連載小説
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エピローグ
……ルージュ教会……


「ヅギ、お茶淹れたよ」

 手にはティーセットの乗った盆、触手にクッキーの籠を持ち、シュリーが俺に声をかける。遊びに来たガキ共に武術を教えてやっていたオレは、汗を拭きながら聖堂の椅子に腰かけた。まったく、オレに子供を預けるなんて、この町の連中はどういう神経しているんだか。それともオレをここに置いている、シュリーが信頼されているのか。

「ふう、やれやれだぜ……」
「お疲れね、ヅギ」

 シュリーは苦笑しながら、オレにカップを差し出した。マイルドな紅茶の香りが、疲労を癒してくれる。

「闘技会で負けて、優勝者と準優勝者の結婚式をやって、その後連日ガキ共の相手だ。いくらオレでも疲れるさ」

 準決勝での戦いで、幻惑魔法まで使ったのに勝てなかった。まあ幻惑と言っても、熱で陽炎や蜃気楼のような現象を起こし、距離感を狂わせただけだ。精神に影響する魔法ではない。
 決勝戦は当然、スティレットとジュリカの闘いとなった。何でも試合直前に、「負けた方は勝った方の言うことを一つ聞く」との約束をしたらしいが、どっちの望みも「結婚してくれ」だったらしいから、約束自体無意味だ。というかあいつら、どう考えてもすでに出来上がってたじゃないか。惚気やがって。
 ともあれ決勝戦の後、あいつらはこの教会で式を挙げた。地面に叩きつけられた痛みがまだ癒えていないオレは、シュリーの指導の元に何とか牧師としての役目を果たした。
 そして式が終わるなり……あいつらは町から出て行った。自分たちの戦場を探すために。

「……あの人たち、ずっと戦いの中で生きていくのかな?」
「ああ。何処かで野垂れ死にしても、それが本望だって言うだろうな」

 また何処かの戦場で会おう……そう言い残して、あいつらは去って行った。ただひたすら戦場を求め、生きていくのだろう。だが、そんな人間を必要とする時代が、まだまだ続くのだろう。そして、幼いころのオレやスティレットのような子供が生まれてくる。

 だが……スティレットが見せた、あの凄まじい気力。あれだけのダメージを与えたのに、女の声だけで復活してしまうなんて。やはりあいつも、人間なんだ。ああいう奴がいる限り、これ以上世界が悪くならないと信じている。
 オレが言っても説得力はゼロだけど。

「次に会ったら、ゆっくりお茶を飲みたいな」
「ああ、それも悪くないかもな……」






















……砂漠地帯……


「あンッ、あんっ! く、来る……♪」

 砂漠の村の、小さな家屋の中で、俺はひたすらジュリカの蜜壺を突き上げていた。いつものように、ジュリカは俺の男根をきつく締めつけながら、激しくよがる。尻尾の炎が渦を巻き、その高まり具合がよく分かる。
 豊満な乳房に口で刺激を与えながら、俺も次第に我慢の限界に達していく。

「出るぞ、ジュリカ!」
「来てぇ! 一杯、一杯出して!」

 精が迸った瞬間、強烈な締め付けが男根を襲い、射精を長引かせる。やがて次第に搾りとるような動きになっていく、魔物の女性器。まさしく快楽を生み出すことに特化した器官だ。


 息を荒くしながら、余韻に浸るジュリカと口づけを交わした、その時。

「敵襲ーッ! 敵襲ーッ!」

 小屋の外から聞こえてきた叫びに、俺とジュリカは即座に結合を解き、服を着る。
 俺はフレイル、ジュリカは双刀を持ち、小屋から飛び出した。夜の砂漠の、冷えた外気が頬を撫でる。外には俺達と同じ傭兵や、蛮刀で武装した現地の民兵たちが、すでに戦闘準備にかかっていた。少年兵たちが駱駝を引き、非戦闘員の女たちは赤子をしっかりと抱え避難していく。

「スティレットさん、教団の騎兵部隊が迫っている! 数はこっちの二倍だ!」

 村の民兵のリーダーが、俺に向かって言った。いい奴だがまだ若く、実戦経験は少ない。

「アルバハ、隣村に伝令を飛ばして、増援を頼め。お前たちは稜線に隠れ、迂回して背後を突け。それまで傭兵部隊は正面から迎撃し、時間を稼ぐ」

 俺は若きリーダーの肩に手を置き、目を合わせて言った。

「大丈夫、来たのは恐らく第24騎兵隊辺りだろう。まだ派遣されたばかりで、砂漠の戦いに慣れていないはずだ。それにお前たちは奴らより夜目が利く」
「分かった、全力でやる! みんな行くぞ、先祖の土地を守るんだ!」

 彼の声に、民兵たちが唱和する。
 こいつらは親魔物派ではなく、主神教団とは別の神々を祭る異教徒であり、土地を守るため教団に立ち向かっている。報酬などろくに用意できず、旗色も悪い。それでも俺達傭兵が集まるのは、こいつらが命を張るのに足りる連中だからだ。ろくな武器がなくても、家族を守るため果敢に立ち向かう姿には、私欲も邪心もない。
 俺とジュリカは、そんな彼らと共に死力を尽くすと決めたのだ。

「ジュリカ、いつも通り背中は任せる」
「ああ。あたし達の生き様、刻みこんでやろうぜ」

 再び口づけを交わし、俺とジュリカは戦場へと駆けだす。他の傭兵達も後に続き、民兵も駱駝に跨り、砂山の稜線に隠れながら迎撃に向かう。



 俺はもう迷わない。


 どんな辛い戦場でも、どんな暗い闇の中でも。



 ジュリカという炎が、道を照らしてくれるのだから。





―END―
11/07/19 00:41更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
決勝戦でどちらが勝ったかは、ご想像にお任せします。
それとヅギの、「混沌の時代はまだ長く続く」という台詞はあくまでも彼の予想で、実際に図鑑世界がどうなるかはまだ分からないということを念のため書いておきます。
しかし、結構長くかかってしまった……やっぱり連載物は大変だ(汗)

さて、次回は一回戦で闘ったシロー・イバの話……の予定でしたが、バトル物の次は平和な話を書きたいと思ったので変更です。

題材は家畜の屠殺を生業とする青年と、彼のもとに現れたドッペルゲンガー。
宜しければ、読んでいただければ幸いです。
では、ありがとうございました!

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