読切小説
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野生児とソルジャービートルの話
 これは、商人である私が大陸南東部のジャングルを訪れた時の話。
 当時、私はこの大陸最大の大密林に、新たな商売の可能性を見出していた。
 最初は、多くの探検家と同じくジャングルの奥地に眠るという古代の黄金文明への興味だった。
 だがしかし、実際に現地に訪れたことでそこに息づく大自然の持つ価値に気がつき、原住民や魔物達との交易に着手したのだ。
 現在のジャングル交易は南部の商人ギルドの管轄であるが、彼らがしゃしゃり出てくるまでは私も随分稼がせて貰ったものだ。
 そしてその過程で、私は様々な常ならざる経験を積むことになったのだ。
 ……「彼」と出会ったのも、その経験の一つだ。

 ☆

 母なる大河の豊かな水と栄養に育まれた密林の植物群は、他に類を見ない程多様な生態系を内包しており、旧魔王時代より文明の侵入を阻み続けている。
 そこは大自然の領域であり、人間の浅知恵など役には立たない。ここでは大地の法に従う必要がある。
 私は、巨大な垂幕のようなシダの葉を掻き分け、巨岩と見紛うような木の根の上によじ登った。
 天を衝くような巨木の幹を見上げると、そこに何かで引っ掻かれたようなな十字の切り込みを見つけることができた。
 これこそ、私の探していたものだ。
 私は懐から木の実を加工した小さな笛を取り出し、それをおもいきり吹いた。

 ボーーーーーゥ……という太い音が森の木々に反響する。
 私は少し立ち止まって耳を澄ませた後、また歩き出した。
 先ほど見つけた十字の切れ込みは、アマゾネスの縄張りを示すものだ。定期的に笛を吹いて敵意のないことを示さねば、麻痺毒の塗り込まれた矢じりが私の頬を掠めることになる。

 私は巨大な植物群を掻き分けながら、もう一度笛を吹いた。
 すると、今度は反響に紛れ、別の笛の音が響いた。私の笛より、少しだけ高い音色。
 私は足を止め、それに応えるようにもう一度笛を吹く。
 すると、周囲の植物の陰から弓を構えた女性が現れた。
 一人だけではない。ぐるりと周囲を見渡せば、私は既に10人近いアマゾネスに取り囲まれていた。
 一際目立つ鮮やかな羽飾りをつけたアマゾネスが進みでてくる。
「暫くだな、商人殿」
 私は森の作法に倣い、胸の前で片手を握り、目を伏せる。
「お久しぶりです。祝祭の儀で入り用かと思い伺いました」
「長への貢物は?」
「こちらに」
 私は、背嚢から小さな皮袋を取り出す。
 アマゾネスはそれを受け取り中身を確認すると、片手を挙げて周囲のアマゾネスに合図を送る。
 私に向けられていた無数の矢じりが、下ろされる。
 羽飾りのアマゾネスは私に皮袋を返すと、先程私がしたように胸の前で片手を握り目を伏せる。
「無礼な振る舞い、大変失礼した。長の元へ案内しよう」
 私は、総勢10名のアマゾネスに守られるようにして、ジャングルの奥へと進んでいった。

 ☆

 密林の中を縫うように歩き、私はアマゾネスの集落へと通された。
 アマゾネスはジャングル内にいくつかの拠点を持っており、時期によって集落の場所を移す。これは狩りにおいて高い成功率を誇る彼女らが、周囲の獲物を狩りつくさないための工夫である。
 このときは、丁度ジャングル中央を流れる大河の畔、古代遺跡からほど近い高木の群生地の、その樹上。巨大なツリーハウスの集合体こそが、彼女らの集落であった。
 木で組まれた足場の上で、水瓶やら果物やらを抱えた男衆が忙しなく動き回っている。おそらくアマゾネスの夫達だろう。
 アマゾネスの部族では、女が狩りをして、男が家事をする。大変興味深いことに、一般的な人間の狩猟民族とは男女の立場が逆転しているのだ。だが、だからと言って男たちが脆弱な肉体を持つ訳ではない。少なくとも、私がこの部族内で見た男衆たちは皆筋肉隆々で、私など片手で捻りあげられてしまうようであった。

 そんな男衆達の脇を通り抜け、私は部族の長の部屋へと案内された。
 案内役のアマゾネスが扉を叩くと、中から「入れ」と声がした。
 部屋の中には独特な香りの香が炊かれており、私は反射的に顔を歪ませた。
「暫くだな。待ちわびたぞ、商人殿」
 その香りの奥で、一際豪華な装飾に身を包んだ美しいアマゾネスが、金銀財宝、食べ物、酒、あらゆる贅沢品に囲まれるようにして腰を下ろしていた。この部族の長である。彼女の周囲に控える四人の男衆は皆彼女の夫であり、外で見た男衆よりもなお逞しい体つきをしていた。
「こちらを献上に上がりました」
 私はすかさず片膝をつき、胸の前で片手を握り目を伏せるポーズをしながら、布袋を床に置いた。
 男衆の一人が立ち上がり、袋を回収し、中身を確認してから長へと手渡す。
 長が手の上で袋をひっくり返すと、中から小さな真珠がいくつか転がり出た。
 長は、興味深げにそれを明かりにかざした。
「光は通さぬのだな。これは?」
「はい。それは真珠と申しまして、ここより北の海に棲む貝の中から稀に発見される宝石にございます」
「ほう、海の宝石とな」
 長は真珠を転がす。
「誠に真球の如き美しさであるが、これは人が作ったものか?」
「いえ、貝の中で、そのままの形で生み出されるのです」
「ほう!」
 長は感嘆の声を上げ、機嫌よさげに真珠と袋を自分の膝元に置いた。
 ……嘘は言っていない。あの真珠は確かにここに来る途中の港町で採れた本物の真珠だ。あの大きさ、輝きなら二束三文でも取引されるか怪しい品ではあるが、ジャングル内で真珠を目にする機会など殆どないのだから、それはまあ、砂漠の水の値段というやつだ。
「商人殿の持ってくるものはどれも珍品ぞろいで大変おもしろい。どれ、ここから先は商売だ。売りたいものを出してみい」
 私は背嚢からいくつかの麻袋と小瓶、そして織物を取り出した。
「こちらは毎回お持ちしております塩と香辛料にございます。これは前回ご所望でありました茶の葉を乾燥させたもの。こちらは北方原産の煙草。こちらは初めてお持ちしました、北海に棲息する魔物の毛皮で編まれた織物でございます」
「ふむ。塩と香辛料、茶の葉は買い取らせてもらおう。塩の支払いはいつもと同じ、二倍の重量の金で問題ないな? 香辛料は同じ重量のハニービーの蜜。茶については、以前話した通り二十倍の重量のバロメッツの果蜜酒を用意させてもらった。して、この煙草と織物であるが……」
 長は、手にしたキセルから煙を吸い込み、ぷうと上に向けて噴き出した。織物を手に取り、その感触を確かめる。
 ちなみに、彼女の持つキセルも、元は私が献上品として渡したものだ。以来、取引の品目に煙草が増えて、大変おいしい思いをさせてもらっていた。
「ふむ、普通の織物に見えるが?」
 長の懐疑的な声に反応し、私は待ってましたとばかりに口を開く。
「トンでもございません! これは私が北海を訪れた時の話なのですが……」
「簡潔にな」
 語り出しで釘を刺され、私の得意の語り売りはそこで中断された。仕方なく、織物の特徴を短く具体的に分かり易く説明した。
「こちらの織物はセルキーという北海に棲む魔物の毛皮を加工したものにございます。大変貴重な物でして、非常に頑丈で伸縮性も高く、これで編んだ服はまるで着用者の身体の一部であるかのように動かすことが可能です。さらに、その服を纏ってさえいれば、どれほど冷たい水の中でも一切の寒さを感じず、まるで陸上にいるかのように動き回ることが出来るのです」
 私の説明を聞き、長は「成程、それは面白い」とうんうんと首を縦に振り、「よかろうこの織物と煙草も併せて買い取らせて貰おう」と答えた。
 私は喜びのあまり、心の中でぐっと拳を握った。このセルキーの毛皮の織物は本当に貴重なものだ。さらに、南方のジャングルでの取引となれば、大きな付加価値が付く。その金額となれば、さらに塩一袋分の儲けといったところだろうか。。
「しかし、塩といい織物といい、商人殿は毎回本当に良いものを持ってきてくれる。我らが差し出す金だけで、本当に採算が取れておるのか?」
 頭の中でそろばんを弾いている最中に突然話しかけられたせいで、私は「はい!? ええ、まあ」と間抜けな返事をしてしまった。うんうんとうなずき、アマゾネスの長が続ける。
「だがしかし、今回献上した真珠など、相当な価値があるのではないか? 海の宝石ともなれば、塩一袋分では足りるまい?」
「ええ、まあ、塩で換算するなら2、3袋分といったところでしょうか……」
 突然貢物の価値を問われて少し驚いたが、それで怯むような私ではない。咄嗟に、市場で取引されるような大振りの真珠の価値を、ジャングルでの物価に置き換えて口に出す。
「そうかそうか、そういうことなら……」
 長は、私の献上した真珠の内一つを指で弾いて、私の元に転がした。
「煙草と織物の支払いはその真珠だ。さすがにそれだけでは後腐れもあるだろうから、バロメッツの体毛で編んだ織物を一巻きつけてやる。ありがたく頂戴せよ」
 私は膝元に転がる安物の真珠と、にこにこと笑みを浮かべながらも目だけは笑っていない長の顔を交互に見て、自らの失言を激しく後悔したのだった。

 ☆

 アマゾネスの長との商談に敗退し、私が部屋から退出しようと立ち上がった時、長が「ちょっと待て」と静止の声を掛けてきた。
「商人殿、婿入りの件、考えてはくれたかな?」
 私は、内心ぎくりとした。
「毎度毎度ジャングルを男一人で歩き回るのは辛かろう。もし部族の誰かの夫になるのなら、部族の一員としてジャングルの入り口から案内をすることが出来る。勿論、商人として別の土地を放浪することも認めよう」
 振り返れば、先ほどまで部屋の反対側で腰を下ろしていたはずの長が、目と鼻の先にいた。
「儂の末娘、アニラも随分お主のことを気に入っている。後はお主の返事だけだと思うが?」
 私は、冷や汗をかきながら困ったような笑顔で応答した。
「いやあ、私なんかがアニラ様とだなんて、本当にご冗談がお好きなんですから、本当に!」
 笑って誤魔化そうとする私に、長が一歩間合いを詰めてくる。
「そうかそうか、まあ、お主にも都合があるだろうから無理にとは言わんが……」
 長が、鼻と鼻がぶつかりそうな程に顔を近づけ、迫力ある低い声で呟くように言った。
「その気が無いなら、アニラに余計な知恵を吹き込むなよ。もっとアマゾネスらしく振舞うよう、お前からも言っておけ!」
 すっかり萎縮した私は、か細く「はい……」と答えると、殆ど蹴りだされるように長の部屋から退出させられた。

 ☆

 部屋から追い出される際に蹴られた尻を擦りながら、長の用意してくれた客室に向かっている道すがら、背後から「商人様!」と聞き覚えのある可愛らしい声が投げかけられた。
 振り返るより早く何者かに背後から飛び掛かられ、私はそのまま倒れ込み木の床に激しく額を打ち付けた。
「商人様、お久しぶりです! 先ほど見張りの者から、商人様がお母様を怒らせてお尻を蹴られたと伺いましたが、大丈夫ですか? お怪我などは、ございませんか?」
 私に体当たりを食らわせた何者かが、うつ伏せに倒れ込んだ私の体をごろんと仰向けに反転させる。私は額の痛みに気が付き、咄嗟にそこを手で押さえた。笑顔を作り、なるたけ明るい声でで挨拶をする。
「お久しぶりです、アニラ様」
 私の顔を心配そうにのぞき込むアマゾネスの少女、彼女こそが長の末娘、アニラである。頭には、動物の骨を加工してジャングルに咲く美しい花々で飾ったカチューシャを付けている。服は一般的なアマゾネスが着用する動きやすい布面積の少ないものとは異なり、長袖に裾の長いスカート。高い襟は首回りの肌を隠し、肌の露出が殆ど無い。確か、今年で12歳になるのだったか。
「髪を伸ばされているんですか? 以前にお会いした時に比べて、随分と女性らしくなった」
 起き上がりつつ、見たままのことを口に出す。彼女の髪は前に会ったときは首筋にかかる程度だったはずだが、今は肩甲骨を隠すほどになっている。特に他意も無い発言だったのだが、アニラはパッと顔を綻ばせ、歌う様に言葉を紡ぐ。
「そうなんです! 角も少し大きくなってきて、ちょっとだけ髪の中から顔を出すようになりました!」
 見れば、彼女の頭の右側面に、髪留めのような小さな突起がある。紛うことなき、サキュバス種の角だ。
「それで、その、やはり私も族長の娘ですから、これからの時代、外の方々から見ても恥ずかしくないようにしたいというか、商人様から見て私の姿はどのように……あら? 商人様、額の手をどけて頂けませんか? ……大変! 血が出ています! すぐに手当をいたしますので、こちらで少々お待ちを!」
「いやいや、お待ちください! アニラ様!」
 慌てて救護の道具を取りに行こうとするアニラの腕を掴む。アニラは、きゃっと小さな悲鳴を上げて、一歩退いた。私の顔を一瞥し、すぐに目が泳ぐ。
「す、すいません。突然のことで、驚いてしまって……」
 目を潤ませ、顔を真っ赤にして少し俯きながら、私の掴んだ場所を愛おしそうに指で撫でた。

 ……これが、族長の末娘、アニラの問題点だ。元々、これからの時代を生きていく娘たちに外の世界についても勉強させたいという族長の強い希望の元、私が外部の書物を集落に持ち込んだのが原因であった。アマゾネス達の多くは字が読めないため、挿絵の多い本を選んだのだが、幼いアニラはすっかりその本に影響されてしまったのだ。
 そのことに気が付いた長の命令で、本は早急に全て燃やされたが、挿絵の中の麗しの姫君達の姿は今もアニラの心の奥底に深く根を張り、彼女のアイデンティティを形作っている。
 さらに、幼いアニラは「外の世界への憧れ」を外の世界の住人である私への憧れと混同している。そのため、私は族長から多少の恨みを買っているのだ。族長は公私をしっかりと分けるタイプではあるが、たまに今日のような仕返しをされることがある。もし、アニラに傷の手当のような「男の仕事」をさせでもしたら、後で何を言われるか分からない。

 私は、背嚢を漁り小さな傷あてを取り出した。清潔な布で額の血を軽く吸い取った後、傷あてを張り付ける。
「これで大丈夫です。旅をしていれば、こんな怪我はしょっちゅうですから」
 何でもない風に言ったつもりだが、アニラは変わらず心配そうに見つめてくる。
 私は何とか話題を逸らそうと、遠くに見える遺跡群を眺めながら言葉を探す。
「あー、今回の祝祭はどういった具合ですか」
 アニラは納得がいっていないようではあったが、私の質問に答えてくれる。
「いつも通り、皆さんに支えられての大盛況です」
 毎年この時期に寺院跡地で開催される祝祭の儀には、ジャングル中の魔物が集結する。そして、アマゾネスは、その儀式を取り仕切ることで自分たちがジャングルの支配者であることを内外に強烈に主張しているのだ。
「しかし、いい時にいらっしゃいました」
 アニラが、少し目を細めて言葉を紡ぐ。
「明日の晩には、ソルジャービートルによる決闘の儀があります。今年は北南東の豪傑が揃い踏みで、過去最高の闘いを見れるでしょう」
 そして彼女は、「グラハも喜ぶでしょうね」と続けた。
「グラハが? なんで?」
「あら、知らずにいらしたのですか?」
 アニラは意外そうにこちらを見てくる。
 グラハは、私と多少の縁がある人間の少年だ。詳しくは後で話すが、彼が喜ぶ意味が分からない。
 要領を得ない私に、アニラがやれやれといった様子で教えてくれる。
「商人様でも、知らないことがあるのですね。明日の決闘には、グラハも出場しますよ。もし勝てば、彼もめでたく成人です」
「グラハが!?」
 反射的に喉を出た大声に、周囲を通りかかった男衆が何事かとこちらを見た。だが、そんなことを気にしている場合ではない。
「アニラ様、明日が試合という事は、グラハはこの近くに居ますよね?」
 私はアニラに掴みかかる様にして問いただす。
 アニラは少し混乱した様子で、
「え、ええ、恐らくこの時間なら、遺跡の近くで訓練をしているのではないかと」
「すぐに、案内してください!」
 私は、アニラに連れられ、遺跡群へと向かったのだった。

 ☆

 頭上を見上げれば木々の隙間に巨大な遺跡が見えるようになってきた頃、近くから、固い木を打つような音と、叱咤するような女の子の声が聞こえ始めた。
「ああ、きっとあれですね」とアニラが呟き、「こちらです」と私の手を引いてくれる。
 音のする方の茂みから顔を覗かせると、一人の人間の少年がランサービートルの槍を片手に、同じく槍を構えた少女に向かって打ち込みをしていた。少女の方は、人間ではなくソルジャービートル……その中でもランサービートルと言われる、一本角の昆虫型の魔物だ。体型はアラクネ種に近いが、全身を覆う重厚な外骨格が別種であることを強烈に主張している。
 槍を打ち込んでいる人間の方が、渦中の少年、グラハである。以前に見た時と比べ、随分と逞しくなった。今年で丁度14になるはずだが、既に腕っぷしは私よりも強いだろう。

 だが、そうこう言っているうちに、ランサービートルの少女の槍の切っ先によって、グラハは軽々と放り投げられてしまった。
 彼の飛んでいく先に巨大な樹木があるのを見て、私は咄嗟に立ち上がり「危ない!」と叫んだ。
 だがグラハは自分が木にぶつかるより早く槍を伸ばして体制を変え、樹木に両足をついて衝撃を吸収し、一回転して華麗に地面に着地した。
 そして、藪から飛び出した私を驚いた風に見る。
「あれ、商人さん? 来てくれたんだ」
 そして、たった今自分が女の子に投げ飛ばされたのを思い出したらしく、恥ずかしそうに俯いて頬を掻いた。
「……変なところ、見られちゃったな」
「グラハ。打ち込みが甘い。間合いの管理が雑。攻撃が単調。もっと機動性を活かして」
 ランサービートルの少女がのっしのっしと近づいてくる。近くで見ると、かなりの大きさがある。
「うるせー。サヴィが強すぎんだよ!」
 グラハが反論するが、ランサービートルの少女は意にも介さぬように、私に向けて「商人さん。こんにちは」と挨拶をしてくる。
 彼女はサヴィ。グラハの姉弟子に当る魔物だ。確か、グラハより二つ年上で、今年で16歳だったはずだ。
 私はふてくされるグラハに、感嘆の声音で語り掛ける。
「グラハ、暫く見ない間にずいぶん逞しくなったじゃないか。背も伸びたし、筋肉もますますついた」
「え? そうかな? そういう商人さんは、いつ見ても全然変わんないね」
 グラハは、嬉しそうににやけながら自分の腕や腹の筋肉を確認する。男子三日会わざれば括目してみよという言葉があるが、まさにその通りで、グラハからは以前見た時の少年らしさが消え、既に一人の男性の気配が漂っていた。

 だが、どれだけ変わろうと、私がグラハを見間違えることはない。この辺りの人間は、私の故郷と異なり褐色の肌を持つが、グラハの右肩から先は、加えて真っ黒な痣に覆われていた。彼は、この痣のせいでジャングルの奥地で魔物たちと共に暮らしているのだ。

 ☆

 私がジャングルとの公易に手を付け始めた頃。周辺の人間の集落を中継してジャングルに向かっている最中に、背後から私を呼ぶ声がした。振り返れば、先ほどまで滞在していた村の女性が、何か籠のようなものを抱えてこちらに走ってくる。なんと、その籠の中には一人の赤ん坊が入っていた。女性曰く、この赤ん坊は彼女の息子なのだが、産まれながらに「呪いの痣」に侵されていて、このままでは村の掟に従い、殺して動物の餌にしなければいけないのだという。彼女は、なんとかこの子を育ててくれる親を見つけてくれないかと、私に大金を差し出して頭を下げてきた。私はこの赤ん坊、グラハを引き取り、ジャングルへと向かった。「呪いの痣」がこの辺りの人間の村落に伝わるただの迷信であることは知っていたし、何より赤ん坊が男の子だったので、アマゾネス達が喜んで引き取ると思ったのだ。
 だが、現実はそう甘くはなかった。アマゾネスは魔王の代替わり前は女性のみで構成される人間の部族であり、周辺の人間の村々と伝承を共有していたのだ。アマゾネス達に断られ、「呪いの子」の引き取り手に困った私は、族長に頭を下げ、ジャングル中の魔物達に赤ん坊を引き取ってくれる者はいないか打診をして貰った。結果、ランサービートルの女性が彼を引き取ると進言してくれた。彼女は数年前の祝祭の儀で決闘に勝ち抜いた豪の者で、ジャングルでも最強の一角と謳われる存在であったが、半年前、事故で夫と一人娘の両方を失くし、自らも片腕を失っていた。
 私はそれ以来、ジャングルを訪れる度、グラハの様子を気にしていた。アマゾネスとしても彼の動向は気になるらしく、尋ねれば色々と近況についても教えてくれた。
 ソルジャービートルは普段は特に群れらしい群れも作らず、移動しながら生活をする種族なので、いつでもグラハに会える訳ではなかったが、会える時は会いに行くようにしていた。彼の育ての親のランサービートルも、グラハの面倒を見ることでだいぶ気力が戻ってきたらしく、弟子をとって後進の育成に励むようになっていた。そのうち、グラハも彼女に技を習うようになり、今では人間でありながらソルジャービートルの一戦士として修行を続けている。
 アマゾネス以外にも、呪いの痣の伝承を気にする魔物はちらほらいるようだったが、若い魔物ほど呪いをただの昔話と割り切っているらしく、彼は14年の人生を、今のところ大きな災難に見舞われることなく過ごしていた。

 ☆

「グラハ。調子に乗ってはダメ。どれだけ成長しても、明日の決闘に負ければ成人は一年先延ばしになる。そうしたら、お師匠が悲しむ。お師匠の槍も悲しむ」
 私が過去の経緯を振り返っている横で、グラハの姉弟子、サヴィが苦言を吐く。
「そうそう! 聞いてよ商人さん! オレ、明日の決闘に出るんだぜ!」
 ここで一勝すれば、俺も明日から成人だよ! と嬉しそうに話す彼に、私も感慨深くうんうんと頷いた。私は、赤ん坊の頃から知っているグラハにちょっとした親心のようなものを感じていた。
「ほんとは母さんに型を見てもらいたいんだけど、今日は明日の準備で忙しいからって。しょうがないからサヴィに稽古付けてもらってるんだ」
 心中に抱える不満を全力でその語調に乗せて、グラハが毒を吐く。
「サヴィは、明日の準備はいいのかい?」
「私はもう、去年成人してるから」
 私の問いかけに、サヴィは感情をあまり感じさせない声で淡々と答える。ソレジャービートルは決して感情が無い訳ではないのだが、人間ほどそれを表に出す文化も手段も持っていないため、慣れないうちはコミュニケーションに困る。サヴィも明日の試合に出場するはずだが、まだ成人していないグラハの特訓が優先という事だろう。
「けっ、余計なお世話だよ」
「実際その時になるまで、戦う相手は分からない。鋏兵、槍兵、盾兵、どれがきてもいいように、準備しないといけない」
 そう言って、サヴィは槍の切っ先でグラハの頭をこつんと叩いた。
 グラハはサヴィの忠告に、うるせー! と乱暴に返答し、一段二段と跳ねて距離をとる。槍を構え、特訓が再開される。
 私とアニラはそそくさと藪の方に戻り、その特訓を遠目に観察することにした。

 二本の槍が鈍い音を立てて擦れ合う。グラハの繰り出す突きが一撃二撃とサヴィの身体の芯を捉えるが、それらはソルジャービートルの腕に生成される天然の籠手によって容易く受け流されてしまう。お返しにサヴィの豪槍がグラハを足場ごと掬い上げる様に、大地を抉って振り上げられた。

 ランサービートルの槍の先端は、人間の使う槍とは異なりヘラのような形になっている。これを相手にひっかけて豪快に放り投げるのが彼女らの基本戦術だが、人間であるグラハが重量200kgをゆうに超えるソレジャービートルを持ち上げるのは至難の技だ。よって、彼による槍の運用は、もっぱら鈍器に近いものになる

「どんな感じですか、彼は」
 目の前で繰り広げられるグラハとサヴィの攻防を眺めながら、私は傍のアニラに問いかけた。
「人間にしては大変よくやっています。が、やはりソルジャービートルと比べると根本的に自力が足りていません」
 アニラはグラハの動きから目を逸らさずに、淡々と言葉を続ける。
「一般的に、ソルジャービートルの槍兵は盾兵に強く鋏兵に弱いと言われていますが、彼の場合は逆です。彼の貧弱な打ち込みでは重厚な盾の防御を崩すことは出来ませんし、逆に間合いの狭い鋏兵が相手ならば素早い身のこなしで翻弄することができます。もし同じ槍兵に当たったら……自力の差で、やはり勝つのは難しいと言えるでしょう」
 こういう時のアニラは、流石狩猟民族といった感じで、極めて冷静に状況の分析をする。天性の動体視力は激しく動き回る槍の切っ先を完璧に捉え、長い耳は土を踏む音からその踏み込みの深さを正確に観測しているようだった。
 明日の彼の運命は、その対戦相手に大きく左右されてくるということだ。私はゴクリと喉を鳴らした。
「ところで……」
 先程まで感情のない声で淡々と分析をしていたアニラが、途端に言い淀むような声音で話しかけてきた。
「私は、彼より年下なのですが」
 突然の意味不明な発言に、私の頭に疑問符が浮かぶ。そんなことは当然知っている。私は二人が赤ん坊の頃の姿でさえ見たことがあるのだ。
「はい? それが何か?」
「それが何かではなくて! 彼にはあんなに親しそうに話すのに、何故私にはそんなによそよそしいのですか!」
 潤んだ目で、思いの丈を解き放つように言葉を吐く彼女に、私の方が腰が引けてしまう。
「いや、それは立場というものがありますから……」
「関係ありません! 長の娘というだけでこの想いを受け取っていただけないというのなら、いっそそんな立場など……」
「うわー! ちょっと待って!」
 多分、部族を抜けるとか、そんなことを言おうとしたのだろが、先程釘を刺されたばかりなのだ。誰かに聞かれでもしたら、笑い話にもならない。
 私は慌てて手で彼女の口を塞ぎ、周囲を確認する。目の前の二人は特訓に夢中で話など聞いていなかったようだし、周囲に他の人影はない。
 私はホッと胸を撫で下ろし、アニラの口から手を離す。
「アニラ様、滅多なことを言わないでください」
 私が手を緩めると、アニラは少し落ち着いたのか、俯いたまま噛みしめるように呟く。
「商人様は、いつも私を子供扱いするんですね」
「アニラ様はまだ子供でしょうが」
「商人様がその気になって下されば、いつでも成人できます」
「外の世界では、成人は15歳ですよ」
 そんなやりとりをしているうちに、グラハがまたサヴィに放り投げられた。私達の立っているすぐ横の藪に派手な音を立てて突っ込む。そして、その後うんともすんとも音を出さない。
 生い茂る木々のせいで受け身が取れなかったのだろうか。私は不安になって、「おい、大丈夫か?」と彼の突っ込んだ藪に歩み寄った。
「大丈夫。私も手加減してるし、グラハはあんなことで怪我したりしない。藪から出てこないのは、甘えてるだけ」
 サヴィがそんなことを言うと、藪がごそごそと動いてグラハの腕が飛び出してきた。
「甘えてねぇ! あと手加減すんな!」
 どうやら蔦に絡まったらしい。くそっ、と忌々しそうな声を上げて纏わりつくそれを次々と千切っていく。
「グラハ、あなたは少しソルジャービートルの戦い方に感化され過ぎです。そう教育されたのは分かりますが、あなたには甲冑もなく体重も軽いんですから、むしろ機動力を活かして回避とカウンターを中心とした立ち回りを……」
「分かってる!」
 アニラからの忠告もそこそこに、蔦を振り払ったグラハは地を蹴って独特のステップと共にサヴィに飛び掛かっていく。サヴィも、槍を身体の斜め後ろに構えるランサービートル独特の構えでグラハを迎え撃つ。硬質な槍がぶつかり合う、乾いた音が、遺跡群に木霊する。
 アニラは、小さく溜息を吐いて、「まあ、今更変わるものでもないですね。商人様、日も傾いてきましたし、暗くなる前に戻りましょう」と言って、私の手を引いた。
 私が彼女に続いてその場を離れようとすると、背後から「商人さん! 明日の試合、絶対見てくれよ!」とグラハの声がした。その直後、「他所見しない!」というサヴィの叱責と共に、グラハの小さな悲鳴が聞こえた。

 ☆

 その晩は祝祭の儀の一環として、遺跡群の、元は劇場であったであろう円形の建造物で、アプサラスによる舞が披露された。この舞はその年の大自然の恵みに感謝し、来年の実りと息災(特に洪水除け)を祈るものであり、太鼓を中心として動物の骨を材料に作られる打楽器や喉で音を出す独特なコーラスによる力強いメロディーが特徴だ。
 大河に棲むアプサラスを中央に据え、イグニス、シルフ、ウンディーネ、ノームの四大元素の精霊が入れ代わり立ち代わり周囲にバックダンサー(でよいのだろうか?)として登場し、その度曲調が微妙に変わる。柱の上で弦楽器を奏でるガンダルヴァや、ミューカストードの合唱隊も印象的だ。
 観客達も多種多様で、昆虫型、植物型、爬虫類型、獣人型、様々な種類の魔物がごった煮状態で詰めかけている。四大元素の精霊全てが一カ所に集まっていることもそうだが、本来生息環境を共にしない魔物達が一同に会する様子を見ると、改めてジャングルという環境の多様性に驚かされる。

 観客達にはフルーツをはじめ様々なご馳走が振舞われ、祝祭は大いに盛り上がったのだが、リリラウネの花蜜酒が配られ始めた辺りから、だんだんと会場の雰囲気がおかしくなり始めた。
 それまでの熱気に加え、妙な熱というか、火照りのようなものが会場の空気を支配し始めたのだ。
 我々一般の観客よりも一段高い位置にあるアマゾネスの族長の席を見れば、四人の夫に囲まれた長は、既に両手を彼らの腰に回し、何か睦言を呟いているようだった。
 ジャングルの魔物達はアマゾネスをはじめ、だいたいが性に大らかである。
 私は身の危険を感じ、会場から一人こっそりと抜け出したのだった。

 ☆

 円形劇場から外に抜け出すと、夜のジャングルの冷たくしっとりと湿った空気が頬を撫でた。背後で、どんちゃん騒ぎが遠い音となって聞こえてくる。
 私は少し酔いを醒まそうと、一人で遺跡群の中をふらふらと歩いた。

 ちょうど遺跡群のはずれの方に差し掛かった時である。藪の向こうから、なにやら人の気配を感じた。なにやら呟くような声も聞こえてくる。
 そういえば、この辺りは夕方にグラハとサヴィが特訓をしていた場所だ。先ほどの会場では彼らの姿を見かけなかった。もしや、まだ特訓を続けているのだろうか?
 私は、藪の向こうの様子を探るため、音を立てぬようにこっそりと近づき、草木の隙間からその向こうを覗き込んだ。

 藪の向こうにいたのは、確かにグラハとサヴィであった。だが、様子がおかしい。耳をそばだてると、周囲の自然音に紛れ、二人の会話が聞こえてきた。

「サヴィ、なんでこんなことを……」
 大木に寄りかかるようにして立つグラハが、苦しそうな表情で、顔を真っ赤にして熱っぽい声を上げる。
 サヴィは、身を屈めてグラハの股間に顔を埋め、何やら忙しなく頭を前後に動かしている。
「予約」
 ちゅぽん、とサヴィがグラハの男根から口を離し、彼を見上げて、一言そう答えた。

 そう、男根である。なんと、サヴィはグラハに口による奉仕を行っていたのだ! ……いや、私とて二人の仲について、何かしらあるのではないかと考えていなかった訳ではない。サヴィはグラハが槍の訓練を始めた頃から一番歳の近い姉弟子としてよく面倒を見ていたし、グラハがソルジャービートルの所謂重騎士的な戦い方についていけないとなった後も、積極的に彼と手合わせをしていた。なんだかんだグラハもよく懐いていたし、むしろ自然な流れといえる。
 赤ん坊の頃から知っていた少年が、恋人を得て、今まさに大人への階段を上っているんだなと思うと、胸の奥から何やら熱いものが込み上げてくる。私は、咄嗟に周囲を確認した。二人の大切な時間を邪魔する無粋者が潜んでいないか、そして何よりアニラが私にこっそりついてきていないか確認するためだ。もしアニラがこの場にいようものなら、触発されて私に襲い掛かってきかねない。
 無粋者も、アニラもいないことを確認して、私は安心して視線を藪の向こうに戻した。グラハが粗相をすることなく、最後まで紳士として振舞うことができるか見守るためだ。……いや、正直に言うと、この頃の私には若干の覗き趣味のようなものがあった。若気の至りというやつだ。……分かった。白状しよう。今もある。

 とにかく、私が視線を戻すと、先ほどの体勢のまま、二人は会話を続けていた。
「予約って……」
「明日の決闘、私はグラハなら無事に一勝できると思ってる。そしたら、グラハも成人。嫁を取れる。だから、他の女が手を出さないうちに、予約しとく」
 そう言って、サヴィはまたグラハの股間に顔を埋めた。グラハが腰を曲げて、真っ赤な顔でうぅっと苦しそうな声を上げる。強すぎる快感に腰を引こうとしてるのだろうが、大木を背にするように追い詰めれれているうえ、サヴィの怪力でがっしりと腰を抱えられているせいで、逃げることが出来ないのだろう。
 一方的に与えられる快感を制御しようと、身体に力を込めているせいだろうか。グラハはがっしりとサヴィの頭を抱え、自分の股間に押し付けてしまっている。それが、更なる快感を生み出すとも分からずに。
「待って! ダメ! やめて! サヴィ!」
 ついに快感に耐えられなくなったのか、グラハが半分絶叫するように静止を願う。
 サヴィの頭がゆっくりとグラハの股間を離れ、ずるり、と音を立てるように口の中から唾液まみれの男根が出てくる。舌が、名残惜しそうに裏筋をつーっと伝った。
「なんで、こんなことするんだよ……」
 グラハが、息を荒げながら真っ赤な顔でサヴィに二度目の問いかけをする。目をそらしているのは、感情がごちゃ混ぜになって彼女の顔を正視できないからだろう。
「だから、予約」
「予約じゃなくて! なんで突然俺の嫁がどーとかって話になるかってこと! 成人したからって、そんなにすぐ嫁とったりしねぇよ!」
 激昂するように、声を荒げるグラハ。その様子を、感情を感じさせない目で見つめるサヴィ。
 暫くの沈黙を挟み、サヴィがゆっくりと口を開いた。
「グラハは、私のことお嫁さんにするの、イヤ?」
 その言葉は、ソルジャービートルらしく抑揚が薄く、感情を感じさせないものだったが、私でもはっきりとサヴィの不安を感じ取ることが出来た。それはグラハも同じだったのだろう。言葉に詰まったように言い淀み、先ほど一瞬爆発した怒りに似た勢いが萎んでいく。
「嫌っていうか……サヴィって口煩いねーちゃんって感じで、俺、結婚とかよくわかんないし……」
「……そう」
 この時の私の気持ちに共感を頂けるだろうか? もしグラハがもう一歩でも私の近くにいたのなら、私は藪を飛び出して「このアホンダラ!」と彼の頭をぶん殴っていたかもしれない。
「でも大丈夫。私も成人前は、グラハがちょっと馬鹿な弟みたいに思えてた。でも今は、スキって言える。グラハも、きっとそうなる」
 別に、成人前も嫌いだったわけじゃないけど、と小さな声で付け足し、もじもじと腰を動かす。
「だから……」
 ゆっくりと、サヴィが頭を下ろす。グラハのまだ皮の剥けきっていない亀頭に、熱い吐息がかかる。
「だから今はただ、気持ちよくなって? 私、それで我慢する」
 サヴィが、勢いよくグラハの男根に吸い付いた。先程までとは比べ物にならない勢いで頭が前後し、大きな下半身がぎしぎしと揺れる。グラハが、うひゃあと情けない声を上げて、表情を崩す。見ているだけで、男根を嘗め回す舌の湿った音が聞こえてくる錯覚に陥るほどであった。
「待って! まって! 今、俺のこと好きって!?」
「ン? フキ。ダイヒュキ!」
「咥えたまま喋らないで!」
 グラハの身体が痙攣し始める。口元がだらしなく歪み、目はトロンと虚ろになる。と、次の瞬間、腰を曲げ、サヴィの頭を抱え込むようにして、二度、三度と大きな痙攣をした。
 サヴィが、ゆっくりとグラハの腰を放す。グラハはそのままずるずると地面にへたり込み、肩で息をする。
 身体をもたげたサヴィの口元から、白濁とした青い汁がとろりと垂れた。サヴィは、間髪入れずにそれを舌で舐めとる。そして、ごくりと喉を鳴らし、それを飲み込んだ。愛おしそうに、胸に手を当てる。
「気持ちよかった?」
 サヴィが上体を下ろして、グラハに問いかける。だがグラハは答えるどころではないらしい。何か反応しようとしているようではあるが、ひゅーひゅーという乾いた呼吸音が出るばかりだ。
「またしたくなったら言って。グラハの精液おいしかったから、多分私からもお願いする。……もしグラハがどうしても嫌っていうなら、その時は我慢する。……あと、もし私のことスキになってくれたら、言ってくれると嬉しい」
 サヴィが踵を返し、のしのしとその場を去っていこうとする。私には、その足取りがどうにも寂しそうなものに見えた。
「待って!」
 呼吸を整えたグラハが、サヴィの背中に声を掛ける。
 サヴィはピタリと動きを止め、上体だけで、ゆっくりと振り返る。
「さっき、俺のこと好きって言った?」
 グラハはまだ腰が抜けて立ち上がれないようであったが、サヴィの目を真っ直ぐに見ている。
「今日のグラハ、同じような質問ばかり。人の話は、ちゃんと聞いた方がいい。スキって言った。成人前はもやもやしててよく分からなかったけど、いまはちゃんとスキって言える」
「でも、俺って、サヴィよりずっと弱いよ? なんで好きなの?」
「グラハは弱い。でも頑張ってる。姉弟子の私も負けないように頑張った。そしたら、グラハはもっと頑張った。私は15で決闘に出たけど、グラハは14で出られる。そういうところ、スキ。他にもいっぱいある。それじゃ、明日、頑張って」
 そう言ってサヴィはグラハに背を向けてそそくさとその場を去ろうとする。
「いやだから待てって! 自分の言いたいことだけ言って帰るな!」
 グラハがよたよたと立ち上がり、サヴィの背に駆け寄る。がちゃがちゃと動く後ろ足に手を掛け、その動き足を止めた。
「まだ何かあるの?」
 サヴィは、振り返りもしない。
 グラハはあーとかうーとか言って言葉を濁す。掛ける言葉を探しているのだろう。
「俺も、サヴィのこと、好き……かも」
 頼りない言葉尻。サヴィは押し黙ったままだ。
「いや、好きだ! ……きっと」
「そういうの、よくない。ご機嫌取りで言わないで」
 サヴィの胴体の甲殻が薄く開き、その隙間から美しい半透明の翅が飛び出す。飛び立つ気だ。
「うわぁ! 違うんだ! ホントに分かんないんだよ!」
 グラハは必死になってサヴィの胴体にしがみつく。
「サヴィのこと好きかって言われたら分かんないけど、嫌いじゃないし! 嫁なんて想像もできないけど、サヴィが俺じゃない誰かの嫁になって俺も別の誰かを嫁に貰ってなんて、もっと想像できないし! なにより、サヴィが俺のこと好きって言ってくれたのに、がっかりさせて返すのはすっげーやだ!」
 グラハはもう、露店を離れたがらない子供みたいに、喚きながらサヴィの胴体にしがみついて離さない。
 ふと、グラハの身体が宙に浮いた。サヴィが、自分の槍で彼をひっかけ、持ち上げたのだ。
「……分かったから、静かにする。あと、抱き着くならお尻じゃなくて、こっちにして」
 槍を器用に操り、グラハを自分の胸の前に持ってくる。そして、そのまま彼をゆっくりと抱きしめた。サヴィの人間体の部分は地面よりもだいぶ高い位置にあるので、この体制だとグラハは地に足が付かない。彼は少しもがきながら、サヴィの上半身にしがみついた。
「グラハはまだ子供だから、さっきの言葉で我慢する。明日、ちゃんと試合に勝ったら、もっと大人の男らしく、かっこいいこと言ってね? 成人なんだから」
「怒ってないの?」
「別に、最初から怒ってなんかない」
 二人は、互いに強く抱きしめ合いながら、そのまましばらく動かずにいた。言葉も交わさず、夜のジャングルに佇む石像の様に。
「グラハの心臓、すごくドクドク言ってる。体も熱くなってる」
 先に口を開いたのは、サヴィだ。
「少しだけなら、触ってもいいよ?」
 この言葉を皮切りに、グラハはサヴィの身体に回した腕をもちゃもちゃと動かし始めた。
 落ちないようにサヴィに抱きかかえられながら、その身体をまさぐる。
 サヴィが、その大きな体を微かに痙攣させ始めた。グラハに胸を弄られているらしい。
「すごいよ、サヴィ。指がこんなに沈んでく」
「……いちいち言わなくてもいい」
 グラハの手が、サヴィの背中側に回った。ソルジャービートルの身体は生まれながらにその大部分が甲殻に覆われているが、覆われていない個所も存在する。顔、胸、腹、そしてあまり知られていないが、人間体の背中の、昆虫体との接合部分に近い個所だ。背中に回ったグラハの手が、その剥き出しの皮膚を撫でたとき、サヴィが小さな悲鳴と共に上体をびくんと反らせた。
「サヴィ、ここ、感じるんだ?」
 グラハが少し意地悪そうに言うが、サヴィはそれに答える余裕がない。
 そして、グラハの腕がサヴィの下半身に伸びた時……。
「そこはダメ!」
 とサヴィがグラハを突き放した。
 グラハは驚いたような顔をして、
「なんで!?」
 と問いかける。
「そこから先は、成人してから」
「えぇ!?」
「我慢して。私も、我慢するから」
 ショックを受けるグラハに、サヴィが諭すように続ける。
「私、一年待った。もう一年待つのは、イヤ」
「もし、もし明日俺が成人できなかったら?」
「……別の人、見つけちゃうかも」
「そんな!!」
「だから、ちゃんと勝って。成人して。私、赤ちゃん欲しい。それで、ちゃんと皆に父親はグラハだって言いたい」
 その言葉に、グラハは露骨に動揺する。
「赤ちゃんって……。でも、『呪いの子』の赤ん坊は……」
「大丈夫。『呪いの子』なんてただの迷信。外の世界では、誰もそんなこと言ってないって、商人さんも言ってた。皆が反対するなら、二人でジャングルを出る。もし伝承の通り悪魔が生まれても、私は魔物。そんなの気にしない」

 そう言って、二人はまた熱い抱擁を交わす。
 何か睦言を呟いているようだったが、残念ながら私の位置からは聞き取ることが出来なかった。
「商人様〜? どこにいらっしゃるのですか〜?」
 私の背後から聞こえてきたその声が、私を急速に現実の世界へと引き戻した。
 アニラの声だ! 今姿を見られるのは大変不味い。私が、二人の逢引を覗き見していたことが当人たちに知られてしまうではないか!
 若い二人にもアニラの声は聞こえたらしく、二人とも派手に動揺して急いでこの場を離れようとしている。が、アニラの声が近い。これでは私が見つかってしまう!

 やむを得ず、私は胸ポケットの中から一粒の飴玉を取り出した。一瞬のためらいを覚えたが、覚悟を決めてそれを口に放り込む。途端に私は激しい眩暈に襲われ、地面に腰をつき、適当な木に寄りかかって眩暈が引くのを待った。
 目の前にアニラが現れる。
「おかしいですねえ。確かに話し声が聞こえた気がしたんですが」
 きょろきょろと辺りを見回し、首をかしげている。眩暈のせいでよく分からないが、反応からして二人は上手く逃げおおせたらしい。
 私が口に入れた飴玉は、私の知り合いが研究している携帯型ポーションだ。ポーションを固形の飴に加工することで、携帯性と保存性を著しく強化することが出来る。まだ開発段階であり、強烈な眩暈を引き起こす副作用と効果時間の短さ、そして目が飛び出るほどに高い単価と問題が山積みであるが、もしもの時に便利であるため私は常に透明化のポーションを一個、持ち歩くよう心掛けている。
 アニラが立ち去ってしばらくしてから、飴玉を舐めきると同時に透明化の効果が解かれ、眩暈も収まった。
 私は周囲に誰も居ないことを再確認してから、こっそりとアマゾネスの集落に戻ったのだった。

 ☆

 夜が明け、いよいよソルジャービートル達の決闘の儀がやってきた。
 遺跡群の中の円形闘技場だった場所に、ぞろぞろと魔物達が集まってくる。
 私が到着した頃には、既に観客席は魔物でごった返しており、私は仕方なくすり鉢状の会場の一番外側の移動用通路で立ち見をすることになった。
 本当は最前列でグラハの勇姿を見たかったのだが、ここも会場全体が一望できて、なんだかんだ悪くはなかった。
「商人様!」
 背後から声をかけてきたのは、アマゾネスのアニラだ。小走りでこちらに駆け寄ってくる。私は昨日のことを思い出してどきりとしたが、彼女に特に変わった様子は見られない。本当に、気が付かれずに済んだようだ。
「アニラ様、主賓席にいなくていいんですか?」
 私は平静を装い、何でもない話を持ち掛ける。
 族長やアニラの姉達は、私がいるよりも一段高いところに設置された族長席(元は王座なのだろう)で酒を煽りながら決闘の開始を待っていた。
「私はお酒が苦手なのです。それにあんなところでは、決闘の様子がよく見えませんから。お母様に言って、席を外させて貰ったのです」
 そう言って、アニラは私にひっついてくる。
 理由をつけて引き離すのも面倒なので、私はそのままアニラと共に観戦をすることにした。

 ☆

 大きな笛の音が響き、隊列をなしたソルジャービートルが闘技場に入場してきた。
 巨大な甲冑の群れが足並みを揃えて行進する迫力は、昔王都で見た聖騎士のパレードに勝るとも劣らない。
 私はその行進の中にたった一人の人間、グラハを見つけ、手を振ってみた。が、彼は全くこちらに気がつかない。
「……こうして見ると、やはり全然違いますね」
 私は、グラハと彼の周りのソルジャービートルの体格の差に、不安の色を隠せなかった。平均して身長は二倍近く離れているし、体積や重量感は言わずもがなという感じだ。
「ソルジャービートル、特にランサービートルは、しっかりと足場を固めて全力を込めれば、瞬間的に体重の100倍までの力を出すことができるといいます。発育のいい個体ならば体重300kgを超えることもありますから、その場合30tの物体を放り投げることができる計算になります。力比べでは絶望的ですね」
 私は、並べられた具体的な数字にごくりと息を飲んだ。30tなど、一人の人間にどうこうできる重さではない。
 だが私の不安を他所に開戦の儀はつつがなく終了し、いよいよ決闘の儀の幕開けとなった。
 決闘とは言っているが、別に因縁のあるもの同士が戦うわけではない。トーナメント制で試合を繰り返し、優勝者にはその年最強の騎士という栄光が贈られる。
 そして同時に、この試合は成人の儀式を兼ねていた。ジャングル中のソルジャービートルが見ているこの決闘の場で一勝でもすれば、その時から勝者は成人として扱われるのだ。その為、一回戦の対戦相手はなるべく年や実力が近い者同士が当たるように調整されているらしい。特に、成人した個体と成人前の個体がぶつかる事はほとんどない。

 そうこうしているうちに、第一戦が始まった。
 西の入場門から一体のランサービートルがのしのしと現れ、続いて東の門からシザービートルが入場する。両者とも成人前の個体なのだろう。この距離でも、がちがちに緊張しているのがよく分かった。門の周りの観覧席では、彼女らの身内らしいソルジャービートル達が叱咤激励の声を上げているようだった。
 開戦の角笛が吹かれる。
 向かい立つ二者が得物を振り上げ、豪快に激突した。
 ………
 ……
 …

 その後、何戦か連続して試合を見て、気がついた事があった。
 成人前の個体同士の対決は、決してレベルが高くないということだ。基本的に、体当たりによる力比べか、得物を大きく振り回しての打撃合戦である。
 そのことを口にすると、アニラが補足をしてくれた。
「第一に緊張しているということがあるでしょう。ここで負ければ成人は一年先延ばしですからね。そして、実戦経験の少なさというものも挙げられます。彼女らは成人の監修のない状態での試合が禁止されていますし、成人したソルジャービートルは普通ジャングルで単独で生活しますから、手合わせの機会が無いのです。何より、ソルジャービートルは武器を振り回して突進しているだけで物凄く強いですから」
 成る程、根本的な種族の優位性故、あまり戦術というものが進化していないのだ。
 私の胸に、若干の希望が戻った。昨日のグラハの動きを見る限り、あのような大雑把な攻撃がそうそう当たるようには思えない。それに、彼はいつも成人であるサヴィと手合わせをしているのだ。実戦経験だって負けはしないだろう。
 余程感情が顔に出ていたのか、アニラが咎めるような鋭い声で釘を刺してくる。
「しかし、中には当然師に恵まれ実戦に近い形で訓練を受けたルーキーもいますので、そういう相手に当たれば彼の優位は……」
 観客のどよめきが、アニラの言葉を遮る。何かと思って決闘場に目を戻せば、西の門からグラハが入場してきたのだ。「忌痣だ」「呪いの子だ」「あれが噂の……」と、誰のものとも分からぬ呟きが聞こえる。だが、グラハはそんなことは露とも気にしていないようで、手首を回してリラックスの構えだ。むしろ、すぐ後ろの観覧席で彼を見守っているサヴィの方が、周囲の反応にイラついているようだった。
 東の門から、対戦相手が入場してくる。会場内に、グラハの時とは毛色の違うざわめきが走った。
 姿を現したのは、だいぶ体格のいいシールドビートルだ。背筋はピンと伸び、目つきは凛々しく自信に満ちている。角のない頭部は王冠のような甲殻に覆われ、長く伸ばした銀髪がふわりと風に揺れた。
「あれは……!」
 隣で、アニラがごくりと息を呑んだ。
 シールドビートルは、会場をぐるりと見渡すと、手に持った大盾の、その上部にある小さな突起を掴み、自分の頭上でぐるんぐるんぐるんぐるんと振り回す。そして、その回転の勢いのまま、大盾を地面に叩きつけた。凄まじい轟音。舞い上がる砂煙。そして一拍遅れて、会場が地面ごと少し揺れた。
 驚きのパフォーマンスに、会場が湧く。
 彼女の盾の使い方は、もはや盾というよりは大剣に近いものであった。
「ちょっとアニラ様! 成人前のものは普通成人とは当たらないのではないのですか!?」
 グラハの対戦相手は、年齢、風格、腕力、得物の扱い、どれをとってもベテランのそれであった。あんなのが相手では、グラハの勝機は万に一つでも怪しいだろう。
「いいえ、商人様。彼女はまだ成人しておりません」
「馬鹿な! どう見てもサヴィより年上でしょう!」
「サヴィよりも年上なのは間違いありません。彼女の名はシャクティ。15歳で初めて決闘に参戦し、5年間、今日に至るまで連敗を続けている個体です。1年目は手違いでいきなりその年の優勝者と対決し、惜しくも敗退。2年目は大雨による大河の氾濫で決闘自体が中止となり、3年目は一戦目二戦目と相手の故障による不戦勝。三戦目でその年の準優勝者と引き分けた後、判定負け。4年目は決闘の前日に密猟団に一人で立ち向かい、その際に負った怪我のせいで棄権。去年はなぜか決闘に姿を現さず失格。まぁ、これはお咎め無しだったのでやんごとない事情があったのでしょうが……。並の成人個体では手も足も出ないほど強く、毎年優勝候補の一人と目されていて、誰が呼んだか、『永遠の超新星』!普段は成人前ながらも成人個体と共にジャングルのパトロールの任についており、実戦経験も豊富で、さらに結婚を待たせている恋人がいると専らの噂で、勝利への執念も相当な物でしょう」
 私は至極真面目な顔で語るニアラの姿に色々な意味で驚きが隠せなかったが、とにかくグラハにとっては都合の悪い組み合わせのようだ。
 よく見れば、観覧席のサヴィも表情を硬くしている。

 開戦の、角笛が鳴った。
 同時にグラハが勢いよく地を蹴り、シールドビートルに飛びかかる。
 勢いを乗せて槍を突き出すも、その一撃は大盾によって、乾いた音と共に容易く弾かれた。
 だがグラハはそのまま盾の正面に居座り、何度も何度も槍を打ち付ける。
 それでも、大盾はまるで佇む岩壁のようにピクリとも動かない。
「あの馬鹿、正面から……!」
 グラハが槍を振り上げ、全体重を乗せて大盾に叩きつける。金属同士がぶつかるような、甲高い衝撃音がした。
 ……次の瞬間、轟音と共にグラハが後方に吹き飛ばされ、そのまま闘技場を囲む壁に激突した。
 一瞬の出来事で、いったい何があったのか私には理解できなかった。シールドビートルが何か攻撃動作をしたようにはみえなかったが……?
「シールドバッシュです」
 私の心の声に応えるように、アニラが口を開く。
「シールドバッシュ!?」
 私は、その意外な答えに素っ頓狂な声を上げてしまった。
「まさか! シールドバッシュは、盾でぶつかって相手をよろめかせ隙をつくるための技! 彼女はそんな動きはしてい無かったし、あんな威力は……」
「確かに、普通のシールドバッシュには突進という分かりやすい動作があります。しかし、盾のみで戦う彼女のそれは、一般的なものとは練度が違うのです。一切の無駄な動作を省き、純粋な衝撃だけを盾の表面に這わせる! 研ぎ澄まされたその一撃は、もはや東洋武術の発勁に近い!」
 私は身震いした。
 発勁……筋肉の伸張や重心移動により発生する力を、身体を伝わせ体の末端から発生させる、東洋の神秘である。
 ソルジャービートルの武器や鎧は、無脊椎動物の持つ甲殻に近いもので、元々は体の組織の一部である。勁を伝えるには相性もよいに違いない。
 グラハは無事だろうか?

 砂埃の中から、グラハが飛び出してきた。なんとか壁に対して受け身をとったらしい。
 またも正面から突っ込んでくる彼に向けて、シールドビートルが盾を構える。が、グラハは盾の直前で身を屈め、左に飛んで側面に回り込む。
 上手い! 盾を構えたことによって生まれた死角に潜り込み、そのまま側面に回った!
 そのまま腹に向かって一撃二撃と攻撃を打ち出すが、頑強な甲殻に阻まれダメージは一切通らない。やはり、鎧で覆われていない急所をつく必要がある。
 シールドビートルは、手にした大盾を振り上げ、なぎ払うようにしてグラハを攻撃。しかしグラハは後ろに跳ねてそれを回避し、ガラ空きになった人間体の部分に槍による連撃を食らわせる。命中はしているものの、シールドビートルは特に怯む様子もない。
「おい! 上半身に攻撃が当たっただろう! 何故判定を取らない!」
 私は、ぴくりとも動かない審判に向けて、憤慨の声を上げた。
 通常、上半身に一定以上の打撃が入れば、判定により試合に勝利することが出来る。ランサービートルでこの勝ち方をすることは珍しいが、シザービートルの約半数はこれを勝ち筋としている。
「いいえ、商人様! 攻撃が軽すぎます! これは、公正な審判です!」
 アニラが、私を諌めるように鋭く叫ぶ。
「さらに言えば、相手は攻撃を受ける際、甲殻の曲線部分を使って衝撃を完璧に受け流しています! これで判定を取ろうものなら、それは既にルール無用と同義! グラハにとって、末代までの恥となります!」
 私は、それを聞いてぐっと言葉を飲む。眼前では、どれだけ攻撃を受けても体制一つ崩さない重騎兵と、一度でも食らえば戦闘不能確定の重撃をぎりぎりでかわし続ける少年の、一方的な戦いが続いていた。
 グラハは常にシールドビートルの側面に居座りつつ、盾の間合いの外から槍による打撃を繰り返す。シールドビートルも彼を捉えようと動き回るが、グラハの方が圧倒的に早い。
 その戦い方に、観客席からブーイングが上がる。観客たちはソルジャービートル同士の豪快な戦いぶりを見に来ているわけだし、有効打が無いのに戦いを引き延ばすようなグラハの戦い方は、反感を買うのも仕方が無いだろう。

 が、事態は思ったよりも早く動いた。
 闘技場内には4本の石の柱が立っているのだが、動き回った末に二人のすぐ側まできていた柱の一つを、シールドビートルが盾で派手に叩き壊したのだ。
 砕けた瓦礫が、動き回るグラハを頭上から急襲する。
 突然の予期せぬ攻撃に、グラハの動きが鈍る。シールドビートルはその隙を見逃さず、グラハを砕け散った瓦礫ごと、盾の面の部分で吹き飛ばした。
 豪快な破壊音と共に、グラハが闘技場の壁に突っ込む。
「「グラハ!!」」
 私とアニラは、ほぼ同時に叫んだ。
 サヴィも、観覧席から身を乗り出して何か叫んでいる。

 砂煙が晴れると、瓦礫と共に横たわるグラハの姿があった。意識はあるようだが、様子がおかしい。仰向けのまま、瓦礫の上でもがいている。よく見れば、右足が大きな瓦礫の隙間に挟まれているではないか!
「いかん! グラハ、棄権しろ!」
 私は咄嗟に叫んだ。ソルジャービートルの決闘での勝ち方は大きく分けて4つ。相手を場外に放り投げる、背面を地面に叩きつけるようにしてひっくり返す、気絶させる、打撃による判定を取る。だが、現状のグラハはどの状態にも当てはまっていない。つまり、この後追撃がくるということだ。
 シールドビートルが大盾を片手に、動けないグラハに近づいていく。
「審判! 何をやっているんです! 止めなさい!」
 アニラがよく通る声で叫んだが、距離があり過ぎる。審判は微動だとせず、戦いの行く先を見守る構えだ。
 シールドビートルがグラハの目前に立ち、ゆっくりと巨盾を持ち上げる。
 サヴィが決闘場に飛び込もうとして、他のソルジャービートルに取り押さえられる。この距離でも聞こえるような声量で、何かを叫んでいる。
 相当な重量を持つ大盾が天高く振り上げられ、今にも振り下ろされんとしている。私は少年の名前を叫びながら、最悪のイメージに囚われた。網膜に、凄まじい重量で押しつぶされ、全身の骨という骨が粉々に砕け散るグラハの姿が浮かぶ。現実を妄想が侵食し、目眩に近い感覚を覚える。

 突然観客席が歓声に沸き、私は現実に引き戻された。闘技場を見る。グラハは無事だ。しかもよく見れば、シールドビートルの手に大盾がない。彼女の盾は、その後方約20メートルの地面に転がっていた。
 今の一瞬の間に、いったい何があったのか。
「グラハが、大盾を弾いたんです!」
 アニラが興奮した様子でまくし立てる。
「グラハは、瓦礫の上でもがきながら、対戦相手が近づいてくるのを待ってたんです! そして十分リーチに入った時、周りの瓦礫を利用して、テコの原理で自分の槍を跳ね上げ、大盾を弾い飛ばしたんです!
 ソルジャービートルがものを持ち上げる力に長けているのは、その体型により、テコの原理が働くからだと言われています。彼は、それを全く違う形で利用したんです!」
 嬉しそうに、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねるアニラ。闘技場では、盾を弾いた衝撃で瓦礫が崩れたらしく、グラハは跳ねるようにして瓦礫の山から抜け出した。
 そのまま、風の様にシールドビートルの傍らを駆け抜け、盾の前に立ち塞がるようにして槍を構える。盾を拾わせる気は無いらしい。
 睨み合う雌雄。
 緊迫した空気の中で、一瞬シールドビートルが嬉しそうに微笑んだ気がした。
 甲虫の前足が地を踏み鳴らす。気合の咆哮と共に態勢を低くして、両腕を大きく広げる。
 他の試合でも見た。あれは突進の構えだ!
 頑強な多脚が地を掴み、その巨体を前へ前へと押し進め加速していく。砂埃を巻き上げながら、総重量300kg超の怪物がグラハに向かって驀進する。轢き倒す気だ!
 激突すれば木っ端微塵。避ければ盾を回収されて、そうなれば二度同じ手は通じまい。グラハの勝機はそこで消える。
 だが彼は、思いもよらぬ行動に出た。
 なんと、自ら突進するシールドビートルに向かっていくではないか!
 その無謀な行動に、会場が色めき立つ。だが私は確信していた。先ほど、彼は意地や気合ではなく、明確な勝算を持って相手の盾を弾いたのだ。どれだけパワーで負けていても、少なくとも戦術においてはグラハの方が一枚上手だ。
 グラハは、向かってくるシールドビートルに向けて一歩二歩と跳ねるように距離を詰めると、三歩目で槍を地面に突き立て、棒高跳びの要領で伸び上がるように跳躍した。
 そのまま、シールドビートルの頭上を飛び越える。互いの髪が触れそうな程の近距離で、両者の視線が交差した。
 シールドビートルは予想外の行動をとったグラハを目で追おうとするが、勢いのついた巨体はそう簡単には止まらない。人間体の背後、昆虫体の腹の上、ソルジャービートルにとって完全な死角に潜り込んだグラハは、手にした槍を巧みに操り、人間体と昆虫体の接合部、わずかに柔らかい皮膚の露出した背中の急所に、高速の三連撃を繰り出した。
 審判が鐘を鳴らす。
 グラハが膝をついて地面に着地する。
 シールドビートルがまるで糸の切れた人形のように崩れ落ち、勢いのまま派手に地面を滑る。
 グラハの勝利である。

 柄にもなく熱くなってしまった自分を落ち着けるべく、私は深く息を吐いた。
 闘技場では、サヴィが観覧席から飛び出して、グラハに抱きついている。
 敗北したシールドビートルがゆっくりと起き上がり、グラハに歩み寄る。サヴィは少し警戒しているようだったが、グラハが彼女を下がらせ、シールドビートルと対面する。
 そうして二人は爽やかに握手を交わし、二人の戦いは、無事終わったのだ。

 ☆

 その後も決闘の儀はつつがなく進行し、陽が傾き始める頃には決勝戦と相成った。東西の豪傑、東のランサービートルと西のシザービートルが激しくぶつかり合い、決勝戦は近年稀に見る大勝負となった。
 本物のパワータイプである槍兵がスピードタイプの鋏兵の得物を砕いた後、鋏兵が二つに分かれた鋏をまるで双剣のように使って大連撃をしかけた場面など、会場は雷でも落ちたかというほどの歓声に包まれ、まさに眼を見張る戦いであった。結局最後は両者とも自分の得物を失い、突進によるパワー比べ。三度の激突の後、東の槍兵が勝利の栄光を手に入れた。

 闘技場が夕焼に包まれる中、閉戦の儀が行われる。上位者の表彰の前に、今年成人したソルジャービートル達がずらりと並び、一人づつ名前が呼ばれていく。その列の中に、グラハの姿もあった。多分気のせいなのだろうが、試合の前に比べ、槍を持った立ち姿が逞しくなったように見える。因みに、彼は一回戦にて瓦礫に挟まれた方の足を骨折したらしく、二回戦は棄権となった。

 儀式の取りまとめを行うソルジャービートルが、グラハの名前を呼ぶ。
 グラハが、「はいっ」とはっきりとした声で返事をして、一歩前に出た。

 その瞬間である。

 グラハが、ぐらりと態勢を崩した。
 私は一瞬、先程の戦いで負ったという骨折のせいだと思った。それで、態勢を崩したのかと。
 だが、違った。
「麻痺毒の矢!!」
 隣で、アニラが張り詰めた声で叫ぶ。
 突然倒れたグラハと、彼の背後の地面に突き刺さる色鮮やかな矢に、会場がパニックに陥る。魔物達が喚き慌てふためく中、アニラを挟んで私の反対側で観戦していたマンティスが、闘技場に向けて人波を超え飛び出した。他にも、何匹かの魔物が決闘場に向けて飛び出していく。「呪いの子を殺せ!」誰のものとも知れぬ声が、何処かで聞こえた気がした。

 私は愕然とした。グラハの右肩から先を侵食する「呪いの痣」。その正体は、体内に滞留する魔力が皮膚に紋様として浮かび上がる、魔力紋の一種である。これを持つ者は生まれつき高い魔力素質を持っている反面、魔物としても覚醒しやすい。そのため、土地によっては古くから「呪い」として扱われていることがある(歴史的に魔術の日常使用が一般的な土地では、逆に英雄の証として扱われていたりもする)。
 この形質は子供にも遺伝しやすく、これが「痣を持つ者は自分と同じ悪魔の子を産む」という言い伝えに繋がるのだ。しかし、これは人間から見た場合だ。魔物からすれば、たとえ痣を持つ者と番になろうとも、魔力適正の高い子供が生まれてくる以上の影響はない。
 もし、この事実を彼女らに懇切丁寧に説明したところで、もはや聞く耳は持たないだろう。呪いの子が成人した今、彼が子をなすその前に、ここで呪いを断つ気なのだ。凶徒達の中には、一部のアマゾネスやソルジャービートルまで含まれている。

 最初に飛び出したマンティスの凶刃が、動けないグラハに襲い掛かる。
 が、その一撃が届く前に二人の間に何者かが割り込み、マンティスを叩き伏せた。
 隻腕のランサービートル。グラハの母親だ。隻腕であることを全く感じさせない鮮やかな棒捌きで、儀式用の棍を構える。
 サヴィがグラハに駆け寄り、毒で動けない彼を庇うように抱きかかえる。薄翅を広げて、飛び立つ気だ。
 そうはさせまいと、上空から二匹のハーピーが飛来する。が、謎の衝撃波が空中の彼女らを襲い、二匹は敢え無く墜落した。衝撃波の主はグラハが一回戦で戦ったシールドビートルだ。まだこんな隠し玉を持っていたらしい。
 隻腕の槍兵と盾兵は、動けないグラハと彼と共に脱出を図るサヴィを守りながら、次々と襲いくる凶徒達を撃退していく。

 私はここで、妙なことに気が付いた。
 この決闘の儀はあくまでジャングルの意志への捧げものであり、祝祭の儀の一部だ。つまり、最終的に取り纏めているのはアマゾネスのはずである。にも拘わらず、アマゾネス達は観客たちを守ってこそいるものの、儀式に水を差した不届きもの共を止める気配が無い。鎮圧の指示が出てもいい頃のはずだ。
 私は嫌な予感がして、アマゾネスの族長に視線を向けた。どうしたことか、族長は慌てる様子もなく、酒をあおりながら事態を静観しているではないか!
 これは私の予想でしかないが。族長は、きっと今日こうなることを知っていたのではないだろうか。知っていて、凶賊達を泳がせたのだ。自分の手を汚さずに、ジャングルから「呪い」を排除するために。

 族長の視線が観客席を舐めるように動いた。そして、私と目が合う。族長はニヤリと笑い、手に持った扇子をばっと広げた。
 私は驚愕に目を見開き、息を呑む。決闘場に視線を戻せば、状況を理解した魔物達がグラハ達の加勢に入り始め、乱戦の体をなしていた。アマゾネスのうち何人かも、自己判断で凶賊の鎮圧に入ったようだ。

 たぶん、彼らはもう大丈夫なはずだ。私は急ぎ自分の荷物を背負い、逃げるように闘技場を後にした。
 背後でアニラが「商人様、どちらへ!?」と叫んだが、私にはもう彼女を気にしている余裕はなかった。

 ☆

 私は遺跡群を抜け、太陽の角度を頼りに密林の中を疾走していた。湿度も気温も高い土地であるが、私の背を伝うのは冷や汗であった。
 ……昨日からずっと疑問に思っていたのだ。なぜ、族長は取引の対価を真珠で支払ったのか。
 族長にとって、真珠は未知の物体のはずだ。私が献上したときの様子も演技をしている風には見えなかった。では何故、あの真珠が本当は価値の無いものであると気が付けたのか。
 族長が私を見て広げた扇子。そこには気を吐く蜃(巨大なハマグリ)が描かれていた。
 私はあんなものを彼女に渡した覚えはない。族長は、私以外の取引相手を見つけたのだ。昨日の族長の台詞が思い出される。『海の宝石ともなれば、塩一袋分では足りるまい?』彼女が気が付いたのは、真珠の価値ではない。塩の価値だ。一般的な塩と金の交換レートは1:1.私が相場の二倍近いレートで取引を持ち掛けていたことを、知られてしまったのだ。
 あの時、私に扇子の柄を見せたのは、きっと族長なりの優しさだ。呪いの排除を目論む一派にとって、私はジャングルに呪いを持ち込んだ厄介者。もし私が彼女らに狙われても助けるつもりはないことを、教えてくれたのだ。
 背後から、草を分ける音と共にいくつかの気配が近づいてくる。なぜ昨日携帯ポーションを使ってしまったのか、私は心底後悔していた。
 このまま地面を走っていてはすぐに囲まれてしまう。私は意を決して倒木を駆け昇り、樹上の世界に逃げようとした。
 視界を遮る深い藪を抜けると、既に私の左右には弓を構えたアマゾネスが、縦横無尽に伸びる樹木の幹を滑る様にして並走していた。
 アマゾネスの足の裏、人間の土踏まずに当たる部分は、尾や翼(の名残)と同じく固く滑らかな鱗に覆われており、これを使って樹表を滑る様に移動することが出来るのだ。

 弓の弦が引き絞られ、その照準が私に向けられる。一瞬、時間の流れが遅くなる。次の瞬間の自分の姿を想像し、呼吸が止まる。
 今まさに毒の矢が私の喉を貫こうとしたその瞬間、頭上から何かが降ってきて、私の眼前僅か数10cmまで迫った矢尻を叩き落とした。
「静まりなさい!」
 私の命を救ったのは、アマゾネスのアニラであった。槍(ソルジャービートルのものとは異なる、一般的な槍だ)を片手に、仁王立ちで私を庇うように立つその後ろ姿は、今まで私に見せていたものとは異なる、戦士のそれであった。よく見れば、アマゾネスにしては特徴的であったロングスカートの側面部分にスリットが出来ている。動き易くする為に自分で破いたのだろうか。
 追っ手のアマゾネス達の動きが止まる。
「この方は私の客人です! もしこの方に危害を加えようというのなら、この私、長の娘アニラを倒してからにしなさい!」
 凛と言い放つ彼女に、アマゾネス達は動揺し、互いに顔を見合わせる。アニラは私に振り返ると、凛々しい笑顔と共に、頭に着けていたカチューシャを差し出してきた。
「商人様、お逃げください。このカチューシャがあれば、迷わずにジャングルの外まで出ることが出来ます。そして、二度とこの土地には戻って来ぬように、お願いいたします」
 私は戸惑っていた。視線の先では、追っ手のアマゾネス達が覚悟を決めた様子でじりじりと距離を詰めはじめている。
「早く! 振り返らずに!」
 アニラが槍で木を叩き、ぶんぶんと振り回してそれを構える。
 私は「すまない!」と彼女に一言謝ると、苔むした樹表を蹴って駆けだした。
「商人様、お慕いしておりました!」
 背後でアニラの声が聞こえた。その後、気合の咆哮と木や金属がぶつかり合うような音が聞こえてきたが、私はただただ走り続けた。アニラの渡してくれたカチューシャには何か魔法がかかっていたらしく、これを持っているだけで次に向かうべき方向が頭に流れ込んできて、私は来た時よりもだいぶ早くジャングルから脱出することが出来た。
 私はこれ以来、ジャングルには足を踏み入れていない。

 ☆

「ここから先は後日譚だが、アニラについてはその後一族を抜け、ジャングルを出た。実は彼女とは全く別な場所で再会することになるんだが……まあこれは今回の話とはあんまり関係がないから、話すのは止めておこう。
 グラハとサヴィについては、残念だが二度と会う事はなかったし、消息すら掴めていない。……だが何年も経ってから、ある傭兵一家の噂を聞いた。親の方はランサービートルと南方系の人間の夫婦で、夫は右肩から先が痣状の魔力紋で覆われているらしい。一家揃って相当手練れの槍使いなんだそうだが、特に双子の娘はソルジャービートルにしては珍しい魔法槍士なんだそうだ。

 ……で、ここからが本題なんだが、ジャングルから逃亡する際に私の身を助けた縁起物、それこそがこいつ! 名付けて『森姫の花飾』! このカチューシャを身に着けていると精霊使いの様に周囲の植物の声を聴くことができて……何? そんなものを売るなんてどうかしてるって? いや、別に誰かの遺品という訳でもないし、所有権は正式に私に……って、おい、ちょっと待て、なかなか見れない珍品だぞ、これは! ……ったく、タダ聞きしただけで皆帰っちまった。ま、色々役に立つ道具ではあるし、もうしばらく手元に置いておくかな。
 ……数少ない、ジャングルの思い出でもあるしね」
15/10/20 22:34更新 / 万事休ス

■作者メッセージ
お久しぶりです。ジャングルのヴィランといえば人食い虎、万事休スです。
進まぬ連載の筆に苦しみ、悶々とする毎日。
魔物娘さんの生態を確認しようと思い久しぶりに図鑑を見たら、なんとまあ可愛い娘さんが追加されてるではないですか! 私、多脚も虫系も大好き!
正直、現代を舞台に女子高生が「重甲!」って言って正義の魔物戦隊に変身する話とどっちにしようか悩みましたが、あまり感情を表に出さないという性質が反映しづらいということでこの案は没となりました。

いやー、それにしても可愛らしい! その重量感溢れるボディから、人間が素手では絶対に勝てない相手であると視覚的に分からせてくれるのも素晴らしい! それでいて感情が読み取りにくいというのが妄想を掻き立てますね! 絶対的な力量差、難しいコミュニケーション。個人的な異類婚姻譚のツボを押さえています!

本作はちょっと生意気なやんちゃ小僧と、それを優しく見守るちょい不器用なお姉さんみたいなものを目指して作成いたしました。この場合、どちらの視点にしてもイマイチ互いの心理の全貌が見えてこないということで、以前投稿した作品に登場した商人を再登場させ、彼の視点で語ってもらっています。この視点、個人的にものすごく書きやすいんですよね。一人称だけど、主人公自体が第三者的視点というか……。


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