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第16話「風が吹き抜けていく青空の下でA」
「悪いけど、うちは魔物娘向けの衣服は扱ってないよ。分かったら、その犬娘の毛が商品に付く前に、とっとと出てってくれ」


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「見たか? あの店員の態度! ふざけやがって、てめえの毛の方がよっぽど不潔だって言ってやれば良かった!」

コレールはベルと繋いだ手をギュッと握りしめて、クリスに向かってギャアギャアと不満を吐き出しながら、商店が並ぶ街道を歩いていた。

「ねぇ、その……おいら……」

コボルトの少女はコレールの腕にすがり付くにして、モジモジと彼女に話しかける。

「おいら……別に、可愛い服とか似合わないし……それに、ご飯を食べさせてもらっただけで十分だから……」


「何だ、可愛い服には興味はないのか?」

コレールはベルに対して、からかうような笑みを浮かべて問いかけた。

「えっと……その……」

「可愛い服に興味はなくても、可愛い服を着たお前を見たカーティスの反応には、興味があるんじゃないのか?」

カーティスの名前が出た途端、ベルの顔はボシュッと音を立てそうな勢いで真っ赤に染まってしまい、そのまま黙りこんでしまった。

「沈黙は雄弁なり、ね。カーティスとは幼馴染みとか、そういう関係?」

「え、えぇと……」

ベルは少し躊躇したが、クリスの屈託のない優しい眼差しに促されて、少しずつ自身の事情を語り始めた。

物心付く前に奴隷商人に拉致されたこと、カーティスは奴隷商人の手中から救ってくれた恩人であること、顔すら分からない両親を探す旅の途中で、まとまったお金と拠点が必要だったこと。そして、アレクサンドラに雇われて宝玉を盗み出すために、コレールたちに接触したこと。

「そんなことが……やっぱりあの時、ちゃんと話を聞くべきだっーー」

言い終わる前に、クリスは自分の視界に入ってきた物の衝撃で口をつぐんだ。コレールとベルの二人も同じような反応だった。


三人の目の前に姿を現したのは、「ミルキー・ツインズ」と描かれた看板を掲げた、衣料品店だった。看板の横に「魔物娘歓迎! オーダーメイド承ります」と書かれているのは良いとして、問題はその外観だ。ショッキングピンクと紫色を貴重とした前衛的なデザインに、看板の文字は魔法の粉でも振りかけているのか、午後の日差しを受けてキラキラと白く輝いている。その風貌は服屋と言うより、成人男性御用達の類いの店を連想させた。

「……『魔物娘歓迎』だってさ……入る?」

「……別の店にしない?」

コレールとクリスは暫くの間店の前で意見交換をしていたが、最終的に中を見るだけと言う条件で、警戒しながらもベルと一緒に店内へと足を踏み入れた。




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「中も凄いなこれ……」

店の中に入ったコレールが最初に呟いた言葉がこれだった。店内は服屋にはあるまじき薄暗さで、唯一の光源は天井近くの空間をふよふよと浮かんでいる、桃色と紫色の魔法の光だけで、やはり「その手」の店を彷彿とさせる雰囲気に満ちている。

「あらお客さん?」
「まぁお客さん!」

店の奥から唄うように言葉を発しながら、店員らしき二人の女性が姿を表した。踊り子のような際どい服装を身に纏い、豊満な肉体の美しさを隠そうともしない褐色の美女ーー愛の女神「エロス」の教えの伝道師にして、性愛を担う水の精霊、アプサラスだ。

「ど、どうも、実はーー」

「嗚呼、何も言わないで、リザードマンの貴方」
「私たちにはお見通し。服が欲しいのは貴女の隣の子犬ちゃんでしょう?」

顔から体つき、喋り方に至るまで瓜二つの二人のアプサラスはそう言ってコレールの言葉を遮り、少し怯え気味のコボルトの少女の手を、片方ずつ手に取った。

「怖がらないで、可愛い子犬のお嬢さん。私たち双子はプロフェッショナル。だから言葉は必要ない」
「貴女の心は裸ん坊。切ない恋のざわめきを、小さな鼓動が教えてくれる」

双子の片方がベルの小さな胸に手を当てると、もう片方が妖艶な仕草で、何故か店内の中央にある、カーテンで仕切られた試着室の中へと誘おうとする。

「さぁ、貴方の全てをさらけ出して、恋に悩むお嬢さん! 裸の心の全てを知れば、貴方が服を選ばなくても、服が貴方を選んでくれるわ」
「恥ずかしいのは最初だけ! 小さな一歩を踏み出せば、貴方の奥の欲望が、貴方を女に変えてくれる」
「女となった貴女の姿を、密かに想う彼が見たら?」
「間違いないわ。貴女の魅力に、彼の心は愛の虜!」

ベルは訳も分からぬまま、双子のアプサラスと一緒に、試着室の中へと入っていってしまった。




「きゃっ!? ど、どこを触って……!」

「大丈夫よ、お嬢さん。貴女の体と心の形を、触って調べるだけだから」
「誰にだって初めてはあるもの。その内、良くなってくるから大丈夫」

コレールとクリスは外から試着室の中を伺おうとしたが、中の様子は朧気なシルエットの動きでしか確認することができない。

「あっ、やっ、そんな……ふぁっ、だめぇ……」

「ふふ、なんて可愛らしい体……良いのよ、そのまま力を抜いて……」
「そう……そのまま……私たちに貴女の全てをさらけ出して……」

やがて試着室の中からとろけるような悩ましい喘ぎ声と、淫靡な水音が聞こえてきた。それと同時に何らかの魔法を使っているのだろうか、店内の棚から何枚かの布が飛び出して、カーテンの隙間から試着室の中へとスルスルと入っていく。

「あぁ! 布、しゅごい……やぁ……おいら、おかひくなっちゃう……!」

「良いのよ……おかしくなっても……だって、恋と狂気は紙一重」
「全てを解放して……もう少し……さぁ、私たちと一緒に、更なる高みへ……!」


「あっ、やっ、ふぁぁっ! あっ、あぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!」

最終的に未知の歓喜に溢れたベルの悲鳴が試着室から響いてきたかと思うと、彼女の荒い息づかいだけが、暫くの間店内の静けさを支配していた。







「なぁ……やっぱり、『そういう』店だったんじゃないか?」

「……否定は出来ないわね」

コレールの言葉にクリスは肉球で口を覆い、顔を赤らめながら呟いた。


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カーティスはペリコとエミリアに挟まれて、夫婦の果実シャーベットの、店の前のベンチに三人で座っていた。


「それで? あのコボルトちゃんとはどこまで踏み込んでるの? 流石にキスくらいはしてるんでしょ?」

そう言ってペリコはカーティスの頬っぺたを、ニヨニヨ笑いながら指でグリグリと押している。

「うるせぇ! んなことしてねぇよ! それとほっぺは止めろ!」

「そうですよペリコさん。大体キスなんてしたら……あ、赤ちゃんできちゃう……」

からかわれているカーティスの横で勝手に想像を膨らませて、真っ赤になってるエミリアの姿を、ドミノは少し離れたところから見つめている。そこに五人分のシャーベットを抱えて持ってきたパルムがちょこちょこと近付いてきた。

「……」

「あぁ、ありがとよ、パルム……くそっ、 あいつら三人だけで盛り上がりやがって! 輪の中に入れてないの俺だけじゃねぇか!」

ドミノは悪態をつきながらパルムからシャーベットを受け取って、腹立ち紛れにシャクシャクとかじり始めた。

「ありがと、パルム……あっ、戻ってきたみたいよ!」

パルムからアイスを受け取ったペリコは、コレールたちが歩いてくることに気がついて手を振る。その隣でカーティスは、自分だけ時間が止まっているかの様に目を見開いたまま、右手からアイスを取り落とした(エミリアが慌てて地面に落ちる前に受け止めた)。


「あ、兄貴……おいら、服買ってもらったんだ……」

ベルが着ているのは、飾り気の無い純白のワンピースだった。下半身はロングスカートで露出は少なく、上半身の方もノースリーブとはいえ、胸元がはだけているわけでもない、魔物娘にしては随分色気の少ない服装だ。

「(だがその一見派手さに欠ける出で立ちが、逆に彼女の清楚で純朴な魅力を引き出している……!あの双子、大したもんだ……!)」

「(確かによく似合ってるわ……でもやっぱり体を弄くり回すは無かったと思けどね……!)」

ベルの後ろでこそこそと話し合うコレールとクリスをよそに、ベルは顔を真っ赤にしながらも、カーティスの前で自分のお洒落した姿を見せつけていた。

「ど、どうかな……兄貴……?」

カーティスはしばらくの間ベルの姿に釘付けになっていたかと思うと、突然立ち上がり、回れ右してドミノの方へと歩いていった。


「おいボケもやし」

「誰がボケもやしだ」

「拭くものあるか?」

「拭くもの? 何で?」

ドミノが怪訝な顔で聞き返すと、カーティスが自身の鼻を押さえている握りこぶしの隙間から、赤い筋がたらー……と流れ出した。

「鼻血」

「はぁ?」

「鼻血が出た。止まらねぇ。早く、拭くものを」

「馬鹿かお前……」

ドミノはパルムが差し出したナプキンを彼から受けとると、カーティスに向かって投げて寄越した。


「コレールさん、兄貴、どうしちゃったのかな? もしかして気に入らなかったんじゃ……」

「気に入らないどころか効果抜群みたいだぞ」

コレールは不安気にすがりよるベルの頭を撫でながら、ペリコに「あのワンピースの下は体毛も消えていて、恐らく下着も着けていない。つまり、めくれば全部丸見え」という内容の指摘をされて悶絶するカーティスのことを眺めていた。


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数日後ーー。

「いつでも出発できる! カーティス君の準備が出来次第、こっちに寄越してくれ!」

「ああ、分かった! すぐ行かせるから、もう少しだけ待っててくれ!」

コレールは宿屋の二階の窓から、表にいるキャラバン
の連中に向かって声をかけた。

彼らはコレールの「カーティスとベルをキャラバンの構成員に加えて、ベルの両親を探す手伝いをしてほしい」という頼みを、快く承諾してくれた。というのも、コレールたちが石化状態から解放した魔物娘たちの中に、キャラバンの構成員が何人か混じっていたからである。

「それで、話ってなんなんだ?」

そう言うとコレールは、部屋の中で腕組みをしている、気難しい表情のカーティスに向き直る。

「なんなんだって、この前トラトリアで話した通りだよ」

カーティスは腕組みをほどいてコレールに捲し立てる。

「どうして俺たちにここまで良くしてくれるんだ? ベルの方はともかく、俺はあの時、本気であんたたちを殺すことになるかもしれないって思ってたんだぞ!?」

コレールはため息をつくと、少年の額にデコピンをかました。

「おうっ!? ……な、何しやがる!」

「お前たちはまだ子供だ。子供は一人前になるまで、素直に大人の助けを借りて、めいいっぱい甘えて育つのが仕事なんだよ。腹を空かせているなら尚更だ。だから、手助けしてやっただけだ」

コレールは窓から外を見下ろした。ベルはキャラバンの荷車で構成員のサラマンダーになでなでされまくっており、戸惑いつつもまんざらではない様子だ。

「お前、あのコボルトの子を助けたんだろ?」

「……ベルから聞いたのかよ」

「ああ。誰に雇われた訳でもないのに、お前は自分の意思で、あの子を助けたみたいだな」

カーティスの方を振り返り、申し訳なさそうに微笑むコレール。

「クリスのいう通りだ。やっぱりあの時、きちんとお前と話し合うべきだった」

カーティスは顔を真っ赤に染めて、視線を反らしながらも、もごもごと何かを呟いた。

「……あぁ……えぇと……その……色々気を使ってくれて……ありが……とう……」

コレールは少年の初心な動作に含み笑いをすると、彼の茶髪をくしゃくしゃに撫で上げて、部屋の外へと誘導した。

「さぁ、早くキャラバンの人たちの所に行こう。ハニーが待ってるぞ」

「ハニーはよせよこの馬鹿トカゲ!」

赤面していた表情を更に赤く染めて悪態をつく少年の有り様は、どこまでも子供らしい初々しさに満ちていた。

ーーーーーー

カーティスとベルを見送ったコレールは、自身もサンリスタルを出発するために、クリスたちが待っている荷馬車の方へと歩みを進めた。今日から正式にパーティに加わったエルフの少年、パルムも一緒だ。

「ガキの子守りは終わったのかよ、ボス」

「あぁ、すぐに出発しよう」

長時間待たされて不機嫌なドミノの言葉に応え、魔界豚の手綱を握りしめる。

「そうしてくれ。この馬鹿猫が、今更になって『あの素敵なアラークおじ様と一緒に旅がしたいの!(無駄に甲高い声)』ってぐずり始めたんだよ」

「だってさ……せっかく仲良くなれたのに、もうここを去らなくちゃいけないなんて……」

今のクリスにはドミノの人を小馬鹿にした物真似に食って掛かる元気もないようだ。

「仕方ないさ。あいつにはやるべき仕事が色々残ってるからな」

「……そうよね……」

「……この旅が終わったら、中央大陸に帰る前に、もう一度アラークの所を訪ねてみるか?」

「……うん。そうしましょう!」

クリスはコレールが彼女の恋心に協力的なのを察して、少し元気を取り戻した。

「行き先はハースハートで大丈夫ですよね、コレールさん?」

エミリアから受け取った地図には、都市国家ハースハートの位置に、赤い印がついている。ここからそう遠くない地域だ。

「よぉし、野郎共、出発だ!」

「「「おぉーーーっ!!」」」

威勢の良い掛け声と共に走り出す荷馬車の真上には、爽やかな風が吹き抜ける青空が広がっていた。



ーー第17話に続く。





















「……」

「どうしたの、コレール?」

「いや、なんか忘れているような気が……まぁ、思い出せないってことは、どうでも良いことなんだろ」






同時刻、サンリスタル城の拷問室(近日閉鎖予定)にてーー。


「あびびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!!! 衛兵共早く電気椅子を止めりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃびゃ- *€-%% )!!* €--!!?」

「こいつ、もう3日もこうしてるらしいぜ。助けてやれよ」

「やだよ。触ったら俺まで感電するかもしれないだろ」

「確かにな。じゃあこのまま魔法エネルギーが切れるまで放っとくか。」

「ふざげんにゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ- *€-%% )!!%#**€-!!!!!!!???」
16/07/31 22:30更新 / SHAR!P
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■作者メッセージ
またしても更新に二週間かけてしまった……!
全部ポケモンGOって奴が悪いんや……!

アプサラスの服屋のシーンは大分夜のテンションが入っています。何ヵ月か後に読み直して、恥ずかしさで悶絶するパターンだこれ!

ちょっとこれからの展開に修正を加えるつもりなので、今回は次回予告は無しです。申し訳ありません。

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