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準決勝

 


「うぅ……参っちゃったなぁ……」
 大会出場者に用意される部屋で私は一人、明日の試合の事を思っていた。
「相手は男の人……しかも準決勝まで勝ち進むなんて、よっぽど強い人だよぅ」
 そもそも私はこの大会を舞踏会だと思って参加したのだ。なのに、当日来て見ればなんと、“舞踏会”ではなく“武闘会”だったという。
 勿論、棄権しようと思った!けれど遅刻してしまった所為で開会式に参加出来ず、そのペナルティとして棄権“権”がないっていう。
「うわぁ〜ん……どうすれば……どうすればいいのぉ〜っ!?」
 おまけにどういう運命なのか、今までの相手は皆魔物で、私が女の子だと見るやあっさりと棄権してしまったのだ。多分、私とはエッチ出来ないからだとは思うけれど……
 寧ろ誰かしら私を倒してでも先に進もうとか思わなかったの!? 一回戦から棄権って、どういうこと!? 私だって一回戦で棄権したかったわよ! ていうか、一回戦なんだから相手が一般の女の子でも倒して先に進もうとか思いなさいよっ。思ってくれれば……惰性で準決勝まで進むなんてこと、なかったのに!
 うぅ……当然のことながら、普通の女の子である私に武術の心得も、魔術の心得もない。心理戦もからっきし。人にはよく騙されるタイプだし、頭だってよくない。
 そんな私がどうやって明日戦うであろう筋肉隆々の男の人に勝てるの? え? 馬鹿なの? (私が)死ぬの?
 唯一の取り柄といえば、踊り……でも、戦うための踊りなんかじゃない。私は明日衆目に曝されるであろう自分の亡骸を思い浮かべた。   剣で切り裂かれているのか、はたまた槍で串刺しか、斧で真っ二つか……いや、潔く死ねたならまだいい。若しかすれば相手は変態さんで、私が死ぬまで嬲り続けるとか、果ては嫌がる私を尻目に男の人のを……!
「いや! それだけはいやっ。お、おかっ、犯されるなんて……け、けけけ汚らわしいっ」
 顔が真っ赤になる。考えてみれば、好きな人もいないのだし、そういうことに興味が無い訳ではない。だから想像してみて、一瞬……ほんの一瞬、いいかも、と思ったのは絶対、気の所為だ。
「と、兎に角……っ。明日に向けて、やれるだけ体を鍛えよう。――ほっ、やっ!」
 只で犯されるのはやっぱりいや。多分無駄だと知りながらも、格闘家の真似事をしてみる。

 コンコン
   ひぅっ!?」
 そんな時、唐突に入り口の方からノックが響く。私は驚いてしまい、体を硬直させる。首を曲げると、其処には刺激的な服装をした、褐色の肌の綺麗な女の人が壁に寄り添っていた。もうすでに人が部屋の中に入り込んでいることにも驚いた私は慌てて格闘家のポーズを止めておしとやかに振舞おうとする。女の人は微笑んだ。
「さっきから見ていたけど……貴方、独り言が多いのね」
「え、ええっと……あ、あの……ノックは……」
 ちゃんとノックをして入ってきたのかを確認したかった。
「ノック? ああ……今、したわ」
「………」
「それよりも貴方、今、面白い動きしてたわね。何? アマゾネスに伝わる特殊な意味のある踊りか何か?」
「!? いえ! なんでもありませんっ」
「そう」
 女の人はクスクスと笑う。私が何をしていたのか判っている様な気がする。顔が熱くなった。
「な、なんですかっ。此処、私の部屋なんですけど」
 そう尋ねると、女の人は目を鋭くして私に近寄ってくる。私は異様な空気を察して後ろに下がるが、スカートの丈に足を引っ掛けてしまいベッドに倒れこむ。
「きゃっ」
「……あら、大丈夫……?」
 すると、あろう事か見知らぬ女の人は、ベッドに仰向けに倒れこんだ私に覆いかぶさってきたのだ。私は怖くなって体を揺するが、この人、細い体に依らず、凄い力で私を組み敷く。
「あ……やぁ……な、何を……?」
「ふふ……貴方がずっと、明日の事で怯えていたから、ちょっとアドバイスしようと思ってね」
 女の人は口の端を持ち上げると、懐から何かピンク色の細長いものを取り出す。それは鶏の卵のような大きさだった。
「いや……! それ、なんですかぁっ!?」
「ん? ふふ……とってもイイモノ、よ」
 そう答えると、女の人は私のスカートの中に手を伸ばし、私の太ももを撫で上げながら下着に指を滑り込ませた。私は驚いて声を上げる。
「え!? ちょっと、何を……むぐっ」
「ん……(ちゅぱっ)」
 私の声をさえぎるように口を塞ぐ。私の頭が思考停止に陥っている間に、私の下着はだらしなく地面に落ちた……
「ん……んんっ」
「ちゅ……っ」
 チュク……ッ
「んんっ!?」
 女の人は遮る物がなくなった私の中心に指を沿わせる。薬を塗るように丹念に解し、中指と薬指で開いて弄ぶ。
 私、女の人にこんなこと……。屈辱に涙が浮かんでくる。終いにはその指が一本、私を刺し貫いた。初めての挿入感に全身が驚いて跳ね上がる。
「〜っ!!? ぷはぁっ」
「……あら、貴女初めてだったの?」
 唇が離れる。やっと訪れた開放に、はぁ、はぁ、と息が荒れる。処女膜を、触って確かめられてしまった私は顔から火が出る思いだった。
 しかしそんな私の気も知らずに女の人は言う。
   力を抜いて。でなきゃ、ちょっと辛いかも」
「はぁ、はぁ……な、何するの……?」
 今度の問いには答えてくれない。私は全身が熱くなるのを感じながら、抵抗する事を忘れていたことに気付く。
 だが、時はすでに遅かった。先程のように二本の指で広げられ、先端の尖った何かが、私の秘裂に宛がわれる。それが何だったのかを思い出し、私は刹那だけ恐怖した。
ズズッ   異物が挿入される感覚。頭の中に、そんな音が響いた。



――――――――――
 


 鳥の囀りが耳を啄ばむ。エルロイは、昨日の疲労が嘘のように体が軽い事に気付く。連れ込み宿のウォーターベッドから体を起こした時、チェルニーの姿は同じベッドの中にはなかった。無意識の内にその姿を探す。すると、部屋に備え付けられている浴室からごとごとと音がなり、扉が開く。
 出て来たのは、バスタオルに身を隠したチェルニーだった。濡れた髪を上に束ねながら、部屋の中に素足を浸す。湯で火照った体に吸い付くタオルを介して、彼女のスタイルのよさ、肌の美しさは目に付く。細く長いその足は鶴のような清廉さを覗かせていた。
「……む」
 チェルニーが視線を感じ、目を向けた先でエルロイと目が合う。所がエルロイの方が目を背けてしまう。
「あ……お、おはよっ」
「………」
 チェルニーはむすっとした表情でエルロイの前を通り過ぎる。エルロイが眉を顰める。だが椅子に腰掛けるチェルニーに対し、諦めずに声を掛ける。
「あ〜、そだ。風呂、良かったか?」
 するとギロリと睨まれる。
「入れば判る」
「………」
 チェルニーは早口に一言告げると、熱そうに自分の首筋を手で仰ぐ。視線はまるでエルロイを避けるように、何もない壁を向いていた。
(うぅ……昨日から会話が二言以上続かねぇ……)



――――――――――



 オオォォォ…ッ

 選手入場口通路の灰色の床を踏む。外では会場を揺るがす歓声が挙がっていた。エルロイはその響きを耳にしながらも、それよりも気になる溜息を背中に聞く。
「……はぁ」
 振り向くと、チェルニーは途端に顔を背ける。エルロイもこの気不味い空気に溜息を漏らした。
 そんな折、歓声に混じって乾いた足音が一つ聞こえてくる。エルロイが前方を向くと、其処には今から金持ちのパーティにでも赴くかのようにスーツを着込んだヴァーチャーが立っていた。そして目の前に立った時に、気さくに振舞いながらもエルロイに何かを突き出す。
   ちくわ食う?」
「要らんっ」
「美味しいのに」
 ヴァーチャーは自分でその、ぶにょぶにょした棒を一口齧る。エルロイはこの胡散臭い男に対し、充分に訝しい気分になりながらも、こう尋ねる。
「……で、お前はなんで此処に? 何か用か?」
 昨日の約束を忘れたのか、と言わんばかりに睨み上げる。ヴァーチャーはちくわを口に頬張りながら、惚けた表情で返す。
「今は解説席に座っているといっても、君等のセコンドを勤めていた訳やし。クビにされたからって、それから無関心ではいられんよ」
「……余計な御節介を」
 チェルニーがエルロイの後ろで吐き捨てるように言う。ヴァーチャーは苦笑いする。
「あはは。あの様子やと、彼女とは朝から口を利けてないな?」
「!? テメェ、また盗聴してやがったのか!」
 エルロイが目に角を立てるのと同じく、チェルニーが耳を立ててヴァーチャーを「どうなんだ?」と言わんばかりに睨む。ヴァーチャーは両手をあたふたと振って其れを否定した。
「そんな暇人じゃないわ。んなことぐらい、今のお前等の態度を見ていたら予想が付く」
「むむぅ」
 エルロイは引き下がるが、チェルニーは納得しない様子で、背を向ける。
「兎に角、俺は激励しに来ただけ。エルロイ達には色々と頑張ってもらわないと困るからさぁ」
「? なんだよ。俺達が頑張らなきゃ困る事って」
「ん。いや、何……こっちの話。   そんなことより見て、見て!」
 唐突に張り切った様子でヴァーチャーが服から取り出したのは、丁度ポケットに収まる大きさのカードだった。それをエルロイの前に掲げるヴァーチャー。
「あれから、サバトの宣伝してくれたお礼にって、特別会員にしてもらっちゃった! 『もうそれより小さい番号は埋まっちゃってるから、ゴメンね〜』って言われたけど、一桁番号“四番”をもらったぜー!!」
 見れば、可愛らしくピンクに彩られたカードには……
『マオルメ・サバト会員証 “私達のお兄ちゃん”番号00000004 ヴァーチャーお兄ちゃんv』
 と書かれていた。それを見た二人は只絶句するだけだった。
「………」
「なんや、そのピンと来ない顔は!サバトの特別お兄ちゃん指定なんて、早々されるもんじゃないんやぞ!? ……だが、俺の上にはまだ3、2、1……そして、幻の0ナンバーが存在する……っ!! ざわ……ざわ……っ!!」
「お前を遥かに凌駕する変態が、あと四人居るんですねわかります」
「ロリコンのお前なら羨ましいやろう! だがやらんぞっ」
「要らねぇよ、ボケッ!    散れっ!!」
「わー。幼女に足でされて喜んでたロリコンがキレたー」
 ヴァーチャーが声色を変えながら喚き立て、エルロイの前から散っていく。言いたい事だけ言って去ってしまったヴァーチャーに呆れ果てるエルロイは、話題を切り出すのに彼を利用する事にした。
「……彼奴、何しに来たんだ? お前だって、俺が本当にロリコンだとは思ってねぇだろ?」
「……!    
 ヴァーチャーが立ち去った途端、徐にチェルニーが弓矢を構える。弦を引く音が聞こえてエルロイが振り向くと、其処には丁度、眉間に矢が向いていたのだった。
 一瞬ポカンとしたエルロイは、途端に顔を青ざめて慌てる。
「え? お、おい! 馬鹿っ、何のつもりだっ。お、俺は本当にロリコンじゃねぇからなっ。た、確かに足でされて散々あれだったが、あ、あれはゼルの野郎の所為だからなっ。そもそも、例え俺がロリコンだろうと、生きる価値がないとか、そういう風に思ってもらっちゃ……!?」
「……姿を見せろ   っ」
 チェルニーが、エルロイの必死の言い訳など意にも介さずに周囲を一喝する。すると、通路の薄暗い影から、まるで影そのものが抜け出してきたかのように人型を模し始めたのだ。エルロイも事態を察し、言い訳を中断しては扇を持つ。
 やがて、二人の前に姿を現したのは、褐色の肌を持つ、刺激的なボンデージスーツを着込んだ女性だった。耳が人間の其れとは違い、鋭く尖っている。まるで禁欲者に対して誘惑を掛ける、意地の悪い娼婦のような瞳。だが誰よりも整った顔筋と褐色ながらに光沢のある肌に際しては、まるで貴婦人のそれであった。
   初めまして、エルロイ君」
 今から勉強でも教えるかと言った穏やかで、何処か媚び売った口調。エルロイは呆気に取られる。
「えっと、チェルニー。此奴もエルフか?」
 尖る耳と何処となく漂うチェルニーと似た雰囲気。エルロイはそう尋ねながら首を向けて、一瞬後悔の念が沸いた。彼女の目付きが、仲間に向けるそれとは明らかに違っていた。まるで、手酷い裏切りにあったことがあるかのように、憎悪の念が渦巻いている。
「こんな淫売が、我々と同種な筈がないだろう! 此奴はダークエルフだ! ……自ら魔王の魔力に傾倒し、サキュバスモドキになった……!」
 するとその紹介が気に入らなかったのか、ダークエルフは耳をピクリと持ち上げる。
「あら、ご挨拶ねぇ。私達は貴方達と違って、“正直に”女としての幸せを願っただけなのだけど」
「黙れっ。売女が私達に何の用だっ」
 猫のように毛を逆立たせて威嚇するチェルニー。一方ダークエルフは彼女の様子に少し呆れ気味で、改めてエルロイに向く。
「ええ。   忠告、しておこうと思って」
「忠告?」
 エルロイが耳を傾ける。チェルニーが殺意を視線に乗せて彼を睨むが、当の本人はそんなことは露とも知らない。只、ダークエルフの方だけがチェルニーの反応を愉しんで見ながら、唇のルージュを動かす。

「……今回のこの大会、何かきな臭いと思わない?」
「? きな臭いって」
 エルロイが食い付いたのを見ると、嬉しそうに目を細める。舌を見せないが、それは舌舐め擦りしているような印象を孕んでいた。
「私、夫探しによくこの大会に出場するの。だから知ってる。今回の大会には、何か、人の意思……みたいなのを感じられるのが」
「……夫探しなのに、何回も来るんだな」
「残念ながら、毎回いい男を仕留め損なっちゃってね」
 矛盾を粗探ししようとするチェルニーにもそう返し、逆に余裕のウィンクをしてみせるダークエルフ。続いて、エルロイに目を向ける。
「そういえば、貴方、書類選考で本選に来たんですってね」
 それを聞いたエルロイは、ばつ悪そうに俯く。
「そうだけどっ。あ、あの、別にそういうの目的で来た訳じゃねぇから……」
「……書類選考で本選行きなんて、聞いたこと無いわ」
「「え?」」
 エルロイとチェルニーは、声を合わせた。それに対して、ダークエルフは仕切りに首を傾げながら、拳に頬を乗せて語るには。
「貴方、失礼だけど……別に大したコネクション持ってそうなほど、徳も高そうにないわね。それなのに予選を介さずに本選なんて、何か特別な意思が動いていると思わない?」
「あっと……突然そんなこと言われてもな」
 エルロイはそう言葉を濁したが、頭の中では混乱していた。この大会についてエルロイ達が知りえた情報と言うのは、須らく一人の人物から得たもの。胡散臭いが、今一番エルロイ達にとって味方とも言える人物が教えてくれた   
「兎も角、周りをよく見てみなさい。貴方達を陥れようとしている人物が、きっと周りに居るんじゃないかしら」
「………」
 エルロイ達が思慮に伏す様子を見て、ダークエルフはくすっと笑って見せる。チェルニーは彼女の仕草の一々が気に入らないかのように表情を歪めて喚く。
「どうして私達にそんな話をするのだっ」
 すると彼女は指先を顎に添えて考える素振りを見せながら、躊躇もなくこう返す。
「んー……エルロイ君が気に入ったから? なんだか、お節介焼いてあげたくなっちゃうのよねぇ……」
「な   っ!?」
 チェルニーの表情が赤くなったり青くなったりと色を変えていく。彼女の葛藤や複雑な想いを其処から読み取ったらしいダークエルフは一瞬、とんでもなく面白いものを見つけたような表情をした。くすくすと笑って見せると、途端にエルロイの方を向く。
「若し今回貴方が勝ち抜けば、決勝でまた会えるかも知れないわね。その時はお手柔らかに宜しく♪」
 そういい残し、ピンヒールを鋭く地面に突き刺しながら立ち去っていく。唖然として見送るエルロイと、まだ猫のように毛を逆立たせて威嚇するチェルニー。彼女が突き当たりに姿を消すと、二人は顔を見合わせる。
「……エルロイ」
「ああ」
「どういう事だ? あの売女の言う事を信じる気はないが……」
「いや、言ってる事に矛盾はねぇ。そもそも、俺等がこの大会を知った切っ掛けだって、仕組まれたもんのような気がしてきたぜ」
「宿屋に置いてあった新聞? 確かに、あの時は気が利く宿屋だと思えたが…考えても見れば、業とらしい気も……」
 視線を落としてそう述べるチェルニー。エルロイは頭を掻く。
「どちらにせよ、俺等を嵌めようと画策する奴と言えば、一人だ」
「ああ。   ヴァーチャーだな」
「だけど、彼奴は俺等に有利に働いてくれてる。どう嵌めて、何をするってんだ?」
「さぁ、それは判らないな。他人に言われなくても、常に動きが怪しいからな、彼奴は」
 チェルニーの台詞に、エルロイはつい先程の遣り取りを思い出す。

『ちくわ食う?』

「……その点に関しては否定できねぇな……」
 目の前に差し出されていた“ちくわ”という得体の知れない物体。あれを口にしていたら、どうなっていたのだろうか?一瞬寒気がしたが、目の前ではチェルニーが思い出したかのように声を挙げる。
「! そういえば、今まで普通に呼んでいたから気付かなかったが……彼奴、何故エルロイの名前を知っていたのだ!?」
「ん? ……俺の名前がどうした?」
 ピンときていない様子のエルロイに、チェルニーは顔を赤くして怒鳴る。
   貴様が本名を明かしたのは……この、私だけだろうがっっ!!」
「あっ!!」
 驚嘆の声を挙げたエルロイの脳裏に、過去の情景がフラッシュバックする。

〜一回戦〜

   お?』
 観客席に座った途端、何処からともなく素っ頓狂な声が聞こえたかと思えば、俺の隣の席に座っていた男が声を掛けてきたのだった……
『おお? ……やっぱりや! エルロイ……やったっけ?』

―――――

「確かに、俺は“バルロイ”としか名乗った覚えがねぇ。しかもその後、『出場者リストで俺の名前を見たから、出場すると判っていた』……とかなんとか言ってた筈だ」
「嘘だな。奴はリストを見て知ったんじゃない」
「じゃあ、どうやって?」
「それは私達が考えても仕方ないことだろう」
 チェルニーが諦めたように溜息を吐く。それもそうだ、とエルロイも溜息を吐く。
「……兎に角! 奴をクビにしておいて正解だったな。流石、私だ。エルロイに集るハエは早々に追っ払う! その手際の良さ! 先見の明! ほ、褒めてもいいのだぞ?エルロイ」
 突然胸を張り、頭をちょこっと差し出すチェルニーに、エルロイは毎回の事ながらその自信の出所を疑るのだった。
「あーはいはい。凄いですねー」
「もっと気持ちを入れて褒めろっ、馬鹿者めっ」
 不機嫌な態度を取りつつも、先程から打って変わってエルロイの傍に立とうとするチェルニーに、思わずエルロイの顔も綻んだ。エルロイのその様子を見て、拗ねる様に唇を尖らせるチェルニー。
「……なんだ。ニヤニヤしよって」
「いや。やっとまともに口利いてくれたなぁ……と思って」
「!? い、いや……これはっ、別に、意識して利いた訳では……っ」
「よかった。これでも寂しかったんだぜ? 口利いてくれなくて、さ」
   っ!」
 ほんのりと赤みを帯びていた筈のチェルニーの顔が、一気にタコ以上に茹で上がる。その途端に足を振り上げ、勢いよくエルロイの股間を蹴り上げた。
「(カキーン)ぐおっほぉっ!!!」
 急所を押さえ、悶絶するエルロイ。股間から何か這い上がって、終いには口から吐き出すかと思える痛みに声も挙げられない。そんなエルロイを気にする風でもなく、背を向けて腕を組むチェルニーは、頬を染め、舌もたどたどしくこう言った。
「……わ、私だって、好きであんな態度を取っていた訳じゃ……只、あれからどう接していいのか判らなくて。   私」
「くぅ……全く、幸運の女神ってのは、ほんと、気難しいもんだな」
 エルロイが声を絞り出して言う。チェルニーは露骨に、彼の言葉に耳を動かした。振り向けば、エルロイは腰を屈めたまま立ち上がる所であった。
「俺が馬鹿やってたら、こうやって、いつもみたいに蹴りゃあいいだろ。それがお前らしいよ、畜生っ」
「………」
 暫く考える風を見せてから、一言。
   じゃあ、遠慮なく」
「!? ちょ……え!?」
 長い足を後ろに振り上げ、振り子を下ろすように、また……
「(ゴスッ)なぜぇぇっ!!?」
 今回は手でガードしたが、しなやかな足から放たれる蹴りは鞭の様に撓り、守るべきものの“裏側”を痛打した。エルロイは膝から崩れ落ちた。
「……ずっと私と口を利かなかった罰だ。これでチャラにしてやる」
「ぐおぉぉぉ……うらぐぁあがぁ……っ!!?」
「き、貴様が悪いんだぞっ。私が素っ気なかったからって……貴様が素っ気なく返す必要はなかったのだっ!べっ、別に……寂しいって言うんなら……その……言ってくれれば」
 口元に掌を寄せ、途端にもじもじし始める。一方そんなチェルニーの様子をなんとも思う様子も無く、エルロイは最後に言葉を一言残す。
「うぅ、最近こんな役回りばっか……」
 そうして、エルロイはがくっと力尽きた。



 オオォォォッ
 
 エルロイの登場と共に歓声が上がる。この瞬間だけ、エルロイは良い気分がしたが、結局、奴等が求めているのは自分の情け無い姿なのだという事を思い返し、沈んだ気分になる。ふと見ると、解説者席にはヴァーチャーが平然と座っているのが見えた。
「彼奴め。私とエルロイを謀っておきながら、白々しいものだな」
 背後でチェルニーがそう呟く。エルロイもそうなのかと思ったが、彼の目に、ヴァーチャーには何も疚しい点がないように見えた。只、演技なのかもしれない。だとしたら相当の曲者だという風にエルロイは考えた。 
 エルロイはヴァーチャーの営業スマイルに注意を配りながらも舞台に上がる。広い石畳の上を見回すと、一回戦からの度重なる恥辱が目に浮かんでくる。それを必死になって沈めてから、今回の相手を確認する。
「? (人間も此処まで勝ち進められるんだな)」
 相手は見たところ、人間の女性のように見えた。只、着ている物や顔付きからして何処かのお嬢様のような気品が漂っている。エルロイはふと、彼女を何処かで見掛けたような気がした。
「あれ……あの子、どっかで見たような」
「何っ。昔の女だとっ!?」
「深読みし過ぎだ、テメー!」

 エルロイの目の前で、少女はおどおどと緊張した様子を見せる。
「あ、あの! 宜しくお願い致します!」
「あ? ああ、宜しく」
 人間の少女相手に、一瞬「宜しく」というのはあっちの意味で宜しくやるのかと考えたエルロイは自分に嫌気が差す。無論、この大会は一応、武闘大会だ。あんな少女でも男や魔物を一撃で伸せる実力者だったりするんだろう。そう思い直すエルロイ。やっとまともな試合が出来ると望めた。
「エルロイ」
 そう声を掛けられて振り向く。するとチェルニーは何か言いたそうにするが、途端に取り止めて簡単に一言こう述べた。
   此処で応援している、からな……っ」
「おう。任せとけって!」
 エルロイは余計な言葉を省いたその一言で力が漲ってきたらしく、更に待ち望んでいたまともな試合を前に息巻く。緊張した様子のままの相手を前に、審判のルゼがマイクを無駄にいやらしい指遣いで掴む。
『いよいよやって参りました、準決勝! 残った四人の中で決勝に進むのは誰か!? その一人目がこの試合で判明致します!』
「おいこら、審判! マイクを扱くなっ。後、鼻血拭け、鼻血! なんでもうすでに鼻血出てんだよっ。まだ何もしてねぇよっ」
 エルロイの声にルゼは濡れそぼった瞳、荒げた息でこう答える。
『失礼しました。つい先程まで二回戦のVTRを個人的に編集しておりまして、ついつい……興奮してしまいまして』
「二回戦……スラリー戦か!?」
(個人的に編集って所は突っ込まないんやな……?)
『スラリー選手のもそうですが……他の選手の方もスゴクて。もう旦那様を見付けて自ら敗退してらっしゃいますが、アマゾネスのクァイト様の……あの、さも“見ろ”と謂わんばかりの……ふふ』
「もうこの審判やだ」
 エルロイが嘆く。ルゼは話しながらも顔を高潮させ、マイクへの責めの手を激しくさせる。会場に、マイクを手で擦る音が響く。
『お、思わず……審判にあるまじき行いを……審判兼実況として大切である筈のマイクで、私は体の火照りを……ああ、自分の大切な部分にっ』
「いや、何言っちゃってんの!? アンタのオ○ニーの話なんざ、今興味ねぇから!」
『エルロイ選手!』
 すると、今まで横で卑猥な行動に出ていた審判を止めずにいたヴァーチャーが、机を強く叩いて立ち上がり、マイクを片手に口を開いた。
   オ○ニーではない! マイクを使ったソロ活動と言えっ』
「歌手活動みたいに言うなっ。マイクの取り扱い方に問題ありまくりだろうがよっ」
『それは一種のマイクパフォーマンスです』
「あーもう! なんかマイクがすげー卑猥に聞こえるようになったじゃねぇかっ。どうしてくれんだよっ」
 舞台の上と実況解説席の間で交わされる会話。同じように舞台の上に立つ少女は、困惑した表情でエルロイ達に視線を行きかわせる。その表情は恥ずかしさからか、少し赤み掛かっていた。
「あ、あのぉ」
「……ほ、ほら! さっさと始めようぜ。このままじゃ日が暮れちまう」
 少女は高潮しており、どこかおどおどとし始めている。エルロイはそんな少女に保護欲を掻き立てられながらも、例え傷付けるとしても戦う覚悟は決めたつもりでいた。
 ルゼは鼻にティッシュを詰め込めこんでから、マイクに口元を近付けて言い放つ。
『では、参りましょう……準決勝、エルロイ=バルフォッフ対   ルピーニエ!!』

 ズルッ
 ……歓声が上がるかと思いきや、観客は皆押し黙った。目の前に対峙するエルロイも、自分の目を疑った。
 会場にその声が響いた瞬間、目の前の少女のスカートからピンク色の触手が沸き上ったのだ。先程までおどおどしていた筈の少女の表情が一気に紅潮し、息を荒げ、その口と触手からは粘液が垂れ堕ちて床を汚していた。
「はぁ、はぁ……んぁ……もう、我慢……無理……」
「……結局、こうなるのかよ」
 エルロイは笑うしかなかった。この大会では“そういう事”が切っても切り離せない事を悟ったのだ。寧ろさっきまでまともな試合になると本気で期待していた自分が馬鹿みたいに思えてきたのだった。
 だが予想に反して、実況席は慌しくなる。まるで、ルピーニエの正体に今さっき気付いたかのように、ルゼは言葉に戸惑いの色を見せる。
『えっ!? え、えーっと……ル、ルピーニエ選手はローパーです……ね。ロ、ローパーの場合、本番は反則負けになります。その点をご確認の上、試合を行ってください』
「え? ローパーのって、何処にあるの?」
 不穏な空気に気付かず、エルロイが審判にそう問い掛ける。ルゼはルピーニエの体を隅々まで見回した後、死んだ目をしてマイクを握る。
『……え〜、と。な、なんと、今大会で男性が準決勝まで進めたのはかなり久し振りということで、珍しい事態が起こっている事に驚きを隠せません!』
「おい、こら。誤魔化すな」

 目を細めてルゼを睨むエルロイ。だが途端にヴァーチャーの落ち着いた声が響き渡る。
『エルロイ選手。もう試合は始まっていますよ』
「あ   
 気付けばエルロイの体にはもうピンク色の触手が絡み付き、粘液を纏わり付かせていたのだった。ぼさっとしている所為で捕まってしまったエルロイに、チェルニーは歯痒さを隠せない。壇上の下から目を角にして、この不甲斐無い恋人に喚き立てる。
「おいっ、何をやっているのだ! ぼさっとするなっ」
「ワリィ!」
 エルロイは鉄扇でルピーニエの触手を払うが、その腕まで絡みとられ、試合開始十秒と持たずに絶望的な状況に追い込まれてしまった。思わずヴァーチャーがポツリと漏らす。
『……早ぇよ』
「……俺もそう思う」
 縛りつけられ、ローパーの粘液状の体に埋もれるエルロイ。手早くズボンのホックを外され、逸物を曝け出される。最早、観客達にとって、毎度御馴染みのものだ。
 ルピーニエはエルロイの体に涎を垂らしながら、その上に触手でのた打ち回る。彼女の催淫性のある粘液の前にエルロイは直ぐに直立不動となる筈……だったのだが、彼の息子が元気になる兆候は見られない。ルピーニエも「おかしいな?」という表情をしながらも、エルロイの肉棒に力が入るよう、丹念に触手を絡める。だがエルロイのものは柔らかいままである。ルピーニエは首を傾げるばかりだった。
「???」
『……エルロイ選手のマイクの電源がオフになったままですね。どうしたんでしょうか』
 実況のルゼが鼻にティッシュを詰め替える作業をしながら呟く。隣ではヴァーチャーも怪訝な顔をしていた。
『今まで絞られすぎて、子種を作る限界を超えたのかもしれませんね。後、マイクのネタ止めてくれます? 俺も口元にマイク突き付けられている立場なので、若干吐き気がしてきました』
『(マイクの話はさて置いて)それは男として終わりって事でしょうか?』
『いや、健全な男子がたかが三日連続で抜かれまくったぐらいで、終わる訳がありません。とすると、それに加えて考えられるのは』
 ヴァーチャーは徐にハンカチを手にとって、目元を押さえる演技をする。
   おいたわしや……恋人に冷たくされて、勃たなくなるほどショックだったんですね……よよよ……』
「なっ」
『会場の皆様方。バルフォッフ選手のことを自分の事のように思うのでしたら、どうかご冥福をお祈り下さい。   黙祷』
 ヴァーチャーの掛け声で、会場がしんと静まり返る。胸に手を当て、目を閉じ、頭を下げる……
「勝手に殺すなぁっ!!」
『わー、イ○ポ野郎がキレたー』
「〜〜〜っ!!」
 何か言い返したい様子のエルロイだったが、ローパーの愛撫は今なお続いている。だが相変わらずローパーの攻めではエルロイの息子は活力を見せなかった。チェルニーはずっと眉を顰めて見ていたが、やがてはっと気付いた。
「……! (そうかっ、さっき散々蹴り上げたから!)」
 恐らく、一時的に器官の回復に努めようと、機能を停止させているに違いない。そう考えたチェルニーは、不思議な因果に思わず笑ってしまう。そんな様子に気付かぬまま、エルロイは隙を見付けて触手を振り払う。
「あ」
 間抜けな声を上げるルピーニエ。獲物は自らの手を離れて、距離を置いてしまった。
「エルロイ! その調子だ!」
「おうよ!」
 チェルニーの声援にエルロイも声を合わせる。今までの試合とは全く違って、二人の息はぴったりだった。
 ルゼは二人を見て、目を丸くする。ヴァーチャーも頭を掻いて、鋭い瞳を二人に向けていた。
『……不仲って訳ではないようですね』
『寧ろ、仲が好くなっています』
『じゃあ、何故エルロイ選手は勃たないのでしょうか?』
『薬でも使ったんでしょうか。何れにせよ、今回はルピーニエ選手が不利に追い込まれていますね。これはこれで面白い状況ではないでしょうか』
 実況と解説の話を聞いて、チェルニーは「よし!」と思った。自分の行動が、結果的にエルロイに良好に働いたのが、堪らなく嬉しくて、つい腕を曲げてしまった。舞台の上にいるエルロイは、鉄扇を閉じて構えて、まるで今にも踊りだそうかという雰囲気を醸し出していた。
「あふぅ……私って、魅力……ありませんか……?」
 自分の触手で自分の胸を弄って挑発するルピーニエ。だがエルロイはそれを見てもいまいち欲情することは無かった。
「いや、魅力はあるぜ? でも俺のお姫様に適わないってだけさ」
「……う、五月蝿いぞっ、馬鹿者! そんなこと、態々こんなところで言うなっ」
 露骨に頬を染めるチェルニー。ルピーニエは眉を下げ、触手の一本を口に頬張る。自分の触手を何かに見立てて舌を這わせ、粘液を惜しげもなく垂らす。それから自分の服を取り込んで、代わりに少女の健康的な体を表に現す。……其処にぼとぼとと、口から溢れる粘液をみっともなく零すのだった。
「ん……これでも、ダメ……?」
「うっ。だ、駄目だ! 大人しく降参しやがれっ。女の子を傷付ける気はねぇんだからよ」
 扇を差し向けて言うエルロイに、ルピーニエは拗ねたな表情をみせる。
「困ったな……早く、欲しいのに……ちゅぱっ」
『……早く?』
 ヴァーチャーの表情が険しくなる。ルゼもそのヴァーチャーの様子に気付き、一旦拡声器のスイッチを切って、内輪で話を始める。
「ヴァーチャーさん。ルピーニエ選手は……相当癒着率が高いようですが?」
「潤沢な栄養状態にあるローパーは人間生活に支障がないほど知能を得る場合があります。それも、ローパーである自分をきちんと愛してくれて、いつでも栄養をくれるような、大切な恋人がいる……」
 ヴァーチャーはどこか陰のある口調で語る。
「ですが、彼氏なしのローパーにそんな知能があるという例はほぼ特殊な環境下においてのみです。見たところ、ルピーニエ選手はほぼ人間の理性が飛んだ飢餓状態にあるようです。正確にはついさっき、試合開始とともに我慢の限界を迎えた時からでしょうが、タイミングも余りに作為的ですね」
「しかし、知能があるのに飢餓ローパーとはどういうことでしょうか」
「簡単な話ですよ。彼女はローパーに成り立てなんでしょう」
「ですが、相当癒着が進んでいますが?」
「癒着促進剤」
「えっ?」
 ヴァーチャーは会場に座るある人物を見付け、そっと目を背ける。……その人物   褐色の肌を持つダークエルフは濡れた唇を引き上げていた。
 一方、エルロイはルピーニエを前に考えあぐねていた。彼女の周囲を蠢く数多の触手は、まるでエルロイの接近を誘うように、白々しく隙を見せている。あれに捕まらずにルピーニエを攻撃する手段を考えていたのだ。
「難しいな」
 そう呟くエルロイ。確かに難しいことだ。触手は数えるのが面倒なほど展開されている。それをすべて把握し、捌き切るには余程の反応とセンスが必要だ。……だがそれよりも、エルロイにはそんな、博打に出るような度胸が備わっていなかったのだった。
 そんなエルロイの後ろでは、チェルニーが今までの試合とは打って変わって穏やかな表情でその後姿を見詰めていた。そしてこう言葉を掛ける。
「エルロイ、そう気負うな」
「え?」
「無理に、勝とうと思わなくていいんだからな? 貴様が怪我なんてしたら……その」
 不意に視線を逸らすチェルニー。エルロイは笑い掛けながら彼女に振り返って、首を振った。
「いいや。ぜってー優勝する」
 このとき、エルロイの頭上にはある誓いが掲げられていた。この大会に優勝し、チェルニーに“証明”しなければならない。其の為には、“負けてもいい”なんて考えたくはない。例えどんな無茶をしようとも、男に生まれたならば   
「貴様、其処まで……」
 エルロイの並々ならぬ決意を前に、チェルニーもその意を汲んだように頷いた。
   其処まで、優勝賞金が欲しいのか」
「えっ? あ、ああ」
「よし! ならば私も多くは言わんっ。貴様の力を存分に見せ付けてやれっ」
「……ああ」
 エルロイは泣きたい気分になったのだった。

 そんな様子を見詰めていたヴァーチャーは悪魔と結託したかのようにニヤリと笑んで見せると、拡声器のスイッチを静かに点けた。
   エルロイ選手が勃たないのはさておいて、ルピーニエ選手は彼を勃たせるにはどうすればいいかを考えたほうがいいですよねぇ。例えばぁ……』
 そう呟くヴァーチャーの言葉に、ルピーニエが耳を立てる。エルロイ達は目を丸くして、彼を見た。
『男は死にそうになると、本能的に子種を残そうとするそうです。もしかすれば、エルロイ選手が死にそうな目に遭えば……或いは、と言えるんじゃないでしょうか』
「ヴァーチャー! 貴様っ」
 チェルニーは、今しがたヴァーチャーが呟いた言葉の意味が直ぐに判った。   ルピーニエがエルロイを襲うように嗾けたという事が。
 怒りに打ち震えたチェルニーが解説者席に歩み寄りながら弓矢を番える。だが、その矛先がヴァーチャーに向けられた瞬間、ルゼが拡声器に声を入れる。
『審判、および大会運営に関わるスタッフに対する攻撃は、大会に対する妨害行為となり、反則負けどころか、マイテミシア国家主導の裁判にかけられますよ、チェルニー様。……法のない国の裁判です。まともな裁きは期待しない方がいいですよ』
「くっ。下種共がっ」
 チェルニーが矢を下げる。これ以上、自分が暴走してエルロイに迷惑がかかるのは避けたい。そういう想いがよぎったのだ。
「エルロイ! 気をつけろ!」
「ああっ」
 エルロイは言われるまでもなく更に距離を置いていた。だがルピーニエはヴァーチャーの助言を聞いてから、とても嬉しそうに触手を動かしているのだった。……うねうねと。
「ああ……そっか……そうすればいいんだぁ……」
「いっ!?」
    ズガァンッ
 次の瞬間、エルロイを襲ったのは岩盤だった。ルピーニエが、今まで無作為に動かしていた触手を舞台に鋭く突き刺し、畳を剥ぎ飛ばしてきたのだ。エルロイは瞬時に躱すが、岩盤は会場の壁に激しく突き刺さった。振り返ってそれをみたエルロイは、一気に血の気を引かせる。
「な、なんつー力……っ!    くそ、加減が判んねぇのかっ」
「ヴァーチャー、どういうつもりだ!」
 チェルニーが今にも殺してやると言わんばかりの殺気を醸し出しながら詰め寄る。だがヴァーチャーはそ知らぬ顔でこう答えた。
「俺は解説者ですよ。何を勘違いしているか知りませんが、ね」
「勘違いなど、していない!」
 凛としてそう言って見せた後、チェルニーは相手の弱みを握っているといわんばかりに胸を張ってこう喚く。
「貴様が私達を利用して何かを企んでいることぐらい気付かないとでも思ったのか! ははん、私達を舐めてもらっては困るな!」
 すると、長い間を持ってからヴァーチャーは目を点にする。
「…………は?」
「貴様、エルロイの名前を知っていただろう!? 名乗ってもいないのに! それが何よりの証拠だ!」
「いや、それは……」
 ヴァーチャーが何か弁解しようと口を開くが、チェルニーはそれを遮って喚き立てる。
「どちらでもいい! 兎に角、貴様の思い通りにはならんからなっ」
「……あの、話を聞いて」
 その時、観客席から声が漏れる。チェルニーが舞台を見る。エルロイはルピーニエの触手の前に、舞台の端まで追い詰められていたのだった。
「えへへ……」
(あの触手に捕まれば一環の終わりか。   かといって、負ける訳にはいかねぇっ!!)
「エルロイ! もう賞金はいいっ。舞台から降りて、棄権しろ!」
 チェルニーが不安そうな表情をして叫ぶが、それにエルロイは首を振った。
「……自分からじゃあ棄権扱いになる。罰金取られるじゃねぇか」
「それでもいいではないかっ。……その時は私がなんとしても返すから……だからお願いだ! 棄権してくれ!」
 エルロイは顔を顰める。自分にかかった火の粉を、自分で払えもしない。……チェルニーの為に、価値のある男になりたくて、この大会に参加することを決めたのだ。例え引き下がれなかったからとしても、多分それは同じ事だった。なのに、今のこの様は、それとは程遠い。
    自分に課せられた代償を、好きな人に払わせる訳にいかない。だがその気持ちは、チェルニーにもあったのだ。
「必要なら体だって売ってもいいっ。だから、お願いだから無茶しないでくれ……っ」
「馬鹿がっ」
 エルロイは言った。
「お前ホント馬鹿なっ!」
「なっ……なんだ、一体! 二度も言うとは只事ではないぞっ」
「お前は俺の女だ! 俺の女神だ! 他の誰のものでもねぇ、俺の! ……これでも、お前のことは幸せにしてやりてぇと思ってんだよっ。だから、勝手に不幸になろうとすんじゃねぇ!」
「………」
「こんな奴、俺の本気でどうにでもなる! 見てろ!」
 そう寶かに宣言してから、エルロイは鉄扇を構えてルピーニエに特攻を仕掛けた。体をひねり、触手を掻い潜って、ルピーニエの間合いに入り込んで見せたのだ。思わずチェルニーも目を見張る。鋭く舞い狂う一閃は、ルピーニエの体を吹き飛ばす……筈だった。
 だが、誰の予想にも反して、彼の鉄扇はルピーニエの眼前でピタリと動きを止めた。
(女の子を殴るのは……くそっ)
 躊躇。エルロイは躊躇した。今までの試合の中で、幾度となく彼を非力にさせたもの。それは優しさに似た弱さそのものであった。
 後は簡単だった。自ら間合いに入ってきて動きを止めたその獲物は触手の餌食となる。細く白い体はピンク色の触手に絡みとられ、軽々と宙を舞い、地面に叩き付けられた。エルロイは背中を強く打ち、痛みに苦悶の表情を浮かべる。若しかして、背骨が折れたのではないかとも思った。
「……い、てぇ……」
「エルロイ!    なぁ、ヴァーチャー! 棄権させてくれっ。あのままではエルロイが!」
 チェルニーは今までの試合とは違う涙を流し始めた。今回は失いそうなものが桁違いだ。だから、この言葉は今までとは比じゃないぐらい悲痛な叫びであった。
 だがヴァーチャーは淡々とこう言い放つ。
「ルール上、出場者自らが戦い抜くと決めた場合、セコンドがいくら棄権すると言い張っても無効になるんです」
「う、嘘だ! そんなルール……あってたまるかっ!!」
「あるんですよ。“絶対決闘”って言いましてね。この大会に参加する以上は、命が無くなる覚悟を持ってことに臨む……。この時、セコンドが出場者を信頼出来ず、思わずタオルを投げるなんてことは無粋だってことなんです」
「し、信頼……」
 チェルニーが怖気づく。そりゃあ、エルロイを信頼していない訳ではない。だが、だからといって、彼のピンチに指を咥えて見ていられるほどクールに振舞える訳がない。だが此処で棄権を申し込むことは彼への信頼が薄いという事になってしまうのではないか?    ジレンマに苛まれる。
「それに、この大会にはルピーニエ選手みたいにセコンドを連れていない出場者もいる。ていうか寧ろ何故かそっちの方が多い。此処でセコンドに余り権限を持たせると、セコンドを置かない出場者達に対して不利益が生じる。そういう公平さも相成って“セコンドを命綱にしない”というルールは成立するんです」
「り、理屈は知らんっ。だが……だが!」
 その時、歓声が巻き起こった。舞台の上に視線が誘導される。其処で目にしたのは、触手に首を絡められてもがくエルロイの姿だった。
   あがっ」
「エ、エルロイ……っ?」
 あたふたと舞台に近付くチェルニー。だが、今壇上に登ってしまえば反則負けになるだろう。……“反則負け”。その言葉がよぎると、先ほどのエルロイの言葉が頭に響く。
   これでもお前のことは幸せにしてやりてぇと思ってんだよっ。だから、勝手に不幸になろうとすんじゃねぇ!』
 幸せにしてもらいたい。不幸にはなれない。幸せに。不幸になるな……
「わ、私……どうしたら……?」
 最悪のジレンマだ。チェルニーはそう嘆きながら、深い渦に飲み込まれて、その場にへたり込む。
    エルロイ無しの幸せなどあり得ない。だが、今舞台に登って反則負けにしてしまえば、自分は愛しい人と二度と会えないかもしれない。挙句、その人とは違う汚らわしい人間に……! それは嫌だ! けれど、どっちも嫌だ! ……どっちも嫌? じゃあ、どっちを選べばいい? どっちを?
 混乱するチェルニーを尻目にエルロイへの責め苦は続く。暫く首を絞めても陰茎に血が廻らないのを見てルピーニエは首を傾げた。
「? おっきくならない……」
 ルピーニエは暫く考えた後、ピンときたように微笑んだ。
「あ、そっかぁ……まだ、緩いんだね   
「! ……っ!!?」
 ぎりぎりと、首の骨が軋む。エルロイは更にきつく締め挙げられる首筋に顔を真っ赤にした。頭に血が滞る。思考が破裂しそうだ、とエルロイはもがき苦しむ。
『ヴァーチャーさん、これは拙いのではっ?』
 ルゼが叫ぶ。会場にもどよめきが奔った。だがヴァーチャーは一人、冷めた表情で舞台の上を眺めていた。
『何が?』
『飢餓状態のルピーニエ選手は、最早栄養を得るのに手段を選んでいません! このままでは、エルロイ選手を殺して   
「……それが?」
 拡声器のスイッチが切られ、興味の欠片もない声が響く。
「彼が死ねば、その程度の男だったってだけでしょう。彼が死ねば、彼女はその程度の男を愛したってだけでしょう。彼が死ねば、その程度の男が死んで、その程度の男を愛した女が悲しむというだけの話でしょう。……いいではないですか。それも娯楽です。観客の同情を引き、それとは逆に、他人の不幸を蜜として提供もできる」
「……それが、貴方の意見ですか」
 ルゼが軽蔑の瞳を向ける。今まで試合を私的に運営していた審判とは思えぬ、鋭い瞳だった。だがヴァーチャーは鼻で笑ってみせる。
「娯楽なんてものは、どれだけ狂っているかで価値が決まるんです。狂気の沙汰ほど面白いとは、そういうもの。ルゼさんだって色欲のままに狂い、この享楽に身を委ねていたではありませんか」
 ルゼは口を噤む。だがやがてヴァーチャーは別人のように表情を朗らかにさせると、声も明るくこう話す。
「……とか言ってみましたが、実際は彼と約束してるんですよ。それを彼が果たせるかどうかで、彼の価値も決まる。果たせなければ、今言ったとおりの事になる。それだけです」
「約束……なんの、ですか?」
「ちょっとした、男の約束です。   だから俺は、誰よりも残酷に振舞う……と、謂う事だけ」
 ヴァーチャーは口元に指を置いて微笑む。だがそれは嗜虐的に光を放ち、ルゼをぞっとさせる。彼の背に揺らめく魔力に、魔物と違った色が浮かぶ。俺の愉しみを邪魔するな。さもなくば   
 ……この大会を、私的に運用している人物が変わった瞬間だった。

「エルロイ、エルロイッ! どうしたら良いんだ??? 私は……私   !?」
 すっかりと狼狽しきってしまっている様子のチェルニーは、壇上に手を掛けて   これは反則に当たらない   エルロイに問いかける。眉を寄せて、必死に問いかける様子はそれだけの想いの強さを物語っているが、エルロイは触手によって首を絞められ、彼女に答えることは適わなかった。
「おっきくなーれ、おっきくなーれ……♪」
「(ギリギリ……)   っ!!」
 ルピーニエの鼻歌が残酷に響く。エルロイに跨り、上から押さえつけるように触手は絡みつく。もがこうとも手足が絡み取られてしまっていた。気道を塞がれたエルロイが持つ時間は後一分もないだろう。チェルニーは渦を巻く頭の中の、唯一冷静な部分でそう計算した。
「エルロイ……」
 やがてチェルニーが視線を向けたのは、解説席だった。再びヴァーチャーの傍に駆け寄るチェルニー。ヴァーチャーは彼女を一瞥もせずに、嫌悪の表情を示した。
「……何度来たって、ルールは覆りませんよ」
「判っている!」
 チェルニーはそう叫ぶと、一瞬躊躇をみせながらもヴァーチャーの顔を掴む。
「……は?」
 行き成り顔を掴まれたヴァーチャーは困惑の声を漏らす。続いて真意を問いただそうかと口を開くのを遮って、チェルニーはヴァーチャーに強引に唇を   

ズキュゥゥゥン

「っ!!?」
「や、やったッ!」
「流石エルフだッ! 俺たちには出来ないことを平然とやってのけるっ。そこにしびれるあこがれるぅッ!!」
 観客がそう喚き立てる中、眉を顰めながらチェルニーが口を離す。対して強引に唇を奪われたヴァーチャーは放心状態だった。
   どうだっ。貴様みたいな童貞野郎のことだ! 貴様の企み……その目的は私だろう! さぁ、貴様みたいな負け犬に、キスぐらいはしてやったのだ。エルロイを早く解放しろ!」
 会場が静まり返る。
「…………は?」
「いや、『は?』じゃない! 目的を達したなら、早くエルロイを!」
「……色々と言いたい事はあるが……まず、はっきりさせておきたい事が一つだけある」
 ヴァーチャーは口を拭う。
   俺は童貞じゃNEEEEE」
「!? なん……だと……っ?」
 驚嘆の眼差しをヴァーチャーに向けるチェルニー。だが直ぐに目を鋭くさせる。
「嘘を吐けっ。見るからに童貞ではないか、貴様は!」
「見るからに!? 見るからにってどゆこと!? 見た目で童貞か判る訳!? 処女に言われたくないんだけどなッ!?」
「……え? 本当に……違うのか?」
「そのリアルな驚き様はなんやっ。本気でそう思ってたのか!? 女子のそういう感覚、ホント理解出来ないっ」
 そう気が狂ったように喚きたてるヴァーチャー。ルゼは彼が狼狽しているのを見て、横から口を挟む。
「いや、確かに経験の有無は男の子として大切な事なのかもしれませんが! ……それよりも、チェルニーさん。貴方、何か勘違いされているようですが?」
「何だと?」
 冷静に聞く耳を持つようになったチェルニーはルゼに向く。ルゼはヴァーチャーの様子に気不味そうにしながらも、彼に手を差してチェルニーに説明する。
「彼   ヴァーチャーさんは列記とした、今大会の運営委員の一人なんですよ?」
「? それはどういうことだ」
 チェルニーは首を傾げてみせるが、エルロイの心配を露わにする。舞台の上では、エルロイはぐったりとしていた。目を静かに閉じ、息をしている様子はない。元々白い肌だったのが、今は青くチアノーゼが浮かんでいる。チェルニーは思わず彼に呼びかけた。
「! エ、エルロイ……!?」
「……あれぇ?動かなくなっちゃった……」
 ルピーニエが虚ろな表情で呟く。チェルニーはぼんやりと、エルロイを見詰めるだけだった。
    ところが、事態は一変する。

   !」
 途端にエルロイの目が剥かれたかと思うと、彼は両腕を縛る触手を千切るかのように振りほどき、ルピーニエの腰を掴んだ。観客が驚きの声をあげる前でエルロイはルピーニエを、その細い腕の何処に隠していたのか、力尽くで持ち上げたのだ。
 オオォォォッ
 逞しいアピール。触手をくねらせて戸惑うルピーニエの体を水平に掲げる。エルロイは鬼気迫る表情で彼女を壇上の隅   実況解説席の前に立つ。
『……おお! エルロイ選手、なんとあの状況からルピーニエ選手を持ち上げましたっ』
 ルゼがマイクのスイッチを入れて実況を開始する。その声には熱が籠っていた。
 チェルニーはエルロイが舞台の上に立っているのを見て思わず腰が抜けてしまう。地面にへたり込んで、奇跡に出会った後のように、興奮に息を荒げる。不安に怯えていた胸を撫で下ろすが、心臓の鼓動は早いままだった。
「むむぅ……お〜ろ〜し〜て〜」
 不機嫌に暴れるルピーニエを掲げたエルロイは無理をしている様子もなく、目に角をたててヴァーチャーを見下ろす。ヴァーチャーは静かにそれを見返していた。
「……ヴァーチャー。今、俺の見間違いじゃなきゃぁ……チェルニーと、何か俺が見るとスゲェ不愉快になるような事、してなかったか?」
 エルロイは静かにそう尋ねる。顔は先程と違って笑顔だが、それは詐欺師の尻尾を掴んだ時のような表情にも思える。少なくとも、ヴァーチャーにとってはそう見えた。
「いやっ。あのー、ですね。あれは俺からではなく、チェルニーさんが勝手に、ですね」
「エルロイ、私は気付いたぞっ。奴は私の、このエルフの無垢な体が欲しくて、私達を嵌めようとしていたんだっ。きっとそうに違いない。ていうか童貞の此奴なら他にありえないっ」
「だから童貞じゃNEEEEE」
 チェルニーの進言を聞いたエルロイは、気の利いた冗談を耳にしたかのように笑い出す。そして、ヴァーチャーに瞳を落とす。……その途端、ぬらりとそれは光った。
   往生せぇやっ!!」
「え? 何するの……キャァ!?」
「あわわわわ!? うわふっ」
 ベチャリ、と水の音をマイクが捉える。それに混じって悲鳴が二つ響いた。エルロイの言葉の後、宙を寶かに舞う羽目になったルピーニエが実況解説席にダイブしたのだ。ルゼは咄嗟に身を引いたが、ヴァーチャーは両腕を振り回しているだけで回避出来ず、結果ローパーの体を全身で受け止める事となる。……互いに打ち所が悪かったらしく、二人仲良く地面に寝そべる次第となった。
 エルロイは腕に限らず粘液だらけの体を嘆きながらも、威風堂々と審判ルゼに言い放つ。
「あ〜あ、体中べっちゃべちゃだぜぇ。……所で“場外”もありだよな?審判」
『……あ、はい。(え? これで終わり? 今回も期待してたのに)   ちっ』
「今、舌打ちしなかったか?」
『気の所為でしょう。え〜、ルピーニエ選手は場外に投げ出されましたので、この勝負……エルロイ=バルフォッフ選手の勝利! よってバルロイ選手は決勝戦進出ですっ。おめでとうございます!』
 オオォォォッ
 エルロイの勝利に会場は大いに湧き上がる。そんな舞台で主人公をしている当の本人はイマイチ実感が湧かないようで、観客を見渡して苦笑いしながら頬を掻くだけだった。
 チェルニーは、そんなエルロイにぼそりと声を送る。
「……やったな、エルロイ」
 それは歓声に打ち消されたようで、エルロイはチェルニーに振り返らず舞台の上で手を振る。チェルニーは少し寂しい気持ちになったが、彼が静かに「ああ」と、返事をしたことには気付かなかった。



(ふぅん。来ちゃうんだ)
 熱狂の渦の中、一人観客に紛れる女の姿。彼女は審判の宣言を聞いて、口の端を持ち上げる。
(また一匹、私のペットが増えちゃうわ。ホント、困っちゃう)
 頭ではそう考える。だがその目は歓喜に打ち震えるかのような輝きに満ち溢れ、舞台の上に立つ英雄気取りの男をまっすぐに捉えていたのだった。
「……愉しい決勝になりそっ」
 そう言い残して立ち去る女。午後の試合、エルロイの相手を決める準決勝戦で勝ち進んむ事になる   ダークエルフの姿が、其処にあった。










    決勝戦に続く

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【メモ-アイテム】
“サバト会員証”

サバト公認のお兄ちゃんに渡される感じの証明書。誰のお兄ちゃんなのか記入する欄も設けられている。番号は小さいほど価値が高く、一桁番号は貴重。幻のゼロナンバーというものもある。今回ヴァーチャーが4番をもらって素直に喜んでいた。

これがあればサバト主催のあらゆるイベント、特に黒ミサなどの集まりに参加が可能になる。また、大陸の何処かにあるという魔女たちが集う会員制のクラブでは、魔女たちと楽しく話し合ったり触れ合ったり挿れ合ったりする事が出来る。
但しピュアな紳士しか入店出来ない。

「当店ではお触手の方、セルフサービスとなっております(キリッ」

09/12/25 23:59 Vutur

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