連載小説
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20.北の国だが
「〜〜♪ 〜〜〜♪」
「ふぁ・・・おはようござ・・・射精るっ!?」

起床とほぼ同時に、本日一発目の精液を吐き出す。
先端にぬるぬるとした感覚と、全体が何か柔らかい物に包まれている感触。

「・・・ごくっ。おはようシロ。一番搾り、貰ったぞ」

今朝の目覚めは、エトナのパイズリフェラだった。

(ふにふにしてて気持ちいい・・・)
「それにしても、本当にデかくなったなコレ。ギリギリだけど、先っぽ舐めれるぞ」
「その、本当にありがとうございます」
「どういたしまして。ところで、続ける?」
「・・・今度は、手でお願いします」
「了解っと♪」

射精させる方法が異なるだけで、もはや日常となった朝の風景。
ちなみに、寝る時もほぼ同じ。ただ違うのは、シロの体力が尽きるまで行われるという点である。



「エトナさん、あれじゃないですか?」
「だな。ここにも熱気が伝わってくる」
「どんな所なんでしょうかね」

ノノンから3日半。辺りは暗くなっているが、二人の目指す先にある街は妙に明るい。
それが『眠らない街』『不健康都市』の異名を持つ、娯楽都市シャルクの日常である。
酒場は勿論、娼館、見世物小屋、カジノ等、あらゆる娯楽に特化しており、
この街では金が全てと言われるほど、欲望に塗れている。
しかし、治安が悪いのかと言えばそうでもない。観光客をゴロツキから守る為か、
警備は意外としっかりしており、犯罪発生率は周辺の街とほぼ変わらない。
・・・が。

「・・・パンフレット見たんですけど、カジノに年齢制限無いですよ、ここ」
「娼館にもねぇな。来といて言うのもなんだが、大丈夫かここ」

多方面から観光客を呼び込むため、規制事項は極端に削られている。

「シロ。この街歩くときはアタシから離れるな。憲兵だけには任せきれねぇ」
「言われなくてもそうします。お願いしますね」

門で身体検査を受け、衛兵に指示された場所へ馬車を停める。
一旦、馬車の中で夜を明かす事にした。

「さて、今日はどうしたい?」
「・・・お任せで」
「そう来るか。んじゃ、『おっぱい中毒コース』でイこう」
「もう想像だけで射精そうです・・・」



翌朝。
まず街の全体を見て回る事にした二人。
午前中もそれなりに活気はあるが、夜と比べるとやはり見劣りする。

「金貨は馬車に置いて、銀貨、銅貨もあまり持たないようにしましょう。
 余計な散財をしない為の最も効果的な方法は最小限のお金しか持たない事です。
 勿論、ある程度余裕は持たせた方がいいと思いますが」
「娯楽都市でまず倹約の方法を考えるか。シロらしいな。
 遊ぶ金は持ってく・・・よな?」
「それなりには。僕も色々やってみたい事はありますしね」
「アタシも。ただ、自分がやりたい事より、シロにやらせたい事の方が多いけどな」
「・・・えっと、何を?」
「その時のお楽しみ。安心しろ、痛かったり怖かったりはしない」
「なんか、むしろ心配なんですけど・・・」

早くも一抹の不安を覚えたが、なるべく楽観的な方向に考える事にし、
馬車から出て、街の方へと歩みを進めた。



街路図を頼りに、各所を回る。
シャルクは全体的に見ると、住宅の多い東部と、娯楽施設の多い西部に分かれている。
その境目の中央部は住宅も娯楽施設もかなり多く、街道もゴチャついている。

また、昼間に開いている店はそんなに無い。
雑貨屋等、朝から夕方まで開いている店も普通にあるが、カジノや酒場と比べると絶対数が明らかに少ない。
そして、この時間帯でも開いているその手の店もある。その辺りは流石、娯楽都市といった所か。

「夜の方が明るいかもしれませんね」
「かもな。凄ぇギラついてたし」

面白そうな所は印をつけ、訪れる候補にする。場所に応じて、所持金も考える。
シロは午後からの計画を頭の中で組み立てつつ、街路図を見つめた。

その隣を歩くエトナ。実は、この時彼女の頭の中には、既に計画が出来ていた。
娯楽に溢れた都市。羽目の外し方を覚え、更にはインキュバス化も進むシロ。
なら、こういう事も経験させたい。

(問題はシロが受け入れてくれるかだけどな。抵抗大きいだろうし)

そこまでどう持っていくか。
力技以外の方法が無いか、模索する事となった。



そして、いよいよ夜が訪れる。

「・・・夜、ですよね」
「間違いなく。その反応は分かるけど」

シャルクの住人の殆どは、昼夜逆転生活を送っている。
朝、昼は仕事か睡眠。夜は大フィーバー。それが基本。
非常識が常識であり、いかにして理性を捨てるかが、この街を楽しむポイントとなる。

「夜8時はシャルクじゃまだ昼らしいです。恐ろしい話ですよ」
「でもこう言うだろ。『塔に行ったら五人くたばれ』って」
「多分ですけど『郷に入っては郷に従え』だと思います」
「そうだっけ? でもそうとも言うか」
「そうとしか言いませんよ・・・」

『楽しいは正義』がこの街の理念であり、楽しむ為に必要な金が非常に価値を持つというのも自然な事。
シロの計算に基づいた必要最小限かつそれなりに観光が出来るお金だけ持ち、二人は夜の街へと踏み出した。

「本当ならガキはおねんねの時間だが・・・行くぞシロ。大人の時間だ」
「ほどほどにお願いしますね」

思考パターンはそこら辺の大人より遥かに大人びており、老獪の域にさえ達しているシロ。
これまでの経験を踏まえると、彼はもう、容易に子供扱いできるような子供ではない。

「あー楽しみだなー!!!」
(・・・大丈夫かな)

さらに付け加えると、子供っぽいのはどちらかと言えば、エトナの方。



「ここが一番デカいとこだな」
「ふむ…『欲望の坩堝』ですか。成程、的確です」

二人が訪れたのは、シャルクの中でも最大規模を誇る巨大アミューズメント施設『CRUCIBLE OF DESIRE』。
カジノを始めとする様々な遊興を楽しめるアトラクションやら店舗やらが凝縮された、街の象徴的存在。
上層部は超高級マンションも兼ねており、そこに住むことを許されるのは世界有数の大富豪のみ。
人生の殆どをここで過ごす者さえいるという、都市の中に存在する都市である。

「んじゃ、まず腹ごしらえすっか」
「夜なんであんまりもたれないものでいきましょう」
「何言ってんだ! これから遊ぶんだからガッツリ行くぞガッツリ!」
「この街的には正しいのかもしれませんが・・・」

エトナはほぼナチュラルにこの街に馴染んでいるが、元が固い性格のシロは中々難しい。
薄れて来たとはいえ、彼の生真面目さは失われたわけでは無い。

それでも結局はエトナに押し切られ、レストランへ行くことにした。
フルコース料理を平らげ、しっかりと腹を膨らませた後、少しの食休みを経て、二人はカジノへと向かった。

「一応入れるんですよね、僕でも」
「ここ、酒とか以外で年齢制限あるもの無いからな。その気になりゃ赤ん坊でも行ける。
 つーか、その制限も表向きの話だし」
「・・・恐ろしい話です」



「・・・ダブルダウン」
「ディーラー、ヒット・・・バースト。ウィナー、オールプレイヤー」

「イーブンマネーで」
「オーケー。ディーラー・・・ブラックジャック」

「これはサレンダーですね」
「オーケー。ディーラー、Twelve。」

「なんだあのガキ・・・!?」
「攻めも守りも完璧、時にセオリーから外れたプレイをしながら、結果としてそれが最善手に」
「俺が見る限りサマはやってねぇし、ディーラーが青ざめてるからハウスとグルでもねぇ。どういう事だ・・・?」

シロが選んだのはブラックジャック。ここで、彼は常軌を逸した程の強さを見せた。
これほどまでに勝ち続ける理由は単純。彼は残りカードの枚数とその種類を頭の中で数えているからである。
いかにシロといえども、流石に全てを記憶する事は無理だが、キーカードとなる絵札とエースの枚数を覚えていれば十分。
そこから導き出される選択を選び続けている、ただそれだけである。
それは既にギャンブルではなく、一種のアルバイトと化していた。

この時エトナは護衛を担当している為、その光景をずっと間近で見ていたが、「すごいツイてる」としか思っていない。
しかし、彼女の存在はことカジノにおいて、非常に大きかった。

「おう坊主、テメェ何やって・・・」
「あ゛?」
「・・・ごめんなすいま申し訳ございませんでした!」

睨み一閃、不戦勝。
ゴロツキといえども、(警備はしっかりしているが)無法地帯であるシャルクで生き延びてきただけのことはある。
身の程を弁えるのは当然であった。
こうして、シロが財を増やす一方、エトナはシロを守る事で所持金の増加に貢献していた。

「・・・カードシャッフル」
「さて、一旦上がりますか。・・・エトナさん?」
「んっ? お、終わったか。枚数は減ってるな。・・・形、変わってるけど」

元手、最小単位の黒チップ30枚。銅貨換算で5枚分。
現在シロが手にするのは、大型の赤いチップ。金貨換算で3枚分。
価値にして、およそ60倍程に膨れ上がった。

「エトナさんも何かやります? 今ならそこそこ余裕ありますし」
「アタシこういうの向かないと思うんだけどな。すぐ熱くなっちまうし」
「金貨2枚分は一旦換金しましょう。残りを使い切るつもりでやれば、楽しめるはずです」
「それじゃあ・・・アレやりたい」

そう言ってエトナが目を向けたのは、ルーレット。
カジノにおいて最もポピュラーな遊戯の一つであり、なおかつハウス側が有利なゲームの一つである。
シロならまず選ばない種目ではあったが。

「では、これ崩してもらいますね」
「本当に稼いだなシロ。んじゃ、ちょっと遊ばせてもらうか」

席を移り、ルーレットが回るテーブルへ。
辺りのギャンブラーも、二人の後を追いかけるようにしてルーレットの台へと向かった。



時は少し遡る。

シロは気付いていない。
ブラックジャックに興じている自分の姿は、子供のそれではない。
放浪のギャンブラーのような、危険な香り。
資産家の温厚な老紳士のような、柔和な雰囲気。
降りるべき状況の時に、諦観の感情交じりにする、色っぽい溜息。
しかし、それらの源に佇むのは、幼い少年。

愛する男から発せられる、絶妙すぎるバランスで構成された、溢れる魅力。

(・・・もうこれ、拷問だろ)

それを最も近くで見ていたエトナは、シロの特異体質など関係なしに、股を濡らしていた。

人目さえなければ、間違いなくシロを襲っていた。
下手をすると、辺りの観衆の人数があと2、3人程少なければ、人目も憚らずに襲ったかもしれない。

『破魔蜜』。
シロの異能の力から呼ばれた、教団の間での通称。
それは、あらゆる魔物娘を呼び寄せ、欲情させるという、無茶苦茶な能力。
その対象には、エトナも含まれている。・・・が。

(シロ・・・)

それを抑え込む術式を組んだお守りは、しっかりとシロの首から下げられている。
つまり、発動していない。にもかかわらずエトナは、シロに悩殺されていた。

(うぅっ・・・!)

それだけ、自分はシロが好きなんだという事を認識する。
その羞恥が、エトナの欲望を加速させる。

(アタシは断じてショタコンじゃない・・・好きになった男が小さかっただけ・・・
 だからショタコンじゃない・・・っっっ!!?)

突如、全身に銃弾を浴びたかのような衝撃が走った。
声はギリギリ押し留めたが、脚の震えが止まらない。

チカチカと、星が散るかのような視界。
何が起きたのか、全く理解できない。

落ち着きを取り戻しながら、思い出す。この感覚は、初めてではない。
むしろ、よく知っている部類に入るもの。

そして、その原因も判明した。



(・・・アタシ、こんなとこで何してんだ・・・)



無意識に、自身の股間を擦りつけていた。
シロの座る椅子の背もたれに。

幸い、周囲の客はシロのカードに注目していた為、気付かれてはいない。
しかし、その事をエトナは知らない。

(バレてるよな・・・絶対バレてるよな・・・やらかした本当にやらかした!
 淫乱にも程があるだろ! いくらなんでもこんな所でオナるなんて何やってんだアタシは!)

公衆の場で、自らを慰めていた。
その事実に気づき、一気に顔が真っ赤に染まる。

(あぁシロごめん本当にごめん! アタシ何て事をああもうどうしようどうしよう!
 っていうか元はと言えばシロがこんなカッコ可愛いのが悪いんであってアタシは悪くない?
 いやそうだアタシがシロに堕とされただけであってアタシはってんな訳・・・)

無茶苦茶な合理化をしようとするが、羞恥で混乱した頭で答えがまとまるはずもなく。
結局、シロがエトナを呼ぶまで、思考は暴走を続けた。



「いやー、最後の最後にボロ儲けたな」
「ビギナーズ・ラックっていうんですかね」

ルーレットの戦果は、途中までは酷い物だった。
連戦連敗でヤケになり、残った銀貨一枚分のチップを一点賭け。
それが、奇跡的に的中。36倍になって返ってきた。

最終的に、下手すればカジノから出禁をくらいかねないほどの勝ちとなり、
折角なので、施設内の高級ホテルに宿泊する事にした。

「んーっ、ふっかふかー!」
「流石は眠らない街。夜とは思えない明るさですね」

シャルクを一望できる夜景と、充実した内装。
勿論、豪華なスイートルームである。

「ルームサービス色々あるなー! ワインにマッサージに演芸に・・・」
「どれも値が張りますけどね。エトナさん、何か頼みます?」
「シロはー?」
「僕は・・・特に必要な物がないので。お酒は飲めませんし」
「それじゃアタシ頼みにくいからさー、シロも何か頼めよー」
「そうですか・・・じゃ、少しだけ」

ベッドでゴロゴロしながら間延びした声を出すエトナと、窓際の椅子に腰かけ、夜景を見るシロ。
どちらも寛いでいる事には違いないが、その方法はかなりの差があった。

「ソフトドリンクもありますね。ホテル価格ですけど」
「とりあえず酒飲みたいけど、よく考えたら、アタシ銘柄とかあんまり知らねぇや。
 シロ・・・いや分かんないよな。むしろ分かったら困る」
「赤ワインが強くて、白は弱め、ロゼがその中間っていう事ぐらいしか。
 ・・・ん、ノンアルコールワイン?」
「ほー、そんなのもあるのか。これはシロでも飲めるよな?」
「ですね。折角ですし、僕も頂きますか。となると、チーズの類が欲しくなりますね。
 二人前の盛り合わせと、他にいくつか頼みましょう」

思い思いにメニュー表の品を選び、注文。
それなりに高くついたが、二人の時間に華を添える為にかかったお金と思えば、どうという事は無い。

「こういう場でいちいち原価の計算するのは野暮ってものですよね」
「そういうきっちりした所好きだし、そうじゃなくても好き」
「・・・エトナさん、もう酔ってます?」
「シロの可愛さになら常に酔ってるけど」
(何でこう臆面も無くこんな恥ずかしい事言えるんだエトナさんは)



「それでは、グラスを」
「うん」

グラスを胸の高さぐらいに持ち、お互いの瞳を見つめ。

「シャルクの夜に、乾杯」
「乾杯!」

軽く微笑みながら乾杯し、ワインを飲む。そして。

「多分ですけど、お互いに色々言いたい事あると思います」
「そして、まず何を言われるか、お互いに感づいてるだろうな」
「どちらから先に言います? 僕はどちらでも構いませんが」
「アタシも同じく」
「では、せーのでいきますか」
「了解。それじゃ」
「「せーのっ」」

この後に出るであろう相手の言葉を予測しながら、同時に。

「シロ」
「エトナさん」

「カッコいいけどあのセリフはクサい」
「綺麗ですけどワイン似合ってません」

「・・・ふふっ!」
「・・・あはは」

予想通りのツッコミが入り、エトナは吹き出し、シロは苦笑する。
場の雰囲気と流れに沿った結果、妙に堅苦しい事になったが、二人の関係にはそぐわない。
それ故にできたズレた間が、どうにも可笑しかった。

「飲みましょう。ここ、レストランとかじゃないですし、マナーとか気にしなくて大丈夫ですから」
「変に緊張して味わかんなかったわ。普通に行こう、普通に」
「おつまみ頂きながら、色々話しましょうよ。とりとめのない、普通の事を」
「そうだな、適当に何か話すか」

二人っきりで、時間を共有する。
ただそれだけの事がたまらなく愛おしく、大切で、幸せ。

シロの知らない事を、エトナが埋めていく。
道具として扱われていた数年を取り戻すようにして、語らいの時間が過ぎていく。

「暇な時はずっと本を読んでましたね。お金の使い道もそれくらいしか無かったんで」
「だから色々知ってるんだな。ちょっと偏ってはいるけど」

「ノンアルコールといっても、芳醇な香りはしっかりと残っていますね。
 それでいて気取らない味わいがチーズの塩気と・・・」
「要するに『うまい』って事だろ?」
「間違いではないですけど身も蓋も無い事を・・・」

「おぉっ! このクラッカーにつけると合うぞコレ!」
「では僕も・・・!!! エトナさん、ナイス発見です!」
「ちょっ、これ追加しよう! いいよな!?」
「うーん、いいでしょう! 僕も気に入りました!」

美食を交え、会話が弾む。
娯楽都市シャルクでの二人の夜は、ゆっくりと更けていった・・・






・・・ここまでで終われば、至って普通の平和な観光だった。
様々な何かが内包された街、シャルク。その魔力は二人にも例外なく働いたようである。

楽しい時間が続く中、徐々に、変化が始まっていた。
その進みがあまりに遅すぎて、二人共気付く事が出来ない。

気付いたころには、手遅れになっていた。
14/11/27 18:35更新 / 星空木陰
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■作者メッセージ
やや間が空き失礼しました。ついに第20話、娯楽都市編です。
いきなりきな臭い事になりましたが、一体何が起こったのか。

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