読切小説
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生まれゆく水の鼓動
 雲1つ無い闇夜の空。その空で金色に輝く満月。そして、その満月を鏡の如く水面に映し出す、澄みきった水が拡がる湖。

 湖の水辺に浅瀬があり、そこは円を描くかのように岩で囲まれた場所。その浅瀬は子どもが遊んでも大丈夫なほど浅く、人間の足首ぐらいまでしか沈まない。


 そんな場所に複数の人影が集まり、それぞれ二人一組になって円を描いて散らばる。人影の正体は男女。よく見ると、若い男性と小柄な女性が一組になっている。しかも、その女性には人とは思えない特徴があった。

 見た目は、黒っぽい長髪に濃い青色のぴっちりした服を着ている少女の姿。その姿に、人とは思えない魚のようなヒレが耳と手足についていた。お尻には魚の尾びれのような尻尾が飛び出している。


 そう・・・彼女たちは“サハギン”と呼ばれる水棲亜人型の魔物。全てのカップルが若い人間の男性とサハギンの女性で組み合わされている。

 やがて、それぞれの組が一定の距離を離れると熱愛な口付けを始めた。どちらも顔を赤らめ、お互いの身体を密着させながら求め合う。


 そんな彼らを見つめている一組。人間の少年とサハギンの少女が浅瀬に入らず、眺めていた。

「みんな、気にせずやっちゃうのね」
「それが自然だから・・・」
「カシワとリルちゃんも熱々だね」
「・・・ユイ」

 ユイと呼ばれた少年が少女に顔を向けると、互いの唇が重なる。数分後、名残惜しそうに二人の口が離れ、互いの口から光る糸が伝い落ちた。

「アオ・・・行こうか」
「・・・うん」

 アオと呼ばれたサハギンの少女は少年に手を引かれて浅瀬に入っていく。






 朝日が昇る清々しい朝。一人の少年がある部屋のベットで寝ていた。窓から差し込む朝日を気にせず、少年は眠り続ける。突然、部屋のドアが静かに開き、足音を立てずベットに近づく影が現れた。

「すぅ―すぅ―」
「・・・」

 少年に近づいた影は少し間を置いて、少年に覆いかぶさった。

「ん?うわっ!?」
「・・・」

 少年は突然、何かの気配を感じて目を覚ます。目を開けると、自身に覆い被さる黒い長髪の少女の顔が目の前にあった。少年が起きたのを確認すると、少女が顔を離す。

「・・・おはよう、ユイ」
「お、おはよう、アオ」

 お互いにベットから立ち上がり、部屋のドアへと歩き始める。部屋から出るとそこには、焼けたパンとベーコンの乗った皿がテーブルに置かれていた。

「アオが用意してくれたの?」
「そう・・・」
「ありがとう」
「・・・ぽっ」

 少年のお礼の言葉に顔を赤らめる少女。朝食を食べ終えた二人は外に出て、家のすぐ横にある畑の野菜を収穫する。籠に入れた野菜を一旦、家に置いて、今度は銛と網を持って一緒に出掛けた。

 彼らの住んでいる場所は少し規模が大きい集落。小さな家々を通り過ぎて、ある場所に向かった。途中、彼らは同じ方向に向かう男女と出会う。こちらもサハギンの少女を連れた若い青年だ。

「よう!ユイにアオ。お前たちも行くのか?」
「そうだよ、カシワにリルちゃん、おはよう」

 少年が青年とその隣のサハギンの少女に挨拶した。リルと呼ばれた少女は恥ずかしながら挨拶する。

「・・・お、おはよう、ゆ、ユイ、あ、アオ」
「おはよう、リル、カシワ・・・」

 少年の隣の少女も挨拶を返した。4人は歩きながらしゃべり始める。

「寝坊の俺と一緒ってことは、ユイもか?」
「だから、私が起こした・・・」
「はははは、だろうな」
「むぅ、面目ない」
「・・・」
「リルちゃん、顔赤いけど大丈夫?」
「ひぃやっ!?」

 少年が尋ねると、少女は驚いて青年にしがみついて隠れてしまう。

「???」
「おいおい、何も恥ずかしがるこたぁねぇだろう?」
「リルはユイに近づきすぎて、私に嫉妬されるんじゃないかと思っている・・・」
「へ?」
「ア、ア、アオ・・・」
「アオ?」

 アオの言葉に彼らは目を丸くする。彼女は小さなため息をついてリルに話し掛ける。

「リル・・・」
「は、はい!?」
「心配しないで・・・怒ったりしない」
「で、でも・・・あの時・・・」
「あの時はあの時・・・今は違う、そこを解って・・・」
「は、はい・・・」

 悲しげな表情でお願いするアオにリルは頷いた。不思議そうに彼女たちを眺める少年と青年。見かねた青年がリルの手を引っ張って走り出す。

「ほら、辛気臭くしてないで。ユイ、アオ、そろそろ早めに行くぞ」
「あ、ま、まってカシワ・・・」
「確かにそうだね。アオ、行こうか」
「うん・・・」

 4人は道に沿って走り出す。



 彼らがやって来た場所は巨大な湖。水辺付近に木材で作られた小さな桟橋があり、そこにはすでに多数の人影が居た。どれも人間の男性やサハギンの少女たちで、付近には焚き火も用意されている。サハギンの少女たちは銛を手に準備体操を始めた。

「じゃあ、僕たちは此処で待っているね」
「無理するなよ、アオ、リル」
「う、うん・・・」
「もちろん・・・」

 彼女たちはそう言って湖へと入って行った。二人は焚き火近くで座って話し合う。

「しっかし、なんだろうな?うちのリルがそこまで怖がってるなんて・・・」
「ん〜ひょっとしたらアオとは昔、番探しで何かあったのかも・・・」
「あ〜それもあるかもな。あとはあの引っ込み思案だな」
「くふふ、そうかもね」

 互いに笑いながら話し合う二人。そんな中、青年は湖を見ながら語り始める。

「もう、半年も経ったな・・・お前がこの村に来て」
「そうだね」
「あれから暮らしには慣れたか?」
「うん、ただ・・・」
「ただ?」
「アオと寝るのはまだきついかも・・・」

 少年の発言に青年は笑いを堪える。

「くく、確かに。まあ、魔物とのお相手は体力いるし、ましてや、お前は12歳だろう?」
「違うよ、あと一か月で12歳」
「あ、そうだったな」
「そう、あと一か月で・・・アオと出会って半年経ったね」



 両親と死別したユイは、親戚である商人のもとで働いていた。ある日、船で航海している際、嵐に見舞われ、船は転覆する。ユイだけ、辛うじて板切れに捕まり、他の乗員は海の底へと沈んでいった。少年はある海岸に流されるも、体温は冷えて、かなり危険な状態だった。

 そこへ、たまたま泳いでいたアオが彼を見つける。すぐに焚き火で温めるも、小柄な少年の命は消えかかっていた。そこで彼女は衣服を脱がしてから抱きしめ、自身の体温で少年を温める。そして・・・少年は命を取り留めた。

 気が付いたユイは最初、アオの魔物の姿に驚くも、自身を助けてくれたことを知って彼女に感謝した。その日の内に二人は仲良くなり、お互いのことを話す。帰る場所が無い少年にアオはある提案を持ち掛けた。彼女の故郷である村で一緒に暮らさないかと・・・。

 10歳を超えたばかりのユイにとって、それは喜ばしいことだった。両親や親戚を失った彼にとって最早、頼れる人は誰もいない。そんな彼に出会って間もない少女が、自分のために居場所を提供してくれたのだ。少年は涙を流しながら承諾した。

「あの時は、まさか・・・こうなるなんて思わなかったからね」
「でも、ユイ。まんざらでもないだろう?」
「それは・・・」

 顔を赤らめながら口ごもるユイを見て面白がる青年。そんな彼の頭に突然、何かが振り下ろされる。

ガァァン!
「い゛っ!?」
「え?アオ!?」
「・・・ユイを困らせるな」

 いつの間にか、アオは二人のもとへ戻り、カシワの後ろから右手に持った銛で後頭部を叩いた。痛みに堪える青年を無視して、ユイに近づくサハギンの少女。

「早かったね」
「この位は簡単。今日もこんなに獲れた・・・」

 そう言った彼女の左手には網にぎっしりと多数の魚が入っていた。

「凄いね、こんなに獲って大丈夫?」
「この魚、視界を遮るぐらい一杯いるから・・・」
「じゃあ、今日も物々交換しに行こうか?」
「うん・・・」

 少年は立ち上がり、申し訳なさそうに青年に声を掛ける。

「僕たちは先に戻るね、カシワ」
「いてててて、アオ!何も叩くこたぁねぇだろう?」
「・・・ギロッ」
「いや、すんませんでした。俺が悪かったです、はい」
「ぷい・・・行こう」
「あ、うん。ごめんね、カシワ」

 少女に睨まれ、土下座する青年を後にする少年。村に向かって並び歩く二人はあることを話し始める。

「アオ、もうすぐだよね?」
「うん・・・不安?」
「何ていうか・・・君自身のことが心配で」
「私は・・・大丈夫」
「アオ・・・」
「ユイ・・・私はサハギン・・・この村で生まれたのだから、やらなくちゃいけない。“ムーンブルー”を・・・」



 アオが少年を村へ引き入れたのには理由があった。此処の村は古くから魔物種族との交流が続いている。しかも近辺にはオーガやドラゴンなどの強力な魔物が住んでいるため、外敵のいない楽園のような場所だった。

 そして、村のすぐ隣には巨大な湖“ブルースカイレイク”があり、そこに生息する魔物と親密な関係を築いていた。それが“サハギン”である。彼女たちは湖で取れる魚などの食料を提供し、村人たちは彼女たちに居場所を提供した。村には他の魔物もいるが、大半が人間の家族とサハギンの番(つがい)であった。

 そして、サハギンたちは村や外界で見つけた番なる人間の夫を連れて、ある時期になると湖で儀式を行う。その儀式とは・・・・・・『繁殖』である。それも、只の繁殖行動ではない。

 季節が秋になり始めの満月の夜、番となりしカップル達が湖“ブルースカイレイク”の儀式場所の浅瀬で交尾をする。この時、サハギンの彼女たちの身体にある変化が訪れる。それは必ず複数の子どもを宿せる状態になることだ。数は2、3人だが、過去に4つ子を産んだサハギンもいた。

 いつしか、この儀式は『ムーンブルー』と呼ばれ、村やサハギンたちにとっては喜ばしい行事だった。



 村に住み始めて数日後、少年がこの風習を初めて聞いたとき、驚くことしかできなかった。少女が自分を連れてきた理由が、ただ儀式をこなすための材料だと思ったからだ。だが、それは間違いであることを少女から知らされる。

 儀式について教えてくれたその日の夜、彼女はそれと一緒にあることを告白する。

「私たちは・・・何も考えずに番を探していない」
「え?」
「私は・・・見極めて夫を選ぶ・・・年齢も種族も関係ない」
「アオ・・・」
「私は・・・あなたを選んだ・・・ユイという存在を・・・」

 サハギンの少女はユイをやさしく抱きしめた。少年の目に涙が溜まり始める。

「ユイ、あなたが好き・・・あなたでなきゃ・・・この身は捧げない」
「アオ・・・ぼ、僕も・・・僕も、アオのことが!」

 彼の言葉を塞ぐかのように少女は口付けする。お互いの舌が絡まり求め合う。二人はベットに行き、接吻の続きをした。

「ん・・・ん、ぷはっ」
「んむぅ・・・はぁ・・・アオ」

 お互いの顔が離れると、二人の唇から光る糸が伝い落ちる。

「ユイ・・・」
「え、あっ、アオ!?・・・くっ」

 突如、少女は彼の性器を露出させ、両手で擦り始める。すでに少年の性器は怒張していた。そのうち少女は、手で触るだけでなく、接吻を交わしたばかりの口で愛撫する。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「ん・・・ぴちゅ・・・んん・・・」
「アオ・・・もう・・・」
「だめ・・・まだ、出さないで・・・」

 限界を訴えた少年に、彼女は静止の言葉を掛ける。互いに向かい合うと、少女は恥ずかしながら左手で、股を覆っている服のような鱗を横にずらし捲る。よく見ると、少女の性器から愛液が滴り落ちていた。

「んぅ・・・」
「うっ・・・」

 少女は自らの意志で少年の性器を自身の胎内に突き刺す。突き刺さるそれは根元まで入り、やがて二人が繋がった部分の隙間から少量の鮮血が垂れ落ちた。それを見た少年は心配し始める。

「!?・・・アオ・・・」
「大丈夫・・・好きに、動いて・・・早く・・・」

 本当なら今すぐにでも動きたいのだが、少女の純潔だった証を見て躊躇う少年。それでも少女は平然を装い、少年を導こうとする。どちらも性に関しては初体験であり、耐えきる余裕はなかった。先に動いたのは少年の方だった。

「ふぁ・・・あっあっあっ」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 手探りするかのように二人は快楽を求めて動き続けた。初めて味わう快感に二人はすぐに限界を迎える。

「アオ、はぁ、もう!・・」
「んっ!んっ!んぅぅぅ!」

 最後に達した瞬間、二人は口付けした。少年の精が少女の胎内で弾け、ドクンッ、ドクンッ、と脈動が響く。少年の精を受け止め、少女は恍惚とした表情を浮かべた。お互い口を離し、息を整える。

「はぁぁ、はぁぁ、はぁぁ・・・」
「中・・・いっぱい・・・」
「アオ、大丈夫?」
「もっと・・・」
「え?」
「もう一回、して・・・」
「え、ちょっと、アオ・・・」

 魔物としての本能が目覚めたのか、再度求める少女。結局、この後、二人は繋がったまま二回も性行為を続けた。


 初体験の日から、少年と少女はお互いを求め合うようになる。だが、少女は魔物としての体力はあるが、少年は幼さもあったため、慣れるまで時間が掛かった。









 季節が変わり、森が紅葉し始めた頃、遂に『ムーンブルー』が行われる日がやって来た。朝から祝い事みたいに、村の中心で宴会が開かれている。今年の主役であるサハギンたちとそのパートナーは精の付く料理を食べるが、お酒は支障を来すので飲むことは出来ない。


 今日の夜は絶好の満月である。サハギンの彼女たちやその相手の男性も緊張が隠せない状態だった。今回、パートナーに選ばれた男性のほとんどが、外界で出会った者で村出身の男性が少数。ちなみに、村出身の男性がパートナーになれる条件は兄弟持ちの者のみ許される。これは村を維持する人間の数を減らさないためだ。


 宴が終わり、辺りが夕焼け色になり始めると、準備するために全員が家へと戻った。その際、まだ、4人の人影が残っていた。

「いよいよ今日だね、カシワ」
「そうだな、ユイ。兄貴たちがなんか見に行くぞ!とか言ってたけど・・・馬鹿じゃね?」
「無駄だと思う・・・他の魔物に捕まるから」

 アオの言う通り、この付近の魔物たちは村に親しく、儀式の邪魔者や覗きを排除するよう依頼されている。無論、捕まれば自分たちが家庭を築くことになる。

「・・・」
「ん?リル、どうした?」

 リルが何か言いたそうな顔をしていることにカシワが気付いた。彼女はおどおどしながらアオに近づいてしゃべりだす。

「あ、あの・・・アオ」
「・・・何?」
「そ、その・・・カシワを先にとってごめんね」
「「!?」」
「もう気にしてない・・・」
「・・・」
「おい、リル。それって・・・え?ちょっと、リル、引っ張んなって!」

 青年は少女に引っ張られて、その場を後にした。残された二人のうち、少年が目を丸くして隣にいる彼女に尋ねた。

「アオ、ひょっとして・・・」
「私とあの子は姉妹・・・姉である私が身を引いたの」
「そうだったんだ・・・」
「でも、後悔はしていない・・・ユイに出会えたから・・・」
「僕も、君のおかげで此処にいる。君がいなかったら・・・」
「・・・」
「アオ?」
「言わないで・・・」

 少年の言葉を止めるため、少女は彼に抱きつく。少女の身体は震えていた。

「アオ・・・」
「その先の言葉・・・怖いから・・・」
「分かった、言わないよ」
「ユイ・・・」

 少年は少女の願いにやさしく答えた。


 日が落ちて満月の明かりが照らす時、いよいよ儀式が始まる。村に横一列で並ぶ多数の男女。花婿たる人間の男性と花嫁たるサハギンの女性で構成された番たちだ。特に変わった衣装は無く、普段着の姿で並んでいた。

 村人全員が見守る中、村の子ども達がこの日の内に作った花かんむりを花嫁たちの頭に被せる。次に村の代表が短い祝辞を述べると、番たちは誓いの口付けを行う。村人から拍手されながら、番たちは湖に向けて歩き出した。



 湖の儀式場所となっている岩で囲まれた浅瀬。やって来た番たちは早速入って儀式を始める。此処に来るまで誰も言葉を交わさず、静かに愛し合う。

 ユイとアオも一番近い浅瀬に入り、向かい合いながら接吻を始める。すでに二人は上気した顔になり、お互いの身体をくねらせる。

「んむぅ・・・ん・・・んぅ・・・」
「ぴちゅ・・・んぁ・・・ん・・・」

 長時間の舌の絡み合いが終わると、互いの手で相手の性器をまさぐり合う。少年のものは大きく、少女のものは愛液で濡れ始める。

「う・・・あ・・・大きくなった」
「はぁ・・・はぁ・・・アオも濡れてきたね」

 準備が整い、二人は儀式の本番を始める。少年の怒張が少女の中へと入っていく。

「んんぅ!あっ!」
「くぅ!」

 最奥を貫かれ、少女は艶のある小さな叫び声を上げた。やがて、ゆっくりと少年は腰を動かし始め、少女に快感を与える。

「うっ、あっ、あっ、あぅ・・・」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 不意に少女があることをつぶやく。

「あっ、何か、お腹、熱い・・・」
「え? アオ、どうしたの?」

 少女の言葉に反応して少年は動きを止めた。

「今ね、お腹の両脇が、じゅわって・・・熱かったの」
「大丈夫?」
「うん・・・問題ない・・・続きを・・・」

 謎の身体の変化に少女は戸惑うも、特に支障はないので続きをせがむ。少年は少女のおねだりに答えるため、再度腰を動かす。

「んぁ、んん、あっ、あっ、ユイ・・・」
「はぁ、はぁ、もう、少し、アオ・・・」

 まもなく訪れる絶頂に備える二人。腰の動きもさらに早くなり、息も荒くなり始める。周りの番たちは、すでに達して失神する者や、二人のように間もなく絶頂を迎えようとする者もいた。

「はっ、はっ、はっ、うあぁぁ!!」
「アオ!くうっ!」

 少年が達し、少女の胎内に精が放出された。少女はドクッドクッと少年の身体から伝わる脈動を聞き取りながら、溜まりつつある精を味わう。

「はあぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 火傷しそうなくらい気持ちいい快感を味わいながら、少女も絶頂を迎えた。結合した部分からこぽりと精が零れ落ちる。達した二人は全身の力を失い、アオに覆い被さるように浅瀬の水へと倒れた。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・ユイ」
「ん・・・アオ?」

 小声で少女が少年の名を呼ぶ。彼女の目には涙が流れ、いつもは見ることのない満面の笑みを浮かべていた。

「これで・・・子ども・・・できたよ・・・」
「本当に?・・・」
「うん・・・身体で解る・・・私のお腹に・・・できた・・・」

 そう言うと少女は左手で自身のお腹の横を擦る。少年はそれを見て、少女の姿が可愛らしく見えた。

「言い伝えでは子どもが複数できるって言っていたけど、そんな複数抱えて産むのが不安なんだ」
「大丈夫・・・私はサハギンで魔物・・・人より丈夫・・・」
「アオ・・・」
「ユイ、愛してる・・・だから・・・あなたとの、子ども・・・産ませて・・・」
「僕も愛してる・・・アオ」

 満月の明かりに照らされ、二人は幸せの結晶をできることを望み、さらにお互いを求め合った。




 ムーンブルーを終えてから3か月後、花嫁であるサハギンたちは子を授かった。皆、大事そうに膨らんだお腹を抱え、婿である男性たちは彼女たちの身の回りの世話をする。

 アオのお腹にも複数の命が宿り、ユイは彼女に寄り添いながら少女のお腹を撫でる。

「ユイ・・・解る?」
「うん・・・元気に動いているね・・・何人だろう?」
「たくさんがいい・・・」
「それだとアオに負担かかっちゃうよ」
「それでも、産みたい・・・」
「欲張りだな・・・」

 少女の我儘に少し困ってしまう少年。それでも愛しい妻の願いを叶えてあげたいという気持ちが生まれる。カシワのパートナーであるリルは、カシワの両親から異常なくらい大事にされていた。一方のカシワと兄弟たちはこき使われていた。



 それから約7か月後、村中が大騒動になっていた。妊娠した日が一緒なら当然、出産日も重なる。魔物伝いで村に大勢の医者が呼ばれ、多数の出産が行われた。特に問題なく、サハギンたちは多数の子どもを無事に産んだ。

 アオは三人の子どもを、リルは二人の子どもをこの世に誕生させた。生まれたサハギンの幼子たちはある程度鳴いたが、親に似て無表情や無言をすることが多かった。

「でも、私にはこの子たちが何をしたいのか、解る・・・」
「「「・・・?」」」
「アオ、それってやっぱり、サハギン同士だから?」
「それもある・・・あともう一つ・・・」
「もう一つ?」
「母親だから・・・」






 さらに時は流れ、10年の歳月が過ぎた頃、夜に浮かぶ満月に照らされた湖の儀式場所に、大勢の人影が集まっていた。父親となった人間と母親となったサハギン。そして、その間に生まれて成長した多数のサハギンの娘たちである。

 儀式はまだ終わっていなかった。子を作ることは始まりに過ぎない。本番は季節が春になりし頃、満月の夜にサハギンの子ども達を外界へ送ることだ。湖の先には海へと続く川が流れ、そこから番となりし人間の男性を探しに行かせる。

 親離れは番たちにとって悲しいものだが、これは何世代も行われてきたこと。親である番たちにとってやらなければならないことだ。

 まるで最後の親と子の交流をするかのように、別れの言葉を交わしてサハギンの娘たちは湖へと向かった。ユイとアオも三人の娘に別れを告げる。

「気を付けて行くんだぞ」
「「「・・・コク」」」
「・・・」

 父親の言葉に相槌を打つ娘たち。母親は右から一人ずつ抱きしめて、娘のぬくもりを味わう。

「「「・・・」」」
「ユメ、アイ、メグ・・・絶対に帰って・・・」
「「「・・・コク」」」

 母の言葉を聞くと、娘たちは湖へと歩き始める。やがて浅瀬から湖の深い場所に入り、水中へと姿を消していった。娘たちの姿が見えなくなると、二人は寄り添って湖を眺め続けた。

「・・・」
「アオ・・・」
「外は此処より、危険が多すぎる・・・悪い人間に捕まって酷いことされたり、災害に巻き込まれたり・・・又は番になるも、此処に戻らずに一生を得る子も・・・」
「大丈夫だよ・・・皆も・・・僕も信じている。そりゃあ、未来なんて分かる訳ないけど・・・」
「ユイ・・・」

 アオは震えながらユイに抱きつく。彼は静かに抱き寄せた。

「あの子たちはきっと戻ってくる。いい相手を見つけて、きっと・・・」
「ユイ・・・ありがとう・・・」

 二人はもう一度湖を眺めた。水面に映し出された月がゆらゆらと揺れて、光を辺りに撒き散らす。こうして、長く続いた今回のサハギンたちの儀式『ムーンブルー』は終わりを告げた。










 実はサハギンたちと親しいこの村には、一つだけ不可解な謎があった。


 儀式を終えた後日、突然、前触れもなく、“儀式を終えた番たちが姿を消す”のだ。


 自宅には何も持って行った形跡がなく、さっきまで居たような状態で住居が残される。彼らを目撃した者はおらず、何処に行ったのか分からないのである。付近の魔物たちも「知らない」の一点張りであるため、番たちの行方は誰にも分からなかった。

 村人が言うには、子を産んで短命になったことを悟って村を去ったか、人知れず旅に出たのでは、と推測されている。それはまるで、役目を終えた番い鳥がこの世から去るかのように・・・。


 だが、彼らはそれが悲しいことではないと信じている。なぜなら、番たちの残したものがあるからだ。外界へと旅立ったサハギンの娘たち。彼女たちが新たな番となってこの村に戻ってくる。それだけは確かなことだ。










 満月に照らされて誕生した生命。

 湖から生まれた鼓動を持つ水なる存在。

 それはやがて、新たな命を宿すため、番なる相手を連れて故郷に帰る。

 そして、受け継がれていく・・・・・・永遠なる愛とともに・・・・・・










『・・・あなたを選んだ・・・・・・愛してる・・・・・・ユイ』
『・・・僕も信じている・・・・・・愛してる・・・・・・アオ』










 満月に照らされた湖から二つの人影が現れる。

 一つは若い人間の男性。もう一つは・・・。
11/09/03 11:19更新 / 『エックス』

■作者メッセージ
 8月26日辺りで思いついた作品です。この作品も図鑑世界に忠実ではなさそうなので不安です。それでも、何か感動しそうな作品を作ってみたいなということで頑張って書いてみました。

 今回の魔物はサハギンです。テーマは『受け継ぐ生命』ということで考えてみました。閲覧された方もお分かりいただけたでしょうが、この物語は川魚の一生みたいなストーリーになっています。

 自身も腹ボテなどのフェチがありますが、お腹の子どもに無茶させたくない思いが強いです。

 練習に書いた『凍てついた苦痛』よりは短めですが、長くさせると全体のバランスが崩れそうなのでしません。今回も文字数は9625と少し多め。慣れてきたせいなのだろうか・・・。余談ですが、雰囲気的にあっていると思い、神々の詩をBGMにしながら創作しました。

 現段階で自分の全ての作品を閲覧されている方、感想を下さった方、そして、図鑑世界を作った創造主、図鑑世界を行き来する皆様へ。この場を借りて心より感謝いたします。

 では、メッセージは此処までにして、最後まで見ていただきありがとうございました。

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