連載小説
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第一話
人里から離れた、山の奥深くにある古い小さな寺。人混みの喧騒などは届かず、時折風がざわざわと木々や竹を揺らす音や、鳥達がさえずりが遠くに響く以外はしんとした静寂に包まれたその場所は、古い建物ながらも見る者にどこか東洋的な神秘を感じさせる。
そんな寺の庭に、二人の人影が並んで立っていた。
一人はまだ年端もいかない少年。十を数年超えたばかりであろう歳相応の小柄な体躯を霧の大陸の衣装に包み、静かに目を閉じて深い呼吸を繰り返している。どうやら精神集中を行っているようだ。
呼吸を整えた少年は、静かに目を開け目の前の空間に向かって構えを取った。左手足を自らの視線の方向へと向け、右半身はそれと直角になるようにして構える。流派によって細部は異なれど、多くの武術で『半身の構え』と呼ばれる一般的な構えだ。
ざざ……と、寺の庭に静かな風が吹き抜ける。一枚の笹の葉がくるくるとその風に弄ばれるように庭の中へと運ばれてきた。

「ふっ!」

少年は笹の葉が地面に落ちると同時、鋭い呼吸と共に地面を蹴った。
右の縦拳中段付き。突き出す腕以上に、踏み込む右足を意識する。打ち出す拳と踏み込む膝の縦軸をずらさず、何よりも腰を低く落とし、決して己の重心を崩さない。

「はっ!」

次いで右腕を素早く引き戻しながら左足で踏み込み、左肘での打ちあげ。次いで右踵で上段を真っ直ぐ打ち抜く蹴り。次いで……少年は鋭い声を発しながら、眼前の虚空に向かって次々と技を繰り出してゆく。
少年がその脚を踏み込む度、その見た目から想定される体重とは不釣り合いな重い音が響き、その手足は振るわれる度にひゅっと音を立てて空気を裂く。

「はあっ!!」

少年はかけ声と共に、低く縮めた状態の身体のエネルギーを爆発させるように左足を蹴りだし、その全てを重心を乗せた右足の踏み込みへと伝播させる。上半身の肉を締め、己が一つの鉄塊と化したイメージで。
数瞬遅れて、ズシン!という、一際重い踏み込みの音が周囲に響いた。鉄山靠。「背中」を用いた独特の型による体当たりで相手を吹き飛ばす強力な技だ。
数筋の汗を額に浮かべた少年は鉄山靠の姿勢のまま、数秒の間微動だにしなかったが、やがてそのやや乱れた呼吸を落ち着けると構えを解き、庭に立つもう一人の方へと向き直った。そのまま胸の前で右手の拳を広げた左手で包む、包拳礼という霧の大陸独特の礼を行った。

一方、腕を組みながら少年の型稽古の様子を真剣な様子で見ていた人物――いや、この場合『人』というくくりで彼女の姿を言い表すのは適切ではないだろう。全体的なシルエットとしては人間の女性の姿に近いが、うっすらと鍛え上げられた筋肉が浮かぶ肉体から伸びた手足は半ばから黒い直線模様の入った黄色い毛皮に包まれ、その先端などは猛獣のような肉球と鋭い爪を備えている。
大人びた印象を受ける整った顔の上方、やや薄い茶色がかった長髪の間からはネコ科特有の三角ばった獣耳が覗き、極めつけは臀部の辺りから細く長い尻尾を生やしている。
そう。彼女は人間ではなく、「人虎」と呼ばれる虎の特徴を備えた獣人の一人だ。そんな彼女は真剣な顔をふっと崩すと、優しげな声で少年に語りかけた。

「……うん、かなり良いぞ少年。教えた所まではほとんど完璧だな」
「本当ですか、ラン師匠っ!?」

その言葉に、少年の纏っている雰囲気も先程までの研ぎ澄まされたような雰囲気が薄れ、年相応の少年のような雰囲気が顔を覗かせた。
この少年、名をルウという。偉大な拳士となる事を夢見る彼は、数えで六つになる時に三人の魔物達が住み着いていたこの武術寺の門を叩き、以来、彼女達に師事しながら修行の日々を送っているのだ。

「ああ。理想形までは四割程度といった所か。動きはまだまだ硬いが、大分形になってきている」
「え、え?四割……ですか……?」

少年が続いた言葉に肩を落とす。そんな少年の分かり易い反応に、人虎は苦笑を浮かべながらその大きな手で少年の頭を撫でた。

「はは、そんなに焦るな。その年齢でそれだけ出来ていれば立派なものだ。……焦らなくても、少年はいつか立派な拳士になるさ。師匠の私が保証する」
「っ、はいっ!ありがとうございますっ!」

自分の言葉に素直に一喜一憂する少年のさらさらとした髪を撫でながら、ランと呼ばれた人虎は弟子に穏やかな笑みを向ける。
全く、型や鍛錬に打ち込む際の集中した様子といったら歴戦の猛者も顔負けだというのに、こうして喜んでいる姿を見ると年頃の無邪気な少年そのものだ。
二人がそうして先程の型の改善点などを話し込んでいると、やや離れた位置――寺の玄関先から、大きな声が聞こえてきた。

「ラン、そろそろ私の番よ!」
「む、もうそんな時間か、リン」

二人がそちらに視線を向ければ、そこにはルウと変わらぬような背丈の女性が一人。遠目に見ると人間の女性とほとんど変わらぬ見た目の少女だが、その四肢に纏う炎が彼女もまた火鼠という魔物の一人であるという事を表していた。
彼の師匠達自身が鍛錬に使う時間を確保する為、また、寺で各員が担当している作業を行う為、三人の師匠はそれぞれ指導する時間と技術を決め、ローテーションで彼の育成に当たっている。つまりはランの受け持ち時間が終わり、リンという彼女にバトンタッチする時間なのだ。

「はい、リン師匠、只今向かいます!では、ラン師匠」
「ああ、行って来い」

最後にまた包拳礼をして去っていく少年の姿を見送る。それはまだ小さな背中だが、彼が最初にここ訪れた時と比較すれば、一回り程も大きくなっていた。
彼は素直で、目標に向かって打ち込むひたむきさがある。才能も間違いなくあるだろう。先程はああ言ったが、今の段階でも山を下りてどこぞの寺で修行中の拳法家と試合をさせれば、相手が青年であっても劣りはしないはずだ。

――身体、精神、技術。その成長度合いを考えると……やはり、頃合か。

そんな風にランが腕を組みながら一人思案していると、不意に後ろから声をかけられた。

「ラン。そろそろルウくんも、『アレ』が出来る年齢になりましたね〜?」
「……ああ、そうだな」

そのどこかおっとりとした声に、言葉少なに返す。
後方から近づいてくる足音。やがてそれはランの隣に並んでピタリと止まった。

「本当にランがお相手しなくてもいいんですか〜?ルウくんもその方が喜ぶと思いますよ〜?」
「まさか、冗談はよしてくれ。私のような筋肉達磨が相手では、少年も困惑してしまうだろう」
「え〜、私はランの身体、セクシーで素敵だと思うんですけど……」

メイと呼ばれたのは、ランと同じく手足が半ばから毛皮に包まれた獣人。ただし、その体毛は特徴的な白黒であることや、全体的に人虎であるランよりも豊満で女性的な体のラインに、青いシャドウによって彩られたどこか眠たげにも見える瞳。そしてお尻に見える短い尻尾など、ランとはまるで見た目から受ける印象が違う。
藤色の民族衣装に身を包んだ彼女は、人熊猫という一種の熊の特徴を持った獣人だ。彼女もまたルウの師匠の一人であり、棒術を主とした技術を彼に教えている。

「も〜、ランもリンもルウくんがだーい好きなのに、素直じゃないんですから……」
「……リンにももう聞いたのか。ちなみに、リンは何と言っていた?」

やれやれ、といった風に肩をすくめるメイの言葉を半ば無視し、視線の先で弟子に組手の稽古をつけている仲間の反応を聞いてみる。

「『は、はあっ!?何で私がそんな事しないといけないの!?』らしいですよ〜?」

本当はその後に顔を赤くしながら『で、でも、あの子がどうしても、って言うなら……』と続いているのだが、それはあえて黙っておくことにした。
それを聞いたランはふむ……とその手を顎に添え、少し困ったような顔をしてから。

「まぁ、そうだろうな。私やリンは、種族的にも個人的にも……その、なんだ。そういった事があまり、得意ではない。……だから、少年の事はお前に任せる。よろしく頼んだぞ」
「うふふ、どーんとお任せ下さい〜♪」

言いながらメイが背筋を伸ばしてその豊かな胸を叩くと、タイトな民族衣装を物ともせず、ぽよん、という擬音が聞こえてきそうな程に大きく揺れた。
……最初は少年も戸惑うかもしれないが、これも彼を思っての事だ。メイの姿を横目に捕え、そう思いつつも何故かチクリという痛みを胸に感じながら、ランは静かに瞳を伏せた。






―――――――――――――――――――――





「ほら、お皿貸しなさい。よそってあげるから」
「あ、ありがとうございますリン師匠……」
「そうですよ〜、沢山食べておかないと〜♪」

それから数日後の夕食の時間。食卓に着くのは常に自己鍛錬を欠かさない武闘家の魔物三人と、育ちざかりのその弟子。そこに並べられる料理はどれも大盛りだ。これは普段彼女達が山で狩猟、採集した食材と、麓の里で力仕事を手伝ったり襲ってくる悪党を捕まえたりする事で得た日銭によって支えられている。
そしてこの食卓の調理を一手に引き受けるのが師匠の一人である火鼠のリンだ。霧の大陸の料理は火力が命。『火鼠の衣』と呼ばれる炎の魔力を纏う彼女にとって、火を扱う事は得意とする事の一つである。……もっとも、彼女以外の二人は手が虎と熊のものである為、三人の中でリンが最も細かい作業が得意だという単純な理由もあるのだが。
そのリンが、今日はやけに量を食べる事を勧めてくる。取り皿が空けば、彼女が新しい料理を山のように盛って帰ってくるのだ。普段から『沢山食べなきゃ大きくなれないわよ?』などと笑いながら言われる事こそあれど、こういった事は始めてだ。ちなみにその際、間違っても『今でもリン師匠とそこまで変わらないじゃないですか』などとからかってはいけない。次の日にリンが担当する修行メニューの量が倍になる。
そうして改めて盛られている料理を見てみれば、いつもより肉の量が多かったり、どこか豪勢なものになっている気がする。

「あの、リン師匠……今日って何かあったんですか?やけに食べるように勧めてきますし、料理もなんだか豪華ですし」
「べ、別に何でもないわよ。ただ、ルウが何時までもちんちくりんじゃ可愛そうだから、沢山食べさせなきゃと思って……」
「そうですね〜。今日『の』ルウくんには沢山大きくなってもらわなきゃいけませんから〜♪」
「っ!?」

横から楽しそうに会話に入ってきたメイの言葉に、リンの顔がその手足に纏う炎のように真っ赤になった。

「……今日の、ですか?」
「そ、そんな些細な言い間違い気にしなくていいの!」
「うふふ、そうなんです〜。言い間違いですから、ルウくんは気にしなくていいんですよ〜?」

言い間違いにしては、やけにその部分を強調していたように聞こえたのだが……。
楽しげに言うメイを怪訝な顔で伺う少年の姿を見たリンの瞳に、一瞬、罪悪感のような色が混じる。

……本当にこんな、年端もいかない弟子を……?

「ね、ねぇメイ。やっぱり、その、この子との……」
「ん〜、なんですか〜?やっぱりリンがしたくなりました〜?」
「なっ、ち、違っ……!」

真っ赤になった顔でメイに何事かを伝えようとするリン。だが、言いづらそうに何かをもごもごと口の中で呟くばかり。遂には『そ、そんな訳ないじゃない!』と誤魔化すように言い捨てて、そのまま食事へと戻ってしまった。
……やっぱり今日の食卓の雰囲気は変だ。メイ師匠はすごく楽しそうだし、かと思えばリン師匠は妙にそわそわとしているようだし……そういえば、ラン師匠は食事前の挨拶から一言も喋っていない。少年がチラリと人虎の師匠の様子を伺うと、彼女は静かに目を伏せ、黙々と箸で料理を口に運んでいる。

「……どうした、少年?」

見ずとも弟子の視線を感じたのか、トパーズ色の瞳を持つランの目が開かれた。だが、それはいつもの優しい、頼りになる師匠の声音ではなく。どこか、周囲を拒絶するような雰囲気すら纏っているようにさえ聞こえる。

「いっ、いえ。何だか今日はラン師匠が静かだな、と思って……」
「そうか。心配をかけてすまないな」

やはりどこか素っ気のない返事。少年は自分が何か彼女を怒らせるような事をしてしまったのではないかと今日一日の出来事を必死で思い出すが、どれだけ考えても思い当たる節がない。
視線を落とす少年に、ランは再び目を伏せて口を開いた。

「今日は私が皿洗いをしよう。少年、今日は先に風呂に入って、早めに布団に入りなさい」
「えっ……」

皿洗い。調理は基本的にリンが行うのだが、火鼠の特徴として彼女は水に濡れる事を嫌う。ゆえにそれは食材を洗う下拵えなどと共に、普段は少年がその役目を任されているのだ。
その役目を今日は師匠が変わるのだという。これは本当にどうした事だろうか。

「心配するな。少しリンと二人で話したい事があるだけだ」
「……はい」

相変わらず、安心させようとする言葉とは裏腹に、どこか近寄りづらいような口調の師匠。
それ以上、突っ込んだ事を聞くのも躊躇われ……少年は妙な居心地の悪さを覚えながら、取り皿の料理を口に運んでゆくのだった。





――――――――――――――――――――





今日の師匠達は本当に何だったんだろう。布団に入り、天井を見上げながらルウは一人考えていた。
師匠達三人ともの雰囲気がおかしかった事から、何か自分に隠し事をしている事は分かっていた。分かっていたから、悲しかった。
天井に自分の手をかざしてみる。鍛錬によって打撃に使う拳や掌の部分は厚みを増し、硬質化してきているものの、どこからどう見てもまだ子供のそれである自分の手。
自分がもっと大きくなって、師匠達と並んで立てるようになれば、こんな思いをしなくてもいいのだろうか。師匠達に何でも腹を割って話してもらえて、時には頼りにされるような……そんな存在になれるのだろうか。
立派な拳士になる。そんな曖昧で、漠然とした夢を持って震える手でこの寺の門を叩いた。

『少年はいつか立派な拳士になるさ、師匠の私が保証する』

目を瞑り、数日前にそう言って自分の頭を撫でてくれた人虎の師匠の事を思い浮かべる。
今の少年が目指す、立派な拳士。それは、師匠達に並んで立てるような自分になること。この男が自分の弟子なのだと、師匠達に胸を張って誇ってもらえるような拳士になる事。

その為にも、もっと――


「あ〜、その顔はランの事を考えている時の顔ですね〜?」
「うわぁっ!?」


ルウは突然として上から聞こえてきた声に、布団を抱きしめながら慌てて飛び退いた。

「め、メイ師匠っ!?」
「うふふ、こんばんわルウくん。も〜、隙だらけですよ〜?」

そこには、いつも通りのニコニコとした笑顔でこちらを覗き込んでいる師匠の一人。メイがはだけた寝間着姿でこちらを覗き込んでいた。

「ど、どうしたんですか?こんな夜中に……」
「うふふ、ルウくんに特別特訓をつけに来ちゃいました〜♪」
「特別特訓、ですか……?」

こんな時間から?寝間着で運動をする訳にもいかないだろうし、着替え直した方がいいのだろうか……?
疑問符がいくつも浮かぶ少年に構わず、メイは楽しそうに言葉を続ける。

「この体勢でのお話も何ですし、一緒にお布団に入れて貰っていいですか〜?」
「えっ、ちょっ……!?」
「ふふ、お邪魔しま〜す♪」

突然の師匠の訪問に未だ頭が追い付いていないルウに、メイの行動を防ぐ術もなく。
その豊満な身体が布団の中に入ってきたかと思うと、逃げようとする間もなく身体を捕えられ、そのままぎゅぅっと抱きすくめられてしまった。

「……っ!?」

魔物の中では比較的大柄なベア属である人熊猫のメイと、まだ発育途中の身であるルウ。その体格差により、少年の顔は豊かな胸の谷間に埋められてしまった。何とか呼吸は出来るが声にはならず、しかも息を吸い込む度に思考を蕩かせるような『女』の香りを否応なしに取り込んでしまう。
それだけではない。逃げ出そうとする身体はふかふかの毛皮に包まれた四肢でホールドされ、そのむっちりとした肉づきの良い全身が少年の体に押し付けられていた。
状況が飲み込めず、じだばたと暴れようとする少年の頭をよしよし、とあやすように撫でるメイ。……すると、幾分か落ち着きを取り戻して来たのか、顔を真っ赤にしながらも少年が抵抗を止めた。胸の谷間からこちらを見上げながら、されるがままになる。その全身の力が抜けたのを確認してから、改めてルウ向かって口を開く。

「ルウくん、座学で『房中術』って習いましたか〜?」

その言葉は、少しだけ知っている。曰く、人間の男性が持つとされる『陽の気』と魔物が持つ『陰の気』を互いに分かち合い循環させる事によって、筋力強化・不老長寿・精力増進・身体頑健などの効果を互いにもたらし、長くその道を歩めば、やがて食事すら必ずしも必要な物ではなくなるのだという。
だが、少年が知っているのはそこまでで、肝心の気を交換する方法については知識がない。ランが教鞭を取っていた時は困ったような顔をして、リンがそうだった時は顔を真っ赤にして、それぞれ詳しい話はまた別の機会に、といったふうに流されてしまったからだ。

「やっぱりその様子だと、やり方までは教えて貰ってないみたいですね〜……?」

そんな少年の様子にさらに興が乗ってきたようなメイが、ちろりと小さく唇を舐めながらルウの身体を同じ目線まで引き上げた。
顔を目の前で固定させ、身体はホールドしたまま。

「ねぇ、ルウくん?どんな事をすると思いますか〜?」
「め、メイ師匠……?」

至近距離でこちらを覗き込むその瞳には、笑顔であるにもかかわらず……どこか獲物を前にした空腹の獣のような、ぎらぎらとした怪しい光が映っていた。
なのに、目を離せない。いつもの笑顔とは既に変わりつつある、妖しい魅力を湛えた危険なその微笑から、目を離す事ができない。
薄明りの部屋の中で、微かに艶めかしく鈍い光を反射する唇が、ゆっくりと近づいてくる。


「……えっち、するんですよ〜……?」


少年は、ばくばくと壊れてしまったかのように高鳴る自らの鼓動を聞きながら。
身体を硬直させ、その光景をただただ見ている事しか出来なかった。

「んむぅ、っ!?」

唇が触れる寸前に囁くように発せられた言葉。聞いた少年が反応を返す前に、少年の唇は師匠のそれによって塞がれていた。

「ん、ふぅ……っ♪」

柔らかい。そうして触れた唇は、抱きしめられている、身体に触れているどんな部位よりも柔らかい。あまりにも甘美なその感触が脳に刺激として伝わる度に少年の思考が溶かされ、判断機能を奪ってゆく。
更に、だらりと力が抜かれた舌が半分開かれた少年の唇の間から侵入すると、為すがままとなってしまった少年を弄ぶように、音を立てて舌を絡ませ始めた。

「れろ、ちゅ……っ♪」

甘い。気持ちいい。もやがかかったようにぼうっとした頭で、少年は与えられるままその快楽を甘受していた。知らず知らずのうちに、自身もまたメイの身体を抱きしめる両腕に力が入る。

「んっ……うふふ、ルウくん甘えんぼさんになっちゃいましたね〜……♪」
「ぅ……ぁ………」

口が離れ、先程と同じくあやすように優しく頭を撫でられる。

「さぁ、ぬぎぬぎしましょうね〜……?」

夢見心地で抵抗もできぬまま、器用に寝間着を脱がされる。今の少年は師匠の色気と突然に始まった行為への戸惑い、そしてあまりの心地良さに、半ば現実感を失った状態にあった。

「ん〜♪皮は被っちゃってますけど、元気で可愛いですね〜……♪」

育ってきた環境故に、少年は性知識に乏しい。えっちというのがが交尾のことだということや、そのような仲の男女がキスをするくらいの事は知っている。
だが、いわゆる愛撫など、その際に行われる詳しい情事についての知識は――全くと言っていい程、身に着けていなかった。

「え……?」

だから少年は、自らの陰茎を前にした師匠が。
何故、目に喜色を浮かべ、大好物を前にしたように口を大きく開けているのか――理解ができていなかった。

「うふふ、いただきます〜……♪」

ぱくんっ。

「……っっ!?」

先程までキスを交わしていた師匠の口の中に、少年の幼い肉棒は根本まで咥え込まれてしまった。その根本を柔らかな唇でぎゅっ、と圧迫されながら、咥内ではぬるぬるとした舌が鈴口につんつんと触れてくる。
少年は生まれて初めて味わうその快感に、声にならない声を上げながら幼い身体を震わせた。

「んふふ……♪それじゃあ、むきむきしてあげますね〜……?」

そんな少年の姿を目で楽しみながら、メイは舌でゆっくりと円を描くように包皮と粘膜の境目をなぞり、同時進行で器用に唇を使って皮を押し下げ始めた。
今まで皮で保護されていた敏感な亀頭の粘膜を唾液がたっぷりとまぶされた舌で撫でられる度、少年の口からは声が漏れ、その腰はびくりと浮き上がる。

そうして――少年がそんな未知の快楽に、長時間抗う事が出来る筈もなく。

「っ、師匠っ、何か、出……っ!?」

びゅっ、びゅるるるっ。

「ん、ふぅ……っ♪」

メイは少年がガクガクと腰を震わせながら口の中へ吐き出された精液を、口を窄め、一滴も零さぬように呑み干し。さらに僅かに尿道に残ったものまで残すまいと、悶える少年の腰を逃げられぬようにがっちりと抑え込み。ちゅぅちゅぅと音を立てて吸い上げ始める。

「っ……ぁ、ぁ…………っ!?」

そうして、少年が最早悶える気力も無くし、ぴくぴくと細かな痙攣を繰り返すばかりになった頃――メイはようやく、少年の股間からその口を離した。現れた小さな肉棒は完全に皮が剥けきり、先程まで隠れていた亀頭がてらてらとした唾液にまみれながらその姿を外気に晒している。

「んっ、ぷはぁ……。ルウくん、射精するのは初めてだったんですか〜?ちゃんとぴゅっぴゅ出来てえらいですね〜……♪」
「ぁ、ぁ……」

今のが。今のが、射精。雌の中に、子種を放つ為の行為。快楽の余韻に支配された頭で、少年はたった今自分の身に起こった出来事をぼんやりと反芻する。
メイはそんな少年の頭を優しく撫でながら、自らの衣服に手をかけ始める。幾つかの結び目によって衣服としての態を為していた寝間着は、その数個を解くだけで完全にその役目を失った。

薄暗い部屋の中に、一糸纏わぬメイの白い裸体が浮かび上がる。

「……っ」

少年は息を呑んだ。露わになったメイの肢体は、大柄ながらもその愛くるしい手足と相まって非常に男好きのするような、女性らしく柔らかい肉が乗ったむっちりとしたもの。
そして何よりも目を引くのがその豊満な胸だろう。メロンのような大きさを持ち、ふるふると揺れるその二つの膨らみは、見ただけでもその柔らかさが理解してしまえるというのに。その奇跡的な曲線が崩れる事はない。

「あれ、ルウくんはおっぱいに興味があるんですか〜……?」

メイはその二つの膨らみから目が離せないでいる少年にクスリと笑いかけ、赤ん坊に授乳をするような体勢で少年の身体を抱き寄せた。

「んむぅ……っ!?」
「うふふ、赤ちゃんみたいに、い〜っぱい甘えていいんですからね〜……?」

口元に差し出された乳首に、最初こそ戸惑いの視線を師匠へと送っていた少年だったが……やがて、観念したようにそれを口に含むと、赤子のようにちゅうちゅうと吸い上げ始めた。
さらに空いているもう片方の胸を小さな手で掴み、そのふよふよとした柔らかさを掌で感じ始める。
メイの胸は。やわらかくて、すべすべしていて、美味しくて、気持ち良くて……ともすれば、いつまでもこうしていたくなってしまう。

「よ〜しよ〜し……♪うふふ、ルウくんはおっぱい大好きなんですね。またおちんちんが硬くなってきましたよ〜……?」

片手は頭を。片手は再び硬くなり始めた陰茎をふかふかの手足で撫でながら、メイが言う。

「うふふ。……それじゃあ、そろそろ、ルウくんを一人前の男にしてあげますね〜……?」
「ぁ……」

メイは夢中で自らの乳首に吸い付く少年の額にキスをすると、一度その身体を自らから離れさせ、名残惜しげな声を上げる少年を布団の上へ仰向きに寝ころばせた。
そして自らが仰向けにした少年を跨ぐと、小さな肉棒の上で、ゆっくりと腰を落としてゆく。

「見えますか、ルウくん?今からルウくんのが、ここに入るんですよ〜……?」

見えていた。だが少年は興奮と、緊張と、恥ずかしさで返事が出来なかった。
メイのその場所は、手足とは違い一切の毛がない綺麗な一本筋。慎まやかとも言えるようなその場所が、ゆっくりと自らの肉棒の上へと降りてくる。そして――


ぷにっ。

「ぁ……」

くちゅり……。

「ぁ、ぁぁ……っ!」

ぷちゅんっ。

「……っ!!」


まず先端に感じたのは、ぷにぷにとした盛り上がりの部分の感触。次に熱を持った愛液が肉棒に滴って来たかと思えば、そのままにゅるりと飲み込まれるように、少年の肉棒はメイの膣の中へと納まってしまった。

「あはぁ……っ♪ルウくんの精通に続いて、童貞も貰っちゃいましたぁ……っ♪」
「っ!?し、ししょ……っ」

メイの膣は、少年のペニスのサイズと比べれば大分余裕があるにも関わらず、決して緩いなどという感想を与えさせない。鍛えられた肉体はにゅるにゅるとした膣壁で肉棒を適度に締め付け、ふわふわとした極上の快楽を少年に与えていた。
さらに、その腰が打ち下ろされるたび。柔らかな尻の感触が少年の下半身に伝わり、視界の中で大きな胸が撥ねる。つい先程精通を終えたばかりの少年にとって、その快感と光景はあまりにも刺激が強すぎた。

だが、張り詰めた肉棒とは裏腹に、少年は歯を食いしばり、必死に射精を堪えているようにも見える。

「うふふ、どうしたんですルウくん?遠慮せず出しちゃっていいんですよ〜……?」

鼻から抜けるような声で悶える弟子へとペースを落とさずに腰を打ち下ろしつつ、ぺろりと舌なめずりをしながら、メイは聞いた。

「だ、だめです、ししょ……中で出したら、こ、こどもが……!」
「……もう、ルウくんったら〜……♪」

――ああ。
――私の弟子は、なんて可愛くて……なんていじらしいんでしょう……っ♪

「うふふ、ルウくんは私を妊娠させる気でいるんですか〜……?いいですよぉっ?かわいいルウくんの子供なら、喜んで産んであげますからぁっ♪」

メイはいじらしくも眼下で射精を必死に堪える弟子の姿に、ゾクゾクとした感覚をその背筋に走らせながら。
トドメとばかりに、ぱちゅんっ!と、一際強く腰を打ち下ろした。

「……っ!?」

その瞬間、少年の意識は真っ白に塗りつぶされた。感じるのは、精巣から駆け上がってきた精液が、にゅるにゅるとした温かい膣に包まれた肉棒の中を通って打ち出される感覚。
目の前がチカチカと点滅する程の快楽。どくどくと脈動する度に電流のように体内を駆け巡るそれは、一度目の射精よりも遥かに長く続いた。

「はぁ、はぁ……んむぅっ!?」
「ん〜……っ♪」

ようやく長い長い射精が終わり、はっきりとした意識を取り戻しかけた頃。少年の唇は、再び覆いかぶさっている師匠の口によって塞がれる。
それだけではない。下になった少年を抱きしめるようにしながら、メイが再び腰を振り始めたのだ。



快楽で朦朧とする意識の中、少年は悟った。
今夜の修行は、まだまだ終わりではないのだ、と。






――――――――――――――――――――






「いいですかぁ、ルウくん♪房中術で大事なのは、相手を気持ちよくしてあげようという気持ちです〜。互いに高純度の快感を与えあう事によって、より良質な『気』の交換が行われるんですよ〜……?」

先程とは体勢が入れ替わり、メイが弟子の小さな体躯をその大きな体で受け止めるような密着度の高い正常位へと移行していた。
少年がぎこちない動きで腰を打ち付けるたび、ぺちっ、ぺちっという、肌同士のぶつかるどこか情けないような音が部屋の中に響く。

「その為にも、早く腰の上手な振り方を覚えましょうね〜?頑張れっ、頑張れっ、ルウくんっ♪」
「はー、はーっ……。はぃ……っ」

その柔らかな肉と毛皮に包まれ、溺れるように。あえぐような息遣いの少年は健気に腰を振り続ける。
あまりも心地よいその息苦しさから逃れようと顔を上げれば、今度は上げた顔のその正面、嬉々とした顔の師匠が唇を塞いできた。

「んっ……ちゅ……あはぁっ♪ルウくんのおちんちん、またびくびくしてきましたぁ……っ♪」

射精の前兆を感じ取ったメイが両足をルウの腰へと巻き付け、更に互いの身体を密着させると共に、健気に腰を振り続ける少年の動きをサポートする。

「はぁ、はぁっ……ししょぉっ、もう……っ」
「うふふ。いいですよ〜?ぴゅっぴゅって、い〜っぱいせーえきお漏らししましょうね〜……♪」

顔をその大きな胸の谷間に埋め、その頭を優しく撫でられ。

「……っ!!!」

腰を絡めた両足でがっちりと固定されながら、少年はこの日三度目の絶頂を迎えた。

「あはぁ……っ♪本当にいっぱい出でます……っ♪」
「あ……ああぁぁぁ……っ!!?」

どくん、どくんと。一度大きく脈打つ度に、魔性の肉体に包まれた幼い肉棒から、三度目とは思えぬ量の精液がその膣中に吐き出される。
脳が回路が焼き切れ、真っ白になってしまいそうな恐ろしい程の快楽は、精液が吐き出される事を促すような膣の不規則な動きによって長く、大きく倍増されてゆく。

「うふふ。よしよし、ルウくんは良い子ですね〜……♪」

腕の中で震えながら精を放つ愛しい弟子の頭を優しく撫でて語り掛けながら、メイはまだ始まったばかりの今夜について想いを巡らせる。
リンが作った先程の夕食の料理には、口にすれば凄まじい精力が付く事で知られる魔界豚の肉が含まれていた。
ランが少年を早くに床につくように促してくれた為、時間はまだまだたっぷりある。

――さぁ、次はどんな気持ちいい事を教えてあげましょうか……♪

射精を終え、その余韻に放心している弟子を弄ぶように舌を絡めながら。それを想像したメイは、その顔に蕩けきった笑みを浮かべるのだった。





そう。夜はまだ、始まったばかりなのだから――
17/02/27 00:48更新 / オレンジ
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■作者メッセージ
ラブリー☆ウイッチはメモ帖の方にほとんど最後まで書き終わってるし、一つぐらい新しく連載始めても大丈夫なはず(慢心)


ということでお久しぶりです。こっちは多分一話ごとにエロが入ってくる連載になると思います。
全4話ぐらい?


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