連載小説
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星空

「……主神様は、私に興味が無かったようです」

 首だけ私に抱かれたまま、エルミーナは言った。自分の心の声は神に届くと処刑台で宣言した彼女だが、現実は違ったようだ。彼女が魔物として新たな生を受けた時点で、そうなのだろうと予想はできた。

「グヴェル伯爵の罪が暴かれたのはおそらく……父の復讐心と、後はたまたまでしょう」

 彼女の顔を見ると、少し寂しげな笑顔をしていた。社会の理不尽さと闘ったこの少女に、神までも理不尽だったのか。

「でも、死者の女神ヘルが……私に機会をくださいました。会いたい人に、また会いに行く機会を」
「……私がここにいることは、どうして?」
「自分でもよく分からないのですが、星を追いかけてきました。この街へ導くように動く、不思議な星に」

 星……何のことだろうか。魔物になると新たな感覚が身につくとも聞くが、そうした類のものだろうか。当人でも分からないのでは想像のしようもない。

「辿り着くまで、大勢の方々に助けられました。人にも、魔物にも。そして様々なことを……学びました」

 一瞬。エルミーナ嬢の瞳に妖しい輝きを感じた。魔物の街に来てから、何度か見た輝きだ
 その直後だった。背後から抱きしめてくれていた彼女の体が、ふいに私を仰向けに押し倒し、組み敷いてきたのだ。

「エルミーナ、さん……?」

 腕の中で、彼女の頬が熱くなっていた。首の断面から吹き出す煙がどす黒く変色している。

「例えば、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるというのは、嘘だと……」

 白い指が、私の下半身へ。

「そして男性と行う子作りの儀は、魔物として一人前になるために必要なことであると」
「エルミーナさん、それは……!」

 ベルトの留め具を外そうとする彼女を、何とか止めようとする。しかし小柄な体格であっても人外で、力が強い。

「それは、夫になる方と! 強い愛情で結ばれた相手とやることです!」
「はい。だからこそ」

 腕の中で彼女の首が、潤んだ瞳で見上げてくる。

「ラウルさんでなくては駄目なのです。わたしとラウルさんが交流した時間は僅かでしたが、他の誰よりも強い絆があると信じています」

 情熱的な告白だった。普通であれば夢見がちな少女の痛々しい妄想だろう。だが私は彼女を助け、後に斬首したという事実がある。これを絆と呼べるのかは分からないが、あの日からずっと互いのことを想っていたのは確かなのかもしれない。
 しかし……

「と、とりあえずどこか屋内へ! さすがにこんな場所では……」
「あら……? 先程、この星空の下で裸で愛し合う男女を見ましたよ? とても綺麗な双子さんと、素敵な旦那様」

 ……魔物の街では日常茶飯事か。まったくあの3人は。

 と、彼女の体は何かを思い出したように腰を上げた。どうしたのかと思うと、私の見ている前でスカートを捲り上げた。
 星明かりで、白いレース付きの下着が見える。光の加減と彼女の肌が白いせいで、レースが付いていなければ履いていないように見えたかもしれない。そして今度は、その下着すら脱ぎ始めた。

 神聖な場所……アンデッドの場合「神聖」と言って良いのか分からないが、その割れ目が見えたのは一瞬で、重量に従い降りてきたスカートにすぐ隠された。だがその一瞬の光景と、ふわりと漂った甘い匂いが脳に焼き付く。
 股間に血が集まってしまうのを感じた。

 そんな私に、エルミーナ嬢はにこやかな笑顔を見せた。

「ラウルさん、差し上げます!」
「え……?」

 綺麗に畳んだ下着を差し出され、思わず固まってしまう。

「魔物の方から教わりました。愛しい人との交わりに際しては、脱ぎたての下着をプレゼントするのが作法だと!」

 得意満面なエルミーナ嬢。良い香りのする下着を反射的に受け取ってしまったが、返す言葉が思いつかない。とりあえずその魔物を見つけ出して小1時間ほど説教してやりたいところだが、彼女は意気揚々と私の下半身から服を剥きとっていく。
 男の本能によって上を向いたそれが、外気に触れた。

「わ……コレが……」

 手探りでペニスに触り、撫で回される。頭で理解できる状況ではなくなってきた。自分が首を刎ねた少女が魔物になって、復讐ならともかく男女の交わりを求めてくるなどという経験をした者が他にいるか?

「ラウルさん、どうか貴方の男根を見せていただけますか?」

 もうどうにでもなれ。懇願してくる首を、股間へと向けてやる。彼女は「わあ」と感嘆の声を上げ、愛おしそうな手つきでさすってきた。すべすべとした手の感触に怒張したペニスが震え、エルミーナ嬢はますます感動したようだ。

「わたしに無いものがある……なんだか素敵……」

 しばらく亀頭をつついたり、竿を撫でたりしていたエルミーナ嬢だが、やがて首の無い体が腰を浮かせた。

「それではこれを……わたしの中へ受け入れます……!」

 わくわくしたような口調で、エルミーナ嬢はスカートをまくり上げ、くるりと後ろを向く。白く丸いお尻……女性の尻を桃に例えることが多いが、私はなんとなく満月を連想した。
 そのお尻がゆっくりと降りてくるのを見て、興奮を禁じ得なかった。彼女の体は恐ろしく魅力的だったのだ。だが、軽く握られた男根が割れ目に導かれたとき、違和感が生じた。

 いや、違和感という次元ではない。男根が挿入されたのは女の割れ目ではなく、お尻の谷間だったのだ。

「んっ、くぁぁぁぁ♥」
「ちょっ、エルミーナさん、そこはっ……!」

 男根が根元まで一気に呑み込まれた。女性器ではなく、肛門の方へ。
 熱い直腸と括約筋が、肉棒をぎゅうぎゅうと締め付けてくる。

「は、入ったぁ♥ 入りましたぁ……これが、これが子作り……!」
「ち、ちがっ……!」

 もしかしたら前戯のつもりなのかもしれないと思ったが、完全に勘違いしているようだ。彼女に性的知識を授けた魔物を見つけ出して徹夜で説教してやりたい。何故変態的なことを教えて一番基本的なことを教えなかったのか。
 だがそんなことも考えている間も無いくらい、エルミーナ嬢の肛門は激しく男根を締め付けてきた。その上彼女は、普通のセックスと同じように腰を振ってきたのだ。

 彼女の腸内を痛めるのではと心配になったが、何故か肛門からぬるぬるとした液が分泌され、潤滑剤となっていた。ぎゅっ、ぎゅっと肉棒を締め付ける感触と温かさが、驚くほど気持ちいい。

「んっ、はぁっ♥ イイっ♥ お尻の奥に、おくにっ! 熱い、硬いのがぁ♥」

 何より、首だけ胸の上で喘ぐエルミーナ嬢の声。そして快感にくねる女体の艶かしさが、私の快感さえも増していく。理屈などどうでもよくなるくらいに。
 彼女が体を上下させ、丸いお尻が私の下半身にぺたんと打ち付けられる。その弾力も気持ちいい。

「ラウルさんっ! ラウルさんっ、大好きですっ!」

 ストレートな好意の言葉。たまらず彼女の首をこちらへ向け、とろけた表情を浮かべる唇にキスをする。

「んぷっ! んちゅっ、ちゅるっ、ふんみゅぅぅ♥」

 柔らかい唇が触れた瞬間、彼女の方から舌を入れてきた。肺と繋がっていないにも関わらず、熱い吐息を吹き込んでくる。口の中を舐めまわされ、夢中で舌を絡め合う。

 そうしているうちに、早くも下半身の方が限界に達しそうだった。情けない話だが忌み嫌われる仕事をしていたこともあって、女性経験などほぼ無いのだ。ましてや魔物との交わりが、こんなにも甘美なものだとは。たとえ女性器ではなく排泄器であっても。

「エルミーナ、さんっ……!」

 堤防が決壊した。いや、堤防など用をなしていなかった。激流のような快楽が股間から一気に噴き出す。

「ふあああっ!? で、出てるぅぅ!? 熱いぃ♥」

 男根がドボッと音を立て、彼女の肛門へ射精した。肛門が収縮し、強く締められると脈打ちが止まり、緩まるとまた出すのを繰り返す。甲高い声でよがり悦ぶエルミーナ嬢の首を抱きしめ、ただ快感に身をまかせる。
 白いお尻の谷間から、少し白濁が漏れてくるのが見えた。私が彼女の体を汚したということを自覚し、それが何故か快感を増す。女性の神聖な場所ではなく、元より不浄な穴ではあるが、それでも美しき女騎士エルミーナの一部には変わりない。

「あんっ、んっはぁぁぁ♥」

 首の無い女体がビクビク震え、首の方は感極まって泣き出しながらも蕩けた笑顔を絶やさない。良い香りのする汗が、玉の肌を伝っていく。
 彼女も絶頂したのだ。肛門で。

「くはぁっ、はぁっ♥」

 私に抱かれたまま、荒い呼吸を整えるエルミーナ嬢。私の脈打ちと彼女の痙攣がゆっくりと治り、ペニスがお尻から引き抜かれた。肛門のシワに白濁液が染み渡っていて、その光景がなんとも卑猥だ。
 彼女の顔を見ると、潤んだ瞳で蕩けた笑顔を浮かべていた。

「はぁ、ふぁ……ラウルさん、これで……これでわたし、一人前の魔物に……そして、お母さんになれるんですね……♥」

 うっとりと満足げなエルミーナ嬢。そんな彼女に、私は……

「……お尻に射精しても、子供はできません」
「……え?」

 打って変わってきょとんとする彼女に、私は繰り返す。

「お尻に射精しても、子供はできません」
「ふえ!?」

 頓狂な声が星空の下に響いた。本当に本気で、セックスは肛門で行うものと考えていたのかと、改めて思う。自慰行為すらしたことが無いのではないか。

「でで、でも、白くてネバネバしたものが出ましたし……気持ちよかったですし……!」
「気持ちよかったですが、子作りは前の穴でするものです」
「前……あっ……」

 エルミーナ嬢は自分の股間に手をやった。くちゅっ、と水音が聞こえる。そこから垂れる液と疼きに気づいたようだ。「アソコの奥がその男の人を欲しがっていれば、それが運命の人との出会い」とジャイアントアントたちが言っていたのを思い出す。
 腕の中の首に目をやると、彼女の瞳の中に渦巻きが見えた気がした。顔が性的興奮とは別の理由で真っ赤に染まっている。

「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です! 大丈夫ですとも!」

 首の離れた体がくるりとこちらを向き、いきなり服を脱ぎ始めた。旅装束もスカートも、全て脱ぎ去って全裸になる。ふと頭をよぎったのは、かつて処刑したとある囚人のことだった。首の無い女体に性的興奮を覚え、殺人を繰り返した男だ。歪んだ情欲に取り憑かれたのはある意味哀れだが、処刑に際し良心は痛まなかった。
 今目の前にいるのは首の無い、エルミーナ嬢の裸体。それを前にしても、あの囚人の気持ちは理解できなかった。自分が首を刎ねた女性というのは同じだが、彼女の体には死してなお生命が溢れている。服の上から見たよりも大きく感じる胸、小さなおへそ、艶のある肌……死体と一緒にしてはならない。

 そして毛が生えていない、つるりとした股間の割れ目からは、愛液が糸を引いて垂れていた。

「もう一度! 今度は正しい方で致しましょう!」
「ちょ、エルミーナさん……!」

 愛液がついた手で男根に触れられる。神聖な場所からこぼれ落ちた汁が、先ほどまで肛門に突き刺さっていた肉棒を洗っていく。優しい手つきと指先の感触、小さく揺れる乳房に、出したばかりのそれはゆっくりと起き上がる。汁の垂れ流されるその割れ目に挿入したいという欲求が、渾々と湧き上がる。

 魔物は性的な交わりでは一切病気にならないと学んだから、それは大丈夫だろう。私も男として腹を括るしかない。
 あの日とはまた違う形で、彼女の想いに応えたい。

「では、ラウルさん。改めて……」

 再び怒張した男根に愛液を垂らしながら、エルミーナ嬢はゆっくりと腰を下ろす。

「あ……♥」

 先端がそこにふれた瞬間、ぴくんと女体が震えた。しかし動きが止まったのは一瞬で、割れ目が亀頭をずぶっと飲み込んだ。

「ふ、あっ♥ あっ♥」

 嬌声と共に蕩けた笑顔を浮かべる首と、再びキスを交わす。男根が下の口に根元まで咥えこまれ、上の口は情熱的に舌を絡め合う。

「んんんーっ♥」

 重ねた唇からくぐもった嬌声が聞こえた瞬間、ぐにゅっと膣内が蠢いた。

「う……!」

話に聞いていた、魔族の女性器は予想以上の……まるで、男根だけ別の世界へ吸い込まれたのではないかと思うほどの快楽だった。柔らかな粒がぎっしり詰まったような内壁が、愛液を塗りつけるように肉棒を刺激してくる。まるで別の意思を持っているのではないかと思うくらい、亀頭や裏筋などを執拗にくすぐってくるのだ。

「ぷはっ……あ、あぁ、ラウルさぁん♥」

 唇を離すと、先ほど以上に蕩けた笑顔があった。人間だった頃の彼女を知っている者が見れば、これがあのエルミーナ嬢だと信じられないかもしれない。それほどまでに、あの凛々しく可愛らしい顔が快楽に蕩けていたのだ。

「ラウルさんっ、わたし、これっ♥ すごっ、い……♥」

 乳房を震わせ、首の無い体が腰を使う。いや、ただよがっているだけだ。それでもその艶かしい動きが、膣をさらに蠢かせる。
 右腕で首をしっかり抱きかかえ、左手を揺れる乳房へ伸ばした。むにゅっと弾力のある柔らかさ。汗ばんだ白い膨らみが手の中でひしゃげて、形を変える。主神教団の勇者にさえ、この感触の虜となって魔物側に寝返る者がいるというが、彼らを責めることはできないと思った。少なくとも首無し死体好きの殺人狂よりは赦されるべきだ。

「あぅ♥ ラウルさんっ、ラウルさんもっと、もっと揉んでぇ……♥」

 可愛らしくねだる首と再びキスをし、胸を揉み続ける。柔らかい。
 こちらの手の動きに合わせるかのように、蜜壷がうねり、搾り取ろうとしてくる。気持ちいい。

 そして彼女の快楽に悦ぶ姿が、何よりも快感を強めるのだ。

「もっと、もっと、もっとぉ……」

 男根を咥え込んだ女体の動きが、次第に変わり始めた。ただ悶えるだけでなく、互いに気持ちよくなるための、積極的な動きに。ひしゃげる乳房、くねる白いお腹とへそ。飛沫を上げる愛液。
 偽りの星空の下、私たちは確かに愛し合っている。この私が、あの美しき少女と。

 このまま時間が止まってほしい。そんなことさえ思ったとき、エルミーナ嬢の体がびくんと震えた。

「あっ、やぁ! ダメ、ラウルさんっ! 逃げてっ!」

 急に慌てた様子を見せた瞬間。軽く勢いのある水音が響いた。
 彼女の股間……男根を飲み込んだ穴の少し上、小さな穴から黄色い液体が漏れ出していたのだ。私の体に温かい感触が広がっていく。

「いやぁぁぁ! おしっこ止まらないっ! ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 羞恥に真っ赤にし、絶頂しながら失禁する、アンデッドの元聖騎士。
 そんな激しく倒錯した光景を前に、私の股間もまた限界に達していた。

 何かを叫んだかもしれない。声にならない声だったかもしれない。自分が何をしているかもまともに分からない快楽の中で、先ほど以上に勢いのある射精が始まった。

「ふあぁぁぁぁ♥ で、出てる……!? 出してくれてるんですねっ♥」

 膣内がぎゅっと締まり、精液を漏らすまいと吸い上げてくる。溜まっている物が全て吸い出されそうだった。

「出してくれたぁ♥ おしっこ漏らしたのにっ♥ 汚しちゃったのに、こんな私に、出してくれたんですねっ……♥」

 彼女の中を子種で満たしながら、嬌声を聞いて、快感に浸る。

 ふいに、ある言葉が浮かんだ。因果は断ち切られたのだ、と。
22/12/12 22:46更新 / 空き缶号
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