で、ユキの奥のナニカを押し上げた。


ユキは俯き、キャラメル色の髪で表情が見えない。

声も無かった。

僕の腰の上に腕を突っ張って、震える。

ユキの体毛が、下から順に全部逆立つ。

脚は彼女の意思と関係なく、ガクガクと内股に痙攣している。


びしょ濡れの布地の向こう側で、じわり、じわりと、生暖かい感触が広がる。

ぎゅぎゅっと、中が戦慄く。


耐えられる筈がなかった。


でる

でる

こみあげる。


小刻みに締まる中を押し拡げ、ついにほとばしった。



「...っ!?...!...!!」



とうとう、ユキは崩れ落ちた。

それでも、中の小刻みな締まりが僕を容赦なく刺激して、貪欲に搾り取る。


「ひゅ ひゅ ひゅ」


ユキの喉から、辛うじて行われる呼吸の音が聞こえる。


「す、ない、で...」


意識を手放すユキのうわ言は、悲痛な声色だった。


「きら、に、なら、いで...おに、さま...」


目を閉じ、倒れ込んだユキは、僕の胸元を静かに濡らしていた。




***




「ただいま。」

「お帰りなさい!」

ぎゅっと抱きつくユキ。

すぐさま、スン、スンと愛しの彼の腹部にハナを押し付ける。


「...うん、他のメスの臭い、なし!」

「あはは...」


彼は別段、女性と深く触れ合ったことは無かった。

どうもユキの嗅覚が、ストレスで鋭敏になりすぎていたようだ。


「お兄様?笑い事じゃないんですよ!私が捨て犬にならないための、大事な日課なんですから!」


ユキはそれからというもの、今まで遠慮していた分を取り戻すように、彼にベッタリになっていた。


「大丈夫だよ、ユキ以外に"浮気"なん...んぶ!?」

「...ぷはっ...その言葉は、カフェのお姉さん達が『ばんしにあたいする言葉』??って言ってました。多分、とっても恐ろしい言葉なんです!だから、言っちゃだめです!」

「...あそこのお客さんの会話、ヤバいとは思ってたけど...ユキ、素直すぎ!影響されすぎ!」

「お兄様が鈍感過ぎるのが悪いんです!」


ギャアギャアとじゃれ合う二人。

しかし触れ合う内、次第にユキの鼻息が荒くなる。


「はふ、はふ...お兄様ぁ...私また、わるいこになりそうです...!」

「え!?朝も二回抜かずにしたじゃん!?」

「くぅん...まだアポピスさんの毒が、残ってるみたいで...」


彼の腕を強引にスカートの中に滑り込ませる。

彼は未だに、ユキのそこを直接見たことがない。

だが...


ぐちゅ


スカート越しの、熱と潤いと感触は、嫌というほど知っている。


「また、お兄様ので、毒、薄めてほしいです...」


ずり、ずり...と、彼に下半身を擦り付けるユキ。

すっかり味を占めてしまったようだ。

彼も彼で、今までで経験したことのない快楽に、すっかり魅了されてしまっている。

『まて』が必要なくなった彼らは、発情する度、遠慮なく交わるようになった。



「お兄様?私が"よし"って言うまで、離しませんから♥️」



***



カランカラン

「やあ。いらっしゃい。」

「あらまぁ、いつぞやの忠犬ユキちゃんじゃない。...今日は鈍感お兄さんも一緒なのねぇ。」

アポピスの女性客は、切れ長の目を僕らに向けてくる。

え?めっちゃ怖いんだけど、この人。

「なぁに?ジロジロ見て。...アタシのカラダの方が魅惑的かしら?...ユキちゃん、ジョークよ、ジョーク。」

ユキからの突き刺さる殺気が消えた。


「じ、実はアポピスさんに、お願いが有りまして...」

意を決して、僕はお願いをする。


「ユキに入れた毒を、解毒する方法を教えてください!お願いします!」

アポピスの女性客はポカンとしていたが

次第に、それはそれは意地の悪い笑みを浮かべ始めた。


「あらー?ユキちゃんには強すぎたかしらぁ?神様もメスに成り下がる毒だものねぇ?」

「僕、もう毎日...その、なんというかですね。」

「あらあらあら!ユキちゃんったら、案外ダイタンだったのねぇ。今朝も2,3発、お腹に溜め込んできたわね?匂いで分かるわぁ。」

「!?...ぁぅぅ...」


ユキは隣で顔を真っ赤にしている。


「この調子だと、僕の身が持たないんですよ...なんとかなりませんかね...」

女性客は何でもない事のように、答えた。


「そのうちインキュバスになるから大丈夫よ。精力の方は。...それにしても、アタシの毒もナメられたものよねぇ?」


? どういう事だ?


「"本当にアタシの毒が入ってたら"、今頃、あなた達は今でもずーっと繋がりっぱなしで、アタシの事なんか頭から吹き飛んでるわよ?」

...なんだって??

「ユキちゃん、やっぱり素質があったのねぇ!あのぬれおなごと白蛇の奥さんが言うだけあるわ。...まだ分からない?『何も入れてない』のよ、アタシ。」


え。


ユキの方を見る。


体はプルプル震えて、

目はグルグルしていた。

頭からは仄かに湯気が出ている。


「おに...さま...ちが、ちがうんです...!」

「あら、素直になれたってことでしょ?良かったじゃない。アタシ達、そのために背中を押してあげたんだから。」


あの目も、欲情も、やきもちも。全部ユキの本質だったらしい。

ユキがそれを受け入れるには、少しばかり心のキャパシティーを越えていたようだ。

「きゅうん...」

ぱたり

「ゆ、ユキーー!?」


自分と向き合った結果、従順な忠犬から恐怖のやきもち奥様ワンコに生まれ変わるのは、もう少し先のお話。
19/03/28 11:01更新 / スコッチ
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■作者メッセージ

「ああ、あの娘、甘酸っぱい感じで良いなぁ。」

「ご主人様?ワタクシも甘酸っぱいゼリー、お出し出来ますよ?」

「アッハハハ、張り合い方がおかしいんだよなぁ」


***


まて が得意なコボルドさんと、
まて を溶かすアポピスさん

この組み合わせ、流行ったりして頂けないものでしょうか...

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