読切小説
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100万回嫉妬した猫
カラコロと鈴の音と一緒に扉の開く音が聞こえる。
いつも通りの曜日に、いつも通りの時間で、いつも通りの人がお店に来た。
私の待ってたあの人が。
でも今日は私から近づいてあげない、だって私は怒っているから。
貴方から別の女の匂いがする、きっとここに来るまでに道で会った女を撫でたんでしょ。
私に会いに来る途中で別の女を撫でて匂いを付けてくるなんて一体どういうつもりなのかしら。
貴方はかっこよくて優しいから、他の女にまで気に入られちゃうかもしれないのにその自覚が全然ない。
なによ、そんな笑顔で「こっちおいで〜」なんて言っちゃって、私が何も気づいていないとでも思ってるのかしら。
ふん、誰が近づいてあげるもんですか。
……そっちから来る分には許してあげる、別に逃げたりしないわ。
んもう……そっちの手は嫌よ、匂いが私にも付いちゃうじゃない。
そう、そっちの貴方の匂いだけの方……なんでこういう勘は良いのに私の気持ちには全然気が付かないのかしらね?それとも、わざと?
私も随分と悪い男に惚れちゃったものね。
んん〜……やっぱり、貴方の撫で方が一番好き……これじゃないともう満足できなくなっちゃった。
あら、いきなり豪華なのを頼むのね、私のご機嫌取りってことかしら?
ご飯一つで機嫌直すほどそんなに安い女じゃないんだから。
……食べないとは言えってないわ。んっ、早く食べさせて。
むぐ、むぐむぐ……随分と食べさせるのが上手くなったわね、初めて来たときはどうすればいいのかさっぱりだったのに、今じゃとっても食べやすいわ。
ちょっと、私以外にも食べさせようとしてるんじゃないわよ。
他の女に貢がせたりなんかさせないわよ、貴方の出すモノは全部私のなんだから。
はぁ、美味しい……不思議ね、貴方が来る前にも食べてたはずなのに、貴方が食べさせてくれるこれが一番おいしいわ。
ふわあぁぁ……お腹いっぱいになって眠くなっちゃったわ……
……別にさっきの事を許したわけじゃないわよ、まだ怒ってるんだから。
だからこれは罰、罰として私に膝枕しなさい。
ふぅ……不思議ね、貴方が他の女を撫でるたびに、他の女に笑うたびに、他の女に声を掛けるたびに気になってしょうがないけど、でも全然貴方の事は嫌いにならないの……
惚れた弱みってやつかしら?でも、私ばっかり夢中なんて気に食わないわ。
だから私も、貴方を私の虜にしてなんだって私だけに向けるようにしてやるんだから。愛も時間も、魂だって……


ねぇ……私ね、お店の外でも、貴方と一緒に居たいわ……






「はぁ……今日も可愛かった……」

僕はお楽しみから家へと帰る途中だった。
週に一度の、家の近くに出来た猫カフェでひたすら癒されるというもの。
猫が好きという以外大して趣味もなく、そして同時に住んでるアパートが動物禁止ということで持て余していた猫欲求を救済するかのように現れたあの猫カフェには本当に助けられている。
おかげで、貯まり続けていた趣味用のお金をたっぷり財布に詰めては毎週貢ぎに行ってしまっていた。

「また来週が楽しみだなぁ……」

帰路を歩きながらお気に入りのあの猫、チャロちゃんを想う……
お店の人に「いつもその子とばかり遊んでいますね!」なんて言われたが、どっちかというとあのチャロちゃんの方が他の猫と遊ばさせてくれないというのが正しいというか。
とはいえその執着っぷりが何とも可愛く嬉しくて、ついついあの子とばかり遊んでしまうのだ。
夢心地だった時間を思い出しながら歩いていると、前に人影が見えた。
女性のシルエットに見えるが、その場に立ったままで微動だにしない。
不気味に感じ、少し離れた位置を通ろうとその人影とは反対の端に行こうとすると

「……遅い」

そう聞こえた方に振り向くと、目の前に毛むくじゃらがいた。

「わぁあっ!?」

驚きのあまり体勢を崩してまい転びそうになり、痛みを予感して目を閉じたが、何かモフモフに腕を掴まれ地面に倒れ込むことはなかった。

「ちょっと、なによその驚き方。まさか1時間も経ってないのに私の事忘れたんじゃないでしょうね?」
「えっ……?」

当然だがこんなUMAと会った覚えなんてない。
新手の脅迫なのか、混乱する僕を見てソレはため息をつきながら、僕のもう一方の手を掴み、腹と思われる部分に触れさせる。

「ほら、これでも分からない?」

そのまま腕が食われるのではないかと思い抵抗しようとしたが、その前に僕はこの手触りに覚えがあることに気づいた。

「この感触……もしかしてチャロちゃん……!?」
「そうよ。毛の感触を覚えてるなら顔も覚えててほしかったけど、まぁ許してあげる。今は気分が良いの♥」

よく見れば頭には耳、後ろでは尻尾がフリフリと揺れている。
毛色も毛並みも、どれもこれもついさっきまで可愛がっていた彼女そのままだ。

「どう……して……?」

その言葉には、何故このような姿になったのか、何故ここにいるのか、何故自分を待っていたのかと様々な疑問が綯い交ぜになっていた。
彼女は僕の抱いた疑問を知ってか知らずか、おそらくニヤりと笑うと

「理由……そうね、お得意様への特別サービスって感じかしら」

彼女はくるりと正面から僕の隣に移動すると、そのまま腕を組み頭を肩に乗せてくる。

「私にとびきり優しくして、思う存分甘やかして、たくさん遊んでくれたお客様に、お仕事じゃない個人的なサービスをして上げたくなったの。それとも何か、ご不満かしら?」

尻尾で僕の背中をつつつ……となぞり、組んでいない方の手の肉球を僕の胸に触れさせてくる。
その恋仲のような、娼婦のような纏わりつき方に、僕は猫カフェでしていたような単なる触れあい以上の事を期待してしまっていた。
そしてそれは、彼女の組んできた腕にこちらも自ら力を入れ組み返すことで表れる。

「ふふっ、こんないきなりのお誘いなのに断らないのね♥やっぱり貴方はとっても優しいわ♥
じゃあ、早くお家に行きましょう?
お店と違って時間無制限、お触り自由、お代は結構よ、その代わり……」

彼女が瞳がギラリと光り、舌がペロリと動いた。

「今までよりも、もっともっと私の虜になっちゃうかも、にゃっ♥」

23/02/22 22:22更新 / ゆうさん

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