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第十六話 愚かから義への執着
 反響されて洞窟内を駆け抜けていく歌声。
 把握した地形を頭にいれ出口となる空気の取り入れ先を目指していく。
 だが足を上げる度に全身に痛みが襲い、喉の奥から込み上がってくるものに詠唱の邪魔をされ。
 ついに咳払いと同時に地面にぶちまけ、そこで術式は途切れてしまう。

 「ゴホッ、ゲホッ。もう少しだったんだが・・・。無理が祟ったか・・・。」

 舌に残る鉄の味に顔を顰め、闇が支配する暗い空間の中で土壁に背を預けてその場にへたり込む。
 力の酷使が器の限界を超え、魂をすり減らしてまで術を使えばこうもなるのは当然のこと。
 息が荒くなっていき、回復するまではここを動くのは無理であると判断し身体を休めることにした。

 「彼女達は上手くいってるのかな・・・。」

 ひんやりとする壁の冷たさに心地よさを覚えつつ、仲間の安否を考える。
 ミラは戦闘に入っていたようだが、無事だろうか、アルヒミアは迷うことなく出口へ向かえているだろうか。
 自分の力を貸しているがどうしようもない不安に駆られ上を見上げた。
 ここで心配してもどうにもならないのだが、考えずにはいられない。
 変な方向へと思考がいきかけていると不意に少し強い風を感じそちらの方を見る。
 ミラへの補助をかけている時に少しだが四つの通路に通じる先を調べた。
 二つは賊達の寝床で一つは頭領格の部屋、後一つ。
 今いる場所の先には空気を運ぶ為の坑道があることが分かったのだが、細部まで探れるほどの力は無かったために大雑把にしか出来ていない。
 そして今、頬を撫でる風が吹いている。
 最初の考えでは細かい坑道が多数に存在し、支流から本流に流れ込んでいる川のように感じていたが、それは違っていた。
 本流、大きな流れがありそれに支流が合わさっていたのだ。

 「まさか、別の出口があるのか?いやありえないことじゃないな。確認が出来れば流道を使わなくて済むのだが・・・。」

 淡い期待が生まれ、動けるようになり次第向かってみようと考えるのだった。


 ミラの視点


 枝を撓らせながら木々の上を飛び移り私は移動しつつ後方を確認する。
 怒声をあげながら土を蹴り追ってくる男達、その数は八人。
 始めの頃は十五人程居たのだが、奇襲と罠を用いた攻撃でここまで減らせてきた。
 この盗賊達と先頭になったのはエルフィール達を見送ってから暫く過ぎての事だ。
 馬車を森に隠し偽装と迷彩を施し、引き手も離れた場所に手綱を括り付けて一息付こうとしたところで森の違和感に気付く。
 陽は少しずつ顔を出して光を漏らしているのに動物や鳥の鳴き声というものが一切聞こえてこない。
 ここはアグノスの大森林北部、生態系に変化などなく自分達が住んでいる中央部と大した差などないはず。
 ならば、何か脅威となるものが活動していて動かない方が懸命であると悟っているのだろう。
 それを確認するために賊が使用している通路を、目撃されにくい森林地帯の中を逆走していき。
 そして浮かれた気分で塒へと帰路に着く奴らと出会ったのだ。
 後は所々に罠を張り、一人ずつ誘き寄せたり不意を突いたりして確実に一対一の状態で片付けていった。
 それで今の現状なのだが、矢が尽きてしまい、反撃の一手が打てずにどうするかを考えながら逃げ回っている。

 「さて、どうしたものか。」

 腰に結び付けている巾着に手を添えて、これを使用するべきか考察するが彼の負担を気にしてしまい躊躇してしまう。

 「自分で何とかしないと・・・。」

 エルフィールが班分けをしたときに全員に手渡したもの。
 深緑の色だがそれよりも淡い色をしたものと、湖の底を映しとった様なこれも淡い色をした二つの硝子玉を私達にくれたのだ。
 彼は危機に陥った時に名を呼べば私達の助けとなってくれると言っていたが、これは大森林で起きた火事を鎮火した時に雨を降らせた術具と同じもの。
 だったらやはり安易に使えない。
 そうなれば残りは・・・。

 「接近して倒すしかないか。」

 覚悟を決め、地面に降りて相手と対峙する。

 「鬼ごっこは飽きたのか?お嬢ちゃん。」

 「ここまでしてくれたんだ。償いはしてくれるんだろうな。」

 下品な笑い声を上げて、気味の悪い目線でこちらを見てくる盗賊達。
 悪寒に身を震わせながらも斬り込む糸口を探していくが鬱蒼と茂る森の中は視界も限られ、動きも制限されてくるので中々動くことができない。

 「囲んで一気にいくぞ。」

 「おう!」

 木という柱があるにもかかわらず、賊達は散らばっていき私の周囲を固めようとするがそれは糸口をこちらに与えてくれたという事に気付いておらず。

 「ぐぅ!?」

 一番薄くなった箇所へと飛び込んでいき、男の胸元に短剣を突き立てて押し倒すと敵の包囲を抜けて刃を向けて再び対峙し合う。

 「油断するな!このエルフ素早いぞ!」

 残り七人となったが、ここから先は一人減らずことも難しくなる。
 今度は塊となって突撃を繰り出し、鋼の飛礫が降ってきた。
 一つ一つ丁寧に避けていくが、紙一重でかわすのが精一杯であり、次第にきつくなっていき。
 六人目の攻撃で・・・。

 「きゃっ!?」

 避けきれずに短刀で受け止めるが、力一杯振り抜かれて吹き飛ばされ。
 後ろの木に叩き付けられてしまう。
 背に響く痛み、それが身体の全てに伝わり、肺から空気が漏れ脳から届くものが鈍くなり動けなくなっていく。

 「かはぁ!?」

 凭れ掛かるように体を木に預け、立とうとするが痺れが起こり上手く立てない。
 このまま男達にいいようにされてしまうのかと、そんな考えが頭を過ぎる。
 その中で、無意識のうちに私は彼の名を口から出していた。

 「エル・・・、フィー、ル・・・。」

 もう一度、今度は自らが求めるように。
 助けを求めるように。
 力を振り絞り・・・。
 叫ぶ。

 「エルフィール!!」

 木霊していく名前に盗賊達は気が狂ったのかとこちらを見つめ。
 間を置いた後、再び近付いてくる。
 だが、それを止める事が起きた。

 「詠唱が終わるまでだ!それまでに終わらせろ。」

 エルフィールの声が聞こえたかと思うと、腰の巾着から淡い深緑の光があふれ出し。

 ¨暁を背負う者よ 汝は何を望むか¨

 歌が聞こえてくる。
 じわりと身体に何かが染み込み、徐々に痛みは鈍くなっていき痺れている感覚も消えていった。

 ¨彼の心は剥き身の刃 映し出す姿は豪か柔か¨

 何が起こっているか分からずに戸惑う賊達に構わずに立ち上がり反撃に打って出ていく。
 彼の力が働いているのか、体は軽く今まで以上の動きができ。

 ¨求めるものよ 叫べ! 欲せよ!¨

 そして相手の行動が分かるのだ。
 向かってくる私に正気を取り戻した男達は迎え撃ってくるが、振るわれる刃を紙一重ではなく確実に、次の動きに繋げられるように避け。

 ¨消して拭えぬ 血と涙を糧に¨

 「耳障りなもん撒き散らしやがって!」

 怒鳴り声を上げながら攻撃をしてくる賊の手首に一閃入れ、首にも脈を断つ様に突き入れて切れ目を付けていき。

 ¨大地を濡らし 染め上げた業を楔に¨

 残りの六人にも同様に同箇所を傷付けて、踵を返して森の中へと逃げ出す。
 手当てもせずに紅を垂れ流しながら追ってくる盗賊達。

 「待ちやがれ!これぐらいの傷で倒せると思うなよ!」

 「てめぇの位置は垂れ流しの声ですぐ分かるんだよ!」

 ¨湧き上がり みつるものに身を委ね¨

 そんな事は先刻承知の上だ。
 目的はそんなものではなく別のところにある。
 いくら彼の手助けを受けているとはいえ数を相手にしたことのない私は途中でやられてしまうだろう。
 だから自分で倒れてもらうように攻撃を加えたに過ぎない。

 ¨意志の流れに乗り 全てを払え¨

 術具から出てくる詠唱はまだ続き、それを耳にいれながら付かず離れずの距離を保ち、盗賊達を消耗させていく。
 走り、地を蹴り、時間が経つごとに一人、また一人と地面に足を着き。
 歌が終わる頃には後方から誰も追いかけてくることはなかった。
 ようやく血の流し過ぎで自滅したのだろう。
 近くを通りかかった魔物娘にでも助けてもらえれば御の字だがそれ以外は知ったことではない。
 戦闘が終わったことに一息つくと、軽く背筋に痛みが走る。

 「痛ぅ・・・、身体能力が一時的に上がったようだが傷までは面倒みてはくれないか・・・。」

 エルフィールの術は万能ではないのかと思いつつ。
 馬車や馬を隠した場所にまで戻っていくのだった。


 アルヒミアの視点


 もう嫌になるわね。
 中枢の部屋をエルフィールのお陰で通り過ぎることができたわ。
 でも・・・。

 「アルヒミアさん・・・。後ろの女性達が遅れてます。」

 「少し走っただけで?もう息切れ?」

 捕らえられていた女性達の体力がなかったのよ。
 まあ、どれだけ動くことも許されず閉じ込められてれば当然か・・・。

 「頑張って!後ろから盗賊がきたら売られる前に犯されちゃうわ!」

 その言葉で保ち直したのか、離れそうになっていた列の距離は縮まり出口を目指して進んでいく。
 私達が三又となった道に差し掛かった時だろうか、後方から大きな音が聞こえてくると同時に何かが崩れるような地響きが鳴った。
 これは採掘をしていたときに聞いた天井が崩落したものとよく似ている。

 「!?」

 予想外の音に全員が驚き、後ろを振り向く。

 「アルヒミア、あれは・・・。」

 「恐らく通路か部屋が崩れたんでしょうね。」

 「そんな!じゃ、エルフィールさんは・・・。」

 「大丈夫。彼はそれぐらいじゃ死なないわ。」

 そうエルはこんな事ぐらいでは死なない。
 それよりも今は急いでミラと合流する事を考えないと。

 「それよりも急ぎましょ。崩落したとはいえ奴等が追ってこないとも限らないから。」

 ここはまだ半分ぐらいの場所、そしてどこかにまだ盗賊が隠れているかもしれない。
 全員を鼓舞しつつ、早くこの洞穴を出ようと速度を上げていった。

 走り始めてどれ程経っただろうか、漸く最初の分岐点まで辿り着き、全員に一時停止をかける。

 「ここまでくれば安全ね。皆!もう少しよ!」

 出口までの距離を告げるが、魔物娘以外からは反応は薄く。
 よく見ると肩で息をして、これ以上は駆ける事は無理であると言わんばかりだ。

 「アルヒミア、これ以上走ると列が分かれることになる。」

 「そうよね。仕方ないわ歩いていきましょ。」

 あまり負担をかけると歩くのすら出来なくなってしまう。
 背負ったり担ぐという方法もあるが親魔の女性ならともかく反魔の女性は確実に拒絶してくる。
 だったら無理をせずに進める方法をとるべきだわ。
 そう思い残りの道は速度を落として進んでいくことにした。

 「明かり、太陽の光が見えたわ!」

 やっと見えた出口。
 アタイにとっては只の出口に過ぎないが捕まっていた人魔には違う風に見えるだろう。

 「やっと外にでれるのね!」

 「もうこんな場所は一生いたくないわ!」

 「さあ!いきましょう!」

 体力が回復したのか、我先にと走り出す彼女達。
 ヴォルグ姉妹も後を追って駆けていく。
 外ではミラが待っているはず。
 そう思い屋外へと出るとそこには誰もいなく、鳥や動物の鳴き声すら響いていなかった。

 「ミラ!居ないの?」

 呼び掛けるが返事は返ってこず、何かあったのかと不安になるが・・・。

 「アルヒミアさん。腰の袋が光ってますよ。」

 ループスに言われ付けていた巾着に手を掛けるとそれは確かに光っている。
 中にはエルフィールが護身用として入れてくれた硝子玉が入っているのだが。
 取り出してみると淡く深緑に輝き、辺りを照らしていた。

 「綺麗・・・。」

 確かに綺麗だ。
 だけどアタイはその光から胸騒ぎしか覚えなかったのだから。
 少し経つと輝きは消え、元の硝子玉になりそれ以上のことは起きない。
 そんなことよりも移動の手段絵ある馬車を差がないといけないわ。
 来た時にあったものがなくなっていることに焦りを感じ、森へと入ろうとすると誰かが呼ぶ声が聞こえてくる。

 「アルヒミア!」

 「ミラ!無事だったのね!」

 「ああ。盗賊が居たんでそれを相手に・・・。痛ぅ・・・。」

 近付いてくるミラは片腹を押さえ、苦痛に顔を歪めながらこちらに向かってくる近付いてきた。

 「大丈夫?一人なんだから無茶しないでよ。」

 「わかってる。それよりもエルフィールは・・・。」

 彼女の問いかけに、全員の表情が沈む・・・。

 「彼はまだ洞穴の中。落盤も起きて無事かどうか分からないの・・・。」

 「そんな・・・。私は彼に助けてもらって・・・。礼もいえないのか・・・。」

 その場にへたり込むミラ。
 だけれどアタイには納得のいかない単語を聞く。
 助けてもらって、とは一体何処でなのだろうか。

 「ミラ、助けて貰ったって。何処で助けてもらったの?」

 「つい先程。賊の攻撃を受けて動けなくなったところを、彼の身体を考えずに助けを請ってしまったんだ。」

 「さっきの光は貴方を助けるために・・・。」

 助けを求めたことに対しての非難はない。
 彼が施してくれた切り札。
 それを使ったに過ぎないのだから。
 でも、あの輝きがそうだとしたら、エルフィールは・・・。

 「悲観するのはまだ早いかもしれないわ。」

 崩落が起きた後に彼がミラを助けたとすれば、それは生きている証。
 希望は残っていると言おうとした時ヴォルグが何かを感じ取ったの。

 「えっ・・・、エルフィールの匂いがする。」

 「本当なの!?」

 「うん。こっち!」

 その言葉を聞いて安堵の息を漏らすアタイ達。
 希望が確信に変わり、さっそく全員に思い浮かんだ考えを伝えると彼を迎えにいくのだった。


 エルフィールの視点


 「ようやく、風の大元まで辿り着いたわけだが・・・。」

 休んでは進み、休んでは進みを繰り返してここまで来たのだが、肝心の大きな空気抗と呼べるものはなく。
 陽の明かりを零し、細々とした穴から縫う様に侵入してくる風を通す程の穴しかなかった。

 「これじゃ無理だな・・・。万策尽きたか・・・。」

 力を使い、道を作ることもできず。
 体力もなくては分厚い岩壁を破壊することなど無理な話。
 また休憩して力が戻るまで・・・、どれぐらいかかるか分からないがここにいるしかないようだ。
 無骨な壁に再び背を預けて俺は腰を落とす。
 随分と時間が経っているが彼女達は無事に脱出して合流できたのだろうか。
 自分の身体を心配するでなくアルヒミアやミラ達の事を考えていると何かが聞こえてくる。
 聞き覚えがある声が岩の隙間から届くと、次は何か叩き付ける音が洞穴内に響き渡っていく。
 どうやら外から道具を使い穴を開けようとしているらしい。
 岩石が砕け散る音と天井から砂埃が落ちてくる音が段々と合わさっていき分厚いと思い破壊する事を諦めていた壁から伏せれば通れるような道を作り、ゴブリンとドワーフの少女が姿を現した。

 「エルフィール、無事?」

 「ギリギリのところでな・・・。」

 巻き起こった土煙に咳払いをしながら、アルヒミアに返事を返す。

 「良かったわ。さっそく運び出しましょ。アタイは足を持つから貴女は肩をお願いね。」

 「了〜解〜。」

 肩と両足を持たれて、俺は蟻に運ばれるが如く穴の外へでることが出来た。
 光溢れ、陽が昇り切った洞穴と森林の間で時刻を確認すると刻限的に昼過ぎといった所だろうか。

 「ふぅ・・・、なんとか出られたか・・・。アルヒミア、それにゴブリンのお嬢さん。ありがとう。」

 「気にしないで、助け合う間柄でしょ?」

 「アタシも助けてもらったからね。これで相子ということで。」

 「そうか・・・。すまない。」

 笑い合っていると、ミラが馬車を引いてこちらへとやってくる。
 これで全員が合流したみたいだ。



 「エルフィール。助けてくれてありがとう。」

 「ついでだ・・・。それよりも残党もういないと思うが不審な奴には気をつけて暮らせよ・・・。」

 「うん。それは大丈夫。」

 「今回の件で森の住人達と組合を作る事になったから。大丈夫と思いますよ。」

 「そうか・・・。じゃあ元気でな・・・。」

 「ヴォルグ、ループス。元気でね。」

 「そっちこそ。無事に旅を続けてよ。」

 「ああ。」

 森の生活の場としていて、捕らえられていた魔物娘達を解放し終えると、俺達は街道に向かって来た道を引き返していく。
 木々が囲う通路を通り、森を抜けると石畳が見えてきたが・・・。
 別のものも見えてきた。

 「ミラ、中へ入ってくれ・・・。後、状況次第では俺を置いて馬車を走らせてくれ。」

 「何を言って・・・。」

 「教団の団体さんが御登場だ。」

 紋章入りの旗をはためかせ、二十人余りの騎士達が森を出たすぐの街道に陣取りこちらを見据えている。
 来た道を戻れば背を向けることになり、あちらが有利となってしまう。
 それに反魔物領の人間にこれ以上不快感を与える訳にもいかず、騎士団へと向かって進んでいく。
 彼等の方もこちらに向かってきており、森と石畳の中間地点で俺達は対峙する事となった。

 「英雄殿・・・、と呼んだほうがいいですかな?それとも魔に魅入られた愚者。どちらがいいですかね。」

 「好きに呼べばいいだろう・・・。」

 「ふっふっふ、面白い方だ。私達がなぜここにいいるか・・・。もうご存知なのでしょう?」

 「大体はな・・・。残りの人間の保護・・・、そして俺と魔物の殲滅・・・。といったところだろ。」

 「御明察!で、どうします?」

 どうします・・・、か。
 素直に渡して大人しく戦うか、彼女等を人質にして一戦交えるか。
 二つに一つの選択なのだろうが、気になることが一つある。

 「そちら側の人間は、渡そう・・・。元々そのつもりだったからな・・・。だが、易々と殺されてやれる程御人好しではないんでね・・・。抵抗させてもらうが・・・。」

 「・・・、ふはははははは!やはり面白い方だ!殺すには惜しい!そうですね解放してもらえるというのなら素直に保護させてもらいましょ。血を流すのはその後からでも遅くはない。」

 一つの暗黙が出来上がった。
 彼女達を引き渡すまで、戦闘の類は行われないということだ。
 俺は馬車の操作板から離れ、幕を開けて降り易い様にしてやる。
 一人、また一人とゆっくりと騎士団の元へと戻っていく反魔物領の人々。
 無論、礼等なく唯一最後に降りていった女性だけがこちらを振り返り。

 「助けていただき、そしてここまで連れて来て頂いた事に感謝をしております。エルフィール様・・・、でよろしかったでしょうか?」

 「ああ・・・。」

 「良かった。エルフィール様ありがとうございました。また御会いできるといいのですが。」

 「俺は旅をして世界を回っている・・・。もしかしたら何処かで会えるかもな・・・。」

 「そうですか。ではその時を楽しみにしております。ごきげんよう・・・。」

 「元気でな。」

 会話を交わして、彼女は騎士達の元へと向かっていった。

 「さて、これで終わりかな?」

 「彼女で最後・・・、後はこちらが届けなければならない親魔物領の人達だ。」

 「結構結構・・・。では、神の名の元に君達を浄化して差し上げ・・・。」

 「お待ちくださいズィリャ様。」

 隊長格の男が話していた言葉を遮る様に、一人の騎士が出てくる。

 「エニモか。なんだ、この男達を見逃せとでもいいたいのか?」

 「違います。彼等への引導を渡させて欲しいのです。」

 以前に助けた男が、後ろに十四人程の甲冑に身を包んだ者達を連れて出てきた。
 が、先程の気になることと合わさり何かしっくり来ない。
 ズィリャと呼ばれた騎士とそれ付きの奴等からは殺気が漂ってきているがエニモ達からは欠片も感じられないのだ。

 「こいつらに何か恨みでもあるのか・・・。それとも村を襲撃されたことで失った誇りでも取り戻したいのか・・・。まあいいだろう。」

 「感謝します。」

 了承が得られたのか、一歩前に彼が出てくると剣を抜き・・・。

 「ズィリャ様に代わりお相手することとなったエニモと申す!全員抜刀!さあ!貴殿も剣を抜かれよ!」

 鞘から鋼が顔を出し、こちらを貫かれように前に出される。

 「ミラ・・・、アルヒミア・・・。ちょっと行って来る・・・。俺達の戦闘が始まったら馬車を走らせてくれ・・・。」

 「・・・、わかった。」

 「エル。約束は・・・、あれで終わりじゃないからね。」

 もはや言うことは無い。
 彼女達は分かってくれているはず、だからこそ守り抜く。
 その決意と共に大地を蹴り、エニモと対峙すると拳を構えた。

 「故あって・・・、拳で相手をしよう・・・。さあ・・・、始めようか・・・。」

 俺の言葉を合図にエニモを含める十五人が一斉に襲い掛かってくる。
 回復しきっていない身体を前に出してこちらも迎え撃ち、鋼と拳が交わると。
 嘶きを上げて馬車が走り出し石畳の上を駆けていく。

 「第二班!後を追え!」

 彼の発した一声で、七名の騎士が集団から離れて馬の後を追おうとする。
 それを食い止めようとするが、エニモを含める他の者達が連撃を組み抜け出す隙さえ与えてくれない。

 「ちっ・・・。」

 思わず舌打ちが出るが、それほどに繋ぎが鮮やかなのだ。
 車輪と蹄鉄が打ち鳴らす音と甲冑が合わさる金属音が遠退いていくのを耳に入れ、上手く逃げ切ってくれと祈るだけだった。
 五合、十合と数を重ねていくが全員が全員、本気で攻撃をしてきていない。
 いや、見せかけの振り下ろしや突きの一撃は殺す気を演出している。
 まるで死闘をしていますよ訴えているようだ。
 そして剣を弾き飛ばしてくれといわんがばかりの位置に得物がきたので、蹴り上げると。
 辺りに驚声が響き・・・。

 「ズィリャ様!こいつは強過ぎます!民を連れてお逃げください!」

 手を押さえながら衝撃で手が痺れてしまう程に強力な一撃であったと叫び。
 それを真に受けたズィリャは善人の鑑ともいえる台詞を吐く。

 「馬鹿者が!お前を見捨てて逃げることなどできるはずが無いだろう!」

 「何を言っているのです!民を連れて帰るのが我等の任務!私達の命で民が助かるのなら喜んで神に捧げましょう!」

 「しかし!」

 「もうじきに部下達が戻ってまいります!数でなら押せるはず!早く!早く行って下さい!彼の気がそちらに向かわぬうちに!」

 「・・・、す。済まない!」

 一言だけエニモに礼を言い、ズィリャは部下の五人を連れて馬車へと戻りそのまま走らせて逃げ始め。
 この場には俺と狂言を行った騎士八名しかいなくなった。
 そして、姿が見えなくなるまで殺陣という名の戦いは続き。
 完全に丘を越え見えなくなったところで、全員の動きが止まり。

 「全員!止め!」

 合図で剣の動きは止まり整列をしてこちらを見る。

 「エルフィールさん、お怪我はないですか?」

 「そちらが加減してくれたお陰で大丈夫だ・・・。」

 「良かった。」

 「で、芝居まで打ってこんな事をして・・・。いいのか・・・?」

 「それは問題ありません。我等は親魔物領へ下ります。」

 嘘か真か、彼等は何を考えているのか・・・。
 少し話を聞いてみる必要がありそうだ。
12/08/18 22:24更新 / 朱色の羽
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■作者メッセージ
 第十六話!

 ここからは盗賊の塒から脱出した後の話になります。
 教団の騎士エニモの目的とは・・・、先に親魔物領を目指したスパスィ達の安否は、アルヒミア達は無事に騎士達を振り切れたのか。

 ご期待ください。

 で、ここからは言い訳の時間です。
 第十五話の感想で叱りを頂きまして盗賊とはいえ、十四、十五、十六話と大量の人を殺す場面が出てきました。
 健康クロスさまのSS投函所にある規約に違反していることは分かっておりました。
 ですが、そうせざる負えなかったのでそれに対しての釈明というか理由をここへ記します。

 1.エルフィール達が捕縛した場合の対処法が無かった。
 2.SSの中とはいえ、そのまま放置をして立ち去るというのは無責任だと感じた。
 3.盗賊団¨消えない炎¨は淫魔化した人間達の集団という設定でした。
   彼等が放置後に魔物娘と結ばれて性の虜になり、罪を悔い改めるというのは考えにくかったので放置という選択肢が出来なかった。
 というのが言い訳であります。

 これを見て頂き、やはり納得がいかないと考えられた方は申し訳ありませんがこの先、人や魔物娘が死ぬという表現は使いませんが閲覧を控えていただけると勝手ではありますが助かります。

 感想やご意見がある方は感想のほうからお願いします。

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