読切小説
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本当にあった・・・・2
 真夜中の道を一人の男性が走っている。理由は簡単だ、後ろから聞こえてくる雷の音の為だ。星どころか月すら見えない空は今にも激しい雨を降らせようとしている。そんな夜道を男性は急いでいる、目の前にある建物に向かって。
 そして男性が建物の入り口に駆け込むと同時に雷鳴が鳴り響き、激しい雨が降り出す。目の前の光景が霞んでしまうほどの豪雨に男性がフウとため息をつく。
「助かった、こんな森の中だから洞窟でもあれば幸いと思ってたらこんな建物があるなんて。ついてたな、ほんと。・・・・ふ〜ん、どうやら古い校舎みたいだな」
 背負っていたバッグを降ろして如何しようかと考えているとガチャリと音がする。驚いて振り向くとギギィ〜とドアが軋みながら少し開いていた。
「な、なんで開いているんだ?・・・・だ、誰か居るのか?」
 恐る恐る声を掛けてみるが返事は無く、如何したらいいか途方に暮れているとさらに激しくなった雨が叩き付けてくる。
「もしかしてお化けの仕業とかか?だがこの雨では・・・・仕方ないな、失礼させてもらうか」
 呟いた男性は降ろしていたバッグを背負い直すと建物の中に入っていく。
 そしてそんな男性を天井の暗がりから見つめている存在がいた。その数は七つ。七つの影は頷きあうとそれぞれが建物のある場所に向かった。
 こうしてこの古い校舎を舞台に恐ろしい出来事が始まったのだった。

1:トイレの花子さん・・・担当長女椿
「何で私がこんな場所で待ち伏せてないといけないのよ」
 ブツブツと小声で呟きながら私は待ち構えている。トイレの個室、ここで待ち構えてドアを三回ノックした後「は〜な子さん」と呼ばれたら現れるのがしきたりであり一番有名な怪談なのだが・・・・
「条件が多すぎるでしょ!今どき、こんな事する人が居るわけないでしょう!いくら長女だからってこんなところで待ち伏せるなんて・・・」
 そんな不満を一人愚痴っていると足音が近づいてくる。
(もしかして出番が来ましたの?)
 ドキドキしながら耳を澄ませていると、足音が自分の居る個室の前で止まり独り言が聞こえてくる。
「学校のトイレと言えば、花子さんだよな。本当にいるとは思えないけど・・・確かドアをノックして声を掛けるんだったよな。物は試しと云うし、やってみるか」
 聞こえてきた声に私は興奮してしまうが、深呼吸をして何とか落ち着くように努力する。
(遂に来ましたわ!落ち着くんですよ、私!声を掛けられたら返事をして外に出るんでしたよね。大丈夫です、私はやればできる子なんですから)
 目の前のドアを見つめていると、コンコンコンと三回ノックの音が個室に響き次いで声が掛けられる。
「は〜な子さん」
「は〜〜い」
 返事をして意気揚々とドアを開けて飛び出た私は、眼前に立っていた六ツ目の人物に立ち竦み意識を失ってしまった。

2:不思議の鏡・・・次女桜
「う〜〜ん、これでいいでしょうか?」
 階段の踊り場に設置されている鏡の前でポーズを何度か取ってみる。
「まず鏡の前に人が来たら、声を掛けるのよね。『ねえ、聞こえる?』って。次に後ろを確認して振り向いたら鏡の中で嗤いかけながら囁くのよね、『私と遊ばない?』って。もう少し俯いてみた方がいいでしょう」
 う〜んと首をひねって考え込んでいると足音が聞こえてくる。その音に私は慌てて姿を消してスタンバイする。
(うう、緊張する)
 それから暫くして入口で見た男性がキョロキョロと周りを警戒しながらゆっくりとした足取りでやって来て、
(よし、鏡の前に来た。まずは声を掛けて)
「ねえ、聞こえる?」
 突然聞こえてきた声に目の前の男性は驚いて周囲を見回す。
(次にこっちを振り向いたら、少し俯きながら視線を上にして)
「私と遊ばない?」
 声と共に姿を現した私は振り向いた男性の顔を見て目を見開く。なぜならその男性の顔には目も鼻もなく、耳元まで裂けた大きな口だけがあったからだ。真っ赤な口から覗く鋭い牙を光らせながら、こう話してきた。
「嗚呼いいとも、オレの食事になるならな」
「キャ〜〜〜〜〜!!!!!」
 その答えに私は一目散に逃げ出した。

3:踊る人体模型・・・三女菊枝
「ルンルンルル〜ン」
 鼻歌を歌いながら人体模型を振り回して踊りをしていたが、突然ピタリと踊りを止めると「はあ〜〜」と溜め息を付く。それから振り回していた人体模型を見詰める。長い間振り回していたせいで両足は取れて無くなり太腿が残っているだけ、内蔵のパーツも無くなってスカスカの胴体には額から上が欠けて無くなってしまった頭部が付いていて目玉の抜けた空洞がこちらを向いている。唯一両手だけ原型を残しているが塗装も剥げ落ちており、見る影もない。
「なんでこんなのと一緒に踊らないといけないのよ!」
 怒鳴り床に放り投げると、人体模型はガシャンと音を立てて崩れ落ちる。そんな光景には目もくれず備え付けのベッドに腰掛けると足をブラブラさせながら手近にあった花瓶を掴み人体模型に向けて放り投げる。花瓶と人体模型の左腕が壊れるのを見るとゴロンと寝ころぶ。
「あ〜あ、こんなダッサイ模型と踊るなんて気品溢れるこの私には全然似合いませんわね。大体なんでこの私がこんな田舎の片隅でこんな辛気臭いことをしなければならないの?一番優秀なこの私にはもっと相応しい場所があるでしょうに」
『それで僕にいつも八つ当たりするなんて酷いじゃないか』
「だ、誰ですの?」
 聞こえてきた声に私は立ち上がり周りを見回すが、不信な人物は見当たらず首を傾げる。
「・・・・気のせいですわね」
『違うよ、目の前にいるじゃないか』
 再び聞こえてきた声に目の前を見ると、床に崩れ落ちていた人体模型が立ち上がって空洞の目でこちらを見ていた。
『酷いよ。僕はこんなにも君の事を思っているのに』
 壊れた左腕と無事な右腕を伸ばして近寄ってくる人体模型に私は驚くと脱兎の如く壁際まで逃げ出し、その場で蹲って泣き出しながら謝る。
「いや〜〜!!来ないで、来ないで、来ないで〜〜〜!!!!ごえんなしゃい、ごえんなしゃい、ごえんなしゃい、ごえんなしゃい、ごえんなしゃい、ごえんなしゃい〜〜〜〜!!!」
 必死になって私は謝り続けた。

4:化学室の主・・・四女沙月
 化学室の床を拭き終えた私はモップとバケツを仕舞うと、自分の服装を再度確認する。ブラウスの裾は破けて血が滲んでおり所々焼け焦げている服装に間違いはない。
(初めてのお仕事にミスは許されないから慎重に準備しないと)
 備え付けの鏡を見ながら顔に念入りに煤汚れと血の跡を付ける。少しやり過ぎた気もするがこれでいいかと支度を終えると、ポケットからメモを取り出して自分の役を再確認する。
(えっと、化学室で起きた実研の爆発事故に巻き込まれて無くした下半身を探してその場所を這い回る霊ですね。床に下半身を入れて上半身だけ出しておけば準備よしです)
 上半身を床の上に出した姿で待ち構えているとコツコツと近付いてくる足音に徐々に緊張感が高まる。
(ドアを開けて入ってきたら、相手の背後に回り込む。それから『私の足は何処なの』とセリフを言いながら近付く。たった此れだけなんだから落ち着いてやれば出来ます)
 やがて足音がドアの前で止まるとギギッ!と軋みながらドアを開けて人影が入ってくる。
「ここなら風も入り込んでこないな」
 そう呟いた人影が中央部分に歩き出すのを見て、壁沿いに素早く音を立てないで相手の後ろに回り込みタイミングを計る。
(3,2,1,0、いm)
「よいしょっと」
 飛び出した瞬間、床に降ろしたバックに頭からぶつかり私は気を失ってしまった。
 
5:白い手・・・五女梓
 ダンダンダンダンとボールを床に打ちつける音が広い体育館に響き渡る。宙に浮かぶ白い手がバスケのドリブルをしている。身体は無い、視えるのはその白い手だけだ。その白い手が熱心にドリブルしている。外から聞こえる雨音にかき消される程の小さい音のせいで誰にも気づかれることはないのだが、ドリブルをしている白い手はそのことにすら気づかない程集中している。更に耳を澄ませてみれば、数を数える声も聴こえてくる。
「29,30,31,3あっ!」
 打ちつける時、何かあったのか床に打ち付けたボールが真上に戻らず体育館の入り口に向かって転がってしまう。コロコロと転がるボールを見送ると白い手が薄く輝き少女が姿を現す。
「また失敗しちゃった」
 ボールを拾ってくると両手で持ちながらむうっと頬を膨らませる。
「30回位までなら出来るようになったけど、そこから先に続かないんだよな。如何したら上手くなるんだろうな?」
「手首だけで力任せにするから駄目なんだよ。手のひらで包むように受けて軽く押すだけに止めるといいんだ」
「そっか!ありがとな」
 聞こえてきたアドバイスに御礼を言うとよしっ!と気合を入れて再びドリブルを始める。雨音を打ち消すようにダンダンダンダンと打ちつける音が響きだす。少女は意外と熱血だった。

6:足りない色・・・六女香澄
 薄明り差す美術室で一人の少女が絵を描いていた。スケッチブックに鉛筆を走らせて目の前にある果物を乗せた籠を描いている・・・・のではなく、なぜか男性の姿が描かれている。バラを口で咥えて左手を斜め下に伸ばし右手は人差し指を伸ばして天を指している所謂ダンスの決めポーズだ。
「出来ましたわ」
 描き終えた絵を眺めるとウットりとした顔で見つめる。
「会心の出来栄えですの。これはこのまま額縁に入れて飾っておくですの」
 鼻歌を歌いながらクルクルと回る少女に入り口で佇んだ男性が戸惑いながら声を掛ける。
「・・・なあ、君何をしているの?」
「見てわかりませんですの、絵を描いていましたです」
「・・・・・えっと、君の役割は知っているかな?」
「はい、勿論ですの。『足りない色がありますの。良ければ手伝ってもらえませんか?』と尋ねて返事を貰えたら、『それではアナタの血をください!』と叫びながら襲い掛かるフリをするのですの。そうして来た人を驚かせるですの」
 えっへんと無い胸を張って答える少女に男性は首を傾げる。
「それで、なんでそれをしないのかな?」
「そんな事するより、お絵かきしていたほうが楽しいですの」
 満面の笑みを浮かべて答える少女に男性は天を仰ぐ様に上を向いてしまう。
「如何したのですの?何も見えないですの?何かあったですの?」
「あ、いや何でもないよ。それで君はこの後どうするの?」
「勿論絵を描くですの。気分が乗ってますから、今日は素敵な絵が沢山描けますの」
「そうか、頑張れよ」
「はいですの。香澄、頑張るですの」
 スケッチブックと鉛筆を掲げる少女に男性は頭を軽く撫でてあげると美術室を出ていった。
「お兄さん、何か元気ないみたいですの。今度会ったら香澄の絵をあげて元気になってもらうですの」

7:渡り廊下の足音・・・七女汐里
 暗く向こう側を見渡せない渡り廊下へと男性はやってきた。
「確か廊下を歩いてると、真後ろから足音が聴こえてくるんだよな。勿論振り向いても誰もいない、そして再び歩き出すと又足音が聴こえてくるのがここなんだけど・・・・」
 佇む男性の耳にタタタタと駆け足の音が聴こえる。そして目の前を少女が一人駆け抜けていく。
「キャッホ〜〜〜〜!!!あたしッてば早〜〜〜〜い!!!!」
 歓声を上げて駆け抜ける少女には、男性は視えないらしくこの廊下に来てから数えただけで20回も目の前を行ったり来たりしている。夜中の廊下を元気に駆け回る少女に男性は盛大なため息をつくと廊下から離れることにした。
「まだまだ行くよ〜〜〜〜」

  



「全員不合格だ」
 オレの言葉に椿、桜、菊枝、沙月の四人は項垂れるが、香澄はキョトンとしており梓と汐里はまだ動き足りないのか身体をソワソワさせている。
「ゴースト七人姉妹で七不思議をしたいというから何とかしてこの七不思議昇格試験をしてみたが・・・なんだ!この体たらくは!!!」
 オレの怒りを滲ませた声に梓と汐里も漸く怒られていることを知り顔を蒼くして縮み上がり、香澄は涙ぐんでしまっている。
「入り込んだ人を驚かせる筈が・・・逆に驚くどころか気を失う、逃げ出す、泣きながら謝る、それどころか相手に気づかない、役割を放棄する!そんな事で学校の怪談でも一番重要な七不思議を出来ると思っているのか!!!」
「す、すみません」
 縮こまったまま弱弱しい声で謝る椿に習うように他の姉妹達も口をそろえて「ごめんなさい」と謝る。
 そんな彼女達に睨み据えてオレは宣言する。
「いいか!これから補習兼特別講習を兼ねたスペシャル授業をするからな!死に物狂いで付いてこい!!!!!」
「「「「「「「はい!!!!!!!」」」」」」」
 
 
15/06/26 23:06更新 / 名無しの旅人

■作者メッセージ
アンデット系でも定番のゴーストさんに出演してもらいました。これで如何でしょうか?SSS様
椿と桜はお面で、菊枝は魔術で驚かせてます。沙月は隠れ方が甘い為バレバレで、残りの姉妹は素です。

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