鬱蒼と茂った木々の掠れはざわめき、それは時に轟きであった。
　遠くに水流があるのだろう、どうどうと音を立てている滝の叫びが聞こえる。
　深緑色の外骨格に覆われた魔物は、その森の３番目に大きな木の上にいた。
　木漏れ日は彼女を多く照らさず、迷彩柄を湛えさせる。
　髪は美しい黒檀色で、昆虫のように輝く目が飾られている。
　しかし、何よりも引き立つのは腕から手の甲にかけて伸びる甲と、その先にある鋭利かつ長いカマだった。それが彼女をカマキリであるとことを強調させ、また同時によく手入れされていることから、カマを大事に扱っていることがわかる。
　マンティスが目をうっすらと開いた。
　髪飾りに合わせたかのように、彼女の目は金色だった。
　眼光鋭く、木下を通り過ぎる木樵を一瞥する。男も視線に気付き、見上げる。挨拶かどうかも判別できぬその一瞬だけ、もしかすると両者は互いの存在を認めていないのかも知れない。ふたりは何事もなかったかのように視線を戻し、自分の生活へと戻る。
　これが、ずっと続いた。
　森にはカマキリが棲む...そう言い伝えられてきたと言うわけではない。
　しかし数ヶ月前から、とある兼業木樵の御用達であった森には彼女が居た。

　朝、いつもの様にマンティスは木の上で目を覚ます。
　森には霧が立ち籠めており、時に狐がきゃんきゃんと啼くこともあった。
　ひんやりじんわりした冷気に当てられ、彼女は軽く身震いする。
　カマキリに朝食は必要ない。夕食も、夜食も要らない。1日2日、または1週間何も食べないことすらあった。
　腹が減ったと思ったのだろう。カマキリは自身の腹を優しく撫でた。
　そして、頭を抱えこむ。目を強くしばたかせた。
　どうにも朦霧に体調が狂わされたらしく、体に火照りが出来ていた。

「らしくもない」

　マンティスは再び身震いした、
　彼女はのんびりと腰を上げ、木の上に二本足で立った。
　ふらふらと立ち眩み、右手で頭を抑えた。
　その足取りは思わずとも触覚を幹に押しつけ、彼女は軽く平衡感覚を失った。
　意識も明滅し、体の調子も下がり放題だ。マンティスは悪態を吐いた。
　足を滑らせ、高い木から落ちる。
　すぐさまカマを起こして木の幹を削り、木を深く傷つけるまでには地面にゆるりと着いていた。
　朝露が木の上よりも酷い。マンティスは足をぐっしょりと濡らしてしまったと溜息を吐く。
　両腕で頭を抱え込み、幹を背にして寄りかかって離れず、彼女は揺れるように固まった。細く長く、深く息を吐いて、のんびりと体を伸ばして息を吸った。
　木樵は今日もやってくるだろう。カマキリはふと考える。
　どうして自分がそのようなことを考えてしまったのかまるで悟らなかったが、彼女は気分が幾分かましになった。

　霧が晴れて露も乾き、森が昼だと教えてくれる。
　マンティスは空腹感で満たされていたが、何も喉に通す気にはならなかった。
　それどころか、自慢のカマで何かしらを斬りつけることにすら抵抗を覚えていた。
　明朝寝ていた大木に切り込んだことも強い後悔となっていた。
　まったく意味の分からない悶々とした精神状態も、カマキリにとって初めてであった。
　体は熱っぽく、しかし怠くもなくむしろ活性魔法を使ったかのようだ。
　彼女は魔法の行使がてんで苦手であったが、極簡単な活性魔法程度は心得ている。
　自分がいつそんなものを自身に仕掛けてしまったか、まったく記憶になかった。
　気分良く殺気だった感覚に苛まれながら、マンティスは木の上で腰を掛けていた。
　カマを手入れしていたが、思うように手が動かなかった。
　ふと、男が森に入った気がした。
　それは体内時計の一種でもあり、予感でもあり、森が教えてくれたのかも知れない。
　確かにマンティスはそれを感じ取った。

「あぁ。そういうことか」

　彼女は火照りを理解し、受け入れた。
　魔物の女としての時が、ほぼ完全に熟したと知った。
　一度もした事がないが、毎度やっている狩りと同じだった。
　彼女は寝ていた木の上の、更に上の細枝に飛び移る。そこで木樵の姿を見つけようとしたためだ。
　じっと葉々の間に顰み、男の出現を待つ。枝は弱い風でもよく軋み、揺れる様は小さな船頭であった。
　黙っているうちに、いつもと違う事に気付く。
　胸の高鳴りだ。
　心臓の早鐘は、どうにも抑えられなかった。
　マンティスは細い枝から片手を離し、彼女の太腿に置いた。
　顔と同じように露出した白い肌に婉美な筋肉が包まれ、微かに震えていた。思わず震えに驚き、そして平静を保っていられない事にもまた驚いた。それでも視線は固く一点を見つめ、その木陰から男が見える事だけを期待した。
　しばらくの後、髭面の男は現れた。
　マンティスの心臓は爆発しそうになった。
　筋肉が張りつめて固くなり、枝と一緒に体まで軋んで悲鳴を上げている。
　全身の紅潮を感じた。
　血潮とはよく言ったものだ、と彼女は思った。
　まさに今、彼女の血は体中にこれ以上ない程にまで充ち満ちていた。

　歩幅を一切変えず、男は慣れた足場を難なく渡っていた。
　伸びて後頭部に纏めてある髪に付着する木の葉も、全く意に介していない様だ。
　一歩一歩を確実にカマキリへと近づけ、そして木の上を目だけで追ったが、何も見つけられなかったようだった。魔物の存在を確認できなかった男は、いたって無表情に斧を腰に下げて小刀を持って歩いていた。
　マンティスと木樵は、この大木で普段互いを見つけ合っていたゆえの警戒だ。
　木樵からすると、魔物への用心は超した事がないと思っていたのかも知れない。
　もしそうだとすると、と彼女はせせら笑いたくなった。ただ通り過ぎるだけの男に、何ら問題はない。問題がないなら、私がその怪物を起こすだけ、とマンティスは直感的に理解していた。
　カマキリの射程圏内に木樵が入った。
　瞬く事も忘れたマンティスは、専意に見つめていた。
　男は周囲の不自然さに気付いたかのように、早足になった。
　声なくマンティスは飛び降りた。
　その俊敏さたるや、人間が気付く事の出来る範疇をとうに越えている。
　宙にいる間に跳ね上げたカマで、飛び降りた勢いのまま木樵の背負う籠を切り落とす。
　半身を捻り、脛を覆う鎧で小刀を蹴り飛ばし、斧を繋ぐ革鞘を斬ってひったくり、遠くへと投げ捨てる。
　木樵は声を上げる暇もなく、仰向けに倒された。

「何だ」
「黙ってろ」

　上にのしかかり、マンティスは首筋にカマを当てた。
　彼女の両足の下には、それぞれ木樵の両腕が抑えられている。
　目を数瞬白黒させた木樵は、青白い顔でカマキリを睨み付けた。
　よく見ると、若く彼女好みな顔立ちの男だった。
　マンティスはすぐさま片腕で木樵の下半身をまさぐり、同時に首の傷口から魔力を注いだ。当然のように、男は呻いた。
　木樵は自分の身に何が起こったかを理解していた上、それを打開すべく策を練っていた。しかしその隙を彼女は与えなかった。怒る木樵を見下し、嘲笑するかのようにマンティスはカマを戻し、首を片手で絞めるように触れた。
　下半身の一部が露わになり、木樵が歯を食いしばる。未だに抵抗が見て取れた。その威勢に彼女は幽かな興奮を感じながら、鼓動の早鐘を聞いた。
　彼女自身は細かく刻み込んだようなスカート状の防護しか秘部付近に施しておらず、後は繋がるだけであった。
　無理矢理いきり立たされた男を押さえつけたまま、マンティスは自分に押し込んだ。
　自分に埋めたその瞬間、彼女の脳髄は根幹まで打ちのめされた。
　すとん、と腰を落とし次第放心した。
　放心せざるを得なかった。
　ふたりの中心からは、マンティスの経験には無い喜びと悦びと歓びが溢れていた。

「そうか」

　マンティスは呟いた。
　快楽は絶頂を何度も迎え、その折には脳を白濁した意識に染め上げ、魂を真っ赤に燃やした。達した後は決まって五感が鋭くなり、更なる愉絶を味わおうとする反面、辺りを確認した。
　葉の擦れる音が波立ち、どうどうと滝の音が響き、鳥が囀っていた。
　その全てがマンティス祝福しているように思えた。
　木樵は快楽に呑まれておらず、寧ろ彼女よりもはっきりとした意識を保って情況を見据え、思案しているようだった。しかし、カマキリが男の首を強く押さえつけたまま固まり、一切の動きを禁じられていた。木樵はタダ目だけを動かして周囲と、マンティスを睨み付けていた。喉笛を抑えられて喋る事すら許されないのである。ただ流れ込んできた魔力が体を循環し、何倍にも増幅されて別のものに変換され、傷口とは違う経路を辿って彼女に提供される事は判っていた。
　マンティスは腰を持ち上げ、また深く落とした。
　ひねり、回すように腰を振り、息を熱く荒げた。
　彼女の頭は白濁よりも白くなっていった。
　絶頂が近づいてくる。

　気が付けば、数時間経っていたのだろう。夕暮れが森に訪れていた。
　マンティスは快楽の他に空腹も満たされると知り、男が息絶え絶えであると理解した。
　いつの間にか、興奮のあまり木樵の衣服をずたずたに切り裂いていたが、その光景は男を手に入れたという陶酔感をより刺激した。
　木樵の首を離し、その緩めた手を胸に移した。

「普段口ずさむ声では満足できない。その喉から何かを話せ」
「まさかここまで辛くなろうとは」

　男は間髪入れずに喋った。

「カマキリが何時間も交尾するとは知っていたがな」
「そうか」
「さぞ気持ちの良い思いをしたと見えるが、それでお前はおしまいだ」
「どういう事だ？」
「俺は木樵であり、また山林の魔物祓いだ。
　本来の仕事を執行するに当たるならば、俺はお前を殺さねばならん」

　男の服が輝き、その光源が服の下にあるとマンティスは見抜いた。
　しかし、危険を察知しても飛び退く事はしなかった。

「お前らの特徴だ。一度繋がれば、危険を承知で男を愛する」

　皮肉げに木樵が言った。
　木々がざわめき、さっとマンティスの体が冷たくなった。
　耳には先頃まで聞こえていた自然の音が全て聞こえなくなっている。
　森が黙っていた。

「つまりお前は何だって言う心算なんだ」
「インキュバスだ」

　男は即答した。憎悪にまみれた声だった。
　マンティスは木樵の表情を読み取れなかった。蒼白な男の顔はほぼ全ての感情を削ぎ取られており、その口元は嘲が孕まれていた。その顔にすら既にマンティスは魅了され、今にも熱く口付けようとする。どのような表情にも胸が躍り、その発見を楽しんで男を愛した。愛が何かを知った時、マンティスは爆発したのだ。
　ただふたりの間には零れるばかりの白濁があり、会話を続けていてもなお繋がりが解かれていなかった。
　服の下から、光輝く青い蛇が出てきた。
　蛇は長く、すぐさまカマキリに飛びついた。
　青く光っていたのは炎らしく、絡みついてくる蛇にマンティスは悶絶した。
　しかし彼女は平静を取り戻す事ができた。

「蟷螂は蛇をも喰らうと言うもんだが、そいつは喉が爛れるだろうよ」

　マンティスはこの快楽を知ってしまった事を後悔できなかった。冷えた体は未だに木樵を求め、熱を取り戻さんとばかりに降り立った腰の下で疼いていた。それは甘美だった。
　未だ伸び続ける蛇すらも快感だと錯覚した。
　口を開けたり閉じたりしているマンティスに向かって、男は薄ら寒い奴だと呟いた。
　それでも彼女は求めていた。木樵はそれに応えていた。
　端から見ると、彼女たちは動いていない。しかしその実、カマキリは人間には恐らくほぼ絶対的に出来ないであろう芸当をやってのけていたのだ。
　そんな最中でありながら、マンティスは男に呟いた。

「私はお前から離れる事を諦めよう」
「大人しく焼き殺されてくれるのかい」
「違う」
「じゃあ何だって言うつもりだ」
「私は残念ながら、溺愛してしまった」
「魔物は性愛に惹かれるものだ」
「そうかもしれない」
「俺は御免だね」
「...一つ約束してくれないだろうか」

　燃える蛇に巻き付かれながら、嫌な臭いを立ち上らせつつマンティスは訊いた。
　木樵は怪訝な声で、とりあえず聞こうといった。

「この蛇を斃したら、どうか一緒になって欲しい」
「俺は君に死んで欲しいもんだがね」
「そうか」
「お前は知らないだろう。悪く思うな。これが人間だ」

　蛇の尾がやっと男の胸から抜けていった。

「じゃあ賭けようか。どのみち俺は魔物祓いを続けよう」
「何でもいい。どうでもいい。そこで...私の下で、見て居るがいい」

　マンティスはカマを展開させ、蛇を切り裂いた。
　蛇は暴れ、締め付ける事を止めて彼女に牙を立てた。
　1時間程その攻防が男の上で続いた。
　周囲が暗くなったときには、男も流石に呆れて溜息を吐いた。
　囀る鳥は巣で休み、嘶く獣の声が遠くから聞こえる。木々の話し声と滝の歌は相変わらずだったが、木樵の上での戦いももう終わりつつあった。背中の冷たさを感じながら、男は騎乗位の女に声を掛ける。





「もう諦めたらどうだ」

　マンティスはずっと戦っていた。空腹も充分満たされていた事もあったし、最初のうちの締め付けなどは硬い外骨格で武装されている彼女にとっては無意味なものでしかなかった。蛇の毒にもずっと耐え続けていられるだけの必要な魔法などは知っていた。しかし、限界がある。火によった傷はマンティスにとってどうしようもないものだった。
　火傷は彼女を確かに蝕み、体表から徐々に力を失わせていった事は確かだった。
　男は冷ややかにマンティスを見上げた。
　彼女は既に傷だらけであった。特に太腿は酷いものだ。
　白く宝石のようになめらかに美しかった肌には牙によって穴が空き、素肌では火傷に耐えきれないことを存分に物語っていた。血の焦げた後は現実感を帯びず、喘ぎ呻いてもなお無言を通して戦い、また木樵を感じ取ろうとする彼女の姿勢は、俗物の魔物像を遙かに越えた、神聖なものにも見えた。
　目をしばたかせた木樵は痺れきった体を震わせ、低い声で劈いた。

「いい加減にしろ」

　木樵は睨み、マンティスも男を見つめた。

「愛の力とはげに恐ろしきってか」
「そう理解してくれると嬉しい」
「やめてくれ。汚らわしい」

　お互いの顔は既に見えたものではなかった。
　深い森である分、夕暮れの時点で表情を汲み取る事は怪しかったのだ。
　ただ青く光る炎だけが彼女の輪郭を捉え、めらめらと燃える音がその声を際だたせた。

「諦めてくれるのか」
「あぁ判った判った。諦めてやる」

　カマキリの頬が緩んだように思えた。
　ふっと吐いた声と、張りつめた肩が落ちた気がした。
　木樵はうんざりする思いだった。
　ここまで面倒に執着する魔物は、マンティスが初めてだった。
　蛇の炎を消し、自分の胸ポケットにある時計の中に帰らせる。
　そして警告した。
　森を抜ける事、面倒を感じさせない事、木樵自身をカマキリの所有物だと思わない事、魔物祓いにマンティスも携わる事、同様に狩る必要があればマンティスも魔物狩りに参加する事。守らねば再び殺しに掛かるであろうという事。
　マンティスは一部に若干の不満を漏らしたが、全て了承した。
　木樵はマンティスを退かした。
　ふたりは半日振りに分離し、その瞬間にもマンティスは感覚をこれ以上ない程冴えさせようと集中し、中をくねらせ、思い切り噛みつくように吸い付いた。白濁が多数の糸を引き、やがて1本になり、重力に従って落ちた。
　体の自由を取り戻した男は胸ポケットから懐中時計を取り、自分の下半身を指さして白濁を消した。すぐさま下を履こうとと思ったが生憎衣服は上下共に切り刻まれていたので、薪代わりにする事にした。
　マンティスが愛に盲目になっていなければ、木樵は死んでいた事だろうと思った。
　男にとっては悪夢であり、あの状態はマンティスにとっては木樵の思考力を引き替えにした永久機関であった。男には生きる目的があり、思考力を奪われるわけにはいかない。例え一瞬たりとも、だ。
　しかし、こうも考える。
　適度であれば、マンティスは無償で確実な命の供給源になる。
　自分の鬱憤が溜った時には、恐らく喜んでそれを受け止める。
　また、彼女は確実に強力な武器になる。
　起き上がりながら頭を振ると、自分の髪が鼻先を叩いた。
　男は火を取り出し、捨てた布切れに塗りつけた。

「痛いか」

　マンティスの太腿を眺めながら、木樵は睨むように言った。

「まったく」

　太腿をいとおしく撫でながら、マンティスは優しく呟いた。
　どうやら木樵が付けた傷すらも愛しい様子なのだ。
　木樵は身震いを再びした。もう何度震えたか判らない。
　彼女が痛みを悦びに換えている事を、心からおぞましいと思った。
　懐中時計をマンティスの太腿に当てた。
　傷はたちまち癒え、何事もなかったかのように元に戻った。白く艶やかな肌は牙の痕の一切を忘れ、しっとりとした朝露が肌に乗っていた。
　マンティスは木樵を見たが、何の気無しに男は言った。

「朝まで太腿をリセットしただけだ」

　マンティスは手を合わせて口元に寄せ、驚いたという仕草をした。

「それは、凄い。私は魔法が苦手だから」
「人間だって道具無しで魔法なんぞ...天才ども以外が出来たものか」

　男は吐き捨てた。
　何かしらの感情があったのだろうが、マンティスにはその奥がよく見えなかった。
　ただひとつ言える事は、確実にその表情にも彼女が惚れ惚れしていた事だけだ。

「今日は寝る。今後共にするならば、お前も木屋に来るといい」

　熱い視線にたじろぎながら、裸の木樵はくしゃみをひとつしてマンティスを睨み付けた。
　最早その目つきも興奮剤なのだろう。マンティスは木樵に夢中で抱きついた。
　懐中時計をひったくり、ぎりぎり手の届かないところに投げて男を押し倒した。

　男が下半身を朝まで戻したのがいけなかった。
　その森では数ヶ月に渡って男と女の獣のような喘ぎ声が響いたが、全てが自然の音に掻き消された。滝の音、ざわめき、獣や虫の声だ。まず木樵だった男以外は、誰もその森に入らなかった事も発見されなかった原因だろう。とにかく数ヶ月後にはふたりともその森を出て国境も関係なく各地を歩き回り、後世にその記録が残る事となるのだが、その記録の大体は次の言葉で説明できるだろう。

　“周りが酔ってしまう程に仲良き夫婦”