連載小説
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おやすみまえにキスを
「久しぶりのデートだな」
 何気ない、そんな彼の一言。
「で、ででででででぇぇぇ、とぉっ?」
 私は自分たちがしている事の正体を知って、ひっくり返る。卒倒する。死にかける。死んじゃいそー……になる。
 それがナイトメア、臆病な私。

 彼と二人で道を歩く。
 電柱の陰にすぐに隠れたがる。でも気になるから、そこからこっそり覗いたりする。
 因に隠れて覗いているのは、カップルのキスだったり、可愛い野良猫だったり。
 電柱は皆、ナイトメア兼用。
 専用ではないのが、私らしい。


 大人専用のお屋敷に、奮発して、入りたがる。
 ああ、大人のお屋敷って、お化け屋敷の事よ。
 遊園地の中にあるけど、子供が入っちゃいけませんよ、こんなとこ。
 だから、入っちゃ駄目だってば。
 怖いですよ、死にそうに恐ろしいですよ。
 子供だらけの大人専用のお屋敷。
 でも、そこに入れば、自分も変われる様な気がした。気がするだけ。
 私は気を失った。

 一人だけ、ぽつねんと夢の世界に戻った私。
 待っていても彼は来てくれない。
 寂しくて、泣いて出て行ったのは秘密。
 起きたら、私の頬の涙を、彼が拭ってくれていた。
 バレバレじゃないのぉ?!
 
 涙で顔をボロホロにして、そんな変れなかった自分が恥ずかしくて、外に出るのに臆する。
 早く出たくてしょうがないのに、外の明かりの前でつっかえる、出口で立ち往生する。出てから座礁する。
 そして悪目立ちする。
 変っていない自分が、盛大にバレる。というか、バラす。誰も気にしていないのに。自意識過剰な自分に落ち込む。死にたい。でも、そんな時の彼が優しすぎて死にたくない。
 恥ずかしくて何処かに隠れたい泣き顔の私を、彼は胸の中にしまってくれる。
「俺も少し、こっ恥ずかしい」
 そんな言葉に、ビスケットの歌を思い出す。

 おいしいクレープ。
 彼が買って来てくれると、さらに甘くなる。だからいつも、買いに行くのは彼。



 幸せになると、デート中に鈍器をしきりに探したくなる。
 ジャー、ジャー、ジャァァーン!
 火サスのテーマ曲をバックに、彼を殴り倒したくなる。
「夢の中でぇ、もっと幸せになりましょー、うひゃひゃひゃひゃゃーっ」
 ヤンデレまっしぐら。


 家に帰る。
 外であって我慢していた恥ずかしかった事を、全部吐き出す。
 彼の胸に、頭をぐりぐりする。
 彼に頬擦りする。
 キスをする。

 彼の匂いのするベッド。少しだけ私の匂いもするベッド。

 落ち着いて、愛し合える。
 ゆっくりと、彼を感じていられる。

「灰皿は、止せ」
 あと、花瓶もな、とのこと。
 右手には振り上げた灰皿、左手は近くの花瓶へと伸びて行く所だった。
 わざわざ買って来たのに。

「せめてピコピコハンマーにしてくれよ」
「そんなんじゃぁ、眠ってくれないじゃないですかぁ……」

 おやすみ前のミルクの様な、甘いキスをする。
 そして二人は夢の中に。
11/02/09 22:47更新 / 雑食ハイエナ
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