読切小説
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元花屋とアルラウネ
 目の前で繰り広げられている状況に付いていけず、俺は冷静に自分の現状を思い返していた。
 どうしてこうなってしまったのか。一つ一つ、順番に。


 俺は教団寄りの国で、花屋をやっていたんだ。
 ところがその母国が魔物寄りの国と戦争をすると言い始め、財産は国に取られ、身体も兵士として徴兵された。
 いきなり放り込まれた戦場から、命からがら逃げ出して、必死になって逃げ惑ううちに気付けば見知らぬ森の奥に迷い込んでいた。
 食料も飲み水も尽き果て、生きる事をあきらめかけた時、俺は迷子になっていたハニービーと出会ったんだ。
 名前はアピス。子供っぽいが素直ないい子で、俺が腹が減っていると分かると気前よく食料を分けてくれた。自分の分だって少ないと言うのに。
 まぁきっちりと代価は取られてしまったが。しかし、代価と言っても金銭的にでは無く、身体を求められた事には驚いた。どうやら魔物というものは食ったり殺すために人を襲うのではなく、性的にまぐわおうとして襲うようになったらしいのだ。
 ……まぁ、襲われる事になった原因は飯だけでなく俺にもあったのだが。
 ともかく俺は気絶するまで搾り取られ、目が覚めた時にはここに、アピスの友達だというアルラウネの住む森のさらに奥深くまで運び込まれていて。
「ねぇアネモネ。私と一緒にお兄さんのハーレムを作ろう!」
「ハーレムですか! 素晴らしいです。でも、私なんかが一緒でもいいんですか?」
 そして今に至る。
 だから俺が今鬱蒼と茂る森の奥深くに居て、目の前に二匹の魔物が居たとしても何もおかしい点は無いのだが……。
 ……いや、やっぱりおかしいよ。


 二匹の魔物は俺の方をちらちら見ながら、こそこそと耳打ちして相談まがいの事をしていた。本人達は隠しているつもりのようなのだが、残念ながら会話の内容は筒抜けだった。
「当たり前だよ。だってホントだったら、私が来なければ森の中に迷い込んだお兄さんはアネモネ一人のものだったんだから。だから、その、遠慮しなきゃいけないのは私の方なんだけどさ」
「何言うんですか。アピスが魅力的だったからこそ、あの方はここまで付いて来られたんでしょう?」
「付いて来てくれたっていうか、私が無理矢理連れて来たっていうか……。でも、お花の事大好きだって言ってたよ。アネモネの事だってすぐ気に入ると思う」
「そんな、私なんて……」
 大きな花の中に立つ植物の魔物アルラウネと、蜂の触覚や翅を持つ蜜蜂の魔物ハニービー。頬を赤らめるアルラウネのアネモネの周りを、はやし立てるようにハニービーのアピスが飛び回る。
「それに、お兄さんあれ、すっごくいいんだよ。私一人には勿体ないくらい。だから、ね、一緒にハーレム作ろう!」
 こちらに舐めるような視線を向けてくる二匹の魔物達。ちょっと背筋がぞくっとする。
 分かっている。別に取って喰うつもりじゃ無いんだってのは分かっているんだが。
「でもアピス。あなたは群れに帰らなくていいんですか? 捕まえた男性は、女王の夫候補になるのでは?」
「……迷子になっても誰も探しに来てくれないし、群れも引越し中でどこに行ったか分からないの。だから多分もう帰れない……。
 でもいいんだ! お兄さんとアネモネが居れば、寂しくない」
 本当に、どうしてこうなってしまったんだろう。俺は毎日真面目に花屋の仕事をしていただけなのに。何事も無ければ今だって花の世話をして、慎ましいながらも穏やかで幸せな日々を送っていたはずなのに。
 それなのにいきなり店も花も、財産の全てを国に取られて、兵士として召集されて、戦場に送られて。
 隙を見て命からがら逃げ込んだ森で、今度は魔物のハニービーに連れ去られて。仲間の魔物の元に運ばれて。
 落ち着いて考えればもう絶望しか残されていない。俺にはもう自由など残されていないのだ。花の世話をすることも出来ないし、普通に嫁さんを貰って家庭を築くことも出来ない。俺に残されているのは魔物に精を搾られ続けるだけの人生しかない。
 拒んでも嫌がっても、人間としての尊厳も無視されて力ずくで犯されながら、ただ精を与える為だけに生かされ続ける。考えるだけでも空恐ろしい……はずなのだが。
「ね。二人でお兄さんの子をいっぱい産んで、家族みんなで仲良く暮らそうよ。お兄さんだって、お嫁さんや子どもがいっぱいいたらきっと幸せだよ」
 にこにこと無邪気に笑いながら、細い手足を大きく振って訴えるアピス。
 そう、こいつは素直でいい奴なのだ。元気で、天真爛漫で、ちょっぴりと言うよりは結構えっちで。顔に少し幼さは残っているけれど、大きくなればきっと今以上の美人になるに違いない。
 魔物だけど、人間とあまり変わらないような可愛い女の子が俺のハーレムを作るんだとはしゃいでいる。
 この状況は恐ろしい事だろうか。逃げ出すべき状況なのだろうか。むしろ俺は喜んで受け入れたくなってしまっていた。
 あるいはこれは夢なのかもしれない。
 もしこれが夢なら、魔物と戦争した事も全財産である店を失ったことも全て無かった事になる。
「でもやっぱりアピスに悪い気がして」
「遠慮なんてしなくていいよ。そんな事言ってたらずっと旦那さん出来ないよ? 私も遠慮しない。お互い遠慮しないって事で、ね?」
 いつもと同じベッドの上で目覚めて、俺は何と思うだろうか。これは良い夢だろうか、それとも悪い夢だろうか。
 丹精込めて育てた花も、親から継いだ店も全て奪われた。
 でも、魔物とは言え素直で可愛い女の子が自分のハーレムを作ろうと頑張っている。
 誰も居ない一人の部屋で目が覚めて、その時アピスもアネモネも居なかったら、俺は……。
「本当に、いいんですか?」
「もちろんだよ! えへへ、これで決まりね。じゃあ私は森の中で住みやすそうなところを探してくるから、アネモネはお兄さんと仲良くなる事」
 アネモネの元から、アピスが俺に向かって飛んでくる。
 これが夢だとしたら、この笑顔も全部消えてしまう。それは嫌だ。
 アピスの両手が俺の肩を優しく掴み、そして急に顔が近づいて来て、柔らかくて湿った唇を押し付けられる。
 それから軽く俺を抱きしめた後、アピスは俺の身体から離れた。
 我に返って見上げた時には、既にアピスの姿は空中にあった。
「じゃあ、私達が新しく住む場所を探してくるね。私が戻ってくるまでに二人は仲良くなってるんだよ?」
「そんな事言ってると、寝取っちゃいますよ?」
「ふふ、そしたらまた取り返すもん!」
 え、ちょっと待ってくれ。一体何の事を話しているんだ?
 戸惑う俺を残し、アピスは手を振って高度を上げていく。
 やがてその後ろ姿が小さくなり、木々の間に消えてしまう。しばらくは羽音も聞こえていたが、やがてそれも分からなくなってしまった。
 
 
 二人のおしゃべりが終わり、アピスの羽音さえも消えてしまうと、もう周りからは動物の足音も、鳥の鳴き声も、虫の羽音さえも聞こえてこなかった。
 耳が痛くなるほどの静寂。しかし、風も届かない森の奥の世界では、こちらこそが正常なのかもしれない。肌にじっとりと湿気た空気がまとわりつく。息を吸うと、木の匂いが胸いっぱいに広がってむせ返りそうになった。
 見渡しても目に入るのは同じような形をした針葉樹のこげ茶色の木の幹と、深緑色の樹葉くらいしかない。空を見上げようにも木々の葉が生い茂り過ぎていて、今が晴れているのか、曇っているのかすら判然としない。
 人界からかけ離れた、森という名の異界。人の目には少し不気味に見えるが、いかにも魔物が棲んでいそうな場所だ。
 アネモネは、ここにひっそりと一人で佇んでいた。
 俺は改めてその姿を見上げる。
 堅い土の上に生えたまるまるとした花梗。鮮やかな暖色の大きな花弁。その大きな花の中に立つ、神秘的な美しさを滲ませる一人の女性。
 薄緑色の肌を隠すのは、絡み付いたいく筋もの蔦と、そこから茂った葉だけだった。
 身体のそこかしこにつぼみや小さな花が咲いていて、特にエメラルドグリーンの艶やかな長い髪には、思わず造花と見紛う程に均整のとれた美しい花が咲いていた。
 それはあまりに妖しく美しく、まさに魔物と言ったたたずまいでもあったのだが、その姿は同時にひどく寂しげにも見えた。
 魔物の仲間もおらず、誰の目も届かない森の奥に一人立つその姿は、季節外れに一輪だけ狂い咲いた花のようでもあった。
「あの。こういう時は初めまして、でいいんでしょうか。私はアルラウネのアネモネ、と言います」
 透き通った柔らかい声にはっとして我に返る。
 目と目が合うと彼女、アネモネは俯いてしまった。
「あ、ああ。すまない、考え事をしていた。そうだよな、まずは自己紹介からだよな」
 俺は謝りつつ、名を名乗る。平凡でどこにでもある名前だ。だが考えてみれば、もう俺には名前など必要ないのかもしれない。
 多分もう人間の世界になど戻らないのだから。
「素敵なお名前ですね。ところで、いきなり変な事を聞くようですがもしかして庭師か庭園の管理などされていましたか?」
「いや、花屋ならやっていたけど。どうして?」
「そうだったのですか、どうりで見ている場所が違うはずです。でも、あなたは確かにお花屋さんって感じがしますね」
 アネモネは口元に手を当てて、楽しそうに笑った。
 そんなに花屋に見えるのだろうか。確かに大人しそうな顔だとか人の良さそうな顔だとか言われる事は多かったが。
 いや、それよりも見ている場所が違うとはどういう意味なのだろうか。
 気付かぬうちに怪訝な顔をしていたんだろう。俺が思い悩んでいるさまが可笑しかったのか、アネモネは俺の顔を見てくすくすと笑った。だが、馬鹿にされているという感じはしなかった。
 目が合って、また笑う。アネモネの笑いは、心の底から嬉しくて楽しくて仕方が無くて、思わず笑顔がこぼれてしまったといった感じで、見ているだけでこっちの毒気も抜かれるようだった。
「ごめんなさい。こんなに真面目に考えてくれるとは思わなくって、おかしくなっちゃって」
「降参だ。俺が見たものの何がおかしいのか、そろそろ教えてくれよ」
 アネモネは胸を張る。
 俺はなんだか良く分からず、首を傾げた。
 するとなぜだかアネモネは頬を膨らませて、ぷいと顔を反らしてしまった。
「確かに私は魔物ですけど、女の子の姿をしてるんですよ? 胸だって、お尻だって、それなりにあるつもりです。それなのに、あなたはそんなところなんて一切見ずに、花や植物のところばっかり見ていました」
 胸やお尻、女性的な部分。言われて俺は思わず嘗め回すような視線を向けてしまう。
 確かにアネモネの身体はこれ以上ないくらいに魅力的な曲線を描いていた。すっきりした顎筋、華奢な肩から伸びるすらりとした腕。片手では収まらないくらいに豊かな乳房。上を向いたその頂も、葉の陰からわずかだが見えている。
 いや、見事なのは上半身だけでは無い。痩せすぎず適度にふっくらしたお腹、緩やかなくびれのラインと、肉付きのいいお尻。そこから伸びる、細すぎず、太くも無い腿。
 俺は自分が何をしているのに気が付いて、ようやく目を逸らした。
「ご、ごめん」
 すると再び、くすくすという笑いが聞こえた。
「うふふ。どうぞ、もっと見てください」
「いや、でも」
「これが私のありのままの姿なんですから、目を逸らされるのはちょっと悲しいです。それに、顔を見てくれなかったら、お話だってしづらいです」
 確かに顔を見ないで話し続けるのも相手には失礼だ。
 顔を上げると、じっとこちらを見つめて居たアネモネの瞳と視線がぶつかった。アネモネは俺に向かって微笑み、俺の頬にそっと手を伸ばす。
「もっと、そばに来てください」
 俺は言われるままアネモネの根元に歩み寄り、彼女が座るのに合わせて腰を下ろした。
「アネモネさん」
「呼び捨てで呼んでください」
「アネモネ」
「何ですか?」
「ちょっと顔、近すぎないか?」
 そばに来いと言われ、確かに近づいたのは俺の意思でだったが、アネモネはそんな俺に向かってぐいっと体を乗り出して、息も触れそうな程に顔を寄せているのだ。
「仲良くなるには、距離を縮めるのがいいって通りすがりのバフォメットさんが言ってました」
「でも、あんまり近すぎても緊張してしまうよ」
「そうですか。分かりました」
 アネモネは残念がりながらも身を引いてくれた。
 大きな花弁に腕を載せて、こちらをじっと見つめてくる。やはりまだ近い気がするが、これ以上離れろと言うのも彼女が悲しみそうで気が引けた。
「あの。お花屋さんは、やっぱりお花の事が好きなんですか?」
「まぁね。見ているだけでも綺麗でいいけど、種から育てて花が咲いた時なんか、何とも言えない嬉しい気持ちになるよ。触っているだけでも気分が落ち着いたりね」
「本当に大好きなんですね。何かきっかけとか、あったんですか?」
 アネモネは微笑みを絶やさず、質問を重ねてくる。
 多分、誰かと話が出来ること自体が楽しいんだろう。こんなところで一人で居たら、誰かに会えただけでも嬉しくなってしまってもおかしくない。
「父親も花屋をやっていたんだよ。花が好きなのも父さんのおかげさ。花屋をやっていたのも、後を継いでの事なんだ。
 父さんは本当に凄い人だった。植物を愛していて、植物からも愛されていた。しおれかかった花や傷んだ植物も、父さんの手に掛かればすぐに元気になるんだ。俺にとって、父さんは間違いなく特別で、世界で一番凄いと思える人だった。まぁ、あまり弁が立つ方でも無かったから、商売の方はあまり得意じゃなかったみたいだけどね」
 あぁ、懐かしいなぁ。
「そんな父さんを見ながら、母さんはいつも俺にこう言ったものさ。父さんみたいになっちゃ駄目だ、もっと頭のいい人になりなさいって」
「ご両親、仲良く無かったんですか?」
「いや。母さんは美人で、よく母さん目当てで店に来る客も居たけど、ずっと父さん一筋だったみたいだよ」
「羨ましいです。今もお元気でいらっしゃるんですか」
 俺は一度言葉を区切り、何と答えたものかと困ってしまった。だが、どんな風に答えたところで現実が変わるわけでも無い事に気が付き、飾らぬままの言葉で答える事にした。
「父さんは亡くなったんだ。前の、人間同士の戦争でね」
 アネモネは息を飲み、視線を下に向けた。
「何年も前の事だから、もう自分の中では吹っ切れてる。
 母さんは生きてるよ。今は別の人と再婚して、仲良くやってるみたい。あぁ、再婚したって言っても、俺が無理矢理させたようなもんでさ、父さんが死んでから沈んだままの母さんに、ずっと良くしてくれていた人が居たから。
 悲しんでいるより、幸せに生きている方が父さんも喜ぶだろうしね」
「あの、私……。ごめんなさい」
 さっきまでの元気はどこへやら。アネモネはうな垂れて肩を落としてしまった。
 落ち込ませるつもりは無かったのだが、しかしやはりもっと言葉を選ぶべきだったのかもしれない。
「アネモネが謝る事は何も無いじゃないか。むしろ俺の方こそ、君に嫌な思いをさせてしまった。もっと言い方を考えれば良かったんだ」
「いえ、私いつもこうなんです。すぐ夢中になって、相手の事も考えず……。さっきもアピスさんにご迷惑をかけたばかりだったのに」
 胸の前で両手を握りしめて、アネモネは硬い表情で告げる。
「俺は全然気にしてないよ。だからそんなに落ち込まないで。花は俯いているより、元気に顔を上げていた方が綺麗だよ?」
 俺はアネモネの肩を叩く。我ながら少し気取り過ぎたかとも思ったが、アネモネが顔を上げて笑顔を取り戻してくれたので良しとしよう。
「今度はアネモネの事を教えてくれよ。どうしてこんな森の奥に居たのか」
「実はあまりよく分からないんです」
「分からない?」
 アネモネは困ったような笑みを浮かべる。
「ええ。私の最初の記憶は、森の中で誰かが戦っている光景です。
 今ほど魔物と人間が仲良く無く、魔物と人間の戦いも激しかった頃、この森は戦場になっていたようでした。
 木は切られ、焼かれ、花は踏み潰され、土は血によって汚されました。
 私はそんな争い合う者達から、森を汚す人間からも魔物からもこの森を守りたかった。美しいこの森を。そして気が付いた時には私はアルラウネになっていました。植物を操って侵入者を遠ざけ、誰も森に入れないようにしていたんです。
 ですが、アルラウネになる前の私が何だったのか、そこまでは良く覚えていません。植物を愛する一人の人間だった気もしますし、植物として生きていた気もしますし、森そのものだったような気もします」
 森、そのもの、か。
 今や笑顔も消え、真剣な口調で告げるアネモネの横顔は確かに森の精と呼ぶにふさわしい程の幽玄な美しさを湛えていた。
 見つめる俺の視線に気づき、アネモネははっと顔を上げて取り繕うように両手を振った。
「ご、ごめんなさい。おかしな話をしてしまって」
「いや、別におかしくは無いけど、でもどうして俺やアピスはこの森の中に入れたんだ?」
「誰も来ることが無くなっていたので、もうむやみに入ってきた方を攻撃することも止めていたんです。
 魔王様が代替わりされてから戦争も減りましたし、私も……」
 アネモネは急に赤くなって口元に手を当てて口ごもる。
 その姿は恥じらう少女そのものなのだが、彼女の話が本当なのだとしたら、俺なんかよりもずっと年上なのだという事になる。何しろ旧魔王時代から森を守り続けてきたというのだから。
 しかし考えてみれば、それは同時に彼女がそのころから今までずっと孤独に生き続けてきたという事も意味しているのだ。その心中を思うと、俺は何と言えばいいのか分からなくなってしまった。


 二人とも口をつぐんでしまうと、急に自分の心臓の音が強く聞こえ始めた。別に緊張しているわけでは無いのだが、お互いの息遣いが聞こえるくらいに他の物音がしないのだ。
 静か過ぎて、心音さえも相手に聞こえてしまいそうだった。
「そ、そうだ。お花屋さんだったんですよね。私の身体、おかしいところが無いか診てみてくれませんか」
 アネモネは地面から生えている大きな花の花弁を揺らしながら、俺を見上げてくる。
 確かに彼女は植物型の魔物。その身体には、性的な意味とは別の意味でも興味はある。
「分かった。ちょっと様子を見させてもらおうか」
 地面から生えたどっしりした花梗。まるまるとしていて一見栄養も足りていそうだが、水分の取り過ぎか少し柔らかすぎる気がする。
 花びらを指でつまんでみる。こちらも同じような感じ。恐らく環境が良ければもっと大きく、張りのあるものになっているはずだ。
 そこらを這いまわっている蔦も、多少の萎れが見受けられる。
「ど、どうですか」
「あまり、良くないな。ここは湿気が多いから、水分の方は足りているのかもしれないが、土は硬くてあまり良くない。雑草も多いから栄養も奪われてしまっているようだ。それに」
 俺は上方を見上げる。木々の葉に覆い隠されて日の光も届かない、緑の天井。
「光が足りない」
 振り向くと、瞳一杯に涙を溜めたアネモネと目が合った。口をぱくぱくさせ、身をわなわなと震わせて、今にも大きな声で泣きだしてしまいそうだ。
「大丈夫。今のままでも君は十分綺麗だけど、もっと綺麗になれる。それだけの事だよ。アピスが戻ってきたら、もっと太陽の光が当たる風通しのいい場所に移動しよう。動けないのなら、俺が背負ってでも連れてくよ」
 俺は微笑みかけながらアネモネの肩を叩いた。
 アネモネは涙を両手で拭い取りながら、にっこりと、まさに花が咲いたかのような晴れやかな笑顔で答えてくれた。
「良かった。このまま枯れてしわくちゃになっちゃうのかと思いましたよぉ」
「大丈夫。俺が責任を持つよ」
「ありがとうございます。うふふ、でもまだ終わりじゃないですよ?」
 アネモネは胸に手を当てた。
「こっちの身体もちゃあんと見てください」
「いや、俺は医者では無いし」
 艶のある笑みを向けられ、俺はようやく彼女の意図に気が付いた。
「構いません。お花屋さんの目で見て、手で触って、判断して欲しいんです」
 どこからともなく伸びてきたいくつもの蔦が俺の身体に絡み付く。細い見た目によらず、蔦は俺の身体を簡単に空中に吊り下げてしまった。
「おい、ちょっと」
 手足を振るが、吊り下げられたこの状況ではどうしようもなかった。蔦を振り払おうにも、蔦自体が腕や足に絡み付いて動きを阻害し、掴もうとしても指の間を抜けていってしまうのだ。
 緑色の蔦が、とうとう服の下、肌に直接絡み付き始める。
 細い蔦が器用にシャツのボタンを外し、ベルトの金具を緩める。別の蔦が緩められた服を脱がしてゆく。服だけでは無く、靴までも。
「おい。やめてくれって」
 パンツまで全部はぎとられる。だが腕も拘束されている俺は隠す事すら出来なかった。
 アネモネの熱い視線が注がれているのが分かる。俺は見つめられながら、ゆっくり彼女の傍へ、花の中へ下ろされていく。
 足先がねっとりとした蜜の中に入っていく。そして蜜に膝まで浸かり、もう身動きもとれなくなる頃に、足の平が何とも言えない柔らかい物の上に着地して降下が止まった。
「アネモネ。一体何を」
「仲良くなるためには、もっとお互いの事を良く知る必要があるでしょう? それに、あなたは私の身体に責任を持ってくれると言ってくれましたよね? なら、こちらの身体も良く知っていただかないと」
 目の前に並ぶ、たわわに実った二つの果実。俺は生唾を飲み、アネモネの顔に視線を移した。
 アネモネは、はにかむように上目づかいで見つめてくる。俺が目を逸らそうとすると、両手を顔にそえてきて、無理矢理目を合わされる。澄んだ紫色の瞳。一度覗き込んでしまえば、もう目を離す事は出来なかった。
「さぁ、こちらも触って確かめてください」
 アネモネは俺の手を取り、自分の頬に触れさせる。きめ細やかで、柔らかくて暖かいその肌。そして肌に触れた瞬間に、ぷんと花の甘い匂いが鼻先をかすめる。
 アネモネの肌から発せられる、花独特の深い芳香。そこに足元から立ち昇る花蜜の匂いが混じり合う。爽やかで上品でありながらも、思考を鈍らせ本能を昂らせる不思議な匂い。
 意識が少しずつ霞んでくる中、アネモネは掴んだ俺の手を少しずつ下の方に動かしていく。
 浮き出た鎖骨のくぼみ、細い肩。そして、柔らかな乳房。
 アネモネは俺の手ごと自分の乳房を握りしめて、俺にその感触を伝えさせてくる。沈み込む二人分の指も、アネモネのおっぱいの柔らかさを物語っていた。
 ただ柔らかいだけでは無い。少し湿っているおかげか、アネモネの乳房は俺の手に吸い付いてくるようだった。
 口の中が乾き始め、飲み込もうとした生唾も無くなってくる。体が、特に下半身が熱を帯び始める。
「どうですか? 私としては、もう少し栄養が欲しいところなのですが」
「そう、かな。そうかも、しれない。やっぱり、もっと日の当たる」
「いいえ。こちらの栄養は、もっと違う物なんです」
 そう言うとアネモネは俺の手を離し、突然俺の身体に抱きついてきた。
 胸の上で二つの膨らみが潰れ、背中にはアネモネの両腕がしっかりと回される。お腹も足も、みんなくっついて、全身が彼女に包まれているようだった。
「アピスに、聞いていませんか? 今の魔物の栄養源は、男性の精。つまり精液そのものなんですよ?」
 耳元で妖しく囁かれ、意識がさらに蕩けていく。
 アピスの声も聴いていると元気が出るが、アネモネの声はそれとはまた違って、落ち着いた妖しげな気分にさせられる。
「私の身体、もっと綺麗にしてくれるんですよね」
「あ、ああ」
 ほとんど考える事無く、呻くように答える俺。
 アネモネが小さく笑い、その吐息が耳をくすぐる。
 少し身を離され、そっと口づけされた。
 柔らかく、暖かい唇の感触。アネモネは俺の目から視線を下げて、少し頬を染めた。
 両腕を離されると、もう俺は自分で立っている事も出来なかった。よろよろと後ずさり、大きな花弁に座るように体重を預けてしまう。
 全身から力が抜けていく中、俺の下半身の一物にだけは力がみなぎっていた。血管を浮かばせながら雄々しく反り返り、時折びくんと跳ねてしまう。自分で見ていても痛々しい程だった。
「こんなになっていては、お辛いでしょう? さぁ力を抜いて。私が沈めて差し上げます」
 アネモネは俺の頬をそっと撫でてから、膝立ちになって俺の腰元に身を寄せる。胸元に手を滑らせて、胸に掛かっていた髪を後ろに払う。何気ないその手の動きすらも艶めかしい。俺は彼女の一挙手一投足から目が離せなくなっていた。
 何だか妙に息苦しい。首元がきつい服を着ているわけでも無いというのに。それに、さっきから喉も乾いてきている。
 駄目だ、会ったばかりの彼女にこんなことをさせてはいけない。そんな風に思いつつも、俺は次に起ころうとすることに対して期待してしまっていた。
 あらわになった二つの乳房が、ゆっくりと俺の腰に、そそり立った一物に近づいてくる。
 アネモネは一度俺を見上げ、口元を緩める。そして俺がその顔に見蕩れているうちに、柔らかな乳房で左右から俺の一物を挟み込んでしまった。
「すごく、硬くて熱い……」
 俺の一物はアネモネの胸の谷間に埋まり切って覆い隠されてしまい、その頭すらも見えなくなってしまう。
「ぴくぴくしてます」
「アネモネ、こんな事もう」
「ええ、そうですね。これでは生殺しですものね……。では、う、動かします」
 アネモネは自分の胸を両脇から支え、乳房を上下に動かし始める。
 手の動きに合わせて形を変えて俺に吸い付いてくる二つの乳房。熟れきった果実よりも柔らかく、それでいて肌はきめ細やかで、指を離されればすぐに美しい元の形を取り戻した。
 乳肉の間が、急にぬめりだし始める。
 アネモネが息を弾ませながら、蕩けた顔で俺を見上げる。
「先走りが出てきましたね。もっともっと、良くしてあげますからね」
 そう言うと、アネモネは一度動かすのを止め、俯きがちになった。
 その口の端からとろり、とろりとよだれが垂れ落ち、胸の谷間に沁み込んでいく。
 そしてまた俺の顔を見上げ、俺の目を覗き込みながら、再び胸を寄せて俺の一物を圧迫し、揉みしだき始める。
 アネモネのおっぱいと俺のあそこが擦れ、混ざり合った二人の体液が掻き回される。たちまちむせ返りそうな程の雄の匂いと、女の蜜の匂いが立ち昇ってくる。
 限界は、もうそこまで迫って来ていた。歯を食いしばり、呻き声を殺そうとしても身体が勝手に痙攣してしまう。
「あ、その顔。すごくいいです。アピスの言う通り、凄く素敵」
「アネ、モネ」
「いいですよ。我慢しないで、全部出してください」
「いっ」
 頭の中が真っ白になる。股間が、俺の意思とは関係なく脈動を始め、アネモネの胸の中を汚していく。
 二度、三度と飛び出した精液がアネモネの頬を打つ。白濁が彼女の顎と首を伝って流れおちていき、胸の谷間に小さな水たまりを作った。
 アネモネはぼうっとした表情で、痙攣し、とろとろと射精を続ける一物を眺め続けていた。
 一物の脈動が収まると少し残念そうに顔を曇らせたものの、その表情はすぐに元の蕩けたものに変わる。
「すごい匂い」
「ご、ごめん。俺……」
 アネモネは谷間に溜まった精液を指で一掬いし、俺に見える位置まで掲げあげてから舌で舐め取ってみせた。
 舌で転がし、わざと喉を鳴らして飲み込んだあと、表情を綻ばせる。
「どうして謝るんですか? こんなにおいしいのに……」
 アネモネは無心で胸元の精液を拭っては、舐め取っていく。
 眩暈がするような光景だった。今まで俺が生きてきた世界とは全く違う。精液など、そんな綺麗な物では無いはずなのに。まして食べるような物でもないはずなのに。
 なのにこの目の前の美しい人は、俺が放ったものをまるで甘露か何かのように、夢中で舐め取っていく。
「どうかしましたかぁ?」
「いや、無理してそんな事してくれなくても」
 アネモネの頬がいつの間にか大分赤くなっていた。表情を崩して笑うその姿は、上気したというよりも酒を飲んで少し酔っているようにも見えた。しなを作り、俺の身体に手をかけてよじ登るように顔を近づけてくる。
 首に腕を回され、額を押し付けられる。
 くすくす笑った彼女の吐息が、唇に当たった。
「無理なんてぇ、してませんよぉ。とってもぉ、美味しいですよぉ」
「アネモネ? 酔ってるのか?」
 一度射精したせいか、それとも酔っぱらったようなアネモネを前にしたせいか、俺の頭は急に冷静さを取り戻していた。
「酔ってなんてぇ、いませんってばぁ」
 先ほどに比べて、明らかに口調がおかしかった。大体酔っている人間に限って自分は酔っていないと言うのだ。
 酒が入ったわけでは無いが、彼女が前後不覚になりつつあるのは間違いない。これ以上間違いを犯さないためにも、少し休んだ方がいいだろう。
「とにかく、少し休むぐっ」
 いきなり強く抱きつかれ、唇を奪われた。
 舌を入れられ、舌や歯の付け根を擦られる。
 身を離そうにも、アネモネは全力で俺に抱きついているらしくびくともしない。おまけにアネモネの身体に巻き付いていた蔦が俺の身体にまで伸びてきて、二人の身体をきつく縛り付け始めた。
 彼女の舌の奥の方から、甘い蜜が滴ってくる。そして無理やり舌で強引に喉奥に落とされていく。
 俺は反射的にそれを飲み込んでしまう。再び思考が鈍り、二度目からは自分から喉を鳴らして飲み込んだ。そして飲み込んでいくたびに自分が何をしようとしていたのか分からなくなっていった。
 いいじゃないか。こんなに温かくて柔らかいんだ。もっと味わっていればいい。
「じゅるっ。じゅるるるる」
 アネモネが強く俺の口を吸い上げていく。唾液を全て飲み込もうとでもするように、舌ごと全部食べてしまいたいとでもいうように。
「ぷはぁっ。こっちも、おいしいですぅ。お花屋さんの身体はぁ、どこもおいしぃ」
 全身の血液が再び股間に集まっているのが分かった。硬くなったその先端が、アネモネの太腿の付け根に当たってしまう。
「まだまだ、元気なんですねぇ。ふふ、じゃあ今度はこっちでぇ、味わわせてもらいますねぇ」
 アネモネはもぞもぞと体を動かし始める。ここからでは彼女の背中しか見えずにほとんど何をしているのかは分からなかったが、どうやら腰や足の位置を調節しているようだった。
 俺自身の先っちょが、ぬるぬるとして暖かい物に触れる。
「これで、私もあなたの物ですよぉ」
 俺の物を湿って熱を帯びた何かが包み込んでいく。柔らかく、そのくせとてもきつくて窮屈で、俺の物をぎゅうぎゅうと締め付けるてくる。
「っくあぁっ!」
 何か引っかかったような気がしたが、それでも止まらず、その魅惑的な感触は俺の根元まで全てを飲み込んでしまう。
「はあぁぁあっ」
 アネモネの吐息が首筋に掛かる。彼女は涙目で一度俺を見上げた後、何も言わずにさらに強く俺に抱きついてくる。
 俺も何も言わず、彼女の背中に腕を回した。
 背中の向こうのアネモネのお尻が、ゆっくりと前後に動き始める。
 蜜を含んだようなねっとりした柔らかい感触が、俺の一物を吸い上げては、また締め付けてくる。その度アネモネの熱い息が首に掛かり、背筋がぞくぞくした。
「あっ。あっ! あそこ、熱いぃっ」
 秘部同士が擦れ合う粘ついた音と、動くたびに波立つ花の中の蜜。絡み合う二人分の荒い息遣い。
 身体が熱くなっていく。特に、下半身が燃え上りそうな程だった。
 自分でも抑え様の無い高ぶりに、喘ぐような呼吸は少しずつ早くなり、胸の鼓動も速度を上げていく。
「わたし、わたしぃ。いっちゃう」
 目の前で、アネモネの頭の花から蜜が垂れ落ちる。
 俺は首を伸ばして、雌しべごと口にくわえて強く吸った。
 脳が焼ける程に甘かった。
 その瞬間、アネモネの身体が強く痙攣した。
 一層強く腕に力が込められ、俺のあそこも、引き抜かれそうな程強く締め付けられ、吸い上げられる。
 視界が白熱し、俺は腰を突き上げながら射精した。


 ともすれば崩れ落ちそうになるお互いの身体を支えながら、俺達は抱き合いながら花の中に佇んでいた。
 心地よい倦怠感。このまま横になってしまいたくもあり、ずっとアネモネの身体を抱いていたくもあった。アネモネの匂いは、嗅ぎなれた花の匂いに近い事もあって、なんだかそばに居るだけで落ち着くのだ。
 髪の毛に顔を埋めようとすると、不意にアネモネが身をよじった。
「あなたの、初めてを貰えなかったのは残念ですが」
 ちらちらと上目づかいでこちらに視線を向けてくる。
「私の初めてを貰っていただけたのがあなたで、良かった」
 ……俺なんかで、良かったのか? 喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、俺はただアネモネの髪を撫でてやる事にした。
「痛かっただろ」
「いいえ、とても気持ち良かったです」
「そうじゃなくて、森に入ってからここまで来るまでの間に俺が切り払ってきた蔦。あれアネモネの蔦だろう」
 アネモネは驚いたように目を見開いてから、声を出さずに小さく笑った。
「今までの寂しさに比べたら、あんなの何でもありません」
 俺は何も言えず、ただアネモネの細い身体を抱きしめた。
「あなたも、気持ち良かったですか?」
「ん? ああ、とっても」
「アピスと、どっちが?」
 俺は息を詰まらせる。思わずまっすぐ見つめてくる視線から目を逸らしてしまった。どちらが気持ちいいかと聞かれても、答えようも無かった。
 どちらもまた別種の快楽があり、比較できるような物でも無かったからだ。
「うふふ。真面目な人。……ようやく覚悟が決まりました。私、あなたのハーレムに入ります」
「なぁ、ハーレムって本気で言ってるのか?」
「当たり前です。それに二人とも抱いておいて、今更何言ってるんですか」
 それを言われると、黙らざるを得ない。
「ホントは、ちょっと本気で寝取ろうかと思ってたんですが、でも、あなたならきっと二人とも平等に愛してくれるでしょうから」
「頑張ります」 
 まぁでも、実質美人二人に囲まれて暮らすのだから、かなり幸せな事なんだよな。
 金も財産も人間としての人生も失ったけど、その代わりに得られたものは、それよりもっと価値のあるものなのかもしれない。
「ふふ、それはそれとして」
 俺の背中に回っていたアネモネの手が、ゆっくりと下っていき、尻のあたりをまさぐる。
「え、ちょっと?」
 お尻の穴に、アネモネの指が入り込んでいく。身体の芯が青ざめるような、奇妙な感触が腰から背中に突き上げる。思わず身が強張り、背中が反ってしまう。
「だめ。動かないで、抜けちゃう」
 俺は歯を食いしばって耐えようとする。だがアネモネの指が奥へと進むにつれて、身体が勝手に跳ねるように動いてしまう。
 アネモネはそんな俺を見かねたのか、より身体を密着させてくる。鼓動が伝わり合う程に肌が触れ合い、未だ硬さを残す俺の男根が、より深くアネモネの中に埋没する。
 その瞬間は、突然訪れた。
 前触れも無く男根を中心に強烈な感覚とほんの微かな痛みが走り、暴発するようにいきなり射精してしまう。
 快楽は後からやってきた。腰全体から全身に向けて、さざ波のようにじわりじわりと未体験の感覚が広がっていく。そしてそれが広がり切ってから、ようやくそれが気持ちのいい感覚なのだと気が付いた。
 息が苦しいのに、空気を上手く吸えなかった。口を閉じる事が出来ず、よだれを垂らしながら無様に身を振るわせるしかない。
 確かに信じられない程の快感ではある。だが、こんな事を何度もされては体が壊れてしまう。
 アネモネは首筋に垂れた俺のよだれを舐め上げてくる。そして唇にまでたどり着くと、今度は俺の口の中に自分のよだれを流し込んできた。
「甘いでしょう。もっともっと精が作られるように、念じながら作った蜜です。今、お尻の中に塗り付けているのも同じように念じたものです」
 お尻。そうだ、あの強烈な感覚が走る前、アネモネの指が少し動いていた。
 俺は一体、何をされたんだ。
「その顔も素敵。大丈夫ですよぉ。もっともっと、気持ち良くしてあげますからねぇ」
 アネモネは蠱惑的な笑みを浮かべながら、指を微かに動かした。
 その瞬間俺は反射的に腰を突き上げ、射精してしまう。
 まずい。前言撤回だ。こんな事を続けられるなど、幸せなどとは程遠い。このまま射精させられ続けたら、枯れ果てて死んでしまうかもしれない。
 だが、俺にはもうどうにも止めようも無かった。いつの間にかアネモネの空いた腕が万力のような力で俺の身体を抱きしめていて、そしておまけに彼女の蔦が、何重にも二人の身体に巻き付いて、締め上げていた。
 もはや身動きすら取れない。そしてそんな状況下で、アネモネは俺の内側を愛撫し続けた。
「バフォメットさん仕込みのお尻責めですよぉ。私もされた時、気絶しちゃったくらいです。すごいでしょぉ? うふふ。気持ち良くしていただいた分、たっぷりお返ししてあげますねぇ」
 とんでも無い事を言われている気がしたが、もう理解が追い付かなかった。
 俺は身体を痙攣させながら、何度も何度も精を放った。傾けられ続ける如雨露のように、中身が続く限りアネモネの中に精を吐き出し続ける。
 アネモネの中を抉りながら、アネモネに中を抉られる。もう何も考えられなかった。全身を絶え間なく強烈な、悪寒を伴う快楽に晒され、俺の意識は少しずつ白く染め上げられていった。
「あんっ。もっと愛して。愛してくださいっ。何百年もの寂しさを埋めて下さい。私、わたしぃ。ああ、あなたの硬いのでまたいっちゃうぅぅっ」


 突然目の前に一輪の赤い花を差し出され、俺は我に返った。
 幼さの少し残る、明るい笑顔。ハニービーのアピスが帰って来たのだ。
 顔が泥で汚れているが、一体どうしたのだろう。
 反射的に花を受け取り、俺はその理由を理解する。アピスは花を根っこごと掘り取って来たのだ。多分、手折ってきたら駄目になってしまうと思って。
「お引越し先にいい場所見つけて来たよ。お花がいっぱい咲いてるの。お兄さんもアネモネもきっと気に入るよ」
 渡してくれた花以外にもアピスはいくつも花を抱えていた。黄色い花、青い花、白い花。体が汚れるのも構わずに、きっと早く見せたくてたまらなかったのだろう。
「おかえり、アピス」
「えへへ」
 アピスは花を置いてから、俺に胸の中に飛び込んできた。
 服が土で汚れてしまうが、そんな事はお構いなしだった。今更そんな事を気にするつもりは無かったが、そんな子どもっぽさが妙に可愛らしく、俺は抱きしめながら頭を撫でてやった。
「お兄さんから、アネモネのいい匂いがする。えへへ、仲良くなれたみたいだね」
 胸の中で顔を上げ、アピスは歯を見せて笑った。
「仲良くは、なったけど。お前は良かったのか」
「誘ったのは私だよ? 同じだけ愛してくれれば、それでいいの。それに二人きりも寂しいし」
 同じだけ、かぁ。俺は思わず心中で苦笑いを浮かべる。
 アネモネにお尻を責められ、数えきれないほど精液を吐き出し続けた。何度も気絶しそうになり、その度小休憩が挟まれ、アネモネが満足するまでずっとその繰り返しだったのだ。身体を解放され、ようやく服を着られたのもついさっきの事だった。
 それをまたやれと言われると、正直言って少し怖くなる。今度は目が覚めなくなるまで搾られ続けるのではないか、と。
 ……まぁでも、意外と大丈夫なのかもしれない。アピスに襲われた時も大分搾られたし、今回のアネモネも言わずもがなだが、別に歩けなくなったりするわけでも無いのだから。
 どちらにしろ、二人のうちどちらからでも迫られれば俺はまたやってしまうんだろうなぁ。だって今もまさに、アピスの手によって服を脱がされている最中なのだから。
「あの、アピス?」
「アネモネの蜜の匂いで、私もこーふんしてきちゃった。ねぇ、いいでしょ」
 胸当てとパンツを脱ぎながら、だだをこねるように言うアピス。
「分かったよ。その代わり、お手柔らかに」
「やった! じゃあ一緒にしようよアネモネ! アネモネ?」
 アネモネは自分の花の中に隠れるように膝を抱えてしまっていた。膝の間に顔を埋めて、顔も隠してしまっている。
「なぁ、別に俺は気にしてないって」
「だめです。私、嫌がるあなたを無理矢理に……。自分が許せないんです」
「どゆこと?」
 俺はため息交じりに、アピスが居なかった時の事を掻い摘んで話した。もちろん、交わったという話をしたのだが、アピスはあまり気にするふうでもなく、逆ににやりと笑ってさえ見せた。
「じゃあ、もうお兄さんは私だけの物って事でいいのかなぁ。じゃ、あっちで二人っきりで楽しもうか、お兄さん!」
 アピスは俺の身体を抱きしめながら、羽音を響かせ始める。
 その瞬間、ばっとアネモネが顔を上げる。泣きそうな顔になりながら、縋るようにこちらに両手を伸ばしてくる。
「い、いや。行かないで下さい。もう私を、一人にしないで」
 しかしアピスはそのまま飛び上がり。
 そしてアネモネの花の中に着地した。……ようやく出られたと思ったのだが、また花の中に逆戻りとは。
「最初っから素直になればいいのに。アネモネだって、お兄さんが欲しいんでしょ?」
 アネモネは右側から俺の身体に縋りついて、泣きながら胸の中に顔を埋める。
「ごめんなさい。もうあんな事しないから、一緒に居させて下さい」
「いいって。たまになら」
 俺は右手で髪を撫でてやりながら、優しく声をかけてやる。
「ぶー。私も混ぜてよぉ」
「ああ。これからは一人でも二人でもなく、三人一緒な」
 左側から抱きついてくるアピスを受け止めながら、少し乱暴に髪を掻き回してやる。
 左右から同時に見上げてくる二人の美少女。男としては夢のような、至福の瞬間。
 その二人の顔が、同時に捕食者の笑みに変わる。これから始まる終わる事の無い搾精が脳裏をよぎり、背筋が一瞬寒くなる。
「そんな顔しないで下さい」
「ぞくぞくしちゃって、自分が抑えられなくなっちゃうよぉ」
「あの、本当に、本当にお手柔らかに……」
 俺の両足に蔦が巻き付く。アネモネが乳房を俺に押し付けながら、俺の一物を扱き上げ始める。
 そしてアピスは俺の首に腕を絡めて、唇を押し付け、舌を絡めてくる。
「うふふ、もちろんですよ。旦那さま?」
「一緒に天国に連れてってあげるね、お兄さん」
 閉じていく大きな花弁を見上げながら、俺は考えるのを止めた。


 数年の後、それまで知られていなかった森の奥に、魔物と人間が仲良く暮らす小さな集落が発見されるのだが。
 それはまた別の話。
12/10/07 01:21更新 / 玉虫色

■作者メッセージ
 あとがき
 本作は『脱走兵と迷子のハニービー』の続きに当たるお話ではありますが、前のお話を未読の方にも楽しんで頂きたいと思い、読んでいなくても分かりやすく書いた、つもりです。
 上手く書けていたかは読んでいた方の判断次第と言うところですが……。

 以下言い訳がましい補足です。
 補足1:アネモネが酔っぱらったような状態になった理由
 誰しもテンションが上がると酔っぱらったみたいに楽しくなってしまうと思います。そんな感じです。あるいはソフトドリンクしか飲んでいなかったけど飲み会の周りのテンションに合わせているうちに……みたいな感じです。

 補足2:数年後の小さな集落
 主人公達が住む森に通りがかりの魔物や魔物カップルが一緒に暮らしはじめたり、アピスやアネモネの子どもが生まれたり、産まれた子ども達が周りから男を連れて来たり、噂を聞いた男がふらりと訪れたり、きっとそんな事があったからです。多分。

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