連載小説
[TOP][目次]
涙とアンタとオレと意地 後編
「何で…こんなところに来てるの?」
師匠が言った。
空手の道場の中央に立って。
とても恨めしく、嫌嫌しく、正座しているオレに向かって。
「よくもまぁ君自身を殺しかけた師のところへ来ようと思ったね?君はあれかい?自殺志願者なのかい?」
睨み付けてくる師匠。
その顔はいつものようなニコニコした表情からは程遠い。
師匠らしくない顔だった。
「君はなんなの?自分は君を殺しかけたって言うのに…警察にも連絡しないでさ…。本当に何がしたいのかよくわからないよね。君はそうだ。そうなんだよ!」
怒鳴り声。
それは初めて見た師匠の激怒した姿。
「空手を習い始めてから君はよくわからない子だと思っていたけど本当にそうだったよ!気が弱そうでへらへらしてて!自分より年下の子にさえ異常なほど腰を低くして接して!単純な子だと思えば気が利いて!鈍臭いと思えば敏感で!それで今度は自分の番?師である自分にそんな態度をとってどうするのさっ!?」
オレは何も言わない。
正座したまま動かない。
「こんな異常な症状を持った自分へ優しく接して優越感にでも浸りたいの!?わざわざまた殺されるかもしれない危険があるのに!?他の子達は次々と自分の下を出て行っちゃったのにさ!?」
今この空手道場にはオレと師匠の二人だけ。
オレを殺しかけた、そんな師匠が居るところで安全に空手を習えるわけがないということで皆次々にやめていった。
もう二度と戻っては来ないだろう。
師匠は続ける。
さっきみたいに怒鳴り散らすような言い方ではなく、静かに言う。
「出てってくれないかな…。」
呟くように言った。
「破門、してあげるからさ…。もう二度と自分に近づかないでくれるかな…。」
それは師匠がオレを想っていった言葉だということは理解できていた。
その静かな発言がオレの身を案じていると悟れた。
だがそれは同時に師匠自身が孤独になることもわかっていた。
だからオレは言ったんだ。
師匠に向かって、その言葉を。
師匠のその症状を受け止めるって、誓う言葉を…。


それは暴走していたときに見せたあのスピードとはとても比べられないほどゆっくりとした動きだった。
ゆっくりと体を倒してくる彼女。
倒れるように身を寄せてくるドラゴン。
体を委ねるかのようにしてオレの腕の中へと入っていく女性。
オレは何も言わずに抱きとめた。
肌から伝わる温かな体温。
腕から伝わる女性らしい柔らかさ。
漂う甘い香り。
そこからはファンタジーに出てくる恐ろしきドラゴンの姿はなかった。
あるのはただ一人淋しさの中に居た女性。
オレよりもずっと強いのにオレよりも弱く感じられる。
オレよりも背が高いのにオレよりも小さく感じられる。
彼女は泣いた。
オレの胸に顔を押し付けて。
涙を流して、嗚咽を漏らして。
今までの孤独に泣いたのか。
自分がしてきた殺戮行為に泣いたのか。
それともオレが彼女を受け止めたことに対して泣いたのか、わからない。
ただ、涙した。
鋭い爪はYシャツを強く握って、離れないように。
オレを確かめるようにして。
「うぅっ…ああぁ………あぁぁぁぁああぁぁぁぁあ………っ」
弱弱しく泣いた。
オレは彼女の後頭部に手を回し、そっと撫でる。
一瞬ビクッと彼女の肩が強張るがそのまま撫で続けた。
徐々に収まる肩の震え。
小さくなっていく嗚咽。
それでも彼女はオレのYシャツから手を離そうとはしなかった。
むしろもっと身を寄せるようにくっついてくる。
その行為に少し安心する。
嫌がっている様子はない。
むしろ受け入れてくれている。
空いている片方の手を彼女の背に回して優しく抱きしめた。
月明かりに照らされた二人の影。
雲は無く、星が輝く空の下。
草が生い茂るその上でオレはかすかな違和感を感じた。
肌から伝わる彼女の体温が異常に高い。
炎を吹くような存在なんだ、その体温の高さにも納得できるだろうけど…それにしては異常。
さっき運んできたときよりも、高い。
まるで興奮でもしているかのように。
…?どうしたんだ?
風邪でもひいたのか?ドラゴンともあろう存在が?
意外と繊細だったりするのか?
あ、いや、でもさっきまで激しい運動で体を動かしていたんだ。
体が興奮状態になるのも頷ける。
頷けるはずだった。
彼女に押し倒されるまでは。
「え?」
優しい力でゆっくりと倒されるオレの体。
下は草の生い茂る地面。
受身を取らなくともたいした怪我は負わないだろう。
それでも彼女はオレの体を気に掛けてか、折れたアバラを気遣うようにして地面に倒した。
柔らかな草の感触と、抱きつかれた彼女の体温がともに心地よい。
心地よいんだけど…なんでオレは押し倒された?
わけがわからずにいると彼女はオレの胸から顔を離した。
離して、オレの顔のすぐ前に移動する。
本当に綺麗な顔だ。
そこらのアイドルや女優だってかないそうにも無いほどに。
赤い瞳が黒い瞳を映す。
そこで気づいた。
彼女の瞳に宿る炎を…。
「っ!」
なんだかわからないが何かを感じる。
言葉では到底表せないようなものを、感じる。
重圧とは違うような、死の感覚とは別のような。
それでも、異常ということだけは理解できた。
普段ただ単に生活していれば感じないであろう感覚。
もしかして、と最悪な予感が浮かぶ。
まだ症状が治まっていない…とか…!?
やはり気絶はダメか?まだ殺戮衝動が尽きてなかったか!?
そして、結論はひとつ。
オレ、死ぬな。
こんな抱きしめられた状況で、彼女にマウントをとられているんだ。
逃げ出すことは不可能。
だからといって立ち向かうにも体に力が入らない。
『燕飛』を撃った肘が今頃になって痛みが広がる。
どうやら折れてはいなくてもひびは入っているらしいな…。
左肩も切られているし。
右肩は焼かれて火傷ができているし。
抵抗するには十分な力が入らない。
戦ってるときにはあまり気にならなかったのに。
アドレナリンでも分泌されていたのか…。
まったく…終わったと思えばこれかよ。
心の中で苦笑した。
このまま死ぬなんてあっけないな、オレ。
彼女はそんなオレに構うことなく口を開いた。
ずらりと並ぶ白く輝いた歯。
歯というよりも牙に近い鋭さを持っていた。
噛み殺す…か。
彼女の異常なまでに荒い息。
肌から伝わる異様に高い体温。
抱きしめている体から早鐘のように伝わってくる彼女の命の鼓動。
ぽたりと垂れた涙ではない、口から垂らされる雫。
背に感じる草の感触。
ひやりとする夜風。
なぜか腰あたりに感じる湿り気。
静かに迫る死の予感。
その中でオレはゆっくりと目を閉じた。
18年間の生に別れを告げて。
これから逝く来世へ向かって。
だが、感じたものは死ではなかった。
痛みでもない、炎の熱さでもない、初めて感じるもの。
彼女に切られた頬。
その傷の上から何か柔らかなものが傷をなぞった。
温かく十分に湿ったそれ。
何かの粘液が傷に塗りこまれる。
しっかりと、じっとりと、丹念に。
目を開けてみればすぐ前には彼女の綺麗な顔。
え?何?首にでも噛み付いてるんじゃないの?
目をできる限り頬の傷のところへ向ければそこで動くのは赤く長い…。
彼女の舌だった。
「…は?え?ちょ、何やってんの…?」
彼女はオレの質問に答えずに、代わりにオレの体をより強く抱き寄せる。
もっと近づくように。
離れていかないように、しっかりと。
頬に感じる舐められる感覚。
ヌルヌルと残される唾液の軌跡。
そのまま彼女はオレの頬から舌を離し、オレの顔を見据える。
鼻先が触れ合いそうなほどに近くで。
彼女の熱く甘い吐息が顔にかかる。
「わから、ないっ…。」
頬を赤く染めた表情で彼女は言った。
眉をひそめ、何か体の奥から燃える感情に耐えるように。
自分の体なのに抑えきれない本能を必死で止めるかのように。
「っ!やっぱりまだ治まってなかったのかよ…!」
本当に悪い予感は当たりやすいな!
そんなことを思ったが、違うことに気づく。
あまりにも様子がおかしい。
あの症状ならすぐさまオレを殺しにかかるはず。
だが彼女はこうして留まっている。
さっきオレの頬を舐めたときは本当なら牙で頬を食いちぎるくらいはしたはずだ。
肩で息をするほど荒くなった呼吸。
殺意とは違うものを宿した瞳。
赤く染まった頬。
なんていうか…ちょっと不謹慎だけど、とても艶っぽい表情というか。
まるで情欲に耐えてるような…そんな顔をして―

―情欲?

あれ、ちょっと待てよ…。
この症状って本来ストレス性のものだって師匠言ってたな…。
だからストレス解消の原理で体を動かし続けることが症状を止められる手段に入ってるんだよな?
ストレス解消…。
別の言い方をすれば欲求不満…。
人間の欲といえば三大欲求。
食欲、睡眠欲、性欲。
…性欲?
いやいやいや、目の前のこの女性は人外の存在。
まさか人間の欲求が通用するはずが…。
「体が、熱いんだ…っ!嫌な熱さじゃない…っ。今まで苦しめられた、あの熱さじゃなくて…っ!」
「お、おい…?」
あの殺戮衝動が転換されて…なんてことにならないよな…?
殺意の炎が情欲の炎に変わるなんてないよな…!?
彼女はオレの上で苦しそうに息を吐き出す。
甘く、オレの中の何かを溶かすような息を。
「体の奥が…芯が…燃えるように、熱いっ…!」
そう言って彼女は体をオレに押し付ける。
綺麗な顔をより寄せてきて、大きな胸をオレの胸板に押し付けて、下半身ももっと密着するように。
柔らかな膨らみがオレの胸板で形を変える。
熱い体温がよりいっそう、熱く感じられる。
同時に、オレの理性がやばいと叫ぶ。
との後自分の身に何が起きるかわからないから。
この先は明らかに今までのオレが体感してきたようなものとは違うものがあると感じたから。
「そ、それなら水を!そう!川を探して水浴びでもすりゃいいじゃん!」
慌てながらそう提案してみるが彼女は首を振った。
アジサイのような綺麗な色の長髪が揺れ動く。
熱の篭った目がオレを見つめる。
「そんなもので収まりそうにもない…んだ…。ユウタぁ…!」
次第に声にまで艶がかかってくる。
オレの理性を揺らしにかかるような声を出してくる。
「もっと貴様を、ユウタを…!もっと、感じたいっ…!」
何が、なんてことは聞けなかった。
今までに見たことなかった表情。
聞いたこともない声。
感じたことのない体温。
香ったことのない香り。
それらを感じているだけでオレの中の何かが蕩ける。
思考が歪み、意志が揺らぐ。
「お、おい…!?」
「もう…どうにも、できないっ…!もうっ止まらない、んだ…!」
息も絶え絶えに、彼女は言った。
熱に浮かされた意識をオレに向けて。
綺麗な顔を情欲に歪ませて…。
そして彼女は動き出す。
殺戮とは別の本能に従って。
生物としての根本的な本能に抗わずに。
「んんっ♪」
「んんっ!?」
彼女はオレの唇に自分の唇を重ねた。
いや、重ねたなんてものじゃない、押し付けてきた。
唇の感触を確認するかのように、オレという存在を確かめるように。
「んー♪んー♪んんー♪」
「んむ!?んむんんん!!?」
ちょ、今のオレどうなってるの!?
なんでキスしてんの!?
離れようとはせずに強く押し付けられた唇から彼女の舌が這い出てくる。
それはいともたやすくオレの唇の間へ潜り込み、暴れだす。
オレの舌を見つけるとすぐに自分の舌を絡めてくる。
貪るような動き。
確認するかのような動き。
オレの全てを蹂躙するような動きだった。
熱い彼女の舌を伝ってオレの口内へ唾液が流れ込む。
甘い。
味なんて感じるはずがないのにそう思えた。
さっきまでオレの頬の血を舐めていたはずなのにそう感じた。
そしてオレの中の何かを確実に昂ぶらせていく。
長いキスだった。
いや、キスと呼ぶにはあまりにも一方的。暴力的なものだった。
ようやく唇が離れ、十分な酸素を取り込める。
あまりにも長いから酸欠になりかけたぞ…!
「はぁ…は……お、前何、し、てんだよ…!?」
息も絶え絶えにそう言う。
彼女のほうも息が上がってはいるが、オレからは体を離さずに顔がすぐ目の前にあるだけの状態。
近い。近すぎる。
彼女の吐息を吸い込んでいるオレ。
オレの吐いた息を取り込む彼女。
甘い息が頬を撫でる。
彼女の顔は真っ赤だがオレ自身も真っ赤になってるんだろうな。
興奮で真っ赤に染まった彼女はより妖艶な表情を浮かべて言う。
「止められない、んだ………ユウタが…欲しくて……っ!」
「おい!ちょ、待てよ!!」
「ダメなんだっ!もうっ…!」
彼女の尻尾が動き出し、Yシャツの襟から一気に下へ動かされる。
ぶつかっただけであばら骨を折るような強い力で振るわれる尻尾だ。
そんな常識外れの力に対抗できるほど丈夫な布であるわけなく。
血に染まったYシャツは千切られた。
白いボタンが弾け飛ぶ。
「おわっ!ちょ、おい!?」
尻尾は止まらない。
今度は彼女自身が身に纏っている鱗のところへ移動する。
さっき草の上に寝かさせたときに見た体。
鱗の上からでもわかる大きなスイカのような胸。
自分の胸を撫でるような動きをしたと思えば、鱗が外れた。
露になる彼女の大きな胸。
鮮やかな鱗の緑でより引き立てられる白い肌。
尻尾はさらに下のほうへ移動して行き、下腹部で止まる。
オレの体に強く擦り付けられた部分。
なぜかわからない湿り気を感じてたけど…?
彼女は腰を浮かせる。
そのときオレのズボンに彼女の下腹部から何か粘液のようなものが滴った。
尻尾はさっきと同じように下腹部を撫でるとそこにあった鎧のような形をした鱗が外れた。
器用に動き、外れた鱗を傍に放り捨てる。
尻尾って便利だな。
なんて感心していたが気づく。
彼女はオレの上で生まれたままの姿になっていた。
いや、ドラゴンとしてはさっきの鱗を纏った姿がその姿なのかもしれないけど。
とにかく、人間としては生まれたままの姿。
胸を、局部をオレへさらけ出した姿。
「わ…。」
綺麗だった。
中学のころ美術の授業でやたら目にすることが多かった彫刻や絵画。
それらの大半が女性がモデルという理由がわかった気がした。
絶世の美女というのに相応しい顔。
あまりにも美しい体。
艶やかで鮮やかな長髪。
バランスの取れた四肢。
しなやかなくびれ。
形がよくなおかつ大きな胸。
白く傷ひとつない肌。
形の良い臀部。
エメラルドのような鱗。
月明かりに照らされたその姿。
全てが芸術と呼ぶのにふさわしいものだった。
その姿を見て。
オレの黒い瞳に映して、気づいた。
彼女の局部。
毛も生えていない白い肌にあるそれ。
女性にとって一番大切なところ。
ぬめりけのある輝きを見せるそれ。
人間の女性のそれと同じ…いや、それよりもっとずっと綺麗に見えたもの。
そこから粘液がとめどなく流れていた。
滴る粘液は黒い学生服のズボンへ染み込んでいく。
ああ、成程。オレが感じてたあの湿り気は彼女の…。
…マジでか。押し倒されてからすぐにこの状態だったのかよ。
泉のように湧き出す粘液は学生服越しでもとても熱い。
ただ見てるだけで昂ぶる光景。
そこから漂う匂いは夜風などもろともせずにオレを包む。
彼女の甘い香りが、女の匂いがオレの男を刺激する。
ズボン越しだというのにオレのものは痛いほど張りつめていた。
地面に寝かされているオレ。
その上に乗っている彼女。
だから今のオレの状態が彼女には丸見えなわけで。
オレの体が男特有の反応してるのを見られているわけで…。
「あぁ…♪すごい、苦しそうだな……今、出してやるぞ♪」
そう言うとすぐさま尻尾が動く。
ベルトとズボンの間に先端を潜らせたかと思えば一気に力を込めて引きちぎる。
「おわっ!」
そのまま尻尾は器用に動き、数十秒もいしないうちにズボンはそばに置いた彼女の鱗の上へと重ねられていた。
オレ裸。
彼女裸。
その事実に顔から火が出そうになり、顔を背けた。
その行為にか、羞恥か、興奮かに赤く染めた顔で微笑む彼女。
その顔は本当に綺麗だった。
さっきまでオレを殺そうとしていたあの悲しげな表情はない。
慈しむような、愛しさを感じさせるような表情だ。
だが同時に妖艶さを含んでいた。
大人の、女の顔。
目を潤ませ、またオレの顔へと寄せてくる。
「おい、ちょっと…こんなの聞いてないぞ…。」
「私も、こんなものは知らない…。こんなに体が熱くなったのは、初めてだ…。」
「いや、だから水でも浴びれば―」
「ここまで昂ぶったのも、初めてだ。」
彼女は言った。
「嫌な昂りではない…。心地良い、昂ぶりだ…。だけど、もうっ…止められそうにないがな…♪」
「おい!マジかよ!?」
彼女は微笑む。
頬を赤く染めて、初々しさを感じさせる少女のように。
「受け止めてくれ、ユウタ♪」
「いや、ちょっとここまでは予想してなかったから勘弁して…。」
「全部、受け止めてくれるのだろう…♪」
「それは言ったけど―んむっ!?」
また塞がれた唇。
さっきのような荒々しさはない。
優しく、柔らかく、温かなキスだった。
熱くも甘く絡まる舌。
気づけば抵抗できないようにか、オレの両手は彼女の両手に包まれていた。
人間よりも大きなその手。
先ほどまでオレを切り殺そうと振るわれた鋭い爪。
その気になれば岩だろうが鉄だろうが握りつぶせそうなその手は痛みを感じないほどの力でオレの手を包む。
ごつごつしたものかと思っていたが優しく感じるそれ。
伝わるのは温かな体温と予想外の肌の感触。
嫌な感覚はしない。むしろ落ち着く。
そんな落ち着きを感じ取っている暇はなかった。
彼女にここまで情熱的に迫られたオレの体。
体は本能に従順なようでしっかりと反応していた。
男の部分が彼女の押し付けられる肌に擦られる。
今までに感じたことのない感覚。
夜風に当たって冷えるはずが彼女の体温でとても熱く脈打つ。
「ふぅあ♪熱い…ぃ♪」
それは彼女のほうにも伝わっているようで彼女は下腹部を動かす。
擦りあわされる肌と肌。
伝わりあう温かさ。
彼女は動かしていた下腹部を移動させていき、さらに熱いものを擦り付ける。
彼女の女性の部分。
肌から伝わる体温よりもずっと熱いそれ。
粘液でしとどに濡れたそこはオレのものに強く押し付けられる。
「くっぁ…っ!」
「んん♪」
感じたことない感触。
味わったことない感覚。
伝わる高い体温。
塗られる粘液。
その全てが織り成し生み出すはとてつもない快楽。
「うぁっ…ちょ、待った…こ、れはっ…!」
膨大な量の快感。
味わったことのないその感覚はオレを昂らせていく。
だがその感覚は一方的なものではなく、彼女もまた快楽を享受していた。
「ああっ…すごい…♪う、ぁ♪」
トロトロに蕩けた彼女。
ギンギンに硬くなったオレ。
何度も触れ合わせ、擦り合わせ、互いを昂らせていく。
逃げようと腰を引かせても下は地面。
腰を横へ逃げようとしてもいつの間にか彼女の尻尾がオレの足に巻きつき、束縛する。
両手を彼女にとられていて、下腹部は彼女に跨られていて、足は彼女に捕らえられていて。
完全に逃げられない状況だった。
その状況で彼女は動き出す。
オレのものから彼女自身を引き離す。
高い体温が離れていくがそれでもなお熱を保つオレのもの。
彼女の粘液で濡れたそれは見たことないほど張りつめていた。
「もう、いいだろう…?」
「何が…?」
この後の展開がわからないほどオレは性に無頓着じゃない。
それでも口に出でしまうその台詞。
したことのない行為を前にオレは少しの緊張をしていた。
彼女のほうはそうでもないらしい。
そうでもないというか…本能に身を委ねたその姿からは緊張よりも情欲が滲み出ていた。
女の部分を見せ付けて。
オレのものにその粘液をとめどなく滴らせて。
女らしい妖艶さをオレに感じさせて。
男の本能を誘い出すように言った。
「もう、止まらないんだ…いいだろう?」
「………はぁ。」
その言葉に少しばかりの息を吐いて。
体に入った余計な力を抜いて。
彼女の赤い瞳を見つめて。
先ほど言った言葉を口にする。
彼女を止めると、誓う言葉を。

「来いよ。全部、受け止めてやるからさ。」

その言葉に彼女は嬉しそうに微笑む。
包まれた両手を動かし、彼女と指を絡ませると彼女はさらに嬉しそうな顔をする。
オレよりも少し大きな手。
そっと優しく握り合った。
「んっ♪」
熱く潤んだ彼女のものがオレのものの先端に押し付けられた。
さっきまで感じていたあの快楽がまた戻ってくる。
ただ触れているだけでも気持ちがいい。
彼女は力を入れてオレを導く。
彼女自身の中へ。
「んぁっ!!?」
「あ、あぁあああぁはっあん♪」
少しばかりの抵抗。
だがすぐに彼女はオレを受け入れる。
柔らかく密着してくる彼女の中。
炎のように燃えているような熱。
強く抱きしめ、熱く燃え、彼女とオレはひとつになった。
「んっく、うぁ…!」
「あぁ…入った…ぁぁん…♪」
感じたことのない窮屈さ。
記憶にないその熱さ。
それが別の感覚へと変わる。
さっきまで感じていたのが子供だましに思えるほど。
とてつもない、膨大な量の快楽へ。
気を抜くとすぐさま果ててしまいそうな快感へ。
オレの全てが飲み込まれると先にはこりこりとした何かが吸い付いてきて離さない。
「う…うぁ…っ!」
やばいやばいやばい!
これは本当にやばい!
あまりにも良過ぎるだろ!
オレが初めてというからか、彼女が相手だからかわからない。
そんなことを考える暇さえ与えられないほど彼女の中は気持ちがよかった。
彼女を受け止めるなんてカッコつけたけど全然できそうにもない。
余裕なんてものは残ってない。
理性さえも飛ばされる。
彼女を見れば…。
「はぁあん♪すご、い…♪私の中で…とても、熱く感じられてぇ♪これが…ユウタ、なのかぁ♪」
蕩けた表情。
快楽に染まった顔をオレへ向けていた。
赤く染まった頬。
トロンと蕩けた目。
少しばかり開いた口からは甘い吐息が漏れる。
ドラゴンとは似ても似つかない姿。
誇り高さは淫声に変わり。
崇高さは媚熱へ変わる。
気高さも凛々しさもないその姿。
快楽に乱され、快感に溺れ、雄を求める雌そのもの。
「ふぅああぁ、あ♪どう、だぁ♪私の中は…あぁ♪」
そのまま体を倒してきて甘い吐息を吹きかけられる。
オレは彼女に応えるように唇を重ねた。
オレからはあくまで優しく、受け止めるように。
「んん♪んー♪」
そのキスに彼女は反応した。
体が痙攣し、それに伴い彼女の中が急に締まる。
「んむっ!?」
痛いくらいに絞めつけられ、送られてくる膨大な量の快楽にオレは限界を迎えた。
頭の中が真っ白に染められるような感覚。
彼女の中に精を放つ。
今まで出したことのないぐらいに大量に。
彼女の中をオレ一色に染め上げるほどに。
「んんんんん♪んんー♪」
唇に吸い付きながらも声をあげる彼女。
体は大きく痙攣しながらもオレを求めて舌を動かす。
舌は突き出され、オレはその舌に自身の舌を絡ませる。
片方は貪るような快楽を。
片方は優しく迎える快感を互いに送りあった。
キスをしている間にも彼女の中は蠢く。
オレから精を搾り出そうと動き出す。
貪欲に、いやらしく、ねちっこく。
吸い付き、撫で上げ、搾り出す。
そして、その動きに彼女の意志が加わった。
「んんー♪ん、んむむ♪んちゅ♪」
腰だけを動かす彼女。
体はオレに押し付けたまま。
唇はオレと重ねたまま。
腰を打ち付けて、さらにオレを貪りにかかる。
「んんー!!んむうむむ!!!」
「んむむ♪ちゅる、むむ♪」
何を言っているのか何を言いたいのかわからない。
出せるのはくぐもった声のみ。
ただ共通しているのはともに快楽に染められた声だということ。
激しさを増していく腰の動き。
緩やかなものは最初からない、叩きつけるような動き。
月明かりの下で乾いた肉の弾ける音、粘液の湧き出す音が響く。
そんな中で送られてくる快楽は暴力的なものだった。
下は地面。
引くに引けずに叩きつけられる腰。
叩きつけられるたびに強く締め上がり、オレを抱きしめる彼女の中。
湧き出す粘液が潤滑油となりさらに加速させる。
硬い土。
動くに動けず貪られる口。
絡めあった舌は互いの口内を行き来しているが、いつの間にかオレの口内から唾液を貪り、彼女から涎を流しこまれていた。
冷たい地。
熱を帯びた身体が、胸が押し付けられる体。
柔らかな感触により昂るオレの情欲。
もう、止まらない。
オレを求めて止まらない彼女に合わせるようにオレの体は動き出した。
叩きつけられる腰を自分から突き上げて。
「んむっ!?んんっ♪むむん♪」
貪られる口内から舌を彼女の口内へ侵入させ。
「んー♪んーんん♪」
そして、しっかりと指を絡めて。
互いを確認するように。
お互いを慈しむかのように。
「ん、ぷぁ♪ユウタ、ユウタぁぁあ♪」
彼女の欲望を受け止める。
淫らな願望を抱きとめる。
「あ、あぁ♪すごい、こひゅれてぇ♪ひゃあん♪あぁっ♪」
突くたびに噴出す粘液。
オレの下腹部を容赦なく湿らせ、淫らに染める。
オレのものを抱きしめ、柔らかく舐めあげる彼女の中。
先端が彼女の奥を突くたび、共に電撃のような快楽が走る。
あたりに響く淫らな音。
オレと彼女が奏でているという事実がとても興奮させる。
乱れあうオレと彼女。
暴力的な快楽に、優しき快感により互いに限界が近づいていた。
「あぁあ♪また、ぁあああぁんあ♪も、ダメだぁ♪止まら、ないっ♪」
きつく締まってくる彼女の中。
より押し付けられる彼女の体。
絡めた手には力が入り、痛いくらいに握り合う。
同じように尻尾はオレの足に強く巻きつく。
とてつもない力で押し付けられてる腰。
送られてくる快楽に耐えようと足に力を入れるも、それが逆に彼女の腰に押し付ける形になる。
より深く彼女の中へと埋まるオレのもの。
より強く彼女の奥とオレの先端が押し当たった。
「あああああぁぁあぁああぁああ♪」
獣のような叫びがあたりに響く。
ともに彼女の中も強く締まった。
粘液を噴出し、体の震えがもろに伝わる。
こんなっ…もう…っ!
「うっあぁっはっ!!」
送られてきた膨大な量の快楽にオレはとうとう決壊した。
彼女の一番奥へ滾る精をぶちまける。
二人して体を快楽に震わせ、絶頂しながらもさらに貪ろうと動き出す。
腰をくねらせ、さらなる精を促して。
腰を押し付け、さらに注ごうと動かす。
二度目というのにさっきよりも大量の精が彼女の中を満たしていった。
「あぁあ…ああ♪注がれて、るぅ♪」
「ふぅっあ…くぅっ!」
今までに感じたことのないほど長い射精が終わり、体の震えはようやくおさまった。
収まったがいまだに滾り続けるオレのもの。
さすが学生。精力盛んなお年頃。
それに収まりが付かないのは彼女のほうもらしく、彼女は腰を再び大きく動かし始める。
「うぁっ…ちょっと、まだやるのかよ…?」
「全然、だ♪まだ昂ぶりは…ん♪治まりそうにも、ないからな♪」
「…マジかよ。」
運動して少しの汗を流している彼女。
そのことによるものかさらに強くなる甘い体臭。
重なった肌から伝わる体温、胸の柔らかな感触。
今も動き続ける腰は、彼女の中はオレへ膨大な快楽を叩き込み。決意を崩させる。
とどめは―。
「受け止めてくれ、ユウタ♪」
オレを求める妖艶な声。
吹きかけられる桃色の吐息。
恥ずかしそうに赤く染まった頬。
快楽に溺れた表情。
情欲に染まった顔。
全てがオレの本能を刺激する。
そんな行動をする彼女にオレは動かぬ体を必死によじって、彼女と触れ合わせる。
繋いだ手を離して、両手を広げて。
彼女を包むように。
彼女を受け止めるようにして応えた。
「ほら、おいで…。」



「自分は君を過大評価し過ぎてたみたいだね…。」
師匠は言った。
静かに、オレに言い聞かすように。
「君は教えたものはすぐに覚えるから頭が良いと思ってたけど…そうじゃない。そうじゃないよ、君は。君はただ単に…単純なんだよ。単純だから教えたこともすぐに覚える。頭で覚えるんじゃなくて、体が覚えるんだ…。」
小さく縮こまった師匠の体。
オレよりも長身なその身長はオレの腕の中にしっかりと収まっていた。
震える体で、震える声で師匠は続ける。
「君は…馬鹿なんだよ…っ。」
弱弱しく泣く師匠。
普段からニコニコしていたあの明るい姿からは想像できないほどに弱弱しかった。
触れれば壊れてしまいそうな、突けば崩れてしましそうな。
そんな儚い姿だった。
「君は…本当に馬鹿だよ…。ただ単純で…それで、馬鹿なだけなんだよ…。だから君を殺そうとした、こんな人でなしの自分のところに来るんだよ…!もう、来ちゃいけないのに…!殺されちゃうかもしれないのにさ…っ!」
オレの胸板に顔を押し付けて泣く我が師。
いくら空手の師範代とはいえ、師匠はこれでも女性。
オレにとっちゃ見捨てられない存在。
オレは師匠の背に手を回して、あやすように撫でる。
そして、そっと言った。
「それなら、全部受け止めますよ、師匠…。」



思えばオレはあの時師匠にしたことをやっていたんだな。
オレを殺しに来る彼女を受け止めて、慰めて。
殺戮以外で襲われるのは予想外だったけど…。
月明かりの下。
オレは彼女を抱きかかえたまま草の上に寝転んでいた。
いまだに繋がったままで。
夜風が火照った体を冷まして心地いい。
ただ下半身はやたら湿って心地悪い。
彼女の愛液かオレの精液かがやたら飛び散っている。
やっぱ川を探しとくんだった。
つか、何回出したっけな?
10回以上は…いったな、確実に…。
片手は彼女の頭を撫でて。
もう片方は彼女と指を絡めて繋いでいた。
というか彼女が離してくれそうにない。
今まで一人で苦しんできたからだろう。
温もりが、欲しかったんだろう…。
「んん…心地良いな…、こうしていると…。」
彼女は嬉しそうに言った。
「ユウタの体は温かい…。感じたことのない、温かさだ…。」
「嫌じゃない?」
「まさか。」
彼女は空いている手をオレの後頭部へ回してきた。
オレの顔を見据えて、言う。
「とても安心する…今までにないほどに、心落ち着くのだ。」
「そっか。そりゃよかった。」
「こんなに昂ぶったのも、あんなことをしたもの…ユウタが初めてだ…。」
「……うん…そう。」
そういう発言は反応に困るな。
嬉しいは嬉しいんだけどね。
…ただ、初体験が外で逆レイプっていうのは…ちょっと…うん、衝撃的だった。
「不思議だな…。」
彼女はそっと呟くように言った。
小さい声だけどオレに向かって聞こえるように。
「何が?」
「今まで散々嫌な昂ぶりが支配していたのに…今はそうでもない…。」
「…衝動は?」
「ない。なんというか…満ち足りているとでも言うのだろうな。」
彼女は体をオレに摺り寄せる。
くすぐったくて、可愛らしい仕草だ。
「今まで止められなかった衝動が…浄化されるようだ。」
「そっか。」
「これも皆、ユウタのおかげだ。」
彼女はオレの目を見つめて言う。
赤い瞳が黒い瞳を映す。
「なぁ…ユウタ…。」
「ん?何?」
「その…すまなかった…。」
「あん?何がさ?」
彼女はオレの傷を撫でる。
痛みを感じないように優しく。
その鋭い爪で傷つけてしまわないようにそっと。
「ユウタの体を傷つけてしまった…。」
「気にするなよ、傷なんて治るだろ。」
「でも…。」
こつんと、撫でていた手で拳を握り彼女の頭を軽く叩く。
さっきやったように。
彼女もまたさっきしたように驚いた顔をした。
「こんな傷、アンタが味わった苦しさに比べりゃないようなもんだろ。」
「いや、だからって…」
「いやもだからもなし。この話はここで終わり。」
そう言うと彼女は驚き丸くした目を閉じた。
「………貴様は…いや、貴方はいい男だ。」
「うん?そう?」
「ああ…。」
照れるようなこと言ってくれるな。
そんなことを言われたのは初めてだ。
「なぁ、ユウタ…。」
「ん?」
「その……私の名を呼んでもらえないだろうか?」
そう言われてはっと気づく。
彼女を止めようと頑張って。
彼女を抱きとめようと奮闘して。
彼女を受け止めようと踏ん張って。
彼女とここまでしちゃったわけだが。
オレはまだ彼女の名前を知らない。
「教えてくれる?アンタの名前。」
「ああ。私の名はロベルタ・ボールドウィン。」
ロベルタ…ボールドウィン…か。
「いい名前だな。」
「母が付けてくれたものだ。」
「…親は?」
「いない。」
冷たい声だった。
とても静かで、とても淋しげな言葉だった。
「物心付くころには私はこの洞窟で一人だった。一人で、来た者を傷つけずにはいられなくなっていた…。」
「…。」
「私は…捨てられてのだろうな。」
「…。」
悲しい事実。
彼女は、ロベルタは親にまで見離されたというのか…。
そういえば、師匠もそうだったな。
あの症状があまりにも手に負えないから勘当されたって言ってたっけ…。
ひどいもんだ。お腹を痛めてまで生んだ子じゃないのかよ。苦労して育てた子じゃないのかよ…。
彼女は淋しそうに笑った。
目には少しばかりの雫を溜めて。
それを見てオレは小さく言った。
「…オレが、いるだろ?」
「…え?」
彼女の赤い瞳を見て。
彼女に聞こえるように言った。
「オレがいるからさ。…ずっと、ロベルタのそばにいるからさ。」
「…ユウタ。」
「言ったろ?」
オレは微笑んで言ってやる。
さっきも言ったあの言葉を。

「ロベルタの、全部、受け止めてやるってさ。」

彼女がドラゴンだろうと。
伝説に出てくるようなとんでもない存在だろうと。
ロベルタは女性。
か弱き女の子。
それは変わらない事実であって、それが現実なんだ。
オレにとっちゃ、ぞんざいに扱っちゃいけない存在なんだから。
「その殺戮衝動だろうが、その本能だろうが、その辛さだろうが淋しさだろうが。全部、受け止めてやるよ。」
「…っ…本当に…ユウタは、いい男だな。」
「ありがと。」
赤い瞳から流される雫。
そっと手を出して彼女の頬を伝ったそれを拭う。
月明かりに照らされるそれは宝石のように煌いた。
冷たい風が駆け抜ける暗い闇。
月の下の草の上。
二人重なるその夜の中。
オレの手はしっかりと彼女の手を繋いでいて。
ロベルタも離れないように力強く握り締めて。
互いを確かめるように。
ここにいるという事実をかみ締めるように。
そっと口付けた。



それは遠い遠い昔の話。
大陸のある洞窟にその悪いドラゴンは住んでいた。
たびたび訪れる冒険者を喰らい、勇者を狩るとてつもない悪竜だったそうだ。
だがそのドラゴンに一人の男が立ち向かう。
どこから来たのかはわからない。
闇のように黒い瞳で。
影のように黒い髪で。
夜のように黒い服を纏ったその男はドラゴンに立ち向かった。
剣も盾も魔法も何も持たずに拳ひとつで戦った。
熾烈な戦いの末にその男は見事ドラゴンに勝ったという。
だが男はドラゴンを討ち取ることはなかった。
男はドラゴンに情けをかけ、その命をとらなかったそうだ。
ドラゴンはその男の心に打たれ、今までの悪行を悔い改めた。
そしてその男は伝説になった。
闇の英雄として。
影の勇将として。
夜の戦士として。
黒い勇者として伝説を残した。
あのドラゴンをたった一人で打ち勝った男として、大陸に平和をもたらす希望として。
こうして大陸には平和が訪れた。
その後男はドラゴンをパートナーとして迎え入れているとか、はたまた妻として受け入れたとか…。



「…ということでした。めでたしめでたし。」
「父様!父様!もう一回読んで下さい!」
「一日一回夜寝る前だけって決まりだろ?それにこの後は母様待たせてるんだぞ。」
「最近、というかいつも母様にべったりではないですか!というか母様がべったりではないですか!スライムでももう少し自重しますよ!」
「母様は仕方ないんだよ。それに明日のお祭り行けなくなるぞ?」
「うっ!」
「『英雄祭』だっけか?御伽噺の黒い勇者を称えた祭りだったかな?随分と前から楽しみにしてるんじゃなかったっけ?」
「そ、それは…。」
「今年の勇者を決める大会に地方からいろんな戦士が参加しに来るだろうよ。お前の夫に相応しいくらいの男もきっと来るさ。」
「…私は父様が夫になって欲しいです。」
「オレは既に母様の夫だからな。」
「うー…。」
「明日は一緒に行ってやるから。もう寝な。」
「…はい。おやすみなさい、父様。」
「おやすみ。」

「…長かったな。」
「ちょいと渋られた。あの御伽噺をもう一回読めと頼まれてさ。」
「あの黒い勇者の話か。」
「あの御伽噺といい、明日の祭りといい…絶対オレらのことみたいなんだけど?」
「さて、どうなんだろうな…。」
「そういや娘が母様は父様にべったりだとか、オレを夫にしたいとか言ってるんだけど…。」
「我が娘らしいというか…娘にまで好かれるとはな。」
「できるならそろそろ独り立ちさせるべきだろうよ。」
「させるのか?」
「どうだろ…。あの症状は見られないから平気だとは思うけど。娘の意見を尊重したいし。」
「そんなことをすれば絶対に独り立ちはしないと思うのだが…。」
「…同感。」
「……ん♪」
「好きだね。抱きしめるの。」
「これが一番落ち着くからな。」
「懐かしいな。初めて会ったときもこうして抱き合ったっけか。」
「ふふ、あのときからまったく変わらないな。」
「おかげさまで…。まったく人の成長止めるようなもの使いやがって。寿命が延びるのはいいけど学生姿で成長止まるなんて聞いてねぇよ。」
「その姿私は好きだぞ。」
「オレとしてはもう少し身長伸ばしたかったけど。」
「今のままでも十分素敵だ。」
「ありがと。」
「んん。やはり温かい。ずっとこうしていたくなる。」
「…殺戮衝動はどうなんだ?ここのところずっときてないけど」
「まったくさ。別のもので満たされているような感じだ。」
「別のもの?何それ?」
「ふふふ、幸せ、とでもいうのだろうな。」
「そっか、幸せか。」
「…ユウタ。」
「ん?何?ロベルタ。」
「こんな私を受け止めてくれてありがとう。」
「おう。こちらこそ、オレを愛してくれてありがと。」


   黒崎ゆうた VS ロベルタ・ボールドウィン
      第三戦  決着

    HAPPY  END
11/03/20 22:37更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
戻る 次へ

■作者メッセージ
ドラゴン編これにて完結!
そして洞窟ルートもこれにて完結!
魔物娘の中でもかなり上位の存在が出てきたこのルート
主人公が高校生らしくないっ!

さて、次回は少しばかり違うものを書いて、それから新しいルートへといきます!
次回のルートはこれ!

『クロクロ港ルート』

海に落ちて港に流れ着いた主人公とそこに住む魔物娘のお話
主人公と魔物娘がおりなすストーリーをご堪能あれ!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33