読切小説
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メ○ーさん
「ただいまぁ。」

 今私は、着替えやらお土産やら色々入って重くなったバックを引きずりながら、家に帰ってきたところである。私は、実家である名古屋から、親戚のいる東京まで遊びに行ってきた。その親戚の家で私は、何とも言えない魅力がある人形を見つけたのである。その人形は、アメジストでも埋め込まれているのか、珍しい紫色の目をしており、髪は白髪、服も目の色と同じ紫色で、現実世界にこんな女性がいたら、真っ先に求婚しているレベルの美しさだった。私は、その人形を持ち帰りたい衝動に駆られたのだが、現在のマイルームが、汚部屋になっているのを思い出すと、人形が可哀想と思い、持ち帰るのをやめたのであった。

「…今思えば、この部屋をちゃんときれいにしておけば、良かったかなぁ…」

そう呟きながら、私は荷物の整理をしていた。時刻は午後7を過ぎたところ。長時間新幹線のシートに座りっぱなしだったから、けっこう疲れていた。そんな中、私の携帯が急に鳴り出した。電話番号を見ると、どうやら親戚の携帯のようだ。

「心配して電話かけてくれたのかな?」

そう思い電話に出ると、次の瞬間、聞きなれない声が私の耳に飛び込んできた。

「私サリー、今あなたを追いかけに家を出たとこなの。」

電話の向こうから、何やら少女の声が聞こえて来た。言っておくが、サリー何て人は全く知らない。フィリピンパブとかで知り合った女でもない事を付け加えておく(行った事無いけど。)。このまま電話を切ってしまおうかと思ったが、電話番号は、親戚の物。不審に思った私は、このまま彼女と話す事にしてみた。

「…えーと、サリーって、どちら様?」

「え?サリーはサリーだよ。あなたの御嫁さんのサリーですよ♥もうあってるじゃないですかぁ。」

お前は何を言っているんだ。話が噛み合わない。だいたい、サリーという人物に婚約をした覚えはない。ただ、一つ思い当たる節があるとするならば、親戚の家で見たあの人形の名前が、サリーだということぐらいである。

(…まさか。)

人形が自我を持つ事なんて信じられない。しかし、他に考えられる事は無い。私は、このまま会話を続けることにした。

「…もしかして、あの人形かい?」

「うん、そうだよ。」

ビンゴである。

「で、何で人形であるサリーが話せるの?」

「サリーね、本当は人形とかじゃなくて、リビングドールって言う魔物なの。」

「リビングドール?…それって、あの、バ○オ4に出て来たあの白くて、寄生体がいっぱいいて、サーモスコープないと倒すの苦労して、フゴフゴ言ってるやつ?」

「それはリヘナ○ドール」

ナイスツッコミである。こう言った会話が出来るとなると、そこそこの知能は持っているようである。しかし、気になったのは、私を追いかけに行った、と言う事だ。東京からわざわざこんなところまで来れるのだろうか。

「えっと…サリーちゃん、君は私を追いかけに来ると言ったよね?私の家はそこから遠くにあるんだけど、大丈夫かい?」

「心配しないで。あなたの精の匂いで、何処にいるかわかるからそれは心配ないわ。」

「そ、そうか…ところで、その電話って、うちの親戚の奴だよね?」

「そうだよ。あなたの連絡用に、部屋から持って来たの。えへへ、えらい?」

「それは、パクったって言うんだよ。後、これってあの有名な都市伝説のメ○ーさんを真似しただろ?」

「うん、以前グ○グル先生で調べて出て来たのを真似してみたの。」

この人形、とんだ食わせ物である。

 この後、また連絡すると言い、一旦電話が切れた。しかし、人形がグ○グル先生を使うとは。とんでもない人形である。

 数分後、再びサリーから電話が来た。

「もしもし。」

「私サリー、今鶴見駅を出たところなの。」

「鶴見駅てまさか…電車か?」

「うん、けーひんとーほくせんって言うのに乗れば品川駅に着くって言われたから、乗ったの。」

「…電車賃は?」

「何か緑色のカードかざしたら、通れたよ。」

「電車に乗る人形なんて、前代未聞だよ!」

「えへへ…えらい?」

「褒めてない!」

律儀にsu○ca使って、電車に乗る人形…間違っても、出くわしたくない光景である。

 数分後、また電話がかかって来た。

「私サリー、今川崎駅に着いたとこなの。」

こいつ、一駅止まったごとに実況するつもりか!?色々と冗談じゃない!

「あのさぁ、いちいち着いた駅を報告しなくていいから。いちいち報告してたら携帯の電池持たないよ。」

「はーい。」

「それと、車内で通話しない事。いい?」

「はーい。」

携帯の向こうから、不満そうな声が聞こえる。頼むから、電車内での通話はマジでやめて。特にサリーがやると、かなりシュールな空間が生まれちゃって、その車両だけ、亜空間になっちゃうから。

 それから数十分後、再びサリーから電話がかかって来た。

「私サリー、今品川駅に着いたとこなの。」

「うん、お疲れ。で、新幹線の乗り方は大丈夫かい?」

「…メイビー(震え声)…」

「危なっかしいなぁ。今どこにいる?」

「品川駅。」

「いや、そうじゃなくて、品川駅の何処にいるかってこと。」

「…わかんない。」

ヤバい、サリーの声がちょっと涙ぐんでる。

「えっと…何か近くに案内板が無いかい?」

「うん、あるよ。」

「じゃぁ、それをこうしてだな…」

結局、私が電話でサリーを誘導することになった。本当に大丈夫なのだろうか。ちょっと心配になって来た。しかし、その数十分後、どうやら無事に新幹線のホームに着いた様で、ちゃんと乗る事が出来たようだ。

「なんか心配だなぁ…」

そう思いながらも、私は次の着信を待つことにした。

 サリーが品川駅を出て数十分後、また電話がかかって来た。

「私サリー、今新横浜を出たところで…グスッ、お腹が空いたとこなの。」

携帯の向こうから、涙をすする音がする。いよいよもってヤバい。

「…su○caにいくら残ってる?ほら、あの緑のカード。」

「グスッ…3000円ぐらい…かな。」

「じゃあ、それで好きなお菓子とジュースでも買いなさい。」

「グスッ、わかった…」

そう言うと、サリーからの通話が途切れた。…案外サリーって子供っぽいな。でも人形だから仕方ないか。そう思っていると、再び電話かまたかかって来た。

「私サリー、お兄さんって、きの○の山派?たけ○この里?」

「…サリーはどっち派?」

「…たけのこ。」

「じゃぁ、そっち買いなさい。私もたけのこ派だから。」

「うん、わかった。…あ、そうそう、一つ大切な事を伝え忘れた!」

「何だい?」

「私達、好みがおんなじだね♥てへっ♥」

スガッシャーン!!

…あまりにも、抜けた発言に、私は思わず転んでしまった。本当に大丈夫か?私は、再び不安に苛まれることになった。





 新横浜の連絡から数時間後、再びサリーから連絡が来た。

「私サリー、今豊橋を過ぎたとこなの。」

「そうか。じゃあ、そろそろ降りる準備をした方がいいな。」

「うん、わかった。」

「あ、そうそう、名古屋駅まで迎えに行かなくていいかい?」

「私を馬鹿にしているの!?ひどーい!」

「ハハ、ごめんごめん。」

どうやら、迎えに行くほどでもない様だ。ちょっと不安だが、サリーを信じる事にしよう。

 豊橋からの着信から数十分後、再び着信が来た。

「私サリー、今名古屋に着いたとこなの。」

「了解。じゃあ、後は行き方わかるな?」

「うん大丈夫。」

「じゃあ、名鉄に乗ったら連絡してくれ。」

「はーい。」

心なしか、携帯の向こうから聞こえてくる声が、嬉しそうだ。最初は、不安だったが、よもや名古屋まで来るとは思わなかった。しかもキセルしないで。サリーこそ、模範的な人形だと思った。

(もう心配する必要はないな。)

そう思うと、私は自分でゆっくりゴロゴロすることにした。



 名古屋での電話から約1時間。本来なら、もうとっくに名鉄に乗れているはずである。私は、連絡が無いのを不審に思うと、サリーの電話に連絡してみた。

「もしもし、大丈夫か?」

「ヒック…私サリー、今…グスッ、…どこか…わかんないの…わああぁあん!!」

ああ、もう駄目だこれ。

「サリー、近くに何か目印になるような物は無いかい?」

「ヒック…大きな金色の時計がある…」

「よし、そこで待ってろ。俺が迎えにいく。」

「…わかった。」

結局、私がサリーを迎えに行く事になったのだった。何だかんだ言って、結局のところは人形なのだと思ってしまった。




 電車に乗り約10分、私は金時計に着いた。

「サリー、サリー何処だー!!」

「…ごご…」

(…ああ、色々と残念なことになってる…)

振り向いて見ると、そこには、顔とドレスを涙と鼻水で濡らし、右手に携帯電話、左手にお菓子のゴミが入ったビニール袋を持ったサリーが突っ立っていた。また、口の周りには、ちょっとチョコレートが付いていた。その姿は、親戚の家で見たあの可愛らしいサリーの姿はどこにもいなかった。

「…サリー、よく頑張ったな。」

「…うっ、うっ、うわああぁぁぁああん、寂しかったよぉぉおおお!!」

私の姿を見るや否や、サリーは大粒の涙を流しながら、抱きついてきた。

「はは、よしよし、頑張ったぞ。えらいえらい。」

そう言いながら、私はサリーの頭をたくさん撫でた。色々とツッコミたい事はあるが、持ち帰らなかったという罪からか、今は彼女を慰める事にした。


 こうして、我が家に新しい家族がやって来た。リビングドールのサリーである。彼女は、家の手伝いも良くこなし、いつもなら半日かかる私の部屋の掃除を、何と一人で2時間で終わらしてしまったのである。しかし、隠してあった、TE○GA(USサイズ)と、大量の使用済みティッシュを発見された時は多いに焦った。しかし、それでも可愛い奴で、最近は、良く私と一緒に風呂に入ったり、添い寝をしてくれるのだ(なお、セックスは、我が家に来た初日に、隠れてしてしまった。)。ただ、たまに困らせる事もして、ちょっと悩ませる時もある。その一部始終をご覧いただきたい。

ある朝

「ねーねー見て―。私のアソコー♥どう?キレイ?」

朝、私のベッドの上で恥部をくぱぁするサリー。それを見た母が一言、

「…アンタ、サリーに一体何教えたの!?」

「なぁサリー。頼むから、朝からそんなことしないでくれ。アグネスとか、石原とか飛んできそうだから。」

「ごめんなさーい。」

そんな感じで、今日もサリーとの日常が続いて行くのであった。

13/06/01 23:03更新 / JOY

■作者メッセージ
 どれだけ遠くに捨ててきても夜には返ってくるリビングドールですが、国境跨いで捨てた場合、彼女達は飛行機使ってでも持ち主のところへ戻るのでしょうか?

「あたしサリー、今シンガ○ール航空のファーストクラスにいるの。」

「お客様、飛行中の通話はお控えください。」

「」

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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