連載小説
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被験体003 毒物名[LUST]
 人気のない森の中を歩く一人の男がいた。
 身の丈は160〜170くらいで、髪は少しボサついている。そしてその細身の体には似つかわしくない荷物を背負っていた。
 布で覆われたその荷物は彼がすっぽりと隠れてしまうほど大きい。
 旅人でも訪れることのないこの森に、彼は荷物以外何も持って来ていない様子だ。ナイフも剣も持っていないのは一目瞭然、盗賊なら万々歳で標的にするだろう。

「あ〜ら、こんな所に丸腰で来るなんて、どこの平和ボケ野郎なのかしら?」
「!」
 彼が声のした方を見上げると、木の上に一人の女性が立っている。淫靡な恰好をした彼女は、黒い肌、銀色の髪の毛、尖った耳などの特徴がある。
「まぁ私に見つかって運が良かったわね。いえ、悪かったのかしら?」
 彼女は微笑を浮かべてそう言うと、木から飛び降りて彼に近づいた。
「動かない事ね、でなければあなたの体が傷だらけよ」
 彼女は手に持った鞭を振るい、地を叩いた。辺りに破裂音が響く。
「さぁ、邪魔な荷物を置いて」
 彼は彼女に言われたとおり、荷物を下ろした。

「ウッフフフ…いい子ね。私好きよ、そういう素直な子…」
 彼女は彼の胸の中央当たりを人差し指で押し、彼を背後の木に追いつめた。
 彼女の身長とほぼ同じくらいの彼の顎を指で持ち、「ウフフ」と笑った。
「ここには何しに来たのかしらぁ?もしかして私に捕まりに来たのかしら…」
「いいや、違う…」
 彼が始めて言葉を発した。
「あら、じゃあ何しに?」
「…キスしたら教えてやるよ」
「あら、人間の分際で私にそんな生意気なこと言うのねぇ。…いいわよ、どの道そのつもりだったもの…」

 彼女は彼の唇を奪った。舌を入れて口内を舐め回した。クチュグチュと音を立てながら長いキスをして唇を離した。

「さぁ、教えてもらうわよ…」
「ケケケ、魔物を捕まえに来たのさ…」
 彼はニヤッと笑って言った。
 彼女は一転した彼の雰囲気に驚き、思わず退いた。
「何を言っ…へ…いふ…!?」
(し、舌が回らな…)
 彼女は自分の体がおかしい事に気づいた。だがそれはもう十分に遅すぎた。
 彼女の体は徐々に動くことが出来なくなり、同時に意識が遠のいていった。

 男は荷物の掛かっていた布の一番上の結び目を解いた。
 布の中から鉄製の櫃(ひつ)が姿を見せた。上蓋を取り、ダークエルフの彼女をその中に入れて再び蓋をし布で覆った。
「ダークエルフか…まぁいいだろう、ヒッヒ…」





「うぅ…ん…?」
(ここは…?)
 彼女が目を覚ました時には、手足を箱のような椅子に固定され、来ていた服も取り払われていた。
「なんだ、やっと目を覚ましたのかァ…?」
 暗い部屋の中で、その机の回りだけがランプのおかげで明るく照らされていた。その机に向かって立っているのはあの男だ。

「おい、ここはどこだッ!?何をしたッ!?」
 彼女はそう怒鳴った。
「まぁ落ち着け。ここは俺の自宅の地下の研究室だ。俺はお前を眠らせて連れてきたのだヨ」
「眠らせて…?魔術でも使ったっていうの…?」
「違うヨ。毒を使った」
「毒?いつそんな物を盛った?!」

 彼女は記憶を辿ったが、何もやられた覚えはない。
「ヒヒヒ…お前は自分からその毒を舐めに来た」
「私から?」
「まだ分からないのかネ?俺が毒を仕込んでいたのはココだヨ、ココ」
 彼はそう言って自分の口を指さした。
「ま、まさか…それじゃあんただって―」
「確かに…だがナ、俺の使う毒は全て俺の遺伝子を用いている。つまり、俺の作った毒は俺の体に影響を及ぼすように作らなければ、ほぼ無効なんだヨ」
「何ですって…」
「それにネ、俺の作った毒は全て俺の体内に蓄積され、俺の意思によって使いたい毒が、涙腺、汗腺、唾液腺など…好きな所から分泌されるのだヨ」
 彼女は目の前の男が何ものなのか激しく気になった。と、同時に人間とはとても思えなかった。

「それでぇ…私に何の用なのかしら?」
「お前には今から俺の作った毒の実験台になってもらう…」
「実験台…」
 彼女の顔に汗が一筋流れた。
「そうだヨ…まぁ安心しろ、死ぬようなことはないヨ」
「そう、けど私責められるより責める方が好きなのよね」
「だろうネ。だがそれは無理だナ。今お前を固定している椅子と金具は理論上ヴァンパイアでもミノタウロスでも壊せない。まぁ多少融通が利くように稼働するようにしてあるがナ」
 確かに動かそうと思えば全方位に多少動く。彼女はそれを確認するように手足を動かしたが、全くはずれる気配もない。もし彼の言っているとおりヴァンパイアでもミノタウロスでも壊せないとなれば、ダークエルフの力などでは到底歯が立たないだろう。
「くッ…」

 彼女は彼をキッと睨んだ。だが彼はそんなことには構いもせずに椅子に座って「あ、そうだ」と言った。
「お前の名前を教えてもらわないとナ」
「名前だと…?」
「そうだ。でなければ貴様で実験した記録のタイトルにはただ『ダークエルフ』と書かなければならず、大変つまらない」
「…人に名を訊く時はまず自分から名乗るものよ」
「そうか?」
 彼はそう言って一瞬考える素振りを見せて、こう言った。
「そうだな。俺の名前は…そう…ヴェノム、でいいか」

「でいいか、とはどういう事だ…? 実験台に本名を教えることなど無いと言うことかしら?」
 彼女は少し怒りながら言った。
 だが彼はあっけらかんとした顔で、
「いや、本名なんて忘れた。俺の人生で本当の名前を覚えているか忘れているか、他が知っているか知らないかなんぞ大した問題じゃないネ。なぜなら名前とは個を特定するためのものダ、他が俺と特定できれば問題は無い。無論、俺が俺を特定するのに本名など必要ない」
 と言った。
「さぁ、被験体003番。君の名前を教えてくれたまえヨ」
「私はセオナよ」
「そうか、セオナだネ。えぇと、被験体003、個人名セオナ…と」
 彼は呟きながら卓上の紙にペンで記入した。


 ヴェノムは立ち上がると、自分を睨み続けるセオナに近づき、腰…というよりも足の股関節当たりから背筋を伸ばしたまま体を折り曲げ、顔と顔を近づけた。
「さて、そろそろ毒を飲んでもらおうと思うのだがネ?」
「だれが『はい、そうですか』なんて飲むものよ…ペッ…」
 セオナはそう言ってヴェノムの顔面目掛けて唾を掛けた。
「………そうか…それでは経口では無理かぁ。ハァ…」
 ヴェノムはそう言って椅子に座った。彼は少し落ち込んだ様子で、セオナは(毒は口移しに限るのか?)と思った。
「出来れば経口の方が“楽”なんだけどネェ…仕方ない」
「何をするつもりよ…腕かどこかに針でも刺すの…?」
「ん?そっちが良いのか?…まぁ残念だが違うナ」
 ヴェノムはそう言うと机の上のボタンを押した。すると椅子が分娩台の形に変形し、ヴェノムに向けてセオナはまたを広げる恰好になった。
「な、何をッ?!」
 セオナは椅子が動いたのと強制的にさせられた恰好に戸惑いを隠せずにいた。
「ハァ…このやり方だと直接的すぎて効力が強く出過ぎるのだが…まぁ仕方ないだろう」
 ヴェノムはそう言ってセオナの足の間にしゃがみ、口を銀色の陰毛の生えた陰部に近づけ舌で舐め上げた。
「あッ…」

 ヴェノムはまず舌で割れ目をなぞり、舌先を割れ目の奥に押し当てて上から下に動かし、膣洞に舌を入れた。
「あッ…はぁッ…ふあァッ」
「…ぷはぁ!」
 ヴェノムは口を離すと、立ち上がりながら口の回りの粘液と唾液を拭った。
「はぁ…はぁ…なにを…」
「何をって、毒を塗ったに決まってるだろ?まぁ塗ったつっても表皮の毛穴やなにかしらからもう体内に入ってるけどナ。結果的には全身に回る」
「…何の毒を入れたのよ?」
「さぁナ。理論的には…あと……15分前後で効果が出始めるはずだ」
 ヴェノムはそう言って懐中時計を見ると、椅子に座り机の上のスイッチを再び押して椅子を元の形に戻した。そして、机の上から伸びた数本の管をセオナの頭部、胸部に貼り付けた。頭部には帽子の様になっている管の繋がったものを被せて固定している。


 15分後―

「ふぅん…」
 ヴェノムは机の上に立てられたガラスに浮かび上がる絵を見ながら思慮深い声を漏らした。
(…あの机の上の絵は何かしら…動いたり色も変わってる、それにあの右端のは私が動くのと同じように動く…魔術かしら…)
 セオナには…いや、この時代の全ての人間はこれが何なのか分からないだろう。これは数百年後にモニターと呼ばれている物だ、まぁ読者の皆様方はご存じでしょう?

(まぁアレがなんなのかは今はいいわ…問題なのは…)
「…ねぇ」
「ん?」
「…この毒はなんなの?」
「なんなの?とはまた…もうだいたい当たりは付いてるだろ?」
 ヴェノムは少しニヤついてそう言った。
「さぁ…まだ何の効果もないけど…?」
 セオナは何事もないようにそう言ったが、
「嘘はよせ、もう効果は出ているはずだ」
とヴェノムは一蹴した。
「…そうかしら?」
「そうとも。今の君の状態は一目瞭然だ。脈拍、体温が上がっている。それに脳のこの部分とこの部分が活動している。それは君がある程度のストレスを感じ、なおかつ興奮状態にあることを示している」
「な、何を…」
 と戸惑うフリ、いや、実際に驚きはした。自分の状態を示唆したからだ。
 セオナは先ほどから自分の体に火照りを感じ、同時に敏感な部分に疼きを関していた。もう自分で分かるほどに下半身は粘液で濡れていた。
 彼の言った通り、この毒の正体には薄々感づいて…いや、ほぼ確信していた。これは間違いなく媚薬だ。

「はぁ…ハァ…」
 呼吸が荒くなり始めた。顔も既に赤い。
「ふん」
 ヴェノムは彼女に近づき、管を取り外した。
「もう必要ない、効果は目に見えて現れたからナ。あとはお前の反応を見るだけで研究になる」
「…な…何を見るって言うのかしら?」
「ん?まず、効果が出るまでの時間だ。それは予想通り15分前後で出ることが分かった。次に持続時間、理論的には3時間以上は持つはずだ。あとは副作用も見ねぇとナ」
「そ、そう…時間が掛かるのね…」
「当たり前だっ!実験や研究に掛かる時間から見れば人生など一瞬だ」
 ヴェノムはそう言って椅子に座り直した。


 投与から30分後―

「ね、ねぇ…ヴェノム…」
「ん?」
「私と…イイことしない…?」
「ん、今やっている」
「うぅ…もぅ…!」
 セオナは先ほどから数度この問いかけをしている。だが全て同じ答えであしらわれていた。
 彼女は先ほどにも増して息を荒くし、時折体を捩らせていた。性欲が高まり収拾がつかなくなりつつあるが、実際まだまだ欲求は高まる。
「下僕の分際でこんな事をしてっ…憶えてなさいよっ!」
「ああ、まぁ記録に残っているから忘れることはないだろう」
「このっ…」
 セオナはヴェノムを睨みつけた。


 投与から1時間後―

「はぁっ…はぁっ…」
 セオナの呼吸は強く荒くなっている。まるで何かを求めるように身を乗り出し、背筋は仰け反っている。手足は蠢き、いかにも苦しそうだ。
「…ねぇッ…」
 セオナはヴェノムを見つめて口を開いた。
「…ねぇッ!…もういいでしょっ!何とかしてよッ!もうこれ外してよッ!」
「それは無理だ。それじゃ実験にならネェ」
「はぁッ…はぁッ…疼いて堪らないのよッ…!」
「そうか、それは結構だナ。効果は上々のようだし…俺は昼食にでもすることにしよう。映像も声も録ってあるからナ」
 ヴェノムはそう言って椅子から立ち上がり、部屋から出ていった。
「ねぇッ!ねぇッッ!待ちなさいよッッ!」
 ヴェノムの目的は薬もとい毒の研究であって、彼女の様を楽しむことではないのだ。
 セオナはこの誰もいない研究室で椅子に拘束されたまま、最低でもあと2時間は苦しみ喘ぎ続けることになるのだ。


 投与から2時間後―

「ねえッッッ― 触ってッッ―!! どこでもいぃからッ―! お願いッッッ―イかせてッッッ―!!」
 セオナは少し前にヴェノムが戻ってきた時にはこの状態だった。「触って」「イかせて」を連呼し続けている。
 顔は涙で濡れ、涎を流している。唾を飲む余裕はもう無いのだろう。
 めいっぱい身を乗り出して、乾きを見たそうとする。だが絶対にその欲が満たされることは無い。

「もうガマンできないッッッ―!おかしくなっちゃうッッ!死んじゃううッッッ!」
「まぁ死ぬことはないだろうが、気が狂う可能性はあるナ…まぁそれはそれで効力が証明されたと言うことダ」
「ぃやぁあぁぁ―」
 ヴェノムは微笑しながらそう言った。セオナにはそれがこの上なく冷酷に見えた。




 結局セオナはその後投与されてから3時間17分後まで半狂乱で与えられない快感を求め、拘束されながらにのたうち回った。
 まるでバケツをひっくり返したほどの量の愛液で椅子はもちろん尻も腿もグチョグチョ、辺りの床には涙とも涎とも付かない液体が飛び散り、ランプの光で淡く光っていた。
「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ…」
「ふ〜ん…全く効果が無くなるまではもうしばらく掛かるか…まぁ理論に間違いはなかったようだ。あとは『どのような副作用があるか』だが…」
 ヴェノムはそう言って椅子から立ち、セオナの回りをゆっくり歩きながら質問を始めた。
「さて…ものは聞こえているか?」
「ええ………あんたのむかつく声が聞こえるわ…」
「少し遠くなったとかもないナ?」
「…ないわ」
「目は?」
「見えるわよ…あんたの見たくもない顔が…」
「そうか。他に何か異変は?」
「…ないわ」
 とセオナが答えると、ヴェノムは嬉しそうに頷いた。

「それはよかった。俺の理論はまたしても正しかったようダ。とすれば、お前はこのあと激しい尿意に襲われることになりそうだナ」

「ナッ!?」
 またしても知らされた知らされていなかった情報、セオナは絶句した。
「副作用は高い利尿作用、それが俺の製作段階の見解ダ」 
「ふ、ふざけるなッ!ならとっとと枷をはずせッ!」
「心配はない、排水機能は椅子に付いている」
「そんなことを言ってるんじゃないッ!トイレでさせろと言ってるんだッッ!」
「とか言って枷を外した瞬間、俺に飛びかかってこないとも限らないしナ?」
「うッ…」
 図星だった。
 枷を外された瞬間、この目の前のクソ虫野郎を押し倒して椅子に拘束し、たっぶりなぶってやろうと考えていた。

 しかしそれはヴェノムが枷を外せばの話。自分がこのままでは本末転倒だ。
 それにすでにセオナはその『副作用』を感じていた。膀胱にはもう八分目まで溜まっている。
「まぁどうせ外すがな…お前をいつまでもココに縛って置くわけにもいかん。だが、麻痺毒と睡眠毒を投与し動きを封じる。その時点で括約筋の力は抜けるが…」
「なぁ…この…」
 と、次の瞬間ヴェノムは手でセオナの、外見でも多少ふくれているのが分かる下腹部をゆっくり押した。
「くぁッ―!? やめろッッ!」
「とりあえず始めに主従…いや、力の上下関係を分かっていてもらう方が面倒も減るからナ」
「なっ…やめっ…ヤメッ―!」

 タンクから強制的に押し出されつつある中身はゆっくりとホースを広げ、外に出ようとする。そしてとうとう、その液体は勢いよく流れ始めた。
「あぁあぁぁっ―」
「お前はここに来た瞬間から俺の毒のモルモット…抵抗するならしてもかまわんがナ。被験体003『セオナ』」
 近づいていたヴェノムの顔を涙を浮かべながら睨んでいたセオナに、ヴェノムは突然キスをした。否、毒を投与した。
「んぐっ―?!」
 すぐに体の感覚は薄れ、同時に意識も薄れていった。

 ヴェノムは枷を外し、セオナを担いだ。そして実験室をあとにした。
11/03/09 12:40更新 / アバロンU世
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■作者メッセージ
Sな子を調教するの、俺大好き♪
だってSだもの。

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