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第二十七記 -つぼまじん-
「あたい? あたいの目的は、ここにあるとゆー超高級チーズ!」

ふふんっ、とふんぞり返る、ねずみの魔物。
ただ、身体の小ささのせいであまり威厳を感じない。

「あとカッコイー男がいればさらう! で、他の部屋に行った皆と集まって食べる!」

食べるって、どっちをだろう。

「で、こっちはさっき隣の部屋で見つけた相棒。今回限りの」

「えぇっ!? さ、さっき『私の仲間になれ!』って…」

「うん、今回限り」

「そ…そんなぁ…。やっとこの場所を出られると思ったのに…」

めそめそしながら、壺の中に引っ込んでいく魔物。
どうやら、二匹の仲はあまり良くない様子。

「で、ねーさん! あたいの歯に噛まれたくなければ、質問に答えなっ!」

長い前歯をキランと覗かせるねずみさん。
…でも、頭を押さえれば、腕の長さ差で防げそう。

「この部屋でチーズを見たかい?」

「…ないと思うよ?」

「なんであたいと一緒にいたあんたが分かるのさ!?」

「なかったよ」

「なかったかー! アチャーッ!」

悪い子…というか、危険な子ではなさそう。よかった。
最初に驚いていたのも、私を教団の人間かと思ったかららしいし、
今の立場的には、私もこのねずみさん達も一緒なのかもしれない。

「じゃ、もひとつ隣の部屋行くか〜」

「もうここから出ようよぅ…」

「チーズあったら出てくし! あんたを置いて」

「ひ、ひどいよぅっ!?」

毒舌を浴びせながら、壁をコンコン叩きつつ走るねずみさん。
何をしているんだろう…?

「えーと………おっ、ここだね〜」

不意に立ち止まり、壁に両手をぺたぺた。

「…ふぅ〜……」

深呼吸…。

「ほぁたたたたたたたたたたた!!!」

と、首をすごい勢いで上下させ…壁に穴を掘り始めた。

「…ネズミって、あんな風に齧るんだ…」

それは違うと思う。つぼさん、私それは違うと思う。

「ほら、仲間二人! 早く後に付いてくるっ!」

…二人? 私も?

「ま、待ってよーぅっ」

……………

………



「お、繋がった〜。さーて、チーズは…」

…穴の先には……先程いた書庫に似た部屋。
でも、何の本が保存されている部屋だろう…?
館内地図を見た時、こんなところに部屋はなかった筈…。

「…ミッキちゃん、この部屋…出入り口がないよ…?」

「今開けたじゃん」

「そ、そうじゃなくて〜…」

…ふと、床の一部分が黒ずんでいることに気付く。

……焦げ目…? ここで何かを燃やした後…? 一体何を…?
本? ここに並んでいる内の、どれかを……。

「っ!?」

気付き、その中の一冊を引き抜く。

「…『異能体研究・第十七検体 ソラ』…」

無機質な文字でそう記された、薄い本。

ソラ…?
ソラって、ソラちゃんのこと? 異能体って、何?
研究って…検体って、どういうこと? 何をまとめた本?

この中にはいったい……何が書かれているの…?

「ほら、そんなことはいいからチーズ探せ! 相棒!」

「今回限りなんて言われちゃったら、やる気出ないよぅ…」

……………冊子を開く…。

「チーズ、チーズ……おっ!? ってこれホウ酸団子じゃん! 食わんわっ!」

「…ミッキちゃん…。そう思ってるなら、腰巾着に入れずに捨てようよぅ…」

「いや、非常食って必要じゃん?」

「それじゃ自決用だよぅ!?」

……………。

「ジケツって?」

「自分で自分をころしちゃうことだよぅ…」

「へー」

「………え? 聞いただけなの? 捨てないの?」

………やっぱり……。

やっぱり……あの人達は、嘘を…。

「えーと…他には〜………おっ!? あそこに光るものは!?」

「きっと画鋲だよぅ…」

「そんなの、拾ってみるまで分からな…イデェーッ!? 画鋲だーっ!!」

…ひどい……。
ソラちゃんを…なんだと思って……。
こんな……こんな、人とも見ていない……。

「血! 相棒! 血が出た! 死んじゃうっ!」

「そ、それくらい舐めれば大丈夫だよぅ…」

「どれどれ…。ガブッ。イデェーッ!!?」

「それ噛んでるよぅ!?」

………まさか…。

まさか……ここの棚に並んでいる、同じ見出しの本は…。

「相棒…。あたいは、どうやらここまでみたいだ…」

「それは大げさだよぅ…」

「最後に……自分より大きなチーズを……食べてみたかった…。ガクッ」

「……そこで拾った、ホウ酸団子なら…」

「バクッ。モグモグ………げふぉふぁっ!?」

「あ、起きた」

……この人は……乳房が、複数…?
こっちの人は…? ……性器が身長と同じくらい…?
…腕が4本ある人……目が3つある人……腰から下が触手のような人……。

………全員……魔物の研究に……。

「ぺっ、ぺっ…。うぇ〜、マズイ…」

「それはそうだよぅ…」

「でも、クリーム塗ればいけそう。ピーナッツの」

「だから死んじゃうよぅ!?」

…身体を調べて……。
未知の部分は、魔物と接触した際の反応を見て…。
そうやって、この人達と、魔物との研究を、同時に…。

「あーあ…。この部屋にもチーズないんかな〜っ」

「食べ物は、普通もっと適した場所に置いてあるよぅ…」

「たとえば?」

「例えば…食べ物を冷やせる地下とか…」

「寒いん? そんなとこ行きたくないし」

「……えーと…」

………どっちが……。

「そもそもチーズなら、匂いで分からない…?」

「鼻にチーズ詰まってて、わからん!」

「取ろうよぅ! 汚いよぅ!」

…どっちの方が……魔物か……っ!

バシッ!!

「ワォ!?」

「ひゃっ!?」

……………。

「ね、ねーさん…? どしたの? ゴッキーでもいたん?」

……燃やそう……。
ここに並んだ本……全部ッ…。こんな本、全部ッ!

「おーいっ…?」

バサッ…。バサッ、バサッ…。

「…近付かない方が良さそうだよぅ…?」

「うん。アレ怖いわ。ホウ酸団子より怖いわ」

……………。

「…つぼさん」

「は、はいっ!?」

「火…持ってない?」

「え…。えーと………マッチでいいですか…?」

「うん…。ありがと」

「ひゃっ…」

つぼさんの頭を撫で……マッチに、火を点ける。

「プフーッ。撫でられてやんのー。おっ子チャマーッ」

「ち、違うよぅ! 今のはきっとお礼代わりだよぅ!」

………ぼうっ、と…火を上げる……何の役にも立たない、本……。

「ハッ! 相棒、閃いた! ピンときたっ!」

「何を…?」

「ホウ酸団子をアレで焼けば、きっと食える!」

「ミッキちゃん、チーズ見つけて、それ焼こう? ね?」

「なるほど! その手があった! うおーっ!! チィーズッ!!」

……ソラちゃんの居場所は、分かった…。
行こう…。もう…こんなところに、用なんてない……。

「…あっ…、おねえさん…?」

……………。

「…ねずみさん」

「フゴッ!?」

「鼻息で返事するのやめようよぅ…」

「食糧庫…、書庫から、北に3つ、西に1つ行った部屋にあるよ」

「フゴゴフゴ!!?」

「ミッキちゃん…」

「…それと、つぼさん」

「はひっ!?」

「外まで、送ろうか?」

「え…」

「出たいんだよね、この場所から」

「ぁ…、は、はいっ!」

「近くの町まで…一緒に行こう」

「そ、そこまでして頂かなくても、大丈夫ですよぅ…?」

「いいの。…行こう?」

「……そ、それじゃあ…お願いしますっ…」

「うん…」

「ミッキちゃ……って、もういなくなってる…」

…ソラちゃん……。

「……あっ…」

「………」

「………」

「…ローブ、邪魔?」

「い、いいえっ。……あったかいです…」

「よかった」

「………」

「………」

「……おねえさん…」

「………」

今、行くよ。

……………

………

12/03/27 00:04更新 / コジコジ
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