旅立ちからおよそ半月。ラシッドからタリアナ、ロコ、ノノン、シャルクと街を渡り歩いてきた二人。
その間、様々な出来事に遭遇し、それに伴いシロの心身は大きく成長していった。
その事を考慮しても、一体誰がこんな状況が発生すると予想できただろうか。

「・・・えっと？」

何とか、疑問の声を出すのが精一杯。
無茶苦茶に意味の分からない事を前にし、頭が回らない。
・・・ただ、もしかすると、頭が回っていないのは、むしろ。

「ふふっ、どうしたんだい？」
「いや、どうしたも何も・・・お前・・・本当にシロか？」

目が据わっている。瞳孔もやや開き気味。頬は紅い。
そして何より。



「今更、何でそんな当たり前のことを聞くのかな？　『僕のエトナ』」



自分を押し倒した相手は、これまで旅を共にしてきた少年に違いない。
しかし、彼はエトナの知る『シロ』とは、何もかもが違っていた。



（・・・落ち着いて、もう一度考えよう）

おかしな事になっている。おかし過ぎて理解出来ず、
逆に冷静にここに到るまでの事柄を分析する事が出来た。

（まず、アタシは今、シロに押し倒された。で、シロの様子がなんかおかしい。
　疑問はとりあえず、『何でシロがこんな事になってるか』だけど・・・あっ、もしかして）

視界の端に映ったワイングラスが、ヒントになった。
記憶が正しければ、シロのグラスに入っているのは、２杯目のワイン。
杯数は問題ない。しかし、その中身は。

（アタシが注いだけど・・・もしかして、間違えた？）

虚ろな目、紅潮した顔。普段と全く違う言動。
もし、注いだワインが自分のものだとしたら、辻褄は合う。

シロはエトナが注いだ、アルコールの入った普通のワインを飲み、
その酔いが回った結果、ここまで豹変する事となった。

（というか、それ以外に無い）

結論は出た。ではどうするか。
その対策を考えようとした途端。

「んっ！？」
「・・・んっ」

突然、舌を入れられる。そのまま歯列をなぞり、唇を食み、蹂躙する。
一方的で、情熱的なディープキス。
無防備に開かれていたエトナの口内を余すことなく舐り尽くし、数回舌を吸った後、離れる。

「ダメじゃないか。僕だけを見てなきゃ」

自然と視線を逸らしている形になっていたのが、気に入らなかったらしい。
甘く、色っぽく囁くその姿は、もう少年では無い。

頬から顎にかけての輪郭のラインを指でなぞりながら、

「君は、僕だけのモノなんだから」

などと言う男を『少年』と形容できるはずが無い。

数多の戦いの経験によって研ぎ澄まされた感覚が、本能的に働く。
前例のない状況だが、ひしひしと感じられた。

（・・・これ、マジでヤバいヤツだ）

生真面目で理知的なシロから、その二つの要素が消える。
鬼が出るか蛇が出るか。もしくは、その様なものでは済まないか。

娯楽都市の夜が明けるまでには、数時間かかる。



唾液を啜る、淫靡な水音が響き続ける。
あれからずっと、シロはエトナの唇を離さない。

その責めはまるでエトナを堕とす為だけに習得したかのような、緩急織り交ぜたもの。
激しく暴れまわったかと思えば、ねちっこく絡め合わせ、口元を舐った次の瞬間には喉付近にある。
ただ無茶苦茶にするだけなら、エトナの方に分があった。
逆に言えば、この勝負では五分にすらならない。

勿論、オーガの力を揮えば、少年一人など簡単に引き剥がせる。
しかし、それは通常の状態での話。

（んっ・・・んぁぁっ・・・あんんっ・・・）

脳を蕩けさせ、麻痺させる口技にされるがまま。
こんな状態では、身体に力を入れる事さえ不可能。

薄れる意識の中で思う。
今更遅い。その時に思いつくはずが無い。でも。

（殴ってでもいいから・・・剥がすべきだった・・・）

後悔せずには、いられなかった。



たっぷり一時間、エトナの口を犯し倒したシロ。
酒がさらに回り、より紅くなった頬をエトナと擦り合わせる。

「ふふ・・・可愛いよ、僕のエトナ」

潤いさえ感じる声が、エトナの鼓膜を伝い、全身を撫でまわす。
力を奪われ、意のままにされる立場に堕とされた事が、ひしひしと感じられた。

「なぁ・・・シロ、だよな？」
「まだ信じられないのかい？　僕はシロ。君が名づけてくれたじゃないか」

本当に、シロなのか。実は全く違う何かではないのだろうか。
不安に押し潰されそうになるという、今まで全く感じなかった気持ち。

妖しい雰囲気を纏った、艶美な少年。
名前の由来となった白い肌は火照り、溢れる程の色気を醸し出している。

「安心して欲しいな。僕は愛する人を困らせるのは好きだけど、怖がらせるのは好きじゃない」

加えてこの台詞回し。
悪戯っ気も大人びた声も、普段のシロには存在しない。言うなら、それは。

（シロっていうか・・・『クロ』だろ、これ・・・）

何にも染まっていない色、白と対極を為す色。
全てを染め尽くす、闇の色。

酒と娯楽都市の魔力に染められたシロは、『クロ』へと変貌した。



（・・・可愛いな、それでも）

変わらないものもある。
拒絶しても仕方ないので、クロになったシロも受け入れる事にしたエトナは、その髪を手櫛で梳いた。
すると、シロはゆっくりと身体を下ろし、エトナと密着した。

シロが好きな事。
なるべく、接触する面積を広くして抱き合う事。

五感を目一杯に使って感じる。
見て、聞いて、触れて、嗅いで、舐めて、その存在を認識する。ぐりぐりと頭を振りながら、胸に顔を押し付ける。
エトナから見ると、その姿は人懐っこい犬のよう。
何もかもが変わってしまったかの様に見えても、本質的な所は『シロ』のままなのかもしれない。

（ココもいつも通り。いつも通り・・・硬い）

太腿に刺さる、雄としての成長の証。
雌を孕ませる事も出来るようになった、逸物。

「困っちゃうなぁ。ここまで魅力的だと、もう挿れたくなっちゃうよ」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、少しだけ身体をずらす。
今宵の娯楽都市に棲む魔物は、一人の少年の自我を喰らった。
純真無垢な、穢れの無い幼気な心を黒く塗りつぶし、豹変させる。
その結果現れたのは、身体と精神の調和が崩れた、クロ。

「んじゃ、挿れてくれよ。・・・アタシのマンコに、シロのチンコを」

エトナは、覚悟を決めた。
酒と娯楽都市の力を借りたシロと自分が闘ったら、どうなるのか。
不安と好奇心の間を繋ぐ不等号の向きが入れ替わり、何時ものように口元をニヤリと綻ばせる。
戦闘狂とさえ言えるオーガの血が、ここに来て漸く順応したようだ。

「言われなくたって」

前戯など無くとも、既に性感は高まり、お互いの生殖器の準備は整いきっている。

いつもと変わらない、引き締まっていながらもむちむちとした、長身の肢体。
いつもと変わった、不可思議な魔法にかけられた、謎の魅力。

クチュ、という水音が接触を告げ、
そこからいとも容易く、二人は一つになった。



「んっ・・・」
「あっ・・・」

暴力の域に達する強烈な締め付けと、肉棒を溶かすようなぬめりを併せ持った膣。
それを掻き分けるように、シロの剛直が進んで行く。

シロが上になる交わりは決して少なくないが、それでも大抵の場合、主導権はエトナにあった。
どうすればいいか分からず、任せる事になったり、エトナが暴走したり等。
経緯は違えど、能動的に動く事はそんなに多く無い。
しかし、今回は違った。

意図的に、ゆっくりと腰を動かす。
酔いで理性や論理的思考が失われた分、直感や感性が研ぎ澄まされたのか、
それはエトナの弱点を的確に責める動きだった。

「あぁんっ！？　んっ・・・んぁぁっ・・・！？」

完全に予想外。
今までのシロとの性交は、拙いながらも一生懸命で、それがエトナの心に響き、技術を補って快楽を生み出すというものだった。
だが、これはそれとは対称的。おかしな方向に大人びたシロの腰遣いは妙にこなれていて、可愛げが無い。
その分、肉体的な快楽が今までの比では無く、自然に身体が浮いてしまう。
更に、『こんな子供にいいようにされている』という事が、エトナを精神面からも責めたてる。
それは、紛れも無い被虐性欲の芽生え。開いてはならない扉が、シロの手でこじ開けられた。

つまるところ、それは弱みを見せたという事であって。



「・・・可愛い。僕のエトナは可愛いよ」



この夜に限って、シロとエトナの立場が決定づけられたという事を意味していた。



「ふふっ・・・可愛い。可愛い。とっても可愛い」
「言うな！　そんなに可愛いって言うなっ！」
「エトナが可愛いからいけないんだよ。可愛いエトナ。僕のエトナ」
「言うなよぉ・・・アタシに可愛いとか・・・」

涙目になりながら訴えても、シロの加虐心を煽るだけで効果が無いどころか、より様相が酷くなるだけ。
それは何となく感づいているが、それでも表情筋は言う事を聞かなくなっていた。

不運だったのは、酔いが回って失ったのは理性と思考力だけであり、
言語に関するものが殆ど失われていなかった事。
その結果、思った事がそのまますぐ口をついて出る為、普段なら喋る前に止まるはずの言葉が
次から次へと出てくる。

「エトナは可愛い。凄く可愛い。最ッ高に可愛い」
「やめろよぉ・・・もぅ、やめ・・・うぇっ、うぅ・・・」

顔はぐしゃぐしゃ。懇願の声も絶え絶え。シロの言葉責めに完全に堕とされた。
もはやここにいるのはオーガではなく、ただのメス鬼でしかなかった。

「シロぉ・・・お願いだから元に戻ってぇ・・・」
「そんな事言っても、身体は正直だよ？　すごく濡れてる」

それもまた、事実だった。
エトナの蜜壺は大洪水を起こし、シロのペニスをより深く飲み込もうとし続けている。

このシロは怖い。意地悪で嫌い。でも大好き。
気持ちいい。感じる所を責められて気持ちいい。もっと粘膜を擦って欲しい。

「・・・ほら。こんなに糸引いてる」
「見せるなぁ！　うぇぇん・・・」

溢れた愛液を指で掬い、わざとらしく見せつける。
粘性を持った銀糸。自分が幼い少年にいたぶられているという証。同時に、それで快楽を得てしまう事を認識。
それがまた、エトナを苛んだ。



流れるような言葉責めが続き、エトナの顔は涙でぐしゃぐしゃ。
そこに、シロは更なる追い討ちをかける。

「・・・カジノの時だけどさ」
「うぇ・・・ぐすっ・・・」



「僕の椅子で、オナニーしてたよね？」



周囲の『客は』、その事に気づいていない。
ブラックジャックをしているシロは客では無く、『プレイヤー』。

エトナがそれらしい行為をしていたのは、気付いていた。
聞くつもりは無かったし、まさかそんな、と思っていた。
そんな事を言ったらどうなるか。予想がつくので、黙っていた。

・・・平素のシロなら、という前提条件が必要だが。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

声にならない悲鳴。あうあうと口が動くだけ。
核心を突かれ、混乱するエトナの耳元で、シロはとどめを刺す。

「本当に・・・」



「エトナは、えっちな娘だね」



「・・・・・・！！！！！？？？？？」

囁く声と共に、アクメに達した。
何が起きたのかも分からぬまま、身体を大きく浮き上がらせ、絶頂の衝撃を無防備な身体に受ける。

景色が揺らぐ中、酔いどれ少年シロがやたらとはっきり映る。
その姿を見て、様々な情報がいっぺんに脳になだれ込んだ。

（簡単にイカされて、シロは酔ってて、すごく気持ちよくて、硬いのがアタシの中に入ってて、
　カジノでした事がバレてて・・・）

『エトナは、えっちな娘だね』

「あ・・・あ＠▲○＄◆％☆ゑ＊▼〒◎†Ω！！！！！」

そして全てを悟り、エトナは壊れた。

「えひゃ、あ、え、う、あえっ」
「大丈夫だよ。僕はあんな所でオナニーするえっちで変態なエトナも、大好きだから。
　気持ちいいんだし、仕方ないよね」
「えっ、うぇっ、あえ、うえっ」
「それじゃ、えっちなエトナにプレゼント。ナカでイカせてあげる」

一度、膣から抜けるギリギリまで肉棒を引く。
錯乱状態に陥っているエトナだったが、感づいた。
オーガの防衛本能さえ働く、この予感。

（アタシ・・・殺される）

もうこれは、銃弾の装填と変わらない。
そして、発射はすぐ。

「・・・行くよ」

一気に、刺す。



低い位置に下りたエトナの子宮口を抉ると同時に、シロは射精。

（シロ・・・アタシ・・・）

受精の悦びを全身で感じながら、湧き上がってくるもの。

（シロになら・・・）

心臓は高鳴るが、震えている気はしない。

（シロにだったら・・・）

シロの両手で、掴まれている気がして。



（・・・殺されても、いいや）





「あああああ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あああ！！！！！！！！！！」





膣イキ。
身体中の快楽神経全てをシロに舐められているかのような、壮絶な絶頂。
極限まで昂り切った性感が弾け飛び、エトナは雌として最高の快楽に溺れた・・・



「・・・さ・・・さん・・・・」
「ん・・・？」
「エトナさん！」
「うぉっ！？」

シロの呼びかけで目覚めたエトナ。
辺りは明るい。そして。

「あっ！」

『戻ったのか！』と、いつもなら言っていた。しかし、エトナはここで珍しく、頭を働かせる。

（いや待て。昨日の夜は・・・ああもう思い出しただけで恥ずかしいし色々濡れそう。でもそうだ。
　シロは思いっきり酔ってた。なら間違いなく、この事覚えてない。・・・よし、決めた。
　これ墓場まで持ってこう。そうしよう。うん）

そうと決まれば後はお茶を濁して、適当にこの場を切り抜けよう。
そう思ったが・・・

「あの、エトナさん」
「何だ？」
「先に謝っておきます。ごめんなさい」
「・・・？」



「僕・・・お酒飲んでも、記憶がまるまる残るタイプみたいなんですよね・・・」



１、２、３、４、５秒。
それが意味する事がどういう事か理解したエトナ。
そして、次にとった行動は。

「・・・頭に強い衝撃を与えれば記憶は・・・」
「いやちょっと待って下さい本当にごめんなさい！」
「大丈夫。痛み感じる前に気絶するから」
「むしろ絶対大丈夫じゃないですよね！　頭蓋骨とか脳とか！」
「いけるって。あるとして脳みそがほんの一個イカれるだけだから」
「僕の脳は一個しか無いんですけど！？」

この後、シロは思った。
人生に無駄は無い。どこで使うのか分からない様な話術も、身に着けておくにこした事は無い。
それが奇跡的に、命を繋げる事になったりもするのだから。

■作者メッセージ
お待たせいたしました。何とか年内に完成です。

酒は飲んでも飲まれるな。先人はいい言葉を残したものです。
飲まれるほど飲んでなくてもこんな事になったりもしますが。