13:愛の巣[ドラゴン]
私は束縛が嫌いだ。
だから。
突然、大きな影に拐われたときは、もうお仕舞いだと思った。
『ドラゴン』
彼女らは、気に入った人間を見つけたとき、その圧倒的な力によって人間を自身の巣に連れ去り
捕まえた者を『宝』として、永遠に巣に幽閉すると聞く。
実際、私も聞いてしまったのだ。
『絶対に逃がさない』
『何処へも行かせない』
『永遠に私のもの』
よりによって、束縛を体現したような種族に連れ去られるとは。
この力の前では、きっと狭い空間に幽閉されても、逃げ出すことは叶わない。
空を舞う轟音と衝撃よりも、この先の人生を想像して、私は意識を手放した程だ。
しかし、その後の現実はどうだろうか。
『毎晩帰ってくるなら街の何処へ行っても良い』
『私は働いているし、財産も一生と言わず二、三生分あるから金の心配は無い』
連れてこられた街は、小さな都市と言って差し支えないほど栄えていた。
日々の生活は思っていたものと違い、モダンだ。
ここでなら不自由なく暮らせるだろうし、何より『閉じ込められる』という恐怖から解放されたのは大きかった。
更に彼女自身。
絹のような肌、豊満な肉体、宝石のような鱗。
ふらふらと外に出て帰ってきても、笑顔で迎え入れてくれる、穏やかな性格。
何も言われなくとも、つい帰ってしまうであろう。
ドラゴンにも、色々居るものらしい。
どうやら私は幸運なようだった。
***
「おはようございます。」
「おはようさん、いつも助かるよ!」
「おはよう!今日も宜しくね!」
働かず、何も指標の無い毎日を謳歌したのは1ヶ月ほど。
私は今、一週間の内4日、青果店でバイトをすることにした。
店主の大男と妻の小さなコボルドは、快活の良い爽やかな夫婦だった。
「でねぇ旦那様ったら、こんなちっちゃい身体相手にいっつも全力なのよ!毎回死んじゃいそうなんだから!」
「いやーわりぃわりぃ!我慢ってもんができねぇんだ俺は!」
彼女らと居ると笑顔が絶えない。
私はこの仕事が好きになっていた。
***
「良い天気ですねぇ。」
休憩がてら、河川敷に座っていると、ふと声をかけられた。
自身の妻を日傘で護りながら、穏やかな表情で河を眺めている男がいた。
「たしかに良い天気ですね。眠くなるぐらいだ...」
「散歩日和ですね。...貴方、そんなに心配しなくても日の光で溶けたりはしませんよ?」
「やりたいからやってるだけだよ。...それでは、私たちは散歩の続きを。 君もたまには、奥さんと"空の散歩"でも、してみるのは如何かな?」
「楽しそうですね。いってらっしゃい。」
寄り添って歩いていくふたつの背中を、降り注ぐ陽気のような気持ちで見送った。
***
店に戻り、昼食を取ろうと弁当を開く。
今日はハンバーグとサラダがメインのようだった。
「わぁ!美味しそうなおべんと!」
「愛妻弁当ってやつさなぁ...羨ましい」
「奥さんもお料理上手じゃないですか。」
「肉ばっかなんだよな!青果店やってる癖に...。でもアンタのはバランス良さそうだなぁ。ドラゴンってのは肉食のイメージだったが、何でも食うのかね?」
「どうなんでしょうね?うちの妻は変わってますから。」
『夫の為に料理を勉強するドラゴンの嫁』というのは、私の中のドラゴンのイメージとかけ離れていた。
***
夕方。コボルド夫婦に挨拶をし、帰り道を歩く。
お土産に!と、幾つか野菜をもらってしまった。
たまには自分も妻に料理を振る舞っても良いのではないか?
そう考え、普段は通ることの無い市場へ足を運んでみた。
「安いよー!見てってよー!」
「今日はオマケしちゃうからねー!」
夕方とは思えない活気。
数えきれない程の商品が、露店に陳列されている。
夕食の献立を考えたり、品定めをする魔物娘達で溢れていた。
「おっと、お兄さんは何が良いかな?」
「こんばんは。...がっつり肉系の料理でも作ってみようかなと。」
「んー、そうだな...あ!この肉なんかどうだい?ドラゴンのヨメさんもきっと喜ぶぜ!」
初対面ながらフレンドリーなアラクネの店主に奨められ、その肉を購入する。
喜んで貰えるなら、それに越したことはない。
「まいど!...うちの旦那にも見習わせたいねぇ」
***
ここの街の人々は皆、笑顔が絶えない。
暗くなり始めた道を歩きながら、街の様子を振り返る。
生活水準はほぼ、今まで住んでいた県と同じ。
各魔物娘に配慮されたインフラや公共施設など、人間だけではなく魔物娘にもしっかり配慮された作りになっている。
それに街全体が綺麗だ。
どれも新築のような建物ばかり。
当然デザインも洗練されていた。
「あの家、素敵だなぁ。」
「まぁあなたったら。うちも素敵じゃないですか。」
スライム夫婦の会話が聞こえる。
うちもそう。
小さな丘の上の、お洒落な白い家。
こんな家に住むなど、私が以前暮らしていた場所では考えられなかった。
何でも揃い、
何時でも和やかで、
笑顔の絶えない街。
そして扉を開ければ迎えてくれる
束縛の無い、穏やかで美人な妻。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
私はどうやら、とても恵まれた環境に連れてきて貰ったらしい。
***
***
ワタシはドラゴンの中でも、力が弱いほうだった。
「やっ!?イッ...!!も、ずっと、イッてる...のにひぃっ!?」
「可愛いな...もっと聞かせてくれ...」
散々オスを教え込まれ、もうとっくにメストカゲにされている、ワタシの身体の中心を更に抉られる。
幸せの波が引くことを知らずに押し寄せてくる。
ワタシは力の代わりに、持てる"知力"を振り絞って、彼という『宝』を手にいれた。
彼は束縛が嫌いだ。
ワタシの巣に縛り付けるには、どうすれば良いか?
ワタシは1年考えた。
「はう...っ!あっ!やっ!も、だめ!また来ちゃううぅぅぅ...っああ゛っ!!」
「はぁっ...はぁっ...まだ、まだだよ」
「あう゛っ!?ま...まって...ひぃん!!」
人間より遥かに大きく、逞しくなった彼に、屈服したワタシの奥を叩かれる。
もうソコは、彼のものではない白い粘液で泡立っている。
ワタシはそれから10年かけて、巣を作った。
彼が窮屈にならないような、素敵な"愛の巣"。
家などというちっぽけな物を、巣だと決めつける必要は無い。
ドラゴンは"力"だけじゃないんだ。
住人の誰もが不自由しないインフラ
皆が幸せに暮らせるシステム
既婚の魔物夫婦率100%を実現する制度
そして、全ての住人が彼の事を知り、気にかける。幸せを分け合いながら彼を"警護"する。
そう、この街そのものが、ワタシが考えた、ワタシが作り上げた"愛の巣"。彼のために創った環境。
「あなた...あっ!もう、離...っ!しません、からね...どこにも、いかせ、ませんから...♥️」
彼が、この"巣"から永遠に出たいと思わなければ、それは『巣に幽閉した』のと同じ。
ワタシは永遠にこの街、この宝を守る。
だれにも邪魔などさせない。"巣そのもの"の仕組みが、それを許さない。
「愛してるよ...」
彼の瞳に映るのが、計算高い、獲物を捕まえた爬虫類の眼だけなのを確認して
今だけは。
流し込まれる愛に幸せを感じる事だけ、考えることにした。
だから。
突然、大きな影に拐われたときは、もうお仕舞いだと思った。
『ドラゴン』
彼女らは、気に入った人間を見つけたとき、その圧倒的な力によって人間を自身の巣に連れ去り
捕まえた者を『宝』として、永遠に巣に幽閉すると聞く。
実際、私も聞いてしまったのだ。
『絶対に逃がさない』
『何処へも行かせない』
『永遠に私のもの』
よりによって、束縛を体現したような種族に連れ去られるとは。
この力の前では、きっと狭い空間に幽閉されても、逃げ出すことは叶わない。
空を舞う轟音と衝撃よりも、この先の人生を想像して、私は意識を手放した程だ。
しかし、その後の現実はどうだろうか。
『毎晩帰ってくるなら街の何処へ行っても良い』
『私は働いているし、財産も一生と言わず二、三生分あるから金の心配は無い』
連れてこられた街は、小さな都市と言って差し支えないほど栄えていた。
日々の生活は思っていたものと違い、モダンだ。
ここでなら不自由なく暮らせるだろうし、何より『閉じ込められる』という恐怖から解放されたのは大きかった。
更に彼女自身。
絹のような肌、豊満な肉体、宝石のような鱗。
ふらふらと外に出て帰ってきても、笑顔で迎え入れてくれる、穏やかな性格。
何も言われなくとも、つい帰ってしまうであろう。
ドラゴンにも、色々居るものらしい。
どうやら私は幸運なようだった。
***
「おはようございます。」
「おはようさん、いつも助かるよ!」
「おはよう!今日も宜しくね!」
働かず、何も指標の無い毎日を謳歌したのは1ヶ月ほど。
私は今、一週間の内4日、青果店でバイトをすることにした。
店主の大男と妻の小さなコボルドは、快活の良い爽やかな夫婦だった。
「でねぇ旦那様ったら、こんなちっちゃい身体相手にいっつも全力なのよ!毎回死んじゃいそうなんだから!」
「いやーわりぃわりぃ!我慢ってもんができねぇんだ俺は!」
彼女らと居ると笑顔が絶えない。
私はこの仕事が好きになっていた。
***
「良い天気ですねぇ。」
休憩がてら、河川敷に座っていると、ふと声をかけられた。
自身の妻を日傘で護りながら、穏やかな表情で河を眺めている男がいた。
「たしかに良い天気ですね。眠くなるぐらいだ...」
「散歩日和ですね。...貴方、そんなに心配しなくても日の光で溶けたりはしませんよ?」
「やりたいからやってるだけだよ。...それでは、私たちは散歩の続きを。 君もたまには、奥さんと"空の散歩"でも、してみるのは如何かな?」
「楽しそうですね。いってらっしゃい。」
寄り添って歩いていくふたつの背中を、降り注ぐ陽気のような気持ちで見送った。
***
店に戻り、昼食を取ろうと弁当を開く。
今日はハンバーグとサラダがメインのようだった。
「わぁ!美味しそうなおべんと!」
「愛妻弁当ってやつさなぁ...羨ましい」
「奥さんもお料理上手じゃないですか。」
「肉ばっかなんだよな!青果店やってる癖に...。でもアンタのはバランス良さそうだなぁ。ドラゴンってのは肉食のイメージだったが、何でも食うのかね?」
「どうなんでしょうね?うちの妻は変わってますから。」
『夫の為に料理を勉強するドラゴンの嫁』というのは、私の中のドラゴンのイメージとかけ離れていた。
***
夕方。コボルド夫婦に挨拶をし、帰り道を歩く。
お土産に!と、幾つか野菜をもらってしまった。
たまには自分も妻に料理を振る舞っても良いのではないか?
そう考え、普段は通ることの無い市場へ足を運んでみた。
「安いよー!見てってよー!」
「今日はオマケしちゃうからねー!」
夕方とは思えない活気。
数えきれない程の商品が、露店に陳列されている。
夕食の献立を考えたり、品定めをする魔物娘達で溢れていた。
「おっと、お兄さんは何が良いかな?」
「こんばんは。...がっつり肉系の料理でも作ってみようかなと。」
「んー、そうだな...あ!この肉なんかどうだい?ドラゴンのヨメさんもきっと喜ぶぜ!」
初対面ながらフレンドリーなアラクネの店主に奨められ、その肉を購入する。
喜んで貰えるなら、それに越したことはない。
「まいど!...うちの旦那にも見習わせたいねぇ」
***
ここの街の人々は皆、笑顔が絶えない。
暗くなり始めた道を歩きながら、街の様子を振り返る。
生活水準はほぼ、今まで住んでいた県と同じ。
各魔物娘に配慮されたインフラや公共施設など、人間だけではなく魔物娘にもしっかり配慮された作りになっている。
それに街全体が綺麗だ。
どれも新築のような建物ばかり。
当然デザインも洗練されていた。
「あの家、素敵だなぁ。」
「まぁあなたったら。うちも素敵じゃないですか。」
スライム夫婦の会話が聞こえる。
うちもそう。
小さな丘の上の、お洒落な白い家。
こんな家に住むなど、私が以前暮らしていた場所では考えられなかった。
何でも揃い、
何時でも和やかで、
笑顔の絶えない街。
そして扉を開ければ迎えてくれる
束縛の無い、穏やかで美人な妻。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
私はどうやら、とても恵まれた環境に連れてきて貰ったらしい。
***
***
ワタシはドラゴンの中でも、力が弱いほうだった。
「やっ!?イッ...!!も、ずっと、イッてる...のにひぃっ!?」
「可愛いな...もっと聞かせてくれ...」
散々オスを教え込まれ、もうとっくにメストカゲにされている、ワタシの身体の中心を更に抉られる。
幸せの波が引くことを知らずに押し寄せてくる。
ワタシは力の代わりに、持てる"知力"を振り絞って、彼という『宝』を手にいれた。
彼は束縛が嫌いだ。
ワタシの巣に縛り付けるには、どうすれば良いか?
ワタシは1年考えた。
「はう...っ!あっ!やっ!も、だめ!また来ちゃううぅぅぅ...っああ゛っ!!」
「はぁっ...はぁっ...まだ、まだだよ」
「あう゛っ!?ま...まって...ひぃん!!」
人間より遥かに大きく、逞しくなった彼に、屈服したワタシの奥を叩かれる。
もうソコは、彼のものではない白い粘液で泡立っている。
ワタシはそれから10年かけて、巣を作った。
彼が窮屈にならないような、素敵な"愛の巣"。
家などというちっぽけな物を、巣だと決めつける必要は無い。
ドラゴンは"力"だけじゃないんだ。
住人の誰もが不自由しないインフラ
皆が幸せに暮らせるシステム
既婚の魔物夫婦率100%を実現する制度
そして、全ての住人が彼の事を知り、気にかける。幸せを分け合いながら彼を"警護"する。
そう、この街そのものが、ワタシが考えた、ワタシが作り上げた"愛の巣"。彼のために創った環境。
「あなた...あっ!もう、離...っ!しません、からね...どこにも、いかせ、ませんから...♥️」
彼が、この"巣"から永遠に出たいと思わなければ、それは『巣に幽閉した』のと同じ。
ワタシは永遠にこの街、この宝を守る。
だれにも邪魔などさせない。"巣そのもの"の仕組みが、それを許さない。
「愛してるよ...」
彼の瞳に映るのが、計算高い、獲物を捕まえた爬虫類の眼だけなのを確認して
今だけは。
流し込まれる愛に幸せを感じる事だけ、考えることにした。
19/03/26 10:46更新 / スコッチ
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